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【後編】僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」

 

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元スレ
SS深夜VIP
僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1367421263/

126: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:27:42 ID:5Wy0/P9w

~宿屋・ラウンジ~

盗賊「痛つつつ……頭が痛ェ…昨日飲みすぎたな、こりゃ……」

僧侶「ふわぁ…おはようございますぅ……もう、お昼ですけど…」

盗賊「…お前は体調が悪くなっていたりしねーのか?」

僧侶「うーん…?寝すぎてダルさは感じますけど、とくにはないですねえ……盗賊さん、大丈夫ですか?お水とお薬もらって来ましょうか?」

盗賊「……酒、強いのか。あー、水は欲しいな。薬は、二日酔いに効くのがあったらもらってきてくれ」

僧侶「わかりました!もう、飲みすぎはダメですよっ!」

盗賊「…まさかあいつを羨ましいと思う日が来るとは。あれ?二回目か、これ」

?「やあやあ、おはよーう!!昼だけど!元気が無いぞー若人よ!」

盗賊「あー!うるせえ、頭に響く!!……って、あ…?遊び人?か、お前?」


 


127: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:28:33 ID:5Wy0/P9w

賢者(遊び人)「そうだよ~、ふふん。見違えただろう?オッサンだって、まだまだ若いもんにゃ負けないってことさ!」

盗賊「ほー…無精ヒゲ剃って、髪を整えるだけでも随分印象変わるもんだな」

賢者「この装備も、若い頃に使っていたものだから、あちこちガタがきているけど……今日からは遊び人じゃなく、賢者って呼んでくれ!」

盗賊「偽名だったってわけか…?」

賢者「そんなところだね。悟りに到達していないから、モドキってレベルだけど…昔取った杵柄はまだまだ健在よ。ほら」ボウッ

盗賊「あちっ!?こんなところで魔法を使うな、ボケ!」

賢者「はっはっは!オッサンちょっと張り切っちゃった!ごめ~んねっ!!」

僧侶「お水とお薬もらってきましたよぅ~、……って、あ、あれ?盗賊さんのお友達、ですか?」





128: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:29:38 ID:5Wy0/P9w

賢者「よーう、お嬢ちゃん!イケメンすぎてわかんなくなっちゃったかな?ほら~昨日一緒に酒飲んだオッサンだよ~」

僧侶「え?え!?あ、遊び人さん!?ななな、どうしたんですか!?その格好!」

賢者「遊び人とは世を忍ぶ仮の姿……しかしてその実態は!世界を救う賢者様なのだぁっ!!」

盗賊「モドキ、だけどな」

賢者「それを言っちゃあ~おーしまいよーっ、てね」

僧侶「へええ……昨日と別人ですねえ…びっくりしました…」

賢者「どう?オッサンもまだまだイケる?イケてる?付き合いたいってレベル?」

僧侶「え、あ、そ、そう、ですね。軽いところはどうかと、思いますけど……すごく格好良くなりましたよ!」

盗賊「」ムカッ

賢者「ハハハハ!!いやあ~こんな若くて可愛い女の子に褒められると、オジサン照れちゃうなぁ~」





129: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:30:28 ID:5Wy0/P9w

盗賊「朝から本当に騒がしい奴だな…もうお披露目ご挨拶は済んだろ?さっさとどこかに行っちまえよ」

賢者「そんな冷たいこと言わないでよ~、これから長い付き合いになるんだしさ~?」

僧侶「へ?」

盗賊「は?」

賢者「…俺の目を醒ましてくれたアンタらに感謝してんだ。頼む!俺も一緒にアンタ達と旅をさせてくれないか!?途中まででいい、勇者とやらに会うまででもいい…もう少し見ていたいんだよ。アンタ達の生き方を」

盗賊「はあああ?いやいや、オッサン…まだ酒残ってんじゃねーのか?大体俺は勇者なんかもうどうでもよくて、ここに定住するって決めて…」

僧侶「神罰!!」ボカッ!

盗賊「ぐぅっ!?」ドサ

賢者「何もかも遅すぎた……でもよ、また少し頑張ってみたくなったんだよ。思い出せたから……これも何かの導きなのかなあって思ったら、なんとなく…アンタ達ともう少し、一緒にいたくなってさ」





130: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:31:18 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…いや、だからってそんな、急に言われても……」

僧侶「わ、私は…嬉しいです、けど。仲間が増えたら、旅も楽になるでしょうし……」

盗賊「バカ、神託とやらを受けていない奴と行動を共にするってアリなのかよ?俺らはこいつと一晩酒を飲んだだけの仲だぞ。テメーは半分寝ていたし。こいつの事、何も知らねェのに。警戒すべきだろ、ここは」

僧侶「う…で、でも、何も知らなかったのは、私達もそうじゃないですか…?」

盗賊「うぐ。…と、とにかくだ。勇者と会うまでっつったって、俺はこの街で勇者を待つつもりだからな。オッサンが期待するようなものは何もないと思うぜ」

賢者「あー、いいのいいの、それでも。オッサンはオッサンなりに色々考えるから。よし!なら仲間入り成立だな!これからよろしくね~」

盗賊「ちょっと待て、話はまだ終わってない!」

賢者が (無理矢理)仲間に なった!





131: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:32:26 ID:5Wy0/P9w

賢者「よっしゃ!遅まきながら保護者の参戦ってところで、飯でも食うかぁ!俺が奢ってやるからさ~」

盗賊「あ、え!? ちょ、俺の財布!?いつのまに、ふざけんなよテメー!」

僧侶「お財布をスられる盗賊さん、って…」

賢者「子供に負けないのが大人ってもんなのよ~。旨い飯を出す店があるから、そこに行くか、それとも…」

盗賊「返せよ!俺の金だろうが!!聞いてんのか、クソオヤジ!!」

賢者「パーティの共有財産ってやつでしょぉ~こういうのはさー。お嬢ちゃん、何が食べたい?オジサン色々知ってっからね、リクエスト答えちゃうよ~」

僧侶「あああ……な、なんだか大変な事になっちゃったような気がしますう…!ゆ、勇者様ぁぁ~!!」





135: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:46:03 ID:5Wy0/P9w

~シーフード レストラン~

盗賊「だからなあ!俺はテメーが仲間になるとかそういう話は認めてないって」

賢者「ほらほら、折角の料理が冷めちゃうよ~。はい、お食べ」ガポッ

盗賊「むぐ!?……うん、旨い」ガツガツムシャムシャ

僧侶「賢者さんのことは一先ず置いておいて……これから、どうしましょう。勇者様が、どちらにいらっしゃるのか…わからないですし…」

賢者「そういう時はね~、頭じゃなく、足を使うんだよ、お嬢ちゃん。消息がわからなくなったのは砂漠の国からだったよね」

賢者「砂漠の国の戦争話はチラホラこっちにも届いている。何せ相手がこの街の傍にある王国だしな。貿易も盛んで金持ち大国となりゃあ、狙われるのは必然さ」

賢者「だから街をくまなく歩いて話を聞いていけば、勇者の話も入ってくるんじゃないかな~。保証はないけどさ~」

盗賊「」ガツガツムシャムシャ

僧侶「盗賊さん、お話聞いてます?」





136: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:47:03 ID:5Wy0/P9w

僧侶「砂漠の国の門番さんは、通行証があれば入れてくれるって言ってましたけど…それを手に入れる、とかは?」

賢者「あー、砂漠の民が持っているものだね、多分。余所者なら、キャラバン…商人なんかも持っているよ。確かな身元証明があって、でかい国にある役所で申請すれば貰えるけど…」

賢者「砂漠の国みたいに戦争があってとか、そういう理由がある以外、滅多に使わないからなあ~。商人じゃない俺達だと、発行に時間がかかると思うよ」

僧侶「うう…じゃあやっぱり、情報集めからですね……早く勇者様にお会いできるといいんだけど…」

盗賊「おい、店員!この料理、あと3皿追加を頼む。それからフルーツジュースもだ」

僧侶「だから盗賊さんもお話に参加してくださいってばぁ!!」





137: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:48:00 ID:5Wy0/P9w

賢者「兄ちゃんが賭けで稼いだ金もあるんだし、情報集めがてら、装備を一新してもいいんじゃない?ここは港もあるだけに、色々珍しい武具も揃っているからね~」

賢者「そんで、俺にも新しい装備買ってちょーうだいよ~?」

盗賊「そっちが本命なんじゃねーのか。タカり魔の不良中年とか、最悪すぎるぜ…」

僧侶「で、では、改めて…情報集めとお買い物。それでいきましょうか」

賢者「ん!それじゃあまずは港に行くか、小さなバザーが開かれているから、店もその周辺に集中しているし、人も多いしな」

賢者「もしも目ぼしい情報が無ければ、次は酒場だ。酔っ払いから冒険者まで、様々な人間がいる。色々話が聞けるだろう」

盗賊「酒場か…あの巨乳踊り子がまた見られるなら、悪くねェ」

僧侶「き、巨乳なんか!ただの飾りですからね!!大事なのは中身ですからね!?」





138: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:49:15 ID:5Wy0/P9w

~港のバザー~

僧侶「わあ~、すっごいお店の数!街やキャラバンの何倍あるんですかねえ…!?」

賢者「杖にしようかな~弓がいいかな~、やっぱり男は黙って剣一択!?うーん迷っちゃう~」


盗賊「おい、ふざけてんなよ、クソオヤジ。お前の装備はテメーの金で買えよな」

賢者「兄ちゃんにはこのダガーとかどう?毒蛾の粉が刃先に塗られているから、魔物を痺れさせたりできるっていうしさ~攻撃力をカバーできる点は重要じゃないかな~」

盗賊「…いや、毒にはいい思い出がないからな…鋼の剣もあるし、武器よりは防具を…」

僧侶「(…盗賊さん、賢者さんに文句言っても流されて、いつのまにか引きずり込まれているの、気づいているのかな)」

僧侶「(…でも黙っていよう、教えたらなんだかぶたれそうな気がしますし)」

僧侶は レベルが上がった!
僧侶は 空気を読む事 を 覚えた!





139: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:50:11 ID:5Wy0/P9w

盗賊「……はっ!?いつのまに!?金が、金がもう無ぇッ!」

僧侶「(やっぱり)」

賢者「宵越しの金は持つもんじゃないよ~、ぱーっと使って世界に貢献しなくちゃね!国を動かすのは王様じゃない、俺達さ~」

盗賊「………おい、クソアマ」

僧侶「は、はい。なんでしょう?」

盗賊「…お前がカジノで言っていた第六感…当たったな……金食い虫って魔物に襲われると」

僧侶「…け、賢者さん……」

盗賊「あいつは魔物だ。魔物だな。よし、倒そう」ジャキッ

僧侶「わあああ!?待って待って!おおお落ち着いてくださいぃ盗賊さ~ん!!」

盗賊「離せクソアマ!!あいつだきゃあ許せねェ、返せよ、俺の金ーっ!!」

賢者「ハハハハ、装備を一新したオッサンは強いぞお~?勝ってるっかな~?」

僧侶「賢者さんも、煽らないでくださいよう~!」





140: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:51:02 ID:5Wy0/P9w

海賊「あ…ああああ!み、見つけたぞ!昨日のクソガキ!!」

賢者「んっ?」

海賊「お頭ぁ!!あいつですぜ、うちの海賊団に泥を塗りやがったのは!!」

僧侶「え、えっ?な、なな、なに?なに?誰ですか、何事ですか!?」

盗賊「お前、覚えてねーのかよ?あいつ…昨日、カジノで絡んできた雑魚じゃねーか」

賢者「あちゃ~、仲間ぞろぞろ引き連れてリベンジってか?だから言ったじゃないのさ~関わるなって~。早く逃げよう、人混みに紛れてさ」

海賊「おっと!逃がすかよ!へへへ…昨日はよくも恥をかかせてくれたなあ!?袋叩きにしてやるぜ!」

盗賊「ケッ、テメーで更に恥の上塗りしているのに気づけよ、バーカ」

賢者「こらこら!!だから挑発しないの~!いやあすみませんねェうちの子が迷惑かけてー、あとでよく言って聞かせますから…」ペコペコ





141: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:51:57 ID:5Wy0/P9w

海賊「こ、の……クソガキがあああ!!絶対ブッ殺してやるーっ!」

盗賊「昨日も聞いたっつーの、それ」

僧侶「あわわわわ……な、なにやってるんですかあ、盗賊さんってばー!」

?「………フ……フ………」

盗賊「ん?」

賢者「は?」

僧侶「へ?」

船長「フォォーリンッラァァァァブゥゥゥ!!!」ドシン! ドシン!

賢者「ぎゃああああ!!?」

僧侶「なななななにぃぃ!??」

盗賊「ででで……でかっ!!でかい!!樽何個ぶんあるんだ!!?つーかそんな体でよく歩けるな、お前!?」

船長「うおおお、萌えええぇぇ!!君、可愛いねーっ!!決めた!今日から君は僕ちゃんのお嫁さんだよぉぉぉぉ!!」ビシィッ

僧侶「ええええ!?わ、私ですか~ッ!!?」





142: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:52:42 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…お、おい。良かったな、お前の憧れの巨乳じゃねーか…触ってこいよ、ご利益あるかもよ……?」

僧侶「巨乳ナメないでくださいよう!?あの破廉恥お姉さんのおっぱいの方がいいですう!!巨乳好きな盗賊さんが触ってくればいいじゃないですか!」

賢者「いやー…あれがダイナマイトボディーっていうのかなあ…想像と全く違うけど…本当、今にも爆発しそうに膨れ上がって………沈まないの?船」

海賊「てめーらあ!!お頭をバカにしてんじゃねーぞ!?」

盗賊「バカにっつーか、通り越して同情するわ」

賢者「少し痩せたほうがいいねえ、うん……オッサンも腹が気になるお年頃だけどさあ…健康には気を使わなきゃね…」

船長「フヒャヒャヒャ、聞ーこーえーなーいーぃ!それよりも、マイハニーちゅわ~ん!!僕ちゃんのところにおいでぇ~」バシュッ

僧侶「きゃあっ!?む、鞭!?」クルクル グイッ





143: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:53:26 ID:5Wy0/P9w

賢者「あっ!お嬢ちゃんが釣られた!?」

海賊「ハハハーッ!すげーだろ、うちのお頭は!!ちょっとしたトロルキングサイズだが、れっきとした人間だからな!?」

賢者「ちょっとしたトロルキングってそれ、トロルキングだよね?」

僧侶「……へ…へへへ……トロルを何体集めたら、トロルキングになるんですかねえ……?」

僧侶は 現実から 逃げ出した!

船長「近くで見れば見るほど可愛いねえぇ~…ブヒヒヒヒ!!」

僧侶「いやあああああー!!?」

しかし 回り込まれて しまった!

盗賊「クソアマ!ふざけんなよ、このトロル野郎!!そいつを離せ!!」





144: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:54:22 ID:5Wy0/P9w

船長「おいぃ、野郎ども!僕ちゃんは船に帰るよ!!この娘とイチャイチャしたいからね!すぐに船を出すから、さっさとその邪魔者を片付けろ!!」

盗賊「ちょっと待てぇぇ!!お前がイチャイチャしたら、クソアマがぺちゃんこになっちまうだろ!」

僧侶「た、助けてー!助けて、盗賊さん、賢者さーん!!」

賢者「ただでさえぺちゃんこの胸がもっとぺちゃんこになったら、悲惨だよね~…」

僧侶「死ね!クソオヤジ!!」

賢者「お嬢ちゃんがグレた!?」

海賊「やっちまうぞ、てめーらぁ!!」

子分「へいっ兄貴!!」

海賊は 仲間を 呼んだ!
子分A~E が 現れた!

盗賊「クソ野郎どもが…ッ!!」イライラ

賢者「早くこいつらを倒さないと、船を出されたら追いかけられなくなる…!」





149: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:12:10 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あのトロル野郎だけは許さねー!!」

賢者「よしっ、目覚めてからの初バトルだ。オッサン頑張っちゃうよ~」

賢者「速度倍加魔法!!もひとつオマケに~攻撃倍加魔法!!」パアアァ

盗賊「うおおおりゃあああ!!」

子分A「なっ、速……ぎゃあっ」バキッ

子分B「げふっ!?あ、あ……意識が…」ドゴッ!

海賊「ひ、怯むな!囲んで全員で叩けぇっ!!」

賢者「街中で攻撃魔法を使うわけにはいかないしなぁ~。やれやれ、俺も肉弾戦に徹するしかないかぁ…」

盗賊「退けよ、クソどもがぁぁ!!」ブォンッ!

子分C「たっ、樽を投げるか!?普通!!ぎゃっ!」ドカッ

子分D「中身入ってんじゃねーか!死ぬだろバカ野郎!」

賢者「…いや、サポートに回る方がいいかもね、これ…ハハハ、兄ちゃん怖いなあ、もう…」





150: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:13:18 ID:5Wy0/P9w

盗賊「この!」

子分D「へっ」ガシッ

子分E「うわっ!?」ガシッ

ドッガァ!!

海賊「こ、子分同士の頭をぶつけて倒しやがった!?」

盗賊「あとはテメーだけかぁ~!?大体テメーがいちゃもんつけてくっから!あのトロル連れてくっからこんな事になったんだろうがぁーっ!!」

海賊「ひ、ひぃぃぃ~っ!??」ガタガタ ジョバー

賢者「俺にも速度倍加魔法~」パアアア

賢者「もーいいよ、兄ちゃんさ。ほら、小便なんか漏らしてる奴に追い打ちかける事はないって…船まで走るぞ!!」グイッ

盗賊「ちょっ!!離せ、クソオヤジ!離せ!!あいつをブッ飛ばすんだよ!離せーっ!!」

海賊「あ…あわわわわ……」ヘナヘナ





151: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:14:10 ID:5Wy0/P9w

~船上~

船長「よーし、錨を上げろ~。船を出せ、アジトに戻るぞ!!」

僧侶「いや!いやっ!離してくださいぃ~!!」

船長「ブヒヒヒィ、僕ちゃんのおうちに着いたら、た~っぷりと可愛がってあげるからねぇ~?ヒヒヒ、ヒヒヒッ…か、可愛いなあぁ~」

僧侶「いやああぁぁ…!と、盗賊さん、賢者さんん……助けてぇー…!」

船長「ち、ちょーっとくらいなら…あっあっ味見、してもいいかなああ!?」

僧侶「え?えっ?」

船長「こーんな物騒な防具なんか外しちゃいなよぉ?綺麗なドレスを買ってあげるからねえ…」ゴソゴソ

僧侶「ちょ!?なにしてんですか!!?やめてっ引っ張らないで!服が破れちゃいますよう!!」

船長「えー?脱がさなきゃ味見ができないじゃないかーっブヒャヒャ!!そんなウブなところも可愛いねぇ~!」

僧侶「ぎゃー!!ぎゃー!?いやあああやめて、やめてー!!盗賊さああーん!!いやー!」ボカボカ!





152: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:14:57 ID:5Wy0/P9w

ワアアア! ギャアアア…

船長「ん~?なんだよもう、うるさいなーいいとこなのに…」

クソアマァー… オジョウチャーン…

僧侶「…っ…?あ、あの声…は……」

盗賊「クソアマぁぁぁ!!」ドカッバキ

海賊B「ぎゃあー!!」

海賊C「ひぃぃっ!!」

賢者「幻惑魔法~」フワァァ

海賊D「うっ!うわああ……ばっ、化け物があああ来るなぁぁ~!!」

盗賊「クソアマ!どこだ!!返事をしろ、クソアマー!!」

僧侶「と!盗賊さん!盗賊さーん!!ここです、ここー!!助け……むぐっ!うぐ…」ジタバタ

船長「静かにしなよぉ~!バレちゃうじゃないか…」ギュウウ

僧侶「(く、苦しい……抱き潰されちゃう…)」

盗賊「クソアマ…!?声が聞こえたぞ、どこだ、クソアマ!どこだ!?」

賢者「そこ!そこの船室だよ、兄ちゃん!!」





153: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:16:11 ID:5Wy0/P9w

ドッガァ!!

盗賊「ここか………って、」

船長「ブフー……まったく無粋な輩だなぁ~。これからだったのに…ほら、ハニーちゃんのお着替え中なんだよ?出ていけよなぁ~っ」

僧侶「う…ぐ……ぅ」ギュウウウ

賢者「…嫌がる女の子に無理矢理乱暴するなんてさあ~、男の風上にもおけないよねー…」

盗賊「な……な、な!なにしてくれてんだぁぁああテメェェェッッ!!!」

盗賊「細切れ肉にしてやる、トロル野郎おお!!」ジャキッ

船長「もー、しょうがないなあ…ハニーちゃん、ちょっと待っててねぇ、僕ちゃん、お掃除してくるから!」

僧侶「げほっ!げほ!ごほ!」ドサッ

盗賊「死ねェッ!!」ブンッ!

バイィーン

盗賊「っ!剣が弾かれた!?」

船長「ブヒャヒャヒャ!!僕ちゃんのお肉は鍛えてあるからね!!そーんなヌルい力じゃ効かないんだよぉぉ!!」





154: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:17:08 ID:5Wy0/P9w

賢者「おいおい、どんな肉だっての……本当にトロルなんじゃないの?あんた」

賢者「火はダメか、部屋が燃えちゃうしな……じゃあ、氷結魔法!!」バキン! バキン!

船長「んー、かき氷~?ヒャヒャヒャ、あとでシロップを持ってこさせるかなー」

盗賊「効いてねーぞ…マジで魔物なんじゃねーか?あいつ…」

船長「僕ちゃんは無敵なんだよお!大体お前ら何!?ハニーちゃんのなんなのさ、うるさいハエどもが!人の恋路を邪魔するなー!」バシィン!!

盗賊「ぐはっ!!」

賢者「だっ!?」

船長「ヒャハハハハ!!人の恋路を邪魔するやつは、僕ちゃんの張り手でブッ飛べぇ!!」

僧侶「と……盗賊さん、賢者さ…ん……」

賢者「痛つつつ……いや~、こいつはキツいなあ…もうちょっとオッサンを労ってほしいね…」

盗賊「………」ペッ

盗賊「………テメーがなんなんだ、ってんだよ」





155: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:18:03 ID:5Wy0/P9w

船長「あぁ?」

盗賊「テメーがなんなんだっつってんだよ!!」

盗賊「そいつはなぁ!そのクソアマはなあ!!俺の、お――」

僧侶「!?!?」ドキドキ

盗賊「………」

盗賊「………とにかく!!」

賢者「あ、飲んじゃうの、そこ」

盗賊「うるせえな!!言い間違えただけだ、バカ!もとい!!とにかくだ!!なにがなんでも痛い目見せてやらあ、トロル野郎!」

賢者「う~ん、けれど剣でもダメ、魔法もダメ……かといって俺達は草食系男子だからなあー肉弾戦もあんまりなー」

賢者「力…力が足りない、か……倍加魔法はもうかかっているし…」

盗賊「うおおりゃあっ!!」ブンッ ドシュ

船長「効かない効かな~い、無駄なんだよお!」ブヨヨン

賢者「……そう、攻撃力をカバーできりゃいいんだよな」

賢者「兄ちゃんの剣を対象に、幻惑魔法!!」フワアアア





156: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:18:54 ID:5Wy0/P9w

船長「ブヒッ!?」ブヨンッ

船長「ぎゃあああ~!?いっいっ、痛いぃ~!!?血!血があああ僕ちゃんの腕があああ!!」ドタン! バタン!

盗賊「な、なんだ?全然斬れてねーのに、暴れ出したぞ?」

賢者「今、兄ちゃんの剣に幻惑魔法が乗っているからね。斬られたような幻覚を見たんだろう…魔法剣、ってとこかなー」

賢者「ま、幻惑魔法が解けたら元に戻っちゃうけれど、本当に斬って人殺しになるわけにもいかないし、そもそも攻撃が効かないなら…こんなお仕置きが一番でしょ」

盗賊「………ほう。つまり生殺しってわけか…?斬れば斬るほど苦しむけど、互いに安全ってこったな?」ニヤリ

賢者「あー悪い顔だ…。うん、でもあんまりやりすぎるとね、幻覚から抜け出すのに時間がかかっちゃうから……」

盗賊「泣いて後悔しやがれ、トロル野郎ぉぉ!!」ビシバシ! ビシ!

船長「ぎゃあああ~っ!!」

賢者「…手加減してあげなさいね~…遅かったけど」





157: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:19:45 ID:5Wy0/P9w

船長「あうああああ……」ブクブク

賢者「あーあ、気絶しちゃったか。一応、精神的負担が和らぐよう……回復魔法をかけておくよ」

僧侶「とっ盗賊さん!盗賊さあん!!怖かった…怖かったですよ~!うわああ~ん!!」

盗賊「クソアマっ!!大丈夫か、何もされてねーか!?」ギュッ

僧侶「うひょぅ!?は、は、はいぃ……す、少し、服は破られましたけど…」

盗賊「………良かった…」ホッ

盗賊「………」

盗賊「うおおわわわ!!?」ゴン! ゴンゴン!!

僧侶「痛っ!?痛い、痛ぁ!?まさかの三連発!?なんでぶたれたんですか、私!」

盗賊「こ…これは違う!違ぇーから!!あのクソオヤジの幻惑魔法が俺にも流れただけだ……違ぇから!!」

僧侶「正気に戻りたいなら自分をぶってくださいよう!!」

賢者「はいはーい、そのクソオヤジからひとつ質問があるんだけどね……」





158: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:20:43 ID:5Wy0/P9w

賢者「あのさ…なんでこの船、どんどん街から離れていると思う?」

僧侶「それは、さっき船員の人達が錨を上げて、船を動かしたから……」

賢者「そっかー成程ねー。じゃあ仕方無いよね、陸地から離れるのは」

盗賊「おい、耄碌するには流石にまだ早いだろ…何をわかりきった事を聞いてんだよ」

賢者「あっははは、いや~ごめんごめん、ちょっと現実を受け入れられなくてさー、あっははははは」

僧侶「も~、賢者さんってば」

盗賊「ははは……」


賢者「………」

僧侶「………」

盗賊「………」



賢者・僧侶・盗賊「「「なにしてくれてんだあああ!!?」」」






163: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:50:53 ID:5Wy0/P9w

盗賊「お、おい!!起きろトロル野郎!船を戻せ、街に戻せ!!コラ、起きろぉぉ!!」

賢者「ちょっとちょっと、流石にダメだよ兄ちゃん!気絶したとはいえ、時間的にまだ幻覚が抜けていない、今起こしたら再び暴れ出すだけだ!」

僧侶「な、なら、他の船員さん達を、起こしましょうよ!」

盗賊「他のったって、大体ノビてんぞ…クソオヤジが何人かに幻惑魔法をかけていたしよ。そもそも、船ってどうやって動いてんだ?どれくらい起こせばいいんだ?」

賢者「え、えーっと、えーっと!あれ?オッサン誰に幻惑魔法かけたか忘れちゃったよ、あっははは……嫌だね~歳は取りたくないな~本当!!」

僧侶「じゃあじゃあ、どうすればいいんでしょうか!?うわああん、街があんなにちっちゃく見える~っ!さっきよりも流れが早くなってますよう~!?」

賢者「あー、むか~し本で読んだ事があるなあ……潮の流れってやつかしら、コレ」





164: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:52:02 ID:5Wy0/P9w

~漂流中~

盗賊「あっちぃ……砂漠の次は海かよ、風が吹いていてもなんかベタついて気分悪ィ…オッサンよぉ、また氷出してくれよ…」

賢者「もう溶けちゃったの?出してあげたいところだけどね……こんなに長く船に揺られていると、気持ち悪くて、集中できな……うおえええ!!」ゲロゲロ

僧侶「だっ大丈夫ですか、賢者さん!?今どの辺りなんでしょうね……お水や食糧は積んであったから良かったけど、なくならないうちにどこかに船が着かないと……うう」

賢者「せ……背中擦ってくれて、ありがとうね…お嬢ちゃん………おうええぇ」

盗賊「おい、まだ陸地に着かねーのかよ!?」

海賊「へ、へい…なにぶん、気絶していた間にかなり流されてやして……調べちゃいますが、ここがどの辺りか検討もつきやせんもんで…」

盗賊「大体誰だよ、船を動かした奴はよ!なんで俺がこんな目に合わなきゃならねーんだ、チクショウ!!」





165: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:52:59 ID:5Wy0/P9w

子分「りっ陸地が見えましたぜ、旦那ぁ!ありゃあ、聖騎士の王国です!!」

盗賊「聖騎士って……おい、隣の大地まで流されたのかよ!?」

子分「間違いないです、聖騎士の王国にゃ、聖騎士達が修行するバカでかい塔があるんですが……今しがた望遠鏡でソイツを確認しましたんで!」

賢者「も、なんでもいいからさ、船から降りようよ…オッサンもうダメ、このままじゃ内臓まで吐き出しそ………うえええ」

僧侶「賢者さん、しっかりしてくださいぃ…」ナデナデ

盗賊「仕方無ぇか……じゃあその陸地に船を着けてくれ」

盗賊「言っておくが、俺達がいなくなったからって、また悪さするんじゃねーぞ……あのトロル野郎にも言っておけ!何かしようもんなら、また仕置きに来るってよ!!」

海賊「は!はいぃぃぃ!!」

 


166: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:53:59 ID:5Wy0/P9w

~陸地~

僧侶「海では太陽がキツかったのに、この辺りは涼しいんですねえ…」

賢者「あー…基本的に、この土地は寒冷地だからね……冬になると特に寒さが厳しくなるよ…うっぷ。まだ気持ち悪い」

盗賊「そういや、オッサンはこの土地の産まれだったか」

賢者「ああ…更に北の方にある、魔法文明を研究する街がある……俺の故郷がそこなんだよ、な、あ、ちょっとタンマ、……おええええ」

僧侶「あああ、賢者さんん…」ナデナデ

盗賊「先を急ぎたくもあるが、オッサンがこの調子じゃどうしようもねーな……この辺で野宿するか?」

?「…そこの人、大丈夫か?顔が真っ青だよ」

?「オジサンどうしたの?具合悪いの?」

盗賊「…っ?」ドクン

僧侶「んっ?」ドクン

賢者「うおえええ……」





167: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:54:51 ID:5Wy0/P9w

戦士「随分と具合が悪そうだが、急病人か?」

盗賊「(若い女…戦士か?……それと、旅芸人らしき格好のガキ)」

盗賊「…いや、病人というより、船に酔っただけでな。仕方無いから、この辺で野宿して休ませようとしていたところだ」

戦士「船酔い?そうか。なら、良い薬があるから、それを飲ませてあげるといいよ。ま…旅芸人」

旅芸人「はいっ!この薬だよ!僕もここに来るまでに、船に酔っちゃったんだけど……でも、この薬を飲んだらすぐに治ったんだ」

僧侶「あ、ありがとう~!ありがとうございます、助かります!さあ、賢者さん、お薬ですよ!」

盗賊「…すまねえな、見ず知らずの俺達なのに、親切にしてもらってよ」

戦士「なに、性分というものでね。困っている人を見かけると、手助けしてしまいたくなるんだ。いきなり声をかけて悪かったね。それでは、お大事に」





168: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:56:23 ID:5Wy0/P9w

盗賊「………」

賢者「はあ……いやあ、よく効くな~この薬。気持ち悪いのがかなり落ち着いてきたよ」

僧侶「良かった!親切な方にお会いできて、良かったですねえ~」

賢者「本当にねえ~、旅は道連れ世は情け。ありがたいことだなあ」

僧侶「…それにしても…盗賊さん、珍しく疑ったりしなかったんですね…?いつもなら、少しでも怪しんでから入るのに」

盗賊「………ん?…あ、ああ」

僧侶「盗賊さん?どうしちゃったんです…?ボーッとして……」

賢者「あれじゃないの?さっきの戦士の姉さん、なかなか胸大きかったし。見惚れたとか、そーいうの?」

僧侶「そ、そうなんですか!?盗賊さんっ!」

盗賊「なっ!?バカ!違ぇよ!!」

盗賊「………」

盗賊「(…気のせいか?さっき、心臓……いや、もっと何か、別のものが疼いたような感じがしたのは…何かに反応したような……?)」





169: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:57:14 ID:5Wy0/P9w

~聖騎士の王国~

門番1「止まれ!我が国に何用か!?」

僧侶「ああ…この感じ、また味わうなんて~…」

盗賊「遭難して、この土地に流れ着いたもんでな。持ってきた食糧も尽きかけている、他に村や街も見当たらないし…困ってんだ。出来れば、この国に入れてもらいたいんだが…」

門番2「ふむ…それは難儀な事だな。困っていると言うならば、手助けするのが我らの志」

僧侶「…あれ?わりと好感触…?い、入れてもらえますかねえ…?」

賢者「いやいや~、忘れちゃダメだよ…ここが何の国なのかってことをさ…」

門番1「しかし旅人よ。我々は志と等しく、掟も大事にするものなり」

門番2「心、技、体!全てにおいての強さを認められた者だけが、この門をくぐる資格を持つ者なり!」

門番1「我らの国に入りたくば、戦え!旅人よ!」

盗賊「あー…そうくるか……」





170: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:58:03 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…オッサンは船酔いでフラフラだし、クソアマは役立たず……となると、戦うのは必然的に俺、か……はあ、面倒くせえ~…」

盗賊「…で?どっちと戦えばいいんだ?俺は」

門番1「否。戦うは我らにあらず。我らはあくまでも門番なり、門を守る騎士なり」

門番2「旅人よ、運が良かったな。余所者が門をくぐりたい場合は、その意思を持つ者同士戦い、勝った方だけが入れる掟。入国を待つ相手がいなければ、来るまで待ってもらうところだったが」

門番1「今丁度、一組。入国の為に対戦者を待つ者がいる。彼の者と戦うのだ」

門番2「戦いの準備をする小屋がある故、そこで支度を整えて参れ」

僧侶「だ…大丈夫ですか?大丈夫なんですか?盗賊さん……」

盗賊「大丈夫だと思うか?俺はあくまで非戦闘職の一般人なんだがな…死んだらどうしようかね」





171: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:58:50 ID:5Wy0/P9w

賢者「俺も蘇生呪文は使えないから、危なくなったらすぐ試合放棄するんだよ?その時は遠いけど、食糧節約して何とか魔法の街を目指すしかないな」

僧侶「こ、これが準備小屋ですかね。失礼しま~す…」ガチャ

バトルマスター「入国を希望する者よ。よくぞ参られた。貴殿の勇気を私は賞賛しよう。さあ、扱い易い武器を取りたまえ」

盗賊「剣に槍に斧……色んな武器が揃っちゃいるが…みんな木製だな、これなら斬られても心配なさそうだ」

バトルマスター「命の奪い合いが目的ではないからな。入国を賭けての戦いでは、一太刀入れるか、相手に負けを認めさせた者を勝者としている」

盗賊「なら、俺は剣を選ぶぜ。本当は短剣の方がいいが、それは無いようだしな」

バトルマスター「承知。では、この扉の先が試合場となっている。貴殿の武運を祈ろう」





172: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:59:40 ID:5Wy0/P9w

盗賊「ッ!!」ドクン

僧侶「う…?」ドクン

盗賊「(ま…まただ、あの疼きが、また!なんなんだ…?あの様子じゃ、クソアマも同じ感覚を受けている?)」

旅芸人「あ、船酔いのオジサン達だ!元気になれたー?」

賢者「あれ~?そういう君は、薬をくれた少年くんじゃないの。あの時はありがとうね~、って……もしかして、入国を待つ対戦者って…君達なの?」

戦士「奇遇だね、君達も同じ道を目指していたのか。けれど、ごめんな。私達も、どうしてもこの国に入りたいんだ。手加減はしないよ」

盗賊「………」

盗賊「…なんなんだ?お前らは……」

バトルマスター「僭越ながら、試合には私が立ち会わせてもらう。一太刀入れるか、負けを認めさせるか。勝った者を入国対象とする!では、試合始めぃっ!」





177: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:06:05 ID:5Wy0/P9w

旅芸人「ゅ………戦士様ー!頑張ってー!!」

盗賊「(相手の武器も剣か……本職に勝てるわけねーだろ、クソっ!)」

戦士「ふっ!!」シュッ!

盗賊「!?」

盗賊「(な…なんだ?今の…ギリギリ避けられたが……一度しか振っていないのに、太刀筋が二つに見えたぞ!?)」

僧侶「と、盗賊さん…!」

賢者「やー…かなり強いね、あの姉さん…隙がまるで無いよ」

戦士「私の剣を避けられるとは、驚いたよ。私もまだまだ修行が足りないな」

盗賊「……素早さを売りにしているもんでね、一応……」

盗賊「(詐欺くせぇー…あんな技があるとか、卑怯じゃね!?いや、俺も短剣を使った流れ技はあるが……その短剣が無ぇよ、バカが!)」

戦士「やああっ!!」ビュン! ブンッ!

盗賊「と!うお!?危なっ!?」ガン! ガツッ!





178: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:07:13 ID:5Wy0/P9w

盗賊「(一太刀一太刀が鋭く重い…!もし、剣が木製じゃなかったら……いや、木製でも、喰らったら骨がイカれちまう!!)」

戦士「本当にごめん、君達もこの国に入りたいんだろうけど…私も同じなんだ。どうしても、一刻も早く…この国に入って力を借りなくてはならないんだ。あの子を守らなきゃ…!」

盗賊「あの子…?あの旅芸人のガキか?」

戦士「そうだよ。本来、一人の人間にこだわる事は、私にとって良くない事かもしれない。それでも、私はあの子を守りたいんだ。その為なら、この力の全てを注ぐ!!」グッ

盗賊「(なんだ?あの構え……来るッ!?)」ゾクッ

戦士「たあああぁぁーッッ!!」ドカァァッッ!!

僧侶「きゃああああ!!と、盗賊さんっ!!」

盗賊「ぐ……は、ァッ…!」ドサッ

バトルマスター「…そこまで!勝者は戦士と致す!行動を共にする旅芸人も含め、入国を許可しよう!!」





179: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:08:22 ID:5Wy0/P9w

僧侶「盗賊さん!盗賊さん!!大丈夫ですか!?盗賊さんっ!」

賢者「ダメだよ、お嬢ちゃん!動かしちゃ!…回復魔法!」パアァァ

戦士「…形だけのものだったが…それでも剣に生きる者へ対する礼儀として、本気で打った。しばらく痺れが続くだろう、ごめんね。彼が起きたら、私が謝っていたと伝えてくれると嬉しいな」

旅芸人「本当は雷みたいのがビリビリもするもんね、やっぱり戦士様は強いや。さあっ聖騎士の王国に入ろう!オジサン達、ばいば~い!」

僧侶「………な…んなん、でしょう…あの人達……」

盗賊「…うぐ、ぐ……痛ッてぇぇ……」

バトルマスター「旅の者よ。残念ながら君達の入国は認められないが、旅の手助けは致そう。まずは怪我人を医務室へ運ぶ。治療は任せたまえ」

賢者「俺にも手伝わせてください。一応、保護者を名乗ってるんでね」





180: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:09:26 ID:5Wy0/P9w

~医務室~

僧侶「うわわわ、めちゃくちゃ腫れてますよう!い、痛そう…」

盗賊「痛そうじゃなくて痛ぇんだよ!チクショー…全っ然太刀筋見えなかった…レベルどんだけだよ、あの女……」

バトルマスター「患部にこの薬を塗り、包帯を巻いて一時安静にすると良い。すまぬ、上着を全て脱いでくれるか」

賢者「お嬢ちゃん、俺が兄ちゃんの体を支えているから、服脱がせてあげてくれる?…どっこいしょ、っと」

盗賊「痛だだだだ!!も…も、もっと優しく、頼む…!」

バトルマスター「………む?貴殿……このロザリオは貴殿の物か?」ジャラ

僧侶「あ、それ……私も、気になってました…キャラバンの商人さんが言ってました、よね?確か、この国の聖騎士さんはみんな持っている、ロザリオだって…あの時買ってもらったのと同じ…」

賢者「でもすごく古いものだね~、長い時を過ごしてきたかのような感じで」





181: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:10:54 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あ?あー…これか、俺にもわからねーんだよ…物心ついた時にゃ首にぶら下げていたしな。俺は親がいねーから、これが形見なのかどうかもわからねーし」

盗賊「なんとなく……売る気も起きなくて、ただ着けているだけだ…そ、それより早く薬塗ってくれよ、痛ぇって…!」

バトルマスター「ああ、すまぬ。……しかし、気になるな。そのロザリオ」

バトルマスター「確かにこれは我が国のものだ。新しい王が誕生するごとに作り変えられる…そちらの女性が身につけているロザリオは、今の王が誕生した時に作られた真新しいものだが…」

バトルマスター「このロザリオは……詳しく調べてみないと、はっきりとはわからぬが…かなり古いものだぞ。百年、いや、もしかすると、それ以上かも知れぬ…その時代にロザリオが売買されていたという話はない筈だが…」

僧侶「そ、そんなにですか!?どっどっどういうこと、なんですかねぇ…?」





182: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:11:45 ID:5Wy0/P9w

盗賊「なら盗品なんだろうよ。そんな古臭ぇもんが俺の手元にあるって事が証拠だろ…」

賢者「お、おいおい。お膝元で、そう不用意な発言をしないの…」

バトルマスター「否。我らは全てにおいての力をよしとする。どういう経緯があったかはわからぬが、そのロザリオが今ここにあるという事は、その持ち主がロザリオを守る力が無かった、そういう事であろう…」

盗賊「………」

バトルマスター「…さて。手当ては終わった。包帯が少しきついかもしれぬが、痛みが引くまでの辛抱だ」

僧侶「ありがとう、ございました…」

バトルマスター「貴殿らは戦いに負けた故に、我が国に入れぬが、ここより北に魔法文明を研究する街がある。水と食糧を渡そう、そこを目指したまえ」

バトルマスター「ただし、街に行く道の途中、何か魔力が働いているらしく、酷い吹雪が起きている箇所がある。気を引き締めて向かえ」





183: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:12:34 ID:5Wy0/P9w

~魔の吹雪地点~

賢者「うおおお……さっ寒い、むしろ痛いぃ!腰に響くじゃないのさあ~!!」

僧侶「前が見えないくらい、酷い吹雪…!こんなの、初めてですう…!!」

盗賊「暑いの寒いの、両極端すぎんだよ!勘弁してくれ!!おいっクソオヤジ!なんなんだよ、この吹雪!!この一角だけ切り取られたみてーに、吹雪いてるぞ!?こういうもんなのか!?」

賢者「いやぁ~…オッサンがいた頃は、こんな事無かったんだけどなー。吹雪が起きても、こう酷くなる事は無かったし……」

賢者「この雪、あのバトルマスターさんが言った通り…魔力を感じるな。とすると、近くにこの吹雪を起こしている者か、魔力媒体がある…それをどうにかすれば止むだろう、けど…」

僧侶「こ、こんな調子で、魔法の街に着けるんですかねえ~!?……ふぎゃ!」ドサッ

盗賊「何やってんだ、クソアマ。転んでんじゃねーよ、ドジ」





184: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:13:27 ID:5Wy0/P9w

僧侶「あうう……雪がすごくて、足が埋もれちゃいますぅ………あ、でも、なんだかあったかい…?」

盗賊「おい、クソアマ!バカか、お前!?こんなところで寝るんじゃねーよ、捨てていくぞ!コラ!!」

賢者「いやはや参ったね~、休むにしても、どこもかしこも雪だらけ……また遭難しちゃうなあ、これじゃ」

僧侶「…あれぇ…?……よ、妖精さんが手招きしてますよう…」

盗賊「バカを拗らせてんな、バカ!!起きろ!死因がバカとか流石にキツいもんがあるぞバカ!!」

僧侶「バカバカ言い過ぎですよ!盗賊さんのバカ!あそこ、ほらっあそこに妖精さんがいるじゃないですかあ!!」

賢者「………あれれ、本当だ。オッサンにも見えるんだけど、何これ?幻覚かな?それとも、あの世からのお迎え?」

妖精「…こっち。こっちに来て、早く。そこにいたら死んじゃうよ」





185: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:14:15 ID:5Wy0/P9w

妖精「…不思議ね、貴方達からは、仲間の匂いがするわ。人間なのに……どうして?」

盗賊「…ま…マジかよ。俺にも見えるぞ?」

妖精「そっちのオジサンからは匂わないけど、貴方と貴方……とくに、お兄さんからは、強い匂いを感じるの。何か妖精が作ったものを、食べたり飲んだりした?」

僧侶「…あ、そ、そう言えば!砂漠の妖精さんに助けてもらった時……妖精の回復薬を飲みましたね、盗賊さん」

妖精「砂漠……もしかして、滅びの里の!?そう、そうなのね。彼らはまだ生きているのね…嬉しい。聞けて嬉しいわ」

妖精「ここにいたら貴方達、死んじゃうわ。助けてあげる、ついてきて。私達の村に来て」

賢者「なんだかよくわからないけど…ご好意にゃ甘えよっか、確かににっちもさっちもいかないしさぁ…」

盗賊「つくづく妖精に縁があるんだな、俺達は…」





186: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:15:04 ID:5Wy0/P9w

~エルフの村~

僧侶「わあ…綺麗なところ……吹雪もないし、あったかくて心地好い…」

妖精「あの吹雪は魔力を使って起こしている、魔法の吹雪だから。この村は元々、人間に見つからないように結界が張られているの。それが吹雪も遮断してくれるのよ」

盗賊「…何をベタベタと木に触ってんだ?クソアマは」

僧侶「あの砂漠では、木とかほとんどが蜃気楼の幻でしたけど…ここのは本物なんだなーと思って…」

賢者「いやあ、こんな村があったなんて、オジサン知らなかったなあ。ただここにいるだけで、魔力が回復していくのを感じる……」

賢者「住人は……妖精より、エルフの方が多いんだね?ハーフエルフからハイエルフまで、うーん、素晴らしい。ハイエルフは文献でしか見たことなかった、話が聞きたいな…」

妖精「砂漠にある里が潰されたから、私達はこの村に避難し、住ませてもらっているのよ。だからここはエルフの村よ」





187: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 19:59:07 ID:5Wy0/P9w

僧侶「あ、あの……失礼かもしれないけど…貴方は、私達人間を…憎んでいない、ですか…?」

妖精「……滅びの里で、何か言われたんでしょう?」

僧侶「は、はい…」

妖精「…哀しいことだけど、仕方ないわ……それが運命なら、従う事を選んだのが、この村に逃げた私達。滅びの里にいる仲間は人間を憎んでいるけど、私達は…まだ、人間を信じたいの」

妖精「いつか、戦いや争いがなくなって、みんなで歌ったり踊ったり…楽しく仲良く遊べる日が来るんじゃないかって。信じていたいのよ」

僧侶「……ごめんなさい…ありがとう…」

妖精「謝られることも、礼を言われることもないわ。私達も頑張らなきゃね、そんな日が来る為に。だからまずはこの吹雪をどうにかしたくって…身動きが取れないんですもの」

妖精「そこで休んでいて?私、村長様に貴方達の事を話してくるから」





188: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:00:06 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………」

盗賊「何へこんでんだよ、クソアマ。折角の暖けぇ空気が湿っぽくなるだろ」

僧侶「す…すみません……でも、なんか…申し訳なくって……」

賢者「………。 さて。いい機会だから、オッサンはちょっと村の中を見てくるよ、勉強になりそうだしさ。ぐるっと回ったらここに戻ってくるからね~」

盗賊「あ、ああ。行ってこい」

盗賊「………」

盗賊「…あの、よ。クソアマ。……そんなに気に病むこたぁ、ねーだろうが。さっきの妖精が望むような世界にする為に…勇者ってもんがいるんだろ?」

僧侶「…は、はい…そう、ですよね…」

盗賊「妖精が頑張るっつってんのに、テメーがウジウジしてどうするんだよ。へこむ暇があんなら、その分頑張れよな、お前も」

僧侶「ううう…!と、盗賊さあん…」

盗賊「……チッ。なんだかな、この村の空気は妙な気分にさせられる。穏やかすぎんだよな…らしくねー、この俺が……」





189: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:01:03 ID:5Wy0/P9w

・・・

賢者「やー、ぽかぽかと気持ちのいい日溜まり……春って感じだねえ、外の吹雪が嘘みたいだ」

エルフ「あら?珍しい。人間だわ。こんにちは、いいお天気ね」

賢者「はい、こんにちは。お邪魔してますよー。……ふむ、文献とは違うなー、それともこの村のエルフだけなのかなあ~?すごく友好的だ、みんな」

賢者「…と、ここは行き止まりか。……おー、立派な祭壇じゃないの。でも、野晒しなのに汚れがひとつもない…ピカピカの新品みたいだ」

賢者「………近くにいるだけで、心が洗われるような……なんとも美しい祭壇だね~……聖母像もこれまた美しい…こんなにも穏やかな笑みの作りは見たことがない」

賢者「………いやあ……救われるねえ………」

?「……そこにいるのは……まさか…賢者……賢者なの?」

賢者「ん?誰だい?………!!?」





190: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:01:54 ID:5Wy0/P9w

賢者「…そ…んな……まさか……まさか!君は!!」

武道家「や…やっぱり!賢者!賢者だ!!うそ…こんな事って…ああ……また、また貴方に会えるなんて!」

賢者「き、君は…君は…!お……俺を庇って死んだはずの…ま、幻?幻なのか?それとも夢か?」

武道家「賢者ぁ…っ!会いたかった!幻でも夢でもないよ、…ううん、幻といったら、それに近いけど…」

武道家「この村は妖精やエルフの他にも、精霊なども住んでいるんだよ。私は死んでしまったけど…理由があってね、霊体としてここに留まっているの」

賢者「………!れ…霊体……!?」

武道家「にわかには信じられないよね…でも、私…私は……貴方に会えて、本当に…嬉しいよ…」グスッ

賢者「………」

賢者「…幻でも、夢でも……霊体でも、いい…その喋り方、仕草……俺の前じゃ泣き虫なところ…全部、全部、あの時のままだ……俺も、会えて嬉しい…!」





191: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:02:45 ID:5Wy0/P9w

武道家「け…賢者ぁぁ…!!」

賢者「泣くなって…貰い泣きしちゃうでしょーが。…ああ、本当に霊体なんだな…君が泣いているのに、頭を撫でてやる事も、抱き締めてやる事もできないなんて」

賢者「懐かしいなあ…君が泣いたら、すぐに頭を撫でてさ?それから抱き締めて、最後に口へ飴玉を入れてやる。それが君の涙を止める方法だったのに…もう、できないんだな……」

武道家「…ううん……ごめん、泣いちゃって…でも、私……貴方がくれる飴玉、今もひとつ持っているんだよ」

武道家「ほら。ふふ、すごく美味しいから、いつも一粒だけ取っておいて、持ち歩いていたの。溶けちゃう前には食べていたけど、この飴玉だけは……食べられなかった」

賢者「…すまない……俺が弱かったから…君を守れなかったから……」

武道家「違うの、ごめんね。貴方を責めているわけじゃないの、弱かったのは私だよ。ごめんね…貴方に辛い思いをさせて…本当に、ごめん…」





192: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:03:29 ID:5Wy0/P9w

・・・

妖精「村長様が貴方達に会いたいって言っているの。来てくれる?」

僧侶「あ、はい。でも…まだ、賢者さんが戻ってきてないんですが…」

妖精「あのオジサンなら、村の端にある精霊の祭壇にいるのを見たわ。…今は取り込み中だから、邪魔しない方がいいと思うの。だから貴方達だけでも、来てくれる?」

盗賊「取り込み中?何やってんだか、あのオヤジは。…まあいい、それじゃ行くとするか」


エルフB「まあ、人間だわ。会うのは久し振り。私達の村へようこそ」

エルフC「いらっしゃい。外は大変だったでしょう?ここで時間の許す限り、体を癒してね」

僧侶「ありがとうございます~。…皆さん、優しいですねえ」

妖精「ここにいる者達の考えは、みんな同じよ。誰もが平和な世界を願っているの。勇者と、その仲間の為になら、いくらでも力を貸したいと……さあ、ここが村長のおうちよ」





193: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:04:15 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…やたら小さい家だな……よ、っと…クソアマ、頭ぶつけんなよ」

僧侶「はう!!」ゴンッ

盗賊「言ったそばから…ある意味、期待を裏切らないな。テメーはよ」

妖精「今の村長は小人族だから、おうちも小さいのよ。私には大きすぎるくらいだけど、人間の貴方達には小さいでしょうね。…村長、人間達を連れてきました」

村長「ありがと~。君はそこで待ってて~?…こんにちは~僕がこの村の村長です、よろしく~」

僧侶「わあ…可愛い!…あ、ご、ごめんなさい!失礼な事を……」

村長「あははっ。ううん~気にしないで~。君も可愛いよ、ありがとね~」

村長「えっと~、君達に頼みたい事があって、来てもらったんだよね~。外から来たなら知っていると思うけど、すごかったでしょ?外の吹雪」

村長「あれね、この近くにある氷で覆われた洞窟の中から、吹雪いているんだ~。どうやら、中に魔の吹雪を生む媒介があるみたいなんだよね~」





194: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:05:06 ID:5Wy0/P9w

村長「僕達もすごく困っているんだ~…何度か取り除こうと、出かけたんだけど、洞窟の回りは魔物もいっぱいで、いっつも邪魔されて奥に行けないんだよ~」

村長「だから、君達にお願いしたいんだ~。吹雪を止める為に、手伝ってくれないかな~?このままじゃ何処にも行けないよ~」

盗賊「おい…なんだか面倒な話になって来たな…」

僧侶「で、でも、この吹雪をどうにかしなきゃ、困るのは私達もですよ…?止められる方法がわかっているなら、やりませんか…?」

村長「本当、お願いしたいんだよ~。折角、この地に勇者が来てくれたのに…この吹雪で外に出られないと、手助けができないよ~」

盗賊「っ!?勇者!?勇者がこの近くにいるのか!?」ガシッ

村長「うわあ!?あはは~、苦しいよ、やめて~潰れちゃう~」

盗賊「あ、す、すまんっ」パッ





195: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:05:52 ID:5Wy0/P9w

村長「はあ~びっくりした~。あはは、うん、勇者はこの近くに来ているよ~。僕達はね、神様に勇者を助けてってお願いされたから、力になりたいんだよ~」

村長「君達は勇者の仲間でしょう~?なんで勇者と別々になっているの~?勇者に会ったくせに、変なの~」

盗賊「…はあ?」

僧侶「わ、私達が……勇者様に、会った?え?え?いつ?」

村長「え~、気づいてなかったの~?だって君達、キラキラしてるのに~。勇者はもっとキラキラ輝いているだろうけど、その光の粒が君達についているよ~?」

盗賊「ど、どこかですれ違ったのか!?いつだ、どこでだ!?そんな、それらしき者は……」

村長「あはは、勇者の事、あんまり知らないみたいだね~?じゃあこうしよう~っ!吹雪を止めてくれたら、勇者の事を教えてあげる~。どう?いい案でしょう~?」

盗賊「チッ…わかったよ、吹雪くらい、すぐに止めてやるぜ」

僧侶「つ、ついに、ついに勇者様に会える…!」





196: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:06:37 ID:5Wy0/P9w

妖精「…お話は終わったかしら?」

村長「うん~終わったよ~。ねえ、妖精。この人達を、氷の洞窟に連れていってあげてくれる~?」

妖精「はい、わかりました。ありがと、お願いを聞いてくれたのね?とても嬉しいわ、よろしくね」

僧侶「こ、こちらこそ!よろしくお願いしますっ!!」

村長「洞窟の中もすごく寒いから、暖かい格好をしていくといいよ~。エルフ達に頼んで、防寒具を用意してもらうから、ちょっと待っててね~」

盗賊「おう、よろしく頼むわ」

村長「………」

村長「あははっ、ちょっと変更~。君に連れていってもらった方が早いよね~。ねえ、僕を肩に乗せて~?村の中央にある集会場に連れていってよ~」

盗賊「…俺を乗り物扱いすんなよ、クソチビめ」

僧侶「私は、賢者さんを呼んできますねっ」





197: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 23:59:23 ID:5Wy0/P9w

僧侶「えっと、確か賢者さんは…村の端にある精霊の祭壇に……あ、いたいた」

僧侶「………!うわあ~…綺麗な祭壇…!聖母様の像も、とても素敵…神聖な力に溢れてる……」

賢者「………」

僧侶「賢者さん、迎えに来ましたよ~。あのね、吹雪を止める方法がわかったんです!これから原因のある洞窟に行くので、賢者さんも一緒に……あ、あの、賢者さん?」

賢者「………」

僧侶「賢者さん?賢者さーん!?」

賢者「…うわっ!?び、びっくりしたなーもう。お嬢ちゃん、いつのまに来てたの?」

僧侶「ついさっきですよ。どうしたんです?ボーッとして…」

賢者「ああ、うん。ごめん、大丈夫だよ。…いや、この祭壇があんまり綺麗なもんだから、見惚れていてね」

僧侶「あー、それは確かに、わかります!すごく、綺麗だし…神様の力に満ちていますから……見惚れるのは仕方ないですねえ~」





198: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:00:17 ID:5Wy0/P9w

賢者「本当に、そうだねえ……」

賢者「………」

賢者「ねえ、お嬢ちゃん。悪いんだが、この祭壇に祈りを捧げてはくれないかな?オジサンも一緒に祈るからさ」

僧侶「え?は、はあ…祈るのは、別に構いませんけど…」

賢者「兄ちゃんを待たせたら怒られそうだもんねえ、今は手短にやろうか。じゃあ、よろしく頼むよ」

僧侶「は、はいっ」

賢者「………」

僧侶「………」

僧侶「(………お祈りに集中しなきゃ、だけど……)」

僧侶「(賢者さんがちょっと気になるな……目が赤い、…泣いていたの?賢者さん)」

賢者「………」

僧侶「(…あれ?聖母像が…今、微笑んだ…?)」

賢者「………ん。ありがとう、お嬢ちゃん。オジサンの我儘に付き合ってくれて。さ、兄ちゃんのところに行こっか」

僧侶「あ、は、はいっ」





199: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:01:05 ID:5Wy0/P9w

~氷の洞窟~

僧侶「エルフさんから借りた防寒具のおかげで、吹雪の中もなんとか進めましたね!」

盗賊「おい、テメーなんで俺の服の中に入ってんだよ。自分で飛べよな」

妖精「この風じゃ私なんか、すぐに飛ばされちゃうわ。それに貴方は妖精の匂いが強いから、安心するのよね」

盗賊「あのクソチビもお前も、俺を乗り物扱いするなっつーの」

賢者「ん~、洞窟にはついたけど……氷の壁で入り口が塞がっているねえ」

妖精「あら?変ね、前に来た時は、そんなものなかったのに」

僧侶「でも、これ……壁というより、扉じゃありませんか?ほ、ほら…これも氷だけど、錠前がついてますよ…?」

賢者「うーん…氷を溶かすにしても骨が折れるな…魔力が空になるだろうし」

妖精「困ったわね。鍵がどこにあるかなんて、検討もつかないわよ」





200: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:01:54 ID:5Wy0/P9w

盗賊「おいおいテメーら。俺を忘れてんじゃねえぞ」

盗賊「盗みならなんでもござれのこの俺に、こんなチンケな鍵で挑もうなんざ、百年早いんだよ」ガチャガチャ

盗賊「…ほらな、開いたぜ」ガチャッ

僧侶「わあ~!盗賊さん、すごーい!鍵いらずですねえ~」

盗賊「…どっかのバカのせいで、矢面に立たされてばかりだったが、俺の本職はこれなんだよ」

妖精「貴方、とっても便利なのね。一家に一台あると良さそうだわ」

盗賊「乗り物の次は道具扱いかコラ。潰すぞテメー」

賢者「うおおぅ……扉を開けたらもっと吹雪が酷くなったよ、さ、寒い…!!気をつけて進むんだよ、みんな~!」

僧侶「床も壁も、天井もみんなツルツルに凍ってますねえ…でも、氷が光を反射していて、中は暗くない……良かった、怖くなさそう…」





201: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:02:34 ID:5Wy0/P9w

魔物「ガアアアア!!」

賢者「火炎魔法っ!!」ゴオオォッ!

僧侶「えい!えいっ!!メイス攻撃ーっ」ポカスカ

妖精「…ねえ、ちょっと。貴方は戦わなくていいの?2人に任せてばかりじゃない」

盗賊「宝箱を開けるのも、戦いのひとつなんだよ。クソオヤジの魔力が尽きたら俺も戦うさ。……お、この宝箱に魔力回復の聖水が。クソオヤジに飲ませよう」

妖精「もう。結局戦う気がないんじゃないの、困った人ね」

盗賊「別に、お前を服から引き摺り出して捨てていってもいいんだが?」

妖精「次の宝箱にまた役立つアイテムがあるといいわね。私の探索能力で宝箱を見つけてあげるわ。宝箱の鍵は貴方にしか開けられないんだもの、期待してる。さあ行きましょ、戦いは彼らに任せて、私達は私達にできる事をしなくちゃ」

盗賊「…お前の性格、そんなに嫌いじゃないぜ、俺」





202: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:03:27 ID:5Wy0/P9w

僧侶「盗賊さーん!盗賊さんも戦闘に参加してくださいよう!魔物が多くて大変なんですからっ」

賢者「あっ、お嬢ちゃん!走ったら危ないよ、転……」

僧侶「ふぎゃ!」ツル スッテーン

賢者「…転ぶよー、と言うのも間に合わなかったな…」

盗賊「まったく、期待を裏切らないクソアマめ」

僧侶「痛たたた……あ、あれ?あれっ?か、勝手に滑っていく……」ツルルルル

賢者「ちょっと、お嬢ちゃん!?どこに行くの、一人じゃ危ないよ!」

妖精「いやだ、氷の床で滑っていくんだわ。…ねえっ落とし穴があるわよ!?踏ん張って止まらないと、あの子、穴に落ちちゃうわ!」

僧侶「はわわわわ!!」ツルルルー

盗賊「何やってんだバカ!クソアマ!!止まれっ!!」

賢者「氷柱魔法!!」バキン バキン

賢者「ダメだ、氷柱を立てて止めようと思ったけど…滑っていくのが早い!」





203: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:04:15 ID:5Wy0/P9w

僧侶「きゃーっ!?」

盗賊「クソアマ!!うわあっ!?」

賢者「2人とも穴に落ちたー!?…も、もう、オッサン高いところ苦手なんだけどなあ…!!」バッ


僧侶「きゃーああああー!!」

妖精「この高さから落ちて、どうする気?人間の貴方達は空を飛べないでしょうに」

盗賊「てめっ!なに一人だけ服から出て、飛んでんだよ!!あとで潰すからな!」

賢者「兄ちゃん、お嬢ちゃんの事をしっかり掴んでなよ~?ちょっと勢いキツいと思うから」

盗賊「おいっ、何する気だ?オッサン!」ギュッ

僧侶「あわわわわ……だ、だだ抱き締められ…あわわわ」

賢者「上手くいくといいんだがね~。よし、あの氷の塊でいいか……一点集中、爆炎魔法!!」

ドゴォォンン!!





204: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:05:16 ID:5Wy0/P9w

盗賊「っ!爆風で…煽って、落ちる勢いを殺したのか」ドサッ

賢者「あだっ!!……いたたたた、ケツが割れた!絶対割れたあ!いたたたた!!」ドスッ

妖精「無茶をするわね、人間って」

盗賊「このクソチビ2号!いつのまに、また服の中に逃げ込んで!調子がいいな、テメーはよ!」ギュー

妖精「待って待って待って、私を潰すのは気が早いわよ。本当よ。私も役に立つから、……全体回復魔法!」パアアァァッ

賢者「…っは…?あ、ケツが痛くない……おぉー、やるじゃないの、妖精ちゃん!」

盗賊「ほう?こりゃスゲーが……なんで今の今まで使わなかった、本当に調子いいな、お前」ギュギュウー

妖精「待って待って待って待って。潰れるわ。妖精の搾り汁ができちゃうわ。ほら、私を搾るよりも、その女の子をどうにかした方がよくないかしら?」ギュー

僧侶「」アウアウ

賢者「お嬢ちゃん……乙女なんだねえ…」





205: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:06:04 ID:5Wy0/P9w

賢者「しかし、随分深いところに落ちたもんだなあ…どうやって帰ろうね?」

妖精「…この先。この先から、魔力の強い流れを感じる。吹雪を生む媒介があるかもしれないわ」

盗賊「一本道のようだしな…仕方ない、行くか。おらっ起きろクソアマ、寝てんじゃねーぞ」バシバシ

僧侶「痛い!痛たた!!…も、もうっ!もっと優しく起こしてくださいよう~」

賢者「んー……魔物の気配もないね…あ、まーた扉だ。兄ちゃん、鍵開けてくれる?」

盗賊「へいへい…」ガチャガチャ

ギイイィィ…

賢者「……おぉ~…これは、これは……」

僧侶「うわあ~…すっごい、綺麗……氷の柱に、光のカーテンが掛かっているみたい…」

賢者「これはオーロラっていうんだよ。でも何故こんな場所に……この空間だけ、人為的に作られたようだ…天井は吹き抜けだけど、高すぎるね」





206: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:06:46 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…台座に何か乗っているぞ。なんだ?こりゃ。宝玉か……真っ青でスゲー綺麗だな…売ったら高そうだ」

妖精「貴方、罰当たりね。…それよ、吹雪を起こす媒介!その宝玉を中心に、魔力が渦巻いているもの」

僧侶「じ、じゃあ、これを壊せば吹雪は止むんですか、ね?」

賢者「や、別に壊さなくていいと思うよ。こういうのは、場所も大事だからね。宝玉の位置を動かすだけでも、吹雪は止むはずさ」

僧侶「じゃあ、じゃあ転がすだけでも……あ痛!」ポカッ

盗賊「お宝に素手で触るなっつーの、クソアマが。動かすだけでいいなら、持って帰って売り飛ばしてもいいわけだな?いくらになるかねぇ~」

僧侶「声をかけてくれるだけでいいのに、すぐぶつんだから~…」

賢者「手のひらに乗るくらいの大きさか…いや~、こんな小さなもので、あれだけの吹雪を起こす魔力を込めるとは…実に興味深いなあ」

 

 


210: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:48:42 ID:5Wy0/P9w

妖精「…宝玉を取り上げたら、魔力の流れが途切れたわ。これで吹雪も止んだはずよ」

僧侶「やったあー!…って、手放しで喜べないんですよねえ……ど、どうやって帰りましょうか…」

妖精「私、移動魔法も使えるわよ?天井がないここからなら、村までひとっ飛びで帰れるわ」

盗賊「ほほう、そいつは便利だな。……それを使えば、あんな吹雪の中を歩かずに、この洞窟まで飛べたんじゃねーか?」ギュウウウウ

妖精「待って待って待って待って待って。私を潰したら貴方達、一生ここに閉じ込められるわよ。最後の晩餐は妖精の搾り汁?あらあら、グルメなのね」ギュウウウ

賢者「結局さあ、この宝玉は持って帰るわけかい?いや、できれば研究したいけど…なんか、下手したら部屋の中でも吹雪いたりしそう」

妖精「それは大丈夫じゃないかしら。もう魔力反応を感じないもの。さあ、早く帰りましょう。私の体があちこちクビれないうちに」





211: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:49:38 ID:5Wy0/P9w

~エルフの村~

村長「あはは、これが魔の吹雪を生んでいた宝玉かあ~。うん、確かに魔力の匂いがするね~」

盗賊「外を見たら、あの吹雪が嘘のように止んでいたしな。これで任務完了、ってわけだ」

賢者「…うーん、オッサンも話に混ざりたいなー、なー」

妖精「私が話し相手になってあげるから、いじけないで」

僧侶「私と盗賊さん、2人入ったらいっぱいいっぱいですもんね、このおうち…」

村長「本当に本当にありがとう~!これで外に出かけられるよ~。残っている雪もやがて溶けるだろうしね~」

村長「よ~し、じゃあお礼に、君達に勇者の事を教えてあげる~。…じゃじゃ~ん、占いの水晶玉~」コロン

盗賊「…俺には少しでかいビー玉にしか見えないんだが」

村長「僕はこう見えて占いが得意なんだ~。これで勇者が今いる場所から、会い方まで占ってあげるね~百発百中だよ~」





212: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:50:23 ID:5Wy0/P9w

僧侶「…やっと……やっと、勇者様にお会いできるんだあ…」

盗賊「ああ……」

村長「ん~むむむ~……は~い、出ましたあ~」

村長「えっとね~、勇者は今、聖騎士の王国にいるよ~。聖騎士の証でも取りたいのかな~?あはは、それから、勇者と一緒にもう一人…魔法使いがいるね~」

僧侶「…え?聖騎士の王国、って…す、すぐそこじゃないですか!つい2、3日前に立ち寄ったばかりですよう!?」

盗賊「………」

村長「何か理由があるみたい~、それまではわからないけど…勇者は今、別の名前を騙っているね~。魔法使いもそう、2人して変装しているよ~」

盗賊「……聖騎士の王国…2人………変装……」

盗賊「………ま、まさか……?」

僧侶「じ、じゃあ!じゃあ、今からでも、聖騎士の王国に行けば、勇者様に会えるんですね!?」

村長「うん~、暫く滞在するみたいだからね~。……でも~…」





213: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:51:09 ID:5Wy0/P9w

村長「今、王国に行ったら…君達は一生勇者に会えなくなるよ~?」

僧侶「えっ!?な、なんで?なんでですか?」

村長「運命。運命がそうさせるんだよ~、勇者と会うには、鍵が足りない…そう言えばわかるかな~?何度も機会はあったのに、すれ違いもしたのに…互いに気づかなかったのは、運命の仕業なんだね~」

村長「君達は勇者に会う前に、ここから先にある魔法の街に行かなきゃならない…そこには大きな塔があって…2人だけで昇らなきゃいけない。そしてそこで、君達は重要な選択を迫られるでしょう~」

村長「どの答えを選ぶかは、君達の判断に委ねられるけど…それを乗り越えた時にこそ、勇者と合流を果たせる。そして、勇者の悩みを、葛藤を打ち砕き、彼の力となり刃となり…魔王を倒す事が叶うだろう…」

村長「………と、占いに出ました~。あはは、どうだったかな~?」

盗賊「……悩み、か……」





214: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:51:52 ID:5Wy0/P9w

僧侶「で、で、でも!その塔に、私と盗賊さんだけで昇って…選択っていうのもクリアしたら……勇者様に会えるんですね!?今度こそ!」

村長「うん~。あはは、順番を間違えずに行けば、必ず会えるよ~。勇者はね、今すごく悩んでいるんだ~。…だから、早く力になってあげて。君達にしか助けられないから……お願い」

僧侶「わ…わかりましたっ…!盗賊さん!魔法の街に行きましょうっ?」

盗賊「ああ。魔法の街はクソオヤジの故郷っつってたしな。あいつに話を聞けば、その塔とやらもわかるだろう」

村長「あ、そうそう~。吹雪を止めてくれた、あのオジサンにも、お礼をしなくちゃね~。さあ、僕を肩に乗せて~?外まで、れっつらご~」

盗賊「だから俺を乗り物扱いするんじゃねえッ!!このクソチビ初号機が!!」





215: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:52:41 ID:5Wy0/P9w

賢者「あー、やっと出てきた。おかえり~、寂しかったよオジサンはさあー」

村長「こんにちは~、僕、この村の村長で~す。この度は吹雪を止めてくれて、どうもありがとう~」

賢者「わ、小人族!?いやはや……やっぱり文献だけじゃ得られないもんだな、知識ってのは…。いやいや、どういたしましてー。こちらこそ、防寒具を貸してもらったり、ありがとうございました」

村長「それでね~?君にもお礼がしたいなあって思うんだ~。急ぎたいだろうけど、吹雪を止めて村を救ってくれた君達に、ささやかながら宴の用意もしたんだよ~」

盗賊「宴……飯か?」ピク

僧侶「盗賊さん…」

村長「あははっ、勿論ご飯もたくさん作ったよ~、食べてって?一晩くらいはいいよね~、休んでいってほしいんだ~」

村長「なにより、オジサンへのお礼は宴と別にも用意してあるからさ~是非参加してね~」

賢者「なんだ?なんだろ、そこまでしてもらっていいのかな?」





216: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:53:26 ID:5Wy0/P9w

~御礼の宴~

盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ

妖精「あ、その木の実のスープは私が作ったのよ。美味しいでしょう?ふふふ…これでいっそう妖精の匂いが強くなるわね、居心地も更に良くなるでしょうね」

盗賊「叩き潰すぞクソチビ2号。俺はテメーらの乗り物じゃねえっ!」

エルフ「さあ、たくさん食べてね。栄養もばっちり、体力がつくわよ」

僧侶「ありがとうございます、とっても美味しいです…!ヘルシーなのに、コクがあったり深い味わいだったり……不思議なお料理ですねえ…」

賢者「いや~この果実酒も旨いっ!こんなにも甘いのに、爽やかな口当たりで、いくらでも飲めそうだ…ひっく」

村長「あはは、喜んでもらえて良かった~。でもまだ酔い潰れないでね~?本番はこれからなんだからさ~」





217: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:54:16 ID:5Wy0/P9w

賢者「本番?…そういや、オッサンにはまだ別のお礼があるんだっけ。これ以上、よくしてもらうとか、なんだか申し訳ないなあ」

村長「いいんだよ~。君の為だけでもないからね~、…あ、来た来た、お~い、こっちだよ~」

賢者「………ッ!!」

僧侶「…わあ、素敵……なんて綺麗な花嫁さんなんでしょう!」

盗賊「…確かに綺麗だが…エルフでも妖精でもねーぞ?人間…?いや、なんか透けてねーか……?なんだ?ありゃあ…」

武道家「……賢者…」

賢者「…あ……あ、あれは…彼女は……お…俺の、親友…だ……」

盗賊「!! …テメーを庇って死んだって奴、か?なら…ありゃ、亡霊か…?」

村長「彼女はね~死んだ時に、故郷のある、この地へ魂が飛ばされたんだけど……あの魔の吹雪のせいで、この村に閉じ込められちゃってたんだよね~」





218: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:55:02 ID:5Wy0/P9w

村長「ねえ?彼女を天に、故郷に帰してあげて~?君の心の奥底に隠した本音を、彼女に渡して…送ってあげて」

賢者「………」

賢者「……なんつー礼を用意してくれたのかねぇ…年甲斐もなく照れちまうじゃんよ、オジサンは…」

武道家「賢者……ご、ごめんね。こんな格好で、似合わないよね。なんだか笑っちゃいそう、賢者とはいつも、ふざけあってたから…今更こんな…」

武道家「で、でも……私…私、どうしても、心残りがあって……吹雪のこともあったけど、その心残りが…私をこの世に繋ぎ止めていて…」

武道家「わ、私…私、……本当はね、…小さい頃から、ずっと、」

賢者「言うな」

武道家「………っ…、…そ、そうだよ、ね…ごめん、変な事、言いそうになっちゃった」

賢者「違うよ、武道家。…俺に格好つけさせてくれよ。その言葉は、俺が先に言うもんだ」





219: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:55:48 ID:5Wy0/P9w

武道家「け、賢者…?」

賢者「俺はお前が好きだ。小さい頃からずっと、一緒にいたお前が大好きだ」

賢者「魔法を勉強する俺の邪魔をしてくる意地悪なお前も。魔法の才能がないからって、それを補おうと武の道に進んだ、努力家なお前も…そのくせ、俺の前でだけは泣き虫なお前も。みんなみんな、お前の全部が好きだ」

賢者「…守ってやれなくて、ごめん。痛かったよな…苦しかったよな…迎えに来るのが遅くなって、本当にすまなかった」

武道家「賢者…!」

賢者「お前が好きだ。俺と結婚してくれ」

武道家「………わ…私も、私も!賢者が好き!大好き!!でも、いいの?私…もう死んじゃってるのに……」

賢者「最初から決めていたんだよ。俺の嫁はお前、って。生涯でただ一人だけだ。結婚しよう、武道家」

武道家「賢者ぁっ……!あ、あ、…ありがとう……ありが、と…うわあああ~ん!!」





221:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/07(火) 13:36:49 ID:9T/eFrTE

えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁ
がこれほど合うシーンは中々ない





224: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:15:36 ID:5Wy0/P9w

妖精「おめでとう、オジサン!武道家!結婚おめでとう!」

村長「あはは、2人の門出に乾杯~」

エルフ達「おめでとう!お幸せにねー!」

盗賊「………」ニッ

僧侶「………」

僧侶「…透ける口づけ……でも、永遠の誓い……すごく、すごく…綺麗です、武道家さん。おめでとう…!いいなあ、私もいつか……」

武道家「あ、ありがとう、みんな…あっ、あ、そ、そうだ!えいっ」ポイッ

僧侶「…っ、あ」パサ

妖精「あら、良かったじゃない。花嫁の投げたブーケを受け取れて。次に結婚できるのは貴方ね」

僧侶「わ、わ、私ですか!?………そ、そそ…そうなんですかあ…えへへ」

盗賊「…ふん。まあ、良かったんじゃねーの?オッサンが幸せなら。つーか飯おかわりくれ」

妖精「貴方はもうちょっと色気を出すべきよね、食い気よりも。折角のチャンスなのn ふぎゃ!」ペシッ

妖精「指で弾かれるほどの事を言ったかしら、私…」





225: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:16:32 ID:5Wy0/P9w

賢者「…やあやあ、まいったね~本当。照れるよもう、穴があったらそこに隠れたいくらいだ」

エルフ「その指輪は精霊の指輪。霊体の貴方も身に付ける事ができる特別製よ。……良かったわね、願いが叶って」

武道家「は、はい。ありがとうございます、こんなにも良くして頂いて……、あ」フワァァ

盗賊「…おい、体がさっきよりも透けていくぞ!?」

武道家「吹雪が止んだから、…願いが叶って満足したから、天に帰れるようになったのね」

賢者「…武道家。君に言ったものに偽りはないよ。君のところへ行くのは、まだまだ先になるが……必ず迎えにいくから。すまんな、また、もう少しだけ…待っていてくれ」

武道家「…大丈夫よ、ゆっくりでいいからね?貴方を見守っているわ。…でも浮気したら、貴方の股間に全力で正拳突きを入れるから」

賢者「おおぅ……うちのカミさんは怖すぎる」





226: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:17:22 ID:5Wy0/P9w

僧侶「貴方に安らかな眠りが訪れますよう、祈りを捧げますね…」

武道家「ありがとう…貴方達の旅も、滞りなく進むように、見守っているわ」

武道家「それじゃあ……また、ね…」

……… …… …


賢者「………」

盗賊「…おい、オッサン。どうせこれからも飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ」

僧侶「あ!わ!私も!私もお付き合いしますっ!」

盗賊「テメーはダメだ、クソアマ」

僧侶「ななななんで!なんでえー!?」

賢者「ははは…ありがとうね、2人とも。よっし!!それじゃあ飲むとしますかー!」

村長「やった~、お酒のおかわり持ってきて~」


宴は盛り上がり、遅くまで続いた……

そして、夜が明けた !





227: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:18:07 ID:5Wy0/P9w

賢者「うーん!あんなに飲んだのに、やたらスッキリしているなあ。まったく、何もかも不思議な村だ」

僧侶「何もかもが不思議で、……美しいものがいっぱいの村でした。夢の中ってこんな感じですよね」

村長「魔王を倒すまで、大変な道のりだろうけど、気をつけてね~。癒しが必要になったら、いつでも立ち寄ってよ~」

エルフ「これは私達が調合した妖精の回復薬よ。話を聞くと、既に飲んだ事があるようだから、効果は知っているだろうけど…傷を癒し、力を生んでくれるわ」

盗賊「お、こいつは有り難ぇ。助かるぜ、すまねーな。大事に使うわ」

僧侶「…あの薬を飲んだら、また盗賊さんが鬼に……ひいぃ」ガタガタ

妖精「短かったけど、貴方達と過ごした時間はとても楽しかった。こんな喜びがずっと続くように…魔王討伐、よろしく頼むわね」





228: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:18:55 ID:5Wy0/P9w

妖精「魔王を倒したら、必ずうちの村に遊びに来てね?待っているから」チュッ

盗賊「お、おい。額に…」

妖精「貴方も」チュッ

僧侶「あら、うふふ」

妖精「オジサンにも」チュッ

賢者「はは、照れちゃうな」

村長「妖精のキスは幸運を招くんだよ~。貴重なものなんだからね~」

妖精「絶対、絶対よ?約束ね。私達は約束を何よりも大事にするんだから。必ず帰ってきてね」

僧侶「はい!約束です!」

エルフ「いってらっしゃい、人間達。神と精霊のご加護がありますように…」

村長「いってらっしゃ~い、気をつけてね~」


盗賊「ったく、最後に恥ずかしい事をしやがって」

僧侶「ふふっ、盗賊さんと妖精さん、まるで兄妹みたいでしたよ?」

盗賊「あんな妹、持った覚えはねーよ。バカ」





229: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:19:46 ID:5Wy0/P9w

賢者「さてさて、魔法の街か~。何年ぶりだろうなあ」

僧侶「そ、そんなに長い間帰っていなかったんですか?」

賢者「まあね、若い頃旅に出たっきりだからさ。なんだっけ、魔法の街にある塔だっけ。それは多分、修行に使う封印の塔の事だろうな」

賢者「聖騎士の王国にある修行の塔と対を為す、魔法の街の封印の塔。この地のシンボルでもあるんだよ」

盗賊「塔にゃ一体何があるんだ?お宝か?」

賢者「修行に使う時は、大体修行する者の師匠が、塔の最上階に免許皆伝の証とかを置いて、途中途中に召喚獣を配置し、弟子の力を試すんだ」

賢者「けど、オッサンが街にいた頃から、見慣れない魔物が住み着き始めてねえ…塔から出てくることはないんだけど、危ないからって封鎖されたんだよなー」

盗賊「今更魔物にビビる事はねーが…何をやらされんだか、さっぱり想像つかねー」





230: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:20:32 ID:5Wy0/P9w

~魔法の街・夜~

僧侶「着くまでに丸一日かかっちゃいましたね…」

賢者「うーん、懐かしいな~この魔法薬を煮込んでいるニオイ……臭っ!目にしみる!!ああ変わってない、なんにも!」

盗賊「あそこの家から、やたら煙が吹き出しているが…火事かってレベルだぞ?」

賢者「この街は大体みんなそうさ。どの家でも魔法薬を作り、実験を重ねる。魔法文明を研究し、発展させた街だからね」

ドッガァァン!!

僧侶「うわひゃあああ!!?いっいっ家が!家が爆発しましたよう~!?」

研究者「ゴホッ、ゴホッ!配分を間違えた……お?賢者じゃないか。帰ってきたのか」ガラガラ

賢者「よォ、相変わらず派手だな、お前ん家は。まあ日常、日常!ハッハッハ!」

盗賊「どんな日常だよ、ったく…長居してたら命をいくつも落としそうな街だな」

賢者「今日はもう遅いから、俺ん家に泊まっていきなよ。…まだ家があるといいんだがね~。とっくに爆発してたりしてなぁ」





231: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:21:13 ID:5Wy0/P9w

・・・

盗賊「クソオヤジの家が残っていたのはいいが…スゲー散らかりすぎだろ!あちこちに本や得体の知れない瓶が転がって、歩き辛いったら無いわ!」

賢者「おかえり、風呂の湯加減どうだった?」

盗賊「クソアマの次だったからな、大分冷めていたぜ。もう一度沸かした方がいいだろう……つーか風呂にも本が積まれていたんだが。傷むぞ、あれじゃ」

賢者「置き場が無いから仕方ないんだよ。さて、それじゃあ俺もひとっ風呂浴びるとしますか」

盗賊「……おい、そのクソアマはどこに行った?」

賢者「無人だけど、教会もあるって教えたら、そこに行くって出ていったよ?」

盗賊「…どこが爆発するのかわからねーこの街で、フラフラ出歩くとか…バカ極まれりだな。チッ…迎えに行くか…」

賢者「あー、そうそう。いい機会だから、ちょっと聞きなさい、兄ちゃん」





232: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:21:59 ID:5Wy0/P9w

盗賊「なんだよ?急に改まってよ」

賢者「…あのさー、兄ちゃんは、お嬢ちゃんの事、仲間とか利害関係とかそれ以上の…まあようするにだ、好きなのかな?嫌いなのかな?」

盗賊「………はあ?何べん言わせりゃわかるんだ、俺とクソアマはそんなんじゃないって……」

賢者「うーん、いや…オッサンもね~今までそうやって意地を張ったり、気持ちを押し込めたりしていたからさー。でも、あのエルフの村で漸く、素直になれたでしょ?……何もかも遅かったんだけどね」

賢者「兄ちゃんさ、人生ここぞってタイミングは逃したらダメだよ。若いからこそ、走る早さも力もあるから、通りすぎちゃう人間は多いけど」

賢者「兄ちゃんは、若い頃の俺に似ているからな。だからねぇ、なんとなく…お節介焼きたくなるんだな。…失ってからじゃ遅いって事を忘れちゃダメだよ。これから魔王と対決しようってんなら、尚更ね」

盗賊「………」





233: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:22:50 ID:5Wy0/P9w

賢者「さてと。お節介はここまでだ、オッサンは風呂に入ってくるから、兄ちゃんは早くお嬢ちゃんを迎えに行ってやんなさい。もう夜遅いし」

盗賊「………ああ」

賢者「あ、そうそう」

盗賊「?」

賢者「…風呂から出たら、俺はさっき会った友人、研究者の家に行くから。キメるんなら、この家を使って構わないからさ?ご無沙汰が解消されるよう、まあ頑張んなさいよ」ニヤニヤ

盗賊「死ね!クソオヤジ!!お節介は終わったんじゃねーのかよ!!」

賢者「事が済んだら掃除と空気の入れ換えは忘れずにな、マナーだから、マナー」

盗賊「本当に死ね!!!」


盗賊「ったく、馬鹿馬鹿しい…どいつもこいつも。この俺が、あんな小便臭いガキに、あるかそんなん…」スタスタ

盗賊「………ふん、散らかり放題の街でも、花だけは綺麗に咲いてんだな」

盗賊「………」





240: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:08:03 ID:5Wy0/P9w

~教会~

僧侶「………」

盗賊「おい、クソアマ。寝るんならベッドで寝やがれ、マジにだらしない女だな、お前は」

僧侶「寝ているんじゃなくって、お祈りしてるんですよう!…明日じゃないですか…塔で為すべきことを終えたら、ついに勇者様とお会いできる」

僧侶「だから、失敗のないように、神様にお願いしていたのですよ。私達をお守りください、って。魔物もいるみたい、ですから…」

盗賊「ふん。姿形の見えないもんに祈るくらいより、自分の力を信じる方がいいと思うけどな」

僧侶「私、落ちこぼれですから……で、でも、魔物が出てきても、盗賊さんの邪魔にならないよう、頑張りますからねっ!?」

盗賊「いや、お前は絶対邪魔になるし足手まといになるね」

僧侶「ううう~っ!!」





241: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:09:05 ID:5Wy0/P9w

僧侶「…でも、本当に、そうなんですよねえ……私、回復魔法も使えないし…戦いだって、全然だし…」

僧侶「こんな私なのに、なんで…勇者様の仲間だって、選んじゃったんでしょう、神様は……勇者様に、ご迷惑が…かかったらと思うと」

盗賊「バーカ。今まで散々俺に迷惑をかけてきた奴が言える台詞かよ」

僧侶「うう!」

盗賊「…忘れてんじゃねーよ、バカ。今まで何度も発破かけてやっただろ、右から左に流しやがって」

盗賊「いつまでもウジウジしてんじゃねえ、鬱陶しい。…言ったろ、回復魔法だって、そのうち使えるようにならァ。テメーが頑張らないでどうすんだよ?神様とやらを信じる前に、自分を信じろよな、自分を」

僧侶「………」

僧侶「………自分……」

僧侶「…神に、己に、癒したい相手に……祈り、自覚し、捧げる…自覚……」





242: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:09:51 ID:5Wy0/P9w

盗賊「……ツケも溜まってっからな?テメーが回復魔法を使えるようになったら、まとめて返せよ。今までの苦労を」

僧侶「…ずうっと使えなかったら……どうなるんですかねえ?」

盗賊「……おい」

僧侶「あ、もう落ち込んでいるわけじゃないです!…盗賊さんは、乱暴だし意地悪だけど……たくさん励ましてくれたり、憎まれ口叩いても、守ってくれたり…すっごい感謝してる、ですよ」

僧侶「でも…この先も、ずっと、ずうっと何もできなかったら……私は、辞退した方が、ためになるんじゃないかなって…」

僧侶「そうしたら、盗賊さんにも、勇者様にも、ご迷惑かからないですし……賢者さんとかに、代わってもらうとか…その方が」

盗賊「落ち込んでんだろーが、このクソアマ」ビシッ

僧侶「痛ぁ!?いきなり、でこぴんしないでくださいよう!」





243: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:10:37 ID:5Wy0/P9w

盗賊「ずっと使えないとかねーよ。絶対使える。俺はツケを許した相手を逃がした事はない、必ず払ってもらうぜ」

盗賊「テメーがテメーを信じないなら、信じられるまで、代わりに俺がお前を信じてやる」

僧侶「!! と、盗賊さん」

盗賊「バカでグズでドジでノロマでマヌケで、もうひとつおまけにトラブルメーカー、ウザいわ、すぐへこむわ、ギャーギャーうるせーわ、本っ当~に!どうしようもないクソアマだが」

僧侶「…あの、励ます時は励ますだけにしてもらえないですかねぇ…」

盗賊「…お前ならやれるさ。回復魔法だろーが、なんだろうが。できるって信じてやる」

盗賊「まあ、クソアマだからな。それでもどうしてもできなかった時は…」

僧侶「………」

盗賊「………」

盗賊「俺がお前を守ってやるよ。できるまで、ずっと」





244: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:12:04 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………」

僧侶「………ずっと?」

盗賊「ああ、ずっと」

僧侶「ずっと使えなくても?」

盗賊「テメーが使えない奴なのは、俺が一番よく知っている」

僧侶「………おばあちゃんになっても、使えなくても…?」

盗賊「お前が死んでも生まれ変わってもだ」

僧侶「………!!!」

盗賊「…ケッ。テメーの面倒は、もう俺にしか見られねーだろうしな。もし、奇跡が起きたとしても、まあ…ずっと守ってやるわ」

僧侶「あ!ああああの!あのっ!!そ、そっそっそっ……それ!それって、どどどどどどういう意味なんでしょうか!!?」

盗賊「どもりすぎだ、バカ。自分で考えろよバカ」

僧侶「ででででも!!でっできれば、できれば…盗賊さんの口から、聞きたいです…!」

盗賊「ウザってーな。サービスでヒントだけやる」スッ

僧侶「…!わあ……お花の指輪…?こ、これ、盗賊さんが編んだんですか?器用なんですね…」





245: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:13:02 ID:5Wy0/P9w

盗賊「まあな。気が向いたら、本物を用意してやってもいい」

僧侶「…あ……あ、あり…ありがとう、ござ、います…!!ありがとう、ございます…!!」

盗賊「ただし。勇者がテメーを叱咤する時だけは庇わないぜ。…結構厳しそうだしな、勇者は」

僧侶「ううん!大丈夫です、勇者様を落胆させるわけにはいきませんっ!!私、頑張ります!」

盗賊「俺も落胆させんなよ?…ほら、帰ぇーるぞクソアマ。少しでも体を休めねーとだしよ」

僧侶「あ、あの、あの!ひとつだけ、お願いが!」

盗賊「あぁ?ウゼーな、手短にしやがれ」

僧侶「あの、もう、クソアマはやめて、名前で呼んでもらえないでしょうか…!?ひ、浸るに浸れないですし…」

盗賊「調子に乗るな、バカが」

僧侶「ううう~!盗賊さんの方がバカぁ!!」

盗賊「…まあ、ここぞって時になら、呼んでやってもいいけどな」





246: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:14:18 ID:5Wy0/P9w

~翌朝~

賢者「やあやあ若人達よ、昨晩はよく眠れたかなー?元気ですかーっ」

僧侶「はい、元気ですぅ~っ!」

盗賊「なんだこの茶番劇」

賢者「………」ニヤニヤニヤ

盗賊「そしてあのクソオヤジの目をブッ潰したい」

研究者「よう。あんたら、あの封印の塔に入るんだってな。ならこれを持っていけ」

僧侶「わっ、新しいメイスですか?盗賊さんにも短剣がありますよ!」

研究者「俺は魔法武具にも興味があってな、色々作ってんだが…丁度良いテストになりそうだし。そのメイスは祈りの力に作用して攻撃力が増すはず。短剣は斬りつけるたびに魔力を奪う効果があるはずだ」

盗賊「いちいち"はず"ってつけんな、不安が加速するんだが」

賢者「俺からはコレを、爆破魔法を詰めた魔法石だよ。投げつければ爆発するから、気をつけて使いなさいね」





247: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:15:01 ID:5Wy0/P9w

僧侶「武器に、魔法石に、回復薬!これで準備万端ですねっ、ありがとうございます~!」

賢者「なあなあ兄ちゃん」

盗賊「んだよ、クソオヤジ。馴れ馴れしく肩を組むな」

賢者「お嬢ちゃん、随分ご機嫌じゃない?女は誰しも精気を吸い取る小悪魔だからなあ……うんうん、オジサン色々お察ししちゃうんだけど!帰ったら話聞かs」バゴォォン!!

研究者「…魔法石はきちんと効果が出る事が証明されたな。他の魔法も詰められるか、更に研究するとしよう」

僧侶「けっ賢者さーん!?ダメですよ盗賊さん、賢者さんに魔法石投げたら~!」

賢者「」プスプス…

盗賊「いいからさっさと行くぞクソアマ!!あとそこのクソメガネ!その色ボケクソオヤジを埋めとけ!!」

研究者「…クソメガネって俺の事か?」

賢者「お前しかいないだろ。…2人とも、気をつけていってらっしゃいねー」





248: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:15:49 ID:5Wy0/P9w

~封印の塔~

僧侶「はあ、ふう……はあ、…た、高い塔ですねえ…てっぺんにまだつかないなんて…」

盗賊「…外から見たらそうでもなかったのにな。もしかすると、幻惑魔法が塔全体にかかっているのかもしれねェ。元々修行目的の塔らしいしな…」

僧侶「あ、足が……足がパンパンです…ふう、ふう…」

盗賊「まいったな、この幻惑魔法を解除しねーと、いくら登っても、まさに無駄足だぜ。一旦引き返すか…?クソオヤジに魔法解除できる道具がないか聞くとか」

僧侶「………あれ?盗賊さん…盗賊さんの荷物が、なんか光ってますよ?」

盗賊「あ?なんだ?光るようなもんなんか持ってねーぞ、俺」ゴソゴソ

盗賊「………!?…氷の洞窟から持ってきた宝玉が、光ってやがる」

僧侶「で、でもそれって確か、もう魔力反応はないって、妖精さん、言ってましたよね…?」





249: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:16:36 ID:5Wy0/P9w

―― パアアアアッッ!!

盗賊「うわっ!?」

僧侶「きゃあっ!ま、眩しい……」

・・・

盗賊「な…なんだ?今のすげえ輝きは……また光らなくなっちまったぞ、この宝玉」

僧侶「うう、目がチカチカしますぅ…、…あ、あれっ?あれえ?とっ盗賊さん!てっぺんが!天井がありますよ!?」

盗賊「な!?…この宝玉が幻惑魔法を解除したのか?…謎が多いな、こいつは。まあ、今はさておき。先が見えるんだ、さっさと進んじまおう」

僧侶「あんなに階段を昇ったのに、実際は一階ぶんくらいしか進んでなかったんですねぇ…もー、この疲れをどうしてくれるんですかあ~!!」

盗賊「……最上階だ、…扉があるな、鍵は掛かって…いる。ま、俺にかかれば子供騙しってところだ」ガチャガチャ

ギイイイィィ…





258: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:05:14 ID:5Wy0/P9w

盗賊「………?なんだ…?やたら広い部屋に玉座が、……誰かいるぞ」

僧侶「ね、ねえ、盗賊さん…あの、玉座の傍にある台座……宝玉が置かれていますよ?あっちは、赤い宝玉ですけど…」

魔将「………来たか!」

僧侶「きゃ!?」

魔将「ついに!ついについについに!!来たかッ!!この日をどれ程待ちわびたことか!また貴様を殺せると思うと!この魔槍に貴様の血を吸わせられるのだと思うと!!我が身が喜びに震えるぞ、―― 聖騎士よ!!」

盗賊「……は、…はあ?俺の事かよ?何言ってんだコイツ…誰と間違えてやがる」

魔将「姿は変わっても、その魂の残り香は隠せぬものよ!しかし変わらぬな、貴様らは弱者同士、身を寄せ合う。貴様は邪魔をするでないぞ、魔導師!!」

僧侶「………え?はい?わ、私?私ですか?え?私が、魔導師?」

盗賊「マジに何を言ってやがんだ、この全身鎧野郎は」





259: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:06:08 ID:5Wy0/P9w

魔将「オオオオッッ!!」ズバババッ

盗賊「うお!!」

僧侶「きゃあっ!!」

魔将「ぬうっ、我の槍を避けたか……相変わらずの身のこなし!何百年経とうとも、変わらぬな!!聖騎士よ!」

盗賊「だから俺はその聖騎士じゃねーよ!!なんなんだ、テメーはぁ!!」

僧侶「あ、あんなに大きくて、太い槍なのに…軽々振り回すなんて、お化けですぅ…!」

魔将「フハハハハ!!そら、そらそらそらぁぁぁっっ!!」ブン! ブォン!!

盗賊「チッ!話を聞けよ、この野郎!!…槍相手じゃ、俺達の武器だと不利だ……懐に入るなりして、距離を詰めねーと。勿体無いが回復薬で攻撃力を上げるか…」

盗賊「おい、クソアマ!クソオヤジから貰った魔法石だ!あれを投げて隙を作れ!!」

僧侶「ま、魔法石!魔法石!!えっと、えっと!!…あった!えいっ!!」ブンッ

魔将「ぬうっ?小石か?―― ぬお!?」ズガァァン!!





260: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:06:52 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぬうう……爆薬か…?なんと小賢しい真似を、……ハッ!?」

盗賊「爆薬じゃねーよ、オッサン印の魔法石だ!!」ガキィン!

ゴトンッ

魔将「ほう、懐に入るその速さ、我の兜を剥ぐ短剣の突き上げ……衰えてはおらぬようだな、聖騎士よ…」

僧侶「ひいっ!?」

盗賊「な……なんだ、テメー…その顔……ミイラじゃねーか!!」

魔将「何を驚いておる?我が死んだのは、とうの昔。聖騎士、貴様が生まれるよりも遥か昔の事」

魔将「しかし我は甦った、亡者として!魔王様の素晴らしきお力により、我は甦ったのだ、地獄の底から!!フハハハハ素晴らしい!魔王様のお力のなんと素晴らしい事か!!」

魔将「溢れる力は抑えられぬ!我は欲する、肉を!血を!!魂を!!聖騎士、我と戦え!その血を再び魔槍に注げぇぇぃぃ!!」

僧侶「まおう?魔王…、の、仲間なんですか?貴方は……」





261: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:07:37 ID:5Wy0/P9w

盗賊「何を一人で盛り上がってんだか、勘違い野郎が。…おい、クソアマ。魔法石はあといくつある?」

僧侶「え、えっと、貰ったのは全部で5つなので…残りはあと3つです」

盗賊「んじゃ、もう一発投げろ。あの勘違い野郎が槍を振った時を狙え。テメー自身が槍に当たらないよう、距離は取れよ」

盗賊「魔法石、ひとつ貰うぜ」ヒョイ

僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん…!」


魔将「我にその血を捧げよ、聖騎士ィィィィ!!」ドウッ!!

盗賊「御免被る、ってんだよ!!」ドゴォォン!!

魔将「小賢しい!小賢しい、小賢しい!!魔法石とやらを床に投げて、煙幕を焚いたつもりか?二度は通じぬわ!」

魔将「そこだ!!」

盗賊「ぐえッ!!」ガシッ

魔将「フフハハハ…煙に紛れ跳躍し、我の顔をその短剣で刺そうとの試みか。悪くはない、しかし力が足りなかったな」

盗賊「ぐ……!首が…折れる……!!」メキメキメキ





262: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:08:35 ID:5Wy0/P9w

僧侶「盗賊さんっ!!」

盗賊「…まだ、だ…まだ待て、クソアマ」

盗賊「……おい、勘違い野郎…俺の武器が短剣だけだと、思っていたら大間違いだぜ?」

魔将「ぬうっ?」

盗賊「…ッのやろ!!」ガツッ

魔将「!! 鎧の継ぎ目に…剣を突き立ておって!」

盗賊「硬い奴は関節が弱点、てな…深く刺さらずとも、首を絞める力さえ緩みゃ、手から抜け出せんだよ!」

魔将「聖騎士ィィッ!!」

僧侶「槍を突き出した…!い、今だ!えいっ!!」ブンッ

魔将「言った筈だ、二度は効かぬ!!」バシィ

ドゴォォォンン!!

僧侶「ああッ!は、弾かれて、見当違いのところで爆発しちゃった…!!」

盗賊「だが!小さくても、隙は隙なんだよ!!うおりゃああぁっ!!!」ザグッッ!!

魔将「グワアアァァァ~ッッ!!?我の!目があぁぁっ!!」





263: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:09:26 ID:5Wy0/P9w

魔将「グオォォ……こ、これは…何だ…!力が抜ける……!!刺さる短剣が、我の魔力を吸い取る…!?」

魔将「小癪なぁっ!!」ズボッ ガシャン

盗賊「あのクソメガネ、やるじゃねーか。ちゃんと機能したぜ、あの短剣」

僧侶「魔王の力……魔力を吸い取ったから、ダメージがあったんですね…!」

魔将「ヌヌウウゥ……」

魔将「魔王様より頂いた力を…このようなナマクラに奪われるとは……不覚!」

魔将「まず狙うは聖騎士にあらず……ちょこまかと目障りな貴様からであったか、魔導師…」

魔将「まず貴様を仕留め、力の半減した聖騎士を次に殺すべきであったわ!!」グオォッ!!

僧侶「えっ?き…きゃあああ!!?」

盗賊「クソアマぁっ!!」

―― ピカッッ!





264: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:10:57 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぬ!?この光は!?」ジュウウゥッ

魔将「ギャアアアア!!ひ、光が!光が、我の体を焼くぅぅっ!!?」

盗賊「…台座の、赤い宝玉が……」

僧侶「光って……、……!?」キィィーン!

僧侶「な、なに?なに?あ、あ、頭が…頭の奥が、響く…」

宝玉『…あたしができるのは、ここまでだ。早く、あいつが捨てた短剣を拾って、もう一度、あいつを刺しな!』

僧侶「だ…誰?誰なの?誰か、いるの?」

盗賊「なんだかよくわからねェが、青も赤も便利だってこたァわかった…これはチャンスだ!もう一度顔面に喰らわせてやる!」ダッ

魔将「させるかあああ!!!」

僧侶「さ、最後の魔法石ですよ!」ブンッ

ドカァァン!!

魔将「ぐ…足下に!!」グラッ

盗賊「この短剣、イイ味してんだろ?正直言うと、俺も驚いてんだがな…」

盗賊「だから、おかわりをくれてやるよ!!しっかり噛み締めろや!!」ズドゥッ!!





265: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:11:58 ID:5Wy0/P9w

魔将「グボアァッ…!!」ドザァッ…

盗賊「…へっ。口ん中に突き立ててやったぜ。お粗末さん、と」

僧侶「は……はああぁ…か、勝った…?ん、ですよね……こ、怖かった」ヘナヘナ

盗賊「貰った道具がなかったら、わけのわからないまま殺されていたな。…やれやれ…こいつが塔に現れた魔物なのかね」

僧侶「…魔王に力を貰った、って言っていましたね……魔王は、ずっと昔に死んだ人も、甦らせて、配下にできるんですね…」

僧侶「そ、そういえば、さっきの声はなんだったんだろ?他にも誰かいるのかな…確か、こっちの方から…宝玉の方から…」

盗賊「…おい、勘違い野郎の傍を不用意に歩くなよ、危ねーぞ……」

魔将「 」クワァ

魔将「―― こ゛の゛程度で、我が死゛ぬ゛か゛ぁぁぁぁ!!!」

僧侶「!!? き、きゃあああああ!?」





266: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:12:47 ID:5Wy0/P9w




―― ドズッッ…


 


267: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:14:10 ID:5Wy0/P9w

ボタッ!! ボタボタッ…


魔将「……ハハハハハ…血だ…血が……我を満たす…潤す……癒える…!」

魔将「温かい……温かいぞ、貴様の臓物の温かさ、柔らかさ、脈動!全てを感じるぞ、フハハハハ!!ハハハハハハ!!!」

魔将「昔も、今も!貴様は本当に変わらぬな…ちっとも変わってはおらんなぁぁ、―― その女を庇って、我に殺されるところ!!全く変わっておらぬぞ!!」

魔将「なあ、聖騎士!!我の腕に腹を貫かれ、溢れ出る貴様の血は、まるで滝の如しよ!ハーッハッハッハッハー!!」


盗賊「……ゴボッ!!げぼ、……っ………」ビチャビチャ


僧侶「いっ、」


僧侶「いやああああああああああ!!!!」





268: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:03:58 ID:5Wy0/P9w

盗賊「ッ」ドサッ

僧侶「いやああああ!!ああああああああーっっ!!!」

僧侶「盗賊さん!!盗賊さん、盗賊さん盗賊さん!!いやあああっ!!」ガクガク

魔将「フハハハハハ!!昔も!今も!!これからも!!貴様を殺すのは我だ!!貴様は我の食糧だ、フハーッハハハーッ!!」


僧侶「――」プツッ


僧侶「………せ」

魔将「フハハ……、…む…?」

僧侶「………かえせ」グッ



僧侶「返せッ!!!」

僧侶「その肉は盗賊さんのだ!その血は盗賊さんのだ!!返せ!返せよ!!!」

僧侶「お前なんかに!一欠片も、一滴も、くれてやるものか!!返せ!盗賊さんの肉を!血を返せえええぇッッ!!!」ブォンッ!!





269: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:04:47 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぬ!?ぬうっ!!ぐ…!!?」ゴッ! ドゴ! ガツッ!!

魔将「な…なんだ、これは…!?こんな…小娘の力とは思えぬ……!どんどん、打つ強さが増してゆく!?」ガンッ! バコッ!

僧侶「うわあああああああ!!!」

僧侶「お前が!お前が!!お前が奪ったから!!お前があああぁぁ!!」

僧侶「肉を返せ!血を返せ!!盗賊さんを返せぇぇぇぇ!!!」

魔将「こ!こいつ!!」バシッ

僧侶「ぎゃっ!!」ガツッ

僧侶「げほっ!……ゆ…ゆるさない…許さない、許さない、許さない!!お前だけは許さない!!!」

僧侶「お前だけは、絶対に!!許さないぃッ!!!」ゴアッ!!

魔将「…!!そのメイスか…!まるで黒い炎が吹き出しているかのような……我への怒りや憎しみを、力と変えているのか!!」

僧侶「うわあああああああ!!!」ドッ!!





270: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:05:37 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぐおっ…!!」ドフッ

僧侶「ああああああ!!!」ガン! ガン!! ガンッ!!

僧侶「お前が!お前が殺したんだ!!返せよ!!盗賊さんを返せえぇ!!」ガンッ!! -- バキャッ!

魔将「ぐふっ…!メイスの、柄が折れたか……うぐ!!」ゴツッ!!

魔将「す、素手で!この我が!小娘ごときの素手で!!顔を殴られる、など…!!」ゴツ! バキッ!!

僧侶「うわあああああああーッッッ!!!」

魔将「(口に刺さっている短剣が…喉奥にめり込む!!)」ズグッ! ズブ!

魔将「なんたる、屈辱…!!この、我が……貴様ごときにぃぃぃぃ!!!」


グジャッ!!


僧侶「――……っはあ!はあ!!はあ…!!」

僧侶「う…うっ、う……うわあああん!!」

僧侶「返して…返してよおっ……!!盗賊さんの肉も、血も、命も……!盗賊さんを、返してよぉぉ…!!」





271: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:06:51 ID:5Wy0/P9w

僧侶「うっうっ…うっ……、…」

僧侶「…だいじょうぶ…大丈夫、まだ、間に合う……」

僧侶「元に戻せば、大丈夫……」フラッ

僧侶「…盗賊さん…盗賊さん、盗賊さん」

盗賊「………、……」ゴポッ

僧侶「大丈夫…すぐ、戻してあげます、から…お肉も、血も、集めて、きましたから、ね?ねっ?」

僧侶「だから、大丈夫…大丈夫ですよ、元に戻せば、だいじょう、ぶ……?」ペタッ…

盗賊「………」ナデ ナデ

僧侶「…う、動いちゃ、だめ…!頭、な、撫でて、くれるの、嬉しいけど……今は、うごかないで…!」

盗賊「……、…、………」

僧侶「っあ……?」

盗賊「………」ニッ


―― "僧侶"。


僧侶「……ああああ……あああっ…!!う゛ああああああーっ!!!」





272: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:07:43 ID:5Wy0/P9w

―― ピカッ…

宝玉『…なんてこった……あたし達の時よりも、魔力が多かった…あの一撃で死ななかったなんて……』

宝玉『魔王は、更に力を増しているの…?運命は、覆せないの…!』

僧侶「……っ、だれ…?」

宝玉『…ここだよ。あたしはここにいる。宝玉の中に、封じられた……』

魔導師『あたしは魔導師。あんたの昔の姿。遠く遠く…遥か昔の姿……』

僧侶「…!?宝玉から……人の姿が…武道家さんみたいな、……でも、赤い…亡霊…?」

魔導師『ごめん…あんなに強くなっていたなんて、知らなかったの。守ってやれなかった…あたしは……また聖騎士を守れなかったんだね』

魔導師『守りたくて……転生をも選んだのに…こんな、事って…!』

僧侶「な…なに……?何を、言っているの…?」





273: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:08:30 ID:5Wy0/P9w

魔導師『…あたしは、あんたの昔の姿よ。あたし達は…あたしと聖騎士、シスター、そして勇者は、神託を受けて、魔王討伐に向かったんだ』

魔導師『昔、遥か昔の事だよ。…魔王とその配下、四天王と対峙し、対決し……そして、あたし達は負けた』

魔導師『あたし達のダメージも大きくて。最初に、みんなを癒せるシスターが殺された。次に、あたし達の盾になって、聖騎士が殺された』

魔導師『残ったあたしと勇者は、からくも魔王を追い詰めたけど……あたし達も…もう辛くて、…辛くて……』

魔導師『魔王は取り引きを持ちかけてきた。あたしはそれを飲んだ、次こそ聖騎士を守りたいって、癒したいって思ったから、取り引きに応じたよ』

魔導師『そして、勇者も……勇者は……取り引きを、突っぱねた。魔王を倒さず、明日に希望を託さず』

魔導師『勇者は、世界の破滅を望んだ』

魔導師『あたし達は…魔王に、負けたんだ』





274: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:09:17 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………そんな」

魔導師『何故、勇者がそんな事を願ったかわからない。でも、取り引きの時に、勇者はこう言ったよ』

魔導師『こんな世界、いらない』

魔導師『そう勇者が破滅を願った事で、絶望の力で、魔王を少しだけ回復させてしまった』

魔導師『あたし達の力は奪われ、宝玉に閉じ込められた。そして抜け殻だけが転生してしまったんだ。それが今のあんた達だよ』

僧侶「………」

魔導師『まあ…回復したといっても、微量ではあったから、魔王もそのまま眠りについたようだが』

魔導師『最近になって力を回復し、甦った。あんなにも…配下に強大な力を与えられる余裕まで持って』

魔導師『神はかつて魔王を追い詰めた、あたし達の抜け殻を探し、神託を与え、あたし達の力を得るべく導いたようだが…』

魔導師『……結局…ダメだった、ね……』





275: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:11:03 ID:5Wy0/P9w

魔導師『あんた達、青の宝玉を持っているだろ?』

僧侶「……はい…と、盗賊さんが、……持って、ます」

魔導師『青の宝玉には、聖騎士が閉じ込められてんだ。…こんな時に、すまないけど…彼に会わせちゃくれない、かな』

僧侶「………」ゴソゴソ スッ

魔導師『ありがとう』

魔導師『…やっと会えた……ごめんね、あんたにばかり、傷を負わせて…痛かったろ』

魔導師『聖騎士……あの魔将に殺られたから、より魔の力に飲まれてんだね。自分が自分だとわかっていない…消えかかっている』

魔導師『ごめんね……あんたを守れなくて、癒せなくて、ごめんね。あたし……シスターが羨ましかったよ…あたしは、あんたの剣になるより……あんたの盾に、薬に…なりたかったよ…』

僧侶「………」





276: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:11:45 ID:5Wy0/P9w

魔導師『……言ったように、今のあんた達は抜け殻だ。けれど、あたし達を受け入れれば、力を得る事ができる。あんたなら、すべての回復呪文を使えるようになるだろう』

僧侶「!! じゃ、じゃあ……盗賊さんを、生き返らせる…蘇生呪文も……!?」

魔導師『ああ。……さあ、どうする?あんたは、あたしを受け入れてくれる?』

僧侶「それは!それは勿論、………、……いえ、やっぱり…いいです。このままで……」

魔導師『なっ…?』

僧侶「………」

チュッ…

魔導師『! おや、まあ…』

僧侶「…へへ……盗賊さんと、キス、しちゃった…」

僧侶「………でも、よく…キスは、果実の味とか、いうけれど……あれ、嘘、だったんですねえ」

僧侶「だって、血の味でしたもん」

魔導師『………』

魔導師『………そう、だね。…あたしの時も、血の味だったよ』





277: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:12:25 ID:5Wy0/P9w

~封印の塔・外~

賢者「………」ソワソワ

研究者「少し落ち着け。さっきから塔の入口前でウロウロとして。茶でも飲め」

賢者「イモリの黒焼き茶だろ?いらないよ…このゲテモノ好きめ」

賢者「…2人とも大丈夫かねぇ……やっぱり、こっそりと付いていけば良かったかな…」ウロウロ

研究者「保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う」

研究者「保護者なら、成長を見守る事を第一にすべきだ。可愛い子は谷に突き落とせ、と言うし」

賢者「混ぜちゃいけないものを混ぜるから、爆発するんだよ。お前はさあ…」

研究者「………?」

研究者「……なんだ?あれは……塔の最上階に、光が…」

研究者「………天使……?」





281: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:18:18 ID:5Wy0/P9w

~封印の塔・最上階~

僧侶「盗賊さんは、私を信じてくれている」

僧侶「だから私も自分を信じます」

僧侶「いつか、使えるようになる。回復呪文が使えるようになる」

僧侶「溜まっているツケを返さなきゃ」

僧侶「それが……今なんだ!!」カッ

魔導師『―― この、力は…!』

僧侶「私なら、できる!私が盗賊さんを助ける!」

僧侶「私が盗賊さんを守る!祈りを捧げて……神様のような、奇跡を…神様の代行として、奇跡を」

僧侶「……私が、起こすんだ!!」

僧侶「神様…お願いします。志半ばに倒れた、この者に……再び立ち上がる力を、勇気を、お与えください!!」

パアアァァッ!!

魔導師『……!!抜け殻の、あんたが…蘇生呪文を……!?』

魔導師『………もしかして、あんた達なら…きっと……』





282: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:19:03 ID:5Wy0/P9w

 『私は、みんなを守る力を得た』

 『だが、自らその力を捨てる事を選んだ』

 『みんなを守りたい。けれど、それ以上に、たった一人を守りたいと思ってしまった時から。欲を生んだ時から、私としての私は、弱くなったのだろう』

 『私は、自由が欲しかった』

 『掟や使命感に縛られず、たった一人を守れるだけの、自由が欲しかった。博愛ではなく、たった一人を愛せる自由を。彼女の傍へ飛べる翼が欲しかった』

 『だから…魔王に屈してしまった』

 『しかし君は私よりも強い。自由である事を選択し、それを得た君なら、きっとやれる』

 『魔将の呪いは私が引き受けよう。さあ…行きたまえ。幸運を手に、自由になったその身体で、……彼女を守り、勇者達を救い、魔王を倒してくれ!』





283: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:19:53 ID:5Wy0/P9w

・・・・・


・・・


・・





284: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:20:48 ID:5Wy0/P9w

~数週間後~

賢者「待たせたな、やっとお前の墓を立てられたよ。居心地はどうだ?」

賢者「…こんな事になるなんて、思わなかった。ってのが、本音だけどな……」

賢者「………」

ドゴォォン!!

研究者「げほっ!!ごほ!!おかしいな……分量は合っていたはずなんだが…材料が足らないのか…?」ガラガラ

賢者「相変わらずだな、お前は。こっちは感傷に浸ってんの~、静かにしてくんない?」

研究者「お前が体験したという、妖精の移動呪文の話をもう一度聞かせろ。いや…それよりも、実際に見て確かめた方が早いか?」

賢者「おい、まず俺の話を聞けよ?」

研究者「………墓か」

研究者「言ったろ、保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う、って」

研究者「なあ?……武道家ちゃん…」


墓碑【武道家、ここに眠る】

 


285: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:21:37 ID:5Wy0/P9w

賢者「……お前の言う通りだな。格好つけてばかりで、意地を張っていたから、自意識過剰だったから……」

賢者「でも、だーいじょぶだー。彼女は俺の事を見守ってくれているしな。この指輪がそれを教えてくれるのさ」

研究者「…俺は魔法武具にも興味があって、」

賢者「この指輪を対象にしたら、すっごい怒るからね」


研究者「それで?旅立つのは今日だったか」

賢者「ああ。長年の夢と目標だった悟りの書を探しにいく。今度こそ見つけて、武道家に自慢してやるんだ」

僧侶「賢者さーん…!旅の支度、整いましたあー!!」

賢者「おーう、ありがとうねーお嬢ちゃん。じゃ、行ってくるよ。俺のいない間、墓の手入れはよろしく頼んだぜ」

研究者「わかってる。……友人直々の頼みを無下にする程、冷たくもないんだぜ、俺は」





286: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:22:29 ID:5Wy0/P9w

賢者「それじゃあ行きますかー。と言っても、俺は途中の港でお別れだけどな。今も聖騎士の王国にいる、勇者とやらに会ってみたくもあるが……船の時間もあるし」

僧侶「途中まででも、ご一緒できるのは嬉しいですよう!さあ、行きましょ!」

賢者「あ、お嬢ちゃん、いきなり走り出すと、転……」

僧侶「きゃあ!!」ステーン!

賢者「…転ぶよー、と言いたかったが、ハハ、間に合わなかったなー」


 「ぐがっ!?」ゴン!!

―― 盗賊に かいしんのいちげき !

賢者「おお盗賊よ、死んでしまうとは情けな~い、マジ格好悪~い、信じられなぁ~い」

盗賊「死んでねえッ!!つーか何しやがる、このクソアマァッ!!メイスを吹っ飛ばしやがって!!」





287: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:23:13 ID:5Wy0/P9w

僧侶「す、す、すみませんすみません~!!わわ私、ドジで!でも新しいメイスも重たくて……!」

盗賊「ごちゃごちゃ抜かすな!!うぜーんだよ!……いいから早く治せ、コブになっちまう!」

僧侶「は、は、はいぃっ!!回復魔法!……あ、あれ?」

盗賊「…おい、何も起きないんだが」

僧侶「すみません、すみません!私、落ちこぼれだから……まだ安定してないみたいで…!あっ、で、でも、盗賊さんが私の頭を撫で撫でしてくれたら、なんかできる気がするな~…なんて」

盗賊「よーし、撫でてやろう」ゴン! ゴンゴンゴン!!

僧侶「撫でると殴るは全然違う気が!!!つ…ついに、4連発……」ヨロヨロ

賢者「はいはい、夫婦漫才はそこまでにして、そろそろ行くよ~」

盗賊「誰が夫婦だ!!こんな使えねーバカクソアマ!!」

僧侶「盗賊さんの方がバカですよう!オタンコナスぅ!!」





288: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:24:03 ID:5Wy0/P9w

・・・


 「………!!君達は…まさか……、………そうか。やっと、やっと会えたのか…」


 「もう、遅刻だよ、遅刻ー!……えへへ、僕達も気づいていなかったから、おあいこだけど…」


・・・





289: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:24:45 ID:5Wy0/P9w

僧侶「勇者様達と…」



盗賊「合流できた!」



【おしまい】





290: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:25:32 ID:5Wy0/P9w

ベタベタなものを短めに、サクサクやりたいと思いながら、少し長くなってしまいました。

もう少し考えて、広げた風呂敷をたためたら、勇者&魔法使いルートと魔王討伐の話も書こうと思います。


読んでくださった方、本当にありがとうございました。