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モモ「リトさんっていつ抜いてるんですか?」

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リト「えっ……」

モモ「だから、リトさんも男の人ですし当然あれが……」

リト「……」

モモ「もしかしてこの歳でEDなのでは……」

リト「なっ!? そ、そんなわけないだろ」

モモ「(でもそれなら幾度迫ってもリトさんが靡かないのも納得が……)」

リト「と、とにかくモモには関係ないだろ」

モモ「いえ、関係あります! なによりリトさんはこのまま順当にいくとテビルークの王位を継承なさるわけですから、
    そのリトさんのリトさんが勃たないとなると……」

リト「だあああああ、女の子が勃つとか勃たないとか言うのはなしだって!」

モモ「では、リトさんはいつ抜いているのですか?」

リト「うぅ……」

モモ「これはデビルークにとっても大事な問題なんです。ささ、リトさん早く吐いちゃってください」

リト「お、俺は……」

ガチャ

ナナ「リトー、美柑が呼んでるぞー……ってあれ、モモもいたのか」

リト「!」

モモ「(くっ、ナナ! なんて間の悪い)」

リト「はは、えっと、何?」

ナナ「だから美柑が呼んでるんだけど」

リト「あ、そうだな! えっとなんだろうなー!!」ダッ

モモ「あっ……」

ナナ「なんだったんだ?」

モモ「……」

ナナ「?」



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/01/31(木) 23:15:16.42 ID:7K9XA4P70

モモ「(ていよく逃げられてしまったわ……)」

モモ「それにしても真っ赤になったリトさんの顔はどうしてあんなに可愛いのかしら……」ボソッ

美柑「……モモさん」ジトッ

モモ「あらっ、美柑さん、いつのまに」

美柑「モモさん、またリトになにかした?」

モモ「へ?」

美柑「リトが顔真っ赤にして降りてきたんだけど……」

モモ「あ、あはは……」

美柑「もう、あんまりリトのことからかわないでよねー」

モモ「もう、いやですよぅ。私はいつも真剣ですから~」

美柑「(くぅ、やっぱり油断できない)」

モモ「あ、そうだ。美柑さんなら知ってるかしら」

美柑「え? 何が」

モモ「リトさんがいつ抜いているか、です」



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/01/31(木) 23:26:48.44 ID:7K9XA4P70

美柑「ぬ、抜いてるって、な、何が!?」

モモ「あれですよ。あ・れ」」

美柑「モモさん!!」

モモ「うふふ、美柑さん顔が真っ赤ですよ」

美柑「モモさんが変なこと言うからでしょ!」

モモ「でも、真剣な話なんですよ?」

美柑「どこがなのよ~!」

モモ「ほら、美柑さんも知ってのとおり、リトさんはお姉さまの婚約者じゃないですか。
    そのリトさんが殿方としての機能が不全では……ね?」

美柑「ねっ?じゃない!!」

モモ「で、どうなんですか、美柑さん」

美柑「人の話を聞いて~!」



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/01/31(木) 23:33:20.62 ID:7K9XA4P70

モモ「いつもリトさんの部屋のゴミを片付けている美柑さんならわかるはずです」

美柑「そんなこと……」

モモ「お姉さまのためと思って、どうか」

美柑「……」

モモ「美柑さん」

美柑「うぅ……っていってもそれっぽいゴミなんかみたことないし……」

モモ「まさか本当に……」

美柑「ちょっとモモさん、なにか変なこと考えてない」

モモ「……リトさん、勃たないんじゃ……」

美柑「そ、そんなわけないじゃない。リトだって……」

モモ「では美柑さんは見たことあるんですか?」

美柑「……ないけど」

美柑「って、普通はないわよ!! なんで兄のそんなところを見たことあると思ったのよ~!」

モモ「あらあら」ニヤニヤ

美柑「(この女!!)」

美柑「と、とにかく、そういうのは見たことないけど、リトなら大丈夫だから」

モモ「ふふふ、まぁ、男性としての機能が正常だとして……」

美柑「まだあるの!?」

モモ「ではいったいどこで抜いてるのでしょうか」

美柑「うぅ~、そんなの知らないわよ!」



43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/01/31(木) 23:49:35.63 ID:7K9XA4P70

モモ「もし、ずっと抜いてないのだとしたら……」ニヤニヤ

美柑「何よその目……」

モモ「リトさんのたまりたまった欲望は……」

美柑「……」

モモ「もしかしたら今晩あたり美柑さんに向かったりして」ニヤニヤ

美柑「なっ!?」

モモ「普段我慢しているリトさんが欲望を解き放ったときには、それはもう獣のように……」

美柑「な、なんでその対象が私なのよ!!」

モモ「ふふ、可能性ですよぅ。か・の・う・せ・い」

美柑「ないから!絶対ないから」

モモ「美柑さんの部屋って一番リトさんの部屋から近いですし」

美柑「ないったらないの!!」



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 00:05:03.96 id:pPBlShHT0

美柑「まったくモモさんは……」

美柑「にしても、リトが夜中になんて……」

………

……

美柑「リ、リト。わ、私達兄弟なんだよ?」

リト「ごめん、美柑もう限界なんだ」

美柑「だ、だめ。そんなとこ……そこ弱いの……」

……

………

美柑「……」フルフル

美柑「ない!絶対にないから!」カァ

リト「なにがないんだ?」

美柑「リ、リト!?」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 00:10:08.53 id:pPBlShHT0

リト「ん?」

美柑「なんでもないから!」

リト「そうか?」

美柑「そ、それよりリトのほうこそなにか用なの?」

リト「いや、今モモが美柑の様子がおかしいからって言いにきて」

美柑「(あの女!!)」

リト「顔赤いけど大丈夫か?」

美柑「平気だから」

リト「ま、美柑は普段から頑張りすぎだからたまには俺も頼れよな」

美柑「……」

リト「あれ、どうしたんだ? やっぱり体調でも」

美柑「リトってみんなにそういうこと言ってるの?」

リト「は?」

美柑「なんでもない! ほら、いったいった」

モモ「ふぅ~、リトさんを美柑さんのもとへと誘導したし、一仕事した気分……あれ?」

モモ「あー! ハーレム計画に身を入れすぎて本題を忘れるところでした」

ナナ「なぁ、モモー」

モモ「ナナ、部屋に入るときはノックっていつもいってるでしょ」

ナナ「あー、そうだった」

モモ「で、何?」

ナナ「いや、さっきリトを呼びに言ったとき様子がおかしかったから、なにかあったのかと思って」

モモ「(あら? もしかしてナナもリトさんのことが気になって……)」

ナナ「べ、別に心配してるってわけでもないけど、ほら、なんか話してるところ邪魔しちゃったみたいだからさ」



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 00:39:48.16 id:pPBlShHT0

モモ「(それを心配してるっていうんだけどね)」

モモ「ふふっ、別にナナが心配するような……」

モモ「!」ピコーン

モモ「(結局美柑さんに聞いても分からなかったし、多くの人に話を聞いたほうがいいのかしら?)」

モモ「……そうよ、ナナ。あの時はリトさんと真剣な話をしていたんだから」

ナナ「な、真剣な話って……」

モモ「気になる?」

ナナ「べ、別に……」

モモ「本当に?」

ナナ「あぁ、分かったよ。気になるから話せよ!」

モモ「あのね、ナナ……」

ナナ「あぁ……」ゴクリ

モモ「リトさんが抜いてるところって見たことある?」



63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 00:44:19.95 id:pPBlShHT0

ナナ「……」

モモ「ナナ?」

ナナ「なぁ、モモ。抜くって?」

モモ「え?」

ナナ「なにが抜くんだ?」

モモ「……」

ナナ「?」

モモ「(お子様のナナには早かったかしら)」



66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 00:51:49.58 id:pPBlShHT0

翌朝

モモ「結局ナナは戦力外だったし……」

モモ「(まさか学校で抜いてるなんてことは……)」

モモ「(皆さんに聞いてみようかしら……)」

モモ「あっ、美柑さんおはようございます」

美柑「……」ジトッ

モモ「あれ? 美柑さん寝不足ですか? 目の下にうっすらと……」

美柑「誰のせいよー!」

モモ「?」

美柑「ってあれ、今日はリトのところに潜り込んでなかったんだ」

モモ「はっ!!」

モモ「(ずっと考え込んでて朝這いをかけるの忘れてた……)」



70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 01:06:54.19 id:pPBlShHT0

ララ「おはよー。あれ、モモなんか元気ないねー?」

モモ「おはようございます、お姉さま」

ララ「なにかあったの?」

モモ「(……お姉さまに言っても、きっとナナ以上に……)」

モモ「いえ、ちょっと寝不足で」

ララ「えぇー! 大丈夫なの?」

モモ「少し夜更かししてしまっただけなので」

ララ「そっかー。でも気をつけないと駄目だよ?」

モモ「はい、お姉さま」

学校

モモ「古手川さん」

唯「あら? モモちゃん?」

モモ「今日も朝早くからご苦労さまです」

唯「モモちゃんこそどうしたの? 今日は結城君とは一緒じゃないの?」

モモ「えっと今日は古手川さんに聞きたいことがありまして……」

唯「?」

モモ「えっと、真面目な話なんですが……」

唯「なにかしら?」

モモ「誰もいないですけど、あまり声を大にしていうお話しでもありませんので少しお耳をお借りしても?」

唯「……? これくらい近づけばいいかしら?」

モモ「えっと、その……」ゴニョゴニョ

唯「なっ!!」



97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 03:31:48.56 id:pPBlShHT0

唯「は、ハレンチだわ!! だいたいなんであなたがそんなことを!」

モモ「さっきも言ったとおり真面目な話なんです!」

唯「なにが真面目なの」

モモ「(……なんて言おう)」

モモ「えっと、その、なんというか」

唯「?」

モモ「(適当に誤魔化しちゃいましょう。ごめんなさいリトさん)」

モモ「その、リトさんが本当に健全な男性なのかを調べてたんです」

唯「はい?」

モモ「えっと古手川さんはいつもリトさんをハレンチだっておっしゃってますよね」

唯「え、えぇ……」



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 03:41:23.31 id:pPBlShHT0

モモ「ですが、本当にハレンチならそういうことがあったあとに、男性なら間違いなくゴニョゴニョな行為をするはずなんです」

モモ「でも家にはその形跡はありませんでした」

モモ「だから学校生活のことを風紀委員である古手川さんにも聞いてみようかと」

唯「……」ジトッ

モモ「古手川さん?」

唯「そ、そんなこと、私が知っているわけないじゃない!」

モモ「で、ですよね~」

唯「第一そんなことあなたが調べなくても……」

モモ「リトさんの健康が心配なんです」

唯「健康?」

モモ「はい、男性の場合、やはり我慢は体の毒らしいですから」

唯「……そうなの?」

モモ「はい」



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 03:58:53.41 id:pPBlShHT0

唯「うっ……と、とにかくあんなハレンチな人のことなんか知りません……」

唯「何かあると人のスカートの中に顔をつっこんでくるし、気づいたら誰かの胸を触ってたりするし……」ブツブツ

モモ「あはは……」

モモ「(リトさんですから、仕方ないですね)」

唯「で、でも、それだけじゃないっていうか……」ボソッ

モモ「(ん?)」

唯「と、とにかく、結城君はハレンチだけど、学校でそんな非常識なことする人じゃないわ」

モモ「そうですよね」

唯「それに仮に結城君がその、ゴニョゴニョ、な行為をしてたとしても私が知りようがないじゃない!」

モモ「(ひぃい……)」

モモ「あはは、そうですね。そろそろ失礼しますね」

唯「あ、モモちゃん」

モモ「えっ?」



101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 04:01:40.49 id:pPBlShHT0

唯「その……男の人って、その……そういうことをしないと……やっぱり体に悪いのかしら……」

モモ「はい?」

唯「な、なんでもないわ!!」

モモ「(……やっぱり古手川さんもリトさんのことが気になるんですね)」

モモ「それじゃあ教室に戻ります。ありがとうございました古手川さん」

―――

唯「(まったく、モモちゃんったらいきなりなにを聞くのかと思えば……)」

唯「(……我慢が体に毒って……)」

唯「(もし結城君がどうしても耐えられなくなったら……)」

唯「(………)」フルフル

唯「ハレンチだわ、私!!」

ガラガラ

リト「おっ、今日も古手川は早いなぁ」

ララ「おはよう、唯~」

唯「結城君にララさん……」

リト「えっと……俺の顔になんかついてる?」

唯「へ?」

リト「なんかずっと俺の顔見てるからさ」

唯「!!」

ララ「リトの顔に別に変なものはついてないよ~?」

リト「だよなぁ」

唯「か、勘違いしないで! 珍しく結城君の登校が早かったから驚いただけよ」



104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 04:07:50.11 id:pPBlShHT0

リト「なんだよ、それ」

ララ「あはは、リト、言われちゃったね」

リト「な、俺が遅れるときはだいたいお前のせいでもあるんだけどな!」

ララ「そうだっけ?」

リト「そうだよ……」

リト「ん……まだなにかあるのか?」

唯「い、いえ、別に、その……」

リト「?」

唯「……その、結城君は体調とか崩してないわよね?」

リト「……はい?」



143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 13:38:26.40 id:pPBlShHT0

―――

保健室

モモ「……と、そういうわけなんです」

御門「結城君も男の子だから、性欲はあると思うんだけどねー」

モモ「そうですよねー」

御門「まぁ、可愛い女の子が同じ家に何人もいるって時点で気をつかってるのかもね」

モモ「はぁ、そうなんでしょうか」

御門「ふふっ、そんなに気になるのかしら?」

モモ「はい、これほど私生活でその様子が見られないとなると、もしや私の知らない女性がいてその人が、とか」

御門「あはは、それはないわよ。結城君に限って」

モモ「そ、そうですよね。リトさんに限ってあるわけ……」

モモ「……なんだかありそうですね」

御門「……結城君って男性にしては可愛い顔してるしモテそうだからねぇ」



147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 13:56:10.31 id:pPBlShHT0

モモ「……」

御門「……さすがにそれはないと思うけどね」

モモ「そ、そうですよね。リトさんにはお姉さまや春菜さんがいますし!」

モモ「(えぇ、それに私もリトさんのためなら一肌でも……)」

御門「あぁ、でも結城君は可愛がってあげたい性格してるし、そういうのがタイプの女性なら放っておかないかもね~」

モモ「!」

モモ「……御門先生、私の反応でちょっと楽しんでます?」

御門「ふふっ」



148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 14:02:21.91 id:pPBlShHT0

御門「でも、結城君に対しての感想は本当よ?」

モモ「あぁ、そこはわかります」

モモ「顔を真っ赤にしてるところとかリトさんは可愛いんですよね~」

御門「女性に対して初心なところとかね」

モモ「そうそう、他にも……」

モモ「……ってあれ、なんのお話しでしたっけ?」

御門「結城君がいつ抜いてるのかどうか?」

モモ「そうでした。私としたことが、ついうっとりとしてしまって」

御門「落ち着いてはいるけど、モモさんも年頃の女の子ねぇ~」

モモ「うぅ」

モモ「っと、長居してしまいました。もう戻らないと」

御門「休み時間、もう終わっちゃうわよ?」

モモ「それでは失礼しますね」

御門「お大事に」

モモ「……お大事?」

御門「ふふっ、モモさんも色々悩んでそうだからね。……あ、そうそう」

モモ「はい?」

御門「結城君に我慢できなくなったら保健室に来てもいいって伝えておいてくれるかしら」

モモ「……御門先生、なんか結構楽しんでませんか?」



151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 14:24:35.06 id:pPBlShHT0

―――

ナナ「……というわけなんだよ」

メア「それって……」

ナナ「結局リトとモモが何の話してたのかよく分からないし」

ナナ「抜くってなんなんだよ」

メア「ナナちゃん、それって雄としての機能のことなんじゃ」

ナナ「はい?」

メア「だから人間の雄としてごく自然な行為♪」

ナナ「な、なにいってんだよ!? メア」

メア「リトせんぱいにもそういう欲求はあると思うんだけどなぁ~」

メア「(精神侵入で繋がった時、凄くえっちぃ気分だったし)」

メア「うふふ、なんだかとっても素敵なこと思いついちゃった♪」

ナナ「メア?」



156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 14:36:13.66 id:pPBlShHT0

―――

放課後

メア「リトせんぱい~♪」

リト「ん?……メア?」

メア「ナナちゃんに聞いたんですけど……せんぱい、なにか我慢していませんか」

リト「は? 我慢?」

メア「ふふ、せんぱい、おうちでえっちぃことしてないらしいじゃないですか」

リト「な、なにを言って」

メア「聞きましたよ~。モモちゃんとそんな話をしてたって」

リト「な……」

メア「わたしがペロペロしてあげましょうか?」



159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 14:50:40.69 id:pPBlShHT0

リト「う、うわああああああああああ」ダッ

メア「あ、逃げないでくださいよぅ~」ダッ

リト「どうせまた繋がる気なんだろー?」

メア「あはは、そんなことしませんって」

リト「だああああ、とにかくそういうのはなしだって」

メア「えぇー、生物として自然なことでしょ?」

リト「自然でもなんでも、とにかくなしなの!」

メア「ぶーぶー、私、せんぱいのそういうところ興味あるんだけどなぁ」

リト「そ、そういうところって……」

メア「リトせんぱいの出したくてたまらないって顔」

リト「なっ……!?」ダッ

メア「あ、だから逃げないでくださいよ~」 



163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 15:03:15.93 id:pPBlShHT0

図書室

リト「はぁ……」

リト「なんとか逃げ切ったか」

リト「にしても……なんでこんなことになってんだ……」

リト「モモやナナはいったいどんな話してるんだよ……」

リト「そりゃぁ……俺だって……」

ヤミ「なにが俺だってなんですか?」

リト「そりゃ俺だって男だから……ってヤミ!?」

ヤミ「騒がしい人ですね」

リト「あはは……」

ヤミ「わざわざ私に殺されにきたのですか?」

リト「いや、ちょっと逃げてて……」

ヤミ「……」ジトッ

リト「な、なんだよ。その目は」

ヤミ「いえ。どうせまたえっちぃことでもしでかしたんでしょう」

リト「な、違うって! 俺は無実だ」

ヤミ「……」ジトッ

リト「うぅ……」

ヤミ「まぁ、どうでもいいです」

ヤミ「それよりここは図書室です。もう少し静かにすべきです」

リト「あ、すまん。悪かったな、すぐ出て行くよ」

ヤミ「……」

リト「……まったくメアのやつ……」ブツブツ



169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 15:21:39.61 id:pPBlShHT0

ヤミ「……黒咲メアがなにか?」

リト「い、いや、ちょっと追いかけてきたのがメアだったからさ」

ヤミ「まさかメアが……」

リト「あぁ、違う違う。ヤミが考えてるような物騒な話じゃなく……」

ヤミ「はい、ではなぜ?」

リト「なぜって……それは、その」

ヤミ「……? 結城リト、汗が凄いですよ?」

リト「と、とにかく、もう撒いたから大丈夫だって」

ヤミ「はぁ……」

リト「でも、ありがとな。ヤミ」

ヤミ「なにがですか」

リト「心配してくれたんだろ?」

ヤミ「!!」

ヤミ「……あまり調子に乗らないでください。あなたは私の」

リト「ターゲットなんだろ? それでも一応、感謝くらいは、な」



172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 15:32:55.34 id:pPBlShHT0

ヤミ「あなたは相変わらず変な人ですね……」

リト「あはは……」

ヤミ「……タイヤキでいいです」ボソッ

リト「はい?」

ヤミ「感謝だというのなら、今度タイヤキでも奢ってください」

リト「あ、あぁ……」

リト「(ま、普段からヤミには美柑がお世話になってるしそれぐらいは……)」

ヤミ「忘れたら殺しますよ?」

リト「ああ、また今度な。それじゃあな」ダッ

ヤミ「……」

リト「? ……なにかあるのか?」



173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 15:42:15.27 id:pPBlShHT0

ヤミ「いえ、どうせあなたのことだから立ち去る時に足元がふらついて
   えっちぃことでもするんじゃないかと警戒してました」

リト「あのなぁ、俺だって好きでそんなことやってるわけじゃ」

ヤミ「ふふっ、冗談です」

リト「(笑った? なんか今日はヤミも機嫌がいいみたいだな)」

リト「っと、それじゃあ迷惑かけたな、っと……あれ」ツルッ

ヤミ「……」

リト「(あ、あれ……? 立ち去ろうとしたらなにか足が滑って……)」

フニョ

リト「(なんだこの柔らかいものは……)」

ヤミ「ゆ、結城リト。やっぱり冗談ではすまなかったみたいですね」

リト「え?」

リト「(こ、これはヤミの……小ぶりな……胸……!!)

ヤミ「やっぱりここで死んでくださいっ!!」



176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 15:58:33.49 id:pPBlShHT0

―――



リト「ほんと今日は散々な目にあった……」

リト「……朝から美柑の様子がおかしいし、古手川もどこか変だったし、
   メアに追い掛け回されたと思ったら、今度はヤミに追いかけられるし、モモは御門先生からよく分からない言付けを預かってくるし……」

リト「夕食の時にはナナから妙な目で見られてたし……」

リト「いったいなんだったんだ……」

リト「……そういえばメアはナナから、話を聞いたっていってたけど、なんでナナはそんな話を……」

リト「やっぱり昨日のモモの会話聞いてたのか?」

リト「……あああ、もう分かんねえ」

リト「寝よう……」

トントン

リト「(ん、誰だ……)」

ナナ「リト……」

リト「ナナ?」

ナナ「……」

リト「どうしたんだ?」

ナナ「その、だな……えっと」

リト「?」

ナナ「学校とか本とかで調べたんだけど……」

リト「はい?」

ナナ「その、男は……ゴニョゴニョしないと……駄目なんだろ?」

リト「は?」

ナナ「だから! 男はケダモノにならないと、その、大変なんだろ!!」

リト「(なんだ、その知識は……いったいどんな学び方をしたんだよ)」

ナナ「モモが言ってたことをちょっと調べてみたんだ……」

リト「(やっぱり原因はモモかーっ!)」



211:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 20:00:24.91 id:pPBlShHT0

ナナ「メアにも聞いたんだ。そしたら生物として当然のことだって……」

リト「い、いや、ほら、メアはちょっと考え方が違うから」

ナナ「我慢のしすぎはよくないって姉上も言ってたし」

リト「(絶対ララはなんの話しかわかってないだろ!!)」

ナナ「で、その、お前にはメアのことで、その……借りもあるし」

リト「いや……」

ナナ「我慢しすぎて姉上やモモを襲ってもいけないし……」

リト「だから、ないから! それはないって」

ナナ「でも、処理しなきゃ大変なんだろ!?」



213:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 20:07:59.65 id:pPBlShHT0

リト「大変だけど……って、そうじゃなくて!!」

ナナ「?」

リト「えっと、その、俺なら大丈夫だから……」

リト「それに、やっぱりそういうことを女の子が口にするのはよくないっていうか」

ナナ「……」

リト「と、とにかく大丈夫だから!」

ナナ「……」ジトッ

リト「な?」

ナナ「……でも、朝、お前のベッドにモモがいたりするし」

リト「だからあれはモモが勝手に……」

ナナ「他にも、春菜や姉上にも色々と……」

リト「ああいうのも事故っていうか……」



216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 20:15:53.03 id:pPBlShHT0

リト「ああ、もう! と、とにかく俺はああいうのもわざとやっているわけじゃないから」

ナナ「……」

リト「(わかってくれたか……?)」

ナナ「ふーん、まっ、じゃあ信じてやるよ」

リト「ほっ……」

ナナ「じゃあ、リトはどうやってそのゴニョゴニョしてるんだ?」

リト「(全然分かってなかった!?)」

リト「あ、あのなぁナナ」

ナナ「だって男ってそういうことしないと、アレがその……爆発するんだろ?」

リト「はい?」

リト「(本当にどんな本を読んだんだよ……)」

ナナ「だったらリトはどこでしてるんだ?」

ナナ「モモが家でしてる様子はないっていうし……」

リト「(モモっ――!!)」

ナナ「なぁ、どうしてるんだ?」

リト「それは……」

ナナ「?」

リト「い、いえるわけないだろー!!」

ナナ「いえるわけないってことはやっぱりしてるんだな……」

リト「ああああ、もうっ! なんで今日はこんなことになってるんだよ……」

リト「と、とにかくこの話はなし!」



220:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 20:31:29.32 id:pPBlShHT0

リト「それに男がそういうことしないと爆発するっていうのも嘘だから」

リト「少しくらい我慢してても平気なの!!」

ナナ「ふぅーん……そっか……」

ナナ「その、リトって、思ってたよりは……ケダモノじゃないんだな」ボソッ

リト「……ナナ」

ナナ「思ってたよりかは、だからな! 勘違いするなよ! お前がケダモノなのは変わらないんだから」

リト「元々どれほどケダモノだと思われてたんだよ……俺は……」

ナナ「そ、そんなの普段の行いを見てたら!!」

リト「はは……」ショボン



221:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 20:40:25.57 id:pPBlShHT0

―――

モモ「ふふっ、昨日は忘れてましたが、今日こそはリトさんのベッドに……」

モモ「……あれ?」

モモ「まだお部屋に明かりが……」

モモ「……あれは、ナナ……?」

モモ「……」

モモ「(まさかナナに先を越されるとは……)」

モモ「(ハーレム計画が順調だと喜ぶべきか、今日リトさんのお布団に潜り込めないを悲しむべきか……)」

モモ「……と、とにかく様子を……」

―――モモが家でしてる様子はないっていうし

モモ「(私の話?)」



224:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 20:53:36.59 id:pPBlShHT0

―――い、いえるわけないだろー

モモ「(ははーん、なるほど。ナナが昨日の話を……)」

モモ「(それにしても……あのナナが興味津々じゃないですかー)」

モモ「(やっぱりリトさん侮れないわ♪)」

モモ「(もう少し様子を……)」

―――と、とにかくこの話しはなし!

モモ「(ふふ、リトさんのあせってる顔かわいい)

―――少しくらい我慢してても平気なの!!

モモ「我慢……」

モモ「(我慢ってことは……)」

モモ「!!」

リト「とにかくこの話はやめよう、な?」

ナナ「ふーん、まぁいいか」

リト「とりあえずナナも早く部屋に戻って寝たほうがいい。もう結構遅いぞ?」

モモ「あら? ナナは夜這いに来たのでは?」

リト「!!」

ナナ「!?」

リト「モモ!?」

ナナ「な、よ、よ、夜這いって……」

モモ「あら? 違うの?」ニヤニヤ

ナナ「ちがっ! 私はただ……」

モモ「ただ?」

ナナ「……うぅ。もう私は自分の部屋に戻るからなっ!!」



233:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 21:11:28.42 id:pPBlShHT0

モモ「あーあ、いっちゃいましたねー」

リト「……」

モモ「残念ですか?」ニヤニヤ

リト「そ、そんなわけ……」

モモ「ところで、リトさん」

リト「ん?」

モモ「さっきのお話を少しお聞きしてしまったんですが」

リト「(うわっ……)」

モモ「やっぱり我慢なさってたんですね!!」

リト「!」ビクッ



238:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 21:30:23.78 id:pPBlShHT0

モモ「ふふ、リトさん。我慢などなさらなくても……」

リト「ちょ、モモ。ちかっ、近い!」

モモ「リトさんが望めば、女の子の園で好き放題ですよ」

リト「好き放題って……」カァ

モモ「クスっ、想像しましたか?」

リト「してない。してないってば」

モモ「そんなに必死に否定なさらなくても……」

モモ「男性なら当然のことですよ」

リト「モモ、だから近いって」

モモ「ふふ」

リト「え?」

リト「(お、押し倒された!?)」



241:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 21:41:33.51 id:pPBlShHT0

モモ「(あとはリトさんがその気になれば)」

モモ「どうですか、リトさん。我慢できないんじゃありませんか?」

リト「う……」

モモ「(も、もう一押し)」

リト「モモ、本当にやばいから」

モモ「(っと、あとは……ここから)」

リト「モモ」

モモ「!」ビクッ

リト「だからこういうのは、駄目だってば!!」グイ

モモ「リトさん」

リト「モモ?」

モモ「な、なんでもないです。す、少し用事を思い出しまして」

リト「?」

モモ「し、失礼しますね!」ダッ



242:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/02/01(金) 21:44:10.39 id:pPBlShHT0

―――

モモ「あぅ……また体育倉庫のときみたいになって……」

モモ「駄目駄目、私がこんな感じじゃリトさんのハーレム計画に支障が」

モモ「……うぅ」

モモ「……そういえば、結局リトさんはあれをどうしてるのかしら」

モモ「……」

―――

リト「モモの奴、この時間に用事って……」

リト「……いったいなんなんだ……」

リト「……寝てしまおう」

リト「うぅ、モモが変なこというから……頭に焼き付いて……」

リト「……」フルフル

リト「(でも言えないよなぁ……)」

リト「(登下校中にある公園のトイレで抜いてるなんて、情けなすぎていえるわけがない)」

美柑の部屋

美柑「うぅ……昨日はモモさんのせいで寝られなかったけど……」

美柑「今日は……」

美柑「あああ、考えちゃうとまた……」

美柑「(リト、来たりしないよね……)」

美柑「っ……な、なんで私がこんなにリトにドキドキしないといけないのよぉ!」

美柑「あぅ……」

美柑「……」

―――

翌朝

ナナ「あれ、美柑、寝不足か?」

美柑「うん……ちょっと、ね」

ナナ「?」


今度こそ終われ

リト「みんなの額に数字が見えるぞ?」モモ「そうですか」

f:id:ureshino3406:20170306191317j:image

リト(今朝はモモがベッドに潜り込んでなかったな……)

【750】美柑「おはよう、リト。朝ごはんできてるよ」

リト「ああ、おはよう。美か……ん?」

【750】美柑「なに? 私の顔に何かついてる?」

リト「ああ、いや……うん、ついてるな」

【750】美柑「うそ? どこどこ?」

【990】ララ「おっはよー!! リト!!」

リト「あ、ああ……おはよう……ララ……」

【990】ララ「どうかしたの?」

【400】ナナ「どうせ、スケベこと考えてんだろ。ケダモノは朝からケダモノだな」

リト(な、なんだ? みんなの額に数字が見えるぞ……。またララの発明品だよな、多分)

【1025】モモ「おはようございます。リトさん」

リト「モモ、おはよう」

リト(モモが一番多いんだな)

【990】ララ「いただきまーす」

リト「ララ、ちょっと」

【990】ララ「なにー?」

リト「また、何か作ったか?」

【990】ララ「朝ごはんは作ってないよ」

リト「いや、そうじゃなくて。俺、今さ――」

【1025】モモ「リトさん、どうしたんですか? 早く食べないと美柑さんのご飯が冷めてしまいますよ?」

リト「いや、それどころじゃないっていうか」

【990】ララ「何かあったの?」

リト「みんなの額に数字が見えてるんだ」

【990】ララ「数字? それってみるみるステータスかな?」

リト「やっぱりララの発明品か。また誤作動でも起こったのか!?」



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 12:26:57.95 id:DQyXpbXK0

【990】ララ「設定した情報を数値化して見れるようになる装置なんだけど……」

リト「設定した情報ってなんだ?」

【990】ララ「デバイスに見たい情報を入力するんだよ? 身長とか体重とか」

リト「それ、何の役に立つんだよ」

【990】ララ「好物を知りたいときとかだよー。例えば【ケーキ 好物度】って入力するとね、それが数字になって表れるの」

リト「多いほど好きってことか?」

【990】ララ「そうだよー。でも、一回で一つまでしか表示できないし、不便なんだよね」

リト(ってことは、この数字はなんらかの好物に対するものってことか……)

リト「実害はないみたいだけど、解除はできるのか?」

【990】ララ「うん。ちょっと待ってて、探してくるから」

リト「頼むぞ」

【750】美柑「リトー、食べないの?」

リト「わ、悪い。今行く」

モモ「……ふふ」

モモ(動揺してる。ちなみにリトさん。このみるみるステータスが数値化できるのは、経験や感情も含まれているんですよ?)



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 12:33:44.91 id:DQyXpbXK0

リト「ララー、見つかったか?」

【990】ララ「ごめん、リト。みるみるステータスくん見当たらない。どこいったんだろう?」

リト「俺に聞かれても……」

【21】ララ「おっかしいなぁ。ここに無いはずないんだけど……」

リト(なんだ、数字が大幅に減ったぞ?)

【21】ララ「今日中に見つけるから。ごめんね、リト」

リト「あ、ああ。別にいいよ。変身したり服を脱がされたりするんじゃないから」

【21】ララ「誰かが持ち出したのかなぁ……」

リト(数字は言わないほうがいいんだろうか)

【9999】ララ「うーん……。セリーヌちゃんかなぁ?」

リト「うわぁ!?」

【9999】ララ「リト?」

リト「あ、いや、なんでもない」

ララ「変なリトー。あはは」

リト(なんで数字がコロコロ変わるんだ……)

通学路

【990】ララ「それでね、ナナがね」

【400】ナナ「あ、姉上!! その話はしない約束!!」

リト(今朝の数字に戻ってる……。ララの発明品は行方不明だし、誰かが弄ってるのか?)

【1025】モモ「リトさん、数字が気になってるんですか?」

リト「え? そりゃあ、まぁな」

【1025】モモ「私のほうでも探してみますから、安心してください」

リト「ありがとう、モモ」

モモ(といっても、私の部屋にあるんですけどね)

【21】ララ「あ、春菜ー、おはよー」

【13】春菜「おはよう、ララさん。結城君」

リト「おはよう、西連寺」

【1033】モモ「おはようございます」

【7】ナナ「おー、春菜ー」

リト(モモだけ数字が増えてるな……。やっぱり表示している情報が違うのか)



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 12:50:39.61 id:DQyXpbXK0

学校 廊下

【5014】春菜「へえ、そうなんだ」

【990】ララ「春菜も帰りに一緒にいこっ。ヤミちゃんのオススメだからきっと美味しいよ」

【5014】春菜「うん」

リト(春菜ちゃん、多いなー)

【98】唯「おはよう、結城君」

リト「古手川、おはよう」

【98】唯「西連寺さん、手伝って欲しいことがあるんだけど。いい?」

【5014】春菜「うん、いいよ。ララさん、結城くん、またあとでね」

【990】ララ「うん! 教室でねー」

リト(春菜ちゃん、かわいいなぁ。でも、数字の多さは気になるけど……)

モモ(気になってるご様子ですね、リトさん。とりあえず午前中にみなさんの数値を目にしてもらいましょう)

モモ(そして、数字の意味をしれば、リトさんとてみなさんを意識せざるを得なくなるはず)

モモ「ふふふ……」

ナナ(モモのやつ、またなんか企んでるな)



65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 12:59:19.01 id:DQyXpbXK0

教室

【21】ララ「おはよー!」

【4】里紗「ララちぃ、おはよー」

【56】未央「おっはー」

リト(だめだ、すげー気になってきた。多いほうも少ないほうも一体何を表してるんだ……)

リト(でも、余り詮索しないほうがいい気もするしな……)

リト(俺に関係しているのか? 籾岡とかすげー少ないし……)

【101】唯「ありがとう、助かったわ」

【13】春菜「気にしないで。古手川さんにはお世話になってるし」

【101】唯「結城くんにハレンチなことされたらいつでも助けてあげるから」

【13】春菜「あはは……」

リト(さっきまでは春菜ちゃんが桁違いに多かったのに……。今は古手川が上なんだな)

【824】猿山「よー、リト。今日もハーレムだなぁ。いい加減にしろよな。お前の所為でモテないんじゃないかって気がしてきた」

リト「なにを言って……」

リト(猿山、多いな……)



73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 13:08:40.10 id:DQyXpbXK0

休み時間 廊下

リト(トイレ、トイレ……)

【8360】ルン「リトくぅーん!!!」テテテッ

リト「ルン。今日、休みなのか?」

リト(ルンすげー……)

【8360】ルン「少し暇が出来たから来たの。あと2時間ぐらいで現場行かなきゃダメなんだけど」

リト「大変だな。大丈夫か?」

【8360】ルン「リトくん……。ありがとう、心配してくれて。嬉しい」ギュッ

リト「お、おい!! ルン!! こんなところじゃマズいって!!」

【8361】ルン「誰も見てないよ、大丈夫」

リト「いや……」

リト(なんだ、数字が増えたな……)

【8361】ルン「もう少し、このまま……」

【98】唯「結城くん、ハレンチだわ!! 校内でハレンチなことは禁止っていつも言っているでしょ!!!」

リト「こ、古手川!? いや、これは!! 違うんだ!!」

中庭

リト「あー……。思わず、逃げてきてしまった……」

リト(ルンともう少し話したかったな。あまり会えないし)

【0】ヤミ「何をしているのですか、結城リト。こんなところで。遅刻しますよ」

リト「え? ああ、すぐに――」

【0】ヤミ「なんですか? あげませんよ、たい焼き」

リト「いや、なんでもない」

リト(ヤミは0か……。落ち込んだほうがいいのか、喜んだほうがいいのか分からないな……)

【8】ヤミ「それでは失礼します」

リト「あ、ああ」

リト(8に増えた……。あー! もー!! なんだんだ、これー!!!)

【743】ティアーユ「結城くん、遅刻しますよ。早く教室に戻って」

リト「あ、はーい」

リト(先生も割りと多いな……。でも、これが多いほうなのか少ないほうなのか分からないぞ)

【743】ティアーユ「どうしたの?」



83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 13:24:00.92 id:DQyXpbXK0

リト「あー……気になる……。すれ違うやつ全員の額に数字が……」

芽亜「リトせーんぱい。さっきヤミお姉ちゃんと何を話していたんですかぁ?」

リト「ん? ああ、芽亜か――」

【2334】芽亜「内緒話ですか?」

リト(芽亜もか……。俺に関することじゃないみたいだな)

【0】芽亜「教えてほしいなぁー」

リト「いや、大したことは話してないって」

【0】芽亜「本当ですか?」

リト「芽亜も教室に戻らないと遅刻するぞ」

【0】芽亜「怪しいですけど、いいです。戻りますね」

リト(芽亜も0か……。ヤミと姉妹だからっていうのもあるのか?)

【21】ララ「リトー、どこ行ってたの? もうすぐ授業始まっちゃうよ?」

リト「え? ああ、トイレに――あ」

【21】ララ「リト?」

リト「先生には少し遅刻するって言っておいてくれ」モジモジ



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 13:29:38.00 id:DQyXpbXK0

トイレ

リト(あぁ……。最悪だ。こんなことで遅刻なんて……)

リト「早く戻らないと……」

【106】リト「な!?」

リト(そういえば、鏡見てなかったな。俺の数字は106か……。でも、もう一種類あるんだよな)

リト「これはやっぱり自分のことなんだな……」

【0】リト「0になった」

リト(一体、なんだこれ)

リト(ララの発明品だから、想像もつかない数字のような気もするし、どうでもいいような数字のような気もするし……)

リト(すげー恥ずかしい数字の気もする)

リト(恥ずかしい数字なら春菜ちゃんのあの多さって……)

リト「いやいや!! 何を考えてるんだ!!! 俺は!!!」

リト「は、はやく、教室に戻らないとなー」

リト「あははは」

昼休み

【4】里紗「結城、ララちぃ借りるねー」

【21】ララ「リトも一緒にたべよー」

リト「ああ、そうする――」

【1036】モモ「リトさん、リトさん」

リト「モモ、どうしたんだ?」

リト(数字が若干増えてるな)

【1036】モモ「数字の件ですけど、わかったことがあります」

リト「装置は見つかったのか?」

【1036】モモ「それはまだですが、リトが見ている数字が何を表しているのかは分かりました」

リト「ホントか?」

【1036】モモ「その……きき、ますか……?」

リト「え……?」

【1036】モモ「ここでは、その……恥ずかしいので……屋上にいきませんか?」

リト(恥ずかしい……!? やっぱり、それって……!!)



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 13:44:13.75 id:DQyXpbXK0

屋上

リト「えーと……あの……。それで、なんの数字なんだ?」

【1025】モモ「実は、ですね……」モジモジ

リト(なんだ……。俺、もしかしてとんでもない数字を見てるんじゃないだろうな……!!)

【1025】モモ「リトさんに対する好感度を数値化したものなんです」

リト「……え?」

【1025】モモ「きゃ、恥ずかしい」

リト「……」

モモ(これでよし。私が事前にテストしたときは、楽園計画に含まれているみなさんの数値は軽く5000を超えていました。お姉さまと春菜さんに至ってはカンストしていたほど)

モモ(誰がどの程度の好意を持っているのか、数値としてみてしまえばリトさんだって……)


リト『そうか。みんな、そんなに俺のことを……。これはハーレムしかないな!!』


モモ(って、なるはず!)

リト「……やっぱり、俺……ヤミに嫌われてるんだな……。いや、分かってた……。俺、いつもヤミには……でも、こうして言われるとショックだな……」

モモ「え? リ、リトさん? 何をいって……」



112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 13:54:43.48 id:DQyXpbXK0

リト「まぁ、ヤミは仕方ないよな。それだけのことしてきたし。それにしても自分に対する好感度が【106】ってどうなんだ。ナルシストなのか?」

【1025】モモ「あの、リトさん。ヤミさんの数字は6000ぐらいなかったでしたか?」

リト「いや。0と8だったけど」

【1025】モモ「0と8!? ど、どうして二種類も!? 私は――」

リト「私? モモ、何か知ってたのか?」

【1025】モモ「あ、えっと……」

リト「モモ」

【1025】モモ「ごめんなさい。私がやりました。お姉さまのみるみるステータスくんをリトさんに使いました……」

リト「好感度を表示させるなんてやめてくれ。心を覗いてるみたいであまりいい気分はしないし」

【1025】モモ「……」

リト「でも、ありがとう、モモ」

【1025】モモ「え?」

リト「せめてヤミにはたい焼きを分けてもらえるようになるまで、がんばってみる。俺のことが嫌いじゃヤミだって家にきて美柑と遊ぶのを躊躇うかもしれないし」

【1025】モモ「リトさん! ヤミさんは決してリトさんのことを嫌ってなんかいません!!」

リト「でも、数字で出ちゃったし……」

【1025】モモ「待ってください!! あの、私の数字は今、どうなってますか!?」

リト「モモは1025だけど?」

【1025】モモ「1025!? 少ない!! あの、私はもっとリトさんのことを……!!」

リト「モモ……」

【1026】モモ「あ。いえ……」

リト(数字が増えた。何がきっかけなんだ)

【1026】モモ「と、とにかく私が1025なんてありえません!! 昨日、見たときは確かにカンス――もっと、ありました!!」

リト「そ、そうなのか。なら、好感度が下がったってことでいいのか? ごめん、モモ。心当たりが多すぎて、何を謝っていいかわからないけど……」

【1026】モモ「下がるなんて、とんでもない。今だって、リトさんの好感度は上がってますし」

リト「1しか上がらなかったぞ」

【1026】モモ「たった、1!?」ガクッ

リト「お、おい、モモ。大丈夫か?」

モモ(そんな……。私の愛はその程度だった……?)

モモ(ううん。そうじゃない。みるみるステータスくんがきっと不具合を起こしているんだわ。絶対に、そう)

リト「芽亜でも、芽亜は2000超えてたな……。0にもなったけど……。どっちなんだ?」



121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 14:10:44.43 id:DQyXpbXK0

モモ(今表示されている数字は、好感度なんかじゃない。きっと別のなにか……!! 私のリトさんへの好感度が1025なんてあり得ないもの……!!)

リト「モモ。どうする?」

【1036】モモ「今の数字はどうなってますか?」

リト「あ、もう一種類のほうになったみたいだ。1036ってなってる。朝は1033だってけど」

【1036】モモ「3……増えたんですか?」

リト「ああ」

【1036】モモ「……あ」

リト「モモ? どうした? 心当たりがあるのか?」

モモ「み、みないでください!!!」

リト「えぇ!? なんだよ!?」

モモ「お願いです!! 見ないでください!! リトさん!!」

リト「あ、ああ!! わかった!!」

モモ(3増えた……偶然……わけない……)

モモ「あぁぁ……!!」ガクッ

リト「モモ!! おい!! どうしたんだよ!?」



133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 14:18:29.17 id:DQyXpbXK0

モモ「……ぐすっ……」

リト「お、落ち着いたか?」

モモ「……すこしだけ……」

リト「数字の意味は聞かないほうがいいか?」

モモ「訊かれても、答えられません」

リト「な、なら、聞かない」

リト(すげー気になるけど、モモが落ち込むほどのことなんだろうし……。忘れよう)

モモ(もう尻尾を弄るのやめ……控えよう……)

リト「で、モモ。好感度じゃないんだな?」

モモ「それは間違いないです。私が見た数値とは違いますから」

リト「じゃあ、なんなんだ?」

モモ「それは表示設定を確認してみないことには」

リト「装置は家か?」

モモ「はい。あの、今から確認しに戻りましょうか?」

リト「……いや。わざわざ確認する必要もないだろ。もうオフにしよう。どんなものでも相手の情報が見えるって、その……」



157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 14:27:34.80 id:DQyXpbXK0

モモ「リトさん……」

リト「モモもそれでいいな?」

モモ「はい。ご迷惑をおかけしました。今からオフにしてきますね」

リト「おう、頼んだ」

モモ「では、行ってきます」

リト「気をつけてな」

モモ「はぁーい」

リト「……」

リト(春菜ちゃんの数字だけは本当に気になるけど……)

【9】お静「あれ、リトさん。こんなところでどうしたんですか?」

リト「お静ちゃん。いや、ちょっとね」

【9】お静「そうそう。リトさんのこと探してたんですよ。御門先生が呼んでます」

リト「御門先生が? セリーヌが何かしたとか?」

【9】お静「いえ、変なものを持っているので見て欲しいみたいです」

リト「変なもの?」

保健室

【7806】御門「いらっしゃい」

リト「すいません。何か迷惑を?」

【7806】御門「これなんだけど、見覚えはあるかしら?」

リト「えーと……」

【0】セリーヌ「まう!!」

リト「なんだ、これ? ララの発明品なのはわかるけど……」

【0】セリーヌ「まうーっ」ピッ

リト「おい、セリーヌ、勝手に押したらどうなるかわからないだろ」

【0】お静「ずっと弄ってますけど、別に変化はないです。壊れてるんじゃないですか?」

リト「いや、でも、どこで何がおこっているか……あ」

【0】御門「何か変化があったの?」

【9999】セリーヌ「まうまう!!」

リト(なんだ!? 数字に変化が……!? この数字の元凶は、これか!!)

【9999】セリーヌ「まう?」



175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 14:42:41.49 id:DQyXpbXK0

リト「セリーヌ、ちょっと貸してくれ」

【9999】セリーヌ「まうっ」

リト「ありがとう。えーと……」ピッ

リト(色々項目があるな。そうか。セリーヌがこの項目を弄ってたから、数字が変わってたのか)

リト(文字が読めなくてよかった……。でも、オフにする方法がわからないな。ララに訊いてみるか……)

リト(いや、だめだ!! もし見せてララがショックを受けたら……)

リト「先生。すいません。何も言わずにこの装置をオフにしてもらえますか?」

【0】御門「いいの?」

リト「はい」

【0】御門「分かったわ。貸してみて」

リト「どうぞ」

【0】御門「……あら」

【0】お静「どうしたんです?」

【0】御門「うーん……。どうやら、時限解除以外は受け付けないみたい」

リト「ララの発明品らしいなぁ……」



178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 14:48:10.90 id:DQyXpbXK0

【0】御門「解除するのは……。日付が変わるころ、かしら」

【0】お静「良かったですね、リトさん」

【9999】セリーヌ「まうまう!!」

リト「そうですか。それなら、いいんです」

【0】御門「ところで……」ピッ

リト「はい?」

【9999】御門「この項目だと、私の数字はどうなってるのかしら?」

リト「え? 9999ってなってます」

【9999】御門「10000以上は表示されないのね」

【10】お静「どういうことですか?」

リト「さぁ。俺は文字とか読めないし」

【1】御門「これは?」

リト「1、ですけど?」

【1】御門「ふふ……。そう……。本物ね」

リト「あの、どういうことですか?」



182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 14:57:40.03 id:DQyXpbXK0

【1】御門「これは一つの情報した表示できないためか、入力履歴が残るのよ」

リト「履歴ですか?」

【1】御門「恥ずかしいから、あんまり見ないで」

リト「す、すいません!!」

御門「履歴は新しいものから順に項目として表示されているわ。セリーヌちゃんは一番目と二番目の項目を交互に選択して表示状態にしていたみたい」

リト(ああ、それで二種類の数字が交互に出てたのか……)

御門「三番目はあなたに対する好感度だけど……。上二つは……」

お静「なんです――ひゃぁ!?」

リト「お静ちゃん?」

お静「あぁぁ……ひゃぁ……リトさん、この数字を朝からずっと……見てたんですか……」

リト(なんだなんだ!?)

御門「知りたい?」

リト「……いえ。いいです。とりあえず、俺が持っておきます」

御門「そう。はい。項目は一番目のものにしておいたわ。他のはあまり選択しないようにね」

リト「わ、わかりました」

廊下

リト(これで数字が変わることはないだろうけど……)

【0】芽亜「リトせーんぱい!」

リト「おお、芽亜。どうしたんだ?」

【0】芽亜「ん? それなんですか?」

リト「これか? これは――」

【0】芽亜「見せてください!」

リト「あ。まて」

【0】芽亜「んー? 結城リトに対する好感度……結城リトに大好きと言った回数……結城リトに……」

リト「なぁ……!?」

【0】芽亜「私、何回になってますか?」

リト「芽亜!!! なにやってんだ!!」

【0】芽亜「リトせんぱーい、だーすき!」

リト「え!?」

【1】芽亜「どうですか? 増えました?」



リト「芽亜、返せ!!」

【1】芽亜「増えてますか?」

リト「ふ、増えてるよ!!」

【1】芽亜「素敵っ! じゃあ……」

リト「なんだよ?」

【5】芽亜「だいすき、だいすき、だいすき、だいすき――」

リト「やめろ!! おい!! 増えてる増えてる!!」

【14】芽亜「これって、心の中で呟いてもカウントされるんですか?」

リト「知らないって!! いいから、それを返してくれ!!」

【9999】芽亜「どーんっ」

リト「怖いぞ!! カウント止まったから!!」

【9999】芽亜「素敵っ。全項目、カンストさせますか」

リト「なにいってんだ!?」

【0】芽亜「次はこれ。結城リトに手を繋いでもらった回数で」

リト(なんだよ、その項目は……!? ララ……!!)




【53】唯「ちょっと、なにしてるの!?」

リト「古手川!!」

【53】唯「また、ハレンチなことを……」

リト「あれ……そんなに多かったっけ……?」

【53】唯「なにが?」

【0】芽亜「ふふ……。せーんぱい」ギュッ

リト「おい、芽亜!!」

【53】唯「な……!!」

【0】芽亜「増えました?」

リト「いや、増えてない……」

【0】芽亜「なるほど。繋いでもらわないとダメなんですね。なら、次は……一番上にある結城リトとエッ――」

リト「芽亜!!!」

【2334】芽亜「なんですか?」

リト「いや、とにかく、返してくれ……」

【2335】芽亜「増えましたか?」


リト「あ、ああ……増えた、増えた」

【4236】芽亜「どうですか、どうですか?」

リト「増えすぎだろ!!!」

【101】唯「さっきから何やってるの!!」

リト「古手川、あの……」

【9999】芽亜「えーいっ」

リト「いい加減にしろって」

【9999】芽亜「でも、こういうのって全部を最大値にしたくならないですか?」

リト「知らない」

【101】唯「二人とも、いいから離れなさい。ハレンチよ」

リト「古手川の言うとおりだぞ」

【0】芽亜「では、次はこの結城リトのオ――」

リト「せいっ!」バッ

【0】芽亜「あ……」

リト「じゃ、じゃあな!!!」



リト「はぁ……はぁ……。芽亜のやつ……余計なことを……。でも、俺の0と106ってなんだ……? 106回も自分を大好きなんていうわけないし……」

【21】ララ「リト、どうしたの? すごい汗だけど」

リト「ああ、いや……」

【21】ララ「あ、それみるみるステータスくんだ。見つけたの?」

リト「な、なぁ、ララ……これなんだけど……」

【21】ララ「これどこにあったの? どこを探してもなかったのに」

リト(なんていえばいいかな……)

【21】ララ「確か、私が最後に使ったのはリトの好きなものを調べようとしたときだったかな?」

リト「え?」

【21】ララ「あれ? なんか、項目が増えてる……。これ、なんだろ……。リトと――」

リト「ララ、見ないほうが」

【9999】芽亜「ララせーんぱい。いいもの持ってるんですね」

【21】ララ「芽亜ちゃん?」

【9999】芽亜「リトせんぱいとの回数なんて調べて、どうするんですか?」

【21】ララ「なにそれ? 私、そんなこと調べてないけど……」

リト「芽亜。もういいだろ」

【9999】芽亜「でも、気になりませんか? どうしてそんなことを調べたのか」

リト「ならない」

【9999】芽亜「わたしはなります!」

リト「そんな力強く言われても……」

【21】ララ「これ。どうしてこんな項目が……」

【9999】芽亜「素敵ですね。色んなものを調べることができて。いらないなら、わたしにください」

リト「何をするつもりだよ」

【9999】芽亜「人間のことをもっとよく知ることができそうだし、ヤミお姉ちゃんのことももっと……」

リト「こんなことで調べなくても訊けばいいだろ」

【9999】芽亜「リトせんぱいとキスした回数とか、ペロペロされた回数とか、舌を入れられた回数とか、ヤミお姉ちゃん言ってくれると思いますか?」

リト「なんだよ、その偏った項目は!!」

【9999】芽亜「ぜーんぶ、その端末の入力履歴にあったことですよ?」

リト「え……!?」

【21】ララ「違うよ、リト! 私、そんなこと調べたことない!! あ、でも、リトと一緒にお風呂に入った回数はちょっと調べちゃったけど……美柑には敵わなくて……」



241:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 16:07:27.36 id:DQyXpbXK0

【9999】芽亜「その素敵アイテム、ください」

【21】ララ「だ、ダメだよ。ヤミちゃんだって、嫌がると思うけど」

【9999】芽亜「なら……」

リト「ララ!! 危ない!!」

【21】ララ「……っ」

【8】ヤミ「何をやっているのですか?」

【9999】芽亜「ヤミ……お姉ちゃん……」

【8】ヤミ「黒咲芽亜……。プリンセス・ララと結城リトに手を出すなら……!!」

【9999】芽亜「……ララせんぱい。今の項目は一番上になってますか?」

【21】ララ「な、なってるけど……?」

【9999】芽亜「素敵っ。ヤミお姉ちゃん?」

【8】ヤミ「なんですか?」

【9999】芽亜「リトせんぱいと居て起こるえっちぃ展開を出来るだけ思い浮かべてみて」

【389】ヤミ「と、とつぜん、なにを……!!!」

リト(なんだぁ……!? ヤミの数字が爆発的に増えたぞ……!?)



245:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 16:15:34.70 id:DQyXpbXK0

【9999】芽亜「リトせんぱい、ヤミお姉ちゃんの数字はどうなりました?」

リト「い、いえるわけないだろ!!」

【9999】芽亜「どうしてですか?」

【528】ヤミ「結城リト……これは……」

リト「まて、ヤミ! って、まだ増えてるぞ!!」

【1047】ララ「ヤミちゃん、だめ!!」

リト「ララまで!?」

【9999】芽亜「リトせんぱいの様子だと、増えてるのは間違いない。ふふ……。ヤミお姉ちゃんは、こんなときでもそういう妄想ができるんだ。素敵」

【999】ヤミ「結城リト、私に何をしているのか言ってもらいます……」

リト「俺は何もしらないんだ!! 見えてるだけで!!」

【1196】ララ「違うの、ヤミちゃん!! 誰かがこのみるみるステータスくんに悪戯したみたいで!! それでリトが……」

【1002】ヤミ「見せてください」

リト「ヤミ……あの……」

【1224】ヤミ「結城リトで……え……ち……な妄想をした回数……? 貴方はこんなものを調べていたのですか……?」

リト「違う!! 俺じゃないって!!」

【9999】芽亜「やっぱり、ヤミお姉ちゃんもそういうのに興味深々なんだ」

【2584】ヤミ「そんなわけないでしょう!! えっちぃのはきらいです!!」

【1644】ララ「そ、そうだよ!! 芽亜ちゃん!!」

【9999】芽亜「リトせんぱい、カウンターのほうはどうなってますか?」

リト「それは……」

【2980】ヤミ「言ったら……ころします……」

リト「言わないって!!」

【9999】芽亜「もうカンストしちゃいましたか?」

リト「まだ、してねえよ!!」

【3000】ヤミ「黒咲芽亜……。覚悟……!!」

リト(すげー増えてるな……)

【3000】ヤミ「結城リト」

リト「は、はい!」

【3001】ヤミ「あ、あなたの始末は後で行いますから」キリッ

リト「わ、わかった……」



258:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 16:38:08.51 id:DQyXpbXK0

ヤミ「はっ!!」

芽亜「わっ。危ない」


【2015】ララ「ヤミちゃん……」

リト「な、なぁ、ララ?」

【2016】ララ「な、なに!?」

リト「いや、その……。芽亜も言ってたけど、どうしてそんな……あの……俺で妄想って……」

【2017】ララ「わ、私じゃないんだって。私が調べたのは、リトとお風呂に入った回数と、リトと一緒に寝た回数だけだもん。どっちも美柑が圧倒的で……」

リト「そりゃあ、そうだ。その項目じゃ美柑は越えられないよ」

【2018】ララ「う、うん……」

リト「ララが調べようとしたわけじゃないんだな?」

【2019】ララ「流石にそんなことしないよ!!」

リト「なら、セリーヌか……? ずっと弄ってたし……」

【2020】ララ「セリーヌちゃんは入力はできないと思うけど」

リト「……ララ。あの……増えてる……」

【2021】ララ「や、やめてよぉ! 言われたら余計に想像して増えちゃうから!!」



273:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 16:49:14.03 id:DQyXpbXK0

リト「わ、悪い……。見ないようにする」

ララ「ごめん……リト……」

リト「え?」

ララ「勝手に使ってたの言わなくて……」

リト「ああ、いや。そんなことはいいんだけど。でも、誰かがそれを悪用してたのは間違いないと思う」

ララ「悪用って?」

リト「だって、そんな恥ずかしい回数を調べるなんて、おかしいだろ。弱みとか握ろうとしてるんじゃないのか」

ララ「誰がそんなことを……」

リト「いや、そうかもなーって話だけど」

ララ「うーん。簡単には持ち出せないはずなんだけど……。セリーヌちゃんが何度か外に持って行っちゃってるし、説得力ないかー、えへへ」

リト「セリーヌが持ち出して、誰かが使ったってことなのかな」

ララ「御門先生とか?」

リト「いや、それはないだろ。先生は今日、その装置のことを知ったみたいだったし」

ララ「えー。じゃあ、誰もいないよー」

リト「とりあえず、モモが帰ってくるのを待つか……」

【1040】モモ「リトさーん!!! ごめんなさい!!! どこにも見当たらりませんでしたー!!!」

リト「モモ、おかえり」

【1040】モモ「ただいま戻りました」

リト「セリーヌが持ち出してた。ほら」

【1040】モモ「ああ、やっぱり!」

ララ「モモが使ってたの?」

【1040】モモ「お姉さま!? あ、えっと……ところで、どうして木の陰に隠れているんですか?」

ララ「リトに回数知られちゃうから」

【1040】モモ「え……」

リト「ララは全部知ってる」

【1040】モモ「そ、そんな……。では、私が1036回もしたことを……?」

リト「それより、モモ。モモのほかにこの機械を使ったやつとかいなかったか?」

【1040】モモ「さ、さぁ……。私は以前にお姉さまが使っているのを思い出して……それで……」

リト「思い出した? いつ?」

【1041】モモ「リトさんの隣で尻尾を……いえいえ、ふと、ザスティンのためにお姉さまがみるみるステータスくんを使って、プレゼントを決めていたのを思い出しただけですよ」




ララ「あー、そういえば、あったねー」

【1041】モモ「はい。お姉さまのおかげでサプライズパーティーは大成功しましたからね」

ララ「ザスティン、すごーく喜んでたよね」

リト「それ、ララとモモでやったのか?」

ララ「ううん。ナナとペケも一緒だったよ」

【1041】モモ「そうでした、そうでした。ナナが危うく口を滑らしそうになったときはヒヤっとしましたよ」

ララ「懐かしいねー」

リト「……てことは、この装置のことナナも知ってるんだな?」

【1041】モモ「え、ええ……多分……」

リト「……ナナにも一応、訊いておいたほうがいいか?」

ララ「ナナがこんな悪戯をしたってこと?」

リト「分からないけど……。でも、誰かがこの回数を調べていたのは確かだ……。履歴にも残ってるから」

【1041】モモ「履歴機能なんてあったんですか? あの、見せてください」

リト「ああ、いいよ」

モモ(リトさんで妄想をした回数の次にある項目……。リトさんに対する束縛度って……どうして……。まぁ、誰が高いのか気になるので……)ピッ




リト「ナナ、ちょっと」

【400】ナナ「なんだよ? 芽亜を探してるから、またあとでな」

リト「な……!!」

【400】ナナ「あたしの顔になんかついてるか?」

【1025】モモ「リトさん、どうしましたか?」

リト「いや、数値がおかしい。モモ、弄ったか?」

【1025】モモ「はい。少し」

リト(朝一番で見た数字だな……。これ、なんの数字なんだ? また何かの回数なのか?)

【400】ナナ「あたしはもう行くぞ」

リト「ナナ。待ってくれ。この装置に見覚えないか?」

【400】ナナ「……しらない」

ララ「ナナ! 覚えてないの!?」

【400】ナナ「姉上!? どうして、そんな遠くにいるんだよ……」

【1025】モモ「お姉さま、設定は変えましたから。妄想回数は表示されてませんよ」

【990】ララ「そうなの? はぁー、よかったぁ。これで堂々としてられるね」



【1025】モモ「リトさん。今、数字が大きいのは誰ですか?」

リト「え? いや、そんなこといえるわけ……」

【1025】モモ「誰が多いかでいいですから」

リト「でも……」

【400】ナナ「モモ、お前……!」

【1025】モモ「ナナでしょ。こんなにいっぱい入力したの」

【400】ナナ「いや……違う……。知らないっていってんだろ」

【1025】モモ「履歴が残るようになってるのよ。それで下のほうまでスクロールさせていくと……」

【400】ナナ「な、なんだよ……?」

【1025】モモ「リトさんのことばっかり。これは、どういうことかしら?」

【400】ナナ「あたしが知るわけないだろ!! 離せよ!!」

【1025】モモ「ナナ。待って。私が言えたことじゃないけど、この入力量は多すぎる。もし、この項目全てを調べたんだとしたら、それはやりすぎよ」

【400】ナナ「やりすぎって……あたしは……」

【1025】モモ「ナナ。貴女がこんなにもリトさんのことを調べたのは……」

【990】ララ「ナナ? あまり色々と調べるなら、一言言ってほしいよ。モモもだけど」

ナナ「だから……!! あたしじゃ……!!」

ララ「ホントに?」

ナナ「……う、うん」

リト「そっか。ナナじゃないならいいんだ。ほかをあたってみる」

モモ「あ、リトさん。他って?」

リト「ララ、ついてきてくれ」

ララ「はぁーい」

ナナ「あ……」

モモ「自分と比較したかったの?」

ナナ「な、なんのことだよ……」

モモ「今、自分がどれだけリトさんのことを好きなのか、想っているのか、周囲と比較したかったんでしょ?」

ナナ「ちがっ……!!」

モモ「……」

ナナ「違う……。別にリトのことなんて……。ただ、一人でいるときにみんなもあたしと同じこと考えてたりすんのかなって……。あたしだけってことだったら変だろ……?」

モモ「それで、周囲が自分の値よりも上か下で一喜一憂してたのね?」



331:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 18:32:12.70 id:DQyXpbXK0

ナナ「……」

モモ「分かったわ。つまり、リトさんでいやらしい妄想したり、リトさんを独り占めにしたいって思ったりすることが、自分だけだったらどうしようって考えた」

モモ「それで、お姉さまのを使って、様々なことを調べた。それでいい?」

ナナ「だから、リトは関係――」

モモ「それでいい?」

ナナ「……別にいいけど」

モモ「そう。ナナ、それぐらいみんな思ってることだし、そんなことでいちいち心を読んじゃダメじゃない」

ナナ「モモだって同じだろ!!」

モモ「まぁ、そうだけど。ナナはやりすぎね」

ナナ「うっ……」

モモ「ところで、ナナ。この束縛度……独占欲っていってもいいだろうけど、誰が一番高かったの?」

ナナ「なんで、そんなこと聞くんだよ」

モモ「いいから」

モモ(楽園計画において、独占欲が強い人ほど徹底した懐柔が必要になる。ハーレムを認めさせるのに時間がかかるだろうし……)

ナナ「コテ川が一番高いと思ってたらそうでもなくて……。春菜のほうが怖いぐらい高かったのがビビったな。そんな感じに見えないし……」

【5014】春菜「結城くん、お昼休みどこにいたの?」

リト「ああ、ちょっと。散歩に」

【98】唯「どうせハレンチなことをしてたんでしょ? ララさんとかとルンさんとかと」

リト「し、してないって」

【98】唯「どうかしらね」

【5014】春菜「古手川さん。ルンさんはもう仕事に行ったらしいし」

【98】唯「黒咲さんやヤミさんとかもいるじゃない」

【5014】春菜「でも、結城くんは別に……」

【990】ララ「私とずっと一緒だったけど、何もなかったよー? ねー? リト?」

リト「あ、ああ……」

【5120】春菜「そうなんだ」

【100】唯「やっぱりハレンチだわ!!」


ナナ「な、こえーだろ? 春菜のやつ」

モモ「ふむふむ……。古手川さんも上昇傾向にあり……。参考になったわ。さてと、ナナ。帰ったら何をするか分かってる?」

ナナ「な、なにって、なんだよ……」



344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 19:00:06.31 id:DQyXpbXK0

ナナ「ごめん!!! 今ままでずっと、あたし、みんなの心を覗いてたんだ!!!」

春菜「え……」

唯「そ、それ、本当のことなの?」

ヤミ「プリンセス・モモから大体のことは聞きましたが……」

美柑「えーと、ナナさん。あの……その……」モジモジ

ナナ「不安だったんだ……。もしかしたら、変なこと考えてるのがあたしだけじゃないかって……。そう思ったら、調べたくなって……」

春菜「どんなことを調べたの?」

モモ「一覧はこちらにあります。上のほうから最近使われたものになってます」

唯「一覧って……」

・結城リトに対する束縛度  
・結城リトでエッチな妄想をした回数
・結城リトに対する好感度
・結城リトとキスした回数
・結城リトと手を繋いだ回数
・結城リトに対する興奮度
・結城リトに対して大好きと言った回数
・結城リトに冷たくして後悔した回数

春菜「こ、こんなに……!?」

ナナ「ごめん、春菜……ほんとに……。これでもまだ1/3ぐらいで……」



350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 19:13:53.47 id:DQyXpbXK0

モモ「ここ一週間ぐらいは使い続けていたみたいですね」

唯「こ、これらが額に浮かび上がってたの……!?」

モモ「そうなります」

春菜「そ、そんな……結城くんに全部……見られちゃった……」ガクッ

ヤミ「生きていけません。こんな情報が知らず、漏洩していたなんて……!!」

美柑「なんか、この中だと私が一番ダメージ大きいような……」

モモ「みなさんの精神的ショックは大きいと思います。なので、ナナには少しおしおきをしようと思います」

春菜「お、おしおき?」

唯「ちょっと、ハレンチなことは……」

モモ「これらの項目、ナナの数字をどうなっていたのか気になりませんか?」

ヤミ「なるほど。確かに私たちは情報を開示したのですから、そちらも開示するべきです」

美柑「いや、でも、それはちょっと。ナナさんも悪気があったわけじゃ」

春菜「う、うん。よくないよ」

唯「別に……しりたくもないし……」

ナナ「みんな……」

モモ「いいんですか、美柑さん。いやらしい妄想の回数をナナに把握されているんですよ?」

美柑「そ、そんなことしてません!!! 0です!!」

ナナ「……0ではなかった気がするけど」

美柑「な……!?」

モモ「春菜さん、古手川さん。リトさんに対する興奮度もばっちり数値化されて、ナナが知っているんですよ? いいんですか?」

春菜「だけど……」

唯「え、ええ……」

ヤミ「実行しましょう。これは情報漏洩という立派な罪です。罰して然るべきでしょう」

モモ「というわけで、ナナにはとっておきのものをみなさんに見せるべきね」

ナナ「ヤミ以外、賛同してねえだろ!!」

モモ「ナナので興味を引くものは……」

ナナ「やめろぉー!! 悪かったって!!」

モモ「ダーメ」

ナナ「ひっ」ビクッ

モモ「あなたの所為で私は……恥をかいたんだから……」



354:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 19:34:47.38 id:DQyXpbXK0

リビング

リト「あいつら、ラボのほうで何やってんだ?」

【990】ララ「よくわからないけど、モモがナナを強引に連れ込んでたよ」

リト「おいおい。それはマズイだろ。助けに行かないと」

【990】ララ「大丈夫だよ。きちんと考えてあるから」

リト「考え……?」

【990】ララ「うん。実はね、入力情報履歴のほかにも機能があるんだー」

リト「なんだよ、それ?」

【990】ララ「じゃーん! 各項目別TOP100」

リト「な、なんで、そんな機能があるんだ!?」

【990】ララ「ほら、誰の好物だったか一目でわかるようにしてたら便利でしょ?」

リト「それを使ってどうにかするのか?」

【990】ララ「確かにナナも悪いけど、モモだって同じ事してたから」

リト(なんだ。ララが珍しく怒ってるのか? やっぱり、勝手に色々な情報を見たのがまずかったな)

【9999】セリーヌ「まうー?」



363:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 19:41:16.33 id:DQyXpbXK0

ラボ

モモ「ふふふ……。では、ナナの全ての情報を……」

ナナ「やめろー!! ゆるしてくれー!!!」

美柑「モモさん!! もういいから!! 私たちはみんなナナさんを許したから!!」

春菜「う、うん! やめてあげて!!」

ヤミ「いえ。執行するべきです」

唯「ハレンチじゃなきゃ、いいわ」

ララ「――待って!!」

モモ「お姉さま……?」

ナナ「あねうえー!!」

リト「な、なんでナナが張り付けになってんだ」

春菜「結城くん、こっちみないで!!」

唯「あ、あさっての方向を向きなさい!!」

ヤミ「こちらを一瞥した瞬間、斬ります」

リト「わ、わかった……」

モモ「なんですか、お姉さま?」

ララ「みんな! これを見て!! これを見ればもうケンカもしないでいいと思う!!」

モモ「な、なにをですか……?」

春菜「ララさん、それは?」

ララ「ほら、ほら見て、春菜。この【結城リトと一緒に寝た回数】ってところ」

春菜「へ!? ね、ねた……って……!!」

ララ「美柑が桁違いの回数でしょー?」

美柑「うわぁぁぁ!!!! ララさん!!! 何言ってるの!?」

唯「あ、ホント」

ヤミ「すごい回数ですね……。他を寄せ付けないほどに」

美柑「だ、だってこれは!! リトと二人のときが多かったからで……!!」

ララ「あとね、ほら。【結城リトに抱いてもらった回数】も美柑が一位なんだよ」

美柑「それもリトがおにいちゃんで!! だっこしてもらうことがあっただけでー!!!」

モモ「こ、これは……。ナナ、このこと知ってたの?」

ナナ「まぁ……。大体の項目は……美柑がぶっちきりだった……けど……」



372:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 20:04:24.59 id:DQyXpbXK0

ララ「ね? 殆ど美柑がトップだから、こんなことで競うあうのはダメだよ。みんな美柑に勝てないから」

リト「美柑のことバラすなよ!!」

ララ「でも、ほら、美柑が何においても一番なら、みんな納得するじゃない」

リト「どうして!?」

ララ「だって、リトの一番大事な存在でしょ?」

リト「ララ……。そういう問題じゃないだろ……」

ララ「違うの?」

美柑「とんでもなく恥ずかしいんだけど……」

春菜「甘えた回数、8000回超えてる。いいなー」

唯「あ、こっち。名前を呼んでもらった回数も一位ね」

ヤミ「一緒にお風呂に入った回数なんて……これは、どう計算しても、ごく最近まで……」

美柑「みないでー!!!」

モモ「妄想をした回数を知られたぐらいで怒るのが馬鹿らしくなりました……。美柑さん、羨ましいです」

ナナ「何気にキスした回数も美柑が一位なんだぜ」

美柑「もうやめて!!」



382:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 20:22:13.26 id:DQyXpbXK0

美柑「りとぉー、たすけてー」

リト「美柑。悪かった」

ララ「ナナ、モモ。何を気にしても美柑が一番だから、気にしちゃダメ。いい?」

モモ「わかりました……。もう詮索はしません」

ナナ「美柑の数字を見るたびに安心してたなぁ、そういえば」

ララ「よし。みるみるステータスくんは廃棄しておくね」

春菜「やっぱり、心を覗くのはいけないことみたい」

唯「そんなこと当然じゃない。見て得することはないわ」

春菜「でも、この一覧を見る限り……」

唯(これだけ妹に尽くしているなら、自然と女性に対しての扱いも上手くなるし、妹以上の女性でなければ靡かない。結城くんはハレンチというより、紳士なのかも……)

ヤミ(よかった……。私のえっちぃ妄想……美柑より少ない……)

リト「なぁ、もういいだろ? 美柑が可哀想だ」

モモ「そうですね。これ以上、お兄さんとの赤裸々な記録を覗くのは淑女として失格ですし……」

美柑「赤裸々じゃないってば!! お兄ちゃんと一緒にいた時間が長いんだから当然でしょ!!」

リト「美柑、落ち着けって」

美柑「モモさん!! ナナさん!!!」

モモ「は、はい。ごめんなさい」

ナナ「な、なんだよ?」

美柑「罰として今日から一週間、家事は全部私がするから何もしないで!」

モモ「えぇー!?」

ナナ「罰か、それ?」

モモ「リトさんの好感度を上げる機会が根こそぎ……」

美柑「あと、モモさんはリトのベッドにもぐりこむの禁止」

モモ「そんなぁ!?」

美柑「そもそもモモさんが余計なことするから私がこんな目に!!」

ララ「……ねえ、リト。私のやりかた間違ってた?」

リト「数字を見て誰が最も傷つくのかが分かっただろ? 正しいってわけじゃないけど、モモとナナは反省してくれたみたいだし……。いいと思う」

ララ「リト……。ありがと」

リト(あれ、そういえばいつの間にか数字が見えなくなってるな……)

リト(あとは……)



392:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 20:41:11.42 id:DQyXpbXK0

モモの部屋

モモ「はぁー……リトさんとの距離がぁー……」

モモ「はぁ……」

モモ「……んっ……んっ……」シュッシュッ

リト「モモ、いるか?」

モモ「は、はい!! どうぞ!!」

リト「悪いな」

モモ「ど、どど、どうしたんですか?」

リト「最後に確認したいことがあって」

モモ「確認、ですか?」

リト「結局、今日俺が見てきた数字なんだけど……。その……」

モモ「あ、気になってるんですか?」

リト「気になってるというか……。まぁ、そうなんだけど……。本当に妄想した回数と、その、束縛だっけ? そういうのだったのか?」

モモ(これはチャンス。こういったほうでも効果があるなんて……)

モモ「ええ。そうですよ? みなさん、少なからずリトさんに好意があるということですね」



398:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 20:53:47.03 id:DQyXpbXK0

モモ「ルンさんのように束縛度が8000を超えている人は勿論、ティアーユ先生や御門先生みたいにリトさんの知らないところでよからぬ妄想をしている人がいるんです」

リト「そんなことないって思ってたけど、やっぱり数字で見ちゃうとな……」

モモ「はいっ。リトさんは自分を過小評価していると思いますよ」

リト「ヤミや芽亜は0だったけど、あれは?」

モモ「独占欲がないんでしょうね」

モモ(ヤミさんの場合は美柑さんほうへ傾向して、芽亜さんはそういう対象としてみていない、というところでしょうけど)

リト「なるほど……」

モモ「リトさん。楽園計画は決して夢物語じゃないって分かっていただけましたか?」

リト「……いや、でも、西連寺とかの数字を見る限りじゃあ、ダメじゃないか?」

モモ「確かに独占欲が強いようですが、問題ありませんよ。まだまだ時間はありますしね」

リト「時間って……」

モモ「私にお任せください……。春菜さんも……古手川さんも……みんな……リトさんに……」

リト「モモ!! 近い!!」

モモ「私は今回で確信しました。リトさんを取り巻くみなさん全員を側室にできると。美柑さんなんてもう……」

リト「な……!!」

モモ「ふふ……。きっと、リトさんを幸せにしますから、見ててください」

リト「でも、美柑は妹で!!」

モモ「キスした回数が最も多いのに、ですか?」

リト「それは小さいときの話だ!!」

モモ「しかし、回数は100を超えて……」

リト「だから!!」

モモ「私ともしてくれますか……?」

リト「うっ……!!」

モモ「んー……」

リト「あ……」

ナナ「おーい。美柑が――あー!!! ケダモノ!! なにやってんだよ!!!」

リト「ち、違うって!!」

モモ「ナナ。キスの回数なら美柑さんに勝てるわよ」

ナナ「……120回ぐらいだもんな。って、だれがリトなんかと!! ふざけんな!!」

モモ(全く。あれだけのことしたのに、いい加減素直になればいいのに)



403:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 21:09:28.81 id:DQyXpbXK0

リト「悪い……。おまたせ」

美柑「遅い」

ララ「――できた!! リトー、できたよー」

リト「なにが? ダークマターの料理は勘弁してくれよ?」

ララ「違う違う。みるみるハイパーステータスくんだよ」

リト「……え?」

美柑「ララさん……?」

ララ「前のは数字表記だったから、こう色々と表面的にしか捉えられなかったけど、今度のは違うの。文章でステータスを表記してくれるの。文章のほうが深みが出るし」

ララ「文章なら回数だけじゃ分からないものを見えてくると思うの」

リト「まて、ララ!! そっちのほうがヤバ――」

ララ「リトの好感度、みるみるー!」ピッ

美柑「きゃ――」

セリーヌ「まうー!!!」

ナナ「姉上ー? 何を騒いで……なぁ!?」

モモ「まぁ……」



406:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/04/22(月) 21:20:56.57 id:DQyXpbXK0

【リトだいすき!】
ララ「出た出たー。どうどう?」

【まうまうー!!】
セリーヌ「まうー!!」

【美柑、春菜、ララ、モモ、ナナ、みんな好きだ】
リト「なんだこれー!!! ララ! 消してくれ!!!」

【お兄ちゃん、愛してるーっ!】
美柑「……」ガクッ

ナナ「これは……」

モモ「お姉さま、楽しそうで何よりです」

ララ「やっぱり、数字より言葉だよね」

ナナ「姉上!! 絶対にあたしに使わないでくれ!!! もうステータスはみたくない!!」

モモ(確かに。こちらのほうがより直接的で誤魔化しが利かない……。これは使える……!!)

美柑(もういいや……。開き直って……誰の追随も許さないぐらいに……リトと……)

ララ「ま、文字にするまでもなかったかもしれないね。美柑と私は」

リト「いいから、消してくれー!!」


おしまい。

リト「ララの尻尾が大人気……」

f:id:ureshino3406:20170306191619g:image

ララ「らんららーん」フリフリ

里紗「うーん……やっぱり、ほしい」

未央「どうしたの、リサ?」

里紗「ララちぃの尻尾っていいよねぇ。なんていうか魅力が5割増しって感じ?」

未央「あははは。ララちぃが転校してきたときからそれ言われてるよねー」

ララ「ん?なになに、何の話?」

里紗「その尻尾。あたしたちには無いでしょ?」

ララ「これ?」フリフリ

未央「アクセサリーだとこーんなに動かないもんね」

里紗「そうそう。自分の意思で動かせてこその尻尾だし」

ララ「尻尾、欲しいの?」

里紗「もっちろん」

未央「コスプレにチョー使えるしー」

里紗「まぁ、ララちぃと違ってあたしらは地球人だから無理なのはわかってるんだけどねー」

ララ「ふぅん。そうなんだ」

数日後 結城宅 リビング

ララ「うーん……。あとは試すだけなんだけどなぁ」

美柑「ララさーん。ご飯できたよー」

ララ「あ、美柑ー。ちょっと、いい?」

美柑「なに?またなにか発明したの?」

ララ「じゃーん。これ、にょきにょきテールくん」

美柑「どういうモノなの?」

ララ「私と同じ尻尾が生えてくるの」

美柑「尻尾が?」

ララ「美柑で試していい?私だと効果が分からなくて」

美柑「……危なくないの?」

ララ「尻尾が生えるだけだからっ。ヘーキ、ヘーキ」

美柑「……痛くない?」

ララ「痛くなんてないよー」

美柑「な、なら、いいけど」



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 02:08:27.35 id:oKAn/ZF1o

美柑「うーん……」フリフリ

ララ「どう?」

美柑「なんか、落ち着かない……」

ララ「そうなの?うーん、失敗かなぁ」

美柑「ああ、いや、尻尾なんて地球人にはないし、急に生えたらやっぱり違和感があるというか」

ララ「自由に動かせる?」

美柑「一応」フリフリ

ララ「やったぁ。ありがと、美柑。これでリサたちも喜んでくれるかも」

美柑「で、これはいつ取れるの?」

ララ「数時間後かな」

美柑「数時間後ってアバウトな……」

ララ「さ、ごっはんごっはん」

美柑「ララさん!!ちょっと!!」フリフリ

ナナ「ん?な……!?美柑に尻尾が……!?なんで!?」

セリーヌ「まう?」



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 02:12:34.51 id:oKAn/ZF1o

リト「美柑、大丈夫なのか、それ?」

美柑「うん。もう慣れてきたから。はい、ごはん」フリフリ

セリーヌ「まうー……」

モモ「まぁ、美柑さん。とっても似合っていますよ」

美柑「それはどうも」

ララ「美柑が私の妹になったみたい」

美柑「そう?」

ララ「そうだよー」

美柑「私がララさんの妹になるのはリトと結婚してからの話でしょ?」

リト「ぶふっ!?」

ララ「そっか。そうだよねー」

リト「美柑!!なにいってるんだよ!?」

美柑「何慌ててるの?本当の――」

セリーヌ「まうっ」ギュッ

美柑「ぃぐっ……!?!」ビクッ



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 02:15:09.68 id:oKAn/ZF1o

ララ「美柑、どうしたの?」

美柑「あ……ぁ……」ビクッ

リト「お、おい。美柑?」

セリーヌ「まう?」

美柑「……う、ううん。なんでもない」

モモ「そうですか?」

美柑「う、うん。ちょっと、むせちゃって」

リト「そうか?体の調子が悪いならすぐに言えよ?」

美柑「うん、ありがとう」

ナナ「風邪か?」

モモ「……お姉様、お姉様」

ララ「なに?」

モモ「あの尾、もしかして私たちとほぼ同じようなモノなのですか?」

ララ「うん。できるだけ本物に近づけたつもりだけど。リサが欲しいって言ってたから」

モモ「そうですか……。ということは、アチラのほうも……」

リト「美柑、本当になんともないんだな?」

美柑「心配しすぎだって。もう。ほら早く朝ごはんたべ――」

セリーヌ「まうっ」ギュッ

美柑「てっ……やっ……ぁ……はぁ……!!」ビクッ

リト「美柑!?」

セリーヌ「まうぅ……」スリスリ

美柑「おっ……ぐっ……ぅ……!?!」ビクッビクッ

モモ「あぁ!!セリーヌさん!!ダメ!!擦ったりなんかしたら!!」

ララ「美柑!?大丈夫!?」

ナナ「この感じ……!!」

セリーヌ「まう?」ギュゥゥ

美柑「んぃ……ぁ……あっ……いぃ……ふぁ……くぅ……!!」ビクッビクッ

リト「美柑!!しっかりしろ!!」

ナナ「おい!!お前はあっちむいてろ!!」

リト「あ!?あぁ!!ごめん!!!」



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 02:29:47.99 id:oKAn/ZF1o

モモ「と、とにかく美柑さんを部屋に!!」

ナナ「そうだな!あたしがやる!!」

美柑「はぁ……あぁ……はぁ……」

ナナ「美柑、今運ぶからな」

美柑「ナ、ナ……さん……」

セリーヌ「まうまうー」ギュゥゥ

美柑「ひぐぅ!?!」ビクンッ!!

モモ「セリーヌさん!!ダメです!!」

セリーヌ「まう?」

美柑「んっ……あっ……」

ララ「もしかして、尻尾の所為?」

モモ「恐らくあの尻尾の再現度が高すぎたのだと思います」

ララ「敏感な部分まで再現しちゃってたんだ」

モモ「はい。流石、お姉様といったところですけど」

リト「あ、あのー。もうそっちを向いてもいいか?」



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 02:41:53.84 id:oKAn/ZF1o

ナナ「美柑は寝かせておいた」

リト「サンキュー、ナナ。こういうときすぐに動いてくれるのはナナだよな」

ナナ「ふんっ。あのままにしておいたら美柑がお前に襲われるかもしれないだろ」

リト「そ、そんなことするわけないだろ!!!」

ナナ「どうだか」

モモ「ナナ。褒められて照れるのもわかるけど、心にもないことを言わないの」

ナナ「ほ、本心だっ!」

ララ「ゴメンね、リト。私の所為で……」

リト「籾岡たちに欲しいって言われて作ったのははいいんだけどさ。余計なところまではコピーしなくていいんじゃないか?」

モモ「尻尾は私たちの弱点ですからね。その弱点まで再現するのは如何なものかと」

ララ「うん。そこまで再現しちゃうなんて思ってもなくて。すぐに改良するから」

リト「そうしてくれ。あのまま籾岡なんかに生やしたら……」

モモ「それはそれで……」

ナナ「おい、なに考えてんだよ」

モモ「あ、いけない、いけない。つい想像してしまって……」



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 02:51:36.10 id:oKAn/ZF1o

リト「そろそろ美柑の様子でも見に行くか」

ララ「そうだね。私も心配だし、謝らないといけないし」

ナナ「あたしも行く」

モモ「もう少し様子を見てからのほうがいいような……」

リト「どうして?」

モモ「ほら、その……万が一ということも……」

ララ「万が一って?」

モモ「もしもですけど、美柑さんがその……尻尾の良さに目覚めてしまっていたら、今行くのはちょっと……」

ナナ「この尻尾が気に入ったってことか」

モモ「そうそう。ある意味」

ララ「それは嬉しいけど、敏感なままだとちょっと……」

ナナ「だよなぁ。あたしたちは生まれたときからあるから別に構わないけど、いきなり生えてきたら不便に思うこともあるかもしれないし」

モモ「そういうことではなくて……」

リト「とにかく様子は見に行く。心配だからな」

モモ「リ、リトさん……」

美柑の部屋

美柑「ふっ……うっ……」

美柑(ララさんたち……いつもこんなのを……晒してたんだ……)

美柑「んっ……っ……」

美柑(こんなの寝てるだけでもどこかに擦れて……変な気分……にぃ……)

美柑「ふぁ……あぁ……ぁ……」

美柑(もどかしい……もう手でさわりたい……)

リト「美柑。大丈夫か」ガチャ

美柑「きゃぁ!?」ビクッ

リト「どうした!?」

美柑「急に入ってこないで!!!」

リト「わ、悪い!!」

ララ「美柑、大丈夫?」

ナナ「気分はどうだ?」

美柑「気分!?気分は……別に……」



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 03:17:19.83 id:oKAn/ZF1o

ララ「ゴメンね、美柑」

美柑「え?な、なにが?」

ララ「尻尾、敏感でしょ?」

美柑「なっ……!?」

ナナ「セリーヌに握られたときは大変だっただろ?」

美柑「それは……あの……別にそんなことないけど……」

ララ「そうなの!?」

美柑「ちょっと驚いちゃっただけだから」

モモ(そんなはずは……)

リト「……美柑」

美柑「な、なに!?」

リト「ララたちの尻尾は弱点なんだ。それが地球人にとってどれほどのものなのかは分からない。もしかしたらオレたちには命に関わることかもしれないんだ」

リト「さっきも言っただろ。体の調子が悪いならすぐに言えって」

美柑「リト……」モジモジ

リト「あ、オ、オレがいたら言えないか。悪い。でも、ララたちには言えよ。約束だからな。オレはリビングでセリーヌと遊んどくから」



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 03:27:30.00 id:oKAn/ZF1o

美柑「うん、わかった」

リト「それじゃ、ララ。美柑のこと頼む」

ララ「まかせてっ」

ナナ「ふん……」

モモ「リトさんは優しいわね、ナナ?」

ナナ「うるさいなぁ。分かってる」

モモ「まぁ。わかってるの?うふふふ」

ナナ「なんだよ!!!何笑ってんだ!!!」

ララ「それで美柑、どんな感じだったの?」

美柑「な、なんか、全身に電気が走ったみたいな……感じで……」

ララ「やっぱり……」

美柑「でも、いつもこんなのに耐えてるの?」

ララ「私たちは生まれつき持ってるものだし」

美柑「そうじゃなくて……その……空気に触れてるだけでも……かなり……なんだけど……」

モモ「流石に私たちでもそこまでは……。まさか、お姉様の再現した尻尾は私たちとは微妙に違うのかも……」



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 03:38:48.83 id:oKAn/ZF1o

ナナ「空気に触れてるだけでも、ムズムズするのかよ」

美柑「うん……。もうこうやって動かしているだけでも……」フリフリ

モモ「それは大変ですね」

ララ「多分、明日の朝には尻尾も消えてると思うから。それまで我慢してね」

美柑「大丈夫。それぐらいなら……」

ララ「本当にゴメンね、美柑」

美柑「いいから。もうこれぐらいのことは慣れちゃってるし」

ナナ「他におかしなところとかないんだな?」

美柑「な、ないない!!おかしなところなんて!!」

ララ「わかった。それじゃ、リトにはそう伝えておくね」

美柑「お願い、ララさん」

モモ「美柑さん?」

美柑「なに?」

モモ「……我慢は体に毒ですよ?」

美柑「ど、どういう意味よー!!!」

セリーヌ「まうまうー」ギュッ

リト(美柑のやつ、大丈夫かな……)

ララ「リトー」

リト「美柑は?」

ララ「大丈夫だって。尻尾が敏感になってること以外はなんともないみたい」

リト「はぁぁ……。そうか。よかったぁ」

ナナ「姉上ー。にょきにょきテールくんどうするんだ?」

ララ「もっちろん、改良を加えるよ。弱点までコピーしちゃうのは良くないことだもん」

リト「なんか不安だな」

モモ「まぁまぁ、リトさん。お姉様を信じてあげてください」

リト「ララの発明品だけはどうしても信用できないんだけど……」

ララ「心配しないで、リトっ」

リト「お前なぁ、過去に何度失敗してると思ってるんだよ」

ララ「数えてないや」

リト「そういうことじゃない!!!」



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 04:03:31.44 id:oKAn/ZF1o

翌日

美柑「はぁ……」

リト「おはよ、美柑」

美柑「あ、リ、リト。今日は早いね」

リト「ああ。なんか目が覚めちゃって。尻尾なくなったんだな」

美柑「うん。起きたらなくなってた」

リト「どうした?なんか疲れてないか?」

美柑「え?あ、ああ、うん。ちょっと寝不足で……あはは……」

リト「今日は学校休むか?」

美柑「問題ないって。さ、朝ごはんつくらないと!!」

ララ「おはよー!!美柑ー!!あれからなんともなかった?」

美柑「うん。全然、なにも」

リト「ララ、改良できたのか?」

ララ「できたよ!にょきにょきテールくん改!!これなら弱点のない尻尾を生やすことができるの!!」

美柑「弱点のない尻尾?それってあんなに敏感じゃなくなるってこと?」



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 04:34:28.18 id:oKAn/ZF1o

ララ「うんっ。試してみる?」

美柑「え、遠慮しとく。今、すごい自己嫌悪で……」

ララ「そうだね。それじゃ、リトにー」

リト「やめろ!!オレには似合わないって!!」

ララ「えー?リトだって似合うよ、絶対」

リト「いいって!!そういうのは籾岡みたいな女子のほうが似合うだろ!!!」

モモ「それは小悪魔的な女の子のほうがいいってことですか、リトさん?」

リト「あのなぁ」

モモ「うふふ。尻尾がある美柑さんも可愛かったですもんね」

美柑「え……」

リト「モモ!?そういうことじゃないって!!」

ナナ「なんだよ。朝からうるさいなぁ」

セリーヌ「まう!」

リト「だって……」

モモ「ごめんなさい。冗談ですよ」



27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 22:25:33.59 id:oKAn/ZF1o

リト「セリーヌ、いくぞー」

セリーヌ「まうー!!」

ララ「リサとミオ、喜んでくれるかなぁ」

リト「喜んではくれるだろうけど、改良してから試してないんだよな?」

ララ「うん。でも、あんなに敏感にはならないはずだから」

リト「信じていいのか……」

ナナ「早く行こうぜ。遅刻するぞ」

モモ「では、行ってきます。美柑さん」

美柑「うん」

ララ「行ってきまーす」

美柑「……リト」

リト「どうした?」

美柑「な、なんでもない。行ってらっしゃい。車に気をつけてね」

リト「美柑もな」

美柑「はいはい。……はぁ。何聞こうとしてるんだろう、私。さてと、私も準備しなきゃ」

学校

里紗「おぉー、つまりこれを使えばララちぃの尻尾があたしのものになるってこと?」

ララ「うん!」

未央「さっすがララちぃ、やるぅ」

里紗「じゃ、早速使ってみてー」

ララ「いっくよー。えいっ」カチッ

里紗「んっ。……おぉ!すごいじゃん!動く動くー」フリフリ

未央「リサ、かっわいいー」

里紗「体の一部が増えたみたいな感覚ー。変なのー」フリフリ

ララ「すぐに慣れると思うよ」

未央「ララちぃ、わたしもわたしもー」

ララ「オッケー」

里紗「あ、唯ー。これ見てよー」フリフリ

唯「え?ちょっと!?籾岡さん!!学校にアクセサリーはつけてこないようにって校則で決まっているでしょう!?」

里紗「えー、でも可愛くない?」



29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 22:41:47.66 id:oKAn/ZF1o

唯「可愛いとか可愛くないとかそういう問題じゃないでしょう!?」

里紗「唯もララちぃに頼んで尻尾もらったら?」

唯「どうして私がそんなものをつけないといけないのよ」

ララ「ミオも生えてきたよー」

未央「わーい!ありがとーララちぃ」フリフリ

唯「沢田さんまで!!ちょっと、ララさん!!どういうこと!?」

ララ「リサたちが欲しいって」

唯「だからってこんなアクセサリーを……」

未央「古手川さん。これがアクセサリーの動きに見えるの?」フリフリ

唯「それは……」

里紗「体の一部なら校則違反ってわけでもないよねー?」

未央「ねー?」

唯「そんな屁理屈が通用すると思ってるの!?」

ララ「唯も尻尾どう?」

唯「い、り、ま、せ、ん!」



30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 22:48:25.03 id:oKAn/ZF1o

リト(あの様子なら特に何もなさそうだな……。よかったぁ)

春菜「……」

リト「西連寺?どうかした?」

春菜「え!?ど、どうして?」

リト「いや、なんとなくララたちのほうを見てたからさ」

春菜「それは……」

里紗「はーるーなー?」

春菜「ひっ」

里紗「こっち見てた?見てたよねぇ?」

春菜「え、えーと……」

里紗「おーい、ララちぃー。春菜も尻尾欲しいってー」

ララ「ホントー?わーい」

春菜「ちょ、ちょっと!!里紗!!」

里紗「(いーじゃん、尻尾ぐらい。春菜も似合うって)」

春菜「(で、でも……古手川さんになんて言われるか……)」



31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 22:54:38.56 id:oKAn/ZF1o

唯「籾岡さん。西連寺さんまで巻き込もうとしないで。委員長を巻き込めばどうにかなるとでも思ってるの?」

里紗「ちぇー。バレたぁ」

春菜「利用しようとしてたの?」

里紗「春菜も一緒だったら流石に唯も文句は言わないと思って」

春菜「もう……」

リト(春菜ちゃんの尻尾姿は見てみたかったな……)

ララ「春菜……あの……」

春菜「なに?」フリフリ

ララ「ゴメン……もう、生えちゃってる……」

春菜「えー!?」フリフリ

里紗「あれ?ララちぃ、いつの間に?」

ララ「春菜も尻尾欲しいってリサが言うから嬉しくなって」

春菜「あぅ……」フリフリ

唯「さ、西連寺さんまで……!?」

リト(やっぱりかわいい……!)

春菜「なんだか、変な感じだね……」

ララ「でも、すっごく可愛いよ!!」

春菜「そう?」

リト(あぁ、めちゃくちゃ可愛い……)

春菜「あの……結城くん……」

リト「え?」

春菜「あまり、見ないで……恥ずかしい……」

リト「ご、ごめん!!!」

ララ「リトも春菜に尻尾は可愛いと思うよね?」

リト「え?あ、ああ、うん。か、可愛いと思う」

春菜「あ、ありがとう……」

ララ「よかったぁ。尻尾、喜んでくれて」

春菜「あはは、ありがとう、ララさん」

唯「ちょっと!!西連寺さん!!あなたは委員長なのよ!?こんなもの付けていいわけないじゃない!!ほら、とって!!」グイッ

春菜「ひぎぃ……!!!」ビクッ



35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 23:09:44.23 id:oKAn/ZF1o

リト(え……)

ララ「乱暴にしちゃだめだよー」

里紗「唯ー、もうこの尻尾は体の一部なんだから、取れないんだってばぁ」

未央「そうそう」

唯「だからって、このまま授業に出たり、校内を歩いたりしていいわけじゃないわ」

里紗「相変わらず、かったいんだからぁ」

唯「私は当然をことを言っているだけよ」グイッ

春菜「……ッ!!!」ビクッビクッ

リト「こ、古手川!!」

唯「なによ?」

リト「とりあえず、西連寺の尻尾を掴むのはやめないか?」

唯「どうして?早く取らないともうすぐ授業も始まるし」グイッ

春菜「ぁい……んっ……!?!」

リト「古手川!!!西連寺が痛がってるんだ!!!だから手を離してくれ!!」

唯「え?い、痛いの?ご、ごめんなさい!」



37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 23:15:04.56 id:oKAn/ZF1o

春菜「あっ……はぁ……はぁ……」

ララ「春菜、大丈夫!?」

春菜「ん……くっ……」

里紗「どーしちゃったの?」

未央「この尻尾、完全に生えてるんだね」

唯「そんなに強く引っ張ったつもりはなかったの。ごめんなさい、西連寺さん」

春菜「う、ううん……へ、いき……だから……」

里紗「それにしては顔赤いけど」

リト「……ララ、こっちこい」

ララ「なになに?」

リト「あの尻尾、弱点残ってるんじゃないのか?」

ララ「えー?そんなはずないと思うけど?」

リト「でも、西連寺の反応を見る限りは……」

ララ「そんな……」

春菜「うぅ……んっ……」



40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 23:25:05.19 id:oKAn/ZF1o

リト「ともかく、あの尻尾に弱点がまだ残っているかどうかは調べたほうがいいって」

ララ「うん、分かった」

リト「このままじゃ、春菜ちゃんだけじゃなくて籾岡と沢田も……」

ララ「リサ、ちょっとごめんね」

里紗「ん?なにする――」

ララ「……」ギュッ

里紗「ふぁぁ……!!!」ビクッ

唯「ちょ、ちょっと!!急に変な声を出さないで!!」

里紗「だ、だってぇ……ラ、ララちぃがぁ……」

ララ「これは……」

未央「ララちぃ、リサになにしたの?」

ララ「その尻尾――」

リト「ララ!!待て!!」

ララ「でも、早く言っておいたほうがいいよ」

リト「西連寺は尻尾を握られたんだぞ。握られたときに……その……なんか……ああなってたって知られるのは……あれだ……恥ずかしいことじゃないか……?」

ララ「うーん。確かに」

リト「だろ?事情を話すにしてもなるべく人気のないところのほうがいい」

ララ「どうしようか?ここだとみんなに話を聞かれちゃうし……」

リト「そうだな……」

春菜「はぁ……はぁ……」

リト「そうだ!!」

ララ「リト?」

リト「さ、西連寺!!熱があるんじゃないか!?こんなに顔も赤いし!!」

春菜「え?あの……」

リト「きっとそうだ!!ララ!!西連寺を保健室に連れて行ってくれ!!」

ララ「う、うん!!春菜!!いくよっ!!」

リト「ついでに古手川と籾岡と沢田も一緒に行ったほうがいい」

里紗「行くのは別にいいけど、なんで?あたし、どこも悪くないけど」

リト「西連寺の友達だろ!!付き合ってやれよ!!」

里紗「う、うん。わかった」



42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 23:45:32.44 id:oKAn/ZF1o

保健室

御門「なるほどねぇ。またララさんが面白いものを作ったわけね。それがこれ?」

ララ「うん。にゃきにょきテールくん改。尻尾の弱点はなくなったはずだったんだけど」

御門「見事に残っていたわけね」

ララ「そうみたい」

セリーヌ「まうまうっ」

お静「このてっぽうみたいなのがそうなんですか」

唯「西連寺さん、知らなかったこととは言え、私……」

春菜「き、気にしないで!!ちょっと驚いただけだから!!」

里紗「……」スリスリ

未央「んいぃぃ……!!!らめぇぇ……りしゃぁ……!!」ビクッビクッ

里紗「こりゃ、すごいわ。完璧にララちぃの尻尾じゃん」

唯「も、籾岡さん!!自分ので試しなさい!!!いや!!自分のでもダメ!!!そんなのハレンチだわ!!」

里紗「自分でするより、してあげるほうが好きなの」スリスリ

未央「んぉ……ひぐっ……いぃ……くぅ……!!」ビクビクッ



44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 23:58:21.02 id:oKAn/ZF1o

唯「やめなさいってば!!!」

里紗「分かってるって」

未央「ぅん……でも、くせになりそぉ……」ピクッピクッ

御門「感度も抜群。地球人には無い部位だし、ララさんのよりも敏感かもしれないわね」

お静「春菜さん、お気の毒……」

春菜「そんなことないよ!!尻尾そのものは可愛いもの!!」

ララ「春菜ぁ……」

春菜「私、本当に気にしてないから。むしろ嬉しいぐらい」

ララ「ホントに?」

春菜「うんっ。ララさんの尻尾、前から羨ましいなぁって思っていたの」

ララ「春菜ー!!ありがとー!!」ギュッ

唯「で、ララさん。このハレンチな尻尾はいつ取れるの?」

ララ「多分、明日の朝までにはなくなってると思うけど」

唯「随分とアバウトね……。まぁ、貴方の発明品らしいけど」

御門「……あら?机に置いたはずのララさんの発明品は?」



46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 00:06:56.61 ID:0hqX33dAo

唯「え?ないんですか?」

お静「私、確かにそこに置いて……」

春菜「古手川さん!!後ろ!!」

唯「へ?」

セリーヌ「まうー」カチッ

唯「きゃっ!?」

御門「あら」

唯「な、なに……?なにが……」フリフリ

ララ「唯も尻尾はえたー」

セリーヌ「まう!」

唯「えぇぇ!?ちょっと!!こんなの付けてたら風紀委員として示しがつかないじゃない!!」グイッ

里紗「唯、そんな強く握ったら……」

唯「はぁっ……!!?」ビクンッ

セリーヌ「まうー?」

ララ「セリーヌちゃん、それかえしてー」

廊下

リト(ララたち、結局授業中には戻ってこなかったけど、なんかあったのか……?)

リト(様子を知りたいけど、今の保健室に男が入ったらまずいような気もするし……)

リト(あぁー……どうする……!!春菜ちゃんは無事なのか……!?)

ヤミ「邪魔です」

リト「ヤ、ヤミ!?」

ヤミ「通路の真ん中で何をしているのですか、結城リト」

リト「あぁ、いや……」

ヤミ「まさか……人にはいえないような……えっちぃことを……」シャキン

リト「ナナといいヤミといいどうしてそういうことを言うんだー!!」

ヤミ「日ごろの行いが悪い所為ですね」

リト「言い返せない……」

ヤミ「あまり不審な行動は控えるようにしてください。私もそれなりの対応をしなければいけなくなりますから」

リト「ま、待ってくれ、ヤミ!!ちょっと頼みたいことがあるんだ!!」

ヤミ「……私にですか?」



48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 01:56:54.91 ID:0hqX33dAo

保健室

ヤミ「……」


リト『――ってことがあってさ。でも、ララたちが保健室に行ったきり戻ってこないんだ。様子を見に行ってくれないか?』

ヤミ『貴方が見にいけばいいではないですか』

リト『あの尻尾のことはヤミも知ってるだろ?男のオレがいたら、きっとみんなだって恥ずかしいはずだ』

ヤミ『……』

リト『でも、戻ってこないのは心配だし……。だから、頼む!』

ヤミ『……タイヤキ、10個で手を打ちます』

リト『じゅ、10個か。わかった。今度、おごる』


ヤミ「……20個にするべきでしたね」

ヤミ「プリンセス。結城リトからの依頼で様子を――」ガラッ

セリーヌ「まーうー!!」カチッ

春菜「あぁ!!また!!!」

ヤミ「なっ……」



49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 02:04:11.85 ID:0hqX33dAo

廊下

リト「……」

ララ「じゃーん。みてみてー、リトー。みんなに尻尾が生えちゃったー」

春菜「うぅ……」フリフリ

唯「どうして私がこんな目に……」

里紗「まぁまぁ、似合ってるしいいじゃない」スリスリ

唯「ふにゃぁ……!!!」ビクッ

未央「にゃはは。古手川さん、かわいー」

唯「やめなさい!!!」

リト「古手川とヤミまで……」

ヤミ「やられました。まさか扉を開けた瞬間に攻撃されるとは……。私も腑抜けになったものですね……」

春菜「ヤミちゃん、落ち込まないで」

リト「ララ、説明はしたのか?」

ララ「したよ。尻尾をなるべく触らないようにってこともちゃんと教えておいたから」

リト「なら、いいんだけどさ」



50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 03:08:59.27 ID:0hqX33dAo

唯「どこがいいのよ。この尻尾、隠すに隠せないし……しかも……こんなに……敏感だし……」

ララ「……」

リト「保健室で何してたんだ?1時間ぐらいいただろ?」

里紗「ああ。この尻尾が本当にあたしたちの体に何も影響がないのか、御門先生に調べてもらったの」

リト「それで?」

未央「なーんともないよ。ただ、私たちにはなかった部分だから、余計に敏感になってるかもしれないんだって」

里紗「だから、ちょっと触れただけで……」

ヤミ「やめてくださいっ」バッ

里紗「あら。ヤミヤミはダメかぁ」

ヤミ「全く。油断も隙もないですね」

未央「でもでもぉ。ちょっとハマりそうだよねぇ」

里紗「分かる。今までになかった刺激というか快感というかぁ。ね、春菜?」

春菜「り、里紗ぁ」

唯「籾岡さん!!いい加減にしなさい!!!」

里紗「はぁーい。もういいませーん」

唯「そうだわ。ヤミちゃん、この尻尾を切り落とすことはできないの?」

ヤミ「オススメできません」

唯「どうして?」

ヤミ「ドクター御門も言っていましたが、この尾は生えている状態です。つまり神経がある。切除は激しい痛みを伴うはずです」

唯「うっ……」

ヤミ「それでもいいなら、切りますが」シャキン

唯「や、やっぱり、いいわ」

ヤミ「賢明です」

里紗「まぁ、そんなに深く考える必要もないでしょ?明日には消えるんだしさ」

唯「だから、今日一日どう過ごせばいいのよって話でしょう」

未央「そんなに嫌なの?」

唯「嫌とかそういうことじゃないわ。私たちには非常識なものだし、不必要だもの」

里紗「ゆうきぃ。唯に尻尾がある状態はどう思う?結構可愛いと思うでしょ?」

リト「ああ、尻尾のある古手川は可愛いと思う」

唯「な……!?」フリフリ



52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 03:38:51.91 ID:0hqX33dAo

里紗「ほらね、結城もこういってるし」

唯「ハレンチよ!!この尻尾があるほうがいいって!!変なこと考えてるの!?」

リト「ま、待ってくれ!そうじゃない!!見た目が可愛いから正直な感想を言っただけだって!!」

唯「しょ、正直な……!?」

春菜「……」フリフリ

ヤミ「尻尾があるほうがいいのですか?変わった嗜好ですね」

リト「だから、見た目の話だろ!?見た目の!!」

唯「と、ともかく。籾岡さん、沢田さん。この尻尾を悪用しないようにね」

里紗「あらあら。古手川さぁん?悪用ってどんな風に使うのぉ?」

未央「お、し、え、てぇ」

唯「ぐっ……!!あ、あなたたちはぁ……!!」

リト「まぁ、無闇に触らなければそれで……」

ララ「……」

リト「ララ?どうした?」

ララ「え?なんでもないよ。ほら、教室にもどろ。みんなっ」



53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 03:54:42.96 ID:0hqX33dAo

昼休み

モモ「そうですか。結局、尻尾の弱点はそのままに、尻尾を生やした人だけが増えてしまったんですね」

リト「まぁ、尻尾のことはきちんと説明できているみたいだし、おかしなことにはならないと思うけど」

モモ「……それはどうでしょうか、リトさん」

リト「え?どういうことだ?」

モモ「生まれたときから体にあるものですから、私たちは自分の尻尾のことをよく理解できています。どのような器官なのかは勿論、その扱い方も」

リト「扱い方?」

モモ「リトさんは知っていると思いますけど……この尾を舐められたり、軽く噛まれたりするだけで……」

リト「わ、わかった!!わかったから言わなくていい!!!」

モモ「地球のみなさんにとって、どれほどの快感があるのかは分かりませんが、少なくとも性感帯が無駄に増えてしまったといえるはずです」

リト「あ、あぁ……そ、そうだな……」

モモ「しかも、未知で新感覚のものがです。一度、良さを知ってしまえば大変なことになるかもしれないですね」

リト「なに?」

モモ「ほら、言うじゃないですか。何事も覚えたばかりが1番凄いと」

リト「ま、まさか……。いや、そんな……こと……」



54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 04:12:14.54 ID:0hqX33dAo

春菜『んっ……あっ……ふっ……』シュッシュッ

春菜『し……っぽ……いぃ……ぅん……はぁっ……』

春菜『……ッ!』ビクンッ


リト(あぁぁ……い、いや……春菜ちゃんがそんなことするわけ……!!でもそんな春菜ちゃんも……!!)

モモ「リトさん?」

リト「おわぁ!?」

モモ「どんな想像してたんですか?」

リト「想像なんてしてない!!」

モモ「でも、私は悪いことだとは思いませんけど」

リト「え?」

モモ「我慢することのほうが色々と辛いですから」

リト「そうかなぁ……」

モモ「そうですよ。だから、リトさんも我慢なんてせずに……」

リト「ちょ……モモ……」

ナナ「おーい、リトー。メアのことみなか――って、学校でなにしてんだ!!!ケダモノー!!!」

教室

唯「やっぱり落ち着かないわね、これ」フリフリ

春菜「あはは。なんか気になっちゃうよね」

唯「ララさん。この尻尾が消える正確な時間って本当にわからないの?」

ララ「……」

春菜「……ララさん?」

ララ「え?なに?」

唯「この尻尾が消える時間はいつなのか知る方法はないのかって聞いたの」

ララ「そればっかりはよくわからなくて」

唯「もう……」

春菜「ララさん、何かあった?」

ララ「どうして?」

春菜「あ、気のせいならいいの」

ララ「そう?」

春菜「……」



56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 04:50:24.17 ID:0hqX33dAo

廊下

リト「またナナに勘違いされたな……。あとでちゃんと誤解を解かないと」

春菜「結城くん」

リト「西連寺?」

春菜「ちょっと、いいかな?」

リト「も、もちろん」

リト(なんだろう……)

春菜「あのね……」フリフリ

リト(尻尾が動いてる。無意識なのかなぁ、春菜ちゃん)

春菜「結城くんっ」

リト「え!?」

春菜「そんなに尻尾が好き?」フリフリ

リト「ちが……!!それは、さ、西連寺だから……」

春菜「私、だから?」

リト「あ……」



57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 05:00:35.83 ID:0hqX33dAo

春菜「……」モジモジ

リト(やばい……!!なんか春菜ちゃんが困ってる!?話題を変えないと……!!)

リト「そ、それで、オレに何か用事があったんじゃなかったの?」

春菜「あ、う、うん!そうなの!実は、ララさんのことで……」

リト「ララ?」

春菜「ララさん、元気がないみたいなんだけど、何か心当たりはある?」

リト「いや。元気ないって、全然気が付かなかったけど」

春菜「私の思い過ごしかもしれないけど……ちょっと気になって……」

リト「そう……」

リト(何かあったか?今日は尻尾で騒いでいたぐらいだしな)

春菜「ごめんなさい。結城くんに心当たりがないなら、きっと私の勘違いだと思う」

リト「そんなことないと思うけどな。西連寺はララの考えてることとかよく分かってるし」

春菜「そんな!私なんて……別に……」

リト「オレからもさり気無く聞いてみる。教えてくれて、ありがとう」

春菜「うん。私のほうこそ、ありがとう、結城くん」



58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 17:48:07.89 ID:0hqX33dAo

唯「……」フリフリ

唯(男の子ってこういう尻尾がいいのかしら?よく分からないけど……)

リト「古手川」

唯「は、はい!?」

リト「どうした?」

唯「べ、別に。急に名前を呼ばれたからよ。それで何か用?」

リト「ララを見なかったか?教室にいなくてさ」

唯「さぁ。私もお手洗いに行っていたから……」

リト「そうか。なぁ、古手川から見てもララの様子がおかしかったか?」

唯「ララさんの様子?うーん……」

リト「なんか落ち込んでたとか」

唯「そういえば、何か考え事をしているような気がするわね。どことなく上の空だったし」

リト「……古手川もララのことよく見てるんだな」

唯「あ、あれぐらいはすぐに気が付くわ」

リト「そうだな……」

芽亜「あー!?」

ヤミ「……なんですか?」

芽亜「その尻尾、ナナちゃんのだ!素敵っ!どうしたの!?」

ヤミ「色々あって、生えてきただけです」

芽亜「ふぅーん。触ってもいい?」

ヤミ「やめてください!」

芽亜「どうしてー?」

ヤミ「ど、どうしてもです」

芽亜「そんなこといわずにぃ」

ヤミ「メ、メア……!!」

芽亜「わーい」ギュッ

ヤミ「あっ……ひっ……!!」ビクッ

芽亜「いいなぁ。私もほしぃ」スリスリ

ヤミ「やめ……てぇ……メアぁ……」ビクビクッ

芽亜「あれ?もしかして気持ちいいの?素敵。トランスじゃそこまで再現できないし。益々欲しくなってきちゃった」



60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 18:04:11.32 ID:0hqX33dAo

ヤミ「くっ!!」バッ

芽亜「あ。もっと触りたかったのに」

ヤミ「そ、そんなに欲しいなら、プリンセスに頼めばいいと思います」

芽亜「ララ先輩に頼めばくれるの!?」

ヤミ「ええ」

芽亜「よーしっ。もらいにいこーっと」テテテッ

ヤミ「はぁ……。この尻尾があることでかなり不利になりますね」フリフリ

ナナ「いたいた!!メアー!!」

芽亜「あ、ナナちゃん!」

ナナ「探してたんだ。どこにいたんだよ」

芽亜「ちょっと屋上でお昼寝してたの」

ナナ「まぁ、いいや。それより今日の帰りさぁ」

芽亜「ねえねえ、ララ先輩に頼めばナナちゃんの尻尾もらえるらしいね」

ナナ「ああ。姉上が発明したやつがあるからな。……誰から聞いたんだ?」

芽亜「一緒にララ先輩をさがそっ。私もナナちゃんと同じ尻尾欲しいのっ」



61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 18:21:13.62 ID:0hqX33dAo

ララ「……」

ペケ「ララ様?」

ララ「んー?」

ペケ「尻尾が不評だったことを気にされているのですか?」

ララ「それもあるかなぁ」

ペケ「他にもなにか?」

ララ「……」

リト「ララ、ここに居たのか」

ララ「リト。私のこと探してたの?」

リト「ああ。西連寺からララの様子がおかしいって聞いて。古手川も言ってたけど」

ララ「心配してくれたの?うれしー」

リト「そりゃ、まぁ……」

ララ「ありがと、リト。でも、もういいの。こうしてリトに心配させちゃうほうが嫌だしね」

リト「……」

ララ「あ!いけない。そろそろ休み時間終わっちゃう。戻ろうよ、リト」



62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 18:31:04.14 ID:0hqX33dAo

リト「待ってくれ」

ララ「なぁに?」

リト「何かあるなら、誰かに相談してもいいんじゃないか?オレに言いにくいことなら西連寺や古手川にでも言えばいいだろ」

ララ「違うの。言ってもあまり意味がないってだけで」

リト「それを決めるのはララじゃない」

ララ「え……」

リト「西連寺も悩んでるララなんて見たくないと思うぞ。いつも明るいお前に元気がないと、こっちまで不安になるしさ」

ララ「リト……」

リト「オレはララみたいに万能じゃないし、できることも限られてる。だけど、今までだってなんとかなってきただろ」

ララ「……」

リト「だから、言ってくれよ。今更、お前に振り回されたってなんとも思わないぞ、オレ」

ララ「……ありがとう」

リト「で、何かあったのか?」

ララ「尻尾のことなんだけど……」

リト「やっぱりそれが原因か。だけど、籾岡だって喜んでたし、今回は成功でいいんじゃないか?」

ララ「リサとミオはいいんだけど、春菜と唯とヤミちゃんはどちらかというと迷惑がってたでしょ?」

リト「迷惑というか、モノがモノだけになぁ。すぐに慣れるものでもないし」

ララ「私ね、なんだかすっごく楽しくなってたの。春菜たちに尻尾があるのをみて、すごく嬉しくなってた」

リト「どうして?」

ララ「最初は自分でもよく分からなかったけど、みんなに私と同じ尻尾があるのを見てて思ったんだ」

ララ「……家族が増えた気になってたのかも」

リト(家族……)

ララ「勿論、ナナとモモもいるし、リトや美柑だっているから寂しくなんてないよ!ただ、そう感じちゃっただけで」

リト(そういえば美柑に尻尾が生えたときも、妹になったみたいって……)

ララ「だからかもしれないけど、出来ればずっと付けていてほしいなぁって思っちゃって。でも、そういうわけにはいかなさそうだから……」

リト(なんで気が付けなかったんだ。故郷のことを考えたりするのは当たり前だ)

ララ「それで少し、ね」

リト「そうだったのか」

ララ「聞いてくれて、嬉しかったよ。本当に」

リト「……ゴメン。ララの気持ちに気が付けなくて。気が付いていれば、もっと上手くフォローできてたはずなのにな」



65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 19:07:34.73 ID:0hqX33dAo

ララ「リトが気にすることじゃないよー。これは私の我侭だもん」

リト「オレは、美柑のことを大切な家族だって考えてる」

ララ「うん?」

リト「セリーヌも同じだし、モモとナナもそうだ」

ララ「リト?」

リト「当然、ララもな」

ララ「……うん」

リト「その尻尾は可愛いし、みんなに付いているのも悪くないかなってちょっと思ったぐらいだ」

ララ「そう?やっぱりリトも尻尾好きなんだねっ」フリフリ

リト「でも、ララたちを大切に思う気持ちに尻尾は関係ない。それはララだって同じのはずだ」

ララ「……」

リト「今までだってララは美柑のお姉さんをしてくれてたんだ。尻尾のあるなしで妹みたいだっていうのはおかしいだろ?」

ララ「そ、そう?でもいつも美柑におこられてるし……」

リト「オレは多分、一生忘れないぜ?クリスマスのとき、ララが美柑のために用意してくれたプレゼントはさ」

ララ「あれは美柑が家族みんなで過ごしたいっていうから、リトのママとパパを連れて来ただけだよ?」



66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 19:20:45.14 ID:0hqX33dAo

リト「そういうことを普通にできるって、姉としての凄さだったりすると思うけどな」

ララ「そうなの?」

リト「ああ。少なくとも実の兄貴には出来なかったことだ」

ララ「そっかぁ……」

リト「ララ。今は故郷のことを思い出してもいい。それで少し寂しい気持ちになるのも分かる」

リト「……ただ、そういうときこそ、オレたちのことを頼ってもいいんじゃないか」

ララ「……」

リト「その寂しさぐらい、なんとかしてやるから」

ララ「うんっ。そのときはお願いします」

リト「そ、そろそろ教室に戻ろうぜ」

ララ「リトー!!」ギュッ

リト「おわ!?」

ララ「だーいすきっ」

リト「な、なんだよ、急に!!」

ララ「えへへー」スリスリ



67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 19:25:26.00 ID:0hqX33dAo

リト「は、はなれろって!!」

ララ「えー?なんとかしてくれるっていったのリトなのにー」

リト「いや、それとこれとは……」

ララ「リトー」ギュッ

リト「お、おい!!」

芽亜「いたっ。あそこだ」

ナナ「げっ!?おい!!こらぁ!!!リトぉ!!なにしてるんだよ!!!」

リト「ナナ!?やばい!!モモとの誤解もとけてないのに……!!」

ララ「ナナー、メアちゃーん」

リト「ララ、いいから今は離れてくれ!!」ググッ

ララ「えー、やだー」

リト「やだじゃない!!」グイッ

ララ「きゃっ」

リト(まずい!バランスがくずれて……!!)

芽亜「あ、倒れる」

リト「いたた……。おい、ララ、大丈夫――」ギュッ

ララ「あんっ……ぅ……!」

リト「え?」

ララ「し、しっぽぉ……らめぇ……」ビクビクッ

リト「うわぁ!!!わるい!!」

ナナ「やっぱり……おまえは……!!」

リト「事故だ!!事故ぉ!!!」

ララ「ふぅ……」

芽亜「せーんぱいっ!」

ララ「メアちゃん、なに?」

芽亜「尻尾ほしい!」

ララ「メアちゃんも欲しいの?」

芽亜「うんっ。その尻尾を生やして、そしてリトせんぱいに尻尾をペロペロしてもらうのぉ……想像しただけで、あぁ……」ビクンッ

リト「なんだよ、それ!?」

ナナ「お、おまえ……!!ケダモノー!!!!」



69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 19:39:07.84 ID:0hqX33dAo

教室

リト「あー。酷い目にあった……」

ララ「メアちゃん、喜んでくれてよかったぁ」

リト「オレはナナに勘違いされるし、散々だ」

ララ「そういえばなんでメアちゃんの尻尾、ペロペロしてあげなかったの?」

リト「できるかぁ!!!」

春菜「結城くん、ララさん。おかえり」

ララ「ただいまー!はるなぁー!」

春菜「……」

リト「な、なに?」

春菜「ううん」

春菜(ありがとう、結城くん……)

唯「……元気になったみたいね」

ララ「うんっ」

唯「ふんっ……」



70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 19:48:24.29 ID:0hqX33dAo

里紗「ね、ねえ、ララちぃ……」

ララ「リサ、どしたの?」

里紗「この尻尾……明日にはなくなっちゃうんだよね……?」

ララ「そうだけど?」

里紗「あのさぁ、よかったらでいいんだけど……また明日も……尻尾お願いできる……?」

ララ「いいよー。そんなに気に入ってくれたの?」

里紗「もう……尻尾なしじゃ、ダメな体になりそう……」

未央「わ、わたしもぉ……」

ララ「そうなんだー。わーい。うれしー」

里紗「こんなにすごいのを……いつもララちぃは……はぁ……はぁ……」

春菜「リサ?大丈夫?トイレに行ってから戻ってくるまで長かったけど……」

里紗「ふふ。春菜、この尻尾。今のうちに楽しんでおくほうがいいわよ?唯もね?」

春菜「え?」

唯「なっ……!?何を楽しむのよ!!!わけのわからないことを言わないで!!!」

未央「早く家にかえりたいよぉ……」

夕方 結城宅

美柑「そんなことがあったんだ」

ララ「うん。ゴメンね、美柑。あのとき妹になったみたいなんていって」

美柑「気にしてないって、ララさん。でも、言われてみればララさんは既にもう1人のお姉ちゃんかも」

ララ「そう思ってくれるの!?」

美柑「まぁ、ね」

ララ「みかーん!!」ギュゥゥ

美柑「く、くるしい……」

ララ「そうだよねー。尻尾は関係ないよねー」

美柑「……あ、でも……その……また……」モジモジ

ララ「尻尾ほしいの!?いいよ、いつでも言って!!」

モモ「あらあら……。美柑さん、尻尾の快楽に溺れてしまったのでしょうか……」

リト「な、なに!?」

モモ「気をつけたほうがいいですね、リトさん。春菜さんや古手川さんも尻尾の魅力に取り付かれたら……。私としてはハーレム計画的に良い流れですけども」

リト(春菜ちゃんが……春菜ちゃんが……尻尾の魅力に……!?)



72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 20:05:37.76 ID:0hqX33dAo

西連寺宅 浴室

春菜「……」フリフリ

春菜「この尻尾、洗ったほうがいいのかな?」

春菜「……」ゴシッゴシッ

春菜「くっ……ぃ……!?」ビクッ

春菜「はっ……い……ん……」

春菜「こ、これはちょっと洗えない……」

春菜「はぁ……。ララさんはこれどうやって洗ってるんだろう」

春菜「ララさんも毎日、苦労してるんだ……」

春菜「でも、この尻尾がなくなるのはちょっと惜しいかも」

春菜「……」フリフリ

春菜「ふふ……」

春菜「あぁ、だけど古手川さんに怒られちゃうし、やっぱりダメだよね……」

春菜「……」フリフリ

春菜「はぁ……尻尾……」



73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 20:15:03.01 ID:0hqX33dAo

古手川宅 浴室

唯「……」フリフリ


『この尻尾。今のうちに楽しんでおくほうがいいわよ?』


唯「それってやっぱり……」

唯「……」フリフリ

唯「ダ、ダメよ!!何を考えてるの!!私ったら!!ハレンチだわ!!!」

唯「籾岡さんの言うことなんて忘れなきゃ!!」

唯「寝る前にきちんと明日の予習をしておかないと!!」

唯「ふんふふーん」

唯「……」フリフリ

唯「尻尾は、洗っておいたほうが、いいわよね……」

唯「そうよ……洗うだけ……。洗うだけなら……ハレンチなことじゃないし……」

唯「……」ドキドキ

唯「えいっ!」ゴシゴシゴシ



74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 20:21:25.74 ID:0hqX33dAo

翌日 結城宅

美柑「リトー、おきてー」

リト「あ、あぁ……おはよ……美柑……」

美柑「遅刻しちゃうよ」フリフリ

リト「美柑、それ……」

美柑「ん?ああ、尻尾ね。またララさんに頼んだの」

リト「……」

美柑「ど、どうかな……?」

リト「いや、可愛いとは思うけど、変なことに使ってないよな?」

美柑「へ、変なことってなに?」

リト「だから……」

美柑「もしかしておかしな想像してる?」

リト「し、してない!!」

美柑「ならいいよ。可愛いって言ってくれたしね」

リト(大丈夫なのか……。ファッション感覚ならいいけど……)

リビング

セリーヌ「まうー?」

美柑「はい、どうぞ」フリフリ

ナナ「サンキュ、美柑。いただきまーす」

モモ「美柑さん。どうですか、尻尾の使い心地は?」

美柑「使うって!!別に使ってないから!!!」

モモ「あら、そうなのですかぁ。うふふふ」

美柑「なによー!?」

ララ「美柑はリトに可愛いって言われたかっただけだよね?」

美柑「ラ、ララさぁん!!!」

モモ「まぁまぁ。それはそれは」

美柑「違うのー!!!」

セリーヌ「まうっ」ギュッ

美柑「んぎぃ……!?!セ、セリーヌ……やめてぇ……」ビクッビクッ

ナナ「セリーヌ!!はなせー!!そこは大変なんだからな!!」



77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 20:37:28.03 ID:0hqX33dAo

美柑「はぁ……」

リト「あれ?美柑、尻尾なくなってるけど、どうしたんだ?」

美柑「え?ああ、うん。やっぱりやめたんだ。危ないから」

リト「そういえばオレが顔を洗ってるとき、リビングから悲鳴が聞こえたけど……」

美柑「なんでもない!」

リト「そ、そうか。それにしても尻尾は取り外せるようになったのか?」

ララ「うん。スーパーにょきにょきテールくんなら好きなときに生やしたり、引っ込めたりできるようになるんだよ」

リト「そういう風にしたのか」

ララ「そのほうが、いいかなって。一時的にあるだけならきっと春菜や唯も尻尾を生やしてくれそうだし」

リト(ララのやつ、やっぱり寂しいのかな……)

ララ「モモー、ナナー。いこー」

ナナ「今、いくー」

モモ「はぁーい」

美柑「いってらっしゃーい」

リト(ま、いつでも付け外しができるなら、変なことにも使われることはないし……いいかな……)



79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 20:43:09.43 ID:0hqX33dAo

学校

ララ「できたよー」

里紗「きたぁ!!尻尾ぉ。もう朝起きたときの喪失感はすごかったのよねぇ」

未央「にゃはは。また楽しめるぅ」

ララ「今度はこの機械を使わない限り、尻尾がなくなることはないから安心してね」

里紗「マジで!?」

リト「ララ!!そうなのか!?」

ララ「うん。リサみたいにずっとつけていたいって思う人もいるから」

リト(そ、それって……本人次第でいつまでも……!!)

春菜「おはよう」

リト「はる……西連寺!?」

ララ「おっはよー!春菜もまた尻尾いる?」

春菜「え、えーと……」

唯「……」

春菜(こ、古手川さんがこっちみてる……。尻尾、欲しいけど……やっぱり、ダメなのかなぁ……)

唯「ララさん」

ララ「なに?」

唯「か、帰るときに、お願いしてもいいかしら……尻尾……」

ララ「唯ー!!もちろん!!」

里紗「ついに唯も目覚めちゃったかぁ」

唯「そ、そんなんじゃないわ!!!」

春菜「あ、それなら私も……」

リト「ダ、ダメだぁ!!!」

ララ「え?」

春菜「ダ、ダメなの?」

リト「なんていうか!!ダメだ!!!」

里紗「わかったぁ。女の子が尻尾で気持ちいいことするのが嫌なんだ、結城はぁ」

唯「え……!?」ギクッ

春菜「……?」

リト「ち、ちがう!!そんなんじゃない!!!」



81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/06(日) 20:55:38.27 ID:0hqX33dAo

里紗「隠さなくてもいいってばぁ。なんなら保健室で見せてあげてもいいけどぉ?」

リト「ふざけんなー!!!」

唯(結城くんに……バ、バレて……)

ララ「唯?」

唯「私!!やっぱりいいわ!!!尻尾、いらない!!!」

ララ「そんなぁー。唯に尻尾があれば可愛いのにぃ」

唯「いいの!!!」

ララ「……そっか。唯が嫌なら仕方ないね。大事な友達が嫌がることなんて、したくないし」

唯「な、なによ。急に改まって……」

ララ「えへへ」

春菜(結城くんに可愛いって思われたかったけど……。結城くん、尻尾は嫌だったのかなぁ……)

芽亜「素敵っ!!思った通り!!またララ先輩が尻尾配ってる!!今日こそリトせんぱいに尻尾をペロペロしてもらおー!!」

リト「ララの尻尾が大人気……。これはまずい……!!まずいだろー!!!」

ヤミ「ホント、えっちぃ人ばかりですね。あんな尻尾……洗うときに困るだけです……」


おしまい。

男「挿入以外なら許さなければいけない権利ですか!?」

1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:25:56 id:Re4hLbGk

偉い人「うむ、すべての男性の中からランダムに選ばれたのが君だ」

男「マジかよ……」

偉い人「挿入以外なら軽いセクハラから前戯まで、何をされても文句は言えない」

男「…………」

偉い人「せめてもの措置として、異性しか許可されない事になっている」

男「はあ……」

偉い人「ヤリマンビッチにアレコレされてしまうかもしれんが、挿入を強要された場合は通常と同じく強姦または強姦未遂になるので、しかるべき所に相談してくれ」

前スレ
男「挿入以外なら許される権利ですか!?」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1328002857/




2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:29:26 id:AM9xLWSU

翌日

男「いってきまーす……」

男母「あんた妙に元気ないわね、風邪?」

男「知ってんだろ……あの権利だよ」

男母「あんたにアレコレしたい女の子なんていないわよ」ケラケラ

男「まあ……そうか」



5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:32:37 id:KukzYk0s

幼なじみ「男ー!」

男「ん?ああ幼なじみ、おはよ」

幼なじみ「おはよ。なんで今日は寝坊してないの?それどころか先に登校して……」

男「いや、ほらあの権利。あれの事考えてたら眠れなくて」

幼なじみ「あ……そっか、男が選ばれたんだよね」



6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:34:49 id:KukzYk0s

幼なじみ「…………」

幼なじみ「ねえ、男?」

男「ん?」

幼なじみ「その……えっとね……」

幼なじみ「キス……して欲しいんだけど……」



7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:37:04 id:KukzYk0s

男「は、はあ!?」

幼なじみ「あ!キスって言ってもほっぺだよ!?ちゅって軽く」

男「い、いやおまえ……」

幼なじみ「さ、逆らっちゃダメなんでしょ!?」

男「うっ……」



8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:40:53 id:iHfa/Hoo

幼なじみ「そ、それとも……どうしてもいやなの?」ウルウル

男「ち、違うって、泣くなよ」

幼なじみ「ぐす……」

男「ああもうわかったって、いやじゃないしちゃんとやるからさ」

幼なじみ「…………!」パアアー



9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:42:18 id:ehEh07M6

男「ほ、ほら目つぶれ」

幼なじみ「ん……」

男 ドキドキ

幼なじみ ドキドキ

チュッ



10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:44:47 id:eppXtJNQ

幼なじみ「あ……///」

男「こ、これでいいだろ///」カアアー

幼なじみ「うん……ありがと」

男(ほっぺたすげーやわらかかった……)ドキドキ



11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:50:07 id:KKA9hB9I

教室


ビッチ1「知ってるー?うちのクラスの男が例の権利選ばれたんだってよー」

ビッチ2「知ってるー。なんであんなやつなんかなーって感じー」

ビッチ1「おまえ彼氏と別れたからご無沙汰でしょ?直前までやっちゃえば?」ケラケラ

ビッチ2「マジご無沙汰でもアイツはないわー。イケメン君なら毎晩襲うけどー」ケラケラ

男(母ちゃんの言った通りか……ホッとするわ屈辱だわで)

ツンデレ「…………」ジー



14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:54:55 id:ompMvylM

昼休み


ツンデレ「ねえ、アンタ」

男「ん?」

ツンデレ「ちょっと着いてきて」

男「え?」

ツンデレ「いいから」

ザワザワ
ツンデレガオトコクンノケンリツカウノカナ?

ツンデレ「!」

ツンデレ「ち、違うわよ!変な事考えないで!」

ザワザワ
マアソウダヨナー

ツンデレ「ほら、さっさと行くわよ」

男「あ、ああ」



15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/15(水) 23:57:37 id:XpgELXQ.

体育館裏

男「で、なんだよ」

ツンデレ「…………」

男「なんだよって」

ツンデレ「……一応確認しておくけど、アンタが例の権利選ばれたのよね?」

男「え?ああそうだけど」

ツンデレ「…………」



16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:02:27 id:lNAzFIRQ

ツンデレ「アンタ不安じゃないの?」

男「まあ、そりゃ不安だけど……」

ツンデレ「知りもしない女の人に変な事されるかもしれないのよ?」

男「もちろんそれは嫌だよ」

男「でも、うちのクラスのビッチ達見ただろ?ああいう連中は俺なんか相手にしないって」

ツンデレ「で、でもいざとなったらわからないじゃない!学校以外にも女の人いるし!」

男「な、なんでおまえが怒ってるんだよ?」



17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:05:15 ID:3qR.b/Iw

ツンデレ「お、怒ってない!」

男(怒ってるじゃん……)

男「とにかく、そうなったらもうしかたねえよ。抵抗できないんだし」

ツンデレ「い、嫌じゃないのアンタは!?」

男「だから嫌だよ。でも抵抗できないんじゃさ……」



18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:07:43 ID:2Nk9oFMY

ツンデレ「い、嫌ではあるんでしょ!?なら!」

男「ん?」

男(なんだ?なんかいい打開策が?それは願ってもない事だが)

男「なら、なんだよ」

ツンデレ「あ、アンタ……アタシの事抱きしめなさいっ……」



19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:11:21 id:ziFxBlTU

男「は、はあ!?」

男「今日二度目だぞこのセリフ!」

ツンデレ「そ、それは知らないわよ!それにちゃんと理由もあるの!」

男「どんな理由があるんだよ……」

ツンデレ「だ、だから、アタシを抱きしめると……ほら、アタシのにおいがアンタにつくじゃない」

男「まあ……そうだろうな」



21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:16:21 id:cU7PwXqA

ツンデレ「そしたら、ふしだらな女の人がアンタに変な事しようとしても、そのにおいに気づいてやる気を失うかもしれないじゃない!」

男「動物かなんかかよ……」

ツンデレ「うるさい!女の人はそういうにおいに敏感なの!ほんとなんだから!」

ツンデレ「それにあわよくばアタシのにおいをか、か、彼女がいる証拠として受け取られたら、彼女持ちかと思って萎える人とか良心が働く人とかもいるかもしれないでしょ!」

男「うーん……」

男(一理あるようなないような)



23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:19:46 id:kWCBO95w

ツンデレ「な、納得できなくてもいいわよ」

ツンデレ「どうせアンタは逆らえないし」

男「まあなぁ」

ツンデレ「だからは、は、早く抱きしめなさいよ///」カアアー

男「わかったよ……」

男(いや、でも言ってる事はむちゃくちゃだけど)

男(こいつ見た目かわいいからめっちゃ照れるぞこれ)



24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:23:22 id:JBVepFRM

ツンデレ「だ、抱きしめる以外に変な事しないでよね。したら大声出すから!」

男「わかってるよ」

ギュ

ツンデレ「なっ、も、もっとその……密着させなさいよ!」

男「ええ……?」

ツンデレ「に、においつかなきゃ意味ないんだから当然でしょ!早くしなさい!」

男「わ、わかったよ」

ギュウ



25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:26:54 ID:3qR.b/Iw

ツンデレ「あ……///」

男(うおお、二つの普通サイズの膨らみがあたって……)ドキドキ

ツンデレ「ん……///」

男「あ、あのーツンデレさん?」

ツンデレ「な、なによ?」

男「これいつまで抱きしめてればいいのかーと……」



26: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:33:40 id:hQOMJuAo

ツンデレ「ま、まだまだよ!においってなかなかつかないんだから!」

男「マジか……」

男(正直やわらかいわすげーいいにおいするわで大変なんだが)ドキドキ

ツンデレ「ほ、ほら!抱きしめるのも弱くなってるわよ!もっと強く抱きしめるの!」

男「は、はいはい」ギュウ

ツンデレ「も、もう!そんなに早く終わりたいなら、アタシの頭を、その……」

男「な、なんだ?」

男(生殺しだわこっ恥ずかしいわで早く終えたい、でも終えたくないような……)ドキドキ

ツンデレ「その……手でアンタの胸元に軽く押しつけるようにして……髪を撫でなさい」



27: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:36:28 id:JBVepFRM

男「そ、それでどうして早く終えれるんだ?」

ツンデレ「か、髪は一番においがでるからよ!アタシだって恥ずかしいんだから早くして!」

男「わかったよ……どうせ逆らえないしな」

ギュ ナデナデ

ツンデレ「ふわっ……///」フニャ



28: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:40:46 id:FtCfsR/Y

男「こ、こうか」ナデナデ

ツンデレ「そ、そうよ、それでいいの」

男「ん」ナデナデ

ツンデレ「えへへ……///」

男「ん?もしかしておまえ今なんか笑った?」

ツンデレ「!笑ってないわよ!なんでこの状況で笑うわけ!?」

男「い、いや勘違いだったな、すまん」

ツンデレ「まったく……早く続けなさいよ」

男「お、おう」ナデナデ

ツンデレ「……ふふっ///」ポソッ



29: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 00:44:51 id:JBVepFRM

ツンデレ「そ、そろそろいいわよ。終わり」

男(結局昼休み目一杯使いやがって……)

ツンデレ「うん、多分においついたと思うわ」クンクン

男「まあそれならよかったが……」

ツンデレ「で、でもすぐ消えちゃうと思うから……その」

男「なあ、まさかだけど……」

ツンデレ「ま、毎日するわよ!」

男(やっぱり……)



33: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 14:42:25 id:nxnfLXRE

放課後

男 キョロキョロ

元気娘「男ー!」バチン!

男「いてっ!」

元気娘「なにびくびくしながら歩いてんの?」

男「わかってるならいきなり叩くなよ……めちゃめちゃびびっただろうが」



35: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 16:08:28 id:wKrchbzk

元気娘「ん?ああ、例の権利で怯えてるのね」ケラケラ

男「こっちとしては笑い事じゃねえんだよ」

元気娘「男なんかじゃビッチ達もその気になんないよー、あははっ」

男「まあそれはそうだったけど……」

男(となると幼なじみとツンデレはなんで……まあいい思いしたからいいか)



37: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 16:12:28 id:YSYGYDwU

元気娘「まあまあ、もしかしたらあたしみたいにかわいくて、それでいて男みたいのが好きっていう珍しい女の子に迫られるかもしれないじゃんか?」ニヤニヤ

男「いや、おまえみたいなペッタンコはあんまりいないと思うが」

元気娘「ペッタンコってゆーな!」

男(かわいいのはほんとだが……こいつには恥ずかしくて言えない)



38: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 16:15:58 id:zU6nJxVQ

元気娘「努力はしたんだよ!?毎日牛乳飲んでストレッチして、それでもこれなの!」ペターン

男「ごめん。俺知らなかったんだ、ごめん!」

元気娘「そんな本気で謝るのもやめてよ!ますますみじめだよ!」

男(相変わらず楽しいなこいつと喋るの)ニヤニヤ



42: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 17:07:21 id:zB8BMkLw

元気娘「もー!そんなにあたしに魅力がないって言うのなら!」ガシ!

男「な、なんだよ。離せって」

元気娘「ダメ!いいからきて!」

男「どこにだよ」

元気娘「中庭!」



43: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 17:10:22 id:zB8BMkLw

中庭


元気娘「あー気持ちいー」

男「…………」

元気娘「どう?こういうとこでするのもいいもんでしょ?」

男「なあ」

元気娘「なに?」

男「腕枕ってさ……別にエロい事じゃないよな?」



44: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 17:15:26 id:d0de4OOs

元気娘「うーん、でもあたしは見ず知らずの人にはしたくもされたくもないよ?」

男「それはそうだろうけどさ」

男(でもカップル以外ではたしかにあんまやんないし……微妙だな)

元気娘「それよりどう?中庭で寝転ぶのも気持ちいいでしょ?ここ夕方になると陽があたってポカポカしてさ」

男「まあたしかにいい場所だな」

元気娘「そうでしょ」フフン



45: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 17:18:47 id:lNAzFIRQ

元気娘「で、どう?」

男「だからいい場所だなって」

元気娘「じゃなくてさ」ズイ

男「な、なんだよ?近いって」

元気娘「こんな近くに女の子が寝転んでてさ、ドキドキしない?」ニヤニヤ

男「…………」

男(まあ正直ドキドキしてるが……今日ドキドキしすぎだろ俺)ドキドキ



46: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 17:21:34 ID:4Mw81Db6

元気娘「お?黙ったってことは肯定かな?」ズイ

男「だから近い近いって!」

男(息がかかってる!やべー顔熱い!赤くなるなよ俺の顔!)

元気娘「ふふ、まあそういう事にしておいてあげようかな」スッ

男「くっ……」カアアー



47: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 17:24:01 ID:4Mw81Db6

元気娘「ふわぁあ……」

男「眠いのか?」

元気娘「うん……」ゴシゴシ

男(まああれだけ元気に学校生活おくってればな)

元気娘「ちょっと寝るね……」

男「うん……うん?」



49: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:00:51 ID:0oyL9QX2

男「お、おいそれは」

元気娘「すー……すー……」

男「はや!」

元気娘「すー……すー……」

男「まあ、疲れてるのかな……」

元気娘「ん……」



50: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:03:27 ID:3qR.b/Iw

元気娘「んん……」ゴロン

男「!?」

男(寝返りうった時にスカートめくれて……水色か……)

元気娘「すー……すー……」



51: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:06:49 ID:A9/9CxhY

男(しかしこいつ、胸はないが……)

男(尻はかなりの美尻だ……プリンとしていて形がいい)

元気娘「ん、すー……すー……」

男 ジー



53: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:27:04 ID:4Mw81Db6

30分後

元気娘「ん、んん……」パチ

元気娘「あれ……?あたし……あ、そっか」クル

男「おはよ」

元気娘「おはよー」ニコ



54: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:29:53 id:zB8BMkLw

元気娘「よく寝たー」ノビー

男「熟睡してたな」

元気娘「えへへー」

男「もう帰るぞ。いい時間になったし」

元気娘「そうだね」スク

元気娘「ん……?ああーーーー!!」



55: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:33:29 id:MmokWMXo

男「なんだよいきなり」

元気娘「す、スカートが……」パタパタ

男「あ……」

男(気づいたか。まあパンツ丸出しのままで帰られてもまずいし、注意しづらいしよかったかな)

元気娘「ねえ……男?」

男「ん?」

元気娘「あたし起きた時に……男に背を向けて寝てたと思うんだけど……」



56: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:36:38 ID:.y.WKFXI

男(げっ!変なところで勘がいいなこいつ!)

男「い、いやそんな事は……」

元気娘「うそ!目およいでるもん!」

男「な、なんの事だかさっぱり……」

元気娘「あたしの目を見て言ってよ!」ズイ

男(近い近い今までで一番近い!)



57: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:38:51 ID:.y.WKFXI

元気娘「見たんでしょ……正直に言って」

男「う……はい」

元気娘「ど、どのくらい?」

男「ほとんどずっと……」

元気娘「……ううーっ///」カアアー!



58: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:40:47 id:NKKMV9q.

元気娘「男のえっち!」

男「ご、ごめん」

元気娘「えっち!えっちえっち!」

男「悪かったよ……」

元気娘「ううーっ!」カアアー!



59: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:42:28 id:h8LibrDo

元気娘「罰として……」

男「え……?」

元気娘「これから学校ある日は毎日、あたしの枕になること」

男「え!?」



61: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:49:17 id:kUVhT4mI

男「な、なんだそれ!」

元気娘「だってずっとここで寝るための枕欲しかったし……でも学校に持ち込めないし」

男「だからっておまえ……」

元気娘「ふーん?逆らうの?」

男「うっ……」



63: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:52:41 id:kWCBO95w

元気娘「まあ腕枕ってエッチな事か微妙だから、もしかしたら男も逆らえるかもしれないけど」

男「な、ならやっぱり断r」

元気娘「でもさ、そうなったらみんなに言っちゃうよ?あたしの下着ずーーっと見てたこと」

男「うっ!?」

元気娘「30分ずーーっと見てたってばらしちゃうよ?」



64: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:55:13 id:kWCBO95w

男(やばい!こいつはこの明るさゆえに女友達が多い!)

元気娘「幼なじみちゃんにもばらしちゃうよ?」

男「なっ!?」

元気娘「いいの?」

男「そ、それはやめろ!あいつは昔から怒るとめちゃめちゃこわいんだから!」



65: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 18:57:46 ID:7FNr0rl.

元気娘「じゃあできるよねー?」

男「ぐ……わかったよ」

元気娘「やった♪」

男「く……」

元気娘「じゃ、また明日ねー枕ー♪」タタタ

男「はあー……俺も帰ろ……」



66: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 19:00:54 id:idYMxGAo

幼なじみ家

幼なじみ「えへへ……///」

幼なじみ(キスしてもらっちゃった……男から)ニヨニヨ

幼なじみ(顔真っ赤になっちゃったけど、男も真っ赤になってた……)

幼なじみ(ふふ、かわいい♪)ニヨニヨ

幼なじみ(明日はもうちょっとだけ……積極的にお願いしようかな)



67: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 19:03:50 ID:5jdhLzbA

ツンデレ家

ツンデレ「はー……」ポー

ツンデレ(アイツ……あったかかったな……)テレテレ

ツンデレ(もっと昼休み長かったらいいのに……もう)

ツンデレ「あ……」

ツンデレ(そうだ、明日はこの作戦で……)



68: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 19:07:37 id:qrkmDqJ2

元気娘家

元気娘「ふふー♪」

元気娘(絶対ドキドキしてたよね男ってば)ニヤニヤ

元気娘(しかもけっこう腕たくましかったな……)

元気娘(下着見られちゃったのは恥ずかしくかったけど……)

元気娘(でも、下着見たいってことは、あたしもちょっとは女の子として見られてるんだよね)

元気娘「よし!」

元気娘(明日はもうちょっとアピールしてみよっと!)



74: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:21:46 id:cU7PwXqA

翌日

幼なじみ「男ー、起きなよー」ユサユサ

男「んん……」パチ

男「おお……毎朝サンキュ……」ボー

幼なじみ「えへへ、男?」

男「んー?」ボー

幼なじみ「今から……おはようのキスしてあげるね」

男「は、はあ!?」



75: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:24:05 id:FMMSAyDc

幼なじみ「あ、口にじゃないよ?」

男「そ、そうじゃなくておまえ……!」

幼なじみ「いいから、ほら目つぶって?」

男「う……ん」スッ

幼なじみ「ん……」



76: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:26:51 id:bZjiKA1I

チュッ

男「なっ……!」カアアー

幼なじみ「ふふ///」

男「おっ、おっ、おまっ、ほほほとんど口に……」

幼なじみ「ぎ、ぎりぎり口じゃないよ?嘘いってないもん///」

男「く……」カアアー



78: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:31:13 id:aR1.FZXM

男(や、やばい……キスだけでもやばいのにてっきり頬っぺたかと思ってたから不意打ち効果で)カアアー!

幼なじみ「男、真っ赤だよ……///」

男「なっ、違う!」

幼なじみ「お、男?」

男「つ、次はなんだよ?」

幼なじみ「その……今度は男がわたしにして///」

男「っ!」ドキン!

幼なじみ「今わたしがしたのと同じ場所に……///」



80: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:34:18 id:XUELocDs

男(くっ、どうせ逆らえないなら)スッ

男「ほ、ほら目つぶれ」

幼なじみ「や、やだ///」

男「なっ!?」

幼なじみ「ふふ///」



81: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:36:25 id:XUELocDs

幼なじみ「わたしは男に逆らえないわけじゃないから///」

男「なっ、なっ……///」カアアー!

幼なじみ「キス顔見てあげる///」

男「ぐ……ううう………」



82: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:38:33 id:XUELocDs

男(も、もうやけだ!)

男「じゃあ、その……いくぞ?」

幼なじみ「うん……///」

男「くっ……」

幼なじみ(男、かわいい///)

チュッ



83: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:42:37 id:xLcs1JbE

男「こ、これでいいだろ///」カアアー!

幼なじみ「うん……///」

男「め、飯食ってくる」タタタ

ガチャ バタン

幼なじみ「ふ、ふふ///」ニヨニヨ

幼なじみ「はしっこにちょっと触れちゃったかも……ふふ///」パタパタ



84: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:48:23 id:TX6ziS0U

昼休み


ツンデレ「ほら、行くわよ」

男「なあ、昨日みたいに昼休み目一杯使うのか?」

ツンデレ「と、当然じゃない。そのくらいじゃないとにおいつかないんだから」

男「せめて昼飯を買いに行きたいんだが……抱きしめながらじゃ食べれないけど次の授業でこっそり食うからさ」

ツンデレ「だ、ダメよ!買いにいってる時間もおしいんだから!」

男「俺の昼飯は……」

ツンデレ「それはこっちで用意してるから……」

男「え?」

ツンデレ「い、いいから!来ればわかるの!」グイグイ

男「こ、こら引っ張るな!」



85: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:52:43 id:CEU60awA

体育館裏

男(正直これが一番こっ恥ずかしいし……早くやってしまうか)

男「昨日のやるんだろ?ほら」スッ

ツンデレ「っ!!」キュンッ

男「ん?」

ツンデレ「な、なに両手ひろげて『こいよ』みたいなポーズしてんのよ!」ドキドキ!

男「え?だって……」

ツンデレ「き、今日は昨日とはちょっと違うの!そこに座って!」



86: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:55:20 id:hQOMJuAo

男「そこってあの段差になってるとこか?たしかにあそこなら汚れなさそうだけど」スッ

男「よいしょっと」ストン

男「で、どうするんだよ?」

ツンデレ「あ、アタシがアンタの膝の上に座るの///」



87: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 20:59:51 ID:3qR.b/Iw

男「もうさすがに驚かないが……なんでだ?」

ツンデレ「こ、これよ」スッ

男「弁当箱?」

ツンデレ「アンタの言う通り、たしかにお昼食べれないのは悪いと思ったから……」

男「えっ、作ってきてくれたのか?」

ツンデレ「そ、そうよ!だって時間目一杯使わなきゃいけないし、でもお昼食べれないのは悪いからこうするしか……!」

男「ん、ありがと」

ツンデレ「!」

ツンデレ「ふ、ふん///」カアアー



88: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:02:47 id:yVpeh3UU

ツンデレ「じ、じゃあ座るわよ」

男「ん、おう」

ツンデレ ドキドキ

ストン

男(うっわ!こいつかるっ!なのにやわらか!そして相変わらずすげーいいにおいする!)

ツンデレ「////」カアアー!



90: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:07:03 id:Hhun9V8I

ツンデレ「あ、でも……」

男「ん?」

ツンデレ「同じ向きに座ってたら食べさせづらいかも……」

男「ん?食べづらいじゃなく、食べさせづらい……?」

ツンデレ「だ、だって……」

ツンデレ「ただ膝の上に座らせるだけじゃなくてアンタに抱きしめてもらわないと……においつかないでしょ」

男「ってことはまさか……」

ツンデレ「アンタが抱きしめるのに手がふさがるから……アタシが食べさせてあげるしかないじゃない///」カアアー



92: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:10:02 ID:5jdhLzbA

男「なっ!それはさすがに!」

男(恥ずかしすぎるだろ!それ!)

ツンデレ「な、なによ、抵抗できないんでしょ?従いなさいよ」

男「く……」

ツンデレ「ふ、ふん。それでいいのよ」

ツンデレ「じゃあアタシ、横向きに座るから」スク

男 ドキドキ

ストン



94: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:14:54 id:hQOMJuAo

男「!!」

男(こ、これはやばい!方向的にさっきよりずっとツンデレの顔がハッキリ見えるから……)ドキドキ

ツンデレ「///」ドキドキ

ツンデレ「ほ、ほら!やらしい目で見てないで抱きしめなさいよ///」ドキドキ

男「あ、ああ」ドキドキ

ギュウ

ツンデレ「んっ……」フルフル

男「…………」

男(こいつ顔真っ赤にしてふるえて……かわいいな)ドキドキ



95: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:17:04 ID:f.XLGBmg

ツンデレ「じ、じゃあほら」カタ パカ

男「ん?」

ツンデレ「く、口あけなさいよ///」ドキドキ

男「え、あ、ああ」スッ

ツンデレ「あっ、やっぱり待って!」

男「え?」



96: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:20:50 id:I23lh.t6

男「今度はなんだよ」

ツンデレ「…………」ドキドキ

ツンデレ「すー……はー……」

男(なんで深呼吸してんだ?)

ツンデレ「…………」グッ

男「もういいのか?」

ツンデレ「う、うん」

男「じゃあ頼む」スッ

ツンデレ「う、うん」ドキドキ

ツンデレ「…………」ドキドキ

ツンデレ「あ、あーん///」スッ

男「!?」



97: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:24:37 id:zh7HH2dg

男(い、いつもとげとげしいツンデレの声でこの甘い言葉……)ドキドキ

ツンデレ「あーん///」ドキドキ

男(クラスの男子連中金払ってでも見たがるぞ)ドキドキ

ツンデレ「はっ、早く食べなさいよ……!」カアアー!

男「わ、わるい!」

ツンデレ「あーん///」

男「あ、あーん」ドキドキ

パク



99: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:28:43 id:cU7PwXqA

男 モグモグ

ツンデレ「ど、どう?」ドキドキ

男「ん、すげーうまいよこれ」

ツンデレ「!」パアア

男「ツンデレって料理得意だったんだな」

ツンデレ「ま、まあね///」

ツンデレ「じ、じゃあ次はこれ」スッ

男「え?」

ツンデレ「あーん///」

男「あーん///」

男(食べ終わるまで続くのかこれ……こっ恥ずかし過ぎる)カアアー



100: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:34:43 id:bZjiKA1I

男「ごちそうさま」

ツンデレ「お、お粗末さま」カチャカチャ

男「あ……」

ツンデレ「な、なによ?」

男「いや、なんでも……」

男(弁当箱片付ける為にその体勢とると隙間からブラも胸も見えて……)ジー

ツンデレ(美味しいって言ってもらえた……えへへ///)カチャカチャ

男(でかいわけでもないけど小さいわけでもない、これはこれで……)ジー

男(それにこいつの胸形きれいだなー。黄色の花柄のブラってのもとげとげしいツンデレとのギャップでまたいい……)ジー



101: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:40:47 id:ziFxBlTU

ツンデレ(ん?なにかあたって……)チラ

ツンデレ「きゃっ!!」ピクンッ

男「あ!!」

男(しまった!胸ばかり見てたら息子がたちあがって……!)

ツンデレ「あ……アンタっ……!」プルプル

男「待て!これは生理現象……」

ツンデレ「この……変態!」ブン!

ドガ!

男「ぐあっ!!」ドサッ

ツンデレ「サイッテー!」タタタ

男「ぐ……いい蹴り持ってるじゃねえか」

男「それに上下同じ下着とは……おまえはわかってるぜ……」ガクッ



102: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:46:08 id:Aq5EmMkU

放課後

元気娘「ちゃんと来てくれたねー」ニコニコ

男「ああ……おまえもバラすなよ」

元気娘「わかってるよー、さ、そこに寝て」ウキウキ

男「はー」スッ



103: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:48:40 ID:7FNr0rl.

元気娘「んしょっと」ストン

元気娘「はー♪やっぱちょうどいい枕だー♪」

男「そりゃけっこうなことで」

元気娘「あっ、今日はダメだよ?」バッ

男「スカート押さえんでも覗かねえよ、ばらされちゃたまらんし」

元気娘「よろしい♪」



104: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 21:51:41 id:bZjiKA1I

元気娘「ねー、また寝ていい?」

男「ああ……疲れてるなら家でもしっかり寝ろよ?」

元気娘「えへへ、うん♪」

男「ほら、起こしてやるから」

元気娘「ん、ありがと」

元気娘「…………」

元気娘「すー……すー……」

男「やっぱ寝るのはえーなこいつ」



106: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 22:30:24 id:cUKV5Ryo

元気娘(へへ、寝てないよ♪)

元気娘(でも寝てるふりして……)モゾモゾ ギュッ

男「なっ!?」

男(こ、こいつ抱きつき癖あるのか!?)

元気娘(えへへ、男あったかーい♪)

元気娘「すー……すー……///」

男(くあっ!寝息が耳にかかって……うあっ!)ゾクゾク!

元気娘「んん……///すー……すー……///」

元気娘(えへへー♪ほれほれえ♪)ギュウウウ

男「くっ……///」カアアー!



107: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 22:37:59 id:d0de4OOs

元気娘(これはちょっとやりすぎな気もするけど……)

元気娘(でもあたしだって昨日下着見られたし……いいよね?)

元気娘(えーい!やっちゃえ!)サワ

男(こ、こいつどこ触って……!)カアアー!

男「ふあっ」ビクッ

元気娘(わ!わ!大きくなってる!)

元気娘(それに男の声、かわいいよう……)

元気娘(やめらんなくなっちゃう……)サワサワ

男「くあっ!おっ、起きろおまえっ、んあっ!」ビクッビクッ

元気娘(さわさわぁ♪)サワサワ



108: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/16(木) 22:41:36 id:hQOMJuAo

30分後

元気娘「んーよく寝たー」ノビー

元気娘(ちょっとわざとらしいかな?)

男「うう……」モジモジ

元気娘「ん?なにモジモジしてるの?」

元気娘(にやけないようににやけないように……)

男「な、なんでもねえよ……っ」

男(くっ、くそっ、なんかもてあそばれた気分だ……)カアアー!

元気娘(ふふ、かーわいーい♪)



110: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:27:23 id:j9TFYL5E

ある日の朝

男「んっ……んっ……」チュッ…チュッ

幼なじみ「えへへ、あと10回だよ///」

男「んっ、く………」チュッ…チュッ

幼なじみ(しあわせぇ……///)



111: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:32:11 ID:A/0yYdbY

ある日の昼休み

男「お、おい、この体勢は……」

ツンデレ「う、うるさいわね、こっちだって恥ずかしいんだから文句言わないでよ///!」

男(だいしゅきホールドとかいうやつだろこれ!)

ツンデレ「……?どうしたのよ急にだまって?」

男「なっ!おまっ!やめろ!」グイッ

ツンデレ「きゃっ」

男(この体勢で上目遣いとか反則だ!理性がとぶ!)

ツンデレ(む、胸板に押し付けられちゃった……///)カアアー!



112: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:34:56 id:oOqYuWVo

ある日の放課後

元気娘「んー……これおいし……///」ペロペロ

男「ひあっ!どんな夢見てんだよっ!うあっ!」ビクッ!ビクッ!

元気娘(男かわいい///耳舐められてこんなに……はむっ)

男「ひあああっ!!」ビクンッ!



113: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:37:11 id:oOqYuWVo

1ヶ月後

幼なじみ「あの……今日は抱きしめながらおねがい///」

男「あ、ああ」ギュッ

幼なじみ「ふふ///」

チュッチュッ

幼なじみ「ふあ……///」



114: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:41:40 id:fkUUifCc

昼休み

ツンデレ「あ、あのね」

男「ん?今日はやんないのか?」

ツンデレ「その事なんだけど……アタシ先生に呼ばれちゃって」

男「そうなのか……じゃあ今日はなし?」

ツンデレ「ううん、かわりに放課後にしようかと思って……あいてる?」

男(元気娘は……じゃあかわりに昼休みにして勘弁してもらうか)

男「ああ、あいてるぞ」

ツンデレ「ん、じゃあ放課後ね」

男「おう」



115: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:44:20 id:GzTA5gE.

中庭

元気娘「んーっ!今日はいい天気だー」

男「悪いな、急に時間かえて」

元気娘「いいよー、むしろ今日は昼のほうがぽかぽかあったかいし」

男「たしかにいい天気だな」

元気娘「でしょ?さ、寝よ寝よ♪」



116: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:46:33 id:v7XJUnEM

元気娘「んん、すー……すー……///」ギュウウウ

男(うおおっ、今日はいっそう抱きつきが激しいですよ元気娘さん!)

元気娘(ほれほれ♪どきどきしちゃえ♪)スリスリ

男(くああ!)ドキドキ



117: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:54:08 id:De8nHfdQ

放課後

ツンデレ「じ、じゃあ今日もするわよ///」

男「あ、ああ」

男(やっぱ照れるなこれ)ストン

ツンデレ「よいしょっと……ん?」

男「な、なんだ?」



118: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:56:55 id:gvHAGAkE

ツンデレ「くん……くんくん……」

男「な!なににおい嗅いでんだよ!?」

ツンデレ「くんくん……」

男「うひゃっ!?やっ、やめろ!くすぐった……あははっ!」

ツンデレ「他の女の子のにおいがする……」

男「なっ!なに!?」



119: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 09:59:51 ID:9D7M5ghc

男(どうして急に……あ!)

男(今日は幼なじみの事も抱きしめたし、ツンデレより元気娘のほうが先だったからか!)

ツンデレ「しかも……二人?」

男「なっ……!」

男(こいつすげえ!まさか最初に言ってた事本当だったのか!?)

ツンデレ「ねえ……もしかして二人って……」



120: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:02:46 ID:5THsS4t6

男「え?」

ツンデレ「ビッチ1とビッチ2……?」

男「い、いや!それは……」

ツンデレ「あの二人、かなり遊んでるって噂だし……」

男「いや、だから……」

ツンデレ「無理矢理……されたの……?」ウルウル

男「っ!!」



121: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:05:03 ID:5THsS4t6

男「それは違う」

ツンデレ「…………」グス

男「これはその……幼なじみと元気娘の二人のにおいだ」

ツンデレ「え……?」

男「長くなるし、話せないところはとばすけど……」



122: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:07:31 ID:5THsS4t6

ツンデレ「そう……だったんだ」

男「うん……」

ツンデレ(あの二人も、男のこと……)

ツンデレ「と、とりあえず……」

男「ん?」

ツンデレ「今日のぶん、やるわよ」



123: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:11:50 id:b6SiAw6w

夜 男家

男「はー」

男(どうしたんだろうな、あの後のツンデレ)

回想

ツンデレ「っ!」ギュウウウ!スリスリ!

男「うっ、うおっ!?なんだ今日は!?」

ツンデレ「うっ、うるさい!」

男「!?」

ツンデレ「アンタは今日、これをしてる間は喋っちゃダメ。いい?」

男「…………」コク

ツンデレ「っ!」ギュウウウ!スリスリ!

回想終わり

男「はー」

男(まあ……すげー気持ちよかったけど)



124: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:14:20 id:b6SiAw6w

翌日 昼休み

男友「なんだ?今日はツンデレに呼ばれなかったのか?」

男「ああ」

男(今日は休み、って言われたが……)

男(何してるんだろうな)



125: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:18:01 id:cEXTmtwE

屋上

幼なじみ「ツンデレちゃーん?きたよー」

ツンデレ「ごめんなさい、急に呼びだして」

幼なじみ「それはいいけど……元気娘ちゃんも呼んだの?」

元気娘「うん。めずらしいね、ツンデレちゃんから話しかけて、それに用があるなんて」

ツンデレ「二人に……話しておきたい事があるのよ」



126: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:21:43 id:PahXTjVQ

幼なじみ「そう……だったんだ」

元気娘「幼なじみちゃんも、ツンデレちゃんも……」

ツンデレ「そうよ……アタシも、二人が男にそういう事をしてたって知ったのは昨日よ」

幼なじみ「そうなんだ……」

元気娘「…………」

ツンデレ「確認だけど……」

幼元「?」

ツンデレ「あなた達も……男のこと好きなのよね?」



127: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:23:49 id:N7zSuqgA

元気娘「うん……」

幼なじみ「そうだよ……ずっと好き」

ツンデレ「なら……今まで通りにはできないわよね」

幼なじみ「うん……」

元気娘「あたしもそう思う……」



128: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:27:29 ID:1VIXoEE.

ツンデレ「アタシも、アイツの事好きだから……断れないのをいいことに、卑怯だけどアプローチしてきた」

ツンデレ「でも、他に純粋にアイツの事好きな人がいるなら……きちんと決着つけなきゃ、とアタシは思うの」

幼なじみ「…………」

元気娘「うん……」

ツンデレ「それで……提案があるんだけど……」

幼なじみ「……なに?」

元気娘「どんな?」



129: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:30:50 id:vGprIYfs

ツンデレ「アタシ達三人で……男に告白するの」

幼元「!!」

ツンデレ「それで……選ばれたコ以外は、もう男にいつもしてたような事はしない」

幼なじみ「もしも……誰も選ばれなかったら?」

ツンデレ「その時は、アタシ達三人とも、もう二度とああいう事はしない」

元気娘「…………」



130: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:35:07 id:I3cBW4ts

ツンデレ「告白っていうのは、本人の気持ちが大切だから……この提案に二人が乗らなくても全然かまわないわ」

元気娘「でも、それでもいつかは……」

幼なじみ「そうだね……結局いつかは、ツンデレちゃんの言う決着、つける日が必ず来ると思う」

幼なじみ「だから……わたしはいいと思う。その方法」

元気娘「あたしも……勇気だすよ。男に告白する」

ツンデレ「……決まりね」



131: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:37:17 id:I3cBW4ts

夜 男家

男「ん?メールだ。幼なじみか」

『わたしの部屋に来て。ベランダから』

男「いつもは危ないって怒るのにどうしたんだ?」カラカラ

男「よっと」ヒョイ



133: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:39:49 ID:5THsS4t6

幼なじみの部屋

男「きたぞー、って、え?」

ツンデレ「…………」

元気娘「あはは、こんばんはー……」

男「どうして二人が……」

幼なじみ「男に……大切な話があるからだよ」

男「え?」



134: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:42:01 ID:5THsS4t6

ツンデレ「本当に、本当に大切な話よ」

元気娘「だから……よく聞いてね」

男「……ああ」

幼なじみ「すー……はー……」

男「…………」

幼なじみ「わたしは、男のことが好き」



135: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:44:40 id:RqR7FyI.

男「!!」

幼なじみ「子供のころからずっと好き」

幼なじみ「いっつもわたしの事を気にかけてくれてた男が……大好きです」

男「……ありがとう」

幼なじみ「えへへ……」



136: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:48:28 id:IWPxpIXU

ツンデレ「つ、次はアタシね」

男「え?」

ツンデレ「あっ、アタシもね……アンタの事が好きっ」

男「え、ええ!?」

ツンデレ「とげとげしいとか、無愛想だとか言われるアタシに、アンタはずっと普通に話しかけてきてくれたから……」

ツンデレ「だからアタシはアンタが好き……大好き」

男「うん……」

ツンデレ「ちゃ、ちゃんと聞いてくれた……?」

男「うん……ありがとう」

ツンデレ「ふ、ふふ……」ニコ



137: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:50:37 id:IWPxpIXU

元気娘「えへへ……ここまで来たらわかっちゃうと思うけど……」

男「……ちゃんと聞くよ」

元気娘「えへへ……ありがと」

元気娘「あたしも、男が好きだよ」



138: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:53:20 id:g5WaeqU6

元気娘「男は、あたしと話すの楽しいって言ってくれるけど……」

元気娘「あたしも、男と話す時、すごく楽しいの」

元気娘「だから、これは、大好きなんだ、って気持ちなんだと思う」

男「ありがとう」

元気娘「うん……へへ」ニコ



139: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:55:47 ID:7g/Zlm4Y

幼なじみ「……男」

ツンデレ「だから……選んでほしいの」

元気娘「男は、誰が好きなのか……それとも、誰も、恋愛対象ではないのか」

幼なじみ「……教えて」

男「…………」



140: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 10:58:10 id:HuQhtF4A

男「…………」

幼なじみ「…………」

男「……俺は……」

ツンデレ「…………」

男「…………っ」

元気娘「…………」



男「みんなの事が……好きです」



141: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 11:02:38 id:SZeDsaVY

幼ツ元「!!!」

男「ごめんなさい!!」バッ!

男「優柔不断だけど……不純だけど……土下座でも許してもらえないだろうけど……」

男「でも、みんなが真剣に告白してくれたのに、嘘は言えません!」

幼なじみ「…………」

ツンデレ「…………」

元気娘「…………」

男「…………っ!」

男(殴られる……かな。当然だよな……)

ギュッ

男「え……?」



142: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 11:05:23 id:SZeDsaVY

幼なじみ「よ、よかった……」

ツンデレ「予想外だけど……これは」

元気娘「全員選ばれた……って事だよね」

男「お、おい……どうして抱きついて……」

幼なじみ「大丈夫だよ、男」

男「え……?」



143: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 11:09:28 ID:7g/Zlm4Y

ツンデレ「アンタがそう言うなら……」

元気娘「あたしたちは、それでいいの」

男「でも、こんな女たらしな答で……」

幼なじみ「それでもね」

ツンデレ「アタシ達は、アンタに好きって言ってもらえた事がうれしいの」

元気娘「うん……そうだよ。嘘じゃないよ」

男「おまえら……」

男「……ありがとう。俺もうれしい」

幼ツ元「うん♪」



144: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 11:12:30 id:ODd/LhQs

幼なじみ「そ、それでね、男」

男「ん?」

ツンデレ「アンタの気持ちを疑ってるわけじゃないんだけど……」

元気娘「その……キスしてほしいなー、なんて……えへへ///」

男「っ!」カアアー!

男「う、うん……」



145: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 11:17:22 id:v7XJUnEM

幼なじみ「えへへ///」スッ

男「お、幼なじみからでいいのか///」

幼なじみ「うん……わたしが一番男を好きでいる時間が長いからって、二人が」

元気娘「ふふ、子供のころからだもんね」

ツンデレ「アンタのファーストキスはほしかったけど……これからいっぱいすればいいし」

幼なじみ「ありがとう、二人とも……」スッ

男「口は……なんだかんだで初めてだな」

幼なじみ「はっきり口にするのは恋人になってからって決めてたから……」

男「幼なじみ……」

幼なじみ「ん……」

チュ



146: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 11:20:02 id:V6QrJRYs

男(うわ、頬っぺたより全然やわらかい……)

幼なじみ「ん、んん……」

男(それに、甘い味が……幼なじみ……)

幼なじみ「ん……ふう///」スッ

男「そ、その……すごいよかった///」ドキドキ

幼なじみ「えへへ///」ドキドキ



150: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 18:36:16 ID:aX/YAovk

ツンデレ「つ、次はアタシとだから……」

男「お、おう」

元気娘(うう、なんであたしジャンケン弱いんだよう……)

ツンデレ「ほ、ほら、目つぶってよ……恥ずかしいじゃない……」

男「す、すまん」スッ

ツンデレ「ん……」

チュッ



151: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/17(金) 18:39:09 id:v7XJUnEM

ツンデレ「んんっ……ん……ん」グイ

男「んうっ?」

男(やべ……この甘えるような、ねだるようなキス……)

男(あのツンデレがこんなキスを……と思うとよけいに……)クラクラ

ツンデレ「んん……ふ……ん」スッ



152: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 02:53:38 id:TPErT7Wg

男「そ、その……」

ツンデレ「な、なによ///」ドキドキ

男「すごくかわいかったです………」カアアー

ツンデレ「っ!!」カアアー!

ツンデレ「そ、そう……ふふ///」



153: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 02:56:04 id:HOgLML5U

元気娘「やっとあたしの番だよー」

男「そ、そうだな」

元気娘「ふふーん、男ー?」ニヤニヤ

男「な、なんだその目h」

元気娘 バッ!

男「!」

チュッ!



154: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 02:58:51 id:sWqUW0Yk

元気娘「んんー♪」チュウウ

男「ん!?んん!」

男(くっ!けっこう吸い付きが激し……)

男(イメージ通りと言えばイメージ通りだが……)

元気娘「ふふ♪ちゅうう♪」チュウウ

男「んんっ!」ビクッ

元気娘「ぷはっ♪」スッ



155: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 03:01:07 id:yWsY1tpo

元気娘「へへー♪」ニヤニヤ

男「や、やってくれたな///」カアアー!

元気娘「我慢できなかったの♪」ニヤニヤ

男「くっ……」

男(かわいい事言ってんじゃねえよちくしょう)ドキドキ



157: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 08:08:56 ID:71CRnsUE

幼なじみ「んっ……」フルフル

元気娘「お、幼なじみちゃんも?」

ツンデレ「あ、アタシもよ……」

男「…………?どうしたんだ?おまえら……」

幼なじみ「そ、その……///」

元気娘「あはは……あたしたちさ……」

ツンデレ「なんか……体がムズムズして……」



158: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 08:17:13 id:d1q5kac.

男(なんだ?みんな目がトロンとして……)

元気娘「あはは……予想外にみんな幸せになれたから、テンション上がっちゃったのかな……///」

ツンデレ「その……こればっかりは、命令じゃなくてアンタの意思じゃないとできない事だから……」

幼なじみ「だから……命令じゃなくて、お願いするね……」

元気娘「男……あたしたちと……」

ツンデレ「アタシ達を……その……」

幼なじみ「精一杯……愛してください……今夜」

男「……ああ」

男「一生懸命愛するよ、みんなの事」



159: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 08:22:38 id:Si2A/KHE

幼なじみ「は、恥ずかしいから向こう向いててね……///」

男「あ、ああ」

ツンデレ「あ、アタシ達も裸になるんだから、アンタも脱いでおきなさいよ///」

男「わ、わかってる」

元気娘「男、えっちなのはわかるけど、少しの間だけ見ないでね///」

男「く……まだパンツ見たこと根にもってるのか」

男(し、しかしついに童貞卒業か……)ヌギヌギ

男(しかも、大好きな三人と……)ドキドキ



160: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 08:24:11 id:Si2A/KHE

幼なじみ「も、もうこっち向いていいよ……」

男「お、おう」クル

男「!!!」



161: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 08:28:28 ID:/x/FnEuk

幼なじみ「あ、やっ……///」モジモジ

ツンデレ「な、なによ///じっくり見ないでよ///」カアアー!

元気娘「うう……恥ずかしいよう……」カアアー!

男「はあ……はあ……」バクンバクン!

男(あまりの恥ずかしさに両手を使って必死に胸とアソコを隠して前屈みになる美少女×3……)

男(ここが桃源郷か……)



162: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 08:31:36 id:TPErT7Wg

男(そ、それにしても……)ジー

幼なじみ「お、男ぉ……」タユン

ツンデレ「やっ、そんなにじっくり……」ポヨン

元気娘「うう……男がえっちな目で見てくるよ……」ペタン

男(あらゆるニーズに対応できそうだな……)



168: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:02:53 id:zVWq8QSU

男「じゃあ、ツンデレと幼なじみはこっちきて」

幼なじみ「う、うん」スッ

ツンデレ「わかった……」スッ

ギュッ ムニュ

幼なじみ「きゃっ///」

ツンデレ「あっ///」

男(右手に巨乳、左手に美乳……なんとぜいたくか……)モミモミ

幼なじみ「あっ、あんっ///」

ツンデレ「んんっ、ふあっ///」

男「そ、それで元気娘はその……俺のこれを、して欲しいんだ」

元気娘「う、うん、いいよ///」



169: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:07:02 id:feox.Rfc

モミモミ ムニュ

ツンデレ「ひゃっ!んっ!乳首はだめぇ……」ピクッピクンッ

幼なじみ「んっんんっ、男ぉ……」ハアハア

男(はあっ、はあっ、た、たまらん)モミモミ

元気娘「……あの、男?」

男「な、なんだ?」ハアハア



170: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:10:43 ID:7P2WIej.

元気娘「もしかしてだけど……あたしだけ胸揉まないのはサイズの問題?」ペターン

男「えっ!?いっ、いや!そんなつもりは!」

ツンデレ「んっ!はあっ、はあっ」

幼なじみ「お、男、うれしい?」ハアハア

男「あ、ああすげーうれしい……あ」

元気娘「うううーーーっ」プウー!



171: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:14:16 id:pc9.euIs

男「いや、そうじゃなく!たしかに幼なじみとツンデレの胸は気持ちいいけど!」

元気娘「ふんだ……いいもん……」

元気娘「男も幼なじみちゃんもツンデレちゃんも、みんな恥ずかしい目にあわせてやるもん」スッ

男「お、おい、なに二人の服をあさって……あ」



174: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:18:49 id:d1q5kac.

元気娘「ふふー♪」ピラピラ

男「そのピンクと黄色の小さな布はまさか……」

幼なじみ「あっ、ちょ、ちょっと元気娘ちゃん!?」カアアー

ツンデレ「ちょ、ちょっとやだ!それアタシ達の……!」カアアー

元気娘「ふふふ、男ー?」

男「な、なんだよ?」

元気娘「ツンデレちゃんと幼なじみちゃんのこと、きちんとおっぱい揉み続けるんだよ?」

元気娘「離さないようにね」ニヤニヤ



175: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:25:09 id:iRNMdIJ6

元気娘「まずはほら、幼なじみちゃんの」ピラ

幼なじみ「あっ、ひ、広げて見せないでよ!」カアアー!

元気娘「ほら男、見える?ヒラヒラのレースつきだよ?かわいいよねー」ニヤニヤ

幼なじみ「あ、あうう///!見ないでよ男ぉ!」

男「そ、そんな事言われても……」ジー

元気娘「ほらほら、見つめるのもいいけど揉んであげなきゃ」

男「あ、ああ」モミモミ

幼なじみ「あんっ!もうっ、やだぁ……」カアアー!

ツンデレ「ま、まさか次はアタシ……あんっ///!」ピクンッ

元気娘「ふふー、そのまさかー♪」ピラ



177: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:29:49 id:C9wTUcFU

元気娘「ほら男、見える?ちょうちょがいっぱいかかれてるの」ズイ

男「あ、ああ」ジー

ツンデレ「やっ!そんな近くで見せないでよぉ!男も見るなぁ!あんっ!」ピクンッ

元気娘「ツンデレちゃんってね、意外とかわいい下着が好きなんだよ?他にも更衣室で見たのは花柄とかハート柄とか」ニヤニヤ

ツンデレ「やあっ!なにバラしてるのよぉ!」カアアー!



178: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:34:36 ID:hP/dp8rU

元気娘「あれ?二人とも下着にシミがついてるよ?」ニヤニヤ

幼ツ「!?!?」ビクッ!

元気娘「ほらほら男も見てごらん♪」スッ

ツンデレ「やあ!それだけはぁ!」バタバタ!

幼なじみ「見ないでぇ!恥ずかしくてしんじゃうよぉ!」バタバタ!

男「はあっ、はあっ」ジー

ツンデレ「やっやだあ……」ボンッ!

幼なじみ「あうう……」ボンッ!

男「いや……ないぞ?シミなんて」

幼ツ「……え?」

元気娘「あははっ!ひっかかったー!」ケラケラ



179: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:39:27 id:BjsQVzWY

幼なじみ「も、もー!!」カアアー!

ツンデレ「元気娘ちゃん!!」カアアー!

元気娘「ふふふー♪でも恥ずかしいことはするよ?」ニヤニヤ

元気娘「二人の一番大事な場所を包んでた部分を、男のに巻きつけて……」スッ

幼なじみ「あっ……///」

ツンデレ「う、うう……///」

元気娘「ふふ、これでこすってあげるねー男♪」

男「あ、ああ」ドキドキ



180: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:44:01 id:feox.Rfc

元気娘「んしょっ……んしょっ……」ゴシゴシ

男「あっ、ああっ」ビクン!

元気娘「ふふ、二人のアソコのぬくもりがまだ残ってるでしょ?」ゴシゴシ

男「あ、ああ、あったかくて、すげー気持ちいい……」ハアハア

元気娘「それを、あたしの手でこすってあげてるんだよ?」ゴシゴシ

男「はあっ、はあっ、ああ、たまんない……」ゾクゾク

幼なじみ「あっ、あんっ……」

ツンデレ「んっ、ふうんっ……」ピクンッ



181: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 14:50:46 id:TPErT7Wg

元気娘「ふふ、せっかくだからあたしの下着も」スッ

男「あっ!」ビクッ!

元気娘「ほらほらあ♪さきっぽにあたしのアソコを、間接タッチさせてるよ?」グリグリ

男「うあっ!」ビクン!

元気娘「ふふ、気持ちいいんだ?あたしたち三人のアソコに、間接的にでも包まれてるんだもんね♪」グリグリ

男「うっ、くっ、ああっ!」ビクン!

元気娘「出しちゃってもいいよ?下着汚れちゃうけど……ね?二人とも?」

幼なじみ「うっ、うん、男なら……あっ、あんっ!」

ツンデレ「あっ、アタシも、いいわよ、んあんっ!」

元気娘「ふふ、そういうわけだから……」グリグリ

元気娘「イっちゃえ、男♪」ゴシゴシグリグリ!

男「くっ、ああああ!」ビクン!



182: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 15:04:23 id:TknIV2zc

ドピュ!ドピュドピュ!

元気娘「わっ!」

幼なじみ「す、すごい、あんなに……」

ツンデレ「初めて見た……」

男「はあっ、はあっ」ブルブル



184: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 21:39:55 id:M8GfKdJo

元気娘「んふふー、下着3枚ともベトベトになっちゃった。それで、次は?」

男「つ、次……?」ハアハア

幼なじみ「そ、そうだね」

ツンデレ「次は……どうすればいいの?」ドキドキ

男「あ、ああ……そうだな」

男「三人とも、足を開いて、あそこに座ってくれ」



185: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 21:44:58 ID:A/5LbO.M

幼なじみ「う、うう……」カアアー!

ツンデレ「な、なんか……これ……///」ボッ!

元気娘「並んでこのカッコだと……普通より恥ずかしい……」カアアー!

男(合計6つの穴におっぱいが3セット……絶景だ)



186: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 21:48:42 ID:A/5LbO.M

幼なじみ「うう……もう……///」スッ

男「あ」

幼なじみ「恥ずかしいよう……」

男「幼なじみ、隠さないで見せてもらえると……」

幼なじみ「うう……」プルプル

男「あ……じ、じゃあ他の事をしてもらおうかな」

幼なじみ「え……な、なに?」



187: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 21:52:17 id:h1jxGSls

男「はあっ、はあっ、ううっ」ハアハア

幼なじみ「お、男?気持ちいい?」ムニムニ

男「ああ……すげーやわらかくて気持ちいいよ……」ハアハア

幼なじみ「えへへ……男のも、すごくあついよ?胸がやけどしちゃいそう……」ムニムニ

男(まさか現実にパイズリしてもらえる日がくるとは……くっ)



188: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 21:55:29 ID:/x/FnEuk

幼なじみ「こ、こうしてもっと強く挟んだほうがいい?」ムニュニュ

男「あ、ああ、それで頼む……くっ」

幼なじみ「う、うん、わかった///」ムニュニュ

ツンデレ(足りない……)ポヨポヨ

元気娘(勝負にならない……)ペターン



189: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 21:57:23 ID:/x/FnEuk

幼なじみ(さきっぽからなんか出てきた……なんだろ?)

幼なじみ「んっ……」チロチロ

男「うあっ!」ビクッ!

ドピュドピュ!

幼なじみ「きゃっ!?」



190: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 21:59:49 ID:/x/FnEuk

幼なじみ「わ、すごいにおい」クンクン

男「あ、ご、ごめん幼なじみ!」

幼なじみ「う、ううん、大丈夫だよ」

男「こ、これでふいて」スッ

幼なじみ「あ、ありがと……」ゴシゴシ



192: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:03:10 id:zVWq8QSU

ツンデレ「ね、ねえ……」

男「ん?どうした?」

ツンデレ「あ、アタシだけなにもしてないから……」

男「そう……だな」

ツンデレ「あ、アタシ、胸も普通だし、手はもう元気娘ちゃんがしちゃったし……」

ツンデレ「だから……口でしてあげる……///」



193: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:07:06 id:e65pZRxE

ツンデレ「んっ……はあ……ペチャペチャ……」

男「あっ、ああっ……」ビクッ!

ツンデレ「ん、ふう……ピチュ……ピチュピチュ……」

ツンデレ「ど、どう……?気持ちいい……?」

男「あ、ああ、たまんない……」ハアハア

ツンデレ「ふ……じゃあ……」

ツンデレ「特別に……くわえてあげる……」



194: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:09:59 id:IJxgvA6g

ツンデレ「はあ……く……あむ」

男「くっ……すげーヌルヌルして……」ビクッ!

ツンデレ「ん……ふ……クチュクチュクチュ……」

男「ふあっ!?」ビクン!

男(くわえたまま、舌でこね回されて……)

ツンデレ「ふうっ……ちゅっ、ちゅう……」



195: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:12:30 id:obJFgDj.

男「すごく気持ちいいよ……ツンデレ」ナデナデ

ツンデレ「!……ん……ふ……///」

男「うっ、く!イく……!」ドピュピュ!

ツンデレ「んうっ!?はっ!ケホッ!ケホッ!」



196: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:17:02 id:BjsQVzWY

男「つ、ツンデレ!ごめん!口の中に……」

ツンデレ「ん……く……」ゴク

男「あ……!」

ツンデレ「ふ、うっ……あんなに出したのにまだ濃いの?ばか……」

ツンデレ「飲みづらかったじゃない……///」カアアー

男「の、飲んじゃったのか!?」

ツンデレ「ん……へ、平気よ……アンタのだから……///」

男「なっ!」カアアー!

ツンデレ「ふふ///」カアアー!



198: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:18:39 id:BjsQVzWY

幼なじみ「お、男……」

ツンデレ「そ、そうねそろそろ……」

元気娘「うん……して」

男「……わかった」



199: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:21:15 id:zVWq8QSU

男「じ、じゃあ幼なじみ……」

幼なじみ「うん……でも、いいの?二人とも……」

元気娘「うん」

ツンデレ「アタシも、最初の順番でいいわ」

幼なじみ「ありがとう……」

男「じゃあ幼なじみ……俺の上にきて」

幼なじみ「うん……」



201: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:24:26 id:iRNMdIJ6

男「それで、そう……またがるように、俺のをいれるんだ」

幼なじみ「う、うん……」ドキドキ

男「そ、それと、ツンデレと元気娘」

ツンデレ「な、なに?」

元気娘「うん?」

男「二人はその……アソコで俺の顔を挟むようにしてくれないかな?左右から」



202: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:27:48 id:Azn88oZ6

ツンデレ「うう……」カアアー!

元気娘「恥ずかしい……」カアアー!

男(すげー……左右どっち向いても女の子の部分が至近距離に……)

幼なじみ「男……じゃあ……」

男「ああ……腰を下ろして」

幼なじみ「んっ!んうっ……」

ズプ…グチュチュ……



203: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:31:28 id:atrYIA0.

男「くっ……」

男(すげ……しめつけてくる……)

幼なじみ「んっ!んあっ!」ズプ!

男「はあっ、はあっ」

幼なじみ「はー……はー……」

男「大丈夫か?痛くないか?」

幼なじみ「ん……ちょっと苦しいけど……大丈夫っ……」ピクッピクンッ

男「じ、じゃあ……動くぞ?」

幼なじみ「んっ……」コクン



204: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:34:47 id:XGWeaUxo

ズッズチュズッ

幼なじみ「んっああ!はあっ!はあっ!」ビクッ!ビクッ!

男「はあっ、はあっ、くっ」ズッズッ

幼なじみ「んっ!んああ!男ぉ!」ピクッビクン!

男「ん、はあっ、幼なじみっ」ズッズッ

男「はあっ、はあっ」クル

元気娘「え?え?」

男「ペロペロ、ピチャピチャ」

元気娘「ひゃわあああっ!」ビクン!



205: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:38:32 ID:A/5LbO.M

元気娘「あ、アソコ、舐めてっ、ひゃあああっ!」ビクン!

男「んっふう!ペチャペチャ」ズッズッ

幼なじみ「ふああああん!!男ぉ!男ぉ!ああっ!」

男「んんっ、く」クル

ツンデレ「ひゃ!こ、こらそんな近くで……」

男「ペロペロ、んんっ、じゅる」

ツンデレ「ひゃあ!そんな!ふあんっ!?」ビクン!



206: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:41:58 id:e65pZRxE

男「んんう!ちゅる、ペチャペチャ」ズッズチュ

ツンデレ「ひゃあっ!舐めないでえ!吸わないでえ!んああん!」

幼なじみ「男ぉ!いいの!もっとつきあげてぇ!」ビクン!ビクン!

男「んん、ふ……」クル

男「ちゅう、ちゅう……ピチャペチャ」ズチュズチュ

元気娘「ふあっ!?ま、またあ!?んああ!」ビクン!



207: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:44:10 ID:9o71iA0Y

幼なじみ「も、もうだめえ!わたし!わたし!んああ!」ビクン!ビクン!

男「はあっ、はあっ」ズンズン

幼なじみ「ふああああああっ!!!」ビクウンッ!



208: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:46:19 id:yWsY1tpo

男「お、幼なじみ……イっちゃった?」

幼なじみ「ん……うん……すご、い……」ピクンピクン

男「んっ……」ズチュ

幼なじみ「ふあ……」クテ



209: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:50:34 ID:A/5LbO.M

幼なじみ「ご……めん……わたし、ちょっと、休むね……」ハアハア

男「ああ……無理するなよ?」

幼なじみ「うん……大丈夫、えへへ……///」

男「じゃあ……次はツンデレか」

ツンデレ「うん……」



211: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:53:43 id:BjsQVzWY

男「じゃあ……そこにねて」

ツンデレ「うん……」スッ

男「よっ……と」スッ

男(まさかツンデレを組みしく時がくるとは……前までなら思いもしなかった)

ツンデレ「ね、ねえ……」

男「ん?」



213: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 22:57:33 id:yWsY1tpo

ツンデレ「…………」

男「どうした?」

ツンデレ「アタシ……こんな性格だから……こういう時しか言えないけど……」

ツンデレ「アンタのこと……大好きよ」ニコ

男「っ!」

ツンデレ「だから……して。アンタも、アタシを愛して……」

男「ああ……」



214: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:04:51 id:M8GfKdJo

元気娘「あ、あたしはどうしよう?」

男「ん……元気娘は、こう……」

元気娘「え、ええ!?」

男(やっぱりこいつ美尻だな……四つんばいで目の前につき出されるとよくわかる)



216: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:07:02 ID:hP/dp8rU

ツンデレ「げ、元気娘ちゃんにも覆い被さられたみたい……」

元気娘「あはは……ごめんね、倒れこんだりしないようにするから」

男「じゃあ……そろそろ」

ツンデレ「うん……きて」



217: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:09:44 id:rgS3Q42g

ジュププ…

ツンデレ「んうっ……ひあっ……」

男「うくっ……」ズチュチュ

ツンデレ「んあっ!はあっ、はあっ」

男「ぜ、全部はいったぞ……」

ツンデレ「うん……んっ……」ピクンッ



218: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:14:22 id:atrYIA0.

男「平気か?痛くないか?」

ツンデレ「んっ……大丈夫……」

ツンデレ「アタシ、子供の時から……バスケしてたから……初めての証拠はもう破れて……」

男「あ……そうなのか」

ツンデレ「だから……誤解しないでね……アタシの初めては、アンタのよ……」ハアハア

男「ん……ツンデレ……」

グチュグチュ

ツンデレ「ひっ、んああっ……」ピクンッ



219: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:16:56 id:U3QmjjTo

男「ふっ、ふうっ、はあっ、はあっ」パンッパンッ

ツンデレ「んっあっ!ひゃっ!あんっ!」ビクンビクン!

元気娘「お、男ぉ……この体勢いい加減恥ずかしい……」

ペロ

元気娘「ひああああっ!?」ビクン!



220: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:19:40 id:BnzGiYks

男「レロレロ……くちゅ」グチュグチュ

元気娘「そっ!そこだめえ!ひあっ!お尻だよぉ!ひゃあん!」

ツンデレ「あっ!あっ!あっ!あんっ!奥にっ、当たるっ、ふああん!!」

男「ふ、ふー、ふー」グチュグチュ



221: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:22:09 ID:6m5VJyLA

元気娘「ああんっ!そんなに舐めちゃ、ふああ!?」

ツンデレ「あっ!あんっ!いいっ、よぉっ!あんっ!もっとしてえ!あんっ!あんっ!」ビクン!ビクン!

男「はあっ、はあっ」パンッパンッ



222: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:24:25 id:M8GfKdJo

ツンデレ「なっ!なにかっ!あんっ!きちゃうよぉ!んあん!」

男「いいよっ……ツンデレ……イっても……」

ツンデレ「あっ!男ぉ!イかせてえ!んんう!ふあん!」

ツンデレ「んあああああっ!!!」ビクン!ビクン!



223: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:27:26 id:obJFgDj.

ツンデレ「はーっ……はーっ……」ビクンビクン

男「大丈夫か?ツンデレ」ギュ

ツンデレ「ん、うん……はー……はー……」

ツンデレ「ありが……と」ハアハア

男「ん?」

ツンデレ「ぎゅーってされて、うれしい……」ニコ

男「ん……」ナデナデ

ツンデレ「えへへ///」ギュ



226: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:32:02 id:B8Pcigvo

元気娘「男……大丈夫?」

男「え……なにが?」

元気娘「その……今日だけで幼なじみちゃんにツンデレちゃんに、それに手とか、口とか胸でもしたから……」

男「気にすんな」ギュ

元気娘「あ……」

男「おまえ一人だけしないなんて事は、絶対にない」

元気娘「もう……えっちなんだから」ギュ

男「しよう」

元気娘「うん……」



227: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:35:32 id:feox.Rfc

元気娘「幼なじみちゃんと同じにすればいいの……?」

男「ん、元気娘は俺のをいれた後、俺に倒れこむようにしてくれ」

元気娘「ん……わかった……じゃあ」

男「ああ……腰を下ろして」

元気娘「ん、んん……う……」ギチ…グチュ



228: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:37:58 id:rgS3Q42g

男(く……やっぱり小柄なだけあって、なかもせまい……しめつけてくる……)

元気娘「くうう……んん……く」ギチ…グチュグチュ

元気娘「ん、んう……はいった、よ……」ハアハア

男「ああ……」ハアハア



230: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:40:16 ID:cJ/UWJ5E

男「大丈夫か?元気娘」

元気娘「んっ、うん……思ってたよりは痛くないよ……んっ」ピクッピクン

男「じゃあ……おいで」スッ

元気娘「うん……えへへ///」ギュ



232: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:43:12 ID:hP/dp8rU

男「ふうっ、んん」ズッズチュ

元気娘「あっ!ああっ!ふっ!ふあん!」ビクンビクン!

男(せまいから簡単に一番奥にあたる……くっ)ズンッズチュ

元気娘「ふっ!ああ!お、奥……あたるとビリって……んああ!」ビクン!



234: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:46:03 ID:4.24UN4.

男「はあっ、はあっ」ズンッズンッ

元気娘「ああっ!んんっ!う、動くたび、奥にっ、あんっ!」

男「元気娘っ……」パンッパンッ

元気娘「あっ!あっ!あっ!ひあっ!ふあん!?ふああ!!」ビクン!



236: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:48:25 ID:4.24UN4.

元気娘「ふっ!ふああ!男ぉ!んんっ!もっとついてえ!あんっ!」

男「んっ!んんっ!」ズンッ!ズンッ!

元気娘「ふああ!!んあああああっ!!!」ビクウンッ!



237: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:50:45 ID:4.24UN4.

元気娘「うう……」ハアハア

男「はあ、はあ」

元気娘「お、終わった……の……?」ハアハア

男「ああ……」ハアハア

元気娘「えへへ……大好き……」ギュ

男「ん……」ギュ



238: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:53:12 ID:4.24UN4.

幼なじみ「これで、みんな……」

ツンデレ「終わった……わね」

元気娘「うん……」

男「そうだな……」

幼なじみ「あ、あの、男……」

男「ん?」

ツンデレ「えっと……その」

元気娘「んっとね……」



239: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:54:55 ID:4.24UN4.

幼なじみ「ありがとう……」

ツンデレ「ありがと……」

元気娘「ありがとっ」

男「…………」

男「俺のほうこそ……ありがとう」

男「愛してるよ、みんな」



240: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/18(土) 23:57:22 ID:4.24UN4.

一ヶ月後

男「…………」フラフラ

男友「なあ、おまえ大丈夫か?」

男「あ、ああ大丈夫大丈夫……」

男(ほぼ毎日しぼりとられてるだけですから……)



241: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:00:52 id:meMZuKIk

その夜

男「あー、そのー、今夜もか?」

幼なじみ「う、うん、お願い///」

ツンデレ「あ、当たり前じゃない///いつもみたいに、一人3回はイかせてよね///」

元気娘「お礼に、また舐めたりこすったりして、男も3回イかせてあげるからさ///」

男(いつか枯れ果てるな俺……)



242: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:04:01 ID:/rAnheNU

幼なじみ「も、もしかしていや……?」シュン

ツンデレ「迷惑だった……?」シュン

元気娘「そ、そうなの……?」ウルウル

男「っ!」

男「全っ然そんなことない!」

幼ツ元「…………っ」パアア



244: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:07:27 id:zw4QlPw6

男(枯れ果ててもいいか……こいつらのためなら)

幼なじみ「お、男、じゃあさっそく……///」

ツンデレ「あっ!今日はアタシからよ!」

元気娘「もうじゃんけんで決めるのやめようよ!あたし弱いんだから!」

男(俺が三人まとめて、一生一緒にいてやるよ……)



おわり



247: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:09:40 id:zw4QlPw6

ある日の体育館裏

ツンデレ「あっ!あん!いいっ!」ピクンピクンッ

男「くっ……ツンデレ……」パンッパンッ

ツンデレ「あっ!ふああん!」ビクン!



249: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:13:22 id:RyEDBTX.

ツンデレ「はあ……はあ……」

男「ん……大丈夫か?」

ツンデレ「うん……ごめんね、急にしたいなんて言って……」

男「まあ……今回は誰にも見られなかったし、いいけど……」

ツンデレ「えへへ///男ぉ♪」ギュ

男「よしよし」ナデナデ

ツンデレ「大好きぃ♪」スリスリ



幼元「…………」ジー



251: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:15:27 id:RyEDBTX.

その夜

幼なじみ「あ、男、今夜はする前にやる事があるの」

男「なんだ?」

ツンデレ「元気娘ちゃんも知ってるの?」

元気娘「うん……ふふふ」



252: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:17:41 id:RyEDBTX.

ガシ、ガシ

ツンデレ「え?え?なに二人とも……」

幼なじみ「ふふふ……」

元気娘「えいっ♪」ペロッ

ツンデレ「ひゃんっ!?」ビクン!



253: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:21:56 ID:6ll3mh1Y

幼なじみ「勝手に抜け駆けはいけないよー?ツンデレちゃん」モミモミ

ツンデレ「やっ、あんっ、なにを……」

元気娘「昼休み、体育館裏」

男ツ「!!」

幼なじみ「ツンデレちゃんは、学校でもほしくなったらしちゃうエッチなコだったんだねー?」クスクス

元気娘「そんなツンデレちゃんを、あたしたち二人で気持ちよくさせちゃうからね♪」



255: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:25:41 id:FmGld0iw

ツンデレ「え!?うそ!?お、男ぉ!」

元気娘「逃げちゃだーめ♪」ガシ

ツンデレ「きゃっ!」

幼なじみ「男はちょっと待っててねー」ニコニコ

男「は、はい……」

男(今の幼なじみには逆らっちゃいけない、それに元気娘もなんだかこわい!ゆるせツンデレ)

ツンデレ「やっ、やあ!ダメ!そんなとこ……」ピクンッ!



256: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:28:25 id:L8d3BIs2

幼なじみ「ふふ、耳が弱いの?」ペロペロ

元気娘「首も弱いみたいだよ、ぴくぴくしてるー♪」ペロペロ

ツンデレ「あっ、やっ……」ゾクゾク!

男(ツンデレの耳と首、舐められてテカテカになってエロい)ジー



258: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:32:36 id:HkPGr7Mw

幼なじみ「ふふ……」プチプチ

ツンデレ「あっ!」

幼なじみ「ふーん、やっぱりツンデレちゃんの胸、すごくきれいだね」モミモミ

ツンデレ「やっ、やんっ!」ビクン!

元気娘「こんなに細いのにきれいな胸とか……こうしてやるこうしてやるっ♪」モミモミコネコネ

ツンデレ「やっ!やあ!そんな乱暴に、あんっ!」ビクン!

男 ハアハア



259: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:36:41 id:IfcWoZtM

幼なじみ「ブラもはずしちゃうねー」プチン スル

ツンデレ「あっ、あっ……///」カアアー!

元気娘「あららー、女の子に揉まれて乳首たっちゃったの?」ニヤニヤ

幼なじみ「ふふ、じゃあ舐めてあげるね」ペロペロ

元気娘「あたしは吸っちゃおーっと♪ちゅーちゅー♪」チュウチュウ

ツンデレ「ふああん!」ビクン!



260: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:41:17 id:sziDjTn2

幼なじみ「んふふ」ペロペロ

元気娘「ふふ、ちゅーちゅー♪」チュウチュウ

ツンデレ「ひゃっ!や、やめっ、あんっ!」ビクン!

幼なじみ「うわあ、もうびしょびしょ」クチュクチュ

ツンデレ「あっ!そこだけは、ひあっ!?」ビクン!

元気娘「んふふー♪あたしもいじっちゃおーっとほれほれえ♪」

ツンデレ「ふあん!だめえ!だめえ!」



261: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:44:20 id:iWlIJAlQ

幼なじみ「そろそろ直接……」スル

ツンデレ「ひゃっ!?」ビク!

男(ツンデレのパンツの股の部分の中に、幼なじみの指が……)ハアハア

元気娘「あたしもあたしもー♪」スル

ツンデレ「やあ!さわっちゃだめだってばぁ!ああんっ!」



263: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:46:58 ID:8HiVam9E

幼なじみ「ふふ、このクリの裏って、気持ちいいんだよねー」クチュクチュ

ツンデレ「あっ!ひっ!ふああ!」

元気娘「あたしはクリちゃんこねちゃおーっと♪」コネコネ

ツンデレ「っっ!?ふああああ!!」ビクウンッ!



264: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:50:57 id:aHH0qxeU

幼なじみ「イっちゃったねー」クスクス

元気娘「女の子にイかされちゃったね、ツンデレちゃん」クスクス

ツンデレ「はあ、はあ、ん」ピクンピクン

幼なじみ「さ、終わったよー男♪」

元気娘「早くしよー♪」

男「そ、その前にさ……」

幼元「ん?」



265: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 00:56:05 ID:2QEgutRA

男「今度はツンデレと元気娘が……幼なじみをしてくれないか?」

幼なじみ「え!?ええ!?」

元気娘「ほーほー」ニヤニヤ

男「なんかはまっちゃったみたいで……たのむ」

元気娘「いいよー♪こういうのも楽しいし、何よりあの巨乳をいじめたいし♪」 ワキワキ

幼なじみ「やっ!?元気娘ちゃんその手の動きは……」

ガシ

幼なじみ「え……?つ、ツンデレちゃん?」

ツンデレ「幼なじみちゃん?覚悟してね」ニコ

幼なじみ「いっ、いやぁああ!」



266: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:00:33 id:Qdcuig5k

ツンデレ「や、やっぱり大きいわね」ジー

幼なじみ「ううーー……///」カアアー!

元気娘「しかもこのブラ!あたしがつけたら余ったスペースに卵何個入ることか……くううーー!」ブンブン!

幼なじみ「ふ、振り回さないでよう……お気に入りなんだから……」



269: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:03:38 id:pB5oXzfQ

元気娘「やっぱりあたしはこの胸をいじめたい!」モミッ!

幼なじみ「ひゃんっ!?」ビクン!

ツンデレ「それじゃ、アタシが下ね」スルスル

幼なじみ「ぱ、パンツも脱がすの?」

元気娘「ほーれほれほれー」モミッモミッモミモミ

幼なじみ「あんっ!」ビクン!



270: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:07:20 id:LDzXxPF6

ツンデレ「ふふ、幼なじみちゃん?さっきはいろいろ教えてくれたけど、クリ吸われるのもすごく気持ちいいのよ?」

ツンデレ「んん……ちゅっ、ちゅう……」

幼なじみ「ふああ!?それだめえ!感じすぎちゃ、ひああっ!!」ビクンビクン!



271: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:09:32 id:LDzXxPF6

元気娘「んふふー、乳首こねるよー?こねこね」クニクニ

ツンデレ「ちゅっ、ちゅっ、ちゅうちゅう」

幼なじみ「ひあああん!!だ、だめえ!どっちかやめて、ふああ!!」ビクン!ビクンビクン!



272: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:12:16 id:aHH0qxeU

ツンデレ「ふう、仕返し完了っと」

幼なじみ「う……ふ……」ピクッピクン

元気娘「ふふ、その様子だと、今日はあたしから男と……」

ガシ



273: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:17:02 ID:.EN5VwBM

ツンデレ「そんなわけないでしょ?元気娘ちゃん」ニコ

幼なじみ「一人だけ見逃すわけにはいかないもんね……」

元気娘「お、幼なじみちゃん復活早いね……ツンデレちゃんもこわい顔しないでよ、あはは……」

幼ツ「脱ぎなさーい!」

元気娘「きゃあああ!!」

ポイポイ

男「すげー、服が宙をまって……あ、下着も」



274: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:20:36 id:WnM0MqSo

元気娘「う、ううーーっ!」

幼なじみ「ふふ、どう?」タユタユ

ツンデレ「アタシたちの胸を顔に押しつけられる気分は」ポヨポヨ

元気娘「やめろぉお!嫌味かあー!」ジタバタ



275: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:23:35 id:bAHQ/7k2

幼なじみ「それなら……男ー」

男「な、なんだ?」

幼なじみ「元気娘ちゃんを抱っこしてあげて、恥ずかしい穴2つとも丸見えになるように足抱えてね」

男「あ、ああ、すまん元気娘」ガバッ

元気娘「きゃあっ!?」



276: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:27:57 ID:F.bzWX9A

ツンデレ「ふふ、じゃあアタシは一番大事なところを」チュプ

元気娘「ひゃんっ!?」ビクン!

幼なじみ「わたしはお尻ねー」ツプ

元気娘「ふああ!!」ビクン!

ツンデレ「幼なじみちゃん、元気娘ちゃんの中でアタシたちの指先があたるように出し入れしましょ」

幼なじみ「いいわねーそれ、じゃあさっそく」

ツプツプ クチュクチュ

元気娘「ひああっ!?」ビクウンッ!



277: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:31:33 ID:1dy2PgSo

ツンデレ「ふふ、顔真っ赤にしちゃって」クスクス

幼なじみ「かわいらしいお尻ねー、ほらほら」クスクス

元気娘「ひゃっ!!ふあんっ!だめえ!」

幼なじみ「その位置ならイき顔をしっかり男に見られちゃうわね」クスクス

元気娘「!?」



278: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:34:28 ID:2wl7gAHw

元気娘「や、やだあ!イかせないでえ!あんっ!」ビクン!ビクン!

ツンデレ「だーめ、アタシたちだってすごく恥ずかしい思いしたんだから」クチュクチュ

幼なじみ「男、しっかり見てあげてね」クスクス

男「わ、わかった」

元気娘「ふああん!いじわるう!ふああ!!」



279: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:39:31 ID:/rAnheNU

ツンデレ「ふふ、ラストスパートね」クチュクチュ

幼なじみ「そうね、もっと早く出し入れしましょ」ツプツプ

クチュクチュツプツプ

元気娘「ふあっ!!はっ!はあんっ!」ビクンビクン!

元気娘「ふ、二人の指っ、すごい近くにあって、ふああ!!」ビクン!

元気娘「お、奥にっ、あたるっ、んっ!んう!」

元気娘「はあ!はあ!あんっ!あんっ!と、とめて!やだあ!あんっ!」

元気娘「ふああああんっ!!」プシャー!



281: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:43:16 id:L8d3BIs2

幼なじみ「あららー、元気娘ちゃんったらお漏らししてイっちゃった」クスクス

ツンデレ「よっぽど気持ちよかったのねー」クスクス

元気娘「う、うう、いじわるう……」グスン

元気娘(イき顔じっくり見られたぁ……うう……)



282: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:44:40 ID:ON.ikhpk

男「あ、あのさ」

幼なじみ「ん?」

ツンデレ「なに?」

男「たまにでいいんだが、こういうのもやらないか?」



283: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:47:47 ID:/rAnheNU

幼なじみ「ん、まあたまになら……」

ツンデレ「い、いいわよ……」

元気娘「あたしも……リベンジしたいし……」フラフラ

男「あ、ありがと」

幼なじみ「でも……」

男「ん?」

ツンデレ「その前に……」

男「なんだ?」

元気娘「やっぱり男にしてほしいな……♪」



おまけおわり



284: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 01:48:39 ID:/rAnheNU

今度こそおわり

読んでくれた人ありがとう



289: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 05:01:42 ID:/c5SVEx.

乙!ハーレムも実に良い!



290: 以下、名無しが深夜にお送りします 2012/02/19(日) 10:07:31 id:RkNCHqiQ

ハーレムエロ大好きです

大好きです


元スレ
SS深夜VIP:男「挿入以外なら許さなければいけない権利ですか!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1329315956/

【後編】僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」

 

www.ureshino3406.com

元スレ
SS深夜VIP
僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1367421263/

126: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:27:42 ID:5Wy0/P9w

~宿屋・ラウンジ~

盗賊「痛つつつ……頭が痛ェ…昨日飲みすぎたな、こりゃ……」

僧侶「ふわぁ…おはようございますぅ……もう、お昼ですけど…」

盗賊「…お前は体調が悪くなっていたりしねーのか?」

僧侶「うーん…?寝すぎてダルさは感じますけど、とくにはないですねえ……盗賊さん、大丈夫ですか?お水とお薬もらって来ましょうか?」

盗賊「……酒、強いのか。あー、水は欲しいな。薬は、二日酔いに効くのがあったらもらってきてくれ」

僧侶「わかりました!もう、飲みすぎはダメですよっ!」

盗賊「…まさかあいつを羨ましいと思う日が来るとは。あれ?二回目か、これ」

?「やあやあ、おはよーう!!昼だけど!元気が無いぞー若人よ!」

盗賊「あー!うるせえ、頭に響く!!……って、あ…?遊び人?か、お前?」


 


127: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:28:33 ID:5Wy0/P9w

賢者(遊び人)「そうだよ~、ふふん。見違えただろう?オッサンだって、まだまだ若いもんにゃ負けないってことさ!」

盗賊「ほー…無精ヒゲ剃って、髪を整えるだけでも随分印象変わるもんだな」

賢者「この装備も、若い頃に使っていたものだから、あちこちガタがきているけど……今日からは遊び人じゃなく、賢者って呼んでくれ!」

盗賊「偽名だったってわけか…?」

賢者「そんなところだね。悟りに到達していないから、モドキってレベルだけど…昔取った杵柄はまだまだ健在よ。ほら」ボウッ

盗賊「あちっ!?こんなところで魔法を使うな、ボケ!」

賢者「はっはっは!オッサンちょっと張り切っちゃった!ごめ~んねっ!!」

僧侶「お水とお薬もらってきましたよぅ~、……って、あ、あれ?盗賊さんのお友達、ですか?」





128: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:29:38 ID:5Wy0/P9w

賢者「よーう、お嬢ちゃん!イケメンすぎてわかんなくなっちゃったかな?ほら~昨日一緒に酒飲んだオッサンだよ~」

僧侶「え?え!?あ、遊び人さん!?ななな、どうしたんですか!?その格好!」

賢者「遊び人とは世を忍ぶ仮の姿……しかしてその実態は!世界を救う賢者様なのだぁっ!!」

盗賊「モドキ、だけどな」

賢者「それを言っちゃあ~おーしまいよーっ、てね」

僧侶「へええ……昨日と別人ですねえ…びっくりしました…」

賢者「どう?オッサンもまだまだイケる?イケてる?付き合いたいってレベル?」

僧侶「え、あ、そ、そう、ですね。軽いところはどうかと、思いますけど……すごく格好良くなりましたよ!」

盗賊「」ムカッ

賢者「ハハハハ!!いやあ~こんな若くて可愛い女の子に褒められると、オジサン照れちゃうなぁ~」





129: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:30:28 ID:5Wy0/P9w

盗賊「朝から本当に騒がしい奴だな…もうお披露目ご挨拶は済んだろ?さっさとどこかに行っちまえよ」

賢者「そんな冷たいこと言わないでよ~、これから長い付き合いになるんだしさ~?」

僧侶「へ?」

盗賊「は?」

賢者「…俺の目を醒ましてくれたアンタらに感謝してんだ。頼む!俺も一緒にアンタ達と旅をさせてくれないか!?途中まででいい、勇者とやらに会うまででもいい…もう少し見ていたいんだよ。アンタ達の生き方を」

盗賊「はあああ?いやいや、オッサン…まだ酒残ってんじゃねーのか?大体俺は勇者なんかもうどうでもよくて、ここに定住するって決めて…」

僧侶「神罰!!」ボカッ!

盗賊「ぐぅっ!?」ドサ

賢者「何もかも遅すぎた……でもよ、また少し頑張ってみたくなったんだよ。思い出せたから……これも何かの導きなのかなあって思ったら、なんとなく…アンタ達ともう少し、一緒にいたくなってさ」





130: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:31:18 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…いや、だからってそんな、急に言われても……」

僧侶「わ、私は…嬉しいです、けど。仲間が増えたら、旅も楽になるでしょうし……」

盗賊「バカ、神託とやらを受けていない奴と行動を共にするってアリなのかよ?俺らはこいつと一晩酒を飲んだだけの仲だぞ。テメーは半分寝ていたし。こいつの事、何も知らねェのに。警戒すべきだろ、ここは」

僧侶「う…で、でも、何も知らなかったのは、私達もそうじゃないですか…?」

盗賊「うぐ。…と、とにかくだ。勇者と会うまでっつったって、俺はこの街で勇者を待つつもりだからな。オッサンが期待するようなものは何もないと思うぜ」

賢者「あー、いいのいいの、それでも。オッサンはオッサンなりに色々考えるから。よし!なら仲間入り成立だな!これからよろしくね~」

盗賊「ちょっと待て、話はまだ終わってない!」

賢者が (無理矢理)仲間に なった!





131: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:32:26 ID:5Wy0/P9w

賢者「よっしゃ!遅まきながら保護者の参戦ってところで、飯でも食うかぁ!俺が奢ってやるからさ~」

盗賊「あ、え!? ちょ、俺の財布!?いつのまに、ふざけんなよテメー!」

僧侶「お財布をスられる盗賊さん、って…」

賢者「子供に負けないのが大人ってもんなのよ~。旨い飯を出す店があるから、そこに行くか、それとも…」

盗賊「返せよ!俺の金だろうが!!聞いてんのか、クソオヤジ!!」

賢者「パーティの共有財産ってやつでしょぉ~こういうのはさー。お嬢ちゃん、何が食べたい?オジサン色々知ってっからね、リクエスト答えちゃうよ~」

僧侶「あああ……な、なんだか大変な事になっちゃったような気がしますう…!ゆ、勇者様ぁぁ~!!」





135: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:46:03 ID:5Wy0/P9w

~シーフード レストラン~

盗賊「だからなあ!俺はテメーが仲間になるとかそういう話は認めてないって」

賢者「ほらほら、折角の料理が冷めちゃうよ~。はい、お食べ」ガポッ

盗賊「むぐ!?……うん、旨い」ガツガツムシャムシャ

僧侶「賢者さんのことは一先ず置いておいて……これから、どうしましょう。勇者様が、どちらにいらっしゃるのか…わからないですし…」

賢者「そういう時はね~、頭じゃなく、足を使うんだよ、お嬢ちゃん。消息がわからなくなったのは砂漠の国からだったよね」

賢者「砂漠の国の戦争話はチラホラこっちにも届いている。何せ相手がこの街の傍にある王国だしな。貿易も盛んで金持ち大国となりゃあ、狙われるのは必然さ」

賢者「だから街をくまなく歩いて話を聞いていけば、勇者の話も入ってくるんじゃないかな~。保証はないけどさ~」

盗賊「」ガツガツムシャムシャ

僧侶「盗賊さん、お話聞いてます?」





136: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:47:03 ID:5Wy0/P9w

僧侶「砂漠の国の門番さんは、通行証があれば入れてくれるって言ってましたけど…それを手に入れる、とかは?」

賢者「あー、砂漠の民が持っているものだね、多分。余所者なら、キャラバン…商人なんかも持っているよ。確かな身元証明があって、でかい国にある役所で申請すれば貰えるけど…」

賢者「砂漠の国みたいに戦争があってとか、そういう理由がある以外、滅多に使わないからなあ~。商人じゃない俺達だと、発行に時間がかかると思うよ」

僧侶「うう…じゃあやっぱり、情報集めからですね……早く勇者様にお会いできるといいんだけど…」

盗賊「おい、店員!この料理、あと3皿追加を頼む。それからフルーツジュースもだ」

僧侶「だから盗賊さんもお話に参加してくださいってばぁ!!」





137: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:48:00 ID:5Wy0/P9w

賢者「兄ちゃんが賭けで稼いだ金もあるんだし、情報集めがてら、装備を一新してもいいんじゃない?ここは港もあるだけに、色々珍しい武具も揃っているからね~」

賢者「そんで、俺にも新しい装備買ってちょーうだいよ~?」

盗賊「そっちが本命なんじゃねーのか。タカり魔の不良中年とか、最悪すぎるぜ…」

僧侶「で、では、改めて…情報集めとお買い物。それでいきましょうか」

賢者「ん!それじゃあまずは港に行くか、小さなバザーが開かれているから、店もその周辺に集中しているし、人も多いしな」

賢者「もしも目ぼしい情報が無ければ、次は酒場だ。酔っ払いから冒険者まで、様々な人間がいる。色々話が聞けるだろう」

盗賊「酒場か…あの巨乳踊り子がまた見られるなら、悪くねェ」

僧侶「き、巨乳なんか!ただの飾りですからね!!大事なのは中身ですからね!?」





138: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:49:15 ID:5Wy0/P9w

~港のバザー~

僧侶「わあ~、すっごいお店の数!街やキャラバンの何倍あるんですかねえ…!?」

賢者「杖にしようかな~弓がいいかな~、やっぱり男は黙って剣一択!?うーん迷っちゃう~」


盗賊「おい、ふざけてんなよ、クソオヤジ。お前の装備はテメーの金で買えよな」

賢者「兄ちゃんにはこのダガーとかどう?毒蛾の粉が刃先に塗られているから、魔物を痺れさせたりできるっていうしさ~攻撃力をカバーできる点は重要じゃないかな~」

盗賊「…いや、毒にはいい思い出がないからな…鋼の剣もあるし、武器よりは防具を…」

僧侶「(…盗賊さん、賢者さんに文句言っても流されて、いつのまにか引きずり込まれているの、気づいているのかな)」

僧侶「(…でも黙っていよう、教えたらなんだかぶたれそうな気がしますし)」

僧侶は レベルが上がった!
僧侶は 空気を読む事 を 覚えた!





139: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:50:11 ID:5Wy0/P9w

盗賊「……はっ!?いつのまに!?金が、金がもう無ぇッ!」

僧侶「(やっぱり)」

賢者「宵越しの金は持つもんじゃないよ~、ぱーっと使って世界に貢献しなくちゃね!国を動かすのは王様じゃない、俺達さ~」

盗賊「………おい、クソアマ」

僧侶「は、はい。なんでしょう?」

盗賊「…お前がカジノで言っていた第六感…当たったな……金食い虫って魔物に襲われると」

僧侶「…け、賢者さん……」

盗賊「あいつは魔物だ。魔物だな。よし、倒そう」ジャキッ

僧侶「わあああ!?待って待って!おおお落ち着いてくださいぃ盗賊さ~ん!!」

盗賊「離せクソアマ!!あいつだきゃあ許せねェ、返せよ、俺の金ーっ!!」

賢者「ハハハハ、装備を一新したオッサンは強いぞお~?勝ってるっかな~?」

僧侶「賢者さんも、煽らないでくださいよう~!」





140: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:51:02 ID:5Wy0/P9w

海賊「あ…ああああ!み、見つけたぞ!昨日のクソガキ!!」

賢者「んっ?」

海賊「お頭ぁ!!あいつですぜ、うちの海賊団に泥を塗りやがったのは!!」

僧侶「え、えっ?な、なな、なに?なに?誰ですか、何事ですか!?」

盗賊「お前、覚えてねーのかよ?あいつ…昨日、カジノで絡んできた雑魚じゃねーか」

賢者「あちゃ~、仲間ぞろぞろ引き連れてリベンジってか?だから言ったじゃないのさ~関わるなって~。早く逃げよう、人混みに紛れてさ」

海賊「おっと!逃がすかよ!へへへ…昨日はよくも恥をかかせてくれたなあ!?袋叩きにしてやるぜ!」

盗賊「ケッ、テメーで更に恥の上塗りしているのに気づけよ、バーカ」

賢者「こらこら!!だから挑発しないの~!いやあすみませんねェうちの子が迷惑かけてー、あとでよく言って聞かせますから…」ペコペコ





141: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:51:57 ID:5Wy0/P9w

海賊「こ、の……クソガキがあああ!!絶対ブッ殺してやるーっ!」

盗賊「昨日も聞いたっつーの、それ」

僧侶「あわわわわ……な、なにやってるんですかあ、盗賊さんってばー!」

?「………フ……フ………」

盗賊「ん?」

賢者「は?」

僧侶「へ?」

船長「フォォーリンッラァァァァブゥゥゥ!!!」ドシン! ドシン!

賢者「ぎゃああああ!!?」

僧侶「なななななにぃぃ!??」

盗賊「ででで……でかっ!!でかい!!樽何個ぶんあるんだ!!?つーかそんな体でよく歩けるな、お前!?」

船長「うおおお、萌えええぇぇ!!君、可愛いねーっ!!決めた!今日から君は僕ちゃんのお嫁さんだよぉぉぉぉ!!」ビシィッ

僧侶「ええええ!?わ、私ですか~ッ!!?」





142: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:52:42 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…お、おい。良かったな、お前の憧れの巨乳じゃねーか…触ってこいよ、ご利益あるかもよ……?」

僧侶「巨乳ナメないでくださいよう!?あの破廉恥お姉さんのおっぱいの方がいいですう!!巨乳好きな盗賊さんが触ってくればいいじゃないですか!」

賢者「いやー…あれがダイナマイトボディーっていうのかなあ…想像と全く違うけど…本当、今にも爆発しそうに膨れ上がって………沈まないの?船」

海賊「てめーらあ!!お頭をバカにしてんじゃねーぞ!?」

盗賊「バカにっつーか、通り越して同情するわ」

賢者「少し痩せたほうがいいねえ、うん……オッサンも腹が気になるお年頃だけどさあ…健康には気を使わなきゃね…」

船長「フヒャヒャヒャ、聞ーこーえーなーいーぃ!それよりも、マイハニーちゅわ~ん!!僕ちゃんのところにおいでぇ~」バシュッ

僧侶「きゃあっ!?む、鞭!?」クルクル グイッ





143: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:53:26 ID:5Wy0/P9w

賢者「あっ!お嬢ちゃんが釣られた!?」

海賊「ハハハーッ!すげーだろ、うちのお頭は!!ちょっとしたトロルキングサイズだが、れっきとした人間だからな!?」

賢者「ちょっとしたトロルキングってそれ、トロルキングだよね?」

僧侶「……へ…へへへ……トロルを何体集めたら、トロルキングになるんですかねえ……?」

僧侶は 現実から 逃げ出した!

船長「近くで見れば見るほど可愛いねえぇ~…ブヒヒヒヒ!!」

僧侶「いやあああああー!!?」

しかし 回り込まれて しまった!

盗賊「クソアマ!ふざけんなよ、このトロル野郎!!そいつを離せ!!」





144: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 16:54:22 ID:5Wy0/P9w

船長「おいぃ、野郎ども!僕ちゃんは船に帰るよ!!この娘とイチャイチャしたいからね!すぐに船を出すから、さっさとその邪魔者を片付けろ!!」

盗賊「ちょっと待てぇぇ!!お前がイチャイチャしたら、クソアマがぺちゃんこになっちまうだろ!」

僧侶「た、助けてー!助けて、盗賊さん、賢者さーん!!」

賢者「ただでさえぺちゃんこの胸がもっとぺちゃんこになったら、悲惨だよね~…」

僧侶「死ね!クソオヤジ!!」

賢者「お嬢ちゃんがグレた!?」

海賊「やっちまうぞ、てめーらぁ!!」

子分「へいっ兄貴!!」

海賊は 仲間を 呼んだ!
子分A~E が 現れた!

盗賊「クソ野郎どもが…ッ!!」イライラ

賢者「早くこいつらを倒さないと、船を出されたら追いかけられなくなる…!」





149: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:12:10 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あのトロル野郎だけは許さねー!!」

賢者「よしっ、目覚めてからの初バトルだ。オッサン頑張っちゃうよ~」

賢者「速度倍加魔法!!もひとつオマケに~攻撃倍加魔法!!」パアアァ

盗賊「うおおおりゃあああ!!」

子分A「なっ、速……ぎゃあっ」バキッ

子分B「げふっ!?あ、あ……意識が…」ドゴッ!

海賊「ひ、怯むな!囲んで全員で叩けぇっ!!」

賢者「街中で攻撃魔法を使うわけにはいかないしなぁ~。やれやれ、俺も肉弾戦に徹するしかないかぁ…」

盗賊「退けよ、クソどもがぁぁ!!」ブォンッ!

子分C「たっ、樽を投げるか!?普通!!ぎゃっ!」ドカッ

子分D「中身入ってんじゃねーか!死ぬだろバカ野郎!」

賢者「…いや、サポートに回る方がいいかもね、これ…ハハハ、兄ちゃん怖いなあ、もう…」





150: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:13:18 ID:5Wy0/P9w

盗賊「この!」

子分D「へっ」ガシッ

子分E「うわっ!?」ガシッ

ドッガァ!!

海賊「こ、子分同士の頭をぶつけて倒しやがった!?」

盗賊「あとはテメーだけかぁ~!?大体テメーがいちゃもんつけてくっから!あのトロル連れてくっからこんな事になったんだろうがぁーっ!!」

海賊「ひ、ひぃぃぃ~っ!??」ガタガタ ジョバー

賢者「俺にも速度倍加魔法~」パアアア

賢者「もーいいよ、兄ちゃんさ。ほら、小便なんか漏らしてる奴に追い打ちかける事はないって…船まで走るぞ!!」グイッ

盗賊「ちょっ!!離せ、クソオヤジ!離せ!!あいつをブッ飛ばすんだよ!離せーっ!!」

海賊「あ…あわわわわ……」ヘナヘナ





151: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:14:10 ID:5Wy0/P9w

~船上~

船長「よーし、錨を上げろ~。船を出せ、アジトに戻るぞ!!」

僧侶「いや!いやっ!離してくださいぃ~!!」

船長「ブヒヒヒィ、僕ちゃんのおうちに着いたら、た~っぷりと可愛がってあげるからねぇ~?ヒヒヒ、ヒヒヒッ…か、可愛いなあぁ~」

僧侶「いやああぁぁ…!と、盗賊さん、賢者さんん……助けてぇー…!」

船長「ち、ちょーっとくらいなら…あっあっ味見、してもいいかなああ!?」

僧侶「え?えっ?」

船長「こーんな物騒な防具なんか外しちゃいなよぉ?綺麗なドレスを買ってあげるからねえ…」ゴソゴソ

僧侶「ちょ!?なにしてんですか!!?やめてっ引っ張らないで!服が破れちゃいますよう!!」

船長「えー?脱がさなきゃ味見ができないじゃないかーっブヒャヒャ!!そんなウブなところも可愛いねぇ~!」

僧侶「ぎゃー!!ぎゃー!?いやあああやめて、やめてー!!盗賊さああーん!!いやー!」ボカボカ!





152: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:14:57 ID:5Wy0/P9w

ワアアア! ギャアアア…

船長「ん~?なんだよもう、うるさいなーいいとこなのに…」

クソアマァー… オジョウチャーン…

僧侶「…っ…?あ、あの声…は……」

盗賊「クソアマぁぁぁ!!」ドカッバキ

海賊B「ぎゃあー!!」

海賊C「ひぃぃっ!!」

賢者「幻惑魔法~」フワァァ

海賊D「うっ!うわああ……ばっ、化け物があああ来るなぁぁ~!!」

盗賊「クソアマ!どこだ!!返事をしろ、クソアマー!!」

僧侶「と!盗賊さん!盗賊さーん!!ここです、ここー!!助け……むぐっ!うぐ…」ジタバタ

船長「静かにしなよぉ~!バレちゃうじゃないか…」ギュウウ

僧侶「(く、苦しい……抱き潰されちゃう…)」

盗賊「クソアマ…!?声が聞こえたぞ、どこだ、クソアマ!どこだ!?」

賢者「そこ!そこの船室だよ、兄ちゃん!!」





153: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:16:11 ID:5Wy0/P9w

ドッガァ!!

盗賊「ここか………って、」

船長「ブフー……まったく無粋な輩だなぁ~。これからだったのに…ほら、ハニーちゃんのお着替え中なんだよ?出ていけよなぁ~っ」

僧侶「う…ぐ……ぅ」ギュウウウ

賢者「…嫌がる女の子に無理矢理乱暴するなんてさあ~、男の風上にもおけないよねー…」

盗賊「な……な、な!なにしてくれてんだぁぁああテメェェェッッ!!!」

盗賊「細切れ肉にしてやる、トロル野郎おお!!」ジャキッ

船長「もー、しょうがないなあ…ハニーちゃん、ちょっと待っててねぇ、僕ちゃん、お掃除してくるから!」

僧侶「げほっ!げほ!ごほ!」ドサッ

盗賊「死ねェッ!!」ブンッ!

バイィーン

盗賊「っ!剣が弾かれた!?」

船長「ブヒャヒャヒャ!!僕ちゃんのお肉は鍛えてあるからね!!そーんなヌルい力じゃ効かないんだよぉぉ!!」





154: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:17:08 ID:5Wy0/P9w

賢者「おいおい、どんな肉だっての……本当にトロルなんじゃないの?あんた」

賢者「火はダメか、部屋が燃えちゃうしな……じゃあ、氷結魔法!!」バキン! バキン!

船長「んー、かき氷~?ヒャヒャヒャ、あとでシロップを持ってこさせるかなー」

盗賊「効いてねーぞ…マジで魔物なんじゃねーか?あいつ…」

船長「僕ちゃんは無敵なんだよお!大体お前ら何!?ハニーちゃんのなんなのさ、うるさいハエどもが!人の恋路を邪魔するなー!」バシィン!!

盗賊「ぐはっ!!」

賢者「だっ!?」

船長「ヒャハハハハ!!人の恋路を邪魔するやつは、僕ちゃんの張り手でブッ飛べぇ!!」

僧侶「と……盗賊さん、賢者さ…ん……」

賢者「痛つつつ……いや~、こいつはキツいなあ…もうちょっとオッサンを労ってほしいね…」

盗賊「………」ペッ

盗賊「………テメーがなんなんだ、ってんだよ」





155: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:18:03 ID:5Wy0/P9w

船長「あぁ?」

盗賊「テメーがなんなんだっつってんだよ!!」

盗賊「そいつはなぁ!そのクソアマはなあ!!俺の、お――」

僧侶「!?!?」ドキドキ

盗賊「………」

盗賊「………とにかく!!」

賢者「あ、飲んじゃうの、そこ」

盗賊「うるせえな!!言い間違えただけだ、バカ!もとい!!とにかくだ!!なにがなんでも痛い目見せてやらあ、トロル野郎!」

賢者「う~ん、けれど剣でもダメ、魔法もダメ……かといって俺達は草食系男子だからなあー肉弾戦もあんまりなー」

賢者「力…力が足りない、か……倍加魔法はもうかかっているし…」

盗賊「うおおりゃあっ!!」ブンッ ドシュ

船長「効かない効かな~い、無駄なんだよお!」ブヨヨン

賢者「……そう、攻撃力をカバーできりゃいいんだよな」

賢者「兄ちゃんの剣を対象に、幻惑魔法!!」フワアアア





156: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:18:54 ID:5Wy0/P9w

船長「ブヒッ!?」ブヨンッ

船長「ぎゃあああ~!?いっいっ、痛いぃ~!!?血!血があああ僕ちゃんの腕があああ!!」ドタン! バタン!

盗賊「な、なんだ?全然斬れてねーのに、暴れ出したぞ?」

賢者「今、兄ちゃんの剣に幻惑魔法が乗っているからね。斬られたような幻覚を見たんだろう…魔法剣、ってとこかなー」

賢者「ま、幻惑魔法が解けたら元に戻っちゃうけれど、本当に斬って人殺しになるわけにもいかないし、そもそも攻撃が効かないなら…こんなお仕置きが一番でしょ」

盗賊「………ほう。つまり生殺しってわけか…?斬れば斬るほど苦しむけど、互いに安全ってこったな?」ニヤリ

賢者「あー悪い顔だ…。うん、でもあんまりやりすぎるとね、幻覚から抜け出すのに時間がかかっちゃうから……」

盗賊「泣いて後悔しやがれ、トロル野郎ぉぉ!!」ビシバシ! ビシ!

船長「ぎゃあああ~っ!!」

賢者「…手加減してあげなさいね~…遅かったけど」





157: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:19:45 ID:5Wy0/P9w

船長「あうああああ……」ブクブク

賢者「あーあ、気絶しちゃったか。一応、精神的負担が和らぐよう……回復魔法をかけておくよ」

僧侶「とっ盗賊さん!盗賊さあん!!怖かった…怖かったですよ~!うわああ~ん!!」

盗賊「クソアマっ!!大丈夫か、何もされてねーか!?」ギュッ

僧侶「うひょぅ!?は、は、はいぃ……す、少し、服は破られましたけど…」

盗賊「………良かった…」ホッ

盗賊「………」

盗賊「うおおわわわ!!?」ゴン! ゴンゴン!!

僧侶「痛っ!?痛い、痛ぁ!?まさかの三連発!?なんでぶたれたんですか、私!」

盗賊「こ…これは違う!違ぇーから!!あのクソオヤジの幻惑魔法が俺にも流れただけだ……違ぇから!!」

僧侶「正気に戻りたいなら自分をぶってくださいよう!!」

賢者「はいはーい、そのクソオヤジからひとつ質問があるんだけどね……」





158: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 00:20:43 ID:5Wy0/P9w

賢者「あのさ…なんでこの船、どんどん街から離れていると思う?」

僧侶「それは、さっき船員の人達が錨を上げて、船を動かしたから……」

賢者「そっかー成程ねー。じゃあ仕方無いよね、陸地から離れるのは」

盗賊「おい、耄碌するには流石にまだ早いだろ…何をわかりきった事を聞いてんだよ」

賢者「あっははは、いや~ごめんごめん、ちょっと現実を受け入れられなくてさー、あっははははは」

僧侶「も~、賢者さんってば」

盗賊「ははは……」


賢者「………」

僧侶「………」

盗賊「………」



賢者・僧侶・盗賊「「「なにしてくれてんだあああ!!?」」」






163: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:50:53 ID:5Wy0/P9w

盗賊「お、おい!!起きろトロル野郎!船を戻せ、街に戻せ!!コラ、起きろぉぉ!!」

賢者「ちょっとちょっと、流石にダメだよ兄ちゃん!気絶したとはいえ、時間的にまだ幻覚が抜けていない、今起こしたら再び暴れ出すだけだ!」

僧侶「な、なら、他の船員さん達を、起こしましょうよ!」

盗賊「他のったって、大体ノビてんぞ…クソオヤジが何人かに幻惑魔法をかけていたしよ。そもそも、船ってどうやって動いてんだ?どれくらい起こせばいいんだ?」

賢者「え、えーっと、えーっと!あれ?オッサン誰に幻惑魔法かけたか忘れちゃったよ、あっははは……嫌だね~歳は取りたくないな~本当!!」

僧侶「じゃあじゃあ、どうすればいいんでしょうか!?うわああん、街があんなにちっちゃく見える~っ!さっきよりも流れが早くなってますよう~!?」

賢者「あー、むか~し本で読んだ事があるなあ……潮の流れってやつかしら、コレ」





164: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:52:02 ID:5Wy0/P9w

~漂流中~

盗賊「あっちぃ……砂漠の次は海かよ、風が吹いていてもなんかベタついて気分悪ィ…オッサンよぉ、また氷出してくれよ…」

賢者「もう溶けちゃったの?出してあげたいところだけどね……こんなに長く船に揺られていると、気持ち悪くて、集中できな……うおえええ!!」ゲロゲロ

僧侶「だっ大丈夫ですか、賢者さん!?今どの辺りなんでしょうね……お水や食糧は積んであったから良かったけど、なくならないうちにどこかに船が着かないと……うう」

賢者「せ……背中擦ってくれて、ありがとうね…お嬢ちゃん………おうええぇ」

盗賊「おい、まだ陸地に着かねーのかよ!?」

海賊「へ、へい…なにぶん、気絶していた間にかなり流されてやして……調べちゃいますが、ここがどの辺りか検討もつきやせんもんで…」

盗賊「大体誰だよ、船を動かした奴はよ!なんで俺がこんな目に合わなきゃならねーんだ、チクショウ!!」





165: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:52:59 ID:5Wy0/P9w

子分「りっ陸地が見えましたぜ、旦那ぁ!ありゃあ、聖騎士の王国です!!」

盗賊「聖騎士って……おい、隣の大地まで流されたのかよ!?」

子分「間違いないです、聖騎士の王国にゃ、聖騎士達が修行するバカでかい塔があるんですが……今しがた望遠鏡でソイツを確認しましたんで!」

賢者「も、なんでもいいからさ、船から降りようよ…オッサンもうダメ、このままじゃ内臓まで吐き出しそ………うえええ」

僧侶「賢者さん、しっかりしてくださいぃ…」ナデナデ

盗賊「仕方無ぇか……じゃあその陸地に船を着けてくれ」

盗賊「言っておくが、俺達がいなくなったからって、また悪さするんじゃねーぞ……あのトロル野郎にも言っておけ!何かしようもんなら、また仕置きに来るってよ!!」

海賊「は!はいぃぃぃ!!」

 


166: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:53:59 ID:5Wy0/P9w

~陸地~

僧侶「海では太陽がキツかったのに、この辺りは涼しいんですねえ…」

賢者「あー…基本的に、この土地は寒冷地だからね……冬になると特に寒さが厳しくなるよ…うっぷ。まだ気持ち悪い」

盗賊「そういや、オッサンはこの土地の産まれだったか」

賢者「ああ…更に北の方にある、魔法文明を研究する街がある……俺の故郷がそこなんだよ、な、あ、ちょっとタンマ、……おええええ」

僧侶「あああ、賢者さんん…」ナデナデ

盗賊「先を急ぎたくもあるが、オッサンがこの調子じゃどうしようもねーな……この辺で野宿するか?」

?「…そこの人、大丈夫か?顔が真っ青だよ」

?「オジサンどうしたの?具合悪いの?」

盗賊「…っ?」ドクン

僧侶「んっ?」ドクン

賢者「うおえええ……」





167: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:54:51 ID:5Wy0/P9w

戦士「随分と具合が悪そうだが、急病人か?」

盗賊「(若い女…戦士か?……それと、旅芸人らしき格好のガキ)」

盗賊「…いや、病人というより、船に酔っただけでな。仕方無いから、この辺で野宿して休ませようとしていたところだ」

戦士「船酔い?そうか。なら、良い薬があるから、それを飲ませてあげるといいよ。ま…旅芸人」

旅芸人「はいっ!この薬だよ!僕もここに来るまでに、船に酔っちゃったんだけど……でも、この薬を飲んだらすぐに治ったんだ」

僧侶「あ、ありがとう~!ありがとうございます、助かります!さあ、賢者さん、お薬ですよ!」

盗賊「…すまねえな、見ず知らずの俺達なのに、親切にしてもらってよ」

戦士「なに、性分というものでね。困っている人を見かけると、手助けしてしまいたくなるんだ。いきなり声をかけて悪かったね。それでは、お大事に」





168: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:56:23 ID:5Wy0/P9w

盗賊「………」

賢者「はあ……いやあ、よく効くな~この薬。気持ち悪いのがかなり落ち着いてきたよ」

僧侶「良かった!親切な方にお会いできて、良かったですねえ~」

賢者「本当にねえ~、旅は道連れ世は情け。ありがたいことだなあ」

僧侶「…それにしても…盗賊さん、珍しく疑ったりしなかったんですね…?いつもなら、少しでも怪しんでから入るのに」

盗賊「………ん?…あ、ああ」

僧侶「盗賊さん?どうしちゃったんです…?ボーッとして……」

賢者「あれじゃないの?さっきの戦士の姉さん、なかなか胸大きかったし。見惚れたとか、そーいうの?」

僧侶「そ、そうなんですか!?盗賊さんっ!」

盗賊「なっ!?バカ!違ぇよ!!」

盗賊「………」

盗賊「(…気のせいか?さっき、心臓……いや、もっと何か、別のものが疼いたような感じがしたのは…何かに反応したような……?)」





169: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:57:14 ID:5Wy0/P9w

~聖騎士の王国~

門番1「止まれ!我が国に何用か!?」

僧侶「ああ…この感じ、また味わうなんて~…」

盗賊「遭難して、この土地に流れ着いたもんでな。持ってきた食糧も尽きかけている、他に村や街も見当たらないし…困ってんだ。出来れば、この国に入れてもらいたいんだが…」

門番2「ふむ…それは難儀な事だな。困っていると言うならば、手助けするのが我らの志」

僧侶「…あれ?わりと好感触…?い、入れてもらえますかねえ…?」

賢者「いやいや~、忘れちゃダメだよ…ここが何の国なのかってことをさ…」

門番1「しかし旅人よ。我々は志と等しく、掟も大事にするものなり」

門番2「心、技、体!全てにおいての強さを認められた者だけが、この門をくぐる資格を持つ者なり!」

門番1「我らの国に入りたくば、戦え!旅人よ!」

盗賊「あー…そうくるか……」





170: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:58:03 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…オッサンは船酔いでフラフラだし、クソアマは役立たず……となると、戦うのは必然的に俺、か……はあ、面倒くせえ~…」

盗賊「…で?どっちと戦えばいいんだ?俺は」

門番1「否。戦うは我らにあらず。我らはあくまでも門番なり、門を守る騎士なり」

門番2「旅人よ、運が良かったな。余所者が門をくぐりたい場合は、その意思を持つ者同士戦い、勝った方だけが入れる掟。入国を待つ相手がいなければ、来るまで待ってもらうところだったが」

門番1「今丁度、一組。入国の為に対戦者を待つ者がいる。彼の者と戦うのだ」

門番2「戦いの準備をする小屋がある故、そこで支度を整えて参れ」

僧侶「だ…大丈夫ですか?大丈夫なんですか?盗賊さん……」

盗賊「大丈夫だと思うか?俺はあくまで非戦闘職の一般人なんだがな…死んだらどうしようかね」





171: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:58:50 ID:5Wy0/P9w

賢者「俺も蘇生呪文は使えないから、危なくなったらすぐ試合放棄するんだよ?その時は遠いけど、食糧節約して何とか魔法の街を目指すしかないな」

僧侶「こ、これが準備小屋ですかね。失礼しま~す…」ガチャ

バトルマスター「入国を希望する者よ。よくぞ参られた。貴殿の勇気を私は賞賛しよう。さあ、扱い易い武器を取りたまえ」

盗賊「剣に槍に斧……色んな武器が揃っちゃいるが…みんな木製だな、これなら斬られても心配なさそうだ」

バトルマスター「命の奪い合いが目的ではないからな。入国を賭けての戦いでは、一太刀入れるか、相手に負けを認めさせた者を勝者としている」

盗賊「なら、俺は剣を選ぶぜ。本当は短剣の方がいいが、それは無いようだしな」

バトルマスター「承知。では、この扉の先が試合場となっている。貴殿の武運を祈ろう」





172: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 11:59:40 ID:5Wy0/P9w

盗賊「ッ!!」ドクン

僧侶「う…?」ドクン

盗賊「(ま…まただ、あの疼きが、また!なんなんだ…?あの様子じゃ、クソアマも同じ感覚を受けている?)」

旅芸人「あ、船酔いのオジサン達だ!元気になれたー?」

賢者「あれ~?そういう君は、薬をくれた少年くんじゃないの。あの時はありがとうね~、って……もしかして、入国を待つ対戦者って…君達なの?」

戦士「奇遇だね、君達も同じ道を目指していたのか。けれど、ごめんな。私達も、どうしてもこの国に入りたいんだ。手加減はしないよ」

盗賊「………」

盗賊「…なんなんだ?お前らは……」

バトルマスター「僭越ながら、試合には私が立ち会わせてもらう。一太刀入れるか、負けを認めさせるか。勝った者を入国対象とする!では、試合始めぃっ!」





177: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:06:05 ID:5Wy0/P9w

旅芸人「ゅ………戦士様ー!頑張ってー!!」

盗賊「(相手の武器も剣か……本職に勝てるわけねーだろ、クソっ!)」

戦士「ふっ!!」シュッ!

盗賊「!?」

盗賊「(な…なんだ?今の…ギリギリ避けられたが……一度しか振っていないのに、太刀筋が二つに見えたぞ!?)」

僧侶「と、盗賊さん…!」

賢者「やー…かなり強いね、あの姉さん…隙がまるで無いよ」

戦士「私の剣を避けられるとは、驚いたよ。私もまだまだ修行が足りないな」

盗賊「……素早さを売りにしているもんでね、一応……」

盗賊「(詐欺くせぇー…あんな技があるとか、卑怯じゃね!?いや、俺も短剣を使った流れ技はあるが……その短剣が無ぇよ、バカが!)」

戦士「やああっ!!」ビュン! ブンッ!

盗賊「と!うお!?危なっ!?」ガン! ガツッ!





178: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:07:13 ID:5Wy0/P9w

盗賊「(一太刀一太刀が鋭く重い…!もし、剣が木製じゃなかったら……いや、木製でも、喰らったら骨がイカれちまう!!)」

戦士「本当にごめん、君達もこの国に入りたいんだろうけど…私も同じなんだ。どうしても、一刻も早く…この国に入って力を借りなくてはならないんだ。あの子を守らなきゃ…!」

盗賊「あの子…?あの旅芸人のガキか?」

戦士「そうだよ。本来、一人の人間にこだわる事は、私にとって良くない事かもしれない。それでも、私はあの子を守りたいんだ。その為なら、この力の全てを注ぐ!!」グッ

盗賊「(なんだ?あの構え……来るッ!?)」ゾクッ

戦士「たあああぁぁーッッ!!」ドカァァッッ!!

僧侶「きゃああああ!!と、盗賊さんっ!!」

盗賊「ぐ……は、ァッ…!」ドサッ

バトルマスター「…そこまで!勝者は戦士と致す!行動を共にする旅芸人も含め、入国を許可しよう!!」





179: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:08:22 ID:5Wy0/P9w

僧侶「盗賊さん!盗賊さん!!大丈夫ですか!?盗賊さんっ!」

賢者「ダメだよ、お嬢ちゃん!動かしちゃ!…回復魔法!」パアァァ

戦士「…形だけのものだったが…それでも剣に生きる者へ対する礼儀として、本気で打った。しばらく痺れが続くだろう、ごめんね。彼が起きたら、私が謝っていたと伝えてくれると嬉しいな」

旅芸人「本当は雷みたいのがビリビリもするもんね、やっぱり戦士様は強いや。さあっ聖騎士の王国に入ろう!オジサン達、ばいば~い!」

僧侶「………な…んなん、でしょう…あの人達……」

盗賊「…うぐ、ぐ……痛ッてぇぇ……」

バトルマスター「旅の者よ。残念ながら君達の入国は認められないが、旅の手助けは致そう。まずは怪我人を医務室へ運ぶ。治療は任せたまえ」

賢者「俺にも手伝わせてください。一応、保護者を名乗ってるんでね」





180: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:09:26 ID:5Wy0/P9w

~医務室~

僧侶「うわわわ、めちゃくちゃ腫れてますよう!い、痛そう…」

盗賊「痛そうじゃなくて痛ぇんだよ!チクショー…全っ然太刀筋見えなかった…レベルどんだけだよ、あの女……」

バトルマスター「患部にこの薬を塗り、包帯を巻いて一時安静にすると良い。すまぬ、上着を全て脱いでくれるか」

賢者「お嬢ちゃん、俺が兄ちゃんの体を支えているから、服脱がせてあげてくれる?…どっこいしょ、っと」

盗賊「痛だだだだ!!も…も、もっと優しく、頼む…!」

バトルマスター「………む?貴殿……このロザリオは貴殿の物か?」ジャラ

僧侶「あ、それ……私も、気になってました…キャラバンの商人さんが言ってました、よね?確か、この国の聖騎士さんはみんな持っている、ロザリオだって…あの時買ってもらったのと同じ…」

賢者「でもすごく古いものだね~、長い時を過ごしてきたかのような感じで」





181: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:10:54 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あ?あー…これか、俺にもわからねーんだよ…物心ついた時にゃ首にぶら下げていたしな。俺は親がいねーから、これが形見なのかどうかもわからねーし」

盗賊「なんとなく……売る気も起きなくて、ただ着けているだけだ…そ、それより早く薬塗ってくれよ、痛ぇって…!」

バトルマスター「ああ、すまぬ。……しかし、気になるな。そのロザリオ」

バトルマスター「確かにこれは我が国のものだ。新しい王が誕生するごとに作り変えられる…そちらの女性が身につけているロザリオは、今の王が誕生した時に作られた真新しいものだが…」

バトルマスター「このロザリオは……詳しく調べてみないと、はっきりとはわからぬが…かなり古いものだぞ。百年、いや、もしかすると、それ以上かも知れぬ…その時代にロザリオが売買されていたという話はない筈だが…」

僧侶「そ、そんなにですか!?どっどっどういうこと、なんですかねぇ…?」





182: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:11:45 ID:5Wy0/P9w

盗賊「なら盗品なんだろうよ。そんな古臭ぇもんが俺の手元にあるって事が証拠だろ…」

賢者「お、おいおい。お膝元で、そう不用意な発言をしないの…」

バトルマスター「否。我らは全てにおいての力をよしとする。どういう経緯があったかはわからぬが、そのロザリオが今ここにあるという事は、その持ち主がロザリオを守る力が無かった、そういう事であろう…」

盗賊「………」

バトルマスター「…さて。手当ては終わった。包帯が少しきついかもしれぬが、痛みが引くまでの辛抱だ」

僧侶「ありがとう、ございました…」

バトルマスター「貴殿らは戦いに負けた故に、我が国に入れぬが、ここより北に魔法文明を研究する街がある。水と食糧を渡そう、そこを目指したまえ」

バトルマスター「ただし、街に行く道の途中、何か魔力が働いているらしく、酷い吹雪が起きている箇所がある。気を引き締めて向かえ」





183: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:12:34 ID:5Wy0/P9w

~魔の吹雪地点~

賢者「うおおお……さっ寒い、むしろ痛いぃ!腰に響くじゃないのさあ~!!」

僧侶「前が見えないくらい、酷い吹雪…!こんなの、初めてですう…!!」

盗賊「暑いの寒いの、両極端すぎんだよ!勘弁してくれ!!おいっクソオヤジ!なんなんだよ、この吹雪!!この一角だけ切り取られたみてーに、吹雪いてるぞ!?こういうもんなのか!?」

賢者「いやぁ~…オッサンがいた頃は、こんな事無かったんだけどなー。吹雪が起きても、こう酷くなる事は無かったし……」

賢者「この雪、あのバトルマスターさんが言った通り…魔力を感じるな。とすると、近くにこの吹雪を起こしている者か、魔力媒体がある…それをどうにかすれば止むだろう、けど…」

僧侶「こ、こんな調子で、魔法の街に着けるんですかねえ~!?……ふぎゃ!」ドサッ

盗賊「何やってんだ、クソアマ。転んでんじゃねーよ、ドジ」





184: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:13:27 ID:5Wy0/P9w

僧侶「あうう……雪がすごくて、足が埋もれちゃいますぅ………あ、でも、なんだかあったかい…?」

盗賊「おい、クソアマ!バカか、お前!?こんなところで寝るんじゃねーよ、捨てていくぞ!コラ!!」

賢者「いやはや参ったね~、休むにしても、どこもかしこも雪だらけ……また遭難しちゃうなあ、これじゃ」

僧侶「…あれぇ…?……よ、妖精さんが手招きしてますよう…」

盗賊「バカを拗らせてんな、バカ!!起きろ!死因がバカとか流石にキツいもんがあるぞバカ!!」

僧侶「バカバカ言い過ぎですよ!盗賊さんのバカ!あそこ、ほらっあそこに妖精さんがいるじゃないですかあ!!」

賢者「………あれれ、本当だ。オッサンにも見えるんだけど、何これ?幻覚かな?それとも、あの世からのお迎え?」

妖精「…こっち。こっちに来て、早く。そこにいたら死んじゃうよ」





185: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:14:15 ID:5Wy0/P9w

妖精「…不思議ね、貴方達からは、仲間の匂いがするわ。人間なのに……どうして?」

盗賊「…ま…マジかよ。俺にも見えるぞ?」

妖精「そっちのオジサンからは匂わないけど、貴方と貴方……とくに、お兄さんからは、強い匂いを感じるの。何か妖精が作ったものを、食べたり飲んだりした?」

僧侶「…あ、そ、そう言えば!砂漠の妖精さんに助けてもらった時……妖精の回復薬を飲みましたね、盗賊さん」

妖精「砂漠……もしかして、滅びの里の!?そう、そうなのね。彼らはまだ生きているのね…嬉しい。聞けて嬉しいわ」

妖精「ここにいたら貴方達、死んじゃうわ。助けてあげる、ついてきて。私達の村に来て」

賢者「なんだかよくわからないけど…ご好意にゃ甘えよっか、確かににっちもさっちもいかないしさぁ…」

盗賊「つくづく妖精に縁があるんだな、俺達は…」





186: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 15:15:04 ID:5Wy0/P9w

~エルフの村~

僧侶「わあ…綺麗なところ……吹雪もないし、あったかくて心地好い…」

妖精「あの吹雪は魔力を使って起こしている、魔法の吹雪だから。この村は元々、人間に見つからないように結界が張られているの。それが吹雪も遮断してくれるのよ」

盗賊「…何をベタベタと木に触ってんだ?クソアマは」

僧侶「あの砂漠では、木とかほとんどが蜃気楼の幻でしたけど…ここのは本物なんだなーと思って…」

賢者「いやあ、こんな村があったなんて、オジサン知らなかったなあ。ただここにいるだけで、魔力が回復していくのを感じる……」

賢者「住人は……妖精より、エルフの方が多いんだね?ハーフエルフからハイエルフまで、うーん、素晴らしい。ハイエルフは文献でしか見たことなかった、話が聞きたいな…」

妖精「砂漠にある里が潰されたから、私達はこの村に避難し、住ませてもらっているのよ。だからここはエルフの村よ」





187: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 19:59:07 ID:5Wy0/P9w

僧侶「あ、あの……失礼かもしれないけど…貴方は、私達人間を…憎んでいない、ですか…?」

妖精「……滅びの里で、何か言われたんでしょう?」

僧侶「は、はい…」

妖精「…哀しいことだけど、仕方ないわ……それが運命なら、従う事を選んだのが、この村に逃げた私達。滅びの里にいる仲間は人間を憎んでいるけど、私達は…まだ、人間を信じたいの」

妖精「いつか、戦いや争いがなくなって、みんなで歌ったり踊ったり…楽しく仲良く遊べる日が来るんじゃないかって。信じていたいのよ」

僧侶「……ごめんなさい…ありがとう…」

妖精「謝られることも、礼を言われることもないわ。私達も頑張らなきゃね、そんな日が来る為に。だからまずはこの吹雪をどうにかしたくって…身動きが取れないんですもの」

妖精「そこで休んでいて?私、村長様に貴方達の事を話してくるから」





188: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:00:06 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………」

盗賊「何へこんでんだよ、クソアマ。折角の暖けぇ空気が湿っぽくなるだろ」

僧侶「す…すみません……でも、なんか…申し訳なくって……」

賢者「………。 さて。いい機会だから、オッサンはちょっと村の中を見てくるよ、勉強になりそうだしさ。ぐるっと回ったらここに戻ってくるからね~」

盗賊「あ、ああ。行ってこい」

盗賊「………」

盗賊「…あの、よ。クソアマ。……そんなに気に病むこたぁ、ねーだろうが。さっきの妖精が望むような世界にする為に…勇者ってもんがいるんだろ?」

僧侶「…は、はい…そう、ですよね…」

盗賊「妖精が頑張るっつってんのに、テメーがウジウジしてどうするんだよ。へこむ暇があんなら、その分頑張れよな、お前も」

僧侶「ううう…!と、盗賊さあん…」

盗賊「……チッ。なんだかな、この村の空気は妙な気分にさせられる。穏やかすぎんだよな…らしくねー、この俺が……」





189: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:01:03 ID:5Wy0/P9w

・・・

賢者「やー、ぽかぽかと気持ちのいい日溜まり……春って感じだねえ、外の吹雪が嘘みたいだ」

エルフ「あら?珍しい。人間だわ。こんにちは、いいお天気ね」

賢者「はい、こんにちは。お邪魔してますよー。……ふむ、文献とは違うなー、それともこの村のエルフだけなのかなあ~?すごく友好的だ、みんな」

賢者「…と、ここは行き止まりか。……おー、立派な祭壇じゃないの。でも、野晒しなのに汚れがひとつもない…ピカピカの新品みたいだ」

賢者「………近くにいるだけで、心が洗われるような……なんとも美しい祭壇だね~……聖母像もこれまた美しい…こんなにも穏やかな笑みの作りは見たことがない」

賢者「………いやあ……救われるねえ………」

?「……そこにいるのは……まさか…賢者……賢者なの?」

賢者「ん?誰だい?………!!?」





190: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:01:54 ID:5Wy0/P9w

賢者「…そ…んな……まさか……まさか!君は!!」

武道家「や…やっぱり!賢者!賢者だ!!うそ…こんな事って…ああ……また、また貴方に会えるなんて!」

賢者「き、君は…君は…!お……俺を庇って死んだはずの…ま、幻?幻なのか?それとも夢か?」

武道家「賢者ぁ…っ!会いたかった!幻でも夢でもないよ、…ううん、幻といったら、それに近いけど…」

武道家「この村は妖精やエルフの他にも、精霊なども住んでいるんだよ。私は死んでしまったけど…理由があってね、霊体としてここに留まっているの」

賢者「………!れ…霊体……!?」

武道家「にわかには信じられないよね…でも、私…私は……貴方に会えて、本当に…嬉しいよ…」グスッ

賢者「………」

賢者「…幻でも、夢でも……霊体でも、いい…その喋り方、仕草……俺の前じゃ泣き虫なところ…全部、全部、あの時のままだ……俺も、会えて嬉しい…!」





191: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:02:45 ID:5Wy0/P9w

武道家「け…賢者ぁぁ…!!」

賢者「泣くなって…貰い泣きしちゃうでしょーが。…ああ、本当に霊体なんだな…君が泣いているのに、頭を撫でてやる事も、抱き締めてやる事もできないなんて」

賢者「懐かしいなあ…君が泣いたら、すぐに頭を撫でてさ?それから抱き締めて、最後に口へ飴玉を入れてやる。それが君の涙を止める方法だったのに…もう、できないんだな……」

武道家「…ううん……ごめん、泣いちゃって…でも、私……貴方がくれる飴玉、今もひとつ持っているんだよ」

武道家「ほら。ふふ、すごく美味しいから、いつも一粒だけ取っておいて、持ち歩いていたの。溶けちゃう前には食べていたけど、この飴玉だけは……食べられなかった」

賢者「…すまない……俺が弱かったから…君を守れなかったから……」

武道家「違うの、ごめんね。貴方を責めているわけじゃないの、弱かったのは私だよ。ごめんね…貴方に辛い思いをさせて…本当に、ごめん…」





192: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:03:29 ID:5Wy0/P9w

・・・

妖精「村長様が貴方達に会いたいって言っているの。来てくれる?」

僧侶「あ、はい。でも…まだ、賢者さんが戻ってきてないんですが…」

妖精「あのオジサンなら、村の端にある精霊の祭壇にいるのを見たわ。…今は取り込み中だから、邪魔しない方がいいと思うの。だから貴方達だけでも、来てくれる?」

盗賊「取り込み中?何やってんだか、あのオヤジは。…まあいい、それじゃ行くとするか」


エルフB「まあ、人間だわ。会うのは久し振り。私達の村へようこそ」

エルフC「いらっしゃい。外は大変だったでしょう?ここで時間の許す限り、体を癒してね」

僧侶「ありがとうございます~。…皆さん、優しいですねえ」

妖精「ここにいる者達の考えは、みんな同じよ。誰もが平和な世界を願っているの。勇者と、その仲間の為になら、いくらでも力を貸したいと……さあ、ここが村長のおうちよ」





193: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:04:15 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…やたら小さい家だな……よ、っと…クソアマ、頭ぶつけんなよ」

僧侶「はう!!」ゴンッ

盗賊「言ったそばから…ある意味、期待を裏切らないな。テメーはよ」

妖精「今の村長は小人族だから、おうちも小さいのよ。私には大きすぎるくらいだけど、人間の貴方達には小さいでしょうね。…村長、人間達を連れてきました」

村長「ありがと~。君はそこで待ってて~?…こんにちは~僕がこの村の村長です、よろしく~」

僧侶「わあ…可愛い!…あ、ご、ごめんなさい!失礼な事を……」

村長「あははっ。ううん~気にしないで~。君も可愛いよ、ありがとね~」

村長「えっと~、君達に頼みたい事があって、来てもらったんだよね~。外から来たなら知っていると思うけど、すごかったでしょ?外の吹雪」

村長「あれね、この近くにある氷で覆われた洞窟の中から、吹雪いているんだ~。どうやら、中に魔の吹雪を生む媒介があるみたいなんだよね~」





194: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:05:06 ID:5Wy0/P9w

村長「僕達もすごく困っているんだ~…何度か取り除こうと、出かけたんだけど、洞窟の回りは魔物もいっぱいで、いっつも邪魔されて奥に行けないんだよ~」

村長「だから、君達にお願いしたいんだ~。吹雪を止める為に、手伝ってくれないかな~?このままじゃ何処にも行けないよ~」

盗賊「おい…なんだか面倒な話になって来たな…」

僧侶「で、でも、この吹雪をどうにかしなきゃ、困るのは私達もですよ…?止められる方法がわかっているなら、やりませんか…?」

村長「本当、お願いしたいんだよ~。折角、この地に勇者が来てくれたのに…この吹雪で外に出られないと、手助けができないよ~」

盗賊「っ!?勇者!?勇者がこの近くにいるのか!?」ガシッ

村長「うわあ!?あはは~、苦しいよ、やめて~潰れちゃう~」

盗賊「あ、す、すまんっ」パッ





195: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:05:52 ID:5Wy0/P9w

村長「はあ~びっくりした~。あはは、うん、勇者はこの近くに来ているよ~。僕達はね、神様に勇者を助けてってお願いされたから、力になりたいんだよ~」

村長「君達は勇者の仲間でしょう~?なんで勇者と別々になっているの~?勇者に会ったくせに、変なの~」

盗賊「…はあ?」

僧侶「わ、私達が……勇者様に、会った?え?え?いつ?」

村長「え~、気づいてなかったの~?だって君達、キラキラしてるのに~。勇者はもっとキラキラ輝いているだろうけど、その光の粒が君達についているよ~?」

盗賊「ど、どこかですれ違ったのか!?いつだ、どこでだ!?そんな、それらしき者は……」

村長「あはは、勇者の事、あんまり知らないみたいだね~?じゃあこうしよう~っ!吹雪を止めてくれたら、勇者の事を教えてあげる~。どう?いい案でしょう~?」

盗賊「チッ…わかったよ、吹雪くらい、すぐに止めてやるぜ」

僧侶「つ、ついに、ついに勇者様に会える…!」





196: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 20:06:37 ID:5Wy0/P9w

妖精「…お話は終わったかしら?」

村長「うん~終わったよ~。ねえ、妖精。この人達を、氷の洞窟に連れていってあげてくれる~?」

妖精「はい、わかりました。ありがと、お願いを聞いてくれたのね?とても嬉しいわ、よろしくね」

僧侶「こ、こちらこそ!よろしくお願いしますっ!!」

村長「洞窟の中もすごく寒いから、暖かい格好をしていくといいよ~。エルフ達に頼んで、防寒具を用意してもらうから、ちょっと待っててね~」

盗賊「おう、よろしく頼むわ」

村長「………」

村長「あははっ、ちょっと変更~。君に連れていってもらった方が早いよね~。ねえ、僕を肩に乗せて~?村の中央にある集会場に連れていってよ~」

盗賊「…俺を乗り物扱いすんなよ、クソチビめ」

僧侶「私は、賢者さんを呼んできますねっ」





197: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/06(月) 23:59:23 ID:5Wy0/P9w

僧侶「えっと、確か賢者さんは…村の端にある精霊の祭壇に……あ、いたいた」

僧侶「………!うわあ~…綺麗な祭壇…!聖母様の像も、とても素敵…神聖な力に溢れてる……」

賢者「………」

僧侶「賢者さん、迎えに来ましたよ~。あのね、吹雪を止める方法がわかったんです!これから原因のある洞窟に行くので、賢者さんも一緒に……あ、あの、賢者さん?」

賢者「………」

僧侶「賢者さん?賢者さーん!?」

賢者「…うわっ!?び、びっくりしたなーもう。お嬢ちゃん、いつのまに来てたの?」

僧侶「ついさっきですよ。どうしたんです?ボーッとして…」

賢者「ああ、うん。ごめん、大丈夫だよ。…いや、この祭壇があんまり綺麗なもんだから、見惚れていてね」

僧侶「あー、それは確かに、わかります!すごく、綺麗だし…神様の力に満ちていますから……見惚れるのは仕方ないですねえ~」





198: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:00:17 ID:5Wy0/P9w

賢者「本当に、そうだねえ……」

賢者「………」

賢者「ねえ、お嬢ちゃん。悪いんだが、この祭壇に祈りを捧げてはくれないかな?オジサンも一緒に祈るからさ」

僧侶「え?は、はあ…祈るのは、別に構いませんけど…」

賢者「兄ちゃんを待たせたら怒られそうだもんねえ、今は手短にやろうか。じゃあ、よろしく頼むよ」

僧侶「は、はいっ」

賢者「………」

僧侶「………」

僧侶「(………お祈りに集中しなきゃ、だけど……)」

僧侶「(賢者さんがちょっと気になるな……目が赤い、…泣いていたの?賢者さん)」

賢者「………」

僧侶「(…あれ?聖母像が…今、微笑んだ…?)」

賢者「………ん。ありがとう、お嬢ちゃん。オジサンの我儘に付き合ってくれて。さ、兄ちゃんのところに行こっか」

僧侶「あ、は、はいっ」





199: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:01:05 ID:5Wy0/P9w

~氷の洞窟~

僧侶「エルフさんから借りた防寒具のおかげで、吹雪の中もなんとか進めましたね!」

盗賊「おい、テメーなんで俺の服の中に入ってんだよ。自分で飛べよな」

妖精「この風じゃ私なんか、すぐに飛ばされちゃうわ。それに貴方は妖精の匂いが強いから、安心するのよね」

盗賊「あのクソチビもお前も、俺を乗り物扱いするなっつーの」

賢者「ん~、洞窟にはついたけど……氷の壁で入り口が塞がっているねえ」

妖精「あら?変ね、前に来た時は、そんなものなかったのに」

僧侶「でも、これ……壁というより、扉じゃありませんか?ほ、ほら…これも氷だけど、錠前がついてますよ…?」

賢者「うーん…氷を溶かすにしても骨が折れるな…魔力が空になるだろうし」

妖精「困ったわね。鍵がどこにあるかなんて、検討もつかないわよ」





200: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:01:54 ID:5Wy0/P9w

盗賊「おいおいテメーら。俺を忘れてんじゃねえぞ」

盗賊「盗みならなんでもござれのこの俺に、こんなチンケな鍵で挑もうなんざ、百年早いんだよ」ガチャガチャ

盗賊「…ほらな、開いたぜ」ガチャッ

僧侶「わあ~!盗賊さん、すごーい!鍵いらずですねえ~」

盗賊「…どっかのバカのせいで、矢面に立たされてばかりだったが、俺の本職はこれなんだよ」

妖精「貴方、とっても便利なのね。一家に一台あると良さそうだわ」

盗賊「乗り物の次は道具扱いかコラ。潰すぞテメー」

賢者「うおおぅ……扉を開けたらもっと吹雪が酷くなったよ、さ、寒い…!!気をつけて進むんだよ、みんな~!」

僧侶「床も壁も、天井もみんなツルツルに凍ってますねえ…でも、氷が光を反射していて、中は暗くない……良かった、怖くなさそう…」





201: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:02:34 ID:5Wy0/P9w

魔物「ガアアアア!!」

賢者「火炎魔法っ!!」ゴオオォッ!

僧侶「えい!えいっ!!メイス攻撃ーっ」ポカスカ

妖精「…ねえ、ちょっと。貴方は戦わなくていいの?2人に任せてばかりじゃない」

盗賊「宝箱を開けるのも、戦いのひとつなんだよ。クソオヤジの魔力が尽きたら俺も戦うさ。……お、この宝箱に魔力回復の聖水が。クソオヤジに飲ませよう」

妖精「もう。結局戦う気がないんじゃないの、困った人ね」

盗賊「別に、お前を服から引き摺り出して捨てていってもいいんだが?」

妖精「次の宝箱にまた役立つアイテムがあるといいわね。私の探索能力で宝箱を見つけてあげるわ。宝箱の鍵は貴方にしか開けられないんだもの、期待してる。さあ行きましょ、戦いは彼らに任せて、私達は私達にできる事をしなくちゃ」

盗賊「…お前の性格、そんなに嫌いじゃないぜ、俺」





202: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:03:27 ID:5Wy0/P9w

僧侶「盗賊さーん!盗賊さんも戦闘に参加してくださいよう!魔物が多くて大変なんですからっ」

賢者「あっ、お嬢ちゃん!走ったら危ないよ、転……」

僧侶「ふぎゃ!」ツル スッテーン

賢者「…転ぶよー、と言うのも間に合わなかったな…」

盗賊「まったく、期待を裏切らないクソアマめ」

僧侶「痛たたた……あ、あれ?あれっ?か、勝手に滑っていく……」ツルルルル

賢者「ちょっと、お嬢ちゃん!?どこに行くの、一人じゃ危ないよ!」

妖精「いやだ、氷の床で滑っていくんだわ。…ねえっ落とし穴があるわよ!?踏ん張って止まらないと、あの子、穴に落ちちゃうわ!」

僧侶「はわわわわ!!」ツルルルー

盗賊「何やってんだバカ!クソアマ!!止まれっ!!」

賢者「氷柱魔法!!」バキン バキン

賢者「ダメだ、氷柱を立てて止めようと思ったけど…滑っていくのが早い!」





203: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:04:15 ID:5Wy0/P9w

僧侶「きゃーっ!?」

盗賊「クソアマ!!うわあっ!?」

賢者「2人とも穴に落ちたー!?…も、もう、オッサン高いところ苦手なんだけどなあ…!!」バッ


僧侶「きゃーああああー!!」

妖精「この高さから落ちて、どうする気?人間の貴方達は空を飛べないでしょうに」

盗賊「てめっ!なに一人だけ服から出て、飛んでんだよ!!あとで潰すからな!」

賢者「兄ちゃん、お嬢ちゃんの事をしっかり掴んでなよ~?ちょっと勢いキツいと思うから」

盗賊「おいっ、何する気だ?オッサン!」ギュッ

僧侶「あわわわわ……だ、だだ抱き締められ…あわわわ」

賢者「上手くいくといいんだがね~。よし、あの氷の塊でいいか……一点集中、爆炎魔法!!」

ドゴォォンン!!





204: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:05:16 ID:5Wy0/P9w

盗賊「っ!爆風で…煽って、落ちる勢いを殺したのか」ドサッ

賢者「あだっ!!……いたたたた、ケツが割れた!絶対割れたあ!いたたたた!!」ドスッ

妖精「無茶をするわね、人間って」

盗賊「このクソチビ2号!いつのまに、また服の中に逃げ込んで!調子がいいな、テメーはよ!」ギュー

妖精「待って待って待って、私を潰すのは気が早いわよ。本当よ。私も役に立つから、……全体回復魔法!」パアアァァッ

賢者「…っは…?あ、ケツが痛くない……おぉー、やるじゃないの、妖精ちゃん!」

盗賊「ほう?こりゃスゲーが……なんで今の今まで使わなかった、本当に調子いいな、お前」ギュギュウー

妖精「待って待って待って待って。潰れるわ。妖精の搾り汁ができちゃうわ。ほら、私を搾るよりも、その女の子をどうにかした方がよくないかしら?」ギュー

僧侶「」アウアウ

賢者「お嬢ちゃん……乙女なんだねえ…」





205: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:06:04 ID:5Wy0/P9w

賢者「しかし、随分深いところに落ちたもんだなあ…どうやって帰ろうね?」

妖精「…この先。この先から、魔力の強い流れを感じる。吹雪を生む媒介があるかもしれないわ」

盗賊「一本道のようだしな…仕方ない、行くか。おらっ起きろクソアマ、寝てんじゃねーぞ」バシバシ

僧侶「痛い!痛たた!!…も、もうっ!もっと優しく起こしてくださいよう~」

賢者「んー……魔物の気配もないね…あ、まーた扉だ。兄ちゃん、鍵開けてくれる?」

盗賊「へいへい…」ガチャガチャ

ギイイィィ…

賢者「……おぉ~…これは、これは……」

僧侶「うわあ~…すっごい、綺麗……氷の柱に、光のカーテンが掛かっているみたい…」

賢者「これはオーロラっていうんだよ。でも何故こんな場所に……この空間だけ、人為的に作られたようだ…天井は吹き抜けだけど、高すぎるね」





206: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 00:06:46 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…台座に何か乗っているぞ。なんだ?こりゃ。宝玉か……真っ青でスゲー綺麗だな…売ったら高そうだ」

妖精「貴方、罰当たりね。…それよ、吹雪を起こす媒介!その宝玉を中心に、魔力が渦巻いているもの」

僧侶「じ、じゃあ、これを壊せば吹雪は止むんですか、ね?」

賢者「や、別に壊さなくていいと思うよ。こういうのは、場所も大事だからね。宝玉の位置を動かすだけでも、吹雪は止むはずさ」

僧侶「じゃあ、じゃあ転がすだけでも……あ痛!」ポカッ

盗賊「お宝に素手で触るなっつーの、クソアマが。動かすだけでいいなら、持って帰って売り飛ばしてもいいわけだな?いくらになるかねぇ~」

僧侶「声をかけてくれるだけでいいのに、すぐぶつんだから~…」

賢者「手のひらに乗るくらいの大きさか…いや~、こんな小さなもので、あれだけの吹雪を起こす魔力を込めるとは…実に興味深いなあ」

 

 


210: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:48:42 ID:5Wy0/P9w

妖精「…宝玉を取り上げたら、魔力の流れが途切れたわ。これで吹雪も止んだはずよ」

僧侶「やったあー!…って、手放しで喜べないんですよねえ……ど、どうやって帰りましょうか…」

妖精「私、移動魔法も使えるわよ?天井がないここからなら、村までひとっ飛びで帰れるわ」

盗賊「ほほう、そいつは便利だな。……それを使えば、あんな吹雪の中を歩かずに、この洞窟まで飛べたんじゃねーか?」ギュウウウウ

妖精「待って待って待って待って待って。私を潰したら貴方達、一生ここに閉じ込められるわよ。最後の晩餐は妖精の搾り汁?あらあら、グルメなのね」ギュウウウ

賢者「結局さあ、この宝玉は持って帰るわけかい?いや、できれば研究したいけど…なんか、下手したら部屋の中でも吹雪いたりしそう」

妖精「それは大丈夫じゃないかしら。もう魔力反応を感じないもの。さあ、早く帰りましょう。私の体があちこちクビれないうちに」





211: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:49:38 ID:5Wy0/P9w

~エルフの村~

村長「あはは、これが魔の吹雪を生んでいた宝玉かあ~。うん、確かに魔力の匂いがするね~」

盗賊「外を見たら、あの吹雪が嘘のように止んでいたしな。これで任務完了、ってわけだ」

賢者「…うーん、オッサンも話に混ざりたいなー、なー」

妖精「私が話し相手になってあげるから、いじけないで」

僧侶「私と盗賊さん、2人入ったらいっぱいいっぱいですもんね、このおうち…」

村長「本当に本当にありがとう~!これで外に出かけられるよ~。残っている雪もやがて溶けるだろうしね~」

村長「よ~し、じゃあお礼に、君達に勇者の事を教えてあげる~。…じゃじゃ~ん、占いの水晶玉~」コロン

盗賊「…俺には少しでかいビー玉にしか見えないんだが」

村長「僕はこう見えて占いが得意なんだ~。これで勇者が今いる場所から、会い方まで占ってあげるね~百発百中だよ~」





212: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:50:23 ID:5Wy0/P9w

僧侶「…やっと……やっと、勇者様にお会いできるんだあ…」

盗賊「ああ……」

村長「ん~むむむ~……は~い、出ましたあ~」

村長「えっとね~、勇者は今、聖騎士の王国にいるよ~。聖騎士の証でも取りたいのかな~?あはは、それから、勇者と一緒にもう一人…魔法使いがいるね~」

僧侶「…え?聖騎士の王国、って…す、すぐそこじゃないですか!つい2、3日前に立ち寄ったばかりですよう!?」

盗賊「………」

村長「何か理由があるみたい~、それまではわからないけど…勇者は今、別の名前を騙っているね~。魔法使いもそう、2人して変装しているよ~」

盗賊「……聖騎士の王国…2人………変装……」

盗賊「………ま、まさか……?」

僧侶「じ、じゃあ!じゃあ、今からでも、聖騎士の王国に行けば、勇者様に会えるんですね!?」

村長「うん~、暫く滞在するみたいだからね~。……でも~…」





213: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:51:09 ID:5Wy0/P9w

村長「今、王国に行ったら…君達は一生勇者に会えなくなるよ~?」

僧侶「えっ!?な、なんで?なんでですか?」

村長「運命。運命がそうさせるんだよ~、勇者と会うには、鍵が足りない…そう言えばわかるかな~?何度も機会はあったのに、すれ違いもしたのに…互いに気づかなかったのは、運命の仕業なんだね~」

村長「君達は勇者に会う前に、ここから先にある魔法の街に行かなきゃならない…そこには大きな塔があって…2人だけで昇らなきゃいけない。そしてそこで、君達は重要な選択を迫られるでしょう~」

村長「どの答えを選ぶかは、君達の判断に委ねられるけど…それを乗り越えた時にこそ、勇者と合流を果たせる。そして、勇者の悩みを、葛藤を打ち砕き、彼の力となり刃となり…魔王を倒す事が叶うだろう…」

村長「………と、占いに出ました~。あはは、どうだったかな~?」

盗賊「……悩み、か……」





214: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:51:52 ID:5Wy0/P9w

僧侶「で、で、でも!その塔に、私と盗賊さんだけで昇って…選択っていうのもクリアしたら……勇者様に会えるんですね!?今度こそ!」

村長「うん~。あはは、順番を間違えずに行けば、必ず会えるよ~。勇者はね、今すごく悩んでいるんだ~。…だから、早く力になってあげて。君達にしか助けられないから……お願い」

僧侶「わ…わかりましたっ…!盗賊さん!魔法の街に行きましょうっ?」

盗賊「ああ。魔法の街はクソオヤジの故郷っつってたしな。あいつに話を聞けば、その塔とやらもわかるだろう」

村長「あ、そうそう~。吹雪を止めてくれた、あのオジサンにも、お礼をしなくちゃね~。さあ、僕を肩に乗せて~?外まで、れっつらご~」

盗賊「だから俺を乗り物扱いするんじゃねえッ!!このクソチビ初号機が!!」





215: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:52:41 ID:5Wy0/P9w

賢者「あー、やっと出てきた。おかえり~、寂しかったよオジサンはさあー」

村長「こんにちは~、僕、この村の村長で~す。この度は吹雪を止めてくれて、どうもありがとう~」

賢者「わ、小人族!?いやはや……やっぱり文献だけじゃ得られないもんだな、知識ってのは…。いやいや、どういたしましてー。こちらこそ、防寒具を貸してもらったり、ありがとうございました」

村長「それでね~?君にもお礼がしたいなあって思うんだ~。急ぎたいだろうけど、吹雪を止めて村を救ってくれた君達に、ささやかながら宴の用意もしたんだよ~」

盗賊「宴……飯か?」ピク

僧侶「盗賊さん…」

村長「あははっ、勿論ご飯もたくさん作ったよ~、食べてって?一晩くらいはいいよね~、休んでいってほしいんだ~」

村長「なにより、オジサンへのお礼は宴と別にも用意してあるからさ~是非参加してね~」

賢者「なんだ?なんだろ、そこまでしてもらっていいのかな?」





216: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:53:26 ID:5Wy0/P9w

~御礼の宴~

盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ

妖精「あ、その木の実のスープは私が作ったのよ。美味しいでしょう?ふふふ…これでいっそう妖精の匂いが強くなるわね、居心地も更に良くなるでしょうね」

盗賊「叩き潰すぞクソチビ2号。俺はテメーらの乗り物じゃねえっ!」

エルフ「さあ、たくさん食べてね。栄養もばっちり、体力がつくわよ」

僧侶「ありがとうございます、とっても美味しいです…!ヘルシーなのに、コクがあったり深い味わいだったり……不思議なお料理ですねえ…」

賢者「いや~この果実酒も旨いっ!こんなにも甘いのに、爽やかな口当たりで、いくらでも飲めそうだ…ひっく」

村長「あはは、喜んでもらえて良かった~。でもまだ酔い潰れないでね~?本番はこれからなんだからさ~」





217: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:54:16 ID:5Wy0/P9w

賢者「本番?…そういや、オッサンにはまだ別のお礼があるんだっけ。これ以上、よくしてもらうとか、なんだか申し訳ないなあ」

村長「いいんだよ~。君の為だけでもないからね~、…あ、来た来た、お~い、こっちだよ~」

賢者「………ッ!!」

僧侶「…わあ、素敵……なんて綺麗な花嫁さんなんでしょう!」

盗賊「…確かに綺麗だが…エルフでも妖精でもねーぞ?人間…?いや、なんか透けてねーか……?なんだ?ありゃあ…」

武道家「……賢者…」

賢者「…あ……あ、あれは…彼女は……お…俺の、親友…だ……」

盗賊「!! …テメーを庇って死んだって奴、か?なら…ありゃ、亡霊か…?」

村長「彼女はね~死んだ時に、故郷のある、この地へ魂が飛ばされたんだけど……あの魔の吹雪のせいで、この村に閉じ込められちゃってたんだよね~」





218: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:55:02 ID:5Wy0/P9w

村長「ねえ?彼女を天に、故郷に帰してあげて~?君の心の奥底に隠した本音を、彼女に渡して…送ってあげて」

賢者「………」

賢者「……なんつー礼を用意してくれたのかねぇ…年甲斐もなく照れちまうじゃんよ、オジサンは…」

武道家「賢者……ご、ごめんね。こんな格好で、似合わないよね。なんだか笑っちゃいそう、賢者とはいつも、ふざけあってたから…今更こんな…」

武道家「で、でも……私…私、どうしても、心残りがあって……吹雪のこともあったけど、その心残りが…私をこの世に繋ぎ止めていて…」

武道家「わ、私…私、……本当はね、…小さい頃から、ずっと、」

賢者「言うな」

武道家「………っ…、…そ、そうだよ、ね…ごめん、変な事、言いそうになっちゃった」

賢者「違うよ、武道家。…俺に格好つけさせてくれよ。その言葉は、俺が先に言うもんだ」





219: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 11:55:48 ID:5Wy0/P9w

武道家「け、賢者…?」

賢者「俺はお前が好きだ。小さい頃からずっと、一緒にいたお前が大好きだ」

賢者「魔法を勉強する俺の邪魔をしてくる意地悪なお前も。魔法の才能がないからって、それを補おうと武の道に進んだ、努力家なお前も…そのくせ、俺の前でだけは泣き虫なお前も。みんなみんな、お前の全部が好きだ」

賢者「…守ってやれなくて、ごめん。痛かったよな…苦しかったよな…迎えに来るのが遅くなって、本当にすまなかった」

武道家「賢者…!」

賢者「お前が好きだ。俺と結婚してくれ」

武道家「………わ…私も、私も!賢者が好き!大好き!!でも、いいの?私…もう死んじゃってるのに……」

賢者「最初から決めていたんだよ。俺の嫁はお前、って。生涯でただ一人だけだ。結婚しよう、武道家」

武道家「賢者ぁっ……!あ、あ、…ありがとう……ありが、と…うわあああ~ん!!」





221:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/07(火) 13:36:49 ID:9T/eFrTE

えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁ
がこれほど合うシーンは中々ない





224: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:15:36 ID:5Wy0/P9w

妖精「おめでとう、オジサン!武道家!結婚おめでとう!」

村長「あはは、2人の門出に乾杯~」

エルフ達「おめでとう!お幸せにねー!」

盗賊「………」ニッ

僧侶「………」

僧侶「…透ける口づけ……でも、永遠の誓い……すごく、すごく…綺麗です、武道家さん。おめでとう…!いいなあ、私もいつか……」

武道家「あ、ありがとう、みんな…あっ、あ、そ、そうだ!えいっ」ポイッ

僧侶「…っ、あ」パサ

妖精「あら、良かったじゃない。花嫁の投げたブーケを受け取れて。次に結婚できるのは貴方ね」

僧侶「わ、わ、私ですか!?………そ、そそ…そうなんですかあ…えへへ」

盗賊「…ふん。まあ、良かったんじゃねーの?オッサンが幸せなら。つーか飯おかわりくれ」

妖精「貴方はもうちょっと色気を出すべきよね、食い気よりも。折角のチャンスなのn ふぎゃ!」ペシッ

妖精「指で弾かれるほどの事を言ったかしら、私…」





225: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:16:32 ID:5Wy0/P9w

賢者「…やあやあ、まいったね~本当。照れるよもう、穴があったらそこに隠れたいくらいだ」

エルフ「その指輪は精霊の指輪。霊体の貴方も身に付ける事ができる特別製よ。……良かったわね、願いが叶って」

武道家「は、はい。ありがとうございます、こんなにも良くして頂いて……、あ」フワァァ

盗賊「…おい、体がさっきよりも透けていくぞ!?」

武道家「吹雪が止んだから、…願いが叶って満足したから、天に帰れるようになったのね」

賢者「…武道家。君に言ったものに偽りはないよ。君のところへ行くのは、まだまだ先になるが……必ず迎えにいくから。すまんな、また、もう少しだけ…待っていてくれ」

武道家「…大丈夫よ、ゆっくりでいいからね?貴方を見守っているわ。…でも浮気したら、貴方の股間に全力で正拳突きを入れるから」

賢者「おおぅ……うちのカミさんは怖すぎる」





226: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:17:22 ID:5Wy0/P9w

僧侶「貴方に安らかな眠りが訪れますよう、祈りを捧げますね…」

武道家「ありがとう…貴方達の旅も、滞りなく進むように、見守っているわ」

武道家「それじゃあ……また、ね…」

……… …… …


賢者「………」

盗賊「…おい、オッサン。どうせこれからも飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ」

僧侶「あ!わ!私も!私もお付き合いしますっ!」

盗賊「テメーはダメだ、クソアマ」

僧侶「ななななんで!なんでえー!?」

賢者「ははは…ありがとうね、2人とも。よっし!!それじゃあ飲むとしますかー!」

村長「やった~、お酒のおかわり持ってきて~」


宴は盛り上がり、遅くまで続いた……

そして、夜が明けた !





227: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:18:07 ID:5Wy0/P9w

賢者「うーん!あんなに飲んだのに、やたらスッキリしているなあ。まったく、何もかも不思議な村だ」

僧侶「何もかもが不思議で、……美しいものがいっぱいの村でした。夢の中ってこんな感じですよね」

村長「魔王を倒すまで、大変な道のりだろうけど、気をつけてね~。癒しが必要になったら、いつでも立ち寄ってよ~」

エルフ「これは私達が調合した妖精の回復薬よ。話を聞くと、既に飲んだ事があるようだから、効果は知っているだろうけど…傷を癒し、力を生んでくれるわ」

盗賊「お、こいつは有り難ぇ。助かるぜ、すまねーな。大事に使うわ」

僧侶「…あの薬を飲んだら、また盗賊さんが鬼に……ひいぃ」ガタガタ

妖精「短かったけど、貴方達と過ごした時間はとても楽しかった。こんな喜びがずっと続くように…魔王討伐、よろしく頼むわね」





228: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:18:55 ID:5Wy0/P9w

妖精「魔王を倒したら、必ずうちの村に遊びに来てね?待っているから」チュッ

盗賊「お、おい。額に…」

妖精「貴方も」チュッ

僧侶「あら、うふふ」

妖精「オジサンにも」チュッ

賢者「はは、照れちゃうな」

村長「妖精のキスは幸運を招くんだよ~。貴重なものなんだからね~」

妖精「絶対、絶対よ?約束ね。私達は約束を何よりも大事にするんだから。必ず帰ってきてね」

僧侶「はい!約束です!」

エルフ「いってらっしゃい、人間達。神と精霊のご加護がありますように…」

村長「いってらっしゃ~い、気をつけてね~」


盗賊「ったく、最後に恥ずかしい事をしやがって」

僧侶「ふふっ、盗賊さんと妖精さん、まるで兄妹みたいでしたよ?」

盗賊「あんな妹、持った覚えはねーよ。バカ」





229: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:19:46 ID:5Wy0/P9w

賢者「さてさて、魔法の街か~。何年ぶりだろうなあ」

僧侶「そ、そんなに長い間帰っていなかったんですか?」

賢者「まあね、若い頃旅に出たっきりだからさ。なんだっけ、魔法の街にある塔だっけ。それは多分、修行に使う封印の塔の事だろうな」

賢者「聖騎士の王国にある修行の塔と対を為す、魔法の街の封印の塔。この地のシンボルでもあるんだよ」

盗賊「塔にゃ一体何があるんだ?お宝か?」

賢者「修行に使う時は、大体修行する者の師匠が、塔の最上階に免許皆伝の証とかを置いて、途中途中に召喚獣を配置し、弟子の力を試すんだ」

賢者「けど、オッサンが街にいた頃から、見慣れない魔物が住み着き始めてねえ…塔から出てくることはないんだけど、危ないからって封鎖されたんだよなー」

盗賊「今更魔物にビビる事はねーが…何をやらされんだか、さっぱり想像つかねー」





230: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:20:32 ID:5Wy0/P9w

~魔法の街・夜~

僧侶「着くまでに丸一日かかっちゃいましたね…」

賢者「うーん、懐かしいな~この魔法薬を煮込んでいるニオイ……臭っ!目にしみる!!ああ変わってない、なんにも!」

盗賊「あそこの家から、やたら煙が吹き出しているが…火事かってレベルだぞ?」

賢者「この街は大体みんなそうさ。どの家でも魔法薬を作り、実験を重ねる。魔法文明を研究し、発展させた街だからね」

ドッガァァン!!

僧侶「うわひゃあああ!!?いっいっ家が!家が爆発しましたよう~!?」

研究者「ゴホッ、ゴホッ!配分を間違えた……お?賢者じゃないか。帰ってきたのか」ガラガラ

賢者「よォ、相変わらず派手だな、お前ん家は。まあ日常、日常!ハッハッハ!」

盗賊「どんな日常だよ、ったく…長居してたら命をいくつも落としそうな街だな」

賢者「今日はもう遅いから、俺ん家に泊まっていきなよ。…まだ家があるといいんだがね~。とっくに爆発してたりしてなぁ」





231: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:21:13 ID:5Wy0/P9w

・・・

盗賊「クソオヤジの家が残っていたのはいいが…スゲー散らかりすぎだろ!あちこちに本や得体の知れない瓶が転がって、歩き辛いったら無いわ!」

賢者「おかえり、風呂の湯加減どうだった?」

盗賊「クソアマの次だったからな、大分冷めていたぜ。もう一度沸かした方がいいだろう……つーか風呂にも本が積まれていたんだが。傷むぞ、あれじゃ」

賢者「置き場が無いから仕方ないんだよ。さて、それじゃあ俺もひとっ風呂浴びるとしますか」

盗賊「……おい、そのクソアマはどこに行った?」

賢者「無人だけど、教会もあるって教えたら、そこに行くって出ていったよ?」

盗賊「…どこが爆発するのかわからねーこの街で、フラフラ出歩くとか…バカ極まれりだな。チッ…迎えに行くか…」

賢者「あー、そうそう。いい機会だから、ちょっと聞きなさい、兄ちゃん」





232: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:21:59 ID:5Wy0/P9w

盗賊「なんだよ?急に改まってよ」

賢者「…あのさー、兄ちゃんは、お嬢ちゃんの事、仲間とか利害関係とかそれ以上の…まあようするにだ、好きなのかな?嫌いなのかな?」

盗賊「………はあ?何べん言わせりゃわかるんだ、俺とクソアマはそんなんじゃないって……」

賢者「うーん、いや…オッサンもね~今までそうやって意地を張ったり、気持ちを押し込めたりしていたからさー。でも、あのエルフの村で漸く、素直になれたでしょ?……何もかも遅かったんだけどね」

賢者「兄ちゃんさ、人生ここぞってタイミングは逃したらダメだよ。若いからこそ、走る早さも力もあるから、通りすぎちゃう人間は多いけど」

賢者「兄ちゃんは、若い頃の俺に似ているからな。だからねぇ、なんとなく…お節介焼きたくなるんだな。…失ってからじゃ遅いって事を忘れちゃダメだよ。これから魔王と対決しようってんなら、尚更ね」

盗賊「………」





233: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/07(火) 20:22:50 ID:5Wy0/P9w

賢者「さてと。お節介はここまでだ、オッサンは風呂に入ってくるから、兄ちゃんは早くお嬢ちゃんを迎えに行ってやんなさい。もう夜遅いし」

盗賊「………ああ」

賢者「あ、そうそう」

盗賊「?」

賢者「…風呂から出たら、俺はさっき会った友人、研究者の家に行くから。キメるんなら、この家を使って構わないからさ?ご無沙汰が解消されるよう、まあ頑張んなさいよ」ニヤニヤ

盗賊「死ね!クソオヤジ!!お節介は終わったんじゃねーのかよ!!」

賢者「事が済んだら掃除と空気の入れ換えは忘れずにな、マナーだから、マナー」

盗賊「本当に死ね!!!」


盗賊「ったく、馬鹿馬鹿しい…どいつもこいつも。この俺が、あんな小便臭いガキに、あるかそんなん…」スタスタ

盗賊「………ふん、散らかり放題の街でも、花だけは綺麗に咲いてんだな」

盗賊「………」





240: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:08:03 ID:5Wy0/P9w

~教会~

僧侶「………」

盗賊「おい、クソアマ。寝るんならベッドで寝やがれ、マジにだらしない女だな、お前は」

僧侶「寝ているんじゃなくって、お祈りしてるんですよう!…明日じゃないですか…塔で為すべきことを終えたら、ついに勇者様とお会いできる」

僧侶「だから、失敗のないように、神様にお願いしていたのですよ。私達をお守りください、って。魔物もいるみたい、ですから…」

盗賊「ふん。姿形の見えないもんに祈るくらいより、自分の力を信じる方がいいと思うけどな」

僧侶「私、落ちこぼれですから……で、でも、魔物が出てきても、盗賊さんの邪魔にならないよう、頑張りますからねっ!?」

盗賊「いや、お前は絶対邪魔になるし足手まといになるね」

僧侶「ううう~っ!!」





241: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:09:05 ID:5Wy0/P9w

僧侶「…でも、本当に、そうなんですよねえ……私、回復魔法も使えないし…戦いだって、全然だし…」

僧侶「こんな私なのに、なんで…勇者様の仲間だって、選んじゃったんでしょう、神様は……勇者様に、ご迷惑が…かかったらと思うと」

盗賊「バーカ。今まで散々俺に迷惑をかけてきた奴が言える台詞かよ」

僧侶「うう!」

盗賊「…忘れてんじゃねーよ、バカ。今まで何度も発破かけてやっただろ、右から左に流しやがって」

盗賊「いつまでもウジウジしてんじゃねえ、鬱陶しい。…言ったろ、回復魔法だって、そのうち使えるようにならァ。テメーが頑張らないでどうすんだよ?神様とやらを信じる前に、自分を信じろよな、自分を」

僧侶「………」

僧侶「………自分……」

僧侶「…神に、己に、癒したい相手に……祈り、自覚し、捧げる…自覚……」





242: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:09:51 ID:5Wy0/P9w

盗賊「……ツケも溜まってっからな?テメーが回復魔法を使えるようになったら、まとめて返せよ。今までの苦労を」

僧侶「…ずうっと使えなかったら……どうなるんですかねえ?」

盗賊「……おい」

僧侶「あ、もう落ち込んでいるわけじゃないです!…盗賊さんは、乱暴だし意地悪だけど……たくさん励ましてくれたり、憎まれ口叩いても、守ってくれたり…すっごい感謝してる、ですよ」

僧侶「でも…この先も、ずっと、ずうっと何もできなかったら……私は、辞退した方が、ためになるんじゃないかなって…」

僧侶「そうしたら、盗賊さんにも、勇者様にも、ご迷惑かからないですし……賢者さんとかに、代わってもらうとか…その方が」

盗賊「落ち込んでんだろーが、このクソアマ」ビシッ

僧侶「痛ぁ!?いきなり、でこぴんしないでくださいよう!」





243: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:10:37 ID:5Wy0/P9w

盗賊「ずっと使えないとかねーよ。絶対使える。俺はツケを許した相手を逃がした事はない、必ず払ってもらうぜ」

盗賊「テメーがテメーを信じないなら、信じられるまで、代わりに俺がお前を信じてやる」

僧侶「!! と、盗賊さん」

盗賊「バカでグズでドジでノロマでマヌケで、もうひとつおまけにトラブルメーカー、ウザいわ、すぐへこむわ、ギャーギャーうるせーわ、本っ当~に!どうしようもないクソアマだが」

僧侶「…あの、励ます時は励ますだけにしてもらえないですかねぇ…」

盗賊「…お前ならやれるさ。回復魔法だろーが、なんだろうが。できるって信じてやる」

盗賊「まあ、クソアマだからな。それでもどうしてもできなかった時は…」

僧侶「………」

盗賊「………」

盗賊「俺がお前を守ってやるよ。できるまで、ずっと」





244: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:12:04 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………」

僧侶「………ずっと?」

盗賊「ああ、ずっと」

僧侶「ずっと使えなくても?」

盗賊「テメーが使えない奴なのは、俺が一番よく知っている」

僧侶「………おばあちゃんになっても、使えなくても…?」

盗賊「お前が死んでも生まれ変わってもだ」

僧侶「………!!!」

盗賊「…ケッ。テメーの面倒は、もう俺にしか見られねーだろうしな。もし、奇跡が起きたとしても、まあ…ずっと守ってやるわ」

僧侶「あ!ああああの!あのっ!!そ、そっそっそっ……それ!それって、どどどどどどういう意味なんでしょうか!!?」

盗賊「どもりすぎだ、バカ。自分で考えろよバカ」

僧侶「ででででも!!でっできれば、できれば…盗賊さんの口から、聞きたいです…!」

盗賊「ウザってーな。サービスでヒントだけやる」スッ

僧侶「…!わあ……お花の指輪…?こ、これ、盗賊さんが編んだんですか?器用なんですね…」





245: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:13:02 ID:5Wy0/P9w

盗賊「まあな。気が向いたら、本物を用意してやってもいい」

僧侶「…あ……あ、あり…ありがとう、ござ、います…!!ありがとう、ございます…!!」

盗賊「ただし。勇者がテメーを叱咤する時だけは庇わないぜ。…結構厳しそうだしな、勇者は」

僧侶「ううん!大丈夫です、勇者様を落胆させるわけにはいきませんっ!!私、頑張ります!」

盗賊「俺も落胆させんなよ?…ほら、帰ぇーるぞクソアマ。少しでも体を休めねーとだしよ」

僧侶「あ、あの、あの!ひとつだけ、お願いが!」

盗賊「あぁ?ウゼーな、手短にしやがれ」

僧侶「あの、もう、クソアマはやめて、名前で呼んでもらえないでしょうか…!?ひ、浸るに浸れないですし…」

盗賊「調子に乗るな、バカが」

僧侶「ううう~!盗賊さんの方がバカぁ!!」

盗賊「…まあ、ここぞって時になら、呼んでやってもいいけどな」





246: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:14:18 ID:5Wy0/P9w

~翌朝~

賢者「やあやあ若人達よ、昨晩はよく眠れたかなー?元気ですかーっ」

僧侶「はい、元気ですぅ~っ!」

盗賊「なんだこの茶番劇」

賢者「………」ニヤニヤニヤ

盗賊「そしてあのクソオヤジの目をブッ潰したい」

研究者「よう。あんたら、あの封印の塔に入るんだってな。ならこれを持っていけ」

僧侶「わっ、新しいメイスですか?盗賊さんにも短剣がありますよ!」

研究者「俺は魔法武具にも興味があってな、色々作ってんだが…丁度良いテストになりそうだし。そのメイスは祈りの力に作用して攻撃力が増すはず。短剣は斬りつけるたびに魔力を奪う効果があるはずだ」

盗賊「いちいち"はず"ってつけんな、不安が加速するんだが」

賢者「俺からはコレを、爆破魔法を詰めた魔法石だよ。投げつければ爆発するから、気をつけて使いなさいね」





247: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:15:01 ID:5Wy0/P9w

僧侶「武器に、魔法石に、回復薬!これで準備万端ですねっ、ありがとうございます~!」

賢者「なあなあ兄ちゃん」

盗賊「んだよ、クソオヤジ。馴れ馴れしく肩を組むな」

賢者「お嬢ちゃん、随分ご機嫌じゃない?女は誰しも精気を吸い取る小悪魔だからなあ……うんうん、オジサン色々お察ししちゃうんだけど!帰ったら話聞かs」バゴォォン!!

研究者「…魔法石はきちんと効果が出る事が証明されたな。他の魔法も詰められるか、更に研究するとしよう」

僧侶「けっ賢者さーん!?ダメですよ盗賊さん、賢者さんに魔法石投げたら~!」

賢者「」プスプス…

盗賊「いいからさっさと行くぞクソアマ!!あとそこのクソメガネ!その色ボケクソオヤジを埋めとけ!!」

研究者「…クソメガネって俺の事か?」

賢者「お前しかいないだろ。…2人とも、気をつけていってらっしゃいねー」





248: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:15:49 ID:5Wy0/P9w

~封印の塔~

僧侶「はあ、ふう……はあ、…た、高い塔ですねえ…てっぺんにまだつかないなんて…」

盗賊「…外から見たらそうでもなかったのにな。もしかすると、幻惑魔法が塔全体にかかっているのかもしれねェ。元々修行目的の塔らしいしな…」

僧侶「あ、足が……足がパンパンです…ふう、ふう…」

盗賊「まいったな、この幻惑魔法を解除しねーと、いくら登っても、まさに無駄足だぜ。一旦引き返すか…?クソオヤジに魔法解除できる道具がないか聞くとか」

僧侶「………あれ?盗賊さん…盗賊さんの荷物が、なんか光ってますよ?」

盗賊「あ?なんだ?光るようなもんなんか持ってねーぞ、俺」ゴソゴソ

盗賊「………!?…氷の洞窟から持ってきた宝玉が、光ってやがる」

僧侶「で、でもそれって確か、もう魔力反応はないって、妖精さん、言ってましたよね…?」





249: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 00:16:36 ID:5Wy0/P9w

―― パアアアアッッ!!

盗賊「うわっ!?」

僧侶「きゃあっ!ま、眩しい……」

・・・

盗賊「な…なんだ?今のすげえ輝きは……また光らなくなっちまったぞ、この宝玉」

僧侶「うう、目がチカチカしますぅ…、…あ、あれっ?あれえ?とっ盗賊さん!てっぺんが!天井がありますよ!?」

盗賊「な!?…この宝玉が幻惑魔法を解除したのか?…謎が多いな、こいつは。まあ、今はさておき。先が見えるんだ、さっさと進んじまおう」

僧侶「あんなに階段を昇ったのに、実際は一階ぶんくらいしか進んでなかったんですねぇ…もー、この疲れをどうしてくれるんですかあ~!!」

盗賊「……最上階だ、…扉があるな、鍵は掛かって…いる。ま、俺にかかれば子供騙しってところだ」ガチャガチャ

ギイイイィィ…





258: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:05:14 ID:5Wy0/P9w

盗賊「………?なんだ…?やたら広い部屋に玉座が、……誰かいるぞ」

僧侶「ね、ねえ、盗賊さん…あの、玉座の傍にある台座……宝玉が置かれていますよ?あっちは、赤い宝玉ですけど…」

魔将「………来たか!」

僧侶「きゃ!?」

魔将「ついに!ついについについに!!来たかッ!!この日をどれ程待ちわびたことか!また貴様を殺せると思うと!この魔槍に貴様の血を吸わせられるのだと思うと!!我が身が喜びに震えるぞ、―― 聖騎士よ!!」

盗賊「……は、…はあ?俺の事かよ?何言ってんだコイツ…誰と間違えてやがる」

魔将「姿は変わっても、その魂の残り香は隠せぬものよ!しかし変わらぬな、貴様らは弱者同士、身を寄せ合う。貴様は邪魔をするでないぞ、魔導師!!」

僧侶「………え?はい?わ、私?私ですか?え?私が、魔導師?」

盗賊「マジに何を言ってやがんだ、この全身鎧野郎は」





259: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:06:08 ID:5Wy0/P9w

魔将「オオオオッッ!!」ズバババッ

盗賊「うお!!」

僧侶「きゃあっ!!」

魔将「ぬうっ、我の槍を避けたか……相変わらずの身のこなし!何百年経とうとも、変わらぬな!!聖騎士よ!」

盗賊「だから俺はその聖騎士じゃねーよ!!なんなんだ、テメーはぁ!!」

僧侶「あ、あんなに大きくて、太い槍なのに…軽々振り回すなんて、お化けですぅ…!」

魔将「フハハハハ!!そら、そらそらそらぁぁぁっっ!!」ブン! ブォン!!

盗賊「チッ!話を聞けよ、この野郎!!…槍相手じゃ、俺達の武器だと不利だ……懐に入るなりして、距離を詰めねーと。勿体無いが回復薬で攻撃力を上げるか…」

盗賊「おい、クソアマ!クソオヤジから貰った魔法石だ!あれを投げて隙を作れ!!」

僧侶「ま、魔法石!魔法石!!えっと、えっと!!…あった!えいっ!!」ブンッ

魔将「ぬうっ?小石か?―― ぬお!?」ズガァァン!!





260: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:06:52 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぬうう……爆薬か…?なんと小賢しい真似を、……ハッ!?」

盗賊「爆薬じゃねーよ、オッサン印の魔法石だ!!」ガキィン!

ゴトンッ

魔将「ほう、懐に入るその速さ、我の兜を剥ぐ短剣の突き上げ……衰えてはおらぬようだな、聖騎士よ…」

僧侶「ひいっ!?」

盗賊「な……なんだ、テメー…その顔……ミイラじゃねーか!!」

魔将「何を驚いておる?我が死んだのは、とうの昔。聖騎士、貴様が生まれるよりも遥か昔の事」

魔将「しかし我は甦った、亡者として!魔王様の素晴らしきお力により、我は甦ったのだ、地獄の底から!!フハハハハ素晴らしい!魔王様のお力のなんと素晴らしい事か!!」

魔将「溢れる力は抑えられぬ!我は欲する、肉を!血を!!魂を!!聖騎士、我と戦え!その血を再び魔槍に注げぇぇぃぃ!!」

僧侶「まおう?魔王…、の、仲間なんですか?貴方は……」





261: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:07:37 ID:5Wy0/P9w

盗賊「何を一人で盛り上がってんだか、勘違い野郎が。…おい、クソアマ。魔法石はあといくつある?」

僧侶「え、えっと、貰ったのは全部で5つなので…残りはあと3つです」

盗賊「んじゃ、もう一発投げろ。あの勘違い野郎が槍を振った時を狙え。テメー自身が槍に当たらないよう、距離は取れよ」

盗賊「魔法石、ひとつ貰うぜ」ヒョイ

僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん…!」


魔将「我にその血を捧げよ、聖騎士ィィィィ!!」ドウッ!!

盗賊「御免被る、ってんだよ!!」ドゴォォン!!

魔将「小賢しい!小賢しい、小賢しい!!魔法石とやらを床に投げて、煙幕を焚いたつもりか?二度は通じぬわ!」

魔将「そこだ!!」

盗賊「ぐえッ!!」ガシッ

魔将「フフハハハ…煙に紛れ跳躍し、我の顔をその短剣で刺そうとの試みか。悪くはない、しかし力が足りなかったな」

盗賊「ぐ……!首が…折れる……!!」メキメキメキ





262: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:08:35 ID:5Wy0/P9w

僧侶「盗賊さんっ!!」

盗賊「…まだ、だ…まだ待て、クソアマ」

盗賊「……おい、勘違い野郎…俺の武器が短剣だけだと、思っていたら大間違いだぜ?」

魔将「ぬうっ?」

盗賊「…ッのやろ!!」ガツッ

魔将「!! 鎧の継ぎ目に…剣を突き立ておって!」

盗賊「硬い奴は関節が弱点、てな…深く刺さらずとも、首を絞める力さえ緩みゃ、手から抜け出せんだよ!」

魔将「聖騎士ィィッ!!」

僧侶「槍を突き出した…!い、今だ!えいっ!!」ブンッ

魔将「言った筈だ、二度は効かぬ!!」バシィ

ドゴォォォンン!!

僧侶「ああッ!は、弾かれて、見当違いのところで爆発しちゃった…!!」

盗賊「だが!小さくても、隙は隙なんだよ!!うおりゃああぁっ!!!」ザグッッ!!

魔将「グワアアァァァ~ッッ!!?我の!目があぁぁっ!!」





263: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:09:26 ID:5Wy0/P9w

魔将「グオォォ……こ、これは…何だ…!力が抜ける……!!刺さる短剣が、我の魔力を吸い取る…!?」

魔将「小癪なぁっ!!」ズボッ ガシャン

盗賊「あのクソメガネ、やるじゃねーか。ちゃんと機能したぜ、あの短剣」

僧侶「魔王の力……魔力を吸い取ったから、ダメージがあったんですね…!」

魔将「ヌヌウウゥ……」

魔将「魔王様より頂いた力を…このようなナマクラに奪われるとは……不覚!」

魔将「まず狙うは聖騎士にあらず……ちょこまかと目障りな貴様からであったか、魔導師…」

魔将「まず貴様を仕留め、力の半減した聖騎士を次に殺すべきであったわ!!」グオォッ!!

僧侶「えっ?き…きゃあああ!!?」

盗賊「クソアマぁっ!!」

―― ピカッッ!





264: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:10:57 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぬ!?この光は!?」ジュウウゥッ

魔将「ギャアアアア!!ひ、光が!光が、我の体を焼くぅぅっ!!?」

盗賊「…台座の、赤い宝玉が……」

僧侶「光って……、……!?」キィィーン!

僧侶「な、なに?なに?あ、あ、頭が…頭の奥が、響く…」

宝玉『…あたしができるのは、ここまでだ。早く、あいつが捨てた短剣を拾って、もう一度、あいつを刺しな!』

僧侶「だ…誰?誰なの?誰か、いるの?」

盗賊「なんだかよくわからねェが、青も赤も便利だってこたァわかった…これはチャンスだ!もう一度顔面に喰らわせてやる!」ダッ

魔将「させるかあああ!!!」

僧侶「さ、最後の魔法石ですよ!」ブンッ

ドカァァン!!

魔将「ぐ…足下に!!」グラッ

盗賊「この短剣、イイ味してんだろ?正直言うと、俺も驚いてんだがな…」

盗賊「だから、おかわりをくれてやるよ!!しっかり噛み締めろや!!」ズドゥッ!!





265: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:11:58 ID:5Wy0/P9w

魔将「グボアァッ…!!」ドザァッ…

盗賊「…へっ。口ん中に突き立ててやったぜ。お粗末さん、と」

僧侶「は……はああぁ…か、勝った…?ん、ですよね……こ、怖かった」ヘナヘナ

盗賊「貰った道具がなかったら、わけのわからないまま殺されていたな。…やれやれ…こいつが塔に現れた魔物なのかね」

僧侶「…魔王に力を貰った、って言っていましたね……魔王は、ずっと昔に死んだ人も、甦らせて、配下にできるんですね…」

僧侶「そ、そういえば、さっきの声はなんだったんだろ?他にも誰かいるのかな…確か、こっちの方から…宝玉の方から…」

盗賊「…おい、勘違い野郎の傍を不用意に歩くなよ、危ねーぞ……」

魔将「 」クワァ

魔将「―― こ゛の゛程度で、我が死゛ぬ゛か゛ぁぁぁぁ!!!」

僧侶「!!? き、きゃあああああ!?」





266: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:12:47 ID:5Wy0/P9w




―― ドズッッ…


 


267: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 12:14:10 ID:5Wy0/P9w

ボタッ!! ボタボタッ…


魔将「……ハハハハハ…血だ…血が……我を満たす…潤す……癒える…!」

魔将「温かい……温かいぞ、貴様の臓物の温かさ、柔らかさ、脈動!全てを感じるぞ、フハハハハ!!ハハハハハハ!!!」

魔将「昔も、今も!貴様は本当に変わらぬな…ちっとも変わってはおらんなぁぁ、―― その女を庇って、我に殺されるところ!!全く変わっておらぬぞ!!」

魔将「なあ、聖騎士!!我の腕に腹を貫かれ、溢れ出る貴様の血は、まるで滝の如しよ!ハーッハッハッハッハー!!」


盗賊「……ゴボッ!!げぼ、……っ………」ビチャビチャ


僧侶「いっ、」


僧侶「いやああああああああああ!!!!」





268: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:03:58 ID:5Wy0/P9w

盗賊「ッ」ドサッ

僧侶「いやああああ!!ああああああああーっっ!!!」

僧侶「盗賊さん!!盗賊さん、盗賊さん盗賊さん!!いやあああっ!!」ガクガク

魔将「フハハハハハ!!昔も!今も!!これからも!!貴様を殺すのは我だ!!貴様は我の食糧だ、フハーッハハハーッ!!」


僧侶「――」プツッ


僧侶「………せ」

魔将「フハハ……、…む…?」

僧侶「………かえせ」グッ



僧侶「返せッ!!!」

僧侶「その肉は盗賊さんのだ!その血は盗賊さんのだ!!返せ!返せよ!!!」

僧侶「お前なんかに!一欠片も、一滴も、くれてやるものか!!返せ!盗賊さんの肉を!血を返せえええぇッッ!!!」ブォンッ!!





269: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:04:47 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぬ!?ぬうっ!!ぐ…!!?」ゴッ! ドゴ! ガツッ!!

魔将「な…なんだ、これは…!?こんな…小娘の力とは思えぬ……!どんどん、打つ強さが増してゆく!?」ガンッ! バコッ!

僧侶「うわあああああああ!!!」

僧侶「お前が!お前が!!お前が奪ったから!!お前があああぁぁ!!」

僧侶「肉を返せ!血を返せ!!盗賊さんを返せぇぇぇぇ!!!」

魔将「こ!こいつ!!」バシッ

僧侶「ぎゃっ!!」ガツッ

僧侶「げほっ!……ゆ…ゆるさない…許さない、許さない、許さない!!お前だけは許さない!!!」

僧侶「お前だけは、絶対に!!許さないぃッ!!!」ゴアッ!!

魔将「…!!そのメイスか…!まるで黒い炎が吹き出しているかのような……我への怒りや憎しみを、力と変えているのか!!」

僧侶「うわあああああああ!!!」ドッ!!





270: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:05:37 ID:5Wy0/P9w

魔将「ぐおっ…!!」ドフッ

僧侶「ああああああ!!!」ガン! ガン!! ガンッ!!

僧侶「お前が!お前が殺したんだ!!返せよ!!盗賊さんを返せえぇ!!」ガンッ!! -- バキャッ!

魔将「ぐふっ…!メイスの、柄が折れたか……うぐ!!」ゴツッ!!

魔将「す、素手で!この我が!小娘ごときの素手で!!顔を殴られる、など…!!」ゴツ! バキッ!!

僧侶「うわあああああああーッッッ!!!」

魔将「(口に刺さっている短剣が…喉奥にめり込む!!)」ズグッ! ズブ!

魔将「なんたる、屈辱…!!この、我が……貴様ごときにぃぃぃぃ!!!」


グジャッ!!


僧侶「――……っはあ!はあ!!はあ…!!」

僧侶「う…うっ、う……うわあああん!!」

僧侶「返して…返してよおっ……!!盗賊さんの肉も、血も、命も……!盗賊さんを、返してよぉぉ…!!」





271: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:06:51 ID:5Wy0/P9w

僧侶「うっうっ…うっ……、…」

僧侶「…だいじょうぶ…大丈夫、まだ、間に合う……」

僧侶「元に戻せば、大丈夫……」フラッ

僧侶「…盗賊さん…盗賊さん、盗賊さん」

盗賊「………、……」ゴポッ

僧侶「大丈夫…すぐ、戻してあげます、から…お肉も、血も、集めて、きましたから、ね?ねっ?」

僧侶「だから、大丈夫…大丈夫ですよ、元に戻せば、だいじょう、ぶ……?」ペタッ…

盗賊「………」ナデ ナデ

僧侶「…う、動いちゃ、だめ…!頭、な、撫でて、くれるの、嬉しいけど……今は、うごかないで…!」

盗賊「……、…、………」

僧侶「っあ……?」

盗賊「………」ニッ


―― "僧侶"。


僧侶「……ああああ……あああっ…!!う゛ああああああーっ!!!」





272: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:07:43 ID:5Wy0/P9w

―― ピカッ…

宝玉『…なんてこった……あたし達の時よりも、魔力が多かった…あの一撃で死ななかったなんて……』

宝玉『魔王は、更に力を増しているの…?運命は、覆せないの…!』

僧侶「……っ、だれ…?」

宝玉『…ここだよ。あたしはここにいる。宝玉の中に、封じられた……』

魔導師『あたしは魔導師。あんたの昔の姿。遠く遠く…遥か昔の姿……』

僧侶「…!?宝玉から……人の姿が…武道家さんみたいな、……でも、赤い…亡霊…?」

魔導師『ごめん…あんなに強くなっていたなんて、知らなかったの。守ってやれなかった…あたしは……また聖騎士を守れなかったんだね』

魔導師『守りたくて……転生をも選んだのに…こんな、事って…!』

僧侶「な…なに……?何を、言っているの…?」





273: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:08:30 ID:5Wy0/P9w

魔導師『…あたしは、あんたの昔の姿よ。あたし達は…あたしと聖騎士、シスター、そして勇者は、神託を受けて、魔王討伐に向かったんだ』

魔導師『昔、遥か昔の事だよ。…魔王とその配下、四天王と対峙し、対決し……そして、あたし達は負けた』

魔導師『あたし達のダメージも大きくて。最初に、みんなを癒せるシスターが殺された。次に、あたし達の盾になって、聖騎士が殺された』

魔導師『残ったあたしと勇者は、からくも魔王を追い詰めたけど……あたし達も…もう辛くて、…辛くて……』

魔導師『魔王は取り引きを持ちかけてきた。あたしはそれを飲んだ、次こそ聖騎士を守りたいって、癒したいって思ったから、取り引きに応じたよ』

魔導師『そして、勇者も……勇者は……取り引きを、突っぱねた。魔王を倒さず、明日に希望を託さず』

魔導師『勇者は、世界の破滅を望んだ』

魔導師『あたし達は…魔王に、負けたんだ』





274: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:09:17 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………そんな」

魔導師『何故、勇者がそんな事を願ったかわからない。でも、取り引きの時に、勇者はこう言ったよ』

魔導師『こんな世界、いらない』

魔導師『そう勇者が破滅を願った事で、絶望の力で、魔王を少しだけ回復させてしまった』

魔導師『あたし達の力は奪われ、宝玉に閉じ込められた。そして抜け殻だけが転生してしまったんだ。それが今のあんた達だよ』

僧侶「………」

魔導師『まあ…回復したといっても、微量ではあったから、魔王もそのまま眠りについたようだが』

魔導師『最近になって力を回復し、甦った。あんなにも…配下に強大な力を与えられる余裕まで持って』

魔導師『神はかつて魔王を追い詰めた、あたし達の抜け殻を探し、神託を与え、あたし達の力を得るべく導いたようだが…』

魔導師『……結局…ダメだった、ね……』





275: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:11:03 ID:5Wy0/P9w

魔導師『あんた達、青の宝玉を持っているだろ?』

僧侶「……はい…と、盗賊さんが、……持って、ます」

魔導師『青の宝玉には、聖騎士が閉じ込められてんだ。…こんな時に、すまないけど…彼に会わせちゃくれない、かな』

僧侶「………」ゴソゴソ スッ

魔導師『ありがとう』

魔導師『…やっと会えた……ごめんね、あんたにばかり、傷を負わせて…痛かったろ』

魔導師『聖騎士……あの魔将に殺られたから、より魔の力に飲まれてんだね。自分が自分だとわかっていない…消えかかっている』

魔導師『ごめんね……あんたを守れなくて、癒せなくて、ごめんね。あたし……シスターが羨ましかったよ…あたしは、あんたの剣になるより……あんたの盾に、薬に…なりたかったよ…』

僧侶「………」





276: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:11:45 ID:5Wy0/P9w

魔導師『……言ったように、今のあんた達は抜け殻だ。けれど、あたし達を受け入れれば、力を得る事ができる。あんたなら、すべての回復呪文を使えるようになるだろう』

僧侶「!! じゃ、じゃあ……盗賊さんを、生き返らせる…蘇生呪文も……!?」

魔導師『ああ。……さあ、どうする?あんたは、あたしを受け入れてくれる?』

僧侶「それは!それは勿論、………、……いえ、やっぱり…いいです。このままで……」

魔導師『なっ…?』

僧侶「………」

チュッ…

魔導師『! おや、まあ…』

僧侶「…へへ……盗賊さんと、キス、しちゃった…」

僧侶「………でも、よく…キスは、果実の味とか、いうけれど……あれ、嘘、だったんですねえ」

僧侶「だって、血の味でしたもん」

魔導師『………』

魔導師『………そう、だね。…あたしの時も、血の味だったよ』





277: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 20:12:25 ID:5Wy0/P9w

~封印の塔・外~

賢者「………」ソワソワ

研究者「少し落ち着け。さっきから塔の入口前でウロウロとして。茶でも飲め」

賢者「イモリの黒焼き茶だろ?いらないよ…このゲテモノ好きめ」

賢者「…2人とも大丈夫かねぇ……やっぱり、こっそりと付いていけば良かったかな…」ウロウロ

研究者「保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う」

研究者「保護者なら、成長を見守る事を第一にすべきだ。可愛い子は谷に突き落とせ、と言うし」

賢者「混ぜちゃいけないものを混ぜるから、爆発するんだよ。お前はさあ…」

研究者「………?」

研究者「……なんだ?あれは……塔の最上階に、光が…」

研究者「………天使……?」





281: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:18:18 ID:5Wy0/P9w

~封印の塔・最上階~

僧侶「盗賊さんは、私を信じてくれている」

僧侶「だから私も自分を信じます」

僧侶「いつか、使えるようになる。回復呪文が使えるようになる」

僧侶「溜まっているツケを返さなきゃ」

僧侶「それが……今なんだ!!」カッ

魔導師『―― この、力は…!』

僧侶「私なら、できる!私が盗賊さんを助ける!」

僧侶「私が盗賊さんを守る!祈りを捧げて……神様のような、奇跡を…神様の代行として、奇跡を」

僧侶「……私が、起こすんだ!!」

僧侶「神様…お願いします。志半ばに倒れた、この者に……再び立ち上がる力を、勇気を、お与えください!!」

パアアァァッ!!

魔導師『……!!抜け殻の、あんたが…蘇生呪文を……!?』

魔導師『………もしかして、あんた達なら…きっと……』





282: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:19:03 ID:5Wy0/P9w

 『私は、みんなを守る力を得た』

 『だが、自らその力を捨てる事を選んだ』

 『みんなを守りたい。けれど、それ以上に、たった一人を守りたいと思ってしまった時から。欲を生んだ時から、私としての私は、弱くなったのだろう』

 『私は、自由が欲しかった』

 『掟や使命感に縛られず、たった一人を守れるだけの、自由が欲しかった。博愛ではなく、たった一人を愛せる自由を。彼女の傍へ飛べる翼が欲しかった』

 『だから…魔王に屈してしまった』

 『しかし君は私よりも強い。自由である事を選択し、それを得た君なら、きっとやれる』

 『魔将の呪いは私が引き受けよう。さあ…行きたまえ。幸運を手に、自由になったその身体で、……彼女を守り、勇者達を救い、魔王を倒してくれ!』





283: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:19:53 ID:5Wy0/P9w

・・・・・


・・・


・・





284: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:20:48 ID:5Wy0/P9w

~数週間後~

賢者「待たせたな、やっとお前の墓を立てられたよ。居心地はどうだ?」

賢者「…こんな事になるなんて、思わなかった。ってのが、本音だけどな……」

賢者「………」

ドゴォォン!!

研究者「げほっ!!ごほ!!おかしいな……分量は合っていたはずなんだが…材料が足らないのか…?」ガラガラ

賢者「相変わらずだな、お前は。こっちは感傷に浸ってんの~、静かにしてくんない?」

研究者「お前が体験したという、妖精の移動呪文の話をもう一度聞かせろ。いや…それよりも、実際に見て確かめた方が早いか?」

賢者「おい、まず俺の話を聞けよ?」

研究者「………墓か」

研究者「言ったろ、保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う、って」

研究者「なあ?……武道家ちゃん…」


墓碑【武道家、ここに眠る】

 


285: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:21:37 ID:5Wy0/P9w

賢者「……お前の言う通りだな。格好つけてばかりで、意地を張っていたから、自意識過剰だったから……」

賢者「でも、だーいじょぶだー。彼女は俺の事を見守ってくれているしな。この指輪がそれを教えてくれるのさ」

研究者「…俺は魔法武具にも興味があって、」

賢者「この指輪を対象にしたら、すっごい怒るからね」


研究者「それで?旅立つのは今日だったか」

賢者「ああ。長年の夢と目標だった悟りの書を探しにいく。今度こそ見つけて、武道家に自慢してやるんだ」

僧侶「賢者さーん…!旅の支度、整いましたあー!!」

賢者「おーう、ありがとうねーお嬢ちゃん。じゃ、行ってくるよ。俺のいない間、墓の手入れはよろしく頼んだぜ」

研究者「わかってる。……友人直々の頼みを無下にする程、冷たくもないんだぜ、俺は」





286: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:22:29 ID:5Wy0/P9w

賢者「それじゃあ行きますかー。と言っても、俺は途中の港でお別れだけどな。今も聖騎士の王国にいる、勇者とやらに会ってみたくもあるが……船の時間もあるし」

僧侶「途中まででも、ご一緒できるのは嬉しいですよう!さあ、行きましょ!」

賢者「あ、お嬢ちゃん、いきなり走り出すと、転……」

僧侶「きゃあ!!」ステーン!

賢者「…転ぶよー、と言いたかったが、ハハ、間に合わなかったなー」


 「ぐがっ!?」ゴン!!

―― 盗賊に かいしんのいちげき !

賢者「おお盗賊よ、死んでしまうとは情けな~い、マジ格好悪~い、信じられなぁ~い」

盗賊「死んでねえッ!!つーか何しやがる、このクソアマァッ!!メイスを吹っ飛ばしやがって!!」





287: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:23:13 ID:5Wy0/P9w

僧侶「す、す、すみませんすみません~!!わわ私、ドジで!でも新しいメイスも重たくて……!」

盗賊「ごちゃごちゃ抜かすな!!うぜーんだよ!……いいから早く治せ、コブになっちまう!」

僧侶「は、は、はいぃっ!!回復魔法!……あ、あれ?」

盗賊「…おい、何も起きないんだが」

僧侶「すみません、すみません!私、落ちこぼれだから……まだ安定してないみたいで…!あっ、で、でも、盗賊さんが私の頭を撫で撫でしてくれたら、なんかできる気がするな~…なんて」

盗賊「よーし、撫でてやろう」ゴン! ゴンゴンゴン!!

僧侶「撫でると殴るは全然違う気が!!!つ…ついに、4連発……」ヨロヨロ

賢者「はいはい、夫婦漫才はそこまでにして、そろそろ行くよ~」

盗賊「誰が夫婦だ!!こんな使えねーバカクソアマ!!」

僧侶「盗賊さんの方がバカですよう!オタンコナスぅ!!」





288: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:24:03 ID:5Wy0/P9w

・・・


 「………!!君達は…まさか……、………そうか。やっと、やっと会えたのか…」


 「もう、遅刻だよ、遅刻ー!……えへへ、僕達も気づいていなかったから、おあいこだけど…」


・・・





289: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:24:45 ID:5Wy0/P9w

僧侶「勇者様達と…」



盗賊「合流できた!」



【おしまい】





290: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/08(水) 23:25:32 ID:5Wy0/P9w

ベタベタなものを短めに、サクサクやりたいと思いながら、少し長くなってしまいました。

もう少し考えて、広げた風呂敷をたためたら、勇者&魔法使いルートと魔王討伐の話も書こうと思います。


読んでくださった方、本当にありがとうございました。

【前編】僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」

1: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:14:23 ID:5Wy0/P9w

司祭「…というわけで、君には勇者の仲間である僧侶の護衛、及び勇者との合流を果たし彼の力となってもらいたい」

司祭「君もまた神の加護を受ける、勇者の仲間であると神託が降りた…それを忘れる事なく、心して任務を遂げるよう願う」

盗賊「………」

僧侶「よ、よろしくお願いしますぅぅ…」オドオド

盗賊「…なんで俺が…」

 

元スレ
SS深夜VIP
僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1367421263/

2: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:16:52 ID:5Wy0/P9w

司祭「僧侶。道中気をつけて行くのだよ。くれぐれも盗賊さんの、そして勇者様のご迷惑とならぬようにな」

僧侶「は、はいぃ。頑張ります…うう、怖いけど…」

司祭「旅立つ2人に神のご加護がありますように」

盗賊「………」

盗賊「めんどくせェ…いきなり声がかかったかと思えば、それは大聖堂の司祭サマで、しかもガキのお守り、更には俺が勇者の仲間だぁ…?」

盗賊「盗みならばなんでもござれ、悪事に手どころか、この身どっぷり浸かって生きてきたこの俺が。寝耳に水の騒ぎじゃねーよ」

僧侶「わ、私…ガキじゃありません…そそ僧侶です…」

盗賊「あぁ?」ギロリ

僧侶「ひいぃ!!」ガタブル

司祭「勇者と合流し、その力となりて魔王を討ち取れば、国から報償金も出るだろう。勇者の生き方を見れば、君も自分の人生を見直せるかもしれんぞ」

盗賊「それはどうでもいいが、まあ、報償金てのは悪くない。魔王も宝を貯め込んでいるだろうしな…」





3: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:18:59 ID:5Wy0/P9w

司祭「これは国から支給されたものだ。持っていきなさい」

盗賊「100ゴールド、薬草…と、それに武器か。ほう、真新しいダガーナイフ。こいつは有り難ェ」

僧侶「メ…メイス、重たいです…」ヨロヨロ

僧侶「はうっ!?」フラッ

盗賊「ぐがっ!?」ゴン!

 盗賊に かいしんのいちげき !

司祭「…おお盗賊よ、死んでしまうとは情けない……」

盗賊「死んでねえッ!!つーか何しやがる、このクソアマァッ!!」

僧侶「ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ~!!!メイスが…メイスが……!!」

司祭「大聖堂から出る前にこれとは…先行き不安すぎる…」





4: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:21:23 ID:5Wy0/P9w

~大聖堂の街~

僧侶「早速薬草使っちゃいましたね…」

盗賊「誰のせいだと思ってやがる。司祭じゃねーが、この先不安で仕方ねーよ…あーあ、全く面倒なことになった」

僧侶「す、すみません…あと、メイス持ってくれて、ありがとうございます…」

盗賊「テメーに持たせたら今度こそ殺される気がするしな。さっさと勇者とやらと合流すんぞ。確か酒場に居るんだったな」

僧侶「は、はい…話によると、そうですね……」

盗賊「大聖堂のある街に酒場。神様の住む街に悪党がぞろぞろ。つくづく変な場所だよな、ここはよ」

僧侶「と…盗賊さん…は、やっぱり、そのう…暗黒街に…?」

盗賊「ああ、悪党や貧民が集う居住区の生まれだ。ったくよ、神様とやらがいるならば、何故俺達は救ってくださらねーのかねェ?」





5: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:23:05 ID:5Wy0/P9w

僧侶「か…神様は…どのような方に、も、等しく……その御手を差し伸べてくださいます……と、盗賊さんも、祈りを捧げれば…救われることでしょう…」

盗賊「ケッ。どうでもいいやい、んなこたァ。祈りで腹が膨れるかよ、祈って金貨が空から降ってくんなら、いくらでもするけどな」

盗賊「明日のパンにも困るような生き方をしてきた俺達が…そんな暇も余裕もあるもんかよ。なんで俺が勇者の仲間とやらに選ばれたか、疑問でならねェな…全く…」

僧侶「き…きっと、それも…神様の試練、かと……貴方をお救いくださる試練…」

盗賊「試練だけに、そんな神様の気が知れん。そうこう言っているうちに、ついたぞ。酒場だ」

僧侶「…全っ然うまくなんか、ないですからね!」





6: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:25:06 ID:5Wy0/P9w

~酒場~

盗賊「っはぁ!?マジで言ってんのか、それ!?」

店主「ああマジだ。そこのテーブルにいたんだがな、隣村に魔物が攻めてきたと情報が入って、すぐさま店を出ていったよ」

僧侶「そ、そんなあ!勇者様に置いて行かれちゃった…!」

盗賊「テメーがもたくさしてっからだ!チッ、すぐに追い駆けるぞ…隣村だったな、走りゃまだ間に合うだろう」

僧侶「わ、私、走るの遅いですぅ…!」

盗賊「知るかクソアマ!ゴニョゴニョ言っている暇があったら、とっとと走れ!」

僧侶「クソアマじゃないです、僧侶です~!うえ~ん、勇者様ぁ~!!」





7: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:26:29 ID:5Wy0/P9w

盗賊「………」タタタタタ

僧侶「はあ、はあ、ふう」トテトテ

盗賊「…テメー、ふざけてんじゃねーぞ。マジに遅すぎる…歩いてんのかってレベルだ」

僧侶「す、すみません…、頑張っ、て、ますが……はあ、はあ、は、走るの……苦手で、ふう、はあ」

盗賊「大体荷物は全部俺が持ってやってんのによ、その俺より遅いって有り得ないだろうがっ!俺だってそんなに体力ねーんだぞ!?」

僧侶「すみません…すみません……ふう、ふう」

盗賊「ったく…、ん!?」

魔物「キシャー!」

僧侶「きゃー!?」

盗賊「チッ!魔物だ!!おい、クソアマ!そこから動くんじゃねーぞ!」

僧侶「は、はひぃ……というか、私クソアマじゃないです、僧侶ですぅ~!」

盗賊「どうでもいいんだよ、そんなこたぁ!うりゃあ!」ザシュ





8: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:28:23 ID:5Wy0/P9w

魔物「ギギー!!」

盗賊「数は三体、残り二体……そらよっ!」ドシュ

魔物「ギァー!!」

僧侶「きゃああ!?」

盗賊「バカッ!ボケっとしてんじゃねえ!!」ザンッ

僧侶「ああ!私を、か、庇って…!盗賊さんが魔物の爪に腕を掻かれたー!!だだだ大丈夫ですか!?」

盗賊「クソ、血が…おいクソアマ、回復魔法とか使えねーのか?」

僧侶「す、すみません…!私、落ちこぼれで…まだ何も出来ないんです~!!」

盗賊「とことん使えねーなあぁテメーはよォー!!」

盗賊「ちくしょうーっ!張った張られたの博打は好きだが、自分の命をチップにするなんざ、金輪際ごめんだぜッ!!」ドシュッ

魔物「ギャアァー!!」

僧侶「か…勝った!勝ちましたよっ盗賊さん!」

盗賊「はぁ、はぁ……ケッ、ざまーみやがれってんだ…」





9: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:29:59 ID:5Wy0/P9w

僧侶「あの、一旦街に戻りましょう…?血がいっぱい出てます、薬草無いですし……先程頂いたお金で薬草を買うとか…治療を受けるとか、した方が…」

盗賊「バカ、そうこうしている間にまた勇者に置いて行かれたらどうすんだ?俺はさっさと安全圏に引っ込みてーんだよ」

盗賊「勇者とやらなら、クソアマ、テメーのお守りも好き好んでやるだろうしよ。そうすりゃ俺は後方でぬくぬくしながら、報償金も楽に手に入れると…楽する為の前金と思えばどうって事ねェ、こんな傷」

僧侶「で、でも…!化膿したりしたら……」

盗賊「布できつく縛っておきゃ隣村まで持つだろ。つーかテメーが回復魔法を使えれば、問題はなかったのによ」

僧侶「す、すみません……」

盗賊「…まあ、経験を積めば、いくらなんでも覚えるだろうしな。それまでの辛抱ってこった…」

僧侶「ううう…が、頑張ります!レベ、レベルアップ、して…回復魔法を覚えますからあ~!」





10: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:31:58 ID:5Wy0/P9w

 盗賊はレベルが上がった!
 僧侶はレベルが上がった!

 盗賊はレベルが上がった!
 僧侶はレベルが上がった!

・・・


盗賊「………」

僧侶「………」

盗賊「クソアマァァァ!!なんっでこれだけレベルが上がっても、ひとつも回復魔法を覚えやがらねーんだァッ!?」

僧侶「ひいいぃ!!?ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!わたっわた私、おおお落ちこぼれで~ッ!!」

盗賊「ものには限度があるだろうがァ!!ふざけんなよクソアマ、回復出来ないなんざ詐欺みてーなもんだろうが!どうすんだよ、どうすんだよコレよォ!この状況よォ!!」

僧侶「あ!あの!ひとつだけ…」

盗賊「あんっ?」

僧侶「私…私、クソアマじゃないです…僧侶ですぅ!」

盗賊「うるせえ!!回復魔法使えるようになってから寝言垂れろや、クソアマ!!」





11: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:57:15 ID:5Wy0/P9w

~隣村~

盗賊「はあああぁ!?またすれ違っただとぉ!!?」

村人「は、はあ。勇者様は、魔物をすぐに退治してくださいましたが…ここから南の洞窟に、その魔物達の住処があると聞くと、そこに向かわれて……」

村人「お礼もありますし、せめて一晩でも休まれてはと、お引き留めしたのですが…礼など不要と、そのまま行かれてしまいました」

僧侶「はあ~、流石勇者様ですねえ…カッコイイです…」

盗賊「チッ!時間食いすぎたせいだ…さっさと追いかけるぞ!」

村人「貴方達は勇者様の仲間なのですね?ではどうか此方をお持ちください。何分、魔物に荒らされてしまい、こんなものしかご用意できませんが…薬草です」

僧侶「ああ!いえっすごく有り難いです…!本当に本当に有り難うございます…!と、盗賊さん!怪我の手当てをしましょう!」





12: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:58:26 ID:5Wy0/P9w

村人「本当は毒消し草をお渡ししたかったのですが、この辺りの魔物はよく毒を持っておりますし…」

村人「しかし襲ってきた魔物に、毒消し草畑を潰されてしまいまして。申し訳ありません」

僧侶「いえ、とても有り難いです…!わ、私達が必ず魔物を、魔王を倒します、から!だからまた毒消し草の栽培に、打ち込めますよ…今度は安心して、平和に…!」

盗賊「回復魔法を使えないクソアマに言われても不安しかねーよ」

僧侶「ううう!」

村人「なんと…では余分に薬草をお持ちください。どうかお気をつけて…」

僧侶「有り難うございます、有り難うございます!さ、さあっ!いいい行きましょう、魔物の住処の、南の洞窟…洞窟……」ブルブル

盗賊「生まれたての子鹿みてーな足している奴が、随分偉そうに張り切り勇むじゃねーか…あー面倒くせェ」

村人「…大丈夫なんだろうか…この方達…」





13: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 00:59:30 ID:5Wy0/P9w

~南の洞窟~

盗賊「さて、洞窟だが…いっこうに魔物が現れねーな…勇者が倒したのか?」

僧侶「」ビクビク

盗賊「暫く戦闘は勘弁願いてーしな、有り難いっちゃ有り難いが」

僧侶「」オドオド

盗賊「…つーかよ、クソアマ。俺のマントに掴まるんじゃねえ、重てーし動きにくいだろうが」

僧侶「ごめ……なさい、でも、わ、私…クソアマじゃないです…!……くっ…くっくっ、くっ……」

盗賊「何を笑ってやがる」

僧侶「違います!くっ…暗くて怖いんですう!!もぉやだあ~…早く外に出たいです…!!」

盗賊「お前なあ、勇者についていくって事は、この先こういった場所に死ぬ程入っていく事でもあるんだぞ?ぴーぴー泣いてんじゃねーよ!」

僧侶「だ!だって!だってー!!」

盗賊「だってもヘチマもあるかっ!!うるせえんだよ、クソアマ!!」





14: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 01:01:06 ID:5Wy0/P9w

盗賊「出口か…洞窟というより地下道か。結局魔物は一匹も出なかったな。宝箱も空だったし、チッ、勇者の野郎、きっちり回収して行きやがって」

僧侶「はあぁ…やっと外に出られるんですね、良かったあ…怖かった…」

盗賊「おいクソアマ。今日は此処で一泊するぞ」

僧侶「はひぇ!?ななななんで!?なんでですか!?」

盗賊「外を見てみろ、もう日が沈む。魔物どもは夜行性だ、より凶暴化するだろうよ。そんな中をフラフラ歩いたら仲良く御陀仏だぜ?」

盗賊「先を急ぎてーが、だからって危ない橋を渡るわけにゃいかねえ。魔物のいないここは、今や良い休憩場所だ」

僧侶「でも、でもでも!洞窟は怖いです、暗いしジメジメしているし!」

盗賊「うるせえ!暗いなら火を焚きゃいいだろうが!その辺から薪木を拾ってこいっ」

僧侶「うえ~ん!勇者様ぁ~…!」





15: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 01:02:30 ID:5Wy0/P9w

盗賊「………」

僧侶「……すぅ……すぅ……」

盗賊「…チッ、あれだけ騒いでいたのに、間抜けな面して寝やがって。臆病なのか図太いのか、どっちかにしやがれ」

盗賊「…このマントなら少しは寒さを凌げるか」パサ

僧侶「……すぴー…」

盗賊「………」

盗賊「………はあ…出だしの魔物にやられた傷から血が止まらねーな…こいつは出血毒か……」

盗賊「薬草……いや、これくらい、どうって事ねえ。いざって時の為に温存だ、俺もクソアマも戦闘職じゃねーしな…」

盗賊「大体クソアマが回復魔法を使えりゃいい話なのによ!腹立つなー、鼻にドングリ詰めてやる」キュッ

僧侶「ふが。……ふぐぐ……ひんっ!!」ポンッ!

盗賊「痛ッ!?鼻からドングリ吹き飛ばしやがって、クソアマ!」

僧侶「……すぴー…すぴー……」

盗賊「…ハハハ、間抜け面め…」





16:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/02(木) 01:20:00 id:YciM1TkU

流石につかえなさすぎるwww





18:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/02(木) 05:25:57 id:Ub8sSo2A

初歩の回復魔法も覚えれん僧侶を連れて来られても勇者が困るな…





20: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:33:45 ID:5Wy0/P9w

チュン チュン

僧侶「……んむ…、…ふぁ、……あ…もう朝…?」

僧侶「あれ…盗賊さんがいない…!?………?このマント、盗賊さんの?」

僧侶「…あったかいなあ…どうしよう、どこに行っちゃったんだろう、盗賊さん……盗賊さんも…私を置いて行っちゃったのか…な……」ウトウト

盗賊「いつまで寝てやがる」ゲシッ

僧侶「きゃふ!…あっ、あっあっ!と、盗賊さん!!どこに行っていたんですか!?」

盗賊「朝からうるせえんだよクソアマ。起こすんじゃなかったぜ。ほらよ、飯だ」

僧侶「あ…り、林檎だあ。採って、きて…くれたんですか?有り難うございます……」

盗賊「テメーが魔物の肉なんざ食えないとか騒ぐからだ。ったく、何にしても面倒かけやがるな、クソアマ」





21: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:34:56 ID:5Wy0/P9w

僧侶「し、仕方ないじゃないですか…戒律も、ありますし……そ、それに…脂身、苦手なんです…」

盗賊「…この先、贅沢言っていられる場合じゃなくなる事もあんだ。戒律?破っちまえよ、そんなもん。祈りや戒律なんぞで腹は膨れねェ」

盗賊「魔物肉だろうが、草の根だろうが泥水だろうが……食えるもんがあるという事は、有り難ぇ事なんだ。食えるうちに食っておかなきゃダメなんだ。有り難ぇ有り難ぇって思いながら」

僧侶「………」

盗賊「だから飯を食う前は"いただきます"、食ったあとは"ごちそうさま"って言うんだ。有り難ぇって気持ちを込めてな。それが生きるって事だぜ」

僧侶「………」

盗賊「…さっさと食え、食ったらすぐ出発すっからな」モグモグ

僧侶「………!」バッ

盗賊「あ!?テメー、それは俺の魔物肉だぞ!?」

僧侶「むぐ…!」モグモグ ゴクン





22: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:36:06 ID:5Wy0/P9w

僧侶「うぇ…、けほ、ご…ごちそうさま、でした……」

僧侶「………ありがとう、ございました……うぷ」

盗賊「…ふん。食えるんじゃねーか」

僧侶「えへ……が、頑張らなきゃ、ですし…私も……」

盗賊「だが、どうしてくれんだよ。俺の朝飯」ゴンッ

僧侶「!?盗賊さんが私の頭をぶった~!い、いえ!ご、ごめんなさい!あの、この林檎、どうぞ!」

盗賊「当たり前だ、クソアマが」

僧侶「あ、あと…!マント、ありがとう、ございました…すみません…掛けて、くださったんですね」

盗賊「………寝惚けたテメーが俺のマントを剥いで奪っただけだ」

僧侶「はぇ!?ほほほ本当ですか!?それ!」

盗賊「おかげで凍え死ぬかと思ったねぇ」

僧侶「ああああう……!!恥ずかしい…!ごめんなさい、ごめんなさいぃ!!」

盗賊「…チッ」





23: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:37:58 ID:5Wy0/P9w

魔物「キシャー!」

盗賊「洞窟から出た途端に戦闘かい…」

僧侶「うう…怖い、ですけど…!わ、私だって!レベル上がりましたからね!お肉も、食べましたし!!パワーアップ、もりもりなんですからねっ!」

僧侶「えいっ!」

魔物「ギュ!!」ボカッ

僧侶「悔い改めて、ください!えいっ、えいっ!!メイス攻撃!」ボカ ポカ

盗賊「おー、やるじゃねーかクソアマ。その調子で頑張れや~」

僧侶「僧侶ですぅ!っというか、盗賊さんも戦ってくださいよう~!!」

盗賊「俺は今までに散々戦ったろう。バトンタッチってヤツだ。お?魔物のくせに宝石なんざ持っていやがる、生意気な」ゴソゴソ

僧侶「ふえ~ん!勇者様ぁ~、私達どんどん罪深くなっていきますう…!」





24: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:39:24 ID:5Wy0/P9w

僧侶「はぁ、はぁ……や、やっと、倒せました…はぁ……や、薬草、薬草…死んじゃう…」ヘロヘロ

盗賊「よぉーし、よくやった、クソアマ。やたら時間はかかったが、頑張りに免じて、クソアマはやめてやるよ」

僧侶「はぇ?ほっ本当ですか!」

盗賊「今からクソアマじゃなくクソって呼んでやる」

僧侶「最低じゃないですか!まだクソアマの方がマシですう…!どうしてそっちを取っちゃうんですか~!」

盗賊「楽して儲ける、全く最高だな。次の街でこの宝石や魔物の皮を売ろう、幾らになるか…楽しみだぜ」ホクホク

僧侶「悪意100パーセントですぅぅ…!!あの!私、クソアマでも、クソでも、ないですからね!?僧侶です!」

盗賊「武器はいいとして、防具を一新するのもいいかもな~」

僧侶「聞いて!聞いてくださいよう、盗賊さんの、バカぁー!」





25: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:41:23 ID:5Wy0/P9w

~キャラバン休憩地点~

商人「勇者?いや、見てないな…見かけたらこんなところで油売らずに商品を売るしなー、勇者なんて最高のお客だしさ」

盗賊「とうとう足取りすらわからなくなったか…」

商人「あんたら、そんな状態で、よくあの南の洞窟からこの地に抜けて来たな?あの洞窟にゃ凶悪な魔物が巣を作っていたはずだが、見た目ロクな装備じゃないし」

僧侶「あ、あの…勇者様が、魔物を退治してくださった、んですよ……」

僧侶「洞窟、も…浄化作業、行われていましたから…もう、魔物が巣を作る、ことはありません、よ」

商人「へえ!?そいつは有り難い!これで大聖堂の街に行きやすくなる、いや~勇者様様だな!」

盗賊「その勇者がどこに行きそうかとか、検討もつかねーか?」

商人「うーん、もしかすると山越えの道を進んだんじゃないか?険しいが、近道でもあるしなー」





26: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:42:31 ID:5Wy0/P9w

盗賊「山を越えた先にゃ何があんだ?」

商人「砂漠と、オアシスを守る国があるよ。山間にも村があるしな、こっちで見ないって事は、そのルートを通っている可能性が高い」

商人「だが、あんたらが山を登るのはやめときな。そんな装備じゃ自殺行為だ、砂漠にしてもな」

商人「という訳で……はい、いらっしゃいませ!装備を整えるなら我々にお任せを!武器防具に道具から食糧まで、なんでも揃っているよ!」

盗賊「チッ、商売人め」

僧侶「わあ、この旅で初めてのお買い物ですねえ~」

盗賊「浮かれてんじゃねーぞクソが。まあいい…まずは資金作りだ、宝石や魔物の皮を売る」

僧侶「ああああの!クソじゃないです、クソアマですう!………違いました!!僧侶でした!!ひ~ん!」





27: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:43:31 ID:5Wy0/P9w

商人「ほう、こいつはなかなかのモノだねえ…じゃあこれくらいの引き取り値でどうだい?」

盗賊「いや、もうちょいイロつけてもらいてーな。こちとら死ぬ思いで手に入れた品なんだ、せめてこれくらいは……」

僧侶「…もうぅ、盗賊さんのオタンコナス!あの宝石は私が退治した魔物から奪ったやつじゃないですか…」

僧侶「………」

僧侶「…暇だなー、私、バカだから交渉とかできないし……邪魔になっちゃう、また怒られちゃうしなー…」

僧侶「それにしても、キャラバンって初めて見たなー…なんだかわくわくするなあ…」

商人B「いらっしゃい、お嬢ちゃん。あんたは何か買い物はしてくれないのかい?」

僧侶「はひぇ!?あ、あわわ、わわ……ご、ごめんなさい、私!お金、持たせてもらってなくて!!どうせ落とすから、って…」





28: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:44:49 ID:5Wy0/P9w

商人B「そうかい、装飾品なんかも揃えているんだけどね~」

僧侶「わあ、綺麗ですねえ……ハッ!?いやいやいや!か、神に仕える者、質素で謙虚であれ!ぜ、贅沢は敵ですう~!!」

商人B「そんなお堅い事は言わずに。ちゃんと装備としても役立つ代物なんだよ?例えば、そうだな…ほら、この白銀のロザリオなんかも」ジャラ

商人B「海を越えた土地にある、聖騎士の王国で作られた、由緒正しい幸運の御守りなんだ。あっちの聖騎士様は、み~んなコレをつけているんだよ」

僧侶「へえ……すごく綺麗ですねえ…触れているだけで、何か落ち着きますし…大聖堂にいる時みたいな安心感が……」

商人B「どうだい?お金が無いなら、彼氏に強請って買ってもらいなよ」

僧侶「………………はひぇ?彼、氏?」





29: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 12:45:57 ID:5Wy0/P9w

商人B「そうだよ。あっちにいる兄さん、あんたの恋人じゃないのかい?」

僧侶「!!?!!!?!?!?!!!???!?」

 僧侶は こんらんしてしまった!

僧侶「ちちち違いますようぅ~!!あ、あんな!意地悪で怖い人!そっそんなのじゃないですうう!!!」

僧侶「わわわ私!私は!!もっと優しくて素敵な人の方が!勇者様みたいな……いえ、まだ勇者様のお姿は見たことありませんが…そうじゃなくて!!?ひぇ~ん!!だから違うんですぅぅぅ!!!」ブンブンッ

商人B「わあああ!?あぶっ危ないよ、お嬢ちゃん!メイス振り回しちゃ!!」

僧侶「ひぇ~~ん!!!違うんですぅぅぅぅ!!!」

ガシッ

盗賊「違ってんのはお前の頭ん中だ、バカタレクソアマ。正気に戻れ」

商人B「あ、と、止まった……た、助かった~…」





30: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 18:55:29 ID:5Wy0/P9w

僧侶「あ、あ…と、盗賊さ……痛い!」ボカッ

盗賊「少しもジッとしていられねーのかテメーは。まだ三歳児のがマシだぜ」

僧侶「ううう…ご、ごめんなさい」ズキズキ

商人B「いや、いいんだよ。商品さえ買ってくれりゃあね」

盗賊「転んでもタダじゃ起きない、ってか。ったくクソアマが、余計な買い物させるんじゃねーよ」

僧侶「……す…すみません……」

盗賊「ならコイツを貰おう」

商人B「まいどありー!」

盗賊「ほらよクソアマ」ポイッ

僧侶「へ?…あ、さ、さっきのロザリオだ!い……いいんで、すか?」

盗賊「何がだ?まあ本物でも偽物でも、テメーがつける装飾品としちゃ適当なモノだろ」

商人B「ちゃんとした本物だよ!失礼な!」

僧侶「………」

僧侶「………へへへぇ…嬉しい…あ、ありがとう、ございます……」

盗賊「気持ち悪ィ面してんじゃねーぞクソアマ」





31: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 18:56:49 ID:5Wy0/P9w

商人C「た!大変だ!!山賊どもが山から降りてきたぞ!」

商人「なんだって!?急いで品物を片付けろ、襲われる前に逃げるんだ!」

盗賊「おうおう、忙しいな。まあいい、こっちも買い物は済んだし。俺達もとっとと逃げるぞ」

僧侶「で、でも!悪い人達を放っておいたら……商人さん達が危ないです…!」

盗賊「バーカ、だからって俺達に何ができるよ?山賊退治?藪をつついて蛇に咬まれるってんだ、そういうのは」

僧侶「ううう……ううう~…!!」ジィーッ

盗賊「………」

盗賊「………はぁーっ、俺達はさっさと勇者に追いつかなきゃならねーの、忘れてねーだろうな……このクソアマ」





32: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 18:57:49 ID:5Wy0/P9w

盗賊「おい、商人ども。山賊から無事に逃げ出せたら、何か礼の品とかくれっか?」

商人「はぁ?あんた達が何かするってのか?冗談言っている暇はないんだ、邪魔しないでくれ!」

僧侶「わ、わた、私達だって!!勇者様、の、仲間です!神様の御神託を受けた、仲間です!!あなあなあなたたたちは私達が守りますぅぅ!!」ガクガクブルブル

商人「"た"が一個多いし、まるで地震でも起きているような震え方している子に言われてもねえ……」

商人「まあ…せめて、俺達が南の洞窟まで逃げる時間を稼いでくれるなら……そうだな、この剣をあげようか」

盗賊「前金だ」ヒョイ

商人「あっ!?」

盗賊「ほう、なかなかいい品じゃねーか。軽くて丈夫そうで…こいつは鋼か?よく磨かれているな」スラッ

商人「ウチの目玉商品のひとつだったんだが…仕方ない。とにかくあんたらも気をつけなよ!俺達はもう逃げるからな!」

 

 


33: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 18:58:44 ID:5Wy0/P9w

山賊「オラァァ!!商人ども、金を出せ!」

山賊B「品物も置いていけ、暴れたらブッ殺すからな!」

山賊C「……あん?なんだ、テメーらは」

盗賊「面倒くせー事に巻き込まれた、善良な一般人だ」

僧侶「わ…悪いことは、やめてくださいっ!!」

山賊「邪魔すんじゃねぇ!!男は殺せ、女は捕まえて売り飛ばすぞ!」

僧侶「はわわわわ…」

盗賊「おい、クソアマ。俺から離れるなよ、ヤバくなったら薬草を投げてもらうから、準備しとけや」

僧侶「は、は、はいぃっ!!」

山賊「うおりゃあああ!!」ブンッ

盗賊「ふんっ!」ガキンッ

盗賊「…へえ、斧の一撃を受け止めてもビクともしねーな、この剣。あんにゃろう、こんなイイものを隠していやがって」

山賊「らあああ!!」

盗賊「遅いッ!!」ザシュッ





34: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 19:00:07 ID:5Wy0/P9w

山賊B「あ!兄者!!この野郎ォ!!」ブンッ

盗賊「剣で受け止め……」ガキン

盗賊「ダガーナイフで仕留めるッ!!」ザクッ

山賊B「ぎゃああああ~!!」

盗賊「ふん…何回かやればモノにできるな、この流れ技は」

僧侶「す!すごいすごい、盗賊さん!とっても強くなってます…!」

盗賊「誰かさんのせいで、散々魔物と戦わされたしな。今更山賊くらい……って!クソアマ!!なんで倒した山賊どもを手当てしてやがる!!」

僧侶「だ、だって!!斬られて血がいっぱい出てますから!!」

盗賊「クソアマァァ!!買ったばかりの薬草がみるみる無くなっていくじゃねーか!!ふざけんなよテメ、……ッ!?」ガツッ!

山賊C「へへへ……俺を忘れてんじゃねーぞ、兄ちゃんよ」

僧侶「きゃー!!盗賊さん、盗賊さーん!!?」

盗賊「グ……ク……クソ…アマ……」ドサッ…





35: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 19:01:37 ID:5Wy0/P9w

・・・

盗賊「………ぅ……」

衛兵「!! 気がついたか」

盗賊「…?誰だ、テメー…ここは……?」

衛兵「ここは山間の村。私はここの警備を勤めている。君達が山賊に捕まって、アジトに運ばれて行くのを見たのでな、助けてここに運んだのだ」

盗賊「…?どういう……、…!!クソアマ!?クソアマは!?」ガバッ

盗賊「ッッ痛~!!」ズキン!

衛兵「動くな、頭を殴られたんだ、暫くおとなしくしていなさい。君と一緒にいた女の子は無事だよ、ほら隣のベッドで寝ている」

僧侶「…すぴー……むにゃ……」

盗賊「………」ホッ

衛兵「勇者様が山賊のアジトを潰してくれたのもあるが、彼の報告を受けて様子を見に来たら、丁度君達が残党に連れて来られたところだったからな。いやはや運というかタイミングが良かった」

盗賊「ッ勇者!?勇者もここに来たのか!?」





36: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 19:02:58 ID:5Wy0/P9w

衛兵「あ、ああ。もう旅立たれてしまったが、私達はあの山賊に手を焼いていたから。勇者様が粗方山賊を退治してくださったおかげで、様子を見に行くことも君達を助けることもできたんだ」

盗賊「それで、勇者は今どこにいるんだ!?どこに行っちまったんだ!?俺達は勇者を探してんだ、合流しなきゃならなくて…」

衛兵「山を降りて砂漠の方面へ向かわれたのではないだろうか。この山からは、そこしか道はないからな、周りは切り立った崖か、海だし…」

盗賊「そ、そうか…なら、俺達も早く……ぐぅっ」ズキズキ

衛兵「だからおとなしくしていなさい。そんな状態じゃ歩くこともままならないだろう?回復次第、山を降りるまでだが、私が送ってあげよう」

盗賊「……す、…すまねぇ……」

衛兵「君達の荷物はそこに置いてある。いいね、おとなしくしているんだよ。では後程…」バタン





37: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 19:03:48 ID:5Wy0/P9w

盗賊「くそっ、近づいた掴めたと思えば、するりと逃げていきやがる…勇者の野郎……」

盗賊「少しくらいゆっくりしていてもいいだろうが、生き急ぐっつーか、死に急ぐっつーか……本当に追いつけんのか、コレ…」

僧侶「くー、…くー……すぴー…」

盗賊「……ったく、デケー荷物を背負い込んだものだぜ…このクソアマめ……いらねェことばかりしやがって、役立たずのくせに」

盗賊「…ドングリ無ェな、ならこのペンを鼻に突っ込んでやる」グイグイ

僧侶「ふご!……ふごー、ふごー……」

盗賊「あー…頭痛ェ、イビキが響くんだよ、クソアマが!まだまだ入るな、ペン追加っと」グイグイ

僧侶「ふごごご……ふご!!」プンッ!

盗賊「ぎゃっ!?」ドス

 盗賊に かいしんのいちげき!

盗賊「あだだだだ!!ペンが額に刺さった!こ、このクソアマ…どんだけ鼻の力強いんだ!?」

僧侶「むにゃむにゃ……盗賊さん…」





38: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 19:04:55 ID:5Wy0/P9w

チュン チュン

衛兵「おはよう2人とも。昨晩はゆっくり休めたかな?」

僧侶「は、はい!あの、ありがとうございました、助けて頂いて……」

盗賊「………」ムスッ

衛兵「いいんだよ、気にしないでくれ。ふむ、君の傷も落ち着いたかな?コブが引いている……おや?この額の黒い点はどうしたんだ?」

僧侶「はれ?本当だ、盗賊さん…こんな傷、今までなかったのに…」

盗賊「テメーのせいだ、クソアマ!」ゴンッ

僧侶「はう!?ななななんで!?なんでぶたれたんですか、私~!?」

盗賊「うるせえっ!さっさと出発すっから支度しろ!!」

僧侶「うえぇ~ん!!盗賊さん、怒ってばっかり~!!」

衛兵「ま、まあまあ…落ち着いて、2人とも…」

盗賊「おい、助けてもらった礼をしてェんだが、何がいい?」

衛兵「礼?そんなものは必要ないよ。私達は穏やかに暮らしたいだけだから…山賊に立ち向かってくれた事が充分な礼だ」





39: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 19:06:07 ID:5Wy0/P9w

盗賊「だが、俺達は…」

衛兵「彼女から話を聞いたんだ。キャラバンを逃がす為に山賊と戦ったんだろう?キャラバンには私達も世話になるからね、だからそれで充分なんだ」

僧侶「わ…私は、足手まといになっちゃいましたけれど…と、盗賊さんは、いっぱいいっぱい戦ってくれましたからね!」

盗賊「………」

衛兵「ありがとう、感謝するよ」

盗賊「チッ。格好悪ィな、俺は…」

僧侶「な、な、なんで?ですか…?」

盗賊「山賊を仕留められず、助けられといて、逆に礼を言われるなんざ……なんか複雑だぜ。勇者はきっちり仕置きして颯爽と旅立ってんのによ?なんだかなあ」

僧侶「い、今は勇者様は、関係ないですよ…!盗賊さんは、盗賊さんは……」

盗賊「おい。やっぱり礼はさせてもらわぁ。この金貨を受け取ってくれ」

 盗賊は 衛兵に 100ゴールドを 渡した !





40: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/02(木) 19:07:01 ID:5Wy0/P9w

衛兵「い、いいのか?こんな大金を」

盗賊「構わねェ。ありがとうよ、助けてくれて」

衛兵「しかしこれは…こんなには……」

盗賊「…多いってんなら、貸し付けだ。無期限の」

盗賊「いつか俺が強くなって、またこの村に訪れた時……何か美味いもんでも食わせてくれ。それで釣り合いが取れるだろ」

僧侶「わ!私も!私も、遊びに来たいですぅ!」

盗賊「テメーはダメだ、クソアマ」

僧侶「ななななんでなんでなんでー!??」

衛兵「…ふふ。いいだろう、任せたまえ。とっておきの山の幸を振る舞おうじゃないか。勿論、君も歓迎するからね。僧侶さん」

僧侶「あり、ありがとうございます!わあい、楽しみにしてますね、お料理~!」

盗賊「ケッ。甘やかさないでくれや、このクソアマを。すぐ図に乗りやがるからな」





43: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:28:55 ID:5Wy0/P9w

衛兵「では、出発しよう。といっても、この山道は穏やかなものだからな。出てくる魔物も比較的おとなしい」

衛兵「だからこそ、山賊が拠点としてしまったのだが…麓まで送ろう、ついてきたまえ」

僧侶「よ、よろしくお願いしまぁす…」

盗賊「……おい、クソアマ。なんで俺のマントを掴んでやがる。動きにくいから離せ」

僧侶「い…いいんです、気にしないで、ください…」

盗賊「気になるわ!いいから離せ!洞窟みてーに暗かねーし、魔物だってあの衛兵が追い払ってんだ、怖かねーだろうがっ」バッ

僧侶「あっ!や!」ギュッ

盗賊「…なんなんだよテメーはよォ…!」

僧侶「い、いいんです、いいんです…!!」

衛兵「………ふふ」

衛兵「(私が僧侶さんを助けた時、取り乱して泣いていたからな…もう離れたくないよね)」





44: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:29:55 ID:5Wy0/P9w

衛兵「ああ、川だ。ここで水を汲んでいくといい、砂漠に入ったらオアシスの街まで長いからね」

衛兵「山の神の加護を受けているから、浴びれば疲れも癒えるんだよ。ほら、手を洗ってごらん」

盗賊「どれどれ…成程、確かに。冷たくて気持ちが良いな、気分が晴れるようだ」バシャバシャ

僧侶「このお水で、お風呂を焚いたら…さっぱり、しそうですねえ…」

衛兵「ここから少し離れたところには、温泉も湧いているんだよ」

僧侶「温泉?」

衛兵「天然の風呂さ、温かくて気持ちが良いよ。山賊が居た頃はなかなか入りに行けなかったが、今なら皆自由に入りに行ける。本当に勇者様には感謝しなければ」

僧侶「わあ…!いいですね、温泉…!入ってみたい、です」

盗賊「そんな暇はねーってわかって言ってるんだな?」

僧侶「ううう…」

衛兵「まあまあ。いいじゃないか、少しくらいは。入って行きなさい」





45: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:30:54 ID:5Wy0/P9w

衛兵「その温泉も疲れを癒し、病気や傷も治す力があるんだ。本来は定期的に浴びなきゃいけないけど…山賊との戦いで受けた傷に効くと思うから」

盗賊「……ったく。少しだけだぞ」

僧侶「わーい!わーい!お風呂嬉しいです~!どんなものかな~」

衛兵「……それに、君は絶対に温泉へ浸かった方が良い」ヒソヒソ

盗賊「…あ?」

衛兵「傷の手当てをしている時に、見てしまったんだ。君の腕の傷。魔物にやられたんだね?毒が回っている、早く適切な治療をすべきだ」

盗賊「!!」

衛兵「温泉で毒が抜けるといいのだが…何故、毒消し草を使わないんだ?」

盗賊「…使ったさ、キャラバンで買ってすぐにな。だが、効果がない…遅すぎたんだ、もう毒消し草じゃ間に合わねェらしい」

衛兵「そうか…なら教会での治療しかないか…彼女は毒消しの魔法を使えないのか?」





46: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:31:54 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あのクソアマはとことん使えないヤツでな。毒消しの魔法どころか、回復魔法すら使えねーんだ」

衛兵「なんと……」

盗賊「なのに、いらねェ事ばかりしやがるトラブルメーカーでな。早ぇところ、勇者と合流してアイツを押しつけねーと、俺がヤバいってなもんだ」

僧侶「あー!!湯気がムクムクですぅ!衛兵さん、盗賊さーん!これが温泉ですかあー!?」

衛兵「!! あ、ああ。そうだよ、これが温泉だ。さあ、2人とも入ってきなさい。私は危険な魔物が来ないよう見張っているから」

僧侶「すごいすごい、いっぱい穴があって、お湯が溜まってます~!私、こっちの広いほうに入ろうっと!」

盗賊「チッ、うるせえんだよ、風呂くれーでキャーキャー騒ぎやがって」

僧侶「盗賊さん、こっち見ないでくださいよう!」

盗賊「金払われても見るかよ、テメーの洗濯板なんてよ」





47: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:33:50 ID:5Wy0/P9w

僧侶「せ!洗濯板だなんて!!」

盗賊「テメーこそ、こっち見るんじゃねーよ、クソ痴女ー」

僧侶「盗賊さんのバカぁー!!」

衛兵「ま、まあまあ…喧嘩しない喧嘩しない」

・・・

僧侶「…ふわあ、温か~い…気持ちいいなあ…髪も洗おうっと…」ジャブジャブ

僧侶「………」ムニィ

僧侶「………うん、ちゃんとあるもんねっ!洗濯板じゃないです!盗賊さんのバカバカ!!」

僧侶「………ぐすん」

スライム「ピキー!」ガサガサッ

僧侶「きゃ!ス、スライム!?」

スライム「ピキキー」ドボン

スライム「ピ~ピキピッキ~♪」プカプカ

僧侶「…あははっ、そっかあ、スライムさんもお風呂が好きなんだね」





48: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:34:51 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………」

スライム「ピキ~」プカプカ

僧侶「………」キュッ

スライム「ピキ!?」

僧侶「………これくらい大きくて柔らかかったらなあ……ぐすん」

スライム「ピキ~♪」デレデレ

・・・

盗賊「………」ザブザブ

盗賊「………」

衛兵「どうだ?傷の方は」

盗賊「ああ…完全とは言えないが、痛みが和らぐ。すまねェ、流れた血で湯を汚しちまった…」

衛兵「構わないよ。温泉は地下から湧き出て、土へと流れていくからな。時間を置けば、血も一緒にどこかへ流れていく」

衛兵「私としては、暫くの湯治を勧めたいが…どうしても行くのか?」

盗賊「ああ。こうしている間にも、勇者はどんどん先へ行っちまうからな…」

衛兵「そうか…オアシスの街には教会もある、そこへ無事に辿り着くよう祈ろう」





49: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:35:54 ID:5Wy0/P9w

盗賊「祈りなんざいらねェよ。そんなもんで腹は膨れねーからな。それよか、無事に帰った時の山の幸料理だ。それを約束してくれた方が断然やる気が出るね」

衛兵「…ハハハ。わかったよ、必ず用意するからさ。気をつけて行くんだぞ?」

盗賊「へいへい。まあいざとなったら、あのクソアマを餌にしてトンズラするからいいんだが」

衛兵「………」

衛兵「君は素直じゃないな」

盗賊「っあ!?」

衛兵「なんでもない。さあ、私は見張りに戻るから。君は時間の許す限り浸かっていなさい」

盗賊「ちょっ!待ちやがれテメー!!何か聞き捨てならない事言っただろ!おいっ!!待てコラ!!」

盗賊「………チッ!!クソが!腹立つな、次にクソアマが寝たら鼻に小石詰めてやろう、そうしよう…」





50: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:36:54 ID:5Wy0/P9w

僧侶「温泉すっごく気持ち良かったですぅ~!また来ましょうね、盗賊さんっ」ホカホカ

スライム「ピキー!」ホカホカ

盗賊「………おい、クソアマ。なんだ、その魔物」

僧侶「あ、一緒に温泉に浸かったんです、温泉友達ですよ、ねースライムさん!」

スライム「ピー、キ!」

盗賊「どうでもいいが、山に帰してやれよ。連れてはいけないからな」

僧侶「うう…そうですよねえ……また一緒に温泉入ろうね、スライムさん…」

スライム「ピッキキー」ガサガサ

衛兵「あのスライムは私達の村にもよく遊びに来るんだ、いいスライムだよ」

僧侶「へぇ~、そうなんですかあ…!だから人間に慣れていたんですね…」

衛兵「村でも人気者さ。……さあ、麓についたぞ。私が送れるのはここまでだ、村の警備に戻らねばならないからな…」

僧侶「送ってくださって、ありがとうございました…温泉も、気持ち良かった、です…!」





51: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:37:53 ID:5Wy0/P9w

衛兵「この先を真っ直ぐ行けば、砂漠へ出るだろう。砂漠の中央に見える巨木を目指しなさい、それがオアシス、そして砂漠の国の目印だからね」

盗賊「何から何まで、すまねェな。世話になった」

衛兵「砂漠の昼は暑く、夜は芯まで冷える。フードをしっかり被って陽射しを避け、水が尽きる前にオアシスに行くんだ。気をつけるんだよ」

僧侶「ありがとうございました、ありがとうございました!行ってきますぅ~」


僧侶「衛兵さん、とっても親切な方でしたねえ…優しいし、強いし……素敵な人でした…」

盗賊「………」

僧侶「砂漠って、私、見たことないです。盗賊さんは、見たことありますか?」

盗賊「うるせえな、黙って歩けよクソアマ。あとマントを掴むな、邪魔だ」

僧侶「…盗賊さん、いっつもご機嫌斜めだけど……今とくに、怒ってませんか…?」

盗賊「うるせえっつってんだ!!黙ってろよ、クソアマ!!」

僧侶「あうう……」





52: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 00:38:46 ID:5Wy0/P9w

~砂漠の入口~

馬屋「はいはい、いらっしゃい!砂漠を渡るには砂馬が一番!歩いて行ったら即ミイラ化だよ、悪いことは言わない、砂馬に乗って行きな!」

盗賊「おい、ちょっと聞きたい事があるんだが…ここに勇者が来なかったか?」

馬屋「勇者様?なんでまた」

僧侶「私達、勇者様の仲間で……勇者様と、合流しなくちゃならないんです…今、追いかけている最中、で」

馬屋「へえ~。いや、勇者様なら来たよ。砂馬を借りて砂漠の国に渡ったはずさ。うちの砂馬は利口だからね、砂漠の国に人を届けたら、ちゃんと自分で帰ってくるんだ」

馬屋「ほら、そこにいる二頭がそうさ」

僧侶「え?二頭?」

盗賊「勇者は一人じゃないのか?」

馬屋「ああ、2人組だったよ。一人が勇者様で、もう一人がその仲間だって。あれは魔法使い…さん、かな?若い男…いや、少年と、それから若い女の人だったね」





56: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:45:42 ID:5Wy0/P9w

僧侶「思えば、私達…勇者様のこと、なんにも知りませんでしたね…」

盗賊「ああ、こりゃいい情報を得たな。そうか、勇者は魔法使いと一緒にいるのか…それから若い男女。似顔絵でもありゃ最高だが、まあ、これで少し探しやすくなった」

馬屋「あんた達、本当に勇者様の仲間なの?…まあいいか、で?砂馬借りる?借りない?」

盗賊「その砂馬とやらに乗れば早く砂漠の国につけるのか?」

馬屋「早いだけじゃなく、徒歩より断然安心だよ!砂漠の魔物は狂暴だからね、しかも装甲の硬いヤツばかりだから。砂馬はおとなしく優しいけど、逃げ足はどんな馬よりもとびきり早いんだ!」

盗賊「…料金はいくらだ?」

馬屋「一頭でこの値段だね」

盗賊「……ギリギリ一頭借りられるくらいだな…おい、クソアマ。俺は砂馬に乗るから、テメーは歩け」

僧侶「えええ!?むむ無理ですう!!死んじゃいますよう~!!」





57: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:46:49 ID:5Wy0/P9w

馬屋「なんなら、一番体の大きな砂馬を貸してあげるよ。お嬢さんは小柄だし、その砂馬なら2人乗れるだろうから」

盗賊「いいのか?」

馬屋「ああ。うちの砂馬がどれだけ立派かと見せられれば、客足に繋がるからね。宣伝も兼ねているってことで、サービスしよう!」

僧侶「あ、ありがとうございます…!良かったぁ…こんな、熱い砂の上を歩いたら…、すぐに干からびちゃいそうだし…」

馬屋「ただ、忠告しておくよ、お客さん。今の砂漠の国はなんだかキナ臭い話を抱えていてね。下手すると余所者は捕まって牢屋に入れられてしまうから、気をつけて!」

盗賊「はあぁ?…俺なんか特にヤバいじゃねーか…一体何が起きているんだ」

馬屋「噂だけど、近々戦争が起きるんじゃないかって話なんだよね。砂漠のオアシスも年々水が少なくなっているから…領土拡大っていうのかな」





58: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:47:50 ID:5Wy0/P9w

僧侶「そんな…魔王がいるって時に、なんで人間同士で、争わなきゃならないんでしょうか…」

馬屋「遠くの恐怖より、目先の問題だよ。オアシスが枯れてしまったら、孤立している砂漠の国はあっという間に壊滅だからね…」

馬屋「せめてオアシスが枯れずに済むなら、戦争も起きないだろうけどねえ…苦渋の決断ってやつだろう」

盗賊「…頭の痛くなる話は苦手だ。なんにせよ、砂漠の国には行かなきゃならねえ。ほらよ、馬の代金だ。借りていくぜ」

馬屋「ああ、はい!まいどあり!気をつけて、いい旅を!」

盗賊「…砂漠の国を助けたい、なんて言い出すなよ、クソアマ。流石にこの案件はどうしようもならねえからな」

僧侶「ううう……どうにかならないのでしょうか…」





59: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:48:50 ID:5Wy0/P9w

~砂漠~

盗賊「……っ、ふう…話に聞いた以上だ…暑すぎる…馬を借りて正解だな、こんなところ、ノコノコ歩いていたらマジに干からびるぜ」

僧侶「せっかく温泉に入ったのにぃ…汗でベタベタだし、砂ぼこりで髪もバサバサです~…」

盗賊「まだ汗が出るならいい方だ、水分が枯れてない証拠だしな。ほら、クソアマ。しっかり水飲んでおけ」

僧侶「あ…ありがとう、ございます……」ゴクゴク

僧侶「(盗賊さんとひとつの水筒を飲みっこするの、やっぱり恥ずかしいな…でも、お水ももうこれだけ、だし……うう、背中もぴったり、盗賊さんの体にくっついてるし……暑さ以外で茹で上がりそうです…!)」

僧侶「……と、盗賊さん、は…お水、ちゃんと飲んでますか…?」

盗賊「飲んでいる。つーか前を向いていろ、バランス崩れんだろうが」





60: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:50:23 ID:5Wy0/P9w

盗賊「……ッ!!?」ズパッ

魔物「シャアアァァッ!!」ドバァッ

僧侶「きゃー!?砂漠の中から、でっかい虫みたいなのがー!!」

盗賊「魔物か!チッ、引っ掻かれた…おいっクソアマ!しっかり捕まっていろよ、振り落とされても助けねーからな!!」バシィ

砂馬「ブヒィィンン!」

僧侶「きゃー!?きゃー!!ゆっ揺れる、あわわ、落ちちゃうぅ~!!」

魔物「キシャアアア!!」

盗賊「このッ!!」ガキィン!

盗賊「ッ痛…!マジに硬ェな、剣じゃダメージ全然与えられん」

魔物「キシャアアアァァ!!」スパパパァッ

盗賊「ぐぅ、う…ッ!!こりゃ、風の魔法かっ!?」

僧侶「とっ盗賊さん!盗賊さんが!やだ!やだ!!い、今の魔法でズタズタに!!」

盗賊「前を向いていろ、クソアマ!!バランス崩れんだよ!!」





61: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:51:48 ID:5Wy0/P9w

盗賊「硬いわ、魔法を使うわ…凶悪って騒ぎじゃねーよ…!!逃げられるのか、これ」

魔物「シャシャシャァア!!」

僧侶「やだやだ!追いかけてきますぅ~!!」

盗賊「チッ!しつけぇな!!おい、クソアマ!手綱握っていろ、あいつに痛い目見せてやる」

僧侶「えええ!?むむむむむ無理!無理ですよう、あわわわわ~!!」

盗賊「握っているだけでいいんだよっ、落ち着けクソアマ!!」

盗賊「うらぁぁああ!!」ザンッ

魔物「ギギィィィィ!!!」

僧侶「や!やった!尻尾が、落ちちゃい、ましたよっ!?」

盗賊「ふんっ、関節部分は比較的柔らかかったな。弱点はそこか。もう追ってくるんじゃねえ!今度は尻尾だけじゃ済ませねーぞ!!」

魔物「ギァ~!ギシャアア!!」

盗賊「…よし、逃げていったな…やれやれ、肝が冷えたぜ……」





62: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:52:45 ID:5Wy0/P9w

盗賊「はぁ…はぁ……(しかし……腕の出血毒に合わせて、魔法裂傷…流石に血を出しすぎだ……)」

僧侶「と、盗賊さん……っ、大丈夫?大丈夫ですか?」オロオロ

盗賊「(………クソアマ)」

盗賊「…前を向いていろっつったろ。テメーは本当に言うことを聞かねーなぁ……うぜえんだよ、ボケ」

僧侶「でも、だって、だって!盗賊さん、血が……血が、出てますよう…ま、また、私を庇って……なんで、なんでですかあ…」グスグス

盗賊「だから、うるせえんだよ、静かにしていろ…。かすり傷だ、薬草塗るから平気だ。……ほら、衛兵の言っていた巨木だぜ…ここが、砂漠の国…オアシスを守る街、か……」

僧侶「ほ、本当だ!ありがとう、お馬さん……いっぱい走ってくれてありがとう!街に入ったらすぐ手当てしましょうね!ねっ!」

盗賊「……いや……どうなるかな、これ…門、閉まってんじゃねーか……」





63: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:53:36 ID:5Wy0/P9w

門番1「止まれぇい!!この先は誰であろうと通すわけにはいかぬ!!引き返せ!!」

僧侶「そんな!おっお願いします!街に入れてください、怪我人がいるんですっ」

門番2「ならぬ!!これは砂漠の国の王直々の命令!街に入りたくば通行許可証を提示せよ!!」

僧侶「そんなの、持ってないです…!なんで、なんで入れてくれないんですか…!」

門番1「戦争の準備故に、民達の安全を確保する為の封鎖よ。砂漠の民ならまだしも、余所者を入れるわけにはいかぬ!」

門番2「速やかに立ち去れ!抵抗するならば投獄致す!立ち去れ、立ち去れ!!」

僧侶「お願いします、お願い……!!街に入れて…盗賊さんが怪我をしているの、お願いぃ…!」

盗賊「……いい、クソアマ…もういい、行こう…」

僧侶「盗賊さん!でもっ!!」





64: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:54:36 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あの雰囲気、泣き落としなんか効かねーよ…例えここで人が行き倒れていようとも、絶対に門を開けないって、強ぇ意思……時間の無駄だ」

僧侶「でも、もう薬草が……盗賊さんの傷が」

盗賊「ここで食いついて、捕まっても仕方ねえ…勇者は、中に入れたのか……?いや、それももう、今はいいか…早く、次の街に…行けば……」

僧侶「ううう……うううっ!ごめんなさい、ごめんなさい…わ、私、が……私が、落ちこぼれじゃなくって…ま、魔法……使えていたらっ盗賊さん、助けられたのに…」グスグス

盗賊「………」

盗賊「………」ナデ ナデ

僧侶「…っ、盗賊さん……?」

盗賊「そのうち使えるようにならぁ」

盗賊「いくらお前でも…使えねークソアマでも……そのうち、回復魔法だろうが、なんだろうが。使えるようになるさ…その時まで、ツケといてやる……」





65: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/03(金) 11:55:32 ID:5Wy0/P9w

僧侶「でも!使いたいのは今なんですよう!!今使えなきゃ意味ないです…!ごめんなさい、ごめんなさい…!!」

盗賊「…うるせえなー、泣くんじゃねーよ、鬱陶しい。かすり傷だっつってんだろ…」

盗賊「どーってこたーねんだよ、こんなの……大したこと、ねんだ………よ…」フラッ

ドサッ!

僧侶「盗賊さん!?盗賊さん、盗賊さん!しっかりしてぇ!!」バッ

盗賊「………」

僧侶「盗賊さん!お願い、しっかりして!!起きてください、また馬に乗って、街に……行かなきゃ、薬草、買って…傷治せば……!!」

僧侶「盗賊さぁぁん……!」

魔物「フシャアアァ!!」

僧侶「あ…っ?そ、んな…魔物……!」





70: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:15:27 ID:5Wy0/P9w

魔物「ギィィィ……」

僧侶「か…数が多い……わ、私だけじゃ無理…!」

盗賊「………」

僧侶「……う、ううん…無理じゃ、ないです!盗賊さんを守るの…!」グッ

僧侶「盗賊さんを守って、次の街に行って…盗賊さんを治すの、勇者様と合流しなきゃ……盗賊さんと一緒に!」

魔物「シャアアアア!!」バシッ

僧侶「痛ッ!!……くない、痛くない!!盗賊さんはもっと痛かった!私、守られてばっかりだ…私だって、私だって!!」カッキン!

魔物「シシャシャ……」

僧侶「っ硬い……、そ、うだ、関節だ…メイスじゃダメだ、盗賊さん、剣借りますね…!」

魔物「ッシャアアァーッッ!!」

僧侶「うわあああああ!!!」ブンッ

?「氷柱魔法!!」バキィン!





71: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:16:44 ID:5Wy0/P9w

魔物「ギャアアア!!」ザクザクザク

僧侶「えっ!?」

?「喰らえ!!」

魔物「ギシャー!!」ドスドスッ

僧侶「か、関節に的確に弓矢を……だ、誰?」

男妖精「なんだ?人間がいる」

女妖精「こんなところで何をしている。街から随分離れているぞ、こっちは行き止まりだ、去れ、人間」

僧侶「エルフ…妖精?なんで砂漠に……?」

男妖精「去れ、人間」

僧侶「あの!お願いします、助けてください!怪我人がいるんです、お願いします!!」

男妖精「怪我人…?」

女妖精「……魔法裂傷は真新しいが…何だ、こいつ。こんなにも酷い毒の傷は久し振りに見たな」

男妖精「我々から奪った魔法文明を発達させたのではないのか?人間は。毒消し草を何故使わなかったのか」

女妖精「衰弱が激しい。近いうちに死ぬな、こいつ」





72: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:18:32 ID:5Wy0/P9w

僧侶「そんな…!お願い、お願いお願い!!お願いしますっ助けてください!なんでもするから!!助けて!」

男妖精「知るか。我々は人間を憎んでいる。助ける義理はない」

僧侶「そんなあ……!!」

女妖精「………待て。この男、面白いものを持っているぞ。触れてみろ」

男妖精「ふむ…?これは……ほう」

僧侶「………?」

男妖精「お前もそうなのか?」

僧侶「へっ?」

男妖精「…確かに面白いな。婆様に話してみるのも良いかもしれない」

女妖精「人間。気が変わった。私達はお前達を助けよう。ついてこい」

僧侶「!! ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!よ、良かったあ……」

男妖精「我々の里は普段、蜃気楼の向こうに隠してある。居場所を他言しないと誓え。他言したら殺す」

女妖精「貴様の目玉をくり貫き、口を縫い付け、耳に焼いた銅を流し込む」

僧侶「めちゃくちゃ怖いですう!!言いません、言いませんから…!」





73: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:20:02 ID:5Wy0/P9w

~滅びの里~

僧侶「…わあ…!!い、今までこんなの無かったのに…すごい……砂漠に深い森が…」

男妖精「…木に触れてみろ」

僧侶「え?手が…と、通り抜けちゃい、ましたよ!?」

男妖精「遥か昔の姿を、蜃気楼を使い再現しただけ。昔はここも、豊かな森だったのだ。慰めに過ぎぬが…再現する事で、あるべき姿を忘れぬようにしている」

女妖精「人間がこの森を焼き、開き、渇かした。やがてここは砂漠となった。我々にとって、魔王よりも人間の方が害悪だ」

僧侶「………す…すみません……」

男妖精「我々は人間を憎んでいる。本来ならば里にいれる事は勿論、助ける事など有り得ない。それを忘れるなよ」

僧侶「…はい…!それでも、助けてくれてありがとうございます…」

 

 


74: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:25:05 ID:5Wy0/P9w

男妖精「治療にはこの部屋を使え。私は婆様に、貴様達の事を報告してくる」バタン

女妖精「私は貴様に、その男を助けるやり方を教えよう」

女妖精「ただし、やり方を教えるだけだ。男を癒すのは、貴様がやれ」

僧侶「はい!お願いします、教えてください…!」

女妖精「この男に回る毒は最早末期状態。ただ毒消し草を使ったり、毒消し魔法を唱えるだけでは癒えないレベルに達している」

女妖精「この薬は我々が栽培し調合した、妖精の毒消し薬だ。これを傷に擦り付け、塗り込む。強めにだ」

女妖精「すれば、血と共に毒が吹き出すので、それを患部を押すように拭え。また薬を塗り付け、出てくる毒血を拭う……その繰り返しだ。休まずにやれ。毒を全て搾り出すまで」

女妖精「血が出なくなったら、この回復薬を飲ませろ。体力が戻り、魔法裂傷が癒える。薬が効けば直に目を覚ますだろう」

僧侶「わかりました…ありがとうございます、私、やります!」





75: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:26:13 ID:5Wy0/P9w

女妖精「忘れるな、我々は人間を憎んでいる。貴様らに手を貸すのは我らの独断であり、気まぐれということを」

女妖精「この里の長である、婆様の返事次第では、例え治療が途中でも貴様らをここから叩き出す」

僧侶「……っ、はい…でも、それでも…ありがとう、ございます」

女妖精「………」バタン


僧侶「盗賊さん…本当に、ごめんなさい……必ず治してあげますからね、もうちょっとの辛抱ですからね…」

僧侶「まずは服を脱がせなきゃ。…し、失礼しまーす…」ゴソゴソ

僧侶「う…!ひ、ひどい……腕がすごい色、膨れ上がっている…こんなのを、ずっと隠していたんですか…」

僧侶「………あれ?」

僧侶「盗賊さんも、ロザリオつけていたんだ。…キャラバンで買ってもらったのと、よく似てる……盗賊さんのは、すごく古いもののようだけど…」





76: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:27:32 ID:5Wy0/P9w

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「…うう……すごい、血が吹き出してくる…」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「盗賊さん……お願い、目を覚まして」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「ちゃんと名前を呼んでほしいけど……」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「少しくらいなら、いいですよ。クソアマって言っても」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「………だから、お願い……目を覚まして…」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「私…頑張りますから。もっと、盗賊さんが我慢しなくていいように…頑張ります、から…」

 ゴシゴシ  ゴシゴシ

僧侶「盗賊さん……」グスッ





77: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:28:46 ID:5Wy0/P9w

妖精長「………」

男妖精「報告は以上です。婆様、どう致しますか」

妖精長「…人間は憎い、それは私も同じです。しかし、私達は約束を守る。交わした約束は何よりも大事なもの。それが小さくとも大きくとも、等しく守らねばいけません」

妖精長「今が約束を果たす時ならば、それに従いましょう。けれど、これ以上の干渉は約束の内には入らない…このまま静観しなさい。ただし、彼の者が復活したならば、一度こちらに連れて来るのです」

男妖精「助からなかった場合は?」

妖精長「その時は死体を砂漠に投げなさい、共にいる者も同じく。そこまで関わる必要もなし……それから、里の出入口を閉じなさい」

男妖精「わかりました、婆様。そう致します」





78: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:29:58 ID:5Wy0/P9w

・・・


 「助けてくれてありがとう。このご恩は絶対に忘れないわ」


 「私達は何よりも約束を大切にし、守るの。だからお礼に、約束をしましょう」


 「この先、貴方達に危険が迫ったら…私達が必ず力になると、約束しましょう」


 「助けてくれてありがとう……約束は必ず守るから。例え貴方達が人間でも。私達は、このご恩を忘れないわ」


 「ありがとう。ありがとう……」


・・・





79: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 11:31:15 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………」ゴシゴシ

僧侶「………血が、出なくなった…あとは、回復薬を飲ませて……」

僧侶「盗賊さん…飲んで。回復薬ですよ…」

盗賊「………」ゴクッ

僧侶「…!良かった、飲んでくれた…!!す、少しずつ、ゆっくり飲ませよう…零れないように、少しずつ……全部、飲んで…」

盗賊「………」

盗賊「ゲホッ!!ゴホ、ゴホッ!」

僧侶「きゃ!ご、めんなさい、大丈夫ですか!?」

盗賊「………」

僧侶「…盗賊さん……盗賊さん…」

僧侶「………お願い…お願い、目を覚まして……」

盗賊「………」

僧侶「お願いぃ……!」

ガチャ

女妖精「………」





80: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:47:21 ID:5Wy0/P9w

僧侶「盗賊さん…回復薬、ちょっと吐き出しちゃった…です、…目を開けてくれません……」

女妖精「………」

僧侶「…お願……お願い、お願いします、もう少し、薬を分けてもらえませんか…」

僧侶「また、飲ませますから……上手に飲ませますから、わ、私がへたくそだったから、いけなかったの。殴られてもいいです、でも盗賊さんには治ってほしい」

僧侶「お願いします…薬を、分けて…ください…!」

女妖精「薬はもう必要ない。峠は越えたのだから」

僧侶「………え?」

女妖精「息遣いを聞け。微弱故に聞こえないか?大変穏やかなものになっている」

女妖精「この男、毒以外にも、ろくに睡眠を取らなかったり、砂漠でも水を飲まなかったりしたのだろう。衰弱していたのも、毒の回りを加速させた原因だ」





81: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:48:37 ID:5Wy0/P9w

女妖精「里から出たら、栄養のあるものを沢山食べて力をつければよい」

僧侶「………!!」

女妖精「一昼夜、一時も絶えず休まず、よく頑張ったな、お前も。……少し見直したよ、人間」ニコ

僧侶「は、はい…!ありがとうございます、本当に、ありがとう…っ!!盗賊さん、盗賊さん……ううう、良かった…良かったあぁ…!」

女妖精「………」ジャラ

女妖精「(…この、古ぼけたロザリオ…)」

女妖精「………」

盗賊「……ぐがー…ぐがー……」

僧侶「あっ…い、いびき。ふふふ…そういえば、盗賊さんが寝ているところ、私はじめて見るや…いっつも、私が先に寝ちゃってたから…」

僧侶「…私、自覚足りていなかった。ごめんなさい、盗賊さん…いっぱい迷惑かけて、ごめんなさい…」





82: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:49:32 ID:5Wy0/P9w

女妖精「婆様が呼んでいる。お前は婆様に会うんだ、行け」

僧侶「…い、今は…盗賊さんの傍にいさせてください…」

女妖精「婆様との謁見の間だけ、この男は私が看ている。行け。婆様の元へ。行かねば2人とも、即刻、里から出ていってもらうぞ」

僧侶「うう……」ガタ

男妖精「婆様の元へは私が案内する。ついてこい」

僧侶「盗賊さんのこと、どうかよろしくお願いします…」バタン


男妖精「謁見の間、無駄口を叩くことは許さない。婆様が問いを向けた時だけ口を開け。わかったな」

僧侶「は、はい」

男妖精「婆様に何かしようとしたら、即座に貴様を殺す。それも肝に命じろ。……この部屋に婆様はいらっしゃる。くれぐれも粗相のないように」ギィ…





83: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:50:28 ID:5Wy0/P9w

男妖精「婆様。人間の女を連れて参りました」

妖精長「ご苦労様です」

僧侶「(婆様、なんて呼ばれているから、おばあちゃんを想像していたけど)」

僧侶「(すごい、若くて綺麗な人じゃないですか…?)」

妖精長「…ありがとう。妖精族は、長い時を過ごすもの。それ故に、外見も変化に時間がかかるのです」

僧侶「!?」

妖精長「ですが、私はこの里で一番の長寿。故に皆は、長、婆様、と私を呼ぶ。それだけのこと。長い時を過ごしたことで…人の心も少しですが、読めるのですよ」

僧侶「(び、びっくりしました…)」

妖精長「そう、私は…長い時を過ごしてきた。故に、外見に変化が表れた、…この目はもう光を映さない。記憶の中でしか、私の知る緑豊かな里を見られない…」





84: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:51:22 ID:5Wy0/P9w

妖精長「そこにいる男妖精、彼をはじめとした若い妖精達が、まだ生まれたばかりの頃。この里は人間によって滅ぼされました」

妖精長「大人以上に、子供は傷つく。純粋が故に脆く、ついた傷は深くなる。彼らが何故、人間を酷く憎むか…覚えていてほしいのです。わかれとは言わない、けれど…覚えていてほしい」

僧侶「………はい」

妖精長「森を焼かれた時、大半の妖精は他の土地に逃げました。この滅びの里に残るものは、皆、里を、故郷を惜しむ亡霊達です」

妖精長「私達は、この里と共に…滅ぶことを選びました」

妖精長「…人間の少女よ。貴方は、人間は、何故争うのですか?聞かせてください。何故、戦うのですか」





85: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:52:11 ID:5Wy0/P9w

僧侶「………」

僧侶「…私も、……痛いこととか、怖いこととか…嫌いです、いやです」

僧侶「戦争だって…起きないほうがいいって思います」

僧侶「でも……私も、人間誰しも…我儘だから。誰かを守りたくて、自分を守りたくて、戦うんだと…思います」

僧侶「だからって、争ったり、他のものを傷つけていい理由になんかならないです」

僧侶「大事なものを守る為に立ち上がる、それ以外で争うことのないように…そうする為に、私達は……勇者様は、旅に出たんです」

僧侶「…私、落ちこぼれで…回復魔法が使えなくて。守るどころか、傷つけてばっかりで、すごく、すごく……情けない」

僧侶「そんな自分が嫌だから…変わりたいから…私は、戦います…」





86: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:53:05 ID:5Wy0/P9w

妖精長「…人間はエゴの塊。それは昔から変わらない…」

僧侶「………」

妖精長「……そして、私達も…そうなのでしょうね」

妖精長「少女よ。回復魔法が使えないと言いましたね」

僧侶「は、はい」

妖精長「魔法とは、誰しも使えるものではありません。攻撃魔法は知識の象徴です。膨大な知識を得て、経験を使い、媒介を通して産み出すものです」

妖精長「そして、回復魔法とは……祈りの力が源となります」

僧侶「……祈り…」

妖精長「神に、己に、癒したい相手に。祈り、自覚し、捧げる…癒したいと願う、強い心の力を。それが傷を癒す奇跡を生むのです」

妖精長「貴方に足りないものはなんですか?それを知った時、気づいた時…その時こそ起きるでしょう、奇跡が」

僧侶「………」





87: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:54:06 ID:5Wy0/P9w

妖精長「人間の男は、明日にも目覚めるでしょう。今日はこの里で休みなさい。男が目覚めたら、ここを出て行くのです」

妖精長「私達は約束を果たしました。もう、悔いはない……さようなら、人間の少女よ。二度会う事は決してない、私達は蜃気楼と共に揺らぐ、滅びの里の民。行きなさい、貴方達の進むべき道へ戻るのです」

僧侶「………」

僧侶「……ありがとう、ございました…長様…」

男妖精「失礼しました、婆様」

バタン

妖精長「………」

妖精長「……これで…悔いは、思い残すことは…ない……。……昔も、今も…変わらないね。フフ……懐かしい…な……」





88: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:54:58 ID:5Wy0/P9w

男妖精「婆様が仰ることだ。今日は泊まっていけ。貴様らが乗っていた馬も繋いで癒してある、彼に砂漠の出口まで連れていってもらうといい」

女妖精「男の容態も安定し落ち着いている。この調子なら明日には完全回復を果たすだろう」

僧侶「何から何まで、ありがとうございました…」

男妖精「勘違いするな。婆様が仰ることだからだ。馬に罪はないからだ。貴様らの為ではない」

女妖精「我々は人間を憎んでいる。それを忘れるな、礼を言われる筋合いはない」

僧侶「…ふふ。それでも…ありがとうございます」

男妖精「見送りはしない。我々は里の出入口を閉じるのに忙しい。日が昇ったらすぐにも出ていけ」ガチャ

女妖精「次はない。二度会う事もない。さようなら人間、せいぜい長生きできるよう努めるがいい」バタン

僧侶「…はい。私達は必ず魔王を倒して…世界を平和にします。この砂漠に再び緑が蘇るよう…頑張りたいな」





89: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:55:52 ID:5Wy0/P9w

僧侶「…ふうっ、落ち着いて、安心したら……なんだかすごく眠くなってきた…疲れがドッと出た感じだなあ…」

僧侶「ベッド……ひとつしかない…もういいや、盗賊さん、一緒に寝ましょう…」ドサ

僧侶「………」

僧侶「…マントと一緒だ、盗賊さんの匂い……でも、あったかさは…マントと比べ物にならない……」

僧侶「すごく、落ち着くなあ……」

僧侶「………」

僧侶「盗賊さんの、心臓の音…ドキドキ、聞こえる……良かった…本当に………良かっ…」

僧侶「………」

僧侶「………」

僧侶「………すぅ…すぅ……」





90: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 14:57:49 ID:5Wy0/P9w

盗賊「………」

盗賊「………んが……、………」

盗賊「……!?な、んだ?どこだ、ここ。砂漠じゃねーぞ。……ちょっ、何故クソアマが俺とベッドに!?」

盗賊「ふ、服……どこだ?まさか、こんな小便臭いガキに、まさか!?…い、いや……無い無い。有り得ない。落ち着け俺、そんなわけじゃない」

盗賊「クソアマは……服、きっちり着ているしな。俺だって下着もズボンもちゃんと履いてんだ、だ…だから大丈夫……だろ?大丈夫だよな、誰か教えてくれ…!!」

 盗賊は こんらんしている!

盗賊「なんか、やたらスッキリ晴れ晴れとした気分だしよ……あちこち痛かったのが嘘みてーにどっか無くなっちまったし…力が沸いてくるような……だから違……いや、確かに最近ご無沙汰だったけどよ…まさか…」

盗賊「………夢だ。これは夢だな、悪夢だ。ハハハ…寝直せ俺、早く目覚めろ俺、これはただの夢なんだ……」

 盗賊は 現実から 逃げ出した!





93:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/04(土) 20:18:17 id:tW3KJy0o

ウザい僧侶が一周回って可愛く見えてきた





96: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:01:28 ID:5Wy0/P9w

~砂漠~

僧侶「本当に蜃気楼そのもの。あんなに深い森が一瞬で消えちゃった…」

盗賊「………」

僧侶「元気になって良かったですよう、盗賊さん~!妖精さん達には本当に、感謝してもしきれないくらいです……もう無茶しないでくださいね?約束ですよ!」

盗賊「お前が言うな!」ゴンッ

僧侶「痛い!!なんでぶたれるんですか、なんでなんで~!!?」

盗賊「傷が治っても寿命は縮んだぜ……いいかクソアマ、次にベッドがひとつっきゃ無いなら、テメーは床で寝ろ!わかったか!!」

僧侶「それは!ひっひどいですよぅ!盗賊さん!!」

盗賊「うるせえ!!」

盗賊「………まあ、その。悪かった、な…、手当てしてくれて、……ありがとよ」ボソボソ

僧侶「はい?何か言いましたか?盗賊さん」

盗賊「~~ッッッ、うるせえっ!!」ゴン! ゴン!

僧侶「痛い!痛い!?まさかの2連発!?」





97: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:02:39 ID:5Wy0/P9w

盗賊「おらぁぁぁ邪魔だ邪魔だ!!退けェェッ!!」ズバ ドス

魔物「ギャァアア!!」

盗賊「ヒャハハハ!!死にたくなかったら砂に埋もれてろ、魔物どもぉぉぉ!!」

僧侶「あわわわわ……と、盗賊さん、なんかキャラ変わってませんか~ッ!?」

盗賊「妖精の薬って大したもんだな、次から次へと力が沸いてくるんだよ。なーんか攻撃力が二倍になっているような感じでよぉ~?今なら砂漠の魔物を一掃できそうだぜ!」

盗賊「毒が抜けたから腕を振っても痛くねーしな!つーかテメーは黙って手綱握ってろ!!」

僧侶「めちゃくちゃ好戦的ですぅ!!?誰この人!?」

魔物「キシャー!!」

盗賊「魔法なんざ撃たせるかよ!!」ズバァッ

僧侶「は、早っ!盗賊さん、すごい素早い!!出てきた瞬間、魔物真っ二つです…!?」

盗賊「ギャハハハハ!!」

僧侶「こ、怖い!盗賊さんが怖いよー!!よっ妖精さん、なんて薬出してくれたんですか、これ~っ!?」





98: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:03:47 ID:5Wy0/P9w

~砂漠の出口~

馬屋「お?兄さんの馬がこっちまで来るのは珍しいな。道中大変でしたでしょ。お疲れさま、旅の人」

盗賊「兄さん?向こう側にいた馬屋と兄弟なのか、あんた」

馬屋「ああ、そうさ。いつもは砂漠の中央にある、砂漠の国で引き返してくるからね…兄さんの馬が真っ直ぐここまで来るのは本当に珍しいんだ」

馬屋「やっぱりあの噂は本当だったんだなあ…砂漠の国が戦争を起こす、って。他のお客もほとんど引き返して来るしさ。こりゃウチもそろそろ避難すべきかな…」

僧侶「本当、砂漠の国が封鎖されていたから、ひどい目にあいましたね…」

盗賊「そうかあ?俺は結果的にラッキーって感じだったがな。まだまだ力がみなぎっているしよ」

僧侶「ひいぃ」ガクブル

馬屋「じゃあ、この砂馬はウチが預かるよ。ちなみにここは宿屋も兼ねているんだ、休んでいくかい?」





99: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:05:06 ID:5Wy0/P9w

盗賊「どうすっかな…まだ日も高ェし、距離によっちゃあ水と食糧を補充して、このまま進むのもいいが…」

僧侶「あのう。勇者様はどちらに向かわれましたか?」

馬屋「勇者様?いや、どちらも何も、いらしてないよ、そんなお方は」

僧侶「あれえ!?」

盗賊「……どういうこった、まさか追い越しちまったのか?じゃあここで待っていれば、ついに勇者と合流できる…!?」

馬屋「なんの話だい?」

僧侶「あの…私達、勇者様の仲間だと、神託を受けたものなのです…でも、勇者様とすれ違ってしまって…そ、それで今、勇者様を追いかけているんです」

盗賊「最後の消息が、あんたの兄貴から聞いた情報でな。砂漠の国に入った、と。だがここに来ていないって事は、まだそこに居るって事でもあるんだろ?」

馬屋「ふうん…まあ、確かにこの砂漠を渡るには、徒歩か砂馬かだけど…」





100: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:06:00 ID:5Wy0/P9w

馬屋「だけどホラ、今、砂漠の国は戦争を考えているだろ?余所者にはすごく厳しいんだ、もしかして捕まっていたりしたら、出てくるまでにすごく時間がかかるだろうし」

僧侶「あわわ……勇者様…」

馬屋「それに、戦争となると砂漠を渡る方法は地上だけじゃなくなるからなあ。砂漠の国は有事の際に気球を出すから。それを使っている可能性もあるよ?」

盗賊「気球?気球って何だ?」

馬屋「ほら。空を見上げてごらんよ」

盗賊「……?なん、だ?ありゃあ…鳥にしちゃ変な形だ」

僧侶「太陽が眩しくて、よく見えないけど…なんだか丸いものが、いくつも空に浮かんでますね…」

馬屋「なんで空を飛べるのか、作りはわからないけど、ああいう空を飛ぶものなんだよね、気球って。あれには砂漠の国の兵士が乗っているんだ。今丁度演習中なんだろうね」





101: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:07:10 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あんな便利なもんがあるのかよ。あれを使えば熱い砂に苦労しなくてもいいじゃねーか」

馬屋「悪い方向に考えると、砂漠の国に捕まっているか…勇者様っていうくらいだから腕は立つんだろうし、もしかして戦争に駆り出されているかもしれない」

馬屋「勿論、いい方向に考えて、ここで待っていれば合流できるかも、だけどね」

盗賊「う~む。でけェ博打だな……砂漠の国に入れりゃ一番確実なんだが…」

僧侶「でも、あの門番さん達は絶対、中に入れてくれないですよね…」

馬屋「金を払ってくれればいくらでも泊めるよ、と言いたいところだけど…命あっての物種と言うしな。ウチもしばらくしたらここを引き上げて、兄さんと一緒に避難するからね」

盗賊「…ここから旅人が出発するとして、よく目指す場所の見当はつくか?」





102: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:08:19 ID:5Wy0/P9w

馬屋「そうだなあ、いくつか小さな村があるけど……やっぱり一番は、カジノの街じゃないかな?」

盗賊「カジノ!?」ピクッ

馬屋「ああ、通称眠らない街。世界一大きなカジノや劇場、酒場のある街さ。一攫千金を夢見る人間が沢山集うんだよ。砂漠の国からもそこを目指す人は多いし、港もあるから余所の国からわざわざ遊びに来る人までいるんだ」

盗賊「よーし行き先決定!!カジノの街へ行こう!!」

僧侶「ええええ!?ちょっと、盗賊さん!勇者様はどうするんですか!?」

盗賊「知るか!いや違う、それだけ有名な街なら、勇者も立ち寄るんじゃねーか?どうせ待つならどこも同じ、なら楽しい場所で待っていた方が断然いいだろ!?もしかしたら博打で一山当てて大金持ちになれるかもしれねーしよ!?」

僧侶「本音だだ漏れですう!!?わっ私は反対ですよ!賭け事なんて、神様に叱られますよう!!」

 


103: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:11:10 ID:5Wy0/P9w

盗賊「クソアマ……」グッ

僧侶「はぇ!?ななな、ななななんですか、肩なんか掴んで……そ、そんな真面目な顔しても、ダメダメ!ダメですからねっ」

盗賊「俺を信じろ、クソアマ。勇者だってそうさ、今まで無双って勢いで活躍していたじゃねーか…もし戦争に巻き込まれていても、あいつならきっと無事だ」

僧侶「あの、それとこれとは、話が別…」

盗賊「なあクソアマ。俺達すげー頑張ったよな?今まで頑張ってきたよ、本来表舞台に立つ事のねえ俺が、回復魔法の使えねー役立たずでトラブルメーカーで本ッ当どうしようもねぇクソ以下のクソアマが、ここまでよく頑張ったよ、マジで」

僧侶「私の事だけめちゃくちゃ辛辣ですう!?」

盗賊「頑張った自分への褒美ってやつだよ、コレはよ……いざ行かん、カジノの街!博打の女神が股開いて誘ってやがんだよ、俺を!淫乱女が!可愛がってやるぜー!!」

僧侶「封印しやがれですよ、そんな神様!!」





104: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:12:50 ID:5Wy0/P9w

~カジノの街~

僧侶「ううう…こんな事している場合じゃないのにぃ……」

盗賊「あああ!すげー輝いてやがるな!!このネオンの光は世界一美しいわ!テンション上がるーっ!!」

僧侶「もー!もーっ!!忘れないでくださいね、盗賊さん!?勇者様と合流が最大の目的ですからね!?」

盗賊「はいはい、わかってるわかってる。すっごいわかってる超わかってる誰よりもわかってる」

僧侶「あんまり適当に返事してると、このメイスで神罰を下しますよ!」

盗賊「まずは砂漠の魔物や道すがら得た収穫物を換金だ。それから宿を確保して……カジノに劇場に酒場ぁーっ!!みなぎってきたぜェー!!」

僧侶「神罰ーっ!!」ブンブンッ

盗賊「久し振りに旨い飯も食いたいしよ~たっぷり稼がねーとなっ」ヒョイヒョイ

僧侶「ああん、もう!治すんじゃなかったです、こんな罰当たりな人~っ!!」





105: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/04(土) 23:13:45 ID:5Wy0/P9w

僧侶「うーっ、カジノってすごいうるさい……み、耳が壊れそう、です」

盗賊「お前の口の方がうるせーよ。いつもギャーギャー騒いでんじゃねーか。つーか、なんでついて来るんだよ?宿屋で寝てろよ」

僧侶「私の第六感が告げるんです!盗賊さんを一人にしたら魔物に食べられちゃう、と…金食い虫って魔物に!」

盗賊「まったく信用ならねーな。っと、姉ちゃん、この金を全部コインに替えてくれ」

バニー「はぁ~い、醒めない夢を堪能していってね!」ジャラジャラ

僧侶「あわわわわ……な、なんですか、あの破廉恥な衣装の人!?おっぱいでかっ!!おっぱいでかっ!!?」

盗賊「あれじゃね?触れば御利益あるかもよ。てめーの洗濯板も大きくなったりして…」

僧侶「」ムニュムニュムニュ

バニー「いやんっ何をしているの、お嬢ちゃん?」

盗賊「冗談だったんだが」





106:以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/04(土) 23:23:47 id:EGeL92DA

切実な悩みだったんだな…僧侶





108: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:06:06 ID:5Wy0/P9w

僧侶「ありえない…ありえない……何あのでっかいの…」

盗賊「まさかお前を羨ましく思う日が来るとは。さて…何から遊ぶかねぇ」

僧侶「あんまり長居しないでくださいよ?大事な旅の資金なのに、ほとんどコインにしちゃうなんて…信じられないですう…!」

盗賊「ったく、うるせえな。ほら、少しコインをやるから、おとなしく遊んでいろよ」

僧侶「わっ私は賭け事なんて…!」

盗賊「いいから、いいから。やってみたらハマるって、お前も。ほら、そのスロットなんかいいんじゃねーか?レバー倒してボタン押すだけだし、簡単だろ。バカなお前でもできるさ」

僧侶「酷っ!?うう…勇者様~!助けてぇー!」

盗賊「ここに描いてある絵柄が揃ったら当たりだ。俺は向こうのポーカー台で遊んでっからよ、コインが無くなったら、俺のところに来るか、宿屋に帰るなりしろよ。じゃーなー」

僧侶「あっ、と、盗賊さん…!行っちゃった……」





109: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:07:26 ID:5Wy0/P9w

僧侶「もうっ!しょうがない…勿体無いから使うだけ使って、宿屋に帰ろう…」

僧侶「えっ、と。絵柄を揃えるんだっけ…?あ、スライムさんの絵もあるんだ、可愛い~。温泉スライムさんと衛兵さん、元気にしてるかなあ…」

僧侶「コインを入れて…レバーを倒して」ガシャンッ

僧侶「ボタンを押す…」ポチポチポチ

ピロリロリン!

僧侶「あ、絵柄揃った。…わ、わっ?コインが出てきちゃった!い、いいのかな…?」

僧侶「えと…今のはさくらんぼの絵が……と、とにかくコインを無くさなきゃ、宿屋に帰れない…」ガシャン ポチポチ…

僧侶「あう、今度は揃わなかった!一枚ずれてたら星の絵柄が揃ったのに~」

僧侶「………」ガシャン ポチポチ…

僧侶「………」ガシャン ポチポチ…





110: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:08:34 ID:5Wy0/P9w

遊び人「ひっく。…ん~?世も末だな……僧侶のガキんちょがカジノで遊んでるなんて」

遊び人「よぉ、お嬢~ちゃん。こんなところにいていいのかい?僧侶様は教会にいるべきじゃねーかぁ~?」

僧侶「し、静かにしてくださいよう!!集中が途切れるじゃないですかっ」

遊び人「うお、見かけによらず怖いな~。つーか、ダメダメ。この台はハズレ台だから。いくらやってもでかい当たりはこないぜ?」

僧侶「…そ、そうなんですか?」

遊び人「ほら、こっちの台にしなよ。内緒だぜ、この台はそこそこ当たる稼ぎ台なんだ……ひっく」

遊び人「情報代な、コイン少しもらうぜ」

僧侶「あっ、私のコイン……」

パンパカパーン!!

僧侶「!? 絵柄が揃った…わ、わ!?コインがいっぱい!!」

遊び人「ここで遊ぶと100枚なんてすぐ消えちまうけどなあ。この台でまず枚数増やして、ポーカーやレースに注ぎ込むのが常套手段ってやつなんだよ」





111: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:10:13 ID:5Wy0/P9w

パンパカパーン!!

僧侶「きゃーっ!きゃー!!スライムさんが揃いましたよ~!?」

遊び人「おー、やるじゃねーか、お嬢ちゃん。つーかよく黙々とスロットばかりできるなあ…飽きないの?」

僧侶「ううん、絵柄が揃うとすごく嬉しいです!コインがいっぱいになりました~!」

遊び人「はははっ、最初は鬼みたいな顔していたくせに、可愛いじゃねーか。よっし気に入った、一杯奢ってやろう!」

遊び人「バニーちゃ~ん、俺達に酒ちょうだい!このお嬢ちゃんにゃミルク多めにしてやってな」

僧侶「え!?私、お酒なんて……というか、私のコインですけど、それ!?」

遊び人「大丈夫だって、ほとんどミルクだからよ。酒なんかちょびっとしか入ってないよ、ちょびーっと!何事も経験だ、飲んでみなって!あ~旨い、タダ酒ほど旨いものはないね~」グビグビ

僧侶「も…もうぅ!なんだか盗賊さんがもう一人いるみたいです……」





112: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:11:29 ID:5Wy0/P9w

盗賊「…こっちはスリーカード。俺の勝ちだな、コインはもらうぜ」

ディーラー「おめでとうございます」ジャラジャラ

盗賊「はい、どうもごちそうさま、っと」

盗賊「(へへ、ヌルい相手だなぁチョロいもんだ…暫くこいつで稼ぐとするか)」

盗賊「よし、もう一戦いく………ぞっ?」ドンッ

盗賊「な、なんだ?誰だ……」

僧侶「盗~賊さん~、見ぃ~つけたぁ~」ゲフー

盗賊「な!?クソアマ!?何してやが……うわ、酒臭っ!!」

遊び人「やー、なんていうか……ごめんね、あんまりいい飲みっぷりだから…調子にのっちゃって」

盗賊「誰だ、テメー……っつーかクソアマ!離れろ、なに膝に座ってやがるっ!!」

僧侶「ん~……気持ちいいです~…」ギュー

遊び人「あ、これ。お嬢ちゃんが稼いだコインだ、渡しておくよ。元々この倍はあったんだが…半分は酒に消えちまった、いや本当ごめーんねっ!」





113: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:12:39 ID:5Wy0/P9w

盗賊「何してくれてんだ、テメー。…だが今のツキを捨ててたまるか。あとでクソアマもお前もブッ飛ばすからな!逃げんじゃねーぞ!?」

僧侶「んー…」スリスリ

遊び人「血の気の多い兄ちゃんだなぁ~。いいじゃん、おとなしい猫みたいになってんだしさー。大虎より子猫の方が断然いいでしょ?」

盗賊「るっせーな、黙ってろ!騒がれっとツキが逃げるだろうが!」

僧侶「ん~ふふふ」ポイポイ

盗賊「あっ!?てめっ、何してんだクソアマ!!勝手にカードを抜くな!」

ディーラー「お客様?いかがしますか、ゲームを下りますか?」

遊び人「あ、いやいや続けます、続けまーす。今切ったカードぶん、新しいのくださ~い」

盗賊「テメーらなあぁ……!」

遊び人「ほらほら兄ちゃん!青筋立てている暇なんかないよ~?集中集中!!」





114: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:13:30 ID:5Wy0/P9w

盗賊「絶対ブッ飛ばしてやる……ん?んん!?…ま…マジ?マジかよ!!」

遊び人「なに、なになに?どーしたの?」

盗賊「ふ、ふ、ふ……フルハウス来たぁぁぁぁ!!!」

遊び人「うおおおい!?」

僧侶「んー…うるさいぃ……」ギュウゥ

盗賊「よ、よしよし!!よしよし、よくやった、クソアマ!テメーがカード抜いたおかげだ、褒めてやる!!」ナデナデ

僧侶「うへへへへ~」デレデレ

遊び人「俺も褒めてちょ~うだいよー、ゲーム続行させたのは俺じゃん?酒!酒飲ませてくれよーっ」

盗賊「チッ、調子のいい野郎だな。まあいい、俺も喉が渇いたし休憩すっか。おいディーラー、今勝ったぶんのコインをくれ」

対戦者「……調子こいてんじゃねーぞ、コラァ!!」ドガッ!!

遊び人「うわっ!?」

ディーラー「お客様、乱暴は困ります!」

海賊(対戦者)「うるせえっ!テメー!イカサマしてんだろ、ブッ殺すぞクソガキ!!」





115: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:14:22 ID:5Wy0/P9w

盗賊「はあ?言いがかりはやめろよ、ちゃんとディーラーに配ってもらったカードで勝負してんじゃねーか」

僧侶「きゃははは、クソガキだって、クソガキ~クソアマとお揃い~」ケラケラ

遊び人「お、おい、兄ちゃん…よくよく見たら、こいつはヤバい相手だ……暴れ者の海賊集団の一人だ。関わるな、適当にゴマ擦って機嫌治そうぜ…」

盗賊「関係ねーよ。博打においてのイチャモンは白けんだよな、大体こいつ、雑魚も雑魚だぞ?見てりゃいいカードばんばん捨てたりしてよ、ルール自体わかってない素人じゃねー?」

海賊「こ、このガキ…!!」

遊び人「やめときなって、兄ちゃんさあ!」

海賊「ブッ殺す!!」シャキン

遊び人「ほらあぁ!短剣なんか隠し持ってるーっ!!」

盗賊「おい、このデカい荷物、ちょっと持っててくれ」





116: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:15:22 ID:5Wy0/P9w

僧侶「やー…盗賊さんじゃなきゃ、やーだー!」

盗賊「はいはい、おとなしくしていろっつーか、そいつに懐いてろよ、うざってェ」

遊び人「兄ちゃん!やめときなって!!危ないから!」

盗賊「こんな雑魚、暗黒街でうんざりするほど相手にしてきたんだよ」

海賊「クソガキがぁぁぁぁ!!」ドドドド

盗賊「こういうバカはな、大抵考えなしに突っ込んでくっから…まず避けて」ヒョイ

盗賊「足を引っかけ」ガッ

海賊「おうっ!?」ドタァッ

盗賊「転んだところにのし掛かり、腕を逆向きに捻り上げる」メキメキ

海賊「ぎゃああああ~!!?」ジタバタ

盗賊「…ほらな?はい、ご退~場~。あとは怖ェ黒服さんとランデブーしてきなァ」

僧侶「きゃー!きゃー!!盗賊さん、強~い!」

遊び人「何者なんだよ、兄ちゃんは……」





117: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 01:16:24 ID:5Wy0/P9w

盗賊「まあ色々あるんだが、表向き善良な一般人だ。おい、河岸を変えようぜ。白けちまったし」

遊び人「自分で善良とか言っちゃうの。まー俺は酒が飲めればいいけどさ……じゃあ隣の酒場に行こっか、劇場も併設されてんのよ?」

遊び人「今の時間だと、なかなか可愛い娘が揃ってんだよな~、……そう考えっと、お嬢ちゃんを酔い潰して正解かぁ。宿屋とか取ってないの?寝かせてきたら?」

僧侶「くー……すぴー……」

盗賊「行き来する時間が勿体無ェよ。こういうのはな、勢いが大事なんだ、勢いが。そいつ、一回寝たらなかなか起きないしよ。このまま行こうぜ」

遊び人「豪快なのかなんなのか…とりあえず、お嬢ちゃんは返しておくからねっ」

盗賊「返さなくていいっつーの、重てーなー、ったくクソアマが…」

僧侶「……すー……すー……」





122: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:24:09 ID:5Wy0/P9w

~酒場~

遊び人「うおおおーっ!踊り子ちゃーん!!こっち向いてー!あっあっ、見える、見える!もうちょい足上げろやぁ!!」

盗賊「旨い旨い旨い飯旨い」ガツガツムシャムシャ

遊び人「なあ、兄ちゃんはどの娘がいいよ?俺は右の娘かな~、あの太腿!たまんないねっ!」

盗賊「そうさなぁ~…あの真ん中とかなかなか。今にも乳がこぼれそうじゃねーか、ぶるんぶるん揺れちまって。あー挟んでもらいてー」

遊び人「あらっ、兄ちゃん巨乳派だったのかよ。そんなお嬢ちゃん連れてっから、俺はてっきり……」

盗賊「てっきりなんだよ。こいつはただのデケー荷物だ、バカが。あーぁ、ガキのお守りなんざ最悪だぜ…発散する隙が全くねーからよ~溜まる一方なんだよなー」

遊び人「心中お察しします、てなもんだ。なんでそこまでして、その子と一緒にいるんだよ?嫌々言うわりにゃ大事にしているように見えるんだけど」





123: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:25:08 ID:5Wy0/P9w

盗賊「あーっ、もううんざりだ。くだらねェ詮索が好きな奴が多いな……喰らえっ」

遊び人「そりゃなあ、冒険者とかパーティ組んでいるだけって感じじゃないし……痛っ!?ピーナッツが飛んできた!?」パチッ

僧侶「ふが、ふが…」

盗賊「こいつの鼻、武器になるかも」

遊び人「お嬢ちゃんの鼻にピーナッツ詰めて何やってんの、兄ちゃんは…」

盗賊「だが、残念なことにどちらもハズレだ。俺達は冒険者で、パーティ組んでいるだけ。あるものを追い探してんだが……なんだかなーこの街が楽しすぎっからよ~。もう旅なんざやめて、ここに定住したいぜ」

僧侶「だめですよぅ~!!ゆーしゃさまにあわなきゃあぁ~!!」ガバッ!

盗賊「!?」

遊び人「!?」

僧侶「むにゃむにゃ…すぴー……」

遊び人「ね、寝言…か?」

盗賊「鼻からピーナッツこぼしながら何をほざいてやがんだ、コイツ」





124: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:26:00 ID:5Wy0/P9w

遊び人「にしても…何?あんたら、勇者様を目指してんの?探してんの?」

盗賊「チッ…ここじゃあ、その事を忘れて遊んでいたかったのによ…」

遊び人「へえ、へえー。いやあ…若いっていいなぁオイ。そうかー勇者かあ……俺もなあ、昔は冒険だ魔王退治だなんて憧れて修行したりもしたなぁ~」

遊び人「海を渡った隣の大地にはさ?聖騎士の王国や、魔法文明の研究が盛んな街とかがあるんだよ。俺はそこの出身でね……賢者になる為の悟りの書を探したりもしたんだよな~」

遊び人「でもダメだった…見つからないし、才能ないし、一緒にいた親友が魔物に殺されたりもして……気がついたらこんな事になっていたなぁ……」

盗賊「………」

遊び人「親友は俺を庇って死んだんだ。俺がもっと、魔法を勉強していりゃ…助かったかもしれないのに」

遊び人「……そうだなあ…忘れていたよ。ずっと。嫌な事から目を背けて、逃げて、閉じこもって……忘れていた」





125: ◆uf0K1dqu8A:2013/05/05(日) 13:26:52 ID:5Wy0/P9w

遊び人「あいつは…教会での蘇生も間に合わなかった。遅すぎたんだ。何もかもが、遅すぎたんだ」

遊び人「兄ちゃんもさ?今は若いけど、でも、若いのは今だけだ。なんでもできるのは、今だけだから。それを忘れちゃあ、いけないよ。若いうちに、ひとつひとつの確認していかないと…」

遊び人「大事なもんを失って、取り返しがつかなくなる事がないように…失って初めて気づいて、でもその重さに堪えきれなくて逃げるなんて…ダメだ、それじゃダメなんだからね」

遊び人「……そうだなあ、思い出した…忘れちゃいけない事だったのになあ……」

盗賊「………」

遊び人「………」

遊び人「……いやいや、湿っぽくなったな!ごめんごめん!!酒が切れたんだな~これは、おーい、お姉ちゃーん!酒おかわりーっ!!」

盗賊「言っとくけどな……その金、俺が賭けに勝った金だぞ。なんなんだ、こいつはよ」

 

▼続き

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キモオタ 「よ....余命3ヶ月...?」

1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 17:34:42.91 id:cqRJgcJl0
あるところに、それはそれはブサ面でオタな男がいました。

絵に描いたような、キモオタでした。




 

2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 17:35:28.72 id:cqRJgcJl0
キモオタ (む....明るい....朝でござるか.....)

キモオタは昼夜が逆転しているので、朝に起きることは珍しいことでした。


キモオタ (こんな早くに起きたのは久しぶりでござるよ.....)

キモオタは、ベッドから起き上がり自分の部屋から出ました。

キモオタ(やれやれお腹が減ったでござ....)

突然、キモオタの胸に激痛が走りました。

キモオタ 「うぉ......!?」

キモオタはうずくまってしまいました。

キモオタ (ちょwwww痛いでござるwwwwwいたwwwwwいwwwwww)

しばらくうずくまっていると、キモオタの隣の部屋から妹が出てきました。

妹 「兄さん!?だ、大丈夫!??」


普通、キモオタの兄弟といえばキモオタを嫌がっているものです。

しかしこの妹は違いました。

この妹は兄であるキモオタの事が大好きでした。




3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 17:36:20.27 id:cqRJgcJl0
キモオタ「な....なんでもないでござるよwwww」

キモオタも、高校に入ってからキモオタになってしまった自分を慕ってくれる妹が大好きでした。

妹 「本当に大丈夫...?凄い苦しそうだったよ?」

キモオタ 「大丈夫wwww大丈夫でwwwござるよwwwwww」


キモオタは、この痛みを放っておくことにしました。

キモオタと妹が一階に降りると、母が朝御飯を作っている最中でした。

妹「おかーさん、おはよー」

母「あら?妹。おはよ?、もうちょっと寝ててもいいのにぃ。」

妹「兄さんが、さっきすごい苦しそうにしてたか......ん!」

キモオタは、妹の口を手でふさぎ

キモオタ「おはようございますwwww母上wwwww」

母「おはよ、キモオタ。今日はどうしたのこんな早くに。...ていうかさっき二階で凄い音しなかった??」

キモオタは、妹から手を離すと

キモオタ「我輩、少し体調が悪いようでござるwwwww」

母「あらあら、大丈夫なの??」

母はとても可愛い女性でした。
おっとりしていますが、キモオタと妹の二人を女手一つで育て上げてきた強い母でした。




4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 17:37:03.85 id:cqRJgcJl0
ですから、キモオタは自分を毛嫌いせず寧ろ好意をもって接してくれることが唯一の幸せでした。

キモオタ(.....母上を心配させることはご法度でござるなwwwww)

キモオタ「少しめまいがして派手に転んじまった次第ですwwwwwww」

母「おっちょこちょいなところは、いつまでたっても治らないのねぇ。ふふっ」

妹「凄いんだよ、兄さん。立ち上がり方の早さがww」

しかし、幸せと同時にキモオタは良くしてくれる二人への申し訳なさが募っていました。




6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 17:43:52.05 id:QTulq+Y8o
出だしから涙がとまらない




7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 18:22:50.73 id:cqRJgcJl0
キモオタは、朝御飯を食べて部屋に戻りました。

キモオタ(うはwwww凛ちゃんかわええwwwww)

キモオタは、高校はどうにか卒業出来ましたが大学の入ってからというものの自堕落な生活が続き大学も進級が危うくなっていました。

キモオタ(凛ちゃん.....可愛いなぁ.....)


キモオタの脳裏には、いつも母と妹の笑顔が焼き付いて離れませんでした。


キモオタ(....ごめんなさい.....みんな.....)

キモオタは、パソコンの電源を切ると横になりました。

キモオタ(なんで僕がこんななのに、二人は優しくしてくれるんだろう....)

愛されているはずなのに、何故かひとりぼっちな気がした。

キモオタ(こんなんだったら蔑んで離れて行ってくれたほうがいいんじゃないのか....)




9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 18:35:48.18 id:cqRJgcJl0
すると、母が扉をノックしました。

母「入るよ!」

母は、キモオタの部屋を掃除しにきました。

キモオタ「母上....」

母「ん?どうしたの?」

キモオタ「....いや、なんでもないでござるよwwwwwww」

母「?そう?変な子ね」

キモオタには聞けませんでした。

自分の事を本当に愛してくれているのか。

重荷ではないのかということを。

母が掃除を終えて部屋を出て行きました。

キモオタ(....しょうがないよな....しょうがない.....。僕はこういう生き方しか...出来ないんだから.....)

 


10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 18:56:53.44 id:cqRJgcJl0
夜になって、妹が帰宅しました。

妹「うぅ~、寒いねやっぱり!こんなに着込んでるのに凄い冷えるよー」

手袋を外しながら妹はそう言いました。

母「もうすぐ11月も終わるものねぇ。一年って早いわぁ」

母は美味しそうな焼魚を食卓に運んできました。

妹「あ、今日はハンバーグなんだ。」

母「そうよ?、お兄ちゃん好きだものねぇ」

キモオタ「そ、そうでござるなwwwwハンバーグだーwwwww高まるwwwww」

妹「高まるー!!」

母の作るハンバーグは絶品です。キモオタの一番好きな料理でした。

妹「おいしー。」

母「ふふっ、そう?ありがとん♪」

妹「何でこんな美味しいんだろうね?」

キモオタ「それはwwww母上の愛情がwwwwwつまっているからでござろうwwww」

母「あら、いいこといってくれるじゃない。」

妹「.....?兄さん?」

キモオタ「何でwwwwござるかwwww」

妹「全然食べてないよ....?」

キモオタのハンバーグはほんのひとかけらしか減っていませんでした。




11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 19:30:10.78 id:cqRJgcJl0
キモオタ「あぁー、我輩今日はお腹減ってないかもでござwwwww」

母「あらあら?、無理しちゃダメだよ?」

キモオタ「大丈夫でござるが、もう今日は寝るでおじゃるwwww」

妹「今日はゲーム手伝ってくれるって言ったのに?」

キモオタ「すまぬ。我輩、必ず舞い戻るのでなキリッ」

妹「いっつも楽しみにしてるんだからねー」

キモオタ「もちのろんwwwwではではwwwグンナイwwww」

キモオタは部屋に戻りました。

すると急に眠気が襲ってきました。

キモオタ(うわ....なんだこの感じ.....)


.........




12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 19:46:58.74 id:cqRJgcJl0
気がつくと、キモオタは真っ白な部屋の中にいました。

おいてある家具も、床も壁も白い部屋でした。

キモオタは上を見上げました。

白いとおもいきや、そこには宇宙が広がっていました。

暗く深い闇にビーズの粒をばらまいたように美しい宇宙が広がっていました。

よく見てみると、星はチカチカと輝いています。

キモオタ「ここは.....。」

死神「さぁてここはどこでしょう?」

キモオタ「全然わから.....うへ!?」

死神「おっと、君からの質問は一切無しだ。今から君に一方的に話させてもらう。」

キモオタ「....!?」

死神「私は死神だ。知ってるだろう?普通はフードをかぶった骸骨が大きい鎌を持っているのかな?悪いが、私にはそんな持ち合わせは無い。」

死神という人物はキモオタの背後に突然現れ、いっぺんにここまで話しました。

死神は、背の高い俗にいうイケメンな優男でした。

キモオタ「何でござるか急にwwww死神?wwww廚坊かお主はwwwwww」

死神「聞いてなかったのか?質問は一切無しだ。」

死神は、キモオタの発言を手で制すとまた話し始めました。

死神「だが、やることはよく知っているだろう?人の寿命を決めて、お迎えに行く。これが仕事だ。」

キモオタ(じゅ...寿命....??)




13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 20:01:48.82 id:cqRJgcJl0
死神「ま....だいたいわかったと思うが、かいつまんでいうと私が現れたという事は、つまり....君はもうすぐ死ぬって事だ。」

死神はキモオタを指差しそう言いました。

キモオタ「わ....我輩が....死ぬ...?」

死神「そう。君は三ヶ月後、死亡する予定だ。末期ガンでな。」

キモオタ「そんな....」

キモオタは気がつきました。

今朝の胸に感じた激痛。

あれはガンが発症したということでしょう。

死神「ただ、私はあくまで死を伝えにきただけだ。生きている間の君の余生には関与しない。無駄だとわかっていながら抗ガン剤治療に励むもよし。好きな事をするために時間を使うもよし。適当に使ってくれ」

死神はそれだけいうと、指を鳴らしました。



パチンッ.........




キモオタの頭にその音が響いて目の前がグニャグニャに歪みました。




14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 20:50:12.28 id:mADW6Sic0
キモオタ「......うわっ!?」

目を覚まし、周りを見渡すといつもの自分の部屋でした。

キモオタ「....はぁっ....はあっ.....」

キモオタは頭を抑えながら時計を確認しました。

もう翌日の4時頃でした。

キモオタ(さっきのはなんだったんだ....)


死神『君は三ヶ月後死ぬ。』




キモオタ「よ....余命3ヶ月...?」


キモオタは、死神のことは意外とすぐに飲み込めました。


人は、こういう説明できない事象が起きた時に急に冷静になる生き物です。

キモオタ「僕は....死ぬ......」

キモオタは、何故かその時家族の顔が思い浮かびました。


キモオタ「......あ。」


キモオタは、自分でも知らぬ間に一筋の涙を零しました。

キモオタ「何で......僕は泣いているんだろう.....」


そして夜が明けていきました




15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 21:13:23.59 id:mADW6Sic0
数日間、キモオタは考えていました。

本当に自分は死ぬのか。

死神のいう事は絶対なのか。

キモオタ(眠れない....)

キモオタは、あの日以来体の調子がとてもよく昼夜が逆転した生活も治るようになってきました。

キモオタは、部屋のカーテンを開けました。

キモオタの身体を包み込むような日光が部屋中に満ちました。

今日の空は快晴。窓を開けると冷たい空気が肌に張り付きました。

キモオタは、着替えると一階に降りました。

母「おはよう、最近起きるのが早いわねぇ」

母は、リビングでココアを飲んでいました。

キモオタ「母上www」

母「ん?」

キモオタ「我輩、大学にいってくるのじゃwwwwうぇwwww」

母「あらあら?、どうしたの??」

キモオタ「何となくwww何となくですwww」

母「そう?、頑張って?。」

キモオタは、荷物の入ったバッグを背負うとママチャリに乗って大学に向かいました。



キモオタ「ひさしぶりでござるな....」


キモオタは大学に着きました。

キモオタは入学後すぐにキモオタライフをエンジョイし始めたので、学内に知り合いはほとんどいませんでした。


一応とっている講義の部屋にいくと、

友人「よー!キモオタ!ひさしぶり!」

友人が少し驚いた顔をしつつ隣の席に座りました。

友人は、キモオタの数少ない知り合いの一人です。

友人はとてもイケメンでリア充でした。


そんな友人とは高校の時、キモオタが教科書を忘れた時に見せてもらっていた時、話してみると意外と馬が合うことがわかりました。




21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 22:07:56.62 id:mADW6Sic0
友人「心配したんだぞー!?なにやってたんだよ...。」

キモオタ「友人よ、我輩は風の吹くまま気の向くまま。気分でいきてゆかねばならんのだよwwww」

友人「相変わらずだなー、キモオタは。」

キモオタ「友人も相変わらずリア充しとるかねwwww」

友人「お前がいなきゃ面白くねーよ!」

キモオタ「ヌカポゥwwww」

友人はキモオタの事を本気で親友だと思っています。

キモオタも、そんな彼が好きでした。

話していると

女「あ!友人くんじゃん!」

女が友人に喋りかけました。

友人「おー、女か。紹介するわ。こおつはキモオタ。俺の高校の時からの友達。」

女「へ、へー、よろしくね!キモオタくん!」

女は、少しためらいがちに言いました。

キモオタ(あ.....この娘、僕の事気持ち悪いって思ってるな。)

キモオタは、女の態度をみてすぐにそう気づきました。




22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 22:36:40.80 id:mADW6Sic0
女「ねーねー、友人くん。隣座ってもいい?」

友人「ん?おぉ全然いいよ。」

そんなことをしているうちに講義は終わりました。

友人は、キモオタに言いました。

友人「なぁ、講義全部終わったらカラオケ行こうぜ!女と俺とキモオタで!」

キモオタ「.....」

キモオタは悩みました。

女が自分の事を気持ち悪がっているのに無理して行く必要があるのか。

しかし、断れば友人の機嫌をそこねてしまうかもしれない。

キモオタは

キモオタ「参るでござるよwwwww」

女とは無理だが、友人だったら、自分の人生を変えるきっかけがあるかもしれない。

そんな願いもキモオタにはあった。


友人「オッケー!じゃあ、学校終わったら店でよろ!」




23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 23:03:03.96 id:mADW6Sic0
カラオケ店にて

友人「また君ーにー恋してるー♪」

女「かっこイイぞー!友人くん!」

キモオタ(友人って坂本冬美歌うんだ....。ラッドとかだとおもってた....)

友人「久しぶりにカラオケ歌うとテンション上がるな。」

女「私が歌う?!」

女「予報はずれーの雨に打たれて....」

キモオタ(バンプ一発目から歌うのか!?)

友人「次はキモオタだぜ!」

キモオタ「おk」


キモオタは、何を歌うかも決めていないままマイクを握りました。

その時です。

キモオタの身体に例の異変が起きました


キモオタ「うっ.....いぎっ....」


身体中に激痛が走ります。

スイッチの入ったままのマイクは、床に落ちその衝撃でカラオケボックスの中に


ぼぉぉぉ.......


という音が響きました。

友人「お、おい...大丈夫か!?キモオタ!」

女「ちょ、ちょっと、何なの....?」

女は後ろでうろたえています。

キモオタ「だ、大丈夫でござる....少し外の空気を....」

フラフラになりながら、キモオタはボックスを出ました。

キモオタ「ふぅっ....ふぅっ......ぐっ.....」


カラオケを出ると、キモオタは地面に倒れました。

キモオタ「くそっ.....」


死神『三ヶ月後に死ぬ』


キモオタ「なんで僕なんだよ....」




28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/06(木) 23:48:04.14 id:YbHXcyF20
見たことのある光景でした。

数日前に一度見たあの部屋でした。

キモオタが探さなくても、死神はキモオタの目の前に座っていました。

死神「人間一度しか死ぬことはできない。そうは思わんかね、青年。」

死神は、表紙が真っ黒の本を読んでいます。

キモオタ「.....何で...」

死神「シェイクスピアの言葉だよ。意味がわかるか?」

キモオタ「.......」

死神「文字通りだ。何回も死なんのだよ。厄介なことだ。」

キモオタ「なんで.....僕なんだ....」

死神「一回しか死なないということは、一回しか生きれないということでもある。」

キモオタ「何で僕なんだ!」

死神「.....青年、何回言わせれば気が済む?質問は一切.....無しだ。相手のいうことにいちいち質問するのは愚かな証拠だ。」

キモオタ「僕を殺しにきたか。」

死神「勘違いするな、私は死神だ。そこらで人を刺して喜んでいるような坊やとは違うのさ。死期を宣告し、迎えにくる。死神はただそれだけ。」

キモオタ「僕の頭に入り込むな。」

死神「質問はしてないな...。少しは頭が回るようじゃないか。いいだろう。......死神は前にも言ったとおり、対象者の生へ干渉するつもりはない。」

キモオタ「.....」

死神「だが、対象者への助言は与えられる。」

死神は本を床に落としました。

本は白い床に吸い込まれて行きます。




29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 00:08:46.28 id:veYJoPPv0
死神「見てみろこれを。」

死神は、白い壁を指でなぞりながら歩いています。

そのうち、足を止めました。

死神「ここにヒビがはいっている。」

よく見てみると、確かに真っ白なところがほんのり黒ずみ割れているところがある。

死神「人の脆さはこういう部分に出る」

死神が、ノックの要領でコンコンと叩くと壁紙が剥がれた。

キモオタ「....この部屋の先はなさそうだな....」

死神「この部屋の先?この部屋がなにかわかっているのか?」

キモオタ「え....?今なんて.....」


キモオタの目の前は一気に暗くなった




33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 01:01:19.96 id:veYJoPPv0
雨が降っていました。

カラオケから出た時はまだ晴れていたはずでした。

キモオタは起き上がると、グラグラと揺れる視界に悪戦苦闘しながらボックスまで戻ってきました。

そして部屋に入ろうとした時です。

女「なんであんなブサイクと一緒にいるの!?」

女の荒げている声が聞こえました。

友人「はぁお前なにいってくれてんの?」

女「あんなやつくるなんて思わなかったの!友人くんが言うからしょうがないし誘っていいよっていったのに...!」

友人「マジで意味わかんねーんだけど。何だよ急に。」

女「私はあんなブサイクときたかったんじゃ無い!友人くんと来たかったの!.....友人くんが好きなの!」

女は涙を目に貯めながら思いの丈を友人に叫びました。



パンッ。




友人の手が女の頬を打ちました。

女「....なんで...?なんで私なの...?私が悪いの...?あのキモオタが雰囲気ぶち壊したんじゃん!」

友人「ちげーんだよ。」

女「え?」

友人「お前の方がブサイクだよ。あいつはなぁ.....」


キモオタは、ボックスの扉を開けました。


キモオタ「やめろおおお!!」

友人「....キモオタ.....?」

女「........っ」

キモオタ「もう....いいんだよ.....。僕のことで友人が苦しまなくて........。僕は......友人には幸せになってもらいたいんだよぉ.......!!」

友人「な、なぁキ....」



キモオタは、逃げました。

カラオケからダッシュで逃げました。

友人「おい!キモオタ!!待てよ!」

後ろからは友人が追いかけてきます。

キモオタは、運動が苦手なので友人にすぐ追いつかれそうになりました。

その時です。


周りを気にせずただ走っていたキモオタが車道に飛び出していたのです。

友人「キモオタ!戻って来い!車道だぞー!!」

キモオタには聞こえていません。

友人「死ぬぞー!キモオタアアアアアアアアア!!」

友人の叫びは届きませんでした。キモオタが車にはねられたのですから。




34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 01:34:43.65 id:veYJoPPv0
キモオタには何が起きたか全くわかりませんでした。

今しがた中型車に跳ね飛ばされたはずなのに、気づけばまた走っているのです。

友人「キモオター!戻って来い!車道だぞー!」

キモオタは立ち止まりました。

友人はキモオタのところまで追いつきました。

友人「はあっ....はあっ.....」

キモオタ「ぜぇ....ひゅー....」

雨は激しさを増していました。

キモオタ「.....そうか......僕は死なないんだな.....3ヶ月後まで.....」

そう。寿命を宣告された者は嫌でも3ヶ月は生きることを定められていたのでした。

キモオタ「.....」

キモオタは上を見上げました。


曇天です。暗い空から大粒の水滴が落ちてきます。

友人「馬鹿野郎.....!なんで逃げたんだ!」

キモオタは言い返します。

キモオタ「.....友人には...迷惑かけられないんだよ!」

友人はキモオタの胸ぐらを掴むと


友人「迷惑ってなんだよ!!」

と叫びます。

キモオタ「わかんないの!?僕はねぇ!高校の時いじめられてて.....辛くて.....でも友人と出会って.....バーっと楽しくおしゃべりしたり、朝まで飲めないお酒飲んだりして怒られたり!そんなことがすごい.....楽しかったんだよ!」

友人「それがなんだよ!」

キモオタ「ぼぐは.....憧れてたんだぞ!....いっつもクラスの中心でいっぱいみんなを笑わせて...」

友人「....」


キモオタ「だから!....君に嫌われたくなかったじ....君が僕のせいで.....がなじむ...ぐすっ.......がなじむ顏をみたくっ........みだくないんだよぉっ!!」

キモオタは、泣いていました。

雨粒のせいでわかりませんがでも、泣いていました。

友人「.....馬鹿だよ....なんで俺がお前のこと嫌いになんだよ....」

友人もないていました。

友人「俺たちは.....親友じゃねぇか.....」

キモオタ「ぐっ....うぇぇ.....ふぐっ.....」

友人「逃げなくたって...俺が受け止めるじゃねぇか.......」

友人「謝まんのは...こっちだよ。本当に悪いことした....」

友人はキモオタの体を抱き寄せました。


友人「俺たちは....友達だよ....。」



雨は、いつまでも降り続いていました。




35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 01:54:21.94 id:veYJoPPv0
町にイルミネーションが輝き出しました。

夜は様々な種類の光が自分が一番だと言わんばかりに輝いていました。


キモオタは、友人に借りたゲームの攻略本と料理の本をリュックサックにいれてママチャリを走らせていました。

キモオタは冬の匂いがそこそこ好きでした。

朝と夜の匂い、どちらも気に入っていました。

家に着くと、妹が出迎えてくれました。

妹「おっかえりー兄さん。どう?新しく買ったんだー」

妹は可愛いセーターを見せびらかすようにくるっと回りました。

キモオタ「あぁ....可愛いんじゃ...ごほっ。」

妹「でしょ...ねぇ。」

キモオタ「ん?どうしたん?」

妹「兄さん...最近良く咳き込むよね...。

キモオタ「そうかな...風邪でも引いたかもな。」

リビングにはいると、シチューのいい匂いがしました。

キモオタ「母上ー。ただいま。」

母「お兄さん帰ったの??今日はシチューよ?。」

キモオタ「美味しそうだね。出来たら呼んでくれる?2階にいるから。」

母「........うん。」

キモオタ「...ん?どうかした?」


母「何にも...」

キモオタ「...あ、そう。」

キモオタが二階に上がると妹が母にいいました

妹「ねぇ。最近兄さん咳多くない?」

母「というか....一ヶ月くらい前から様子がおかしいわぁ。普通の言葉遣いになってるし、食も細くなってちょっとやつれてない?」

妹「.....何か病気になってるなんてことは....」

母「深く考えすぎかしら....」




38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 08:09:59.74 id:YTHPvCCDO
キモオタ殿、家族、友殿には幸せになってほしいでござるよ……




39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 08:42:03.91 id:qNu0482L0
キモオタは少し痩せました。

部屋に戻ると、キモオタは激しく咳き込みました。

キモオタ「ぐふっ...げほっげほっ!」


口を手で抑えきれないほど激しい咳です。

キモオタ「がはっ......ぐふっぐふっ....ぶっ!」

床に赤黒いものがパタパタっと落ちました。


血です。


キモオタの体は、そこそこ弱ってきました。


キモオタ「......ふっ....ふっ....」


12月に入ってからは、咳が良く出るようになり、頻繁に吐血を繰り返すようになりました。


キモオタ「やっぱり.....死ぬんだな....僕。」

キモオタは、床の血をティッシュで拭き取るとベットに向かいました。


目を瞑ると、すぐにあのクラクラする感覚に襲われます。


キモオタ(あ....今日はあいつに会えるのか....」


死神「君、時というものは、 それぞれの人間によって、 それぞれの速さで走るものなのだよ。」


キモオタ「シェイクスピア.....」

死神「動物は、一生の心臓の鼓動数は決まっている。マウスだろうが牛だろうがゾウだろうが変わらない。鼓動が早いマウスはすぐ死に、遅いゾウは長らく生きる。」

死神は、白い部屋を見渡した。

死神「君も例外ではない青年。君の時間は他の人間よりは少ない。だが、それでも青年の一生はあるのさ。」

白い部屋は前に比べてだいぶ黒ずんできました。

床も壁もひび割れがひどくなっているし、ベッドやタンスも墨汁をつけた筆を振るったように黒ずんでいる部分があります。

キモオタ「あと2ヶ月を切っているんだな。」

キモオタは椅子に座りました。

死神「中盤戦だな。これからどうするつもりなんだ?」

キモオタ「.,...考えていない.....。」


死神「生きてる期間はまだあるが自由に動き回れる時間は少ないぞ。」


キモオタ「あぁ....そうだね。」

死神「青年、君は死についてどう思う?」

キモオタ「....俺のウチは父親がいない。僕が小学生6年の時に白血病で死んだ。」

キモオタ「そんなに悲しくはなかった。でも、何となく寂しくはあった。母上はそんな姿は見せないし、妹はまだ生まれていなかったから」

キモオタ「死は、怖いものかどうかわからない。でもわからないから、怖いんだ。」

死神「君は、死に恐怖を感じているのか」




41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 09:10:58.73 id:qNu0482L0
キモオタ「わからない。でも選択は自分が決めるものだと思う。」


死神「なら、もうしばらく君の事をみさせてもらう。」


死神は例に洩れず、指を鳴らした。




パチンッ.......




キモオタは、リビングの自分のイスに座っていた。


妹「......ぇ、ねぇ!兄さんってば!」

妹が顔を近づけてキモオタを見ています。

キモオタ「ん....。」

キモオタはキッチンをみました。

母はまだシチューを作っています。

キモオタ「妹....。我輩帰ってきてからなにしてた...?」

妹「え、ずっとイスに座ってボーッとしてたよ?」

キモオタ(死神が、時間を巻き戻したのか。)

母「シチューできたわなう!」

母はお盆に三つの皿を持ってくると、それぞれのところに置きました。


シチューはとても美味しそうでした。


母「二人の好きなものパート2よ。」

妹「イエーイ!やったー高まるー!」


キモオタ「高まる。」



家族全員「「「いただきまーす」」」

妹「おいしーっ!」

キモオタ「母上の料理はミシュランでも格付けできないおw」

母「お兄さんも、美味しい料理作ってお母さんに食べさせてね?」

キモオタ「うんw.....勿論だよ....。」


スプーンを口に運びながら、母は聞きます。

母「二人ともクリスマスはどうするの?」

キモオタ「え、三人でクリスマスパーチーではないのかwwww」

母「いやぁ、二人とも年頃じゃない?色恋沙汰の一つや二つあったっていいじゃない♪」


キモオタ「我輩もちろんなにもないっす。」

キモオタはそう言いましたが、妹は少し言いずらそうな顔をしてそわそわしています。

母「妹ちゃんは?」

妹「えっと、全然そんなんじゃないけどちょっと男友達と買い物なの。




46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 10:04:42.81 id:GZZ41dt20
母「あらあら~、妹ちゃんにも春が来たのね~」

妹「違うの!男友達くんが誘ってきたから・・・・」

キモオタ「妹・・・。」

妹「・・・」

キモオタ「よかったではないか!」

妹「え・・・。」

キモオタ「妹も高校生であるからな!リア充すべきだwwwwwww」

妹「兄さん・・・」

キモオタ「母上はまだしも、我輩と共に過ごすよりはずっといい!」

キモオタ「リア充乙だわwwww」



妹「・・・・嫌い。」




キモオタ「え?」

キモオタが妹を見ると妹は、涙を浮かべながらキモオタを見ていました。



妹「兄さんなんて嫌い!!」



妹は、スプーンを置くと

妹「ごちそうさま。」

といって二階に上がってしまいました。

母「あらあら~。」

キモオタ「母上・・・我輩何か悪いことでも?」

母「・・・。」


キモオタ「妹の様子を見てくるのだ。」

キモオタは、シチューを平らげると二階に上がろうとしました。



母「ちょっと待って。」


母がそれを止めました。

 


48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 10:46:31.61 id:GZZ41dt20
母「ちょっとドライブしにいきましょう」

キモオタ「いやでも、妹が・・・」

母「仕度してきてね」

キモオタ「・・・」

キモオタは少し驚きました。

今まで自分がどんなに自堕落な生活を送ってきても笑顔で受け入れた母が


見たことの無いくらい真剣な顔をしているのです。


厚手のパーカーを羽織ると、キモオタは外に出ました。

キモオタ「うぉ・・・寒い・・・」

キモオタが帰ってきたときよりも気温は下がっていました。

空を見上げると、ちかちかと光る物があります。


キモオタ(・・・・なんだ、飛行機か)


明かりの多い住宅街では、空を見上げても星は殆ど見えません。


母「おにいさーん、行くよ~」

母が、いつもの笑顔を浮かべて家から出てきました。

母「のってのって♪」

先ほどの、母の顔は一体何だったのかキモオタにはわかりませんでした。

キモオタ「ところで、どこにいくの?」

母「えへへ~、着くまでの秘密~」

母は、車のエンジンをかけました。




49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 11:01:19.74 id:GZZ41dt20
車窓に、オレンジ色の明かりが張り付いては解けて無くなってゆきます。

キモオタはそれをボーッと見ながら言いました。

キモオタ「母上と二人で出かけるなんてひさしぶりだな。」

母「そうねぇ。妹が生まれてからは、お母さん忙しかったからどこにも連れて行ってあげられなかったね。」

キモオタ「いいんだよwww母上のせいじゃないし。我が輩と妹を一人で養ってくれたんだから」

母「ふふっ。お兄さんは優しいのね」


キモオタは胸が痛みました。

心の痛みでした。


キモオタ「やさしくなんて・・・ないさ」

母「え?」

キモオタ「ん・・・・いやなんにもない」


そんな調子で車を三十分ほど走らせると、街灯の少ない場所にやってきました。

キモオタは、その場所が何処かよくわかりませんでした。

草原が広がっていて、奥の方には大きな茂みが見えます。


母「はい、とーちゃく!」

母とキモオタは、車から降りました


キモオタ「母上・・・ここは。」

母「もうすぐつくから、ほらっ、こっちこっち」

母は、走りながらキモオタを手招きします。

キモオタ「ちょ、母上急にどうしたwwww」


キモオタは母の後を追いかけていきました。

茂みの中を走っていきます。

草木をかき分けて、走っていると急に視界が開けました。




50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 11:22:22.28 id:GZZ41dt20
キモオタの眼前に広がったのは、満天の星空でした。

キモオタ「これは・・・・」

気まぐれな位置で、気まぐれに輝く星達が夜空一杯に広がっていました。



母「すっごいきれいでしょ?」



母は小さな丘の上に立っています。

キモオタは、母の所まで駆け寄りました。


母「寝転んでみるともっとすごいんだよ!」

母は草むらの上に寝転びました。

キモオタもそれをまねしました。


母「うわぁ~・・・すごいなぁ。やっぱり変わらないのね・・・。」


キモオタ「変わらない?」


二人は寝転んだまま会話をしました。


母「ここはねぇ、お父さんにプロポーズされた場所なんだ~」


キモオタ「父上に・・・?」

母「うん。お母さんもこの場所を知らなかったんだけど、ついてこいっていわれてさ」


母「お父さん、ガチガチに緊張しててね。満点の夜空の下で指輪を渡すんだって意気込んでたのに」


キモオタ「・・・知らなかったよ」


母「それからはここが思い出の場所になってねぇ、毎年結婚記念日にはここにきて二人で星を見てたわ~」


キモオタ「・・・」


母「なんで急にここに来たかわかる?」

キモオタは首を横に振りました。


母「じゃあ、妹ちゃんが怒った理由は?」

キモオタ「・・・我が輩が、男子との関係を冷やかしたと思われたからでは・・・?」

母「妹ちゃんは、そんなことじゃ怒らないの知ってるでしょ?」


キモオタ「・・・・」

母「妹ちゃんはね、お兄さんのことが大好きなの。」




51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 11:36:33.79 id:GZZ41dt20
キモオタ「・・・」

母「だから、お兄さんのことを馬鹿にされたり、貶されたりするのがあの子には我慢ならないんだよ」

母「学校で、お兄さんのことを馬鹿にされた日に泣いて帰ってきてた。」


キモオタ「それは・・・知らなかったよ」


母「でもね、それ以上にいやなことは」



母「お兄さんが、自分のことや家族のことをさげすんだりすることなの」



キモオタ『母上はまだしも、我輩と共に過ごすよりはずっといい!』



キモオタ「あ・・・」

キモオタは自分の愚かさを嘆きました。

いつも笑顔で、自分に接してくれる妹の存在を当たり前だと感じていた自分にも恥を感じました。



母「お母さんもね、妹ちゃんと一緒よ?」


母はキモオタの手を握りました。

母「あなたが、どんな道を歩んでも・・・私たちが家族であることに・・・変わりは無いの。」


キモオタは、母の方を見ました。


母は、笑顔のまま泣いていました。


母もこちらを見ました。


母「だから・・・・自分を卑下するのはやめて?・・・おとーさんに・・・うっ・・・か、顔向けできないでしょう?」


キモオタはあふれる涙を堪えきれませんでした




52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 11:42:27.38 id:GZZ41dt20
キモオタ「ごめんっ・・・・ごえ・・・ごめんね・・・・」


母は、キモオタを優しく抱きしめました。


母「偉くなれなんていわない・・・金持ちになれなんていわない・・・だから、家族は大事にして・・・」


キモオタは母の涙を見るのは、はじめてでした。


それと同時に、自分がひとりぼっちなんかじゃない。



それを知ったのもはじめてでした。




54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 11:52:10.03 id:YTHPvCCDO
母上萌




56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 12:46:55.02 id:GZZ41dt20
クリスマスの日


キモオタの住む町には雪が降っていました。

キモオタ「・・・ぐふっ・・・ごほっごほっ・・・ぷっ」


吐血の回数が増えていました。


キモオタ「はぁっ・・・はぁっ・・・」


キモオタ自身でも自分が衰弱しているのが手に取るようにわかりました。


キモオタ(あと一ヶ月ちょっと・・・くそ・・・)

キモオタは血をぬぐって部屋を出ました。



キモオタ(もう家族に隠しきるのも・・・・限界か・・・・)


下に降りようとしたとき、妹が二階に上がってきました。

妹「あ・・・」


キモオタ「・・・」


あの日から、キモオタと妹のやりとりは圧倒的に減りました。


あの夜、帰ってきてからは妹はキモオタのことを避けるようになりました。


キモオタ(・・・しょうがない・・・)



キモオタが一階に下りてゆくと、母がココアを飲んでいました。


母「あ、お兄さん。ココア飲む?」

キモオタ「うん。」


キモオタは、最近何も手に着きませんでした。

勉強もエロゲーもやる気が起きませんでした。


キモオタ「母上・・・・」


母「ん?どうしたの?」


キモオタ「・・・結局、妹は行くと?」


母「そうみたいねぇ。」


キモオタ「そうですか・・・」




57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 13:04:47.23 id:GZZ41dt20
母「あれから・・・・しゃべってないの?」


キモオタは無言で頷きました。


母「・・・そうだ。」


キモオタ「?」

母「クリスマスでしょ?」


キモオタ「・・・」



キモオタ「・・・・母上、ちょっと出かけてきます。」

キモオタはダウンをもって家を出て行きました。


家を出るとすぐに電話がかかってきました。


キモオタ「はい、もしもし」

友人『あ、キモオタ?おれおれ。今日だろ?」


キモオタ「うん。取りに行くわ。」

キモオタ「ゴホッ・・・・ゲホゲホ・・・」


友人『キモオタ?・・・大丈夫か?』

キモオタ「たいしたことないよ、とにかくいくわ」

友人『キモオタ。』

キモオタ「ん?」


友人『お前、変われたな』


キモオタは、頬をポリポリ掻きました

キモオタ「・・・うん。」


キモオタは電話を切り、ママチャリで走り出しました。



キモオタの家

母は、妹の部屋に入りました。


母「妹ちゃん。」

妹は、布団にくるまっていました。

妹「・・・・。」


母「お兄さん、外いったよ。」


妹「・・・うん。」




58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 13:11:55.89 id:GZZ41dt20
母「妹ちゃんは、出かけないの?」

妹「断ったよ・・・」


母「どうして?」

妹は、上半身だけ起こして母の方を向きました。




61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 15:28:19.49 ID:tK+8G1f60
妹「兄さんとあんな感じになっちゃったのに、遊びに行ったって楽しい訳ないよ...」


妹はしょげていました。


妹の隣に母は腰掛けました。


母「妹ちゃん。お兄さんに怒ったこと、後悔してるの?」


妹「....」


母「お兄さんはね?....今自分がおかれてる境遇にとても悩んでるの。」


母「自分が何をして、家族を支えていくのか必死で考えてる。」


母「高校の時とは大違いだと思わない?」

妹「私だって.....謝りたいよ...」

妹「怒鳴った時の兄さんの顔が忘れられないの....」


母「なら、なんで話さないの?」

妹「....兄さんが変わったからだよ。」




63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 15:42:22.15 ID:5RhE1YqF0
母「変わった...。」

妹「ずっと家でゲームしてて、大学中退しかかってたのに急に大学行き出したり」

妹「最近なんか料理もはじめたし...」

妹「ゲーム最近一緒にしてくれないし....」

妹「私が好きだった頃の兄さんが......どっか行っちゃう気がして....」


妹は泣きました。


妹は母似で性格までほとんどそっくりだったので、殆どなくことはありませんでした。


妹「うぐっ....うっ.....ぐじっ....」


母「妹ちゃん、あなたにはまだわからないかもしてないんだけど。人っていうのは、決意したら強いんだよ。お父さんもそうだった。」


妹「...ぐすっ....お父さん...?」

母「あなたはまだお腹の中。お兄さんは小学校6年生だった。その頃にお父さん白血病で死んじゃったの。」


母「お父さんってシャイな人でね。ふふっ思い出しただけでもおかしくなっちゃう事がいっぱいあった。」


母「お父さんは、お兄さんとそっくりでね。普段は全然頼りないの。お兄さんと違うところっていったら、体格ががっしりしてたところかしら?。」




64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 15:57:02.98 ID:5RhE1YqF0
母「...変わるのは悪いことじゃないの。どう変わるか選択する事がすごく大事。」

妹「......」


母「妹ちゃんも、もうちょっと大きくなったらわかるよ♪」




友人宅

友人「おう、キモオタ。」

キモオタ「お邪魔します。」

キモオタは、初めて友人のアパートに入りました。

キモオタ「結構綺麗にしてんだね。」

友人のアパートはお世辞にも広いとは言えませんが、家具がちょっと凝っていておしゃれでした。

友人「つっても、見せる相手もいないんだけどなw」

友人「何か飲むだろ?」

キモオタ「コーラある?」

友人「任せろ。」


キモオタは、友人がキッチンに行っている間暇でした。


キモオタ「・・・あれ?」

小物いれの上に、写真立てがありました。

キモオタ(・・・これ、友人と・・・誰だ?)

写真立てには、友人と女の人が二人で寄り添って写っていました。

友人も女の人も幸せそうでした。




65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 16:20:11.00 ID:5RhE1YqF0
友人「綺麗だろ?その子。」

キモオタ「うぉ、ビックリした!」

キモオタの後ろに、友人が三つのグラスを持って立っていました。

友人「俺の彼女。」

友人は、キモオタにコーラの入ったグラスを渡しました。

もう一つは自分の近くに


最後の一つは、小物いれの上。

写真立てと同じところにそっと起きました。

キモオタ「でも・・・友人に彼女なんていたっけ・・・」

友人は、確かにリア充でモテていましたが決して彼女と呼ぶような女性がいるとは聞いていません。

友人「あぁ、遠くに行っちゃったからなw暫く会えんのよ。」

キモオタは、コーラを一口飲むと言いました。

キモオタ「遠く?留学でもしてるってこと?」


友人「あー、違うなぁ。」


キモオタ「海外で働いてんの?」


友人「死んだんだよなぁ・・・」


キモオタ「え・・・。」


友人「小学校の時から幼馴染でさ。中学の時に付き合い始めたんだけど、去年死んじまったよ」


友人は笑っています。


キモオタには、無理して笑っているようにしか見えませんでした。


友人「凄いドラマみてーな話なんだけどさ、今日が命日なんだよ」

友人「だから、こうやってクリスマスを一緒に祝うことにしたんだ。」

友人は彼女のグラスと自分のグラスを触れ合わせました。恋人が軽いキスをするように。



チンッ




少し湿ったような音がなりました。


友人「キモオタ、ほれ。」

キモオタ「ん?おぉ。」

友人とキモオタもグラスを合わせました。




66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 16:33:10.80 ID:5RhE1YqF0
キモオタ「なぁ、友人。」

友人「ん?」


キモオタ「今でもこの人の事を好きなのか」


友人「あぁ、今でも愛してるよ。」


友人は遠い目をしていました。


友人「っと、そんなことはいいんだよ!本題だ本題!」


近くにあった引き出しから友人は一つの包装された小さい箱を出してきました。

キモオタ「悪い・・・僕、あんまり詳しくなくて。」

友人「いーよいーよ!俺だってあんまり知らんから女友達と選んだわww」

キモオタ「本当ありがと。」

キモオタは、コーラを飲み干すと立ち上がりました。


友人「お、もう行く?」

キモオタ「うん...げほっ....ぐふっぐふっ!」

友人「風邪か?」


キモオタ「部屋をあっためて寝ることにするよ。」


少し笑みを浮かべたキモオタは、箱を持ってアパートの扉を開けました。


友人「キモオタ!」


キモオタ「ん。」


友人「・・・うまくいくといいな!」


キモオタ「・・・・おう!」




67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 16:51:09.81 ID:5RhE1YqF0
キモオタがママチャリを押して、イルミネーションの中に消えて行くのを確認すると、友人は部屋の中に入りました。


友人「うーさぶっ」


リビングに戻ると、友人は思い立ったように部屋の明かりを消しました。


ピンクと青のキャンドルを立てると、そこに火をつけました。


火は友人とその周りをこうこうと照らしはじめます。

友人「寒いな?今日は!」

友人は、彼女にそう言いました。


彼女『そうね・・・』


友人「お前がいなくなって一年だよ。」


彼女『あら?さみしいの?』

友人「今日だってキモオタが来てくれたんだ。さみしくなんかないんだ。」


彼女『いい・・・お友達だね』


友人「親友だよ、あいつは。」


彼女『ねぇ、新しい恋始めないの?』

友人「でも・・・お前を忘れるのは無理なんだよ」


彼女『あなたが忘れても私化けて出たりしないよ?』

友人「化けてでも・・出て欲しいなぁ。」

友人の目が潤みました。

友人「みんな・・・何かを抱えて生きてる。」

彼女『・・・』


友人「俺は・・・お前を抱えて生きていくよ。」


友人「メリークリスマス。」



その日は、やけに夜景がぼやけて見えました。




68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 18:49:04.66 id:ktw0FgvAO
妹がお腹の中にいた時にキモヲタが小6だと、年齢差が12歳になってしまう
現在キモヲタが大学生(18~22)だから、妹は小学生ってことになるぞ?




69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 19:00:41.37 id:h8HaC09o0
>>68

うわ、マジだ。

すみません。

じゃあ、キモオタ2歳ってことで。

物語に破綻は出ないはず・・・。




71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 19:51:33.54 ID:0K9fW+sr0
キモオタの家


母「で、どうするの?」

妹「・・・兄さん、どこにいったの?」

母「うーん、どこだろうねぇ?。」

母「家出る時に電話かけてた気がするんだけど・・・」

妹「電話・・・ってことは友人さんの家かも」

妹は、靴を履くと


妹「ちょっといってきます」

妹は雪の中を駆け出した。



キモオタ「がはっ・・・うっぐ・・・はぁはぁ」

キモオタは雪が降り積もる道をママチャリを押しながら歩いていました。

キモオタ(ダメだ・・・目の前が霞んできた・・・)

キモオタの病状は深刻なものでした。

もう、正常に活動できるレベルを超えていたのです。

キモオタ「はぁ・・・・・はっ・・・・」

歩いても歩いても家に近づいていないような気がしました。


キモオタ「妹・・・妹・・・」


キモオタは、マッチ売りの少女の気持ちがわかったような気がしました。

キモオタ「頼むよ・・・持ってくれ・・・」




妹は走ります。


妹「兄さん・・・兄さん・・・・・」


妹の目から涙が落ちます。


妹「ごめん・・・・ごめんね・・・」





キモオタの脳裏に、2歳の頃の思い出が蘇ってきます。


父親がいなくなったこと。

母上のお腹がどんどん大きくなったこと。


そして・・・妹が生まれたこと・・・


キモオタ「・・・」




72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 20:00:12.11 id:l0MYHgyTo
きもおた…




73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 20:02:25.33 ID:0K9fW+sr0
目の前が黒くなり、歪んでいきました。

キモオタ「・・・もう・・・ダメか・・・」



死神『成し遂げんとした志をただ一回の敗北によって捨ててはいけない。わかっているだろう青年。』

ノイズ混じりの世界で、死神はそう言いました。

キモオタ『もうシェイクスピアの受け売りはいい!あと少しだけでいいんだ!』

死神『私が決めることではない。君が選択することだ。』

キモオタ『僕は強くない!』

死神『なら諦めろ。お前に明日はない』

死神『お前の妹が・・・もうすぐお前のところまで走ってくる。』

キモオタ『・・・お前が仕向けたんだな!』

死神『彼女の意志だ。』


キモオタ『・・・っ』


死神『今、私とお前が同居する部屋。あの真っ白い部屋は深いノイズの中に飲み込まれている。』


死神『お前の成すことはなんだ。』

死神『お前の選択が全てを決める』




パチンッ・・・・・・




74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 20:16:46.82 ID:0K9fW+sr0
妹は、冷気を全身に受けながら走ります。


路地を左に右に。


妹「はぁっ・・・はぁっ・・・・」


ある角を曲がった時、黒いダウンをきたキモオタが、ママチャリを押しながら歩いてきます。


妹「兄さん!!」

妹は泣き笑いの顔をして、キモオタの元に走ります。


キモオタ「い・・・妹・・・ぐふっ・・・」


もう手の届きそうな距離です。

げほっげほっ・・・


妹「兄さん・・・兄さんごめ



妹が、何か叫びながら近づいてきます。

キモオタ(どうしたんだろう・・・なにかあったのかな・・・)


キモオタは声を出そうと思いますが、出るのは激しい嗚咽と咳だけです。


キモオタ「げほっ・・・がはっ・・・」


妹が手を伸ばしながら走ってきます。


キモオタ(母上に何かあったのかな・・・大変だ。帰らなくちゃ・・・・)


キモオタは、妹が何を言っているのかわかりません

キモオタ(妹・・・ごめんよ・・・何を伝えたいか・・・僕にはわからない・・・)


キモオタ「がはっげほげほっ・・・ぶふっ・・・!!!」



妹の目の前で、キモオタは大量の血を吐きました。

白い雪に、赤黒い血が零れました。




75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 20:27:50.82 ID:0K9fW+sr0
妹「え・・・。」

キモオタは、口の周りに血を残して地面に倒れました。


妹は何が起きたか理解するのに時間がかかりました。

妹「あ・・・・あ・・・・」



妹「いやあああああああ!!」

妹の叫び声が響きました。


妹「兄さん!!兄さん兄さん!!!」


妹はキモオタのそばによりました。

妹「兄さん・・・!ねぇ!」

キモオタを抱きかかえました。



キモオタは、無音の世界にいました。

キモオタ(妹だ・・・妹が目の前にいる・・・)

妹は泣いていました。


キモオタは、最初に心臓が痛み出してから何もかも変わりました。


キモオタ(ごめんよ・・聞こえない・・・・)

母と妹の涙を見ることが特に印象的でした。

キモオタ(やっぱり・・・可愛いなぁ。天使みたいだ・・・)



キモオタは、薄く笑って妹の頬に残った涙を指でそっと拭いました。


妹「何か言ってよぉ・・・にい・・・ざん・・・っ!うぅ・・・」


妹「にいさん・・・・・!!」



キモオタの意識は、闇の中へ消えて行きました




78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 20:59:46.15 ID:0K9fW+sr0
コツ・・・コツ・・・・


乾いた足音が聞こえます



死神「お前の選択、見させてもらうぞ。」


なんで・・・


僕は・・・


死んだんじゃ・・・・


死神「なぁに、安心しろ。まだ時間はある。僅かだがな。」

そうかい・・・


わかったよ・・・


まだ生きるよ・・・



最初に目に入ったのは、白い天井でした。

キモオタ「ここは・・・・」


キモオタはあたりを見渡しました。


どうやら病室の様でした。


キモオタ「まだしんでいないんだ・・・」




79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 21:11:58.36 id:YTHPvCCDO
死神殴り代行はよ(´;ω;`)




80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 21:33:52.91 ID:0K9fW+sr0
キモオタは、体を起こそうとしましたが力が入りませんでした。


キモオタ(・・・もう・・・ダメって事か・・・)


コンコン・・・

誰かが病室のドアをノックしたようです。

しかし、かすれた声しか出せないキモオタは返事することができません。


キモオタが何も言わなくてもその人は入ってきました。


キモオタ(・・・誰なん・・・だ?)


入ってきたのは、一人の女性でした。

綺麗な女の人でした。




82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 21:45:27.11 ID:0K9fW+sr0
綺麗な女性は、キモオタのベッドの近くに座るとキモオタの顔をじっと見た。

キモオタ(誰なんだろう・・・)


キモオタは思い切ってかすれた声で聞いて見ました


キモオタ「だ・・・だれ・・・・で・・・す・・か・・」

キモオタが喋ると、女性はハッとした顔をしました。


女性「ねぇ、今・・・私に話しかけた!?」

女性はキモオタに触れると驚きを隠せない口調で言いました。


キモオタは、無言で頷きました。


女性「わ・・・私が誰だかわかる・・・??」


女性は涙を堪えながらいいます。

キモオタ「き・・・きみは・・・・だれ・・・?」

女性は悲しそうな顔をしました。




83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 21:57:15.22 ID:0K9fW+sr0
女性「私よ・・・?兄さん・・・」

キモオタはビックリしました。

キモオタの目の前にいた女性は妹でした。

キモオタ「い・・・・いも・・・うと・・」

妹「そうだよ・・、妹だよ・・・!」

妹はキモオタの手をぎゅっと握りました。

キモオタ「ぷ・・・プレゼントを・・・開けたんだね・・・・」

妹は深く頷きました。


実は、あのクリスマスの日。

キモオタは、二つのプレゼントを用意していました。

一つは自分で入手できたのですが、もう一つは友人に頼まざるを得ないものでした。


化粧品です。


女性との交友がないキモオタには、買えなかったので女友達の多い友人に頼んだのでした。


妹はいつもノーメイクだったので、ひっそりキモオタが企画していたのでした。

 


86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/07(金) 22:13:30.08 ID:0K9fW+sr0
キモオタ「すごく・・・・にあって・・・いる・・よ。」


キモオタは少し声が出てくるようになりました。


妹「・・・ありがとう、兄さん・・・」

妹「もう・・・会えないかと思った・・」


キモオタ「僕もだよ・・・」


妹「ちょっと待っててね。お母さん呼んでくるから。」

妹は病室を出て行きました。

キモオタ「・・・」

時計を見ました。

昼過ぎでした。


日付は次の年の一月になっていました。


キモオタ(寝たままで年越したか・・・・)


しばらく待っていると、妹と母が入ってきました。

母「お兄さん・・・お兄さん!」

母は走ってかけよるとキモオタの手を握った。

母「お兄さ?ん・・・心配したよぉ・・・親より早く死んじゃいそうになってどうするのよ?」


キモオタ「ご・・・ごめんよ・・・・」




101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 11:30:36.42 ID:0sD7Jua20
キモオタが入院して、一週間たちました


ナース「はい、キモオタさん。診察ですよ?。」


ナースがキモオタの検診にやってきました。


キモオタ「・・・ナースさん・・・」


ナースは点滴を確認しながら


ナース「ん?どうしたの?」


キモオタ「僕ってもう・・・長くないんです・・・よね・・・・」

ナース「また何言ってるの。キモオタさんがそんなこと思ってたら、家族の方も悲しみますよ!」


キモオタ「・・・もういいんですよ・・・。僕は知ってますから。自分の死期を・・・」




103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 14:30:41.49 id:GRjC7PIx0
ナース「・・・」

キモオタ「・・・まぁ、信じなくてもいいんです。自分でも信じられないんですから・・・・」

ナース「そうねぇ。私は神様とかは信じてないから、キモオタくんの話を全部信じろってのは無理だよ」


キモオタ「・・・はい。」


ナース「でも、死神が君自身の可能性はないの?」

キモオタ「え?」

ナース「君の心の中に現れた、君自身。」


キモオタ「そんなこと・・・わからないです。」


ナース「ねぇ、詳しく話してみてよ」


キモオタは、ナースにここ二ヶ月ちょっとの出来事をみんな話しました。


キモオタ「白い部屋で、やつが待っている・・・・ていう感じです」


ナース「白い部屋は、黒ずんでいったんだね。」

キモオタ「はい。」


ナース「それってキモオタくんの精神っていうか、自分の殻ってやつじゃないの?」


キモオタ「・・・自分の・・・殻」




104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 15:18:59.16 id:GRjC7PIx0
ナース「前に、知り合いが言ってたんだけど。」

ナース「人にはそれぞれ、自分の中に部屋を持ってるんだって。」


キモオタ「・・・部屋、ですか・・・」


ナース「その部屋をどう彩るかはその人次第。どう生きるかで変わるんだよ。」


ナース「キモオタくんは、なにか思いつめていたんじゃないかな」

キモオタ「家族のことです・・・」


ナース「君のなかのモヤモヤはきっと黒い色をしていたんだろうねぇ。」



外は、夕日が沈みかけています。



キモオタ「・・・死神は・・・それを具現化した・・・僕・・・」


ナース「そーいうことー」


キモオタ「・・・かもしれないですね」





キモオタの家

母「はー、よいしょっと」

母は、お惣菜が入った袋をテーブルの上に置きました。


妹「お母さん・・・おかえりなさい。」

妹が二階からおりて来ました。


母「ただいま。」


キモオタのいない家は、火が消えたような有様でした。

妹はほとんど笑わなくなっていました。


妹は、袋を一瞥すると


妹「今日も・・・惣菜ばっかり?」


母「うん。ごめんね、お兄さんが戻ってくるまでだから」


母は、パートなどの仕事とキモオタの事で奔走する日々を送っていました。




105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 15:30:13.86 id:GRjC7PIx0
妹「・・・私、お腹減ってないからいいよ・・・」


母「え?」

妹「ごめん・・・」


妹は二階に上がりました。


母「妹・・・・ちゃん。」

流石の母でも、こればかりには対応しきることが出来ませんでした。


母「・・・どうすれば・・・いいんだろう・・・お兄さん・・・」


母は、座り込みました。


母「お父さん・・・お兄さん・・・」




ガチャッ




食器が何かに当たった音がしました。


母「・・・・?」


母は、恐る恐る音のしたキッチンの方へ歩みよりました。


しかし、誰もいませんでした。


母「・・・?」


冷蔵庫が空いているのに気がつきました。


母は、中を覗きました。


母「え・・・?」




107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 16:19:01.59 id:XZ4QYYK+0
ハンバーグ、シチュー、それによく家族で食べたケーキが入っていました。

母「なんで・・!?」


ハンバーグとシチューはまだ暖かいままです。





病院


キモオタは、一人病室で窓から外を見ていました。


キモオタ(・・・)


夕日は沈み、夜になっていました。


キモオタ「・・・二人とも元気かな」

キモオタが、そう言った時



死神「あの女のいうことも・・・あながち間違いではない。」



聞き慣れた声が聞こえました。

キモオタ「何で・・・!?」


死神が、キモオタのベッドの正面に座っていたからです。

どこから持ってきたのか、古風な椅子でした。


死神「だが、決して君自身ではない。私は私だ。」


キモオタ「・・・部屋は俺の精神・・・」


死神「正確には・・・心だ。君の心は悩みの中を渦巻く前は何もかも逃げ出したい欲望に駆られていた。だから・・真っ白だ。」




108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 16:55:17.89 id:XZ4QYYK+0
死神「だが、君は今まで逃げてきたものに立ち向かう覚悟をした。」

死神「君の今までの秩序が崩壊したということだ。」

キモオタ「・・・」


死神「前にいったな。人間は脆いと。」


死神はたちあがり、窓辺まで歩きました。


死神「君は、死というものを近くに感じて考え方を変えた。死を目前にすると人は変わる。だから・・脆いのだ。」



キモオタは、何も言いませんでした。



死神「担当する者の死が近づくとこうして、君の可視範囲に出てくることができる。」


キモオタ「・・・僕は・・・もう・・・」


死神「そう。一週間後に・・・君は死ぬ。」

死神は遠い目をしました。


キモオタ「辛くないのか・・・?」


死神「おいおい、質問はなしと言っただろう。」


キモオタ「いいじゃないか・・・もうあと一週間だけの命だ。」


死神「・・・我々は・・・死神だ。それが存在する全て。私の選択は、死を司ることだ。」


キモオタ「選択か・・・。」


死神「・・・」


キモオタ「僕は・・・もう一つしかない。」







キモオタ「




109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 17:13:51.52 id:XZ4QYYK+0
妹「なにこれ・・・?」

母は、妹を呼ぶと冷蔵庫を見せました。

シチューにハンバーグ、ケーキがあります。

母「・・・わからないの。」

妹「・・・・・・」

妹は、シチューの鍋を出すともう一度火にかけました。

母「妹ちゃん・・・なにしてるの?」

妹「わかんない・・・わかんないけど、何かこれを食べないと後悔してしまう気がして・・・」

妹はハンバーグを出すと、リビングに持って行ってフォークをとり、少し切り分けると

妹「いただきます」

妹はハンバーグを頬張りました

妹「・・・美味しい・・・」


なぜか涙が出ました。

妹「お母さんのハンバーグと・・・似てるけど・・・ちょっと違う・・・」

妹は、母にも食べるよう勧めました

母「・・・ほんとだ。」


母も同じ意見でした。

母「誰が作ったんだろう・・・」

妹「・・・・にい・・・さん?」

母「でも、お兄さんは今病院じゃない・・・。」


妹「そうだね・・・」



シチューも、母によく似てるけど少し違う味でしたし、ケーキも母と妹。それにキモオタが一番好きなものでした。




病室

死神「それが・・・お前の選んだ道なんだな?」


キモオタ「あぁ・・・それだけだよ・・・」

死神「・・・」


死神は、キモオタをじっと見ました。


キモオタ「なぁ・・・」

キモオタ「死ぬのは・・・痛いのか・・・」


死神「どうだろうな。」



パチンッ・・・




110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 17:27:22.41 id:U9bYiAID0
友人「お見舞いにきたぜ!」


六日後、友人がお見舞いにきました。


キモオタ「あぁ・・・・・ありがとう・・・」


キモオタはもう限界に近づいていました。


医者もお手上げ。


後はいつくるかわからない死を待ち続けるだけでした。


友人「これ、手土産!高かったわぁ!30分並んだんだぜ?」


シュークリームです。


友人「食える?」


キモオタは首を横に降ります。

友人「そっか・・・だよな!病気治ってから食った方がうまいもんな!」


友人は優しい男でした。

友人「冷蔵庫入れとくから、みんなで食ってね!」


友人は満面の笑みを浮かべてせかせかと動きます。


友人「いや、ここくるまでに一回こけちゃってさ!これ潰れてないかすげー不安で・・・」


キモオタ「・・・ありがとうな・・・色々。」


友人の手が、ピタリと止まりました。


キモオタ「わかってるんだろ・・・?もうダメなことくらい。」


友人はキモオタからみると背中を向けています。


友人「なにいってんだよ!馬鹿ばっかり言ってたら、ま、マジで死んじまうぞwwww」


キモオタには、痛いほど友人の優しさが伝わりました。




111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 17:52:07.62 id:U9bYiAID0
キモオタ「・・・友人。」


キモオタ「僕はねぇ・・・思うんだ。」


キモオタ「死ぬことは・・・怖いことなんかじゃないって。」


友人は手で顔を押さえました。


キモオタ「何でかわかる?」


友人は背中を震わせて


友人「わからない・・・!」


と答えました。




112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 17:57:37.91 id:U9bYiAID0
キモオタ「大切な人がまだ・・・生き続けてくれて・・・・」


キモオタ「幸せになってくれるって・・・」


キモオタ「信じてるからなんだって・・・思うんだぁ・・・」


友人「キモ・・・オタ・・・ッ・・」


キモオタ「彼女もそうだったんじゃ・・・ないかなぁ・・・。」


友人「・・・え?」


キモオタ「友人にはねぇ・・・幸せになってもらいたいんだよ・・・」


キモオタ「彼女の死を乗り越えられていない友人を見るのは・・・」

キモオタ「きっと・・・彼女だって嫌なんだ。」


キモオタ「彼女は・・・友人がまた新しい・・・恋を始めて・・・」


キモオタ「幸せになってほしいって・・・」


友人の目からとめどなく涙が溢れました。




114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 18:06:34.75 id:U9bYiAID0
友人「わ・・・悪い!」


友人は、涙をふくと、目を腫らしながら


友人「ちょっと用事思い出したから!帰るわ!・・・絶対食えよ!シュークリーム!今度お前に奢ってもらうからな!」


友人が荷物をまとめて部屋を飛び出そうとした時です。


キモオタ「友人・・・・お願いがある・・・」




キモオタ「・・・妹と・・・一緒になって欲しい・・・」


キモオタ「僕とは似ても・・・似つかない・・・美人だ・・・」


キモオタ「きっと・・・気にいるよ・・・」



友人「・・・」

友人「じゃあ、狙っちゃおっかな♪」

友人は笑顔で病室から出ました。



友人「・・・馬鹿野郎・・・・・クソッタレ・・・・!」


友人「何で・・・俺なんかに・・・・!!」




119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 20:13:47.82 id:FBGWUfz20
ついに、七日目の朝がやってきました。


キモオタ(今日か・・・)


キモオタ「・・・これで・・・よかったんだ・・・」


しんと静まりかえった、病室でキモオタは思い出していました



高校の時・・・


DQN『こいつ、キメェwwwwwww』

バカ女『マジさわんなよwwwwwww腐るwwwwww』


キモオタ『・・・』


DQN『教科書棄てようぜwwwwwwwww』


ドサドサッ


DQN『はい、着火~!!』


ボォォォォォ・・・・



DQN『ほらwwwwww泣けよwwwwwww』


キモオタ『・・・・』




授業

キモオタ『・・・教科書が・・・』


友人『キモオタ!!』


キモオタ『あ・・・・』


友人『教科書、一緒に見ようぜwwwwww』


キモオタ『え・・・でも・・・』


友人『遠慮すんな!!俺、友人っていうんだ!お前と前から話してみたくてさぁ』


友人『これからよろしく!』


キモオタ『・・・・・アリガトウ・・・』


友人『おう!』




120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 20:30:33.46 id:FBGWUfz20
妹が、高校に入学したとき


妹『みて!どう?私の制服姿!』


母『あらあら~、素敵ねぇ』


妹『兄さんは、どう思う?』


キモオタ『とても・・・似合っているでござるよ!」

妹『へへっ、ありがとう兄さん!』


妹『でも同じ高校に入ったのに、兄さんすぐ卒業なんだね・・・。』


キモオタ『良いではないかwwwwww我が輩が居なければ、妹もリア充ライフ満喫でござるよwwww』


妹『え・・・』


キモオタ『我が輩も、やっと高校卒業できそうで良かったでござるwwwwwww」

妹『・・・』


母『汚れるといけないから、しまっちゃいましょうねぇ』


キモオタ『よっしwwwwwゲームの続きをするでござるwwwww』


妹『うん・・・』



ピコピコ


キモオタ『うはwwwwww楽しいwwwww』


妹『くっそー、負けないからね!』

ドコーン


キモオタ『妹wwwwww強くなったでござるなwwwwww」


妹『でしょー!?』


キモオタ『でも、このゲームももうすることが無くなってきたでござるな。』

妹『新しいゲーム・・・・そうだ!兄さんが作ってよ!得意でしょ、こういうのwwww』


キモオタ『えーwwwwww我が輩やることが多いのだwwwwwwまた今度wwwwwww』


妹『う・・・うん、そうだね。兄さんもうすぐ大学生だもんね!』



キモオタ『そうでござるなwwwwww』

妹『でも・・・絶対いつか作ってよね!』


『『ユビキリゲンマン、ウソツイタラハリセンボンノーマス』』




121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 20:48:08.91 id:FBGWUfz20
クリスマス。母に、好きなものフルコースをしてもらったとき



母『はーい、みんな~。晩ご飯できたわ~』


妹『うわー、好きなやつ全部出てきたー!』


キモオタ『今日は豪勢でござるなwwwwwwww』


母『うふふ。今日は天下のクリスマス!お母さん、無宗教だけど頑張っちゃった♪』


キモオタ『でも、こんなに食べきれないでござるよwwwww』


母『全部食べなくてもいいのよ~。四人前作ってあるんだから。』

妹『四人前?』

母『お父さんの・・・分なのよ~』

キモオタ『そ、そうでござるかwwwww父上も母上の手料理が大好きだったんでござるなwwwww』


母『うん。それに・・・あの人も、料理が好きだったから・・・。』


妹『・・・』


キモオタ『辛気くさいのは!無しにしませうwwwwwwww』

妹『そうだね!食べよう食べよう!』


母『あらあら~』

キモオタ『母上wwwwww』

母『なぁに?』


キモオタ『我が輩もwwwwwこんな料理がwwww作れるでしょうかねwwwwww』


母『ふふっ。お兄さんはお母さんの息子よ?できるに決まってるじゃない~』


妹『兄さん、こんなケーキは作れる?』


キモオタ『おうふwwwwww我が輩、パティシエではござらんwwww』

母『お母さんも、ケーキは買ってこなきゃ行けないのよ~』


妹『じゃあ、お母さんの息子の兄さんは絶対できないね!』

キモオタ『いったなwwwwww流石我が妹wwwwぐさっと来るwwwwww』

母『そうねぇ・・・。お父さんも料理すぐできるようになったし、お兄さんもきっとできるわぁ』


キモオタ『お褒めにあずかりましてwwww』

母『じゃあ、料理を覚えたらお母さんにも振る舞ってね~?』


キモオタ『御意wwwww』


キモオタ『ヤクソクデゴザルヨ!!』




123:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 20:58:18.17 id:FBGWUfz20
キモオタが目を覚ますと、ベッドの隣に長身の黒いスーツを着た優男が立っていました



死神「時間だ。」



キモオタ「・・・いよいよ・・・か。」



死神「あぁ。」


キモオタ「僕の・・・選択は、正しいのかな。」



死神「それを確認するのは・・・青年。君自身だ。」



死神「あと、45秒で家族がいつも通り見舞いをしにこの病室に入ってくる。」


キモオタ「僕は・・・家族の顔を見ることが・・・」


死神「あぁ。母と妹は笑顔でここにやってくるはずだ。」


死神「お前のタイムリミットはその2秒後」


キモオタ「わかったよ・・・」




124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:04:03.48 id:FBGWUfz20
妹「ふふふ。兄さん驚くだろうな!」


妹はキモオタが好きなケーキを丸々一ホールを持っています


母「そうねぇ。『おうふwwwww』とかいって笑うかもねぇ」


妹「あー、お母さんマネうまいね~!」


母「妹ちゃん、いっぱい練習したもんねぇ。」



妹「私のケーキ・・・美味しいかな?」


母「お兄さん、泣いて喜ぶわよ~。大丈夫!」



妹「へへっ!そうだといいなぁ・・・」




126:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:16:21.30 id:FBGWUfz20
死神「あと・・・20秒」


妹『スポンジが一番難しかったかなぁ!』



キモオタ「妹・・・・」



母『そう?お母さん、クリームを塗るところが一番手間取ったわぁ』



キモオタ「母上・・・・」



友人『すいません・・・花束を・・・はい。一つ貰えますか』



キモオタ「友人・・・・」


死神「あと、8秒」


妹『どうやって、登場しようか!」

母『うれしい気持ちを顔で表して!』

妹『こんな感じ?』

母『素敵な笑顔よ~』

母『じゃ、開けるわよ~』



キモオタ「今まで・・・」



死神「あと2秒」


ガラガラガラ・・・


妹「兄さん!ケーキつくったんだ!」



一瞬でした。


一瞬でしたが、妹と、目が合いました。


そして、キモオタの目から涙が一滴落ち



キモオタ「・・・ありがとう・・・っ!!!」










ドクンッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!


ピィィィィィィィィィィィィーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・・・




127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:17:33.43 id:FBGWUfz20
終わり。




128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:18:42.97 id:TZVNv5kJ0
・・・乙。




129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:19:08.79 id:VSRR5W/uo
うわああああああああああああああ
友人と妹の後日談とかは…?




130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:23:44.96 id:wO29D4gDO
うわあああああああああああああああ




131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:27:25.33 id:yZ83JeCmo
うわあああああああああああああああ




136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:39:51.05 id:FBGWUfz20
死神『お前の選んだ選択は、これでいいんだな。』


オタ『うん。』


オタと、死神は時を遡りました。


死神『過去に戻りたい・・・あまり無い願いだ。』


オタ『これ以外に無いんだ、僕の・・・選択は。』


オタは、シチューとハンバーグの調理をしていました。

死神が取ってきたケーキは冷蔵庫に入れていました。


死神『・・・それはなんだ。』

オタ『ハンバーグとシチューさ。知らないの?』


死神『死神は、食べないからな』


オタ『母上が、いつも作ってくれて・・・実は僕もこっそり、友人から本借りて練習してたんだ。』


死神『それが・・・一つ目の約束、というやつなのか』


オタ『母上に、美味しい我が家のフルコースをご馳走する。これが・・・母上との約束』



ガチャッ・・・


オタ『やばい・・・帰ってきた』

死神『どうするんだ?』


オタ『とりあえず出来たから、冷蔵庫入れとかないと・・・』



妹「・・・私、お腹減ってないからいいよ・・・」


オタは、冷蔵庫をそっと開けて二つの料理を入れます。


母「・・・どうすれば・・・いいんだろう・・・お兄さん・・・」


死神『ばれるとまずい。行くぞ』

死神が動いたとき、キッチンの上にあったナイフが床に落ちました。


オタ『やばいっ!』




ガチャッ




母「・・・・?」

 


137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 21:56:13.29 id:FBGWUfz20
オタと死神は、オタが死んだ後の家にやってきました。


死神『すこし未来にいく、ここでお前の本当の最後だ』

オタ『そうだね。』


死神『二つ目の約束・・・。』


オタ『まぁみといてよ。』


オタと死神は、妹の部屋にやってきました。

オタ『だいぶ色々片付けたみたいだね』

オタは、妹の本棚を開けました。


死神『そこに何かあるのか?』


オタ『これは・・・生きている内に果たしたかったね。』


本棚の本をまとめて引っ張り出しました。


オタ『良かった。まだあったんだ。』




クリスマスの日、オタは友人の家に行く前に妹の部屋にある物を隠しました。


死神『それは・・・』


オタ『これ、ゲームソフトだよ。』


透明なケースを開けると、中には白いCD-ROMが入っていました。


オタ『ちょっと難しいところに隠しすぎたかもね~』


オタはCD-ROMを妹のパソコンに入れました。



ちーっ・・・・・ちちちちっ・・・・・・・


CD-ROMを読み込む音が静かな部屋に響きました。


しばらくすると、画面に新しいウィンドが開きました。



死神『・・・死神をやっつけろ・・・・?』


オタ『安直なタイトルでしょwwwwどうしようか迷ったんだけど、これしかしっくりこなかったんだ。』


マウスを動かすと、キモオタはゲームをし始めました。


オタ『キャラクターの設定はこれで良し。』


ゲームをどんどん進めていきます。




138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:11:10.82 id:FBGWUfz20
死神『これで・・・どうなるんだ?』


オタ『こうで・・・こうで・・・おっけぃ。ラスボスまできた!』


昔のゲームを彷彿とさせるドット絵のキャラクター達の前に、画面いっぱいに幅をきかせるラスボス


死神『・・・これ、私だな。』


オタ『・・・ごめん』


死神『・・・』


ラスボスのHPをあと一撃で倒せるという所まで来て


オタ『よし。じゃあ、妹の様子を見に行こうか』

死神『終わらせなくて良いのか。』


オタ『いいのいいのwww』



オタは家を出ました。


死神とオタは、家の前で待っていました。



死神『・・・青年』

オタ『ん?』

死神『・・・一つ質問をしていいか』


オタ『質問は、一切無し。じゃなかったっけ』

死神『君も、私に質問したろう。』

オタ『そうだったねwwww』


死神『死ぬときに願いを可能な範囲内で叶える・・・。普通なら、寿命をもう少し延ばす、なんかじゃないのか』


オタ『うーん、ちょっとまえの僕だったらそういってたかもしれないねぇ』


死神『ほう・・?』

オタ『僕は・・・みんなにとって必要な存在なのかって悩んでた。』


オタ『でも、死ぬってわかったら自然と体が動き始めた』

オタ『そしたら、なんか・・・今まで何で悩んでたんだろうってくらい・・・母上・・・妹・・・友人。』


オタ『みんな、僕のことを愛してくれているんだって思った。』


オタ『僕は・・・そんな人たちに恩返しがしたかったんだ』

オタ『だから・・・僕の選択は』


死神『約束を守ること・・・・か。』




139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:23:48.22 id:FBGWUfz20
しばらくすると、男女がこちらに歩いてくるのが見えました。


オタ『お、きたきた。』


男女は、オタの家の前で止まりました。


男「いいのか?俺がこの家に来て。」


女「うん。・・・いいんだ。私だけの願いじゃ無いはずだから。」


男「・・・」

男は、女の方を見て笑いました。


男「そうとなれば、しょうがねーなぁ。へへっ」


女も、すごく幸せそうな顔をしました。

女「ん。」


男「え・・・ここで?」


女「してくれないんだ・・・。花束貰った時は、自分からしてくれたのに。」


男「む・・・うぅん・・・。わかった。」


男と女は唇を、重ねました

女「ふふっ」

男「・・・」




母「わぁ~、激写激写~!!」

母が、家から出てきてデジタルカメラでその様子を撮っていたみたいです。



男「ちょwwwwwwwやめてくださいよwwwww」


母「へっへ~。親戚にばらまいてやるのぉ~」


男「それはマジでしゃれになりませんって!!」


母と男は、カメラの取り合いをしています。


女「こらこら・・・」



女は、何かに見られているような気がしたので空を見上げました。



女(・・・・これで・・・・いいんだよね、兄さん。)




140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:29:59.51 id:FBGWUfz20
死神『・・・』

オタ『・・・』


死神『そろそろ、時間だ。』


オタ『うん、わかったよ』


死神『もう・・・戻れないぞ』

オタ『わかってるさ。』


オタの姿が薄くなってゆきます。


死神『ここからは・・・一人で行けるな?』

オタ『大丈夫。』

オタは、殆ど見えなくなっていました。

死神『・・・・』


オタ『人は、みんな何かを抱えて・・・生きていくんだね。』


死神『シェイクスピアか?』





オタ『いや、思いつきだよ』





オタは、消えました。




141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:34:54.45 id:wO29D4gDO
友人と妹か……




142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:35:12.69 id:dR06BWfAO
やべぇ涙がとまらねぇ・・・・




143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:36:36.32 id:LeNoAQ0DO
つうか死んでから「キモ」がなくなったな




144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:39:33.90 id:FBGWUfz20
死神は、また家の中に入りました。



男、友人と女、妹は母と談笑しています。


母「お兄さんがね・・・」

妹「ほんと兄さん・・・」

友人「かっこよかったんすよ、キモオタは・・・」



死神『・・・青年の話ばかりしている・・・。』




死神は、それを一瞥すると2階に上がりました。



再度、妹の部屋に向かったのです。


死神『・・・』



死神は、ついたままのパソコンの前に立ちました。


死神『たしか・・・・こうか。』


死神は、『戦う』にカーソルを合わせてクリックしました。



すると、ラスボスの死神は苦しみの叫び声と共にゆらりゆらりと揺れて消えていきました。



その後、終わりという文字が出ました。


死神『・・・』


死神は、気づきました。

これで終わりでは無いと


もう一度クリックしました。



死神『・・・なるほど。』


死神は、ぬいぐるみを一つ持つと2階の階段から1階に落としました。




146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 22:48:23.06 id:FBGWUfz20
友人「うわ!」



母「え~、どうしたの?」


友人「いや、上からぬいぐるみが降ってきましたよ!?」



妹「・・・私のだ。」


妹は、ぬいぐるみをひろうと2階に上がっていきました。



友人「えぇ~・・・上行くの!?」


妹「うん。これ部屋にあった奴だし。戻してくる。」


母「ふふふ。友人くんは、お父さんにそっくりねぇ。」


友人「え?」


母「びびりな所とか。」


友人「お褒めにあずかり・・・」




妹(なんで落ちてきたんだろう。)


妹は自分の部屋に入りました。


妹「あ・・・。」


机の上のパソコンに、電源が入っています。


妹(切り忘れたのかなぁ)


妹が、パソコンに近づいたときです。


妹「・・・これって・・・!」


ドット調のキャラクター達が、結婚式のようなイベントで万歳をしていました。




148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:10:44.54 id:FBGWUfz20
中央には、新婦と新郎が玉座のような物に座っています



新婦の頭上には『いもうと』




新郎の頭上には『ゆうじん』





二人に一番近い位置にいるキャラには『ははうえ』



残りは、おそらくゲーム内にでてきたキャラクターでしょう。


たくさんのキャラが、二人の結婚を祝っています




メッセージボックスが出ました。


『おめでとう!!世界の危機は救われた!!』




149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:23:54.58 id:FBGWUfz20
メッセージボックスは、ゆっくりと消えて次々に新たなメッセージがあらわれます。





『そして、結婚おめでとう』




『ぼくは、結婚できそうもありませんでしたから』




『あなたが、ぼくの・・・・ゆいいつのしんゆう、ゆうじんくんとあいしあって結婚するのがいいとおもいます』




『おとうさんがしんでから、十数年』




『かぞくにめいわくをかけました』



『だからぼくは、じぶんがしぬことを知っていたので』



『ささやかながら、おんがえしをしたいなっておもいました』



『ははうえには、おいしいりょうりを』




『あなたには、このげーむを』


『ほんとのことをいうと』



『ははうえといっしょに、りょうりをしたかった』





『あなたと、げーむがしたかった』



『でもぼくは、あなたとげーむすることも、ははうえとはんばーぐをつくることも』


『できそうにありません』

『そして』









『ぼくは、あなたたちが結婚するすがたをみることはできません。』




150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:28:12.98 id:FBGWUfz20
『だから・・・』





『せめて、げーむのなかだけでも』




『にいさん、ないてもいいかな』




結婚式の会場には先ほどまで居なかったはずの『きもおた』というキャラが、涙を流して立っていました





『なにもしてやれなかった、ばかなにいさんを』




『どうかゆるしてください』




『ぼくは、あなたたちのしあわせをえいえんにいのっています』




151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:33:06.70 id:FBGWUfz20
画面は、暗くなりました。










『きもおた』だけが、画面上に残っています








妹「・・・・にぃ・・・・・・さん・・・・!」







妹は、くしゃくしゃに顔を歪めて泣いています。






『どうか、なかないでください』






妹「にぃさん・・・・!」






妹は触れることの出来ない、兄を指でなぞりました














『きもおたは、しあわせでした』




152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:33:54.56 id:FBGWUfz20
今度こそ、本当に、終わり。




153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:37:34.57 id:FBGWUfz20
読んでいただいた方ありがとうございました。



遅筆、誤字脱字はお許しください


ss投稿ははじめてなもんでして。




154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:40:13.91 id:dT8iqydw0
乙でした




155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/08(土) 23:53:43.46 ID:c1/LxH1Z0
いい話すぎてワロタwwwwwワロタ....





キモオタぁぁぉー




156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 00:06:10.42 id:E9Zuq+vi0
余談なのですが、続編と新作



どちらがいいか悩んでいます。




差し支えなければアドバイスよろしく




157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 00:09:10.98 id:pZXlPT7So
まぁ俺たちも鬼ではない

















両方に決まっておろうが!!




158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 00:11:20.39 ID:/kWNhxmio
よかった乙!!!




159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 00:11:32.55 ID:9sTA68Xko
乙!
続編優先で両方やって下さい

キモオタああああ
うわああああああああああああああs




160:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 00:28:08.06 ID:o+30HADIo
乙!

続編でオナシャス




161:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 00:58:56.44 id:E9Zuq+vi0
じゃあ、続編にします。


また予告だけ貼っとくんで、見かけたら是非読んでください。




162:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 00:59:19.23 ID:5pFoGCRIO
涙ですぎたわろた




163:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 01:07:44.45 id:E9Zuq+vi0
その日は、雨が降っていた。


どしゃ降りの雨だ。






女『われわれの人生は織り糸で織られているが、良い糸も悪い糸も混じっている。』



死神『・・・・・』



女『いい・・・言葉だと思わない?』



死神は、黒い傘をさしていた。


女は、藍色の傘をさしていた。



死神『一体・・・誰が言ったんだ』




女『シェイクスピアよ。』



死神『・・・知らないな』



雨は強まるばかりだ。



女『あなたも本は読んだ方がいいよ。』



死神『あぁ・・・そうだな。』




男には、名前がない。


男の仕事は人の一生に終わりを宣告し迎えにゆくこと。


だから男は、死神と呼ばれていた。



死神『そろそろ・・・時間だ。』



雨は、止まない。




164:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 01:14:34.70 id:IzgfPzGso
乙でした



165:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/12/09(日) 01:51:46.40 id:YjJCKzxDO
乙……乙だけど……!

うわあああああああああああああああ

男「好きです!付き合ってください!」幼馴染「ん?」

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:08:42.59 ID:715+DFUy0

男「ずっと前から好きでした!付き合ってください!」

幼馴染「ん?」

男「いや、だから昔から好きだったって……」

幼馴染「……んー」

男「え、俺じゃ駄目?」

幼馴染「いや……」

男「何が駄目なのか言ってくれないと」

幼馴染「告白」

男「え?」

幼馴染「せっかくさぁ、こんないいムードなんだから、もうちょっと」

男「なるほど」

 

4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:09:43.28 ID:715+DFUy0

男「……」スゥ

男「君を初めて見たときから……僕の心は」

幼馴染「3点」

男「えっ」

幼馴染「3点」

男「……」

幼馴染「帰っていい?」

男「ま、待ってくれ」



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:10:56.34 ID:715+DFUy0

男「あーあー……」

男「コホン」

幼馴染「……」

男「思えばさ、ずっと一緒だったよな、俺たち」

幼馴染「……」

男「雨の日も、風の日も……台風の日も」

幼馴染「ん?風と台風の違いは?」

男「……」

幼馴染「やり直しは許可するよ」

男「うん」



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:12:15.15 ID:715+DFUy0

タッタッタッタ

男「アナタガ!トゥキダカラー!!!」

幼馴染「……好きだから、何?」

男「え、いやホラそれは」

幼馴染「好きだから?だから?」

男「……付き合ってほしいなみたいな」

幼馴染「そのキャラではじめたんなら最後まで通そうよ」

男「うん」



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:13:33.97 ID:715+DFUy0

男「……ハーッハッハ!!確かに盗んだぞ!」

バッ

男「大変です、奴は大変なものを盗んでいきました(裏声)」

幼馴染「貴方の心ですとか言わないよね?」

男「それは……」

男「……」

幼馴染「TAKE何かな?」

男「4くらい……?」

幼馴染「5だと思うけど」



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:14:35.98 ID:715+DFUy0

男「……毎朝、僕に味噌汁を作ってくれ!」

幼馴染「……」

スッ

男「なにこれ」

幼馴染「みそ」

男「……」

幼馴染「みそやるから、頑張れ」

男「いやそういうことじゃなくって」

幼馴染「知った上での行動」

男「ですよね……」



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:16:31.52 ID:715+DFUy0

男「I love you!」

幼馴染「Why?」

男「えっ」

幼馴染「Please explain.」

男「……」

幼馴染「日本人だもんね?」

男「日本人だもんね……」



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:17:43.56 ID:715+DFUy0

男「あいうぉんちゅー!」

幼馴染「……」

男「あいにーぢゅー!」

幼馴染「……」

男「……だんだん?」

幼馴染「覚えてないんだね?」

男「うん」

幼馴染「……次は頑張ろっか」



14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:19:40.97 ID:715+DFUy0

男「クソォ!俺がもっとしっかりしてればこんなことに!」

幼馴染「ん?これどういう設定?」

男「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」

幼馴染「しっかりするのは君の方じゃなかったっけ」

男「こ……こんな惨いことって……あるのかよ!」

幼馴染「惨いんだ」

男「……最後に、一言だけ言いたかった」

幼馴染「……」

男「愛してる、って……」

ガクッ

幼馴染「……」

男「ここで復活して『私も愛してるよ』って」

幼馴染「医学より便利な愛の力なんてないよ」

男「えっ」



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:21:31.42 ID:715+DFUy0

男「おい!三組の鈴木と付き合ってるって本当かよ!」

幼馴染「ついに寝とられちゃったかぁ」

男「何であんな男と!」

幼馴染「私に聞くの?」

男「そうかよ……そんなにアイツの事がいいのかよ!」

幼馴染「設定だからいいけど実際だったらこいつコミュ障こじらせすぎだよね」

男「チクショウ!」

ガンッ

幼馴染「ご、ゴミ箱!大丈夫か!」

男「アイツなんかより……俺の方が!」

幼馴染「……これいつ終わるの?」

男「もうちょっと」

幼馴染「長い」



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:23:07.09 ID:715+DFUy0

男「おい」

グッ

幼馴染「おお、今回はすごく近いね」

男「お前、俺の女になれよ」

幼馴染「所有物?親権譲渡?」

男「んーちょっと違う」

幼馴染「だって俺の女になれって」

男「もっとこう俺のなんていうかさ、俺の彼女的な」

幼馴染「そこまで言っちゃうと意味ないよねー」

男「えー……」



19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:24:19.39 ID:715+DFUy0

男「サランヘヨ!」

幼馴染「ん?」

男「ジュテーム!」

幼馴染「……はい?」

男「愛してるー!!」

幼馴染「語彙力かぁ」

男「結構言えたと思うけど」

幼馴染「英語含めて4かぁ。微妙」

男「そうか……」



20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:25:58.98 ID:715+DFUy0

男「……」

カチカチカチカチ

ヴーン ヴーン

幼馴染「……メール」

スッ


From 男
件名 好きです
本文 付き合ってください


幼馴染「……リアルだけど、やだ」

ピローン

LINE:新規一件

男:付き合おうぜ^□^


幼馴染「……軽すぎるなぁ」



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:27:13.16 ID:715+DFUy0

男「……」 カリカリ

男「……」 カリカリ

男「……」 カリカリ

男「……」スッ

幼馴染「なにこれ」

男「判子だけでいいから」

幼馴染「うん、それだと借金の連帯保証人みたいになってるよ」

男「違う婚姻届だ!」

幼馴染「知ってる」



22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:29:02.72 ID:715+DFUy0

キコキコキコキコキコ

キコキコキコキコ

男「すきだぁーーーーーっ!!」

キコキコキコキコ

<アァァァァァァァ……

キコキコキコキガチャーン

幼馴染「あ、事故った」

幼馴染「……大丈夫かな。自転車で通り過ぎながら告白って結構近所迷惑だけど大丈夫かな。通報されてないかな」



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:31:11.66 ID:715+DFUy0

男「しりとりしようぜ」

幼馴染「いいよ」

男「りんご」

幼馴染「ごりら」

男「来世でも一緒にいたい」

幼馴染「石狩平野」

男「やっぱり君しかいない」

幼馴染「インド」

男「どうしても駄目?」

幼馴染「めんどい」

男「……いいです。わかりました」



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:32:21.86 ID:715+DFUy0

男「君にZOKKONLOVE!」

幼馴染「ごめん?いつ生まれ?」

男「平成8年」

幼馴染「……昭和じゃなくて?」

男「昭和八年って今何歳?」

幼馴染「八十歳くらい?」

男「!?」



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:33:13.01 ID:715+DFUy0

男「ねーちゃんええカラダしとんのー」

幼馴染「よく言われます」

男「今日どうや、おっちゃんと一発」

幼馴染「ビリヤードですか?」

男「おっちゃん流石にそんな高等なゲーム知らんかな」

幼馴染「慣れれば簡単だよ」

男「うーん……?」



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:34:22.80 ID:715+DFUy0

男「子供は何人欲しい?」

幼馴染「一姫二太郎」

男「一戸建て?マンション?」

幼馴染「分譲マンション」

男「ハネムーンはどこに行こうか?」

幼馴染「駅前のラーメン屋」

男「……地味」

幼馴染「倹約家と言ってほしい」



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:37:04.07 ID:715+DFUy0

男「えーまず私の個人的な感情から述べます」

幼馴染「許可します」

男「私は貴方に好意を抱いており、結婚を前提におつきあいしてほしいと考えています」

男「これについてなにか質問や意見は」

幼馴染「ありません」

男「でしたら、私と付き合うという事に異論はありませんね?」

幼馴染「異論があります。そもそも私の意見を述べていません」

男「あっ」

幼馴染「一方的な愛情を押し付けることが恋愛でしょうか。私はそうは思いません。これについて意見や質問は有りますか」

男「ありません。概ね同意です」

幼馴染「なら先ほどの論述が間違いであることを」

男「認めます……」



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:38:20.69 ID:715+DFUy0

男「ウッホホウッホ!!」

ドコドコ

男「ウッホホ!!」

ドコドコ

幼馴染「……」

男「ウッホ!ホホッホ!」

幼馴染「ごめん、これが何かそろそろ聞いていい?」

男「求愛のダンス」

幼馴染「わかると思った?」

男「流れで」

幼馴染「……うん。そうだね」

男「やり直しますので許してください」



32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:38:32.33 id:InNO8002O

負けるな男



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:38:53.39 id:FZpdVs9f0

がんばれ男



34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:39:49.03 ID:715+DFUy0

男「すきです!つきあってください!」

男「うんいいよ!(裏声)」

男「やったね!両思いだね!」

男「そうだね!結婚しよう!(裏声)」

幼馴染「やっててむなしくならない?」

男「なります……」



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:40:52.56 ID:7QwYHi1+0

>>34
泣いた



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:42:01.91 ID:715+DFUy0

男「詩を読みます」

幼馴染「どうぞ」

男「タイトル 『君を愛して幾千年』」

幼馴染「タイトルから不快感がありますが、どうぞ」

男「はい」

男「君を愛して幾千年」

男「今日も昨日も明後日も」

幼馴染「はいちょっと待ってください」

男「何ですか」

幼馴染「明日は何故飛ばしたのですか」

男「言うまでもないと思ったからです」

幼馴染「全部ねぇよ」

男「えっ」



39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:43:33.05 ID:715+DFUy0

男「なんで君はこんなに可愛いんだろう」

幼馴染「親が可愛く生んでくれたので」

男「ああ可愛い、可愛いよ。僕のモノにしたいよ」

幼馴染「所有権云々は先ほど話したけど」

男「ぼ、ボクのものにならないなら、いっそここで!」

幼馴染「ここで?」

男「……」

幼馴染「……」

男「おしり触る……」

幼馴染「すごく遠慮したねぇ……」



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:44:20.04 id:CRUPLT/e0

なんというヘタレ・・・
がんばれ



41: 忍法帖【Lv=40,xxxPT】(1+0:15) :2013/03/12(火) 00:45:27.04 id:BklzsHpX0

これは応援したくなるな



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:45:41.15 ID:715+DFUy0

男「きみがーすきだーと、さけびーたい!」

幼馴染「叫べば?」

男「……」

幼馴染「叫べば?」

男「……安西先生、告白がしたいです」

幼馴染「早くしろ by安西」

男「安西先生はそんなこと言わない」

幼馴染「みっちゃんもそんなこと言わねぇよ」



43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:46:46.82 ID:715+DFUy0

男「べ、別にアンタのことなんて、好きでもなんでもないんだからね!」

幼馴染「……そうなの?」

男「えっ」

幼馴染「そうなの?」

男「……いや」

幼馴染「違うの?」

男「まぁ……うん……」

幼馴染「……キャラくらい保とうよ」

男「無理」



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:48:33.02 ID:715+DFUy0

男「あーまじつれーわ昨日二時間しか寝てねぇわー実質二時間しか寝てねぇわー」チラッチラッ

幼馴染「……」

男「あーまじつれーわ俺お前の事マジ好きだわーあーつれーわ」チラッチラッ

幼馴染「……」

男「あー好きすぎて辛い、結婚してーわー」チラッチラッ

幼馴染「あ、ごめん何か言った?音楽聞いてた」

男「ええっ!?」



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:49:51.93 ID:715+DFUy0

男「オレ オマエ スキ」

幼馴染「うん」

男「オレ オマエ ツキアウ ワカッタ?」

幼馴染「全然わかんない」

男「……オレ オマエ スキ」

幼馴染「聞いた」

男「ダカラ オレ オマエト ツキアウ」

幼馴染「なんで?」

男「えっ」

幼馴染「だからなんで?」

男「……オレ ワカラナイ」



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:51:15.23 ID:715+DFUy0

男「へいガール!」

幼馴染「へーい」

男「俺と一緒にトゥギャザーしようぜ!」

幼馴染「いえーい」

男「まずは俺と、ゴートゥデート行こうぜー!?」

幼馴染「ルーさんそんなだっけ?」

男「あれ違ったっけ」

幼馴染「もっと使い方絶妙だったかな」

男「勉強するか……」

幼馴染「ルー語をスタディしないとね」



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:52:19.54 ID:715+DFUy0

男「俺と同じ墓に入ってほしい」

幼馴染「わかった。知り合いにそう頼んでおくよ」

男「あー違う。そういう事じゃない」

幼馴染「わかったよ。住職さんに頼んでおく」

男「ごめんそういうことでもない」

幼馴染「……アメリカにお墓つくるの?」

男「そんなシステムでもない」



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:54:12.47 id:wwW+3AiF0

男お前はできる奴だと信じてる



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:54:36.73 ID:715+DFUy0

男「Yo!Yo!」

幼馴染「ちぇけら」

男「Yo!俺、お前、好き!」

幼馴染「へい」

男「Yo!俺、告白する!Say!」

幼馴染「いえい」

男「Hey!You!俺と、付き合おうぜ!」

幼馴染「Wow!」

男「ん?それはイエス?ノー?」

幼馴染「うぉう」

男「……」

幼馴染「うぉう」



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 00:56:20.39 ID:715+DFUy0

男「ぐはっ!」

ドサッ

幼馴染「ん?」

男「はぁ……はぁ……俺ももう長くないみたいだ」

幼馴染「今度はそっちか」

男「最後に……これだけは聞いてくれ」

男「俺は……お前の事が……」

幼馴染「明日のお弁当の具、何か欲しいのある?」

男「甘い卵焼き」

幼馴染「おーけー」

男「はっ!?」



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:00:31.06 ID:715+DFUy0

男「おーいー」

幼馴染「なーにー」

男「好きだよー」

幼馴染「そっかー」

男「付き合おうぜー」

幼馴染「なんでー」

男「なんでって、そりゃ、なんでって」

幼馴染「なんでー」

男「なんでだろう」



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:01:56.97 ID:715+DFUy0

男「聞いてくれ!」

幼馴染「聞いてるよ」

男「俺は好きなんだ!」

幼馴染「卵焼きが?」

男「それもあるけど、お前の事が!」

幼馴染「うん」

男「だから付き合ってくれ!」

幼馴染「そっかぁ」

男「えっ」

男「だから付き合ってくれ」

幼馴染「そうかぁ」

男「……」

幼馴染「ごめん、ごめんね?」

男「えっ振られた」

幼馴染「そうじゃないよ」



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:03:05.41 ID:715+DFUy0

男「スデキス 逆から読んでみ」

幼馴染「素でキス」

男「逆から読んでない!」

幼馴染「感情を真逆にして読んでみたよ」

男「なんという高等テクニック」



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:04:31.62 ID:715+DFUy0

男「ピザって十回言って!?」

幼馴染「ピザ、ぴざ、ピザ、ひざ、ピザ、ピザ、ピザ、ぴざ、ピザ、ピザ!」

男「俺はお前の事が?」

幼馴染「……」

男「大好きーーー!!」

男「いええええーい!!」

幼馴染「終わったら呼んで?」

男「あ、はい終わりました。すみません」



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:06:25.05 ID:715+DFUy0

男「めっちゃ好きやねん」

幼馴染「……」

男「やっぱ好きやねん」

幼馴染「……」

男「あんたやなきゃ、あかん」

幼馴染「……」

男「うちは女でいられ……はっ!?」

幼馴染「あ、やっと気づいた?」



63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:07:32.15 ID:715+DFUy0

男「手つないで」

幼馴染「いいよ」

男「ひざまくらして」

幼馴染「おっけー」

男「ついでに耳かきしてくれる?」

幼馴染「まかせろ!」

男「あと付き合ってほしい」

幼馴染「んー」

男「何の差?」



64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:08:45.01 ID:715+DFUy0

男「もしも、もしもさ」

幼馴染「うん」

男「世界が俺とお前の二人きりだったらどうする!?」

幼馴染「農耕が大変」

男「まぁそうだけど」

幼馴染「電気が尽きる」

男「そうだけど」

幼馴染「スマホの充電切れたらどうしよう」

男「んー他にも考える事あると思うんだけど」



65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:09:41.30 ID:715+DFUy0

男「俺と付き合ってくれたら、俺の今日のサイフの中身全部あげるわ!」

幼馴染「いくら?」

男「4320円……」

幼馴染「微妙……」

男「……」

幼馴染「……微妙」

男「そんなためなくても」

幼馴染「びっみょ……」

男「ごめんて……」



66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:10:40.23 ID:715+DFUy0

男「きみのためなら死ねる!!」

幼馴染「え?本当に?」

男「えっ」

幼馴染「例えば私が『あーヒマだな、ちょっと誰か死なないかな』って言っても?」

男「う、うん」

幼馴染「あぁ……ヒマになってきたなぁ」

男「ごめん前言撤回していい?」

幼馴染「今回だけね」



68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:11:56.89 ID:715+DFUy0

男「俺の苗字になってくれないか」

幼馴染「いいよ。苗字変更の手続きって何いるんだっけ」

男「やっぱそう来たか」

幼馴染「なんでもお役所仕事って嫌だよね。苗字一つ変えるのも大変で」

男「まぁそうだけど」

幼馴染「もっとなんでもスムーズにしてくれれば……あ、何の話だっけ」

男「もういいです」



71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:13:38.70 ID:715+DFUy0

男「好きだよ!」

幼馴染「うん」

男「愛してるよ!?」

幼馴染「うん」

男「だからさぁ!!」

幼馴染「うん」

男「だからさあぁぁっ!!」

幼馴染「ごめんちょっとうるさい」

男「あ、すみません」



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:15:19.12 ID:715+DFUy0

男「……」

男「……なぁ」

幼馴染「何?」

男「……もしかしてさ」

幼馴染「うん」

男「本当は……」

幼馴染「……本当は?」

男「本当は……いやなんでもない」

幼馴染「気になるなぁ……」

男「……お、俺の事、嫌いなのか!?」

幼馴染「ううん?大好きだよ?」

男「へ」

幼馴染「大好き」

男「え」



78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:16:20.08 ID:715+DFUy0

男「じゃあ付き合おう」

幼馴染「んー」

男「何が不満なんだよー!」

幼馴染「レッツ、自分の胸に聞いてみよう!」

男「んー……」

男「男らしさが足りないとか?」

幼馴染「ニアピン」

男「なるほど」

男「ウオオオオ!!!俺と付き合おうぜええええ!!」

幼馴染「それは暑苦しいだけ」



79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:17:34.58 ID:715+DFUy0

男「俺お前と付き合ったら社長になるよ」

幼馴染「それはもはや願望」

男「……」

幼馴染「……」

男「ギブアップしたい」

幼馴染「がんばってよ。もうちょっと」

男「えー」

幼馴染「本当に好きなの?」

男「好き!!!大好き!!」

幼馴染「なら」

男「はーい……」



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:18:47.07 ID:715+DFUy0

男「月が綺麗ですね」

幼馴染「そうだねー。今日は結構きれいだよね」

男「……」

幼馴染「死んでほしかった?」

男「イメージ的には」

幼馴染「残念。また来週」

男「それちょっと長いかな」



83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:20:27.41 ID:715+DFUy0

男「……」

ガンッ!

幼馴染「すごい音したね」

男「こ、ここはどこ……?わたしはだれ?」

幼馴染「……ここは第三宇宙の中の惑星ペテルギウス。君は宇宙探検隊ノ・ッペキナラーだよ」

男「そうだったのか……」

幼馴染「さぁ、今日もあらたな遺跡を探す旅に!」

男「ごめん流石に拾えない」

幼馴染「えー?」



84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:21:28.19 ID:715+DFUy0

男「わしゃあもう長くない」

幼馴染「おじーちゃん」

男「最後に言うときたかったんじゃ、わしはお前が好きだったと」

幼馴染「おじーちゃーん!」

男「ぐふっ」

幼馴染「このパターン前やったー」

男「考え直します」



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:23:42.36 id:FiVAmCuEi

おかしな方向性に



88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:23:51.46 ID:715+DFUy0

男「ねぇ君ねぇ君ぃ」

幼馴染「なーに?」

男「今俺と付き合うと、すっごい儲かるんだよぉ?」

幼馴染「ええ!?ホント!?」

男「そうそう。もう月30万は固いよ」

幼馴染「すっごーい!」

男「で、どう?俺と……」

幼馴染「その詐欺みたいなのが、男らしいと思った?」

男「思いません」

幼馴染「じゃあ?」

男「やりなおします」



90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:25:12.27 ID:715+DFUy0

男「ワシは色恋沙汰になんざ興味はない」

幼馴染「お」

男「だからワシは……」

幼馴染「……」

男「ワシは……」

幼馴染「見切り発車?」

男「うん……」

幼馴染「男らしければいいってもんじゃないよね」

男「はい」



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:25:59.08 ID:715+DFUy0

男「ヤァ!ボクミッ」

幼馴染「ストップ」

男「……」

幼馴染「ダメ」

男「でも」

幼馴染「ダメ」

男「……はい」



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:26:58.35 ID:715+DFUy0

男「なぁなぁ、お前好きな人いんの~?」

幼馴染「うん。いるよ。目の前に」

男「えあっ……」

幼馴染「……」

男「うん……えっと」

幼馴染「言おうとしてた?」

男「……はい」

幼馴染「ちょっとねぇ」

男「……ですよねぇ」



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:28:19.99 ID:715+DFUy0

男「俺実は好きな人いるんだ」

幼馴染「そうなんだ。知ってるよ」

男「実はそれがまず髪の毛が黒くてさ」

幼馴染「スタイルがよくて?」

男「家が隣で」

幼馴染「自分より身長が少し低い?」

男「そう」

幼馴染「私だ」

男「お前だったのか」

幼馴染「暇を持て余した」

男「かみが……ん?」

幼馴染「ん?」



97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:29:43.66 ID:715+DFUy0

男「俺の何が駄目なんだよ」

幼馴染「何が駄目か言った方がいいの?」

男「えっ」

幼馴染「本当に?絶対に後悔しない?私を恨んだりしない?」

男「え、何だよ、何なんだよ」

幼馴染「構わないんだね?言っていいんだね?絶対に大丈夫だって約束してくれる?」

男「何がだよ!!何がだよぉー!!!」



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:31:32.70 ID:715+DFUy0

男「どんな感じが好きなの?」

幼馴染「ご当地ゆるキャラ」

男「……せんとくん?」

幼馴染「違うわ」

男「あぶらげんしん?」

幼馴染「そんなのいるの!?」

男「いるよあぶら」

幼馴染「……なんか脂っこそう」

男「それは偏見……」



101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:32:39.44 ID:715+DFUy0

男「好きな食べ物は?」

幼馴染「何でも好きかな」

男「そういうのじゃなくて」

幼馴染「貴方の隣で食べるなら」

男「……」

幼馴染「……」

男「……」

幼馴染「ねぇ」

男「……」

幼馴染「こっち向いてよ」

男「……」

幼馴染「……無理かぁ」



104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:33:41.75 ID:715+DFUy0

男「君の一番になりたいんだ!」

幼馴染「じゃあ私の暫定一位『お金』に勝てるの?」

男「えっ」

幼馴染「暫定2位は貴方」

男「……」

幼馴染「三位はかにみそ」

男「ごめんなんのランキング?」

幼馴染「ひみつ」



107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:34:45.38 ID:715+DFUy0

男「俺の事が好きなんだろ!!オラァ俺と付き合えよ!」

幼馴染「あぁんナマいってっといてこますぞオラ!!」

男「!?」

幼馴染「慣れないキャラはよしたほうがいいよ」

男「……そうでした」



108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:36:10.48 ID:715+DFUy0

男「俺実は委員長の事が好きだったんだ」

幼馴染「そうなんだ」

男「だからお前とはつきあえ」

幼馴染「じゃあね。好きだったよ」ポロポロ

男「……ごめんなさい嘘です許してください」

幼馴染「騙されるの好きだよねー」

男「目薬!?」

幼馴染「花粉の時期だし?」



109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:37:23.69 ID:715+DFUy0

幼馴染「実は私彼氏いるんだ」

男「!?」

幼馴染「なーんて、う……」

男「……」

幼馴染「ねぇ」

男「……」

幼馴染「ねぇ、大丈夫?ねぇ」

男「……」

幼馴染「ごめんなさい!!私が悪かったから!もどってきて!?」

男「……」

幼馴染「ごめんなさい!ごめんなさい!」

男「……ァァ」

幼馴染「意識が!」



112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:40:02.75 ID:715+DFUy0

男「どっか行ってた気がする」

幼馴染「ごめんね」

男「振られた!?」

幼馴染「違うから」

男「よかった……」

幼馴染「そんなに好きなの?」

男「地球滅亡と引き換えにしてもいいくらいには」

幼馴染「そっかぁ」

男「全世界を敵に回しても、俺は君を守る!!」

幼馴染「その時は私世界側に付くね」

男「ちょっと待って」

幼馴染「それなら、貴方は助かるでしょ?」

男「……え」

幼馴染「なーんて、詭弁だよね」

男「はい」



114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:41:13.09 ID:715+DFUy0

男「いざという時さ」

幼馴染「うん」

男「もしさ」

幼馴染「うん」

男「俺が、お前を見捨てて逃げちゃったらどうしよう」

幼馴染「追いかけるよ」

男「あーそういうことじゃなくって」

幼馴染「追いかけるよ」

男「えっ」

幼馴染「追いかけるから」

男「……うん」



118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:42:11.98 ID:715+DFUy0

男「俺はお前が好き」

幼馴染「うん」

男「お前も俺が好き」

幼馴染「そうだね」

男「じゃあ付き合う?」

幼馴染「んー?」

男「……毎回思うんだけど」

幼馴染「ん?」

男「イエスでもノーでもないのな」

幼馴染「そこがヒント」

男「むーん……」



120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:43:35.04 ID:715+DFUy0

男「付き合おう」

幼馴染「んー」

男「付き合おっか」

幼馴染「んー?」

男「付き合おうぜ?」

幼馴染「んー……」

男「付き合っちゃうかァ!」

幼馴染「んー、ん?」

男「言い方の問題じゃないのか」

幼馴染「それはもっと早くに気づこっか?」



122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:44:39.16 ID:715+DFUy0

男「好きだよ!!」

幼馴染「うん」

男「愛してるよ!!」

幼馴染「うん」

男「付き合おうよ!」

幼馴染「んー」

男「生返事すらもらえない」

幼馴染「むしろそれでいいの?」

男「よくないかも」

幼馴染「だよね」



125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:46:15.02 ID:715+DFUy0

男「S!」

男「U!」

男「K!」

男「I!」

幼馴染「Y!」

幼馴染「A!」

幼馴染「K!」

幼馴染「I !」

男・幼馴染「すき焼き!!」



男「あれ?」



126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:46:43.60 ID:7QwYHi1+0

>>125
唐突すぎww



127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:47:18.94 ID:715+DFUy0

男「俺は君を愛してるんだ!」

男「本当だよ!」

幼馴染「証拠は?」

男「えっ」

幼馴染「証拠は?」

男「……今ちょっと手元に」

幼馴染「ちゃんと用意してこようね」

男「はい」



130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:50:12.61 ID:715+DFUy0

男「いいや!限界だッ!!言うね!!」

幼馴染「次にお前は『俺はお前の事が好きだ』と言う」

男「俺はお前の事が好きだ……ハッ!?」

幼馴染「無駄無駄無駄!そんな言葉!聞き飽きたね!」

男「なら!君が頷くまで!告白するのをやめない!!!」

幼馴染「……半端なジョジョネタはねぇ」

男「……いやでもこれ楽しいよ?」

幼馴染「それは概ね同意だけど」

男「ズキューン……?」

幼馴染「そこにしびれるあこがれる」



131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:51:48.87 ID:715+DFUy0

男「俺が何度好きと言えば、君は頷いてくれるんだ!!」

幼馴染「頷いてほしいなら、そういうおもちゃにまかせれば?
ほらあの音楽に合わせて踊る花みたいなの」

男「ごめんそういう事じゃなくて」

幼馴染「それとも水注いでくれるやつがいい?」

男「ごめんそういう事でもない」



134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:53:14.26 ID:715+DFUy0

男「例えば君が、傷ついて」

幼馴染「くじけそうになったときは」

男「黙って僕が、そばにいて」

幼馴染「ひたすらほくそえんであげるから」

男「それ嫌なヤツだから」

幼馴染「それは思った」

男「俺なら一緒に痛みを共有できる」

幼馴染「そんな歌詞はない」



135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:54:31.06 ID:715+DFUy0

男「はぁ……こんなに告白しても駄目だなんて。俺は駄目駄目なんだ……」

幼馴染「そうだね」

男「そうだね!?」

幼馴染「すごくそうだね」

男「すごくそうだね!?」

幼馴染「今の心境は?」

男「泣きそうです」

幼馴染「だと思った」ニコ

男「(ここで笑顔って……)」



138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:56:04.71 ID:715+DFUy0

男「お前は可愛くて」

幼馴染「うん」

男「気立てが良くて」

幼馴染「うん」

男「頭もいい」

幼馴染「うん」

男「そんなところが好きだ」

幼馴染「私も」

男「フフ……」

幼馴染「貴方はかっこわるくて」

男「!?」

幼馴染「頭がわるくて」

男「ちょっとまって!?」

幼馴染「何?」

男「なんか違う……思ってたのと」



141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:57:42.80 ID:715+DFUy0

男「ていうかぁ」

幼馴染「うん」

男「マジぱねぇっていうかぁ」

幼馴染「うん」

男「俺たちちょーつきあうべきっていうかぁ」

幼馴染「んー」

男「だからぁ、俺マジで愛してるっていうかぁ」

幼馴染「そろそろうっとうしいかなぁ」

男「ごめんなさい」



142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 01:58:53.25 ID:715+DFUy0

男「俺と」

幼馴染「うん」

男「もこみちだったらどっちがいい」

幼馴染「もこみち」

男「!?」

幼馴染「オリーブオイル使う人って考えたら」

男「ああそういう基準……?」

幼馴染「別の基準がよかった?」

男「別の基準で聞いてたかな」



144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:00:09.14 ID:715+DFUy0

男「付き合ったら何したい?」

幼馴染「誰と?」

男「俺と」

幼馴染「……別にぃ」

男「別に!?」

幼馴染「いつも通りだと思うよ、きっと」

男「……んー」



145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:01:39.69 ID:715+DFUy0

男「くそう……俺じゃダメだっていうのか……神様ぁー!!」

男「どうした若者よ(低い声)」

男「神様!幼馴染が振り向いてくれないんだ!!」

男「ならば力を授けよう(低い声)」

男「バシューン!!うおお!!力がみなぎってくる!!」

男「今なら告白すればオーケーもらえそうだ!!」

男「うおおおお!!好きだぁああああ!!」

幼馴染「楽しい?」

男「結構」



147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:03:16.50 ID:715+DFUy0

幼馴染「好きって言葉と」

男「うん」

幼馴染「鋤って言葉」

男「うん」

幼馴染「どう違うと思う?」

男「一緒じゃん」

幼馴染「本当に?」

男「え?違うの?」

幼馴染「さぁ、ね」

男「え、違うの!?違うの!?」



151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:04:33.42 ID:715+DFUy0

ピリリリリリリ

幼馴染「もしもし?」

男「おれだ」

幼馴染「あ、詐欺ですか?」

男「違います。貴方が好きです」

幼馴染「すみません私新聞とらないんですよ」

男「だからちがっ」

ブツッ

男「……」

幼馴染「茶番に付き合ってるだけでありがたいと思うべきかな」

男「ですね。ありがとうございます」

幼馴染「よろしい」



153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:06:11.20 ID:715+DFUy0

男「ちょっとジュース買ってくる」

幼馴染「私マテ茶」

男「わかった」

――――

男「……」

幼馴染「……」

男「……!」ゴクゴクゴク

男「すっ!!ゴボッ!すぎっ!!ごぼぼ!すぎぼぁ!!」ゴクゴボゴクゴボ

幼馴染「……」

男「げほっ……げほっ……」

幼馴染「勿体ない……」

男「知ってた……」



155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:07:26.34 ID:715+DFUy0

男「……」

幼馴染「……」

男「……俺はお前が」

幼馴染「ね」

男「はい」

幼馴染「わかってる、よね?」

男「……いいえ、全く」

幼馴染「ならよし」

男「え?」

幼馴染「いや、よくないけどね」

男「!?」



156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:09:07.70 ID:715+DFUy0

男「ワレワレハ、オマエガスキダ」

幼馴染「我々?」

男「ワレワレトハ、ワタシノナカニネムル、フクスウノジンカク」

幼馴染「無理な設定いっちゃったね」

男「……ソンナコトハナイ」

幼馴染「で、宇宙人なの?人間なの?」

男「ニンゲンデス」

幼馴染「……じゃあその喋り方は」

男「シュミデス」

幼馴染「趣味かぁ……」



159:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:10:15.02 ID:715+DFUy0

男「お前が……欲しい!」

幼馴染「服が?」

男「それはちょっと変態が過ぎるかな」

幼馴染「元ネタの一方はホントに服を欲しがってるけどね」

男「え!?魔力じゃないの!?」

幼馴染「ウィッチはシェゾの服を欲しがってるよ」

男「知らなかった」

幼馴染「豆知識だね」



160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:12:13.04 ID:715+DFUy0

男「こんにちわピョン」

幼馴染「どうしたワン?」

男「あれっ、種族違った」

幼馴染「こんなところにいると悪い狼に食べられちゃうワン」

男「大丈夫だピョン、今日は貴方に思いを伝えに来ただけピョン」

幼馴染「想いワン?」

男「そうピョン、実は私貴方の事がいたいいたいいたい」

幼馴染「フハハ!!俺が悪い狼だったのワン!!」 ガブガブ

男「犬っぽいけど、犬っぽいけど!!」



162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:13:40.06 id:QZJwrYMQO

>>160
いちゃいちゃしやがって



161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:13:19.37 ID:715+DFUy0

男「おねーちゃんおねーちゃん!」

幼馴染「なぁに?」

男「ぼくね!おねーちゃんのことがすきだよ!」

幼馴染「あらあら、私もよ」

男「だからね!ぼくとつきあって!!」

幼馴染「ごめんね。私ガキに興味はないの」

男「ガキて」

幼馴染「こどもは好きだよ」

男「え!?」

幼馴染「ガキは嫌い」



164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:14:55.18 ID:715+DFUy0

男「どうしたんだ、寝れないのか?」

幼馴染「おじいちゃん」

男「あれっ」

幼馴染「そうなの。私おばけがこわくて……」

男「わかった、おじいちゃんが一緒に寝てやる」

幼馴染「おじいちゃん何歳だよ」

男「だって最初にこういうキャラでつくっちゃったんだよ!」

幼馴染「次回から気を付けようね」

男「はい」



166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:16:50.87 ID:715+DFUy0

男「ハァ!!」

男「バシューン」

男「これで悪い妖怪は退治した。安心だ」

幼馴染「テラ生まれって凄い」

男「なんかバイト数みたいに聞こえる」

幼馴染「テラバイト容量の外付けHDDってすごい」

男「あーもう完全にそっちだわ。要素がないわ」

幼馴染「で、これをどう告白につなげようとしたの?」

男「……『素敵!!抱いて!!』みたいな」

幼馴染「……告白?」

男「……告白」



168:ID変わってるけど>>1です:2013/03/12(火) 02:20:04.32 id:huc+UZxP0

男「おや、こんなところに素敵な御嬢さんが」

幼馴染「あら素敵なお方。よかったらこのマッチを買っていただけませんこと?」

男「もちろん。さぁ僕と一緒に屋敷へ」

幼馴染「まぁ素敵。4000円になります」

男「えっ」

幼馴染「4000円になります」

男「……」スッ

幼馴染「泣くくらいなら渡さなくていいから」



171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:22:15.89 id:huc+UZxP0

男「……」

幼馴染「どうしたの?」

男「ネタ切れた」

幼馴染「じゃ、諦める?」

男「そうはいかん!!」

幼馴染「そっか。じゃあ頑張ってよ」

男「……」

男「……」バッ!!

幼馴染「何?」

男「くじゃく」

幼馴染「……え?」

男「クジャクは求愛の際自分の羽を広げると言う」

幼馴染「……羽?」

男「……違います」

幼馴染「がんばれ」



172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:23:05.71 id:huc+UZxP0

男「僕と一緒に、愛の逃避行をしよう」

幼馴染「どこに?」

男「……」

幼馴染「……」

男「……熱海?」

幼馴染「……旅行?」

男「……そうかも」



176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:24:18.16 id:huc+UZxP0

男「男性に求めるものは?」

幼馴染「甲斐性」

男「えっ」

幼馴染「この甲斐性なし」

男「ええっ!?」

幼馴染「今なら挽回のチャンスをあげるよ」

男「好きだ!」

幼馴染「はいざんねーん」

男「ああああ」



177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:26:30.57 id:huc+UZxP0

男「何がだめなんだ!何が!」

幼馴染「もっと素敵な台詞が聞きたいんだけどな」

男「……いろんな台詞、試したと思うけど」

幼馴染「もっと男らしいの」

男「男らしいの……?」

幼馴染「甲斐性のあるやつ」

男「甲斐性のあるやつ!?」

幼馴染「なーんだ」

男「なんだろう……?」



178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:27:32.90 id:huc+UZxP0

男「……」

男「……思いつかん」

幼馴染「……」

幼馴染「……そっか」

男「……あの」

幼馴染「じゃあね」

男「おい!」

幼馴染「私は貴方の事、好きだよ」

男「そりゃあ、俺も」

幼馴染「だから信じてるよ」

男「えっ」

幼馴染「最後までね」



181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:28:54.91 id:huc+UZxP0

男「……俺、帰るよ」

幼馴染「そ」

男「……でも!」

幼馴染「私の事が好きって言うの?」

男「えっ」

幼馴染「私も好きだよ」

男「……」

幼馴染「でもねぇ」

男「……」

幼馴染「付き合うのも別に、嫌じゃないよ」

男「えっ」

幼馴染「ま、明日になればわかるよ」

男「……」



182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:29:27.49 ID:tO/BoZc70

明日…だと?



184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:29:40.78 id:huc+UZxP0

男「……」

男「……」

男「……」

男「……」

男「……」

男「……あ」

男「……あー」

男「……しまった」

男「……怒らせた。これは」



190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:31:47.10 id:huc+UZxP0

ヴーン ヴーン

幼馴染「……」


From男
件名 悪い
本文 もっかい公園来て


幼馴染「……えー」

幼馴染「……めんどいなぁ」

幼馴染「めんどいけど」

幼馴染「これは期待しよう。うん」



191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:33:40.96 id:huc+UZxP0

男「ごめん!!」

幼馴染「開口一番謝罪?」

男「悪かった!」

幼馴染「何が?」

男「いや、まだだ、まだだよな!」

幼馴染「何が?」

男「……これ」

幼馴染「これ」

男「……」



194:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/12(火) 02:36:37.05 id:huc+UZxP0

男「お誕生日、おめでとう」

男「そして、好きです。付き合ってください」

幼馴染「……はい正解。私も好きです」

男「じゃあ」

幼馴染「結婚しよっか」

男「えっ」

幼馴染「え?」

男「ちょっと待って、何で?」

幼馴染「え?私も好きだし、貴方も好きだから、結婚するもんじゃないの?」

男「早い!早すぎる!」

幼馴染「えー……?結婚しようよ!」

男「んー……」

幼馴染「返事が曖昧!」



                                    終わり。


転載元
男「好きです!付き合ってください!」幼馴染「ん?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1363014522/

【完全版】斎藤「あっ…!!!マーくんと身体が入れ替わった!?」

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:39:12.32 ID:rs+lzok90

田中 22勝0敗1Sでシーズンを終える

「マーくんメジャー挑戦か!?」

「メジャーで既に多くの球団が視察」

田中「…色々あったシーズンだったな」

マー君は球場の周りを自転車で走っていた

携帯をいじながら乗っていたため前方をちゃんと確認することが出来ず

ドンッ

田中「いたっ…!」

斎藤「うっ」

球場の外を走っていた斎藤祐樹とぶつかった





6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:40:19.69 ID:4cvPMMyV0

マーさん悲惨過ぎワロエナイ





7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:40:20.35 ID:9d1D8ICHi

カイエン乗れるじゃん





11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:41:31.18 id:ScWdD4vK0

里田(今晩ヘタクソだな・・・)





12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:42:06.25 ID:/hvTlW2a0

>>11
やめてやれ





元スレ
ニュース速報(VIP)@2ちゃんねる
斎藤「あっ…!!!マーくんと身体が入れ替わった!?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1380292752/
 

19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:43:18.02 ID:rs+lzok90

田中「あいてててっ…」

斎藤「っ…」

田中「大丈夫ですか…?えっと…」

斎藤「あん?お前…斎藤か……?」

田中「えっ?」

斎藤「あれ……どうなってんだこの身体……」

田中「マーくん、もしかして」

斎藤(う、嘘だろ……)

2人の身体は入れ替わっていた





31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:48:34.37 ID:rs+lzok90

斎藤 132km コンD スタE スライダー2 カーブ1

マーくん 156km コンB スタA  ツーシーム SFF6 Hスライダー4 カーブ2 チェンジアップ2 特殊能力多数

斎藤「俺が斎藤の身体と入れ替わったってことか・・・」

田中「じゃあ、そういう訳でよろしく」

斎藤「お、おい!なんでそんなに冷静でいられるんだよ?」

田中「なんでって…こんなに素晴らしい選手の身体を手に入れることが出来たからね」

斎藤「ふざけるな…!!俺の身体だぞ!!」

田中「地位も…名誉も……力も全て手に入った…!!」

斎藤「返せよ俺の身体!!」

田中「じゃあ、僕はこれで帰るよ。来シーズン楽しみにしておいてくれ。」

斎藤「だ、誰か…!!そいつ斎藤です!!捕まえてください!!」





44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:54:45.06 ID:rs+lzok90

斎藤は入れ替わった事に対して乗り気である

それもそのはず、現在成績不振の斎藤にとって田中の身体と入れ替わることが出来るなんて

願ってもないことであった

途方に暮れ球場の外をトボトボと歩いている斎藤(田中)

斎藤「はぁ…これから俺はどうすればいいんだ…」

斎藤「確か斎藤って2軍でも成績が振るわないって聞いたし」

斎藤「1軍のマウンドで投げることなんてもう出来ないのか…」


ガチャッ

田中「ただいま」

里田「おかえり~、夕飯の用意してるからもう少し待っててね?」

田中(うは…すげぇ…里田さんって確か料理すごい上手いって聞いたことが…)





51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/27(金) 23:58:11.16 ID:rs+lzok90

-1時間後‐

里田「お待たせ!」

スッ

田中「…!!!」

手作りの料理が田中(斎藤)の前に並べられた

田中(ど、どれだけ作ったんだ…5品…いや7品もある……)

里田「メジャー挑戦の為にもしっかりと身体作らないとね!」

田中「フフフ」


斎藤「あっ…食堂閉まってる…」

斎藤「仕方ない、なにかコンビニで買いに行くか…」

斎藤は自転車に乗って近くのコンビニへと向かった





57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:03:21.26 ID:rs+lzok90

‐コンビニ‐

斎藤「…ふう」

店員「いらっしゃいませえ」

小学生「あっ!斎藤選手だ!!」

斎藤「や、やあ」

小学生B「斎藤って全然あかんやんw」

小学生「どうしていつも2軍にいるんですか?」

斎藤「……っ」

斎藤(どうして俺がこんな目に…本当は俺はマーくんなんだ…)

小学生B「斎藤のフォームって左足が棒立ちになってるからあかんねんってw」

小学生「斎藤選手は甲子園でマーくんに投げ勝ったんだぞ!」

斎藤「…!」

小学生「そんなんマグレや、今では2軍ですら結果残せへん投手に成り下がってる」





64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:07:54.64 ID:rs+lzok90

小学生B「斎藤はもう再起できひんわw」

小学生「そんなことない…!!」

小学生の1人は今にも泣きそうな顔をしていた

それを見た斎藤(田中)はチョコバットを箱買いした

斎藤「これ、2人で分けてくれ」

スッ

小学生「ちょ…チョコバットだ!!」

小学生B「年棒低いのに無理すんなや」

斎藤「確かに今は成績不振に悩んでいるけど」

斎藤「約束するよ、必ず来シーズンでは俺とマーくんが投げ合えるぐらいに成長するって」

小学生「ほんと!?」

小学生B「そんなん嘘や!!!」

斎藤「君達と俺の約束だ」





71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:11:51.03 ID:rs+lzok90

斎藤(田中)はコンビニを立ち去り

自転車をコンビニ前に置いたままランニングにへと向かった

斎藤(どん底から這い上がってやる…!)


田中「メジャーはまだ挑戦しないことにしたんだ」

里田「え!?気持ちが変わっちゃったの?」

田中「もう少し国内で野球をしていたいんだ」

里田「……そう、でもそれは貴方が決めることよね」

田中(国内でもっと暴れまくって歓声を浴びたい…!早く試合がしたい…!)





82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:16:53.29 ID:rs+lzok90

開幕前のキャンプがいよいよ始まった

ズバンッ

スパンッ

田中「フンっ…!!!」

嶋「ナイスボール!」

星野「今年も調子良さそうやな…もう俺からは何も言うことないわ」

田中「ありがとうございます」


斎藤「ハァハァ…」

ブルペン入りでアピールをするつもりだったが

50球を投げ終えた辺りで息切れが始まった

栗山(今年もダメそうだな…開幕投手は翔平でいこう)





93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:22:08.50 ID:rs+lzok90

斎藤(あれだけ走り込みと投げ込みをしたのに…スタミナが全然ついてない…)

鶴岡「斎藤、もうやめとくか?」

斎藤「もう1球…もう1球投げさせて下さい…」

鶴岡「お前は一応、前のシーズンに怪我してたんだから無理するなよ」

斎藤「お願いします…」

鶴岡「わ、分かった」

鶴岡(いつもと雰囲気が違う気が…気のせいか)

斎藤(田中)のコントロールが少し上がった、スタミナが上がった


記者「斎藤はどうアピールしてももう無理だろうな~」

記者B「お、おい!!次大谷がブルペンで投げるぞ!!」

記者「…!!」

ブルペンの真ん中の位置に大谷が入って来た

大谷「よろしくお願いします」





100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:27:32.30 ID:rs+lzok90

記者「打者としては落合の才能、投手としてはダルビッシュの才能を持つ大谷…!」

記者「今シーズンがますます楽しみだな」

パシャパシャッ

栗山(翔平は開幕投手決定だな…マスコミの話題にもなる)

斎藤「大谷翔平…去年は打者としても投手としても出てたんだったな…」

ズパンッ

鶴岡「ナイスボール!」

大谷「…」

斎藤(良いストレートを投げるが、まだまだだな…)

記者「そういえば、この後大谷はバッティング練習もするんだろ?」

記者B「ああ、二刀流だからな」

斎藤(打撃練習…)





108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:32:03.11 ID:rs+lzok90

ブルペンから移動し次は打撃練習に移る大谷

カーァンッ

記者「おお…これも柵越えだ」

打撃練習をしていた大谷に斎藤(田中)が詰め寄った

栗山「なんだ斎藤、お前はもう帰っていいぞ」

斎藤「大谷と1打席勝負させてほしいです」

栗山「なにを言ってるんだ…キャンプでそんな真似が出来る訳ないだろ」

斎藤「いや…実戦の勘を取り戻したくて」

栗山「お前は走ってろ、1軍のレベルに到達すらしていない。大谷と1打席勝負なんて認めん。」

大谷「斎藤さんが良いなら、僕は構いませんよ」

栗山「よし、じゃあ1打席だけ許可しよう」





109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:33:04.73 ID:1OjpBA8M0

大谷良いやつwwww





113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:36:41.15 id:v3TP1zh70

>>109
イイヤツじゃねーぞコレ完全に舐めきった後輩の態度だろ





114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:38:03.67 ID:rs+lzok90

記者「お…斎藤と大谷の1打席勝負が始まるぞ…!」

パシャッパシャッ

記者B「元甲子園優勝投手vs10年に1人の逸材か」

斎藤「サインはどうしますか」

鶴岡「好きに投げてきていいぞ、あくまで開幕前の調整だしな」

斎藤「…はい」

大谷がゆっくりと打席に入り構えた

斎藤(フォームが本当に綺麗だな…打者としてやっていた方が良い気が…)

斎藤もロージンバックを拾い上げポンポンっと両手にまんべんなく付着させた

斎藤(田中)が大きく振りかぶり第1球を投げた

ピシュッ

ズバンッ

栗山「ストライクーー!」

初球はアウトコース低めにストレートが決まった





115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:41:57.10 ID:rs+lzok90

斎藤「…っし!!」

初球ストライクが入った

記者「それにしても相変わらず球威はないな」

記者B「投手としての能力も大谷に越されたんじゃないか?」

斎藤(次も同じコースを突いてみるか…大谷はあまりアウトコースが好きじゃなさそうだしな)

大谷(スピードもキレも大したことないな、2球目で仕留めよう)

2球目

斎藤が振りかぶり投げた…!

134㎞のストレートがアウトコースを襲う

大谷「…!」

カキーンッ





119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:43:47.42 ID:2d5sNgS20

>134㎞のストレートがアウトコースを襲う

なんか笑った





122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:45:15.23 id:v3TP1zh70

>>119
特に理由のない暴力と同じ香りがするけど事実なのが悲しすぎるわwwwww





121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:45:02.48 ID:rs+lzok90

アウトコースの球を大谷が完璧の捉え

打球は右中間フェンスを直撃

記者「だ…打球の速さが日本人離れしてやがる……」

大谷「斎藤さん、ありがとうございました」

ヘルメットを取り頭を下げた大谷

そのまま大谷はベンチ裏にへと立ち去っていた

栗山「これで満足か?斎藤」

斎藤「…」

栗山「開幕投手は大谷でいく、お前は2軍だ」

斎藤「……!!」





131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:50:40.67 ID:rs+lzok90

―シーズン開幕―

田中「うおおおおおおおお!!!」

ズバンッ

実況「空振り三振ーーーー!!開幕投手田中!見事開幕戦を勝利で収めました!!」

記者「ええ、今日の試合どのように感じられたでしょうか」

田中「やっぱり自分は持ってるな…ってw」

記者「…は…はは、同期の斎藤投手の真似ですね」

田中「背負ってモノが違いますから」

記者(こいつ田中か…?)


―ファーム試合―

大嶋「斎藤さん、よろしくです」

斎藤「…お前は確かソフトボール出身の」

大嶋「大嶋っすよ!ソフトボール出身で珍しいって最初だけ言われましたよ」





137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 00:55:30.11 ID:rs+lzok90

大嶋「そういうところ斎藤さんに似てるんすよね~」

斎藤「俺に…?」

大嶋「だって斎藤さんもプロ入りした時は騒がれてましたけど…」

斎藤「……過去は過去だ」

大嶋「ですよね!俺もたぶん、今年結果出なかったらどうなるか分かんないですし」

斎藤「1軍には上がったことがないのか?」

大嶋「ないですよ!下手投げから上手投げの投手に対応するのって思ったより難しくて…」

斎藤「勿体ないな、スイングスピードはメジャー級だって聞いたが」

大嶋「ソフトの世界だけの話ですよ!」

斎藤「……そうか」

大嶋「あ、もうすぐ試合始まりますんで準備してきますね」

タッタッタ





148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:00:55.66 ID:rs+lzok90

ファームの試合が始まった
相手はロッテのファームチームだ

1回の表、ロッテの攻撃は1番センター加藤から

加藤「ッシャッス」

大嶋「サインは任せますね、俺リード力とかないんで」

斎藤「…ああ、頼んだぞ」

大嶋「それじゃ、そういうことで」

斎藤「大嶋」

大嶋「はい?」

斎藤「…俺は今シーズン前半戦で1軍昇格を目指す」

大嶋「え!?そんなの無理っすよ…!今の斎藤さんじゃとても…」

斎藤「俺は本気だ」

大嶋(斎藤さんってこんな熱い人だったっけ…)

斎藤「…俺がお前も一緒に1軍に連れて行ってやる」

大嶋「!!」

斎藤「一緒に這い上がるぞ」





149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:01:35.38 ID:p/q8BLRi0

マーさんかっこよすぎ濡れる





150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:02:41.52 id:gv2PAyM70

やだかっこいい…





151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:04:27.54 id:tSEbWg8p0

魂まで気高いとかカンペキやん・・・





155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:07:52.16 ID:rs+lzok90

大嶋(クソッ…斎藤さんからあんな事を言われるなんて…)

大嶋(正直、プロの世界に入っただけで俺は満足してしまってた…)

大嶋(いつでも辞めるつもりだった……でも…!)

斎藤が振りかぶって第1球を投げた

ズバンッ

大嶋(あんたの球を1軍という舞台で受けたい…!!)

審判「ストライクーーーー!!」

この日をきっかけに2人の友情は深まることに


亀梨「田中選手、開幕勝利おめでとうございます」

田中「はは…どうも。まあ座ってくださいよ亀梨さん。」

亀梨「あ、ではお言葉に甘えて…」

田中「で、今日は何の用ですか?またwentのつまらない企画ですか?」

亀梨「い…いえ!今日は田中選手のインタビューを…」

田中「はぁ~いいですよ、wentってスポーツ番組としてはイマイチですよね」

亀梨「…」





158:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:09:29.75 id:tSEbWg8p0

この斎藤さんは果たして改心するのか





164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:15:21.97 ID:rs+lzok90

亀梨「今年改めて自分のピッチングをどう感じられましたか?」
田中「やっぱり自分は持ってるものが違うな…と」
亀梨「それは確か斎藤選手の…」

田中「斎藤は甲子園では良いライバルでしたよ」

亀梨「そうですね、06年に決勝で投げ合った2人ですから」

田中「早く1軍に這い上がってきて欲しいものですね」

亀梨「ファンの皆さんもそれを期待されていると思いますよ」

田中「亀さん、時間空いてる時だったらwentのキャッチボール企画付き合いますよ」

亀梨「あ…ありがとうございます」


西「斎藤、今日のピッチング良かったぞ」

斎藤「…ありがとうございます」

西「6回まで1失点、去年のシーズンに比べると大分良くなってるぞ」

斎藤「1失点じゃダメです。無失点に抑えないと。」

大嶋「まぁ~でも今日は良しとしましょうよ」

西「大嶋、今日は全打席三振だったな」

大嶋「…ッス」





173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:20:36.08 ID:rs+lzok90

田中「ただいま」

ガチャッ

里田「おかえりなさいー」

妻の里田がすぐに玄関にまで迎えにきてくれた

田中「ふう、インタビュー疲れたよ」

里田「お疲れ様、お風呂とご飯の用意出来てるわ」

田中はお風呂とご飯よりも真っ先に今日の試合動画を録画したビデオで見始めた

田中「まい、一緒に今日の試合を振り返ろう」

里田「え?ご飯はいいの?」

田中「いいから、早く」

グイッ

里田「う、うん…」

それから今日の試合動画を5回程繰り返し振り返った

田中(今日の僕の投球内容かっこよすぎだろ…たまんないなぁ)





177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:24:36.96 ID:rs+lzok90

斎藤「大嶋、今日はどこかで食べに行くか」

大嶋「っす!コンビニのカップ麺が食べたいです!」

斎藤「お前なぁ…そんなのばっかり食ってた身体に悪いぞ」

大嶋「丸ちゃんの食べたいんです」

斎藤(こんな時に手料理を作ってくれる妻がいれば……)

大嶋「あ!俺コンビニのフランクフルトも食べたいです!」

斎藤「分かった、俺が全部出してやるよ」

大嶋「アザッス」


近くの公園でコンビニ食を食べている2人

大嶋「斎藤さん」

斎藤「なんだ?」

大嶋「どうして今日、俺にあんなことを言ってくれたんですか」





179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:27:43.89 ID:rs+lzok90

斎藤「お前も俺と似てるからだ」

大嶋「そうっすよね…最初だけマスコミに大きく取り上げられて」

大嶋「結局、活躍しないと思ったらポイッっすからね」

斎藤「プロの世界ってのはそんなもんだろ、生き残るのは難しいことなんだ」

大嶋「斎藤さん…なんか最近おかしいっすよ…」

斎藤「え?」

大嶋「最近まで目が死んでたのに、今の斎藤さんは目に闘志が宿ってるっていうか…」

斎藤(鋭いな…俺が体を入れ替わったことを言ってやりたいな…)

大嶋「まるで田中投手みたいっすよ!!」

斎藤(……)





185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:32:16.34 ID:rs+lzok90

それから1ヶ月近くファームで投げ込んだ斎藤

徐々に斎藤の身体にも慣れ投手としての能力が伸びて来た

139km コンD スタC スライダー4 カーブ2 SFF3 ピンチ○

西「斎藤、今日も良いピッチングだったぞ」

斎藤「いえ…大嶋のホームランに助けられました」

大嶋 ミE パB 走E 肩F 守F 粘り打ち

西「大嶋、お前も最近バッティング良くなってきたぞ」

大嶋「は、はい!ありがとうございます!」

西(このまま上手くいけば今シーズンの終わりぐらいに1度1軍に上げてもいいかもしれんな)





187:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:37:26.69 ID:rs+lzok90

―交流戦突入前―

実況「マーくん!!今日も勝ったァァ!!!」

田中「ッシャァ!!」

実況「未だに無傷の連勝記録が伸び続けています!!」


西「斎藤、大嶋!お前達明日から1軍だ!」

斎藤「…!?」

大嶋「お、俺達が…1軍……?」

西「1軍の大野、鶴岡、ウルフが怪我で抹消された」

大嶋「1軍キャッチャー2人も抹消されるじゃないすか!!」

西「だから、最近2軍で好成績を残している大嶋を昇格させることになった」

西「斎藤はウルフの代役…もあるが大谷がやはりまだ先発として機能できていない」

斎藤「それで俺が1軍に……」

西「ああ、俺から見ても今のお前達なら十分に1軍でやっていけるはずだ」





201:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:42:56.67 ID:rs+lzok90

稲葉「斎藤、大嶋…待ってたぞ」

陽「ヨォだ」

大嶋「い、稲葉さんに陽選手だ!!すげぇ!!!」

斎藤(ついに1軍へ上がれた…後は結果を残せるかどうか…)

栗山「斎藤、大島。ちょっと監督室に来い。」

斎藤「…はい!」


栗山「1軍昇格おめでとう」

斎藤「ありがとうございます」

栗山「早速だが、交流戦の初戦でお前達をスタメンで出そうと思う」

大嶋「…!!」

斎藤「俺達バッテリーをですか…?」

栗山「ああ、相手は巨人だ。現在セリーグの1位で相手としては十分だ。」

大嶋「巨人…すげぇ……」

栗山「恐らく向こうは2年目の菅野をぶつけてくるだろう」

斎藤「…菅野…!去年ルーキーで2桁勝利をあげた投手…」





208:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:49:48.98 ID:rs+lzok90

栗山「そこでお前達2人の実力を拝見させてもらおう」

斎藤「…分かりました」

栗山(マスコミが喜びそうだしな)


―東京ドーム―

坂本「日ハムの先発、斎藤らしいですね」

阿部「ああ、面白い試合になりそうだ」

菅野「ニヤッ」

阿部「なにニヤついてるんだ菅野」

菅野「いえ…なんにもw」

菅野(斎藤とか勝ち星楽にゲットできるぜ)

菅野(過去の栄光投手は俺が完膚無きまでに叩き潰してやる)


実況「えー、今日からセパ交流戦がスタート!」

実況「ここ東京ドームで日ハム対巨人の1回戦が行われます!」

解説「はい、どうも」





209:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:51:56.59 id:UN1nFrdl0

菅野うぜえwwww





210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:52:44.39 id:EBTU4A0L0

勝て……!勝つんだ、マー君……!





213:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:54:53.52 ID:rs+lzok90

実況「今日の両チームの先発はこのようになっております」

日ハム 斎藤

巨人 菅野

解説「まさか斎藤選手と菅野選手の投げ合いが見れるとは思いませんでしたねぇ」

実況「ええ!しかもマスクを被るのは同じく1軍に上がったばかりの大嶋です!」

解説「非常に楽しみですねぇ」

「1番ライト…長野」

ドワァァァ

大嶋「こ、これが1軍の歓声…足が震えます斎藤さん…」

斎藤「場の雰囲気に呑まれるな」

大嶋「・・は、はい!」

斎藤「勝つぞこの試合」

大嶋「っす!!」





214:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:56:02.52 id:OdqFDPH50

さすが中身は田中だから落ち着きがある





216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:57:17.75 ID:rs+lzok90

長野「…」

実況「さぁ、1番長野がゆっくりと打席に入りました」

解説「最近調子が良いですからね気を付けないといけませんよ」

大嶋「…ゴクリ」

実況「斎藤!第1球を投げました!!」

ピシュッ

ズバンッ

審判「ストライクーーーー!!」

実況「ああっと!低めに141kmのストレートが決まりました!!」

大嶋(今日も良い球だ…これなら巨人打線を抑えれる…)

菅野「ニタァ」





217:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 01:57:29.92 ID:p/q8BLRi0

菅野のゲスっぷりwwwww





222:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:00:28.92 ID:rs+lzok90

2球目はボール

3球目はスライダーで空振りを取りツーストライク

実況「斎藤!早くも長野を追い込みました!!」

解説「良いテンポですねぇ」

大嶋(最後はスプリットを振らせましょう…)

斎藤は静かに大嶋のサインに頷いた

ビシュッ

長野「…ンフッ!!!」

カキーンッ

斎藤「…!!」

実況「長野の打球は……!!?レフトに高ーーーく上がった!!!」

長野の打球はレフトフライかと思われたが

そのままレフトスタンドにへと吸い込まれていった





223:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:01:25.38 id:Cnz6HlPb0

ドームランの魔の手に…





224:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:01:28.34 ID:h+rp9xAN0

ドームランかよ





229:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:03:37.61 ID:rs+lzok90

巨人1 日ハム0

実況「1回の裏!巨人が早くも長野のバットで先制しました!!」

斎藤「…クソッ!」

大嶋「スプリットが落ちなかったですね…」

斎藤(まだスプリットの精度がダメだ…これじゃ使えない…)

「2番 センター松本」

実況「次は2番センター松本です!!」

解説「足もある選手ですからねぇ、塁には出したくないですよ」

続く2番松本には四球を与えノーアウト1塁で

巨人打線のクリーンナップを迎え撃つことに





232:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:06:27.40 ID:rs+lzok90

「3番 キャッチャー阿部」

実況「ここで3番阿部です!!3番阿部、4番村田、5番高橋!」

実況「最強クリーンナップです!!」

斎藤は阿部に対し初球アウトコースに投げ込もうとしたが

力みすぎワンバウンドボールに

大嶋「…!!」

スタートを切っていた松本は楽々と2塁へと進塁

実況「ああっと!!バッテリーの間でミスが起こりノーアウト2塁!!」

解説「これはいけませんねぇ」

栗山「…チッ」

実況「自らのミスでピンチを広げてしまいました斎藤!!」





239:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:08:58.77 ID:rs+lzok90

大嶋「す、すいません…斎藤さん…俺がちゃんと捕球できなくて…」

斎藤「…大丈夫だ、これ以上点は取らせん」

大嶋「…斎藤さん」

斎藤「しっかり俺のボールだけを見ていてくれ、俺はお前を信じてそこへ投げ込む」

大嶋「…っす」

実況「マウンドに駆け寄った大嶋、再び元の位置に戻ります!」

菅野(こりゃ初回で6点ぐらい入りそうだな)

斎藤はマウンドで闘志を放つ

振りかぶり、阿部に対し第2球目を投げ込んだ

ククッ

スパンッ

阿部「…!?」





243:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:11:19.64 ID:rs+lzok90

実況「2球目スプリットが決まりましたァ!!」

解説「予想外のボールですね、阿部選手も手が出ませんでしたよ」

実況「しかし、ボールです!これでノーストライクツーボール!」

斎藤(大嶋…もう1度同じ球だ)

大嶋(に、二球続けてスプリット…!)

ビシュッ

阿部「…スプリット……!」

カキィーーーンッ

実況「阿部の痛烈な打球は1、2塁間を抜けたァァ!!!!!」





246:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:14:49.39 ID:rs+lzok90

痛烈な打球はライト大谷を襲う

大谷は冷静にボールを処理した

斎藤「く・・・」

大谷「…フンッ……!!」

2塁ランナー松本が3塁に進のを見て

大谷は3塁に向かってレーザービーで返球

ビシュッッ!!!

実況「物凄い返球が3塁に投げ込まれたッァアァァ!!!!!」

松本「…!!」

ズサァッ

松本はすぐさま頭から滑り込むも判定は…

審判「アウト―――――ッ!!!!!」

ライト大谷の好返球により松本の3塁進塁を阻止した

実況「素晴らしい大谷!!大谷の返球!!大谷!!大谷が魅せた!!!!!」





256:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:20:12.36 ID:rs+lzok90

斎藤「…大谷……」

大嶋「あいつやっぱすげーっすね…お陰でワンアウト1塁になりましたし」

斎藤「今回は助けられたな」

実況「ですが、続いて4番の村田です!」

解説「ここ5試合の打率が6割を超えてるんですよねぇ」

実況「ええ!本人も不振に悩んでいた時期よりも遥かにボールが見えるようになったと話していました!」

斎藤「…っし」

斎藤は再度気合を入れ直し村田を迎え撃つ

大谷の好返球に触発されたのか、村田を簡単に追い込んだ

ヒュンッ

スパンッ

審判「ストライクーーーー!!バッターアウト!!」

実況「スプリットで村田を空振り三振に取りましたァァァ!!」

解説「まるで楽天の田中投手みたいですね」





260:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:22:51.76 ID:rs+lzok90

ズバンッ!!

実況「アウトコースいっぱいに決まった!!手が出ないか高橋!!」

4番、5番を連続三振で仕留めた斎藤(田中)

斎藤「…ッシャァ!!!」

マウンドでガッツポーズ

大嶋「ナイスピッチングです!」

大谷「良い球ですね」

斎藤「…大谷、さっきの返球は助かった」

大谷「あんなの当然のプレーですよ」

斎藤「素直じゃないな」

大谷「次、僕に打席が回りますから…キッチリと取られた分、僕のバットで取り返してきますよ」

斎藤「…大谷」





261:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:23:25.69 ID:p/q8BLRi0

解説陣が地味にいい味出してるww





264:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:24:28.68 id:IJ6+Lq7d0

これはいい試合





265:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:24:37.70 id:TfdV6dkQ0

大谷かっこいいな





267:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:24:54.89 ID:p/q8BLRi0

大谷イケメンすぎる





272:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:28:02.79 ID:rs+lzok90

「バッターは4番 ライト大谷」

ドワァァァァァ

実況「さぁ!!大谷翔平、注目の第1打席です!!」

解説「4番に大谷君を抜擢したのは栗山監督、思い切りましたねぇ」

実況「1回の表は巨人菅野に三者凡退で抑えられました日ハム打線!!」

実況「大谷が果たして口火を切ることが出来るのでしょうか!」

大谷「…」

スッ

菅野「ニヤニヤ」

菅野(なにが二刀流だ、舐めた事言いやがって)

ビシュッ!

大谷「…!」

スパンッ

実況「おおっと、第1球目大谷の顔面付近にボールが投げ込まれました!」

解説「コントロールミスでしょうかねぇ、相手が大谷くんということで菅野くんも力んだんでしょう」





274:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:29:23.07 id:efh8c6p+0

菅野どんだけ小物なんだww





275:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:29:55.46 ID:+vCI4Bz50

菅野うぜぇーwwwwwwwwww





276:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:29:58.52 id:tSF+QN+N0

菅野クズ過ぎだろwwwwwwww





279:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:30:50.33 ID:rs+lzok90

菅野「ニタァァ」

大嶋「あの浪人野郎…!帽子ぐらい取れよ!!」

稲葉「落ち着け大嶋、菅野くんのコントロールミスだ」

斎藤(わざとに見えたが……)


阿部(ふぅ、もう少しで顔面デットボールだったぞ)

菅野「ニヤニヤ」

実況「気を取り直して菅野第2球を投げました!」

ズバンッ

実況「低めに149kmのストレートが決まったストライク!」

大嶋「…は、はええ…」

稲葉「素晴らしいコースだ…今のは手が出ないな」

斎藤「2年目とは思えない……」





283:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:33:33.77 ID:4Nvy53Rv0

ニヤニヤうぜえwwwwww





284:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:33:49.72 id:PSensgEk0

ニタァァやめろwwww





285:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:34:38.90 ID:rs+lzok90

3球目は大谷がかろうじてファールボールに

実況「追い込まれました大谷!!」

解説「阿部選手が内に構えましたねぇ、カットかスライダー来るかもしれませんよ」

ビシュッ

大谷「……インコース…!」

ククッ

スパンッ

振りに行った大谷だがバットは空を切った

審判「ストライクーーー!!バッターアウト!!」

実況「菅野!!インコースに素晴らしいカットボールを投げ込みました!!」

大谷「……くっ……」

菅野は電光掲示板の方向に身体を向けた

菅野「笑うな…堪えろ……まだ笑うな……(ニタァァ」





287:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:35:57.37 id:bPxfjIpO0

菅野うぜぇwwwww





288:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:35:57.55 ID:/O2MPWS80

菅野ゲス杉んだろww





295:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:39:08.54 ID:rs+lzok90

続く5番小谷野は初球を打ち上げファーストフライに倒れた

「6番・・・キャッチャー大嶋」

ワァァァァァ!!

実況「沈黙する打線の中!まだこのバッターがいます!!!」

解説「1軍初打席じゃないですかねぇ」

大嶋「お願いしァァッッシャァァァッス!!!」

菅野(うぜーな、こういう奴…黙って三振してろよ四流打者)


大谷「すいません、でかい口を叩いておきながら」

斎藤「気にするな、菅野も良い投手だ」

大谷「絶対に…絶対に捉えてみせます……」





304:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:43:51.96 ID:rs+lzok90

実況「2回の攻撃、結局三人で終わりました日ハム打線」

解説「素晴らしい立ち上がりですね菅野くんは」

実況「去年は新人王こそ逃していますが、既に球界を代表するエースと呼んでも過言ではありません!」


菅野「ふぅ」

原「どうだ、今日の調子は」

菅野「余裕だよ叔父さん、なんならノーヒットノーランでもしようか?」

原「ハハ、それも良いな」


2回の裏、斎藤は変化球主体の投球内容に変え

巨人打線の6番からの攻撃を三者凡退で封じる

菅野「…ったく、もうちょっと点ぐらい取ってくださいよ…!」

ロペス「ゴメンナサイ…」





312:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:49:25.11 ID:rs+lzok90

稲葉「斎藤、ナイスピッチ」

斎藤「…初回に点を取られて申し訳ないです」

杉谷「気にするな」

陽「俺達がなんとかしてみせるヨォ」


しかし、なんとか菅野を捉えようとする打線だったが

7~8番の杉谷、中島は菅野の前に凡退する

そして打席には9番の斎藤がバッターボックスに

斎藤「…ふぅ」

菅野「ククッ…やっと来たか……ビビって逃げんなよ3流投手」





316:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:52:52.30 ID:rs+lzok90

阿部(ここはど真ん中3つでいい、テンポよく終えろ)

菅野「ニタァ」

斎藤(菅野は確かに良い投手だ)

斎藤(俺が同じ投手として考えるなら……)

実況「斎藤に対して菅野第1球投げました!!」

ビシュッ

斎藤「…初球はお前が最も自信としてるスライダー…!!」

カキーーーンッ

菅野「…!!?」

実況「斎藤!!なんとセンター前ヒットォ!!」

解説「スライダーを投げましたけど、少し曲がりが弱かったですねぇ」

大嶋「よおおおおし!!斎藤さんが出たぞおおお!!!」

栗山「俺は信じていたぞ」

菅野「…ハハハ…投手に打たれた……」





318:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:54:07.14 id:Nntdr94p0

菅野ざまぁ





327:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 02:57:26.02 ID:rs+lzok90

菅野「…ふっ……ざっ…けんなよ……!!!!!!」

ズバンッ

審判「ストライクーーーー!!バッターアウト!!」

実況「今日最速!!152kmのストレートで1番西川を三振に抑えました!!」

解説「あれは手が出ませんよねぇ」


菅野はベンチに戻りふて腐れていた

原「どうした、菅野」

菅野「なんで俺があんなピッチャーなんかに打たれるんだよ…!!」

原「すまん、叔父さんの所為だ」

菅野「そうだよ!叔父さんが悪いんだよ!!」

阿部「菅野、次お前からだぞ」

菅野「…はい」

ヘルメットを被り打席にへと向かう菅野





332:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:00:53.16 ID:rs+lzok90

実況「3回の裏!ジャイアンツの攻撃は9番の菅野からです!」

大嶋「じゃあ、ストレート主体で」

斎藤「ああ、次の1番長野に集中したいからな」

大嶋「ウーッス」

菅野(クソ……俺に屈辱を与えやがって……)

解説「菅野くんはバッティングも悪くはないですからねぇ」

菅野(ピッチャー返しだ…それであいつの顔面を破壊してやる…)

第1球振りかぶり、菅野に対して投げ込んだ





336:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:04:06.99 ID:rs+lzok90

パァンッ

審判「ストライクーーーー!!バッターアウト!!」

斎藤「…シャァッ!!」

実況「マウンドで斎藤が雄たけびを上げた!!菅野空振り三振!!」

菅野「…くそが…!!!」

バットをその場で叩き付け悔しがる菅野

俺はお前に打たれたのに、なぜ俺は打てない

そう何度も心の中で悔しがった菅野

実況「さぁ、ここからジャイアンツ2巡目の攻撃に入ります!」

斎藤「…」

大嶋「2巡目…気を付けた方がいいっすね…」





344:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:08:47.80 ID:rs+lzok90

大嶋の読み通りこの回で一気にジャイアンツが斎藤を畳みかける

実況「ヒットと四球でワンアウト1、2塁!!」

解説「次は4番の村田くんですねぇ」

斎藤「…くっ…思った以上に制球が出来ん……」

栗山「やはり斎藤は2軍のレベルだな…」

栗山「翔平の足元にも及ばん」


菅野「もうスタミナ切れか、2軍生活が長かったもんな」

実況「4番の村田!今日第1打席は空振りの三振を喫しています!」

解説「村田くんも抑え込まれたまま黙ってはいませんよぉ」

斎藤「……ッシャ」

ビシュッ

実況「初球!!村田に投げた!!」

コンッ

大嶋「ば……バント!?」





350:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:12:34.76 ID:rs+lzok90

4番村田の意表をつくバント

完全に不意をつかれた斎藤は処理に遅れを取った

実況「1塁投げられません!!!ワンアウトランナー満塁!!!」

解説「原監督も思い切りましたねぇ」


大嶋「た、タイム!」

実況「大嶋がタイムを取り斎藤の下へ向かいます」

斎藤「予想外だった…4番の村田選手がバントをしてくるなんて…」

斎藤「昨シーズン、阪神戦で同じような攻め方をしていたのを忘れていた…」

大嶋「ど、どうします…ランナーフルベースですけど」

斎藤「それでも俺の投球スタイルは変わらん…無失点に抑えるだけだ…!」





354:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:16:28.07 ID:rs+lzok90

斎藤(田中)の闘志が一層燃えたぎる

ピンチを迎えれば迎えるほど彼のギアは上がっていく

実況「高橋に対して第1球を投げた!!」

ククッ

ブンッ

審判「ストライクーーーーー!!」

実況「なんと、ランナー満塁で初球スプリットを投げ込みました!!」

解説「強心臓ですねぇ斎藤くんは」

実況「まるで別人のような斎藤!!!」

斎藤(高橋選手は天才だ…アウトコースに投げても綺麗にスタンドにまで運ばれる…)

斎藤(だから、ここは強気の攻めで…!)

ビシュッ

実況「今度はストレートだああああ!!」

高橋「…!」

カァーーーンッ





359:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:20:34.02 ID:rs+lzok90

打球は高く上がりフェンスギリギリで陽がボールを捕球

3塁ランナーがタッチアップでホームに生還

2アウトとしたものの、巨人に2点目が入った

斎藤「……くっ」

実況「もう少しでホームランという当たりでした!!」

高橋(今の球威でバットの根元が折れた…か)

6番ロペスは内野フライに打ち取りこの回をなんとか凌いだ

……



実況「4回の表!菅野が2アウトまで持ち込みました!」

実況「打席には今日2回目の対戦となる大谷!」

稲葉「菅野くんのエンジンがかかってきたな…ますます打ち崩しにくいぞ」





364:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:27:03.45 ID:rs+lzok90

大谷「…」

バットを持ちホームベースの真ん中をバットでチョンと1回叩き

菅野と正対

菅野「…ッシ!!!」

実況「インコースに深くえぐり込むカットボールが決まった!!」

大谷(初回対戦した時より変化球のキレが良くなってる…)

ビシュッ

大谷「…そこだ!」

カキーーンッ

菅野「…!」

実況「大谷打ったーーー!!!大谷の!!大谷の打球は!!大谷の打球はライトへ!!!」





371:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 03:37:04.38 ID:rs+lzok90

ズドンッ

実況「ライトフェンス直撃!!」

実況「大谷は1塁を回って2塁へ!」

長野「…くっ……!」

実況「長野!2塁へ返球するもセーフ!!大谷の足が勝ったァ!!」

実況「2アウトからランナーが出ました!」

斎藤「…よし!」

栗山「さすが翔平だ」

菅野はこの日初めての四球を小谷野に与えた

実況「2アウトランナー1、2塁!チャンス拡大です!!」

重さ10kgはある木製バットを振り回し投げ捨てる大嶋

ドスッ

大嶋「俺が…ここで菅野の首を獲るっす…!!」

「6番 キャッチャー大嶋」





508:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:12:49.72 ID:rs+lzok90

カァーンッ

田中「…あ!」

実況「マーくん打たれたァ!!これで4失点目!!」

一方、田中(斎藤)の方はヤクルト打線に捕まっていた

田中(ハァハァ…身体が重い……変化球が全くかからない…)

田中(最近、調子がおかしい…このままじゃ……)


「かっとばせー大嶋ァ!」

大嶋「…行くぜ菅野」

グッ

菅野(アウトは2つ取ってる、それに1、2塁…コイツなら抑えれる)

ビシュッ

大嶋「…うぉっあ!!」

審判「ストライク!!!!」

実況「菅野のキレ味鋭いカットボールに思わず手が出た大嶋!カウント1ストライク!」

解説「大嶋君、スイングスピードは速いんですけどねぇ」





511:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:15:55.55 ID:rs+lzok90

菅野(もう1度、同じ球)

ビシュッ

大嶋「…!」

カァーンッ

かろうじて内角を食い込んで来たカットボールをファールカット

審判「ファール」

菅野「チッ、当てたか」

大嶋(見えて来た…第1打席に比べて随分と見えるようになってきたぞ…!)

斎藤「…大嶋……お前なら打てる…」

実況「第3球!菅野が投げました!」

カァーンッ

阿部「高めのクソボールをファールしたか…」

実況「真ん中高めのボール球を無理やりファールにしました大嶋!」

解説「段々と球に当たるようになってきましたねぇ」





514:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:20:04.24 ID:rs+lzok90

カァーンッ

カァーンッ

その後も大嶋は良い当たりではないが何度も菅野の球に食らいつき

ファールにしていく

カウントはフルカウントとなった

実況「菅野、次でなんと13球目!!カウントも2ストライク3ボール!」

解説「よくノーボールからフルカウントまで持っていきましたねぇ」

菅野(しつけぇ…いい加減にしろ……!)

阿部(フォアボールでも良い、アウトコースに外れるボール球だ)

菅野(こんな奴に四球なんかは…出したくない…!)

ビシュッ

スルッ

菅野「……あ」

ドスッ





516:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:23:39.67 ID:rs+lzok90

審判「デットボール!」

実況「菅野の13球目は大嶋の右太ももを直撃!デットボールです!」

大嶋「…いてててっ………」

菅野は痛がる大嶋に視線を向けずドームの上空を仰いでいた

完全なるすっぽ抜けのデットボールであった

トレーナー「大丈夫?」

大嶋「…大丈夫っす…これぐらい平気なんで」

栗山「大嶋、どんな形であれよく出塁した」

実況「ああっとーー!!!2アウト満塁で日ハム代打です!!!」

栗山「いけるか?」

中田「…いつでもいけます」

実況「ネクストバッターサークルには中田です!!怪我から復帰したばかりです!」





519:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:26:19.29 id:nbzNV9t4i

色黒ヤクザきたああああああああ





521:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:27:22.56 id:mUYJEIXW0

翔さんキター!





522:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:27:58.71 id:nUO6SmIe0

これは熱い展開ですねぇ





526:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:29:23.27 ID:rs+lzok90

「バッターは…7番杉谷に代わり……中田…中田」

ワァァァァァァ

実況「観客席から割れんばかりの歓声!!」

解説「本来なら4番に座っているはずの彼ですからねぇ」

菅野(ここで中田…1発だけが怖い……でも俺なら抑えれる…)

中田「…」

栗山「翔なら何とかしてくれる…いける…いけるはずだ!」

斎藤(右手首にテーピングをかなり入念に巻いてたな…やっぱりまだ怪我が治ってないのか…?)

阿部「1発だけ注意しろ、この場面では」

菅野「…フフッ…大丈夫ですよ…俺が中田を仕留めますから」





529:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:33:21.47 ID:rs+lzok90

菅野「…ッシ!!」

ビシュッ

実況「菅野!第1球投げた!!」

中田「…!」

カァーンッ

実況「な、なんと!中田!左手1本でファールにしました!」

解説「ミスショットでしょうか…?」

菅野「左手だけで…」

阿部(こいつ…まだ右手首の怪我が万全じゃないな…)

中田「…」

斎藤「監督、あれじゃあ怪我が悪化するだけですよ!」

栗山「翔を信じろ」

斎藤「……」





532:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:38:41.45 ID:rs+lzok90

中田(片手でもいいとにかく何としてもランナーを返す…)

菅野「…ニタッニヤッ」

阿部(この様子なら150km近いストレートは思い切り振りきれんだろう)

捕手の阿部は内角にストレートを要求

菅野(いいっすねぇ…内角いいっすね!)

菅野は要求通り内角高めに今日最速となる153kmのストレートを投げ込んだ

ビシュッ

中田「……インコース…!」

中田はガッチリと両手でバットを持ち歯を食いしばり

待っていたインコースの球を渾身のフルスイングで振り抜いた

カァーーーンッ!!

菅野「……!!!!」

実況「痛烈なライナーがレフトへ向かったァァァァ!!」





535:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:45:20.27 ID:rs+lzok90

阿部(レフトライナーだ…ただのライナーだ…!)

中田「ぐぅっ…」

打った途端、右膝をつき右手首を左手で押さえつける中田

スゥッ

実況「…は、入ったァァァァ!!!!ライナー性の打球がそのまま弾丸ライナーでスタンドへ突き刺さったァァ!!」

実況「中田の一振りで試合を一気にひっくり返しました!!!」

巨人2 日ハム4

菅野「…え……えええ…」

実況「菅野マウンドで呆然と立ち尽くしています!!」

栗山「中田、ナイスバッティングだ」

中田「…ギリギリでした」

大嶋「俺感動しました!!中田さんやっぱ半端ねぇ!!!」

しかし、中田はこの試合後怪我が悪化し再び長期登録を抹消されることに





539:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:49:44.77 ID:rs+lzok90

中田の1発を機に打線が菅野を捉える
実況「あー、ここで原監督がマウンドに上がりましたね」
解説「ここまでよく投げたんですがねぇ」

マウンドには笠原が向かう

阿部「今日はもう仕方ない、集中力も切れてきてるしな」

菅野「…はい」

菅野は目に涙を浮かべながらベンチにへと向かった

この試合をきっかけに菅野はより大きく成長することとなる

……

実況「スコアは4対2!!斎藤が既に9回のマウンドで2アウトまで追い込みました!!」

斎藤「ふう…」

実況「ラストバッター!ロペス!!」

ビシュッ

ロペス「!」

ズバンッ

審判「ストライクーーーーー!!バッターアウトォ!!」





543:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:52:45.27 id:mUYJEIXW0

ロペスwwwww





545:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 10:53:41.04 ID:rs+lzok90

実況「4対2で日ハムがジャイアンツを下しました!!」

実況「菅野対斎藤!見事に斎藤が勝利で収めました!」

解説「復帰登板でよく完投しましたねぇ、素晴らしいですよ」


斎藤「ッシャアア!!」

大嶋「やった!斎藤さんやったっす!」

マウンドで優勝したかのように抱き合う2人

栗山(大嶋と斎藤…次世代を担う若手バッテリーだ)


斎藤「じゃ、俺自転車でホテル戻るんで」

大嶋「お疲れーっす」

チリンチリンッ

斎藤「…あ」

球場の外でとある女性を見かけた





548:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 11:00:02.41 ID:rs+lzok90

里田「…」

斎藤「まい……じゃなくて里田さん!」

里田「あ、斎藤くん!」

斎藤「どうして東京ドームなんかに?」

里田「ホントはマーくんの試合見にきたんだけど…間違えて東京ドームに…」

斎藤「…あ…ああ、間違えてきたのか…」

斎藤(前にマーくんとマートン間違えてたくらいだしな…)

里田「それより、斎藤君も勝利投手おめでとうございます!」

斎藤「あ…ありがとうございます…」

里田「きっと夫も喜んでくれると思います!」

斎藤「……俺が…」

里田「え?」

斎藤「…いや、なんでもないです……じゃ俺はこれで帰ります」

チリンチリンッ





552:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 11:06:46.27 ID:rs+lzok90

斎藤「俺は今の身体のままで本当に人生を終えるのか?」

斎藤「…元の身体に戻る方法を考えないと」

斎藤「でも、どうやって元に戻るか…」

斎藤は大嶋を呼び出し

斎藤とぶつかった日と同じシチュエーションをした

チリンチリンッ

ドスッ

斎藤「いってええええ!!」

大嶋「も、もう止めましょうよ斎藤さん!怪我しますよ!」

斎藤「…す…すまん…もう今日はいいぞ…」

大嶋「お疲れさまーっす」

斎藤「ハハ…何してんだろう……俺……」

斎藤「このまま一生斎藤の身体のままなら…」





563:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 11:12:06.09 ID:rs+lzok90

ガチャッ

田中「ただいま」

里田「おかえり、今日斎藤くんと会ったわよ」

田中「ぼ、僕と…?あ、いや斎藤とか」

里田「復帰したマウンドで初勝利収めてたわ」

田中(あいつ…あんな僕のクソみたいな身体で巨人に勝ったのか…)

田中(クソッ…今更そんなことしても僕には勝てないぞ…!)


黒木「え、斎藤を次の阪神戦に!?」

栗山「中6日でいけるだろう、相手はセリーグ2位の阪神だが」

黒木「…しかも阪神の先発投手って」

栗山「藤浪だ」





570:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 11:16:47.22 ID:rs+lzok90

ズバンッ

審判「ストライクーーーー!!」

実況「藤浪!!最速の153㎞でラヘアを三振に取りました!」

記者「ええ、それではファンの方に一言お願いします」

藤浪「交流戦に入ったばかりなんで、これからも必死のパッチで頑張るんで応援よろしくお願いします!」

ワァァァァァァ


藤浪「斎藤投手ですか…?」

中西「ああ、次の登板の相手は順調にいけばそうなる」

藤浪「分かりました、それまでに調整しておきます」

中西「それに、大谷もいるしファンも喜ぶだろう」

藤浪「はい」





575:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 11:22:09.24 ID:rs+lzok90

ガチャッ

栗山「まあ、そこに座れ斎藤」

斎藤「はい」

スッ

黒木「大嶋も立ってないで座れ」

大嶋「はいッシャァ!!」

栗山「大嶋は今後交流戦の間はずっとマスクをかぶってもらう」

大嶋「そ、それってスタメン固定ってことですか?」

栗山「今は交流戦の間だけ…としか言えん」

黒木「それと、斎藤は」

栗山「今年の交流戦で話題のルーキー3投手に投げ勝て」

斎藤「…!」

黒木「菅野、藤浪、小川だ」

大嶋「それで今度の阪神戦に斎藤さんをぶつけに…」

栗山「厳しい戦いになると思うが頑張ってくれ」





580:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/28(土) 11:30:45.28 ID:rs+lzok90

大嶋「すごい無茶な課題押し付けられたっすね…」

斎藤「監督は本気だ、俺も本気だけどな」

大嶋「次は甲子園で藤浪と投げ合いっすね!」

斎藤「ああ、いつも通りのピッチングをするだけだ」

大嶋「やりましょう!菅野投げ勝ったんだからいけますよ!」

斎藤(このままどんどん勝ち続けて…いずれ今シーズン中に田中と投げ合う…)

斎藤(そうすれば…きっと何かが起きるはずだ…!)

2人は甲子園にへと向かう為、新幹線に乗り込んだ

果たして2人の身体は元に戻ることが出来るのだろうか

2人の野球人生はまだ始まったばかりであった

第1部 完

 

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 18:45:29.88 id:FYdo3irZ0

自転車に乗りながら球場の外を走っていた俺は

球場の外でランニングしていた斎藤とぶつかり

気が付くと、俺達の身体は入れ替わっていた

俺は元の身体に戻る方法を探しつつ

斎藤の身体を借り日ハムのメンバーとしてシーズンを戦う事になったのだが…





元スレ
ニュース速報(VIP)@2ちゃんねる
田中「斎藤と俺の身体が入れ替わって数ヶ月が経過」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1380447929/

 

11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 18:52:06.00 id:FYdo3irZ0

栗山「交流戦に突入して今日からは甲子園で阪神戦だ」

黒木「藤浪投手にいきなり斎藤をぶつけるんですね」

栗山「ああ、今の斎藤なら何とか対抗できるだろう」

黒木「大谷と藤浪の対戦だけでもファンは歓喜しますからね」

栗山「うむ」


―甲子園―

藤浪「斎藤さん、よろしくお願いします」

試合前、藤浪が今日先発の俺に挨拶をしてきた

斎藤「ああ、こちらこそ」

斎藤(田中)は軽く会釈をして大嶋とのキャッチボールを再開

大嶋「やっぱ生で見るとすげぇ身長高いっすね!」

斎藤「大谷が193?で藤浪は確かに197cmぐらいだしな」

大嶋「あんなに身長が高い投手なんて日本にそういないですよ!」





21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 18:56:28.24 id:FYdo3irZ0

「9番…ピッチャー藤浪」

ワアアアアアアアアアアアア!!!!!

甲子園に藤浪の名が呼ばれると

全体からタイガースファンの大歓声が鳴り響いてきた

まるで地響きのような歓声である

ズドドド

斎藤(甲子園で投げるのも久しぶりだな)

栗山「大谷、今日は3番でライトだ」

大谷「はい」

「1回の表…ファイターズの攻撃は1番センター陽」

陽「さぁ、行くヨォ」

藤浪「フゥッ…」

藤浪は指についたロージンの粉にフッと強く息を吹きかけた

審判「プレイボール!!」

実況「さぁ!今日はここ甲子園で斎藤vs藤浪の投げ合いが繰り広げられます!!」





28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:00:27.52 id:xPSwk8a80

菅野とは対極的な藤浪の好青年っぷり





33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:04:08.54 id:FYdo3irZ0

実況「斎藤は前回、巨人のエース菅野投手との素晴らしい投げ合いを見せてくれました!」

実況「解説さんは藤浪のピッチングどうご覧になられますか?」

解説「そうですね、2年目に入りましたがまだ投球の粗さというのは残っていますが」

解説「やはり彼の最大の特徴といえば、ピンチの時の要所要所のピッチングですからね」

実況「資料にもランナーを背負う程、被打率が低いとのデータが出ています!」

解説「2年目とは思えない投球をしますよね」

藤浪は大きく振りかぶり





35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:05:04.05 id:FYdo3irZ0

長身独特のインステップ投法から第1球が放たれた

ズバンッ

審判「ストライクーッ!!」

150km

実況「ああーーーー!!っと!1球目で150kmを叩きだした藤浪!!」

解説「インステップ投法ですから右バッターは非常に打ちづらいですね」

実況「藤浪はインステップ投法と呼ばれる股関節が3塁に向いているのに上半身はホームプレート方向に向いているという」

解説「右打者からしてみればこっちに突っ込んで来るんじゃないかと思う恐怖心も芽生えますよ」

実況「1年目から身体の負担がかかるためインステップについては色々と議論がなされていましたからね!」

陽(ストレートがシュート回転してる…)

斎藤「藤浪のストレートは確かナチュラルでシュート回転するって…」

黒木「ああ、それが彼の武器でもある」





39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:11:30.85 id:FYdo3irZ0

清水(ようし、良い球だ…)

実況「藤浪!清水のサインに頷き第2球を投げました!!」

陽「…!」

ズドンッ

審判「ボール!!」

実況「おっと!藤浪力んだか、ボールは真ん中高めに浮きました!」

解説「まだ、やはり制球の点では課題が残っていますね」

藤浪は先頭打者の陽にフォアボールを与えてしまった

「バッターは…2番ライト村田…」

実況「ノーアウト1塁!左打席に村田が入ります!」

栗山(藤浪は左打者を苦手としている、ここは村田の判断に任せよう)

大嶋「いきなり四球出しましたし、案外打てそうですね!」

斎藤「いや…藤浪という投手はピンチを迎えればより投球内容が良くなる」





41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:17:20.16 id:FYdo3irZ0

実況「藤浪!1塁の陽をチラッと見ました!」
ビシュッ

陽「…お!」

藤浪はすぐさま1塁に向かって牽制を投げた……が

新井「…!!」

実況「あああーーーっと!藤浪の牽制球が新井のグラブの下を通過!」

牽制球のミスの間に1塁の陽は悠々と2塁に到達

ズサァッ

ワァァァァァァ!!!

このプレーに両観客席からざわめきが起きる

実況「ノーアウト2塁にチャンス拡大!藤浪は逆にピンチを迎えることに!」





45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:24:02.75 id:FYdo3irZ0

そして藤浪は2番村田に対し1ストライク2ボールとし

置きに行ったアウトコースのストレート綺麗にレフト前に弾かれる

実況「村田レフト前ヒット!!2塁の陽は3塁でストップゥ!!」

解説「ノーアウト1、3塁…大きなピンチですね」

藤浪「…はぁ」

実況「早くも1度阪神内野陣が藤浪の下へ集まります!」

西岡「落ち着け、落ち着け。まだ1回の表や。」

藤浪「今日のライトって今成さんですよね」

鳥谷「ああ」

藤浪「じゃあ、今成さんのとこに打球飛ぶようにしてみようかな」

西岡「そういえば前に今成のエラーの物真似してたな」

藤浪「僕、あれすごく好きなんですよ」

新井(うわぁ…)

実況「っと、マウンドの藤浪ピンチを迎えながらも笑顔です」





47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:28:18.60 id:FYdo3irZ0

実況「さぁ、集まった内野陣が元の定位置に戻ります!」

「3番・・・・・・ライト大谷」

ワアアアアアアアアアアアアア

実況「今日早くも大きな山場を迎えております藤浪!!」

解説「バッターは大谷くん、非常に楽しみな対決ですね」

大谷「…」

藤浪(去年の交流戦の時には2本もヒットを打たれてる)

藤浪(その借りはキッチリと返す)

スッ

藤浪の目の色が変わる

ピンチを迎えることによって彼の本来の投球スタイルが蘇る





49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:32:18.15 id:FYdo3irZ0

ズドンッ

審判「ストライクーーーー!!バッターアウトォ!!」

実況「なんと藤浪、3~5番のクリーンナップを三者連続三振で抑えました!」

解説「これが彼の持ち味ですよ」

栗山「くぅっ…大谷、アブレイユ、大嶋が連続三振…!」

実況「藤浪!この回ピンチを迎えましたが見事に無失点で切り抜けました!」

大嶋「じゃ、行きましょうか」

斎藤(姿違えど俺の魂は田中のままだ、後輩に負ける訳にはいかん)

実況「さぁ!マウンドにはかつての甲子園優勝投手斎藤が!!」





52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:35:22.26 id:fuaN5/8A0

なんだかんだで藤浪はよくやってるよな
小川菅野とならんで新人王あげてもいいくらいだ





54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:38:51.99 id:Q0Qba1Bx0

>>52
今年はルーキーが豊作
例年なら藤浪が新人賞で文句なしだよ





55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:39:28.41 id:snt6rIG00

>>52
今年は豊作過ぎるもんな





53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:37:10.22 id:FYdo3irZ0

「1番、セカンド西岡」

西岡「さぁ、行くで」

実況「バッターボックスには西岡!観客席から大歓声が送られます!」

斎藤(足もあるし塁には出したくはない)

大嶋(好きな所に投げて下さいよ~…)

斎藤が振りかぶり西岡に対して第1球を投げた

ビシュッ

西岡「…!」

コンッ

大嶋「セーフティ…!?」

実況「西岡!!初球セーフティバント!!」

ボールは捕手の大嶋と投手の斎藤の丁度真ん中辺りに転がった

コロコロ

大嶋「斎藤さん!!!俺が刺します!!」

大嶋は転がったボールを右手で鷲掴み1塁へ送球





57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:42:59.73 id:FYdo3irZ0

実況「大嶋の肩が勝つか!!?西岡の足か!!?」

西岡「…っ!!」

ズサァッ

西岡は頭からヘッドスライディングをし1塁へ滑り込んだ

審判「…セーーーーーフッ!!!!」

実況「西岡!!!頭から滑り込み1塁セーフの判定です!!」

解説「ヘッドスライディングは危険なんですけどね」

西岡「っし、別に顔ぐらい傷ついても…勝つためなら大したことない」

「宇宙戦艦ーヤーマート…!」

実況「続いて2番の大和がバッターボックスに!!」

斎藤「嫌なランナーを出したな…この場面なら送りバントも警戒しないとダメだ」

和田監督(スッ)

大和「送りバント……か」





61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:47:20.13 id:FYdo3irZ0

斎藤が第1球を投げると打席の大和はバントの構えを見せた

斎藤「…きた!!」

斎藤は全力疾走で前に飛び出るがバットを1度引く大和

ズバンッ

審判「ストライクッ!」

実況「大和!バットを引きましたがコースがストライク!」

大和「…」

2球目、同じようなコースにボールを投げる

ビシュッ

大和「次こそ…!」

コツンッ

バントをしたが打球は1塁線を切れた

審判「ファール!!」

実況「大和!バントが上手く決まらずツーストライクまで追い込まれました!!」





64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:51:21.25 id:FYdo3irZ0

実況「3球目!斎藤が投げた!」

ビシュッ

コツンッ

大和「…あ」

大和はバントの構えのまま小フライを打ち上げ

キャッチャーの大嶋が飛びついて捕球

審判「アウゥト!!」

実況「大和バント失敗ーーーー!!!」

バットを叩き付け悔しがる大和

次いで3番の鳥谷がバッターボックスに入った

実況「続いて鳥谷が打席に入ります!ここまで四球数セリーグトップです!」

解説「非常に選球眼の素晴らしい選手ですからね」





65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:55:20.80 id:FYdo3irZ0

2ストライクノーボールと投手有利なカウントであったが

なぜか四球を出してしまった斎藤

審判「フォアボール!」

斎藤「くっ…2ストライクまで追い込んでたのに…」

大嶋「次の4番マートンに集中しましょう」

斎藤「…ああ」

実況「4番マートン、ここ5試合で19打数15安打と絶好調です!!」

斎藤(1アウト1、2塁…抑える……絶対に…)

ビシュッ

斎藤「…あ」

マートン「…!」





68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 19:57:53.12 id:FYdo3irZ0

パキーンッ

スライダーを投げたがほぼ真ん中に入ってきたため

絶好調のマートンはそれを見逃さず初球から振り抜いた

実況「マートン!!マートンの大きな打球は!!!打球はレフトスタンドへーーーー!!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアア!!

実況「甲子園大歓声!!!初回、斎藤からマートンの一振りで3点を奪い取りました!!」

西岡「ウェァァァァァァァァイ!!」

実況「そして!ベンチの前ではファンに対する感謝の気持ちグラティを決めました!!」

西岡「グラティィィィ!!!!」

関本「グラッティッ!!!!」





69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:03:07.13 id:FYdo3irZ0

斎藤「……悪い大嶋、失投だ」

大嶋「いえ…初球スライダーなんか要求した俺が…」

斎藤「…甲子園のこの雰囲気…もう1人敵がいるみたいでいつ投げてもやりにくい」

斎藤「敵は選手だけじゃないってことだ」

大嶋「…うっす」

斎藤(3点…きついな……)

斎藤が藤浪と投げ合っている最中

神宮球場では…

田中「フゥッ」

楽天vsヤクルト

先発投手は田中(斎藤)vsライアン小川であった

両者投げ合って3回までは両方ともノーヒットピッチング





71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:08:03.56 id:FYdo3irZ0

「3回の裏……ヤクルトの攻撃は……4番レフト…バレンティン」

バレンティン「カモーン」

打席には昨シーズンの本塁打、首位打者バレンティン

田中(球速が150kmを出なくなった…身体が入れ替わっていい気になってたけど…)

田中(田中の身体を僕が同じように扱うのは無理だったんだ…)

バレンティンへ投げた初球のストレートが高めに浮き

パコーンッ

嶋「…!!」

星野「…チッ」

実況「バレンティンの打球は場外にへと消えていったーーーーー!!!」

小川「ナイス、バレンティ~ン」

実況「今日好投を続ける小川に1点の先制点をプレゼント!!」

田中「…クソッ……!」





73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:15:09.87 id:FYdo3irZ0

その後もライアン小川が独特のフォームで

4~6回まで無失点に楽天打線を封じた

実況「田中の時はいつも打線が爆発するのですが、今日はその打線が沈黙しています!!」

田中「…」

田中(結局、あの後も3点追加点を取られて合計4失点…)

田中(なにをやってるんだ……僕は…)

しかし、好投を続けていた小川が突然7回のマウンドに上がらず

そのまま降板

松井「小川が降板?なにかあったのか?」

星野「さっき、6回終わった時に右太もも手で触ったりして気にしてたから」

星野「大事取って、今日はここで降板なんやろ…」

銀次「だとすれば2番手に上がる投手って一体誰が……」

「ピッチャー小川に代わりまして………由規」





76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:20:13.92 id:FYdo3irZ0

実況「2番手投手はなんと昨シーズン怪我に悩まされた由規です!!」

スタスタ

由規はゆっくりとマウンドに上がった

田中(由規…俺達の1つ下の世代で、甲子園でも投げてたあの投手か…)

相川「投球練習してみてどうだ?」

由規「大丈夫です、今はこの舞台に再び立つことが出来たことに感謝してます」

相川「…そうか、遠慮せず思いっきり投げてこいよ。4点勝ってるんだし。」

由規「はい!」

田中(去年は怪我をしてほとんど登板機会がなかった…そんな彼がまたマウンドに上がるなんて…)

田中(……甲子園……僕は……確かにあの場所で……)

由規「…」

実況「由規!!大きく振りかぶって第1球を投じます!!」





79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:25:50.38 id:FYdo3irZ0

ビシュッ

ズドンッ!!!

審判「ストライクーーーッ!!!」

由規が投じた第1球目のストレートはど真ん中に決まり

スタンドの電光掲示板には160kmと表示されていた

ワァァァァァァァ!!

田中「160……!?」

実況「決まったァァ!!初球160kmの最高級ストレートが決まりました」

解説「素晴らしいストレートですね」

田中(……僕も……僕だって……負ける訳にはいかないんだ…)

実況「躍動のピッチング由規…!」

実況「長い雨の中、ようやく1羽の燕がここ神宮に舞い戻ってきました!!」





81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:33:11.40 id:FYdo3irZ0

……



一方、甲子園は既に6回まで進んでいた

実況「藤浪!ランナーを出しながらもここまで日ハム打線を無失点に抑えています!」

解説「斎藤くんも初回の3点を取られてからは失点はしてませんよ」

「6回の表、ファイターズの攻撃は…5番キャッチャー大嶋…」

「オオッシッマ!!オオシッマッ!!シャァシャァ!!」

大嶋「…まだ藤浪から点が取れてない……俺がなんとかして…」

栗山(大嶋はこの試合の結果次第で降格も有り得る)

大嶋は打席に入り大きな声を上げた

大嶋「お願いしァァシャッスッ!!!!!!!!!!!!」





88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:45:29.45 id:FYdo3irZ0

大嶋「さぁーー!!俺が突破口を開くっすよ!!!」

斎藤「…ここまで全打席三振…か」

稲葉「やはり、まだ打撃能力は1軍レベルに到達してないかもしれない」

稲葉「だけど俺は大嶋くんを信じてるよ」

斎藤「稲葉さん…」

稲葉「彼が1軍に上がってからベンチの雰囲気も良くなったからね」

大嶋「来い!!!!」

藤浪(燃えて来るなぁ、ああいう人がバッターだと)

清水(精度が上がって来たフォークを使ってみるか)

藤浪「コクリ」

実況「藤浪!清水のサインに頷き第1球を投げた!」

ククッ

大嶋「…ウォァッ!!」





90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:49:43.88 id:FYdo3irZ0

審判「ストライクーーーー!!」

実況「大嶋、フォークボールに思わず手が出ました!」

解説「藤浪くんのフォークボール、精度が上がってきてますね」

大嶋「…クッソ~…もう少しで当たりそうなのによぉ…」

斎藤さんにずっと前から聞きたい事があった

でも、それをシーズン中に聞くのは野暮だと思ったから

ひとまず、そのことは今はまだ聞かないでおくっす…

ズバンッ

審判「ストライクッ!!!」

実況「あーーー!っと!大嶋簡単に追い込まれました!」

大嶋(斎藤さん…あんたは俺をどん底から救済してくれた…)





96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:52:54.37 id:FYdo3irZ0

清水(ボール球は良い、このままインコースのカットボールで仕留めよう)

藤浪「…」

スッ

ビシュッ

大嶋「…そんなあんたを負け投手にする訳にはいかねぇんだよ…!!!!」

カキーーーンッ!!!

藤浪「…!?」

清水「あのカットボールを捉えた…!?」

ベンチにいた斎藤も思わずベンチから飛び出た

大嶋の打球は高く、高く舞い上がり

センター大和の頭上を襲った

実況「センター大和、バック…!バック!風はあります!!」





97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:55:58.08 id:wxCyKQSU0

はいれえええええええええ





99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:56:55.35 id:F2COimk+I

いけぇぇぇ





101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:58:00.64 id:FYdo3irZ0

斎藤「…いけ…!頼む……!!」

清水「だ、大丈夫だ…!風のせいで押し戻されるはずだ…!!」

実況「大和まだバックします!!まだバックします!!」

大嶋「行けェェェェーーーー!!!俺の打球ーーーーー!!!!!」

ガシャンッ

実況「…せ、センターのフェンスに直撃!!!!」

大嶋は慌ててバッターボックスを飛び出した

大嶋「クソッタレ…!!!」

センターの大和はフェンスに直撃し転々としているボールの処理に急ぐ





102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 20:59:10.77 id:wxCyKQSU0

大嶋走っとれよオンドリャwwwwww





104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:00:07.67 id:snt6rIG00

走れよwwww





105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:01:56.35 id:FYdo3irZ0

ダッタダッタ

巨体を揺らしながら大嶋は1塁を蹴って2塁へ

斎藤「お、大嶋ーー!!無理するな!!」

稲葉「センターの大和くんの守備力を考えるとギリギリのプレーになるぞ…!」

俊足大和がすぐさまボールを処理し大嶋が目的地としている

2塁にへと返球

シュッ

大嶋「うがああああああああああああ!!!!!」

大嶋は2塁ベースの手前から身を投げ出し頭から2塁ベースに滑り込ませた

セカンドの西岡がボールを受け取りすぐさま大嶋にタッチを狙う

ズサァァァァァッ





111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:08:24.18 id:FYdo3irZ0

審判は両手を広げ

審判「セーーーーーフッ!!!!!!」

ワァァァァァァ!!!!

斎藤「よっしゃー!よくやった大嶋ァ!!」

実況「大嶋の気迫溢れる打撃と走塁に甲子園球場が魅せられました!!!」

2塁ベース上で大嶋は大きく両手でガッツポーズ

大嶋「斎藤さーーーん!あんたに黒星なんかつけさせないっすよ!!」

斎藤「あの野郎…俺が失点したってのに…」

西岡(けっ、俺と似たような走塁しやがって)

大嶋(はぁはぁ……腰が割れそうなぐらいいてぇけど…これぐらい…)





117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:13:44.32 id:FYdo3irZ0

栗山「代打」

実況「ここで栗山監督動きました!!6番アブレイユに代打です!」

解説「アブレイユは今日、藤浪くんにノーヒットに抑えられてますからね」

稲葉がネクストバッターサークルで素振りを2~3度繰り返した

ブンッ ブンッ ブンッ

稲葉「斎藤、俺もお前達みたいな若手の活躍を目の当たりにしたら…ベテランとして居ても立っても居られなくなってな…!」

斎藤「稲葉さん…大嶋のためにも繋いでください…」

稲葉「ああ、ベテランを信じろ」

斎藤にそう言い伝えると稲葉は静かに打席にへと向かう

この時の稲葉の後ろ姿がとても印象的だった





121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:18:14.45 id:FYdo3irZ0

実況「代打…稲葉です!!」

ワァァァァァァァ

小学生「ああ、稲葉選手だ!」

小学生B「なんで稲葉なん…今シーズン打率2割切りそうやん」

小学生「稲葉選手はきっと打ってくれるよ!」

小学生B「うるさい!打たへんわ!」

ボコッ

小学生「うわああああああんん」


栗山「2割を切りそうな打率だが、私はあえて稲葉をこの場面で起用したい」

黒木「なぜです…アブレイユで良かったはずじゃ…」

栗山「ベテランの力を信じてみたくなったのさ」

黒木「監督……」

栗山「賭けてみようじゃないか、ベテランの意地に」

藤浪(稲葉選手…去年以来の対決ですね……)





127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:25:26.02 id:FYdo3irZ0

実況「今シーズンは開幕当初、スタメンで固定されていたのですが」

実況「打率の低迷により最近は代打専門での出場が多い稲葉!」

解説「ベテラン対若手の藤浪くん、楽しみですよ」

藤浪「…」

清水(初球は様子を見てアウトコースに1球外そう)

藤浪は頷きセットポジションに入った

ビシュッ

稲葉は藤浪のストレートを待ち呼び込む

稲葉「俺は……稲葉だ……!」

パァーーーンッ

ストライクかボールの判定が際どいコースの球を

バットの先端でセンター前に弾き返した稲葉

ワァァァァァ!!!

大嶋は2塁を蹴り3塁に到達





129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:29:37.62 id:FYdo3irZ0

稲葉もゆっくりと1塁ベースに到達し

レガースを外した

そして、3塁の大嶋に向かって親指を突き立てた

グッ

大嶋「…稲葉さん!!ナイスバッティングです!」

初めてこの試合で藤浪を攻めたてノーアウト1、3塁とした

実況「若手とベテランの連続ヒットでチャンスを広げました!!」

和田「久保の準備は?」

中西「はい、いつでもいけるみたいです」

和田「よし…2点取られたらリリーフで久保を投入だ」





133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:31:52.80 id:F2COimk+I

栗山の采配ぱねぇ





135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:34:06.99 ID:4QFkeD6Y0

和田はやっぱりアカン





136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:38:16.51 id:FYdo3irZ0

実況「……藤浪!!7番鶴岡にタイムリーツーベースを打たれ2点を返されました!!」

藤浪「…」

マウンドで汗を拭い首を傾げる藤浪

6回にきて思ったコースに自分の球が投げれないようだ

斎藤(球数が多かったし、さすがに疲れが出て来たか)

8番の中島、9番の斎藤が打席に入る準備をしていた

未だノーアウト2塁

新井「よく投げた藤浪」

藤浪「すいません、思った所にコントロール出来なくて」

実況「藤浪…ここで降板ですかねぇ?」

解説「和田監督の口元を見たら久保って審判に伝えてましたね」

「タイガース、ピッチャーの交代をお知らせします…藤浪に代わりまして…久保」





137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:42:10.91 id:tUtcNg2V0

なんだろうこのドキドキ感





138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:43:28.46 id:FYdo3irZ0

中島「久保…か」

斎藤(昨シーズンはストッパーに転向したらしいけど中々良い成績は出せなかったみたいだな)

久保「うぃっす、サクッと抑えましょうかw」

西岡「頼みますよ」

久保「俺の投球術で抑え込めれるって(ニッ」

新井「…」

……



実況「ああーっと、久保!8番中島にフォアボール!」

久保「…入ってないのかよ」

実況「審判の判定に笑みを浮かべながら首を傾げます」

解説「際どいコースなんですけどねぇ」





140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:48:41.71 id:FYdo3irZ0

実況「久保!9番斎藤に6球目を投げた!」

カーンッ

ボテボテ

斎藤「…チッ!!」

実況「ああー!斎藤の打った打球はボテボテのサードゴロ!」

解説「ノーアウト1、2塁ならば送っておくべきでしたね」

新井弟「…!!やば!きた!」

新井弟は全力疾走でサードゴロに向かう

実況「新井良!ぼてぼてのゴロを捕球しそのままお兄ちゃんの立つ1塁へ投げました!」

ビシュッ

新井「……あっーー」

新井弟の送球は兄の頭上の遥か上をいった





146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 21:54:07.52 id:FYdo3irZ0

実況「な、なんと!!新井良!!大暴投です!!」

解説「これはいけませんねぇ」

新井弟「お兄ちゃんごめん!」

実況「新井兄が急いで転がったボールを拾いに行きます!」

実況「その間にランナーそれぞれ進塁!ノーアウト満塁です!!」

久保「…イライラ」

新井弟「ご、ごめんなさい久保さん」

新井「すまん…俺達兄弟のミスでピンチを広げて」

久保「……フフフ…気にしない気にしなーい♪」

新井弟(く、久保さん怒ってる…)





148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:00:01.55 id:FYdo3irZ0

結局、新井の暴投からリズムを崩した久保は

日ハム打線に捕まり3点を失った

日ハム5 阪神3

実況「試合はファイターズがひっくり返しました!!」

斎藤はその後も続投で

6,7,8回と順調に阪神打線を0に抑えゲームを作る

「9回の裏……タイガースの攻撃は…5番ファースト新井」

実況「いよいよタイガース最終回の攻撃です!2点を追いかける状況に!」

大嶋「斎藤さん、あとこの回だけっすよ」

斎藤「ああ、これで阪神戦も制することが出来る」





160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:11:43.10 id:FYdo3irZ0

新井「…俺達兄弟のミスで始まったことだ」

斎藤(今日、新井選手を完璧に抑えれてる…気を緩めなければこの回も…!)

ビシュッ

新井「ピクッ」

審判「ストライクーーーーー!!!」

実況「新井!ど真ん中ストレートに手を出しませんでした!」

解説「あれを振らないと厳しいですよねぇ」

大嶋(まだ9回だけど十分球威はある、いけるっすよ斎藤さん!)

斎藤(次はインコース高めに直球だ)

大嶋(うっす)

ビシュッ

新井はその球を待ってたかのようにフルスイング振り抜く

パキーンンッ!!





161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:15:59.01 id:FYdo3irZ0

新井は打球の行方を見届け

まるでホームランを確信したかのようにバットを高く放り投げた

実況「入ったァァァァーーーー!!!新井兄弟のお兄ちゃんが9回!斎藤の球を捉えソロホームラン!!!」

新井「…(グッ」

実況「新井!片手で拳を突き上げながら1塁ベースをゆっくり回ります!!」

解説「ほぼボールに近いんですが、上手くたたんで振り切りましたよね」

大嶋「…い、1点差…」

斎藤「大丈夫だ…まだ1点差だ……」

「6番今成代りまして…福留」

実況「おおおおーーーっと!!ここで代打福留です!!」

福留「一日一善…!」

和田「この采配がゲームを動かす」





166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:23:04.59 id:FYdo3irZ0

稲葉「斎藤くん、あと3人抑えれば良いだけだ」

大嶋「そうっす!まだ1点差なんですから!」

西川「俺達も全力でお前の後ろを守るから、頼んだぞ」

斎藤「……ありがとうございます、必ず抑えます」

実況「福留が今バッターボックス入りました!」

西岡「年棒相応の活躍してもらわんと」

斎藤(斎藤の身体に入って分かったことがあった)

斎藤(あいつは落ちぶれたりなんかしちゃいない…こんなに素晴らしいチームにいるんだ)

斎藤(甲子園で俺に投げ勝ったのも、あいつの努力と実力のお陰だ…マグレなんかじゃない)

ビシュッ

ズバンッ

審判「ストライクーーーーー!!!」

福留「くっ…今のには手が出ない」





167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:24:12.52 id:wxCyKQSU0

頑張れ斎藤佑樹(田中将大ver)





173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:28:21.26 id:FYdo3irZ0

パァーーンッ

実況「福留!!斎藤のチェンジアップを引っ張ったァ!!!」

斎藤「しまっ……」

バシィッ!!

稲葉「この塁は踏ませんぞ…」

審判「アウット!」

実況「…!!1塁稲葉の横を強烈なヒット性のライナーが襲いましたがガッチリ捕球!!」

解説「ヒットでもおかしくない当たりでしたけど、稲葉くんがよく捕りましたねぇ」

福留「くーっ、まぁヒットに近いから良いだろう」

実況「1アウトを取りました斎藤!次は7番の清水です!!」

斎藤(あとアウト2つ……)





174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:29:38.86 ID:7sjmRBiv0

福留wwwwwwwww
仕事しろよwwwwwwwwwww





176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:31:00.76 id:mHo1r/xT0

よくねェよwww





177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:31:41.66 id:Nh5mxiLV0

福留www





182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:36:29.36 id:FYdo3irZ0

ズバンッ!!

審判「ストライーーーーック!!!バッターアウト!!」

実況「斎藤!!清水を三振に切って取りました!今日7個目の三振!」

実況「勝利まであとアウト1つです!!」

小学生「うわああー!斎藤選手あと1人だー!」

小学生B「クソッ…なんで斎藤が…!」

スコーンッ カコーンッ

4本のマスコットバットをネクストバッターサークルで振り回す

斎藤「いよいよ、後1人……」

「バッターは8番…サード新井良…」

ワアアアアアアアア!!!

実況「再び甲子園のタイガースファンが地響きのような歓声を起こします!」

新井弟「…お兄ちゃんの仇を俺が討つ」

実況「新井ブラザーズ!今日は何かをやってくれそうな気がします!!」

実況「お兄ちゃんがホームランを打った日には弟も黙ってはいられません!」





186:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:42:41.44 id:FYdo3irZ0

兄がホームランを打った日の新井弟の打率は6割超

実際この試合も打点には絡まなかったが3打数3安打(うち2塁打1つ)

実況「そうです…!タイガースにはまだこの人がいます!!」

大嶋「あとアウト1つっすけど…1発のある怖いバッターが残ってましたね…」

斎藤「投げる球は変えるつもりはない、キッチリと抑えるぞ」

大嶋「はいっす!」

新井弟「…」

新井弟が打席に入った

キャッチャーの大嶋はいち早く何やら嫌な予感を感じた

斎藤(初球は外のスライダー…)

大嶋(…なんだ……なんだろう…いや、そのコースはマズイ気が…)

大嶋(いやいや!なにを言ってるんだ!俺は斎藤さんの考えを信じるんだ!)

斎藤が新井弟に対して投げた初球スライダー

新井弟はそれを無理に引っ張ることなくライト方向へ弾き返す

パァーーーンッ





191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:46:20.62 id:FYdo3irZ0

角度は十分だった

打球はライトのポール際にグングン伸びていく

大嶋「……!!あのコースをライト方向に!?」

実況「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!打球はポール際に伸びていくーーーー!!!」

斎藤「……!」

実況「大谷バック!!大谷下がる!!大谷もう1歩下がった!!大谷バック!!」

審判はライト方向へ飛んだ打球の行方を見届け





202:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 22:55:06.26 id:FYdo3irZ0

審判は片手を回した

実況「ホーーームラーーーン!!!大谷頭上を越えて行きました新井弟の打球!!!」

実況「新井ブラザーズ!2人で試合を振り出しに戻しましたァァ!!!」

斎藤「……フゥ」

実況「斎藤!思わず天を仰ぎます!」


新井「ナイスナイス!よくやった!!」

福留「グラティッーーーー!!」

実況「そしてホームランパフォーマンスをベンチ前で行います!」

福留「良太、お前ちょっとは使えるじゃねーか」

新井弟「ありがとうございます」

解説「これで同点に追いつきましたねぇ、延長戦も考えられますよ」

実況「斎藤の球数も既に100球を超えてますから交代も有り得ますよ…!……ん?」

ライトの大谷が駆け足でマウンドの斎藤の下にへと向かった





228:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:19:55.79 id:FYdo3irZ0

栗山「じゃあ、それでいこうか」

黒木「ええ…斎藤はよく9回まで投げてくれましたよ」

実況「栗山監督が出てきました、ああ…これはどうやら交代ですかね」

解説「大谷くんがマウンドに向かったということは」

「ファイターズ守備位置の変更をお知らせします」

「ライト大谷がピッチャーに」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

今日一番の歓声が甲子園球場に響き渡る

斎藤のリリーフとしてライトの大谷がそのまま投入された

実況「大谷がマウンドに上がりました!!ライトには斎藤の代わりに佐藤が入ります!」

マウンドの斎藤に大谷が詰め寄った

大谷「斎藤さん、お疲れ様です。今日のピッチング胸を打たれました。」

斎藤「…若いお前に負担をかけてすまない。あとは任せたぞ。」

大谷「はい、斎藤さんを負け投手なんかにはさせませんよ」





230:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:22:09.55 id:wxCyKQSU0

現実の斎藤と大谷もこんな絆で結ばれて欲しい

てか、このssを斎藤佑樹本人が書いている可能性wwwwww





236:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:24:52.38 id:A4GvYy/u0

>>230
斎藤野球やれ





240:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:29:56.83 id:FYdo3irZ0

斎藤は手に持っていたボールを大谷に手渡し

バシッと背中を叩いた

斎藤は小走りでベンチにへと向かう

観客席からは惜しみない拍手が送られた

栗山「斎藤、よくやった。俺の見込み通りだ。」

斎藤「後は大谷に任せます」

大嶋「ようし、大谷!初球なに投げたい?」

大谷「…そうですね、160kmのストレートです」

大嶋「お、おいおい!そんな球投げれんのかよ!?」

大谷「投げてみませます、斎藤さんが守り抜いたここを汚す訳にはいきませんから」

大嶋(頼もしい奴だな…)

「タイガース、9番安藤に代わりまして…桧山…桧山」

実況「ここで代打の神様桧山登場です!!阪神の裏方にはまだこの男が残っていたァ!!」

解説「昨シーズンギリギリで引退を撤回されたんですよね、桧山選手は」





244:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:32:34.64 id:snt6rIG00

なにやってんだ桧山





245:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:33:23.18 id:qbdRxcA80

撤回すんなwwwww





247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:36:34.02 id:FYdo3irZ0

「この一打に賭けろ~」

「誰もお前を止められぬ~」

実況「地響きのような歓声が打席に向かう桧山に送られます!!」

実況「これが甲子園の怖いところです!」

桧山「まだこのユニフォームを着ていたい」

スッ

実況「打席に入った桧山!」

大谷(いきますよ、大嶋さん)

大谷、渾身の力を込め第1球を振りかぶって投げた

ビシュッ

桧山「…っ!」

ズバンッ

「159km」

実況「出ました159km!!これが怪物若手大谷です!」

大嶋(160は出なかったが…これだけ速いストレートを投げ込めれば…)





249:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:38:45.21 id:FYdo3irZ0

シュッ

スパンッ

審判「ボールッ!」

実況「2球目の緩いカーブは外に外れましたボール!」

解説「良い緩急だったんですけどねぇ」

大谷「…」

大嶋(力み過ぎだな…もうちょい肩の力抜け)

斎藤「大谷…」

ビシュッ

審判「ボール!」

実況「2球続けてボール!カウントワンストライクツーボール!」





253:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:45:08.29 id:FYdo3irZ0

カァーンッ
実況「桧山バックネット裏にファール!」

大嶋(うおお、155kmのストレートファールにしやがった)

福留「タイミングは合ってきてるな」

ビシュッ

カァーンッ

実況「ファール!桧山!粘ります」

その後も大谷の球をことごとくファールにし

徐々に大谷の桧山に投じた球数が増えていくことに

大谷「…っふう」

大嶋(ダメだ…投げる球とコースが思いつかねぇ…どうするべきか)

解説「桧山選手もタイミング合ってきてますから、怖いですねぇ」

実況「ええ、ホームランで阪神のサヨナラ勝ちです」

大嶋(…カーブ…)

大谷(フルフル)

大谷は大嶋のサインに首を振った





256:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:51:22.79 id:FYdo3irZ0

大嶋(じゃあ…スライダー…?)

大谷(…)

大嶋(違うのか…じゃあチェンジアップか?)

大谷(フルフル)

大嶋(……ど真ん中ストレート?)

大谷はそのサインにようやく笑みを浮かべ頷いた

実況「ようやくサインに頷きました大谷!」

大嶋(あーもう!お前に託したよ大谷!)

大谷は振りかぶり代打の神、桧山に今日1番となる直球をぶち込む

ビシュッ

桧山(……!!微妙に低い……見送るべきか……!)

バシッ





261:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:53:31.26 id:FYdo3irZ0

真ん中より少し低めに決まった大谷のストレート

桧山はボールと思い見送った

審判の判定は……

審判「ストライクーーーーッ!!!バッター――アウト!!」

大谷「うおおおおああああああ!!!!!」

右手でガッツポーズをし雄たけびを上げる大谷

「160km」

スピードガンには160kmと計測されていた

実況「大谷!!160kmのストレートで代打の神様桧山を三振に取りました!!」

実況「延長戦突入です!!」





268:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/29(日) 23:59:27.21 id:FYdo3irZ0

スパァンッ

10回の表、先頭打者の大谷が阪神ボイヤーの球を捉え

貴重な勝ち越しソロホームランを放ち

その1点を大谷自身が守りきり1点差でタイガースを下した

藤浪「完敗です、調子自体は悪くはなかったんですけど」

藤浪「斎藤さん…いやファイターズの皆さんにやられてしまったっていう感じです」

藤浪「次回までには修正して、チームを勝利に導くピッチングをしたいと思います」


黒木「勝ち負けは斎藤にはつきませんでしたが…」

栗山「まぁ、よくこの試合に勝てたものだな」

黒木「本当に斎藤の雰囲気が見違えたみたいで……」

栗山「なにかに取り憑かれてしまったのかもしれんな」





275:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:05:36.67 id:FYdo3irZ0

一方…神宮での田中(斎藤)は

ズバンッ

実況「試合終了ーーーーー!!田中!!執念の完投勝利!!」

実況「打線が試合をひっくり返し田中が奮闘!」

実況「小川選手のアクシデントもあり途中でリリーフ登板した由規も見事なピッチングでした」

田中(僕は…この身体で満足しちゃいけないんだ)

田中(元の身体に戻って、自分の力で試合に投げ勝ちたいんだ……!)

身体の入れ替わった斎藤(田中)の活躍を極力

新聞やテレビで見ないようにしていたが

どうしても気になり、彼の現状を知り田中(斎藤)は自身の考えを改めた

田中(元の身体に戻れば…田中ともまた投げ合える…)





280:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:11:45.66 id:FYdo3irZ0

斎藤「今日はもうホテルに戻ってゆっくりするか…」

甲子園を出てバスに乗り込もうとすると

スッ

里田「あ…ナイスピッチングです」

斎藤「…!!」

斎藤(田中)の前に現れたのは里田であった

里田「今日ずっとスタンドから見てましたよ」

里田「チームみんなで勝てて良かったですね…!」

斎藤(どうして、甲子園なんかに…?)

里田「斎藤くん……じゃなくて………あの……そのなんて言えばいいか…」

斎藤「え…?」





281:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:12:22.31 ID:q/NVox+T0

え・・・?





283:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:13:40.66 ID:/ltmAGz80

ついにきたか





293:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:21:22.44 id:FYdo3irZ0

里田「………」

斎藤「…」

斎藤(田中)の心臓が高鳴る

すると、里田は笑顔になりこう言い放った

里田「今は言いません…!」

斎藤「……え?」

里田の発言まだ理解出来なかった

思わず真実を伝えようとしたが、踏みとどまった

里田「私は知ってますから…薄々気づいてもいました」

里田「だから……帰ってきたら、おかえりって言ってあげる…それまで私は待ちます」

斎藤は里田のその一言で全てを察する

里田のさっき自分に見せた笑顔が涙を隠しているようにも見えた

里田「それじゃあ…また」

里田はそう言い残し立ち去っていた

斎藤「……あああああああああああああああ!!!!」





302:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:28:58.84 id:FYdo3irZ0

……



「菅野!ソフトバンク打線を無失点!今季早くも2度目の完封勝利!」

「藤浪、オリックス打線から10奪三振で7勝目!」

「ライアン小川!完投勝利!防御率ランキング現在セリーグ1位!」


パサッ

栗山「いやまったく、セリーグの若手投手達は本当に素晴らしい」

黒木「ええ…やはりいずれは球界を代表するような投手になると思います」

栗山「この3人…いやもっと出て来るかもしれないな」

コンコンッ

栗山「入れ」

ガチャッ

大嶋「…どうも」

栗山「大嶋か、どうしたんだ」





314:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:36:35.58 id:FYdo3irZ0

大嶋「実は……」

……



栗山「……腰の怪我…」

黒木「あの時のヘッドスラィディングの?」

大嶋「そうっす…思ったより痛みが引かなくて…」

大嶋「担当医からはこれ以上野球を続けるとスポーツ自体が出来なくなる身体になるって言われたっす」

栗山「……どうして黙ってたんだ?」

大嶋「捕手から外されるのが嫌で……黙っていましたっす…」

黒木「隠しておいた所為で腰が悪化したんだぞ…!」

大嶋「…斎藤さんの球は俺がずっと受け続けていたいんです」

黒木「大嶋…」

栗山「お前が斎藤にどれだけの信頼を寄せているかは分かっている」

栗山「だが、俺はチームを指揮する人間だ。無茶をさせる訳にはいかん。」

大嶋「……」





316:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:37:59.91 id:yOocdcJv0

さすがに故障者ですぎじゃないか?





317:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:38:55.30 ID:8p5tUYc30

>>316
今年のヤクルトを舐めてはいけない





321:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/09/30(月) 00:45:54.78 id:FYdo3irZ0

栗山「けどな、そんな情熱的な願いに俺は弱いんだよ」

大嶋「…じゃ、じゃあ……」

栗山「斎藤の登板時にだけお前にマスクを被らせる」

栗山「それと、打席に立ってもフルスイングするな」

栗山「お前斎藤の最高の恋女房役として試合に出てあいつを支えてやれ」

大嶋「……はいッス!!!!あ、ありがとうございます!!!!」

大嶋は大きな声を上げ監督に頭を下げた


斎藤は休日を返上しチームのブルペンで投げ込みをしている

斎藤「…はぁ……はぁ」

同じく田中(斎藤)も楽天の練習場でハードな練習をこなしていた

田中(シーズンの後半に…必ず……)

斎藤「元の身体に戻って斎藤と投げ合ってみせる……!」

ズバンッ!!


完 

勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」

1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 00:08:55.04 ID:0i+UKr460

・初投稿です。
・残酷な描写があります。

よろしくお願いします



2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/03(水) 00:10:53.76 ID:0i+UKr460

 その疫病は、強い感染力を持っており、発病した人間から空気感染する。感染した人間は発病後、一週間をかけて徐々に体の力が抜けてゆき、やがて体が動かなくなると今度は全身の穴という穴から血を流し、地獄の苦しみの果て死ぬ。

 しかし特筆すべきはその疫病が魔族には一切発病しないということであった。

 疫病は女神との対話を経て、教会が解毒魔法を開発するまでの3年間に全人口の4割を死滅させた。

 結果として人々は魔族の進行と、疫病に苦しみ、魔王が現れてから三年の間に人類の領土は、ある小さな王国と、その周辺地域を残し、すべて侵略された。

 三年間の劣勢の中、その小さな王国が生き残ることができたのは、孤島に浮かぶ地の利があったほかに、勇者の存在があったためであった。

 その女神の加護を受けた選ばれし少年が、その啓示を全うし、疫病に苦しむその王国を仲間と共に、襲い来る魔物の手から守り抜いたのである。

 そして、疫病の危機を人類が乗り切った後、勇者は旅立つことを決意した。

 人々を苦しめる魔王を倒すため、勇者は、頼もしい三人の仲間と共に、世界を救うための旅にでた。

 そして、艱難辛苦乗り越えた勇者一行は、5年間の旅の末、ついに魔王と対峙を果たしたのである。

 

3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/03(水) 00:12:13.60 ID:0i+UKr460

勇者「魔王……っ」

 魔王城、魔王の間。 勇者は目の前、王座に鎮座する男を鋭く睨みつけた。

魔王「我の配下を次々屠り、ついにここまで辿りつたと思うと、感慨深いものがあるな」

 魔王は、穏やかな口調でいった。一見すると黒髪長身の若い男にしか見えない。

 しかし、勇者にはわかった。この男から発せられる禍々しい魔力が、目の前の存在が間違いなく魔王であると告げていた。

僧侶「勇者さま……」

 勇者と同様、魔王の気に感づいたのか、彼女は冷や汗をかきながら勇者を呼んだ

僧侶「あの者は、今までに感じたことのないほどの力を感じます、ご用心を」

勇者「言われるまでもねーよ」

戦士「さっさとやっちまおうぜ」

 戦士は筋肉隆々の腕に握られた斧を担ぎ、構えを完成させる。

魔法使い「援護は任せて」

 彼女も小ぶりな杖を構え、いつでも戦える体制だ。

魔王「頼もしい仲間だな」

 魔王の言葉に、皆がプレッシャーを感じる、ただその口から発せられる言葉だけでも、並みの人間なら意識を刈り取られていただろう。

魔王「だがな勇者、余は知っているぞ、貴様らが余を前にして勇敢に戦える理由をな」

勇者「…なんだと?」

魔王「ふふ、余がただ、何もせず貴様らが来るのを待っているとおもっていたのか?」

魔王「その貴様らの希望が、地獄であったことを教えてやろう」

 魔王は、顔に微笑を浮かべると、王座から腰を上げた。

勇者「くるぞっ!!」

 ――仮に、この場に、村人がいたとしよう。その村人の目には、魔王が席を立った瞬間、勇者一行と魔王がその場から消えたように見えただろう。

 次に起こるのは、爆炎と粉塵、しかしその粉塵も刹那の間に切り裂かれ霧散する。

 魔王の間には今、常人ならかすっただけでも致命傷になりうる暴力が錯綜していた。



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/03(水) 00:13:04.17 ID:0i+UKr460

魔法使い「極大疾風呪文!」

 巨大な竜巻が、魔王めがけ突き進む。

魔王「ふん」

 魔王の手の一振りで、魔法使いが生み出したものと同じレベルの竜巻が発生する。

 同規模の呪文が激突し、相殺された。

僧侶「全能強化呪文」

 僧侶の魔法が、勇者と戦士のステータスを跳ね上げる。

 そして風の衝突により発生する粉塵を突き抜け、戦士と勇者が魔王に切りかかった。

 戦士の重く早い斬撃と、勇者の素早く正確な斬撃が息の合ったコンビネーションと共に、音速を超える速度で放たれる。

魔王「ふははは」

 その閃撃を、魔王は両手の上腕のみで受けきってみせた。

 刃と腕が激突するたびに、金属音と火花が散る。

 勇者と戦士の剣技を受け、体を後退させながらも、魔王は余裕を張り付けた顔で、二人の攻撃を防いでいた。

勇者(伝説の剣でも切れないのか!?)

戦士(ぬうううっ僧侶ちゃんによって強化された俺たちの剣技を防ぐとは)

 無呼吸運動に二人が限界を感じたその時。

魔法使い・僧侶「どい てっ・くださいっ!」

勇者・戦士「!」
 
 その音が届くと同時、勇者と戦士はその場から飛び退く。

魔法使い「極大熱線呪文!!」

僧侶「極聖十字呪文」

灼熱の極太光線と、眩く光る巨大な十字の衝撃波が、取り残された魔王を襲う。

魔王「!」

 魔法使いと僧侶の究極魔法が、魔王に直撃する。粉塵と共に爆音と衝撃が空間を駆け抜けた。

戦士「やったか!?」

 着地同時、声を発した戦士の顔が、一瞬で曇った。

 魔王のいた地点を起点に巻き起こる風が、粉塵を払いのけ、無傷の魔王が姿を現したのだ。



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/03(水) 00:13:46.67 ID:0i+UKr460

魔王「ふむ、なかなかやるな」

 魔王の周囲に、野球ボールほどの大きさの光球が三十ほど召喚される。

勇者「!」

 魔王が手を振るうと同時、光球が、四人それぞれへ向け迫る。

勇・戦・魔・僧「っツ!」

 四人がそれぞれ音速の回避運動に入る。 それを追尾する光弾。

戦士「なっ」

 迫る8つの光弾、その内の一つに戦士は斧を振り下ろした。 着弾、同時に爆発、その爆発は残りの光弾にも誘爆し、戦士は爆炎の中に包まれた。

勇者「戦士! くっそ」

 勇者は、体を錐もみさせながら跳躍し、紙一重で迫る10の光弾を避けると、自身を通り過ぎた光球めがけ雷撃呪文を放つ。呪文の衝突により、10の光球が同時に炸裂した。

 光球の爆風に吹き飛ぶ体の舵を取り、なんとか着地する。視界の隅で、魔法使いが僧侶と自分に迫る光球を、勇者と同じ要領でやり過ごすの確認する。

魔王「」

勇者「!!」

 背後に走る悪寒に、勇者はとっさに背面へ向け伝説の剣を振り抜く。

 刃が空を切る、その切っ先の数センチ先に魔王の余裕の張り付いた顔があった。

勇者「――~~ッ!!」

 勇者は左手をかざし、雷撃呪文を放つ。

 対し魔王は、暗黒呪文で応じた。

 至近距離で二つの呪文が激突する。 鋭い雷鳴と光が辺りを包み込み、その後訪れる衝撃波に勇者の体が吹き飛んだ。

 体が地面をバウンドし、転がり、やがて停止。 停止と同時、呪文を撃った左手に激痛が走る。

 見れば、腕がなくなっていた。

 ほぼゼロ距離からの勇者専用魔法と魔王専用魔法の激突だ、これぐらいで済んでむしろ運が良かった。

 そう思考すると同時、勇者は同じ条件であった魔王を見、顔をしかめた。

 魔王は涼しげな顔をして、先ほど勇者がいた場所に直立している。

 僧侶の回復魔法で、黒焦げになった戦士の体と、勇者の失った左腕が再生した。

魔王「どうした? こんなものか?」

 魔王はその余裕ゆえか、声をかけた。

勇者「……く」

 勇者は、顔をゆがめる。

 強い……今まで戦ったどんな敵よりも……これが魔王

 女神の加護を授かった自分達をまるで相手にしていない。

 しかし……どうにも引っかかる。戦闘前の言葉もそうだが、今の魔王の戦いぶりだ、たとえば先ほどの魔法使いの疾風呪文に対して、あの暗黒魔法を使えば、貫けたはずだ。 なぜ相殺を選択した? というより、なぜ人型のまま戦うのか。 この最終局面で本気を出さない理由などどこにもないはずなのに……



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/03(水) 00:17:04.92 ID:0i+UKr460

勇者「!」

 一瞬で勇者の目前に移動する魔王、その手刀と、勇者の剣が激突する。

魔王(何か感づいたか?)

勇者「――ッっ」

 勇者は、思考を中断し、魔王との鍔迫り合いをやり過ごすと、後方に跳び、魔王と距離をとる。そして皆に目配せする。

戦・魔・僧「!」

 三人の仲間達は、その目配せから読み取ったのか、勇者へ手をかざした。

 三人の魔力が勇者に注ぎ込まれる。

 勇者の体から魔力がほとばしる、頭髪が発光し重力に逆らうように逆立った。

魔王「!」

 魔王の眼前に伝説の剣が迫る。

 今までとはくらべものにならない圧倒的な初速で、繰り出されたそれを、魔王は屈むことで避けた。

 続く第二閃、勇者によって放たれるそれは、やはり今までの比でない速度と威力をもって魔王に迫る。

 魔王は魔力を腕の前腕に集中させ、繰り出されるそれを腕をクロスさせることで防いだ。

 しかし、その威力を相殺できず、体が大きく後方へ吹き飛ぶ。

 続く三閃、音速の空中滑空の最中迫るその閃撃を、魔王はまたしても前腕で防ぐ。

魔王「……!」

 四閃、五閃、六閃、刹那の間に繰り出されるその攻撃を魔王は腕の挙動のみで対処しきった。

 吹き飛ぶ魔王と並走する勇者によって振るわれる剣撃と、魔王の腕撃の激突により、二人の通る空間には漆黒と稲妻の衝撃波だけが取り残され。まるで二人を追従するように次々と爆ぜてゆく。

 魔王の背が壁と激突する、それによって停止する体の滑空、目前には、伝説の剣による刺突が迫っている。

 対し魔王は、両の手の平で白刃取りした。

勇者「!」

 白刃取りの衝撃波が黒と雷の魔撃を放出しながら波紋上に周囲を駆け抜けた。その中心、勇者の腹部に、魔王のつま先がめり込む。

勇者「……ッ」

 魔王に蹴り上げられ、上空にかちあげられる勇者。

 同時、戦士が投射したアックスが、僧侶の極大呪文が、魔法使いの極大呪文が―

 ―三方から魔王へ迫る。

 対し魔王は、漆黒の魔力を周囲に球体状に展開し、魔力のバリアを張った。

 すべての攻撃が、魔王へ届くことなく、バリアに阻まれる。

勇者「究極皆雷撃呪文」

魔王(詠唱時間を稼ぐことが狙いか)

 勇者を纏っていた魔力が、一瞬にして体から離れ、周囲に拡散する、そして勇者の掲げた手のひらに収束、まるで光線のような極太の雷撃が、雷速でバリアを貼った魔王へと降り注いだ。

魔王「……!」

 勇者の全魔力を放出した一撃が、魔王のバリアを吹き飛ばし、魔王に直撃する。

 光のドームに包まれる魔王。

 やがて光が拡散する。

 同時、着地する勇者。

勇者「……くそ」

 勇者は着地と同時、顔を歪めた。

 そこには、傷つき、口の端から血を流しながらも、直立する魔王の姿があった。



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/03(水) 00:18:08.21 ID:0i+UKr460

30分後

魔王「思いのほか手こずったな、さすがは勇者一行といったところか」

 衣服や体についた傷に顔をしかめながらも、魔王は満足気に足元に倒れる勇者一行を見つめた。

勇者「……く」

戦士「なんたる…」

僧侶「はぁ…はぁ…」

魔法使い「化け物…」

 魔力をすべて使い果たし、立ち上がる体力も奪われた勇者たち、しかし皆、息がある。

魔王「まだしゃべれるのだから大したものだよ」

 魔王はそういいながら、指を鳴らした。

 魔王の間に魔物がぞろぞろと入ってくる。

魔王「連れて行け」

魔物「はっ」

 勇者一行は乱暴に引きずられながら、荒れ果てた魔王の間を後にした。



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/03(水) 21:43:22.58 ID:0i+UKr460

 勇者に選ばれたものに与えられる女神の加護。

 この加護を受けた人間は、人としての限界を超える体力と魔力を得ることができる。

 そして勇者は、制約はあれど、この加護を仲間にも与えることができ、それにより勇者の仲間は、勇者と変わらぬ力を得ることができる。

また、女神の加護を受けたことによる最たる効力として不死がある。

どんな方法で殺そうと、加護を受けたものの死体はその場に残ることはなく、契約を交わした教会へ全快の状態で転移される。

つまり女神の加護を受けた者は、高い戦闘能力に加え、何度死のうがその戦闘の経験値を引き継いだまま生き返り、戦い続けることができるという、一般の人間や魔族と比べても圧倒的なアドバンテージを有するのである。

それは、魔王にとっても脅威であり、勇者一行にとっては十分すぎる保健となっていた。

あるいは……

勇者は考える。

その油断が、この最悪の現状に気づけなかった原因であったのかもしれない。



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:46:30.37 ID:0i+UKr460

魔王に敗れ、勇者一行はそれぞれ別の独房に入れられた。

独房、鉄柵の檻の奥は四方を壁に覆われ、窓もベットも何もない、壁はただのざらついた石造りのように見えるが、その強度はあの戦闘でも崩れることのなかった魔王の間と同じ材質であると考えられる。

そして鉄柵の向こう側には花。毒々しい色をしたその花は近くに存在する者の魔力を吸い上げる性質を持つもので、魔王城にたどり着く前の冒険でも、なんどか苦戦させられたものと同じであることを勇者はしっていた。

ここで睡眠をとっても魔力は回復しない……女神の加護は自分の魔力の消費によって成り立っているため、魔力がなければその恩恵を得ることができない。 回復するのは勇者本来の体力のみとなる。

加えて、舌を噛み切らないように猿ぐつわをかまされ、両手両足は鉄の枷で固定されている。

勇者(厳重だな)

不自由な体を身動ぎさせ、顔をしかめた。

 そう、死んでも復活するのなら、殺さずに、このように無力化すれば良いのだ。

 くそ……ほかのみんなは大丈夫なのだろうか

……世界は、大丈夫なのだろうか

 女神さま……どうか……世界にご加護を

 勇者は目をつぶり、ただひたすらに祈った。



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:48:08.78 ID:0i+UKr460

 腕や足が、関節を無視してねじ曲がり、体が球状に歪んでいた。

 痛覚が全開で悲鳴を上げるが、意識が飛ぶことはなかった。

 例えではなく、実際に体が歪に曲げられているのだ。

 脳内は、鋭い痛みの信号のみが蹂躙し、もはやどこが痛いのかもわからない。

 ただ、声だけは出すことができた。

 今自分は痛みに耐えられず、無様に声を上げている。

 そんな状態が、どれほど続いたのかわからない。

 体感的には1年にも10年にも感じた。



 勇者を肉団子にしてから1日後、魔王は、勇者を魔王の間に連れてこさせた。

 魔王は指を鳴らすと、肉団子がほどけ、ぐったりとした勇者が姿を現す。

魔王「女神の信仰を捨てる気にはなったかね」

勇者「……ッ」

 勇者は痛みに歯を食いしばりながら、弱弱しく首を左右に振った。

魔王「まったく、本当に強情だな、お前らは」

 勇者は、魔王をにらむ。

魔王「捨てれば良いのだ、そんな信仰、そうすれば、貴様らにこんなことをしなくても済むというに、なぜわからん、もう信仰を捨て、死んだ方が楽であろうに」

勇者「……」

 猿ぐつわははめ、不細工な息を吐き出しながらも、勇者は魔王を睨み続けた。

魔王「…もう良い、次だ」

 勇者は魔物に引きずられ、部屋を後にする、そして独房に戻る途中で、同じように魔物に引きずられる魔法使いとすれ違った。



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:49:49.57 ID:0i+UKr460

……

戦士「まーた化粧なんてして、俺には理解できん」

 馬車の上、手綱を握りながら、隣に座る魔法使いへ戦士はため息を吐いた。

魔法使い「まー、筋肉だるまには分からないわよね~かわいそうに」

 魔法使いはそんなこと意に返さないといった風で、コンパクトを見ながら口紅を塗る。

戦士「筋肉だるまだと!? そんな褒めても何もでんぞ!!」

魔法使い「別に褒めてねーよ」

戦士「ぬなっ!?」

魔法使い「……全くこれだから脳みそ筋肉なやつとの会話は疲れる、ねー勇者」

 馬車の荷台に腰をおろしている勇者は、困ったように笑う。

勇者「俺にふるなって」

戦士「脳みそまで筋肉だと!? お前まさか……これが口説かれてるというやつか」

魔法使い「だから褒めてねーって!」

 そんな漫才を見て、勇者と僧侶が笑う。

魔法使い「まったく笑い事じゃないわよ、私のこの美貌はこんな筋肉馬鹿のためにあるんじゃないっつーの」

戦士「筋肉馬鹿……」

魔法使い「だから褒めて……ってほんとに落ち込んでんのかよ! 鈍いくせにメンタル弱すぎでしょ!」

戦士「筋肉馬鹿……筋肉馬鹿……」

 ズーンと身を沈めながら戦士はうわごとのようにつぶやいてる

魔法使い「あーもうごめんって、言い過ぎたわよう」

戦士「すまん……しばらく放っておいてくれ……すぐ…復活するから」

魔法使い「お前もうめんどくせーよ!」

僧侶「くすくす」

魔法使い「あ、なーによ僧侶、あんた笑っちゃってないで一緒にこの馬鹿なんとかしなさいよ」



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:50:48.40 ID:0i+UKr460

魔法使い「あ、なーによ僧侶、あんた笑っちゃってないで一緒にこの馬鹿なんとかしなさいよ」

僧侶「えっ いえ、私にはどうしようも……」

 ごにょごにょと僧侶は困ったように言葉にならない言葉を並べる。

魔法使い「何言ってるかわかんないわよう」

勇者「魔法使い、僧侶をあんまり困らせるな」

魔法使い「なーによ勇者まで、私が悪者?」

勇者「いや、そういうわけじゃないけど…」

魔法使い「もう怒った、勇者なんてしらない!」

 魔法使いは頬をふくらませ、プイッとそっぽを向いてしまった。

勇者「そう怒るなよ、機嫌直せって」

魔法使い「……」

 魔法使いは半目でじとっと勇者をにらむ。

勇者「なんだよ……」

魔法使い「買い物」

勇者「ん?」

魔法使い「次の町で、一緒に買い物につきあってくれたら、許してあげる」

勇者「ん? 買い物?」

 意図がよく読めない勇者であったが、これ以上魔法使いの機嫌を損ねるのも面倒だったので、了承する。

魔法使い「ホント? ホントに?」

 了承した瞬間、魔法使いの顔が、コロッと笑顔になった。

勇者「ああ、いいよ買い物くらい、ただし、あんまり高いものは困るぞ」

魔法使い「わかってるって、女神様に誓って約束よ、勇者」

 魔法使いは子どものような笑顔を勇者へ向け、小指を出す、勇者は若干の理不尽さを感じながらもその指に自分の小指を絡ませた。




「勇者ぁぁぁ」

 はげ上がった頭頂、両目が厚ぼったく腫れ上がり、鼻が豚のようにでかく、奇妙な口をした者が、口から液をはき出さしながら勇者の名を呼んだ。

 鉄柵ごしに、魔物に引きずられながら、その異形な顔をした者は、勇者の名を呼び続ける。

「どうしよう勇者、私……ずっとこの顔なんだって……死んでも直らないんだって……魔王がそういう呪いをかけたんだってぇぇぇ」

勇者「……ッ!!」

 猿ぐつわを噛まされたままの勇者は、目を見張り、その奇形の女を見つめる

 まさか……魔法使い?

「どーしよー勇者……なんで…なんでこんな、ひぎゃ」

 魔物の蹴りが、魔法使いの腹部に突き刺さった。

 魔法使いの体が浮き上がり、地面に落ちる。

 豚のような鼻から、膿のような臭い汁を出し、魔法使いはうずくまる。

「うっううっ」

 すすり泣く声が聞こえる。

 魔法使いは、引きずられながら、自分の独房の中へ帰って行った。



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:51:18.76 ID:0i+UKr460

「……ッ」

 魔法使いの悲痛な叫びが耳から離れない、それは勇者の胸の締め付ける。

 その痛みは、爪を剥がされた手足の痛みを、折檻により痛めつけられた体の痛みを凌ぐほどの苦痛を勇者にもたらした。

 魔王に破れ三日がたった。 三日間、ほぼ一日中魔物より与えられる苦痛、時には魔王みずからが、虐待に参加することもあった。

 死なないように細心の注意を払いながら行われる拷問の数々。

 特に魔王の拷問が何よりも残忍であり、冷酷であった。

 勇者はそれを思い出すだけで、未だに体が震える。

「うっ…ううう」

 遠くから、魔法使いのすすり泣く声が聞こえる。

 猿ぐつわはされていない、しゃべれることから舌を噛むことだってできる……

 でも、きっと魔法使いは、それをしないだろう

 人一倍外見に気を遣っていた彼女だ。 あんな顔で人前にでるなど、彼女に取って死ぬよりも苦痛であろう。

 勇者は、顔をゆがめる。

 言ってやりたかった、そんなお前でも俺はかまわないと、

 ほかの誰が何を言おうと守ってやると。

 ただ、勇者の口からは猿ぐつわを伝って唾液が漏れるのみで、声は液にまみれどこにも響くことはなかった。



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:52:17.05 ID:0i+UKr460

……

「ぴー、ぴー」

「そう怖がるなよ、友達になろう」


……

「ぴー」

「いて、ははは、かみついてくるとは、いい度胸だ」


「ぴーっ!」

「いててて、このやろう」



……


「ぴー」

「そんな顔するな、すぐ戻ってくるから」

「ピー…」

「馬車の事、たのんだぞ」

……ピィ 

勇者「……」

 囁きかけるような鳴き声に、勇者はぼんやりと目を開ける。

 目の前、青い体のスライムがいる。

勇者(スラきち…)

 こんなところまで来たのか……

 体中の筋を削がれ、もはや動くことすら出来ない勇者。

スラきち「ぴぃ」

 スライムは、悲しそうな顔でこちらを見る。

 捕まって……どれくらいたった……みんなは……

 久しぶりに見た仲間の姿に、勇者は心にわずかな余裕を取り戻していた。

 勇者になってから出会った友達……、まだ魔王の事も、魔物の事もよくわかってなかった頃。

 その見た目のかわいさと、負けん気の強そうな目に惹かれ、つい構っていたら、仲間になった、唯一の魔物。 そして女神の加護を受けた魔物でもある。

 しかしスライムにおける女神の加護の伸びしろは人ほど長くはなかったらしく、俺たちが成長を続ける中、早期にスラきちの成長の限界は訪れてしまった。

 そこらの魔物には負けないだろうが、音速戦闘が行えるレベルに達する事はなかった。

 だけど

勇者(今の俺を殺せる攻撃力くらいは……ある)

 勇者は、目で訴える。

スラきち「……」

 スラきちは、黙って勇者を見つめた。

 勇者とスライムは、しばらくお互いを見つめ合った。

 そして

 スライムの牙が、勇者の喉を食いちぎった。



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:53:45.53 ID:0i+UKr460

――……

神官「……勇者」

 教会、ステンドグラスからそそぐ光に目を細め、勇者は静かに、自由の利く体を噛みしめた。

いつぶりの自由だろうか

勇者「今何時でしょうか? すぐにでも王に報告したいことが……っ」

 しゃべり、動き出そうとした勇者はその場にかがみこんでしまった。

神官「勇者、大丈夫か?」

勇者「大丈夫です、少し体に違和感があるだけですので、それよりも、早く王に報告したいことがあります。ことは一刻を争うのです」

神官「…うむ、わかった。司祭、事情は分かったな? すぐに城へ向かいなさい。私は勇者の介抱をする」

 近くにいた若い司祭の男がうなずいた。

司祭「…わかりました」

勇者「いえ、俺が…」

神官「勇者、あなたは疲れているのです、死んだばかりだ、無理もない、とにかく一度腰を落ち着け、何か温かいものを飲んでから、城にむかいなさい」

勇者「しかし……」

神官「みなさい、体が震えているではありませんか、今シスターに温かい飲み物を用意させます、それまでおとなしくしているのです、いいですね?」

勇者(確かに……体も思うように動かないし、気分も悪い…)

勇者「……わかりました」

 勇者は、教会の椅子に座ると、一度大きく息を吐いた。

勇者(スラきちは…うまくやっているだろうか、それとも…俺が最後なのだろうか?)

勇者「神官さま、私の仲間はこちらにいらしているでしょうか?」

神官「!…今はそんな事よりも、自分の回復に努めなさい」

勇者「神官さま、そんな事ってどういうことです? 何かご存じなのでしょうか?」

神官「後で話ます、今はとにかく気を落ち着けなさい」

勇者「いえ、今すぐ教えていただきたい、私の仲間は、何人、こちらに来しました?」

神官「……一人……です」

勇者「誰です?」

神官「……僧侶が、あなたの来る5時間ほど前に」

勇者「! 彼女は今どこに?」

 勇者はふらつきながらも立ち上がった。

神官「会わない方がいい」

勇者「!? なぜです? まさか醜い姿で転生されたとか?」

神官「いや、女神の転生を経れば、肉体に対する傷も呪いも正常状態時に戻ります」

勇者「! ではなぜ!?」

神官「心です、彼女の心は……壊れてしまっていた」

勇者「……!」

神官「もはや意思の疎通はとれず、日常生活は不可能、あんなに信仰熱心な子だったのに……残念だ」

勇者「合わせてください」

神官「勇者よ…」

勇者「お願いします」

神官「……」



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/03(水) 21:55:54.35 ID:0i+UKr460

僧侶「あー」

勇者「……」

 教会の個室で、床にペタリと腰をつけ、だらしなく涎を垂らしながら、彼女は天井を見つめていた。

勇者「…僧侶」

僧侶「うー…あー」

 僧侶は応えない、ただ天井を見つめてうめき声を上げる。

勇者「……」

 この5年の旅だってつらかった。

 辛いことがたくさんあった。

 でも、みんなで協力して乗り越えることができたんだ。

 でも……でも

 あんな……拷問を受けたことはなかった。

 死ぬ方がマシと思えるようなことは……なかったんだ。

 仲間がいたから。

 体が動けたから。

 死んでも……教会で目覚めることができたから

 彼女も、信仰を捨てるよう、迫られたのだろう。

 でも、人一倍信仰の強かった彼女は、どんな拷問を受けてもそれを捨てることはしなかった。

 心を犠牲にしても……っ

 俺のおごりだ。

 俺の作戦ミスだ。

 死なないことにあぐらをかいた、俺のミスだ。

勇者「僧侶……すまない…ッ!」

 勇者は、うつろな瞳で天井を見上げ、ただ声を漏らす僧侶の前に項垂れた。



29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/04(木) 20:34:49.75 id:lZn7fQPP0

 魔物の出現と同時日発生したウイルスは、研究の結果、微生物型の魔物であることがわかった。

 このウイルス型の魔物は《オルガ》と名付けられた、オルガは魔物の体内では無害であり、また魔物の呼吸から外にでたオルガは大気に触れた瞬間死滅してしまうほど弱い。しかし、魔物の牙や体液を通して人間の体内に侵入することがある。

 そして人間の体内に侵入するとオルガの構造が変化するのである。

 変異したオルガは性質が変わり、宿主の人体を攻撃すると同時に、魔物の体内時とは比べ物にならない速度で増殖を始める。また、人間の呼吸から空気中にでた変異オルガは、すぐに死滅することなく他人の体内に侵入できるようになる(なお、その状態で魔物に感染しても魔物に対しては無害である)。

 人間の体内に侵入したオルガは一週間徐々に体を破壊し、やがて全身に死ぬほどの痛みをもたらした後に宿主を絶命させる。

 オルガは、教会の研究により、人の体内に巣くうオルガのみを破壊を可能とする魔法を生み出すことで、人類は絶滅の危機を回避することができたが、病原の発生元は、魔物であるため根本的な解決には至らず、治癒魔法が開発された現在でもいまだに年間で1000人を超す死者が発生する。



30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:39:16.47 id:lZn7fQPP0

 戦士、魔法使いが来るのを待った勇者であったが、一向に来る気配はなく、城から派遣された兵士が勇者を迎えに来たため、勇者は後のことを神官に任せ、一時城へ向かうこととした。

 会議室

 楕円型のテーブルを囲むように、国の重鎮たちが勇者の話に耳を傾けている。

 勇者は、魔王城への旅路や、魔王と実際に戦った経験を通して話をした。

勇者「……五年の旅の中でまず感じたことは、魔王城へ近づくにつれ、魔物が強くなっているということでした」

勇者「その疑問も、魔王と戦闘をした今ならば理解できます、おそらく魔王城を中心に魔族を強化する空気のようなものが放出されているためでしょう、つまりあの、私たちを蹂躙する力を持つ魔王も、城から離れてしまうと本来の力は出せないと考えられます、そうでないのなら、魔王自らが世界を滅ぼすこともできたはずです。加えて、魔王城から最も遠いこの国がもっとも被害が少なかったことも説明できます」

参謀長「しかし、弱体化するといってもどの程度なのか、君たち勇者一向を屠る力など、弱体化したところで我々にとっては脅威以外のなにものでもない」

勇者「そうですね……しかし、ここで魔王にはもう一つの問題が発生します」

参謀長「もう一つの問題?」

勇者「ええ、魔族との戦闘中にも感じたことなのですが、魔王と直に戦ったことで確信しました。魔族は、神系の魔法を使うことができない」

参謀長「神系の魔法……回復魔法……空間移動魔法のことか」

勇者「そうです、拷問を受けている最中、魔王の姿を確認しましたが、私たちとの戦闘で受けた傷はまだ残っていました。この事実からも信憑性はかなり高いです。傷を治さない理由はありませんからね。 つまり神系魔法である転移呪文を持たない魔王は、ここまで攻め込むには自分の体で行くしかない。おそらく魔王城からこの国まで、どんな移動手段を用いようと1年は要すると考えられます。しかしこちらには空間移動魔法がある、魔王が留守にしている間に魔王城を落とされるリスクを、魔王が犯すとは考えずらいかと」

参謀長「うむ……では仮に、軍を率いて魔王が攻めてきたとして、その戦闘能力はどれほどになると考えられるか?」

勇者「オルガの感染能力から割り出せるのではないかと、思っています、参謀長、オルガの感染率は、魔王城から近い町と、この国でどれほどの差がありましたか?」

参謀長「確認できる範囲ではおおよそ、1000分の1ほどであったと記憶している」

勇者「だとすれば……国の全軍でなんとか対応できるレベルではないかと思われます」

参謀長「うむ……なるほどな、ならばさっそく準備に取り掛かるとしよう」

勇者「…では、私はこれで」

王「待て、勇者よ」

 今までずっと黙って話に聞き入っていた王が突然口を開いた。

勇者「は」

王「これから、どうするつもりなのだ?」

勇者「どう……と言われましても、まず教会へ行き、仲間の安否を確認します、もしまだ戻ってこないようならば、今すぐにでも転移魔法で乗りこみ、仲間を助け、そして魔王を討つつもりです」

王「…女神様の加護の効力は、すでに限界を迎えていると聞いているが」

勇者「…はい、その通りです、一か月前、教会でお告げを聞き、もうこれ以上強くはなれないと告げられ、それは先ほどお告げを聞いた時も同じでした」

王「さらに言えば、伝説の装備もすべて失ったのであろう?」

勇者「はい、装備をすべて外された状態で転生したので、今、私のもとに伝説の装備はありません」

王「…また捕まったらどうするつもりなのだ?」

勇者「もちろん、策があります」

王「う……うむ…」

勇者「もう行っても?」

王「…うむ……武運を祈っておる」

勇者「はっ、見事魔王を倒して見せます」

 勇者は一礼すると会議室から出て行った。

王「……」



31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:42:50.99 id:lZn7fQPP0

勇者「…!」

 城を後にした勇者の前に、三人の男女が待ち構えていた。

魔法戦士(男)「……」

武道家(男)「お待ちしていました、勇者さま」

賢者(女)「ぜひ私たちを、魔王討伐に連れて行っていただきたいと思っています」

勇者「……君たちでは、無駄死にするだけだよ」

 勇者は、そういうと三人を横切り歩く

魔法戦士「待てよ」

 勇者の前に立ちはだかり、彼は言葉を続ける。

魔法戦士「そら、加護を受けたあんたにとっちゃ、俺たちなんて、戦力にならないかもしれねぇ、だけど、その加護とやらを俺たちにも授けれくれりゃあ、話は変わるんじゃねぇのか?」

賢者「そうです、勇者さま、勇者様の仲間と同じように、私たちにも勇者の加護をお授けください。必ず力になって見せます」

勇者「……、三年だ」

武道家「え?」

勇者「戦士、魔法使い、僧侶が、加護の力を得たのは、俺が勇者になってから三年たったころだった」

賢者「……どういうことです? 加護は…勇者様が任意にお与えになっているのではないのですか?」

勇者「そう都合よくできるなら、全人類に加護を授けているよ」

魔法戦士「……」

勇者「俺から加護を与えられる者は、俺と長く時間を共にし、かつ俺の信頼を得ている者ってのが俺の結論だ、多分だが、女神への信仰とは別に、俺への信仰を求められるんじゃないか?」

武道家「でしたら、我々も負けていません! 勇者さまのことは誰よりも尊敬していると自負しているつもりです」

勇者「理想の俺を信仰しても意味なんかない。今の仲間とは、小さいころからの付き合いだった。それでも、俺が勇者になってから3年たって、加護の力を得た、この意味わかるか? そもそも俺は与えるという意識すらなかったってことだ、もちろん、今の俺にそんな長いこと悠長に待ってる時間はない」

 そもそも魔王の前では、また新しい仲間を作ったところで同じことの繰り返しにしかならないだろう

賢者「…そんな」

魔法戦士「……だが、あんたのサポートくらいはできるはずだ」

勇者「…あきらめが悪いな」

魔法戦士「当然だ! 俺たちは家族をオルガや魔物に殺されたんだ、その仇を討つために、今まで血反吐を吐いて、特訓を続けてきた! 魔王討伐の為に死ねるのなら本望、頼む勇者様、大した力にはなれないかもしれない、しかし、魔王への隙をつくるくらいはできるはずだ」

 武道家も、賢者も強い眼差しで勇者を見つめる。

勇者「……はぁ、わかった」

 魔法戦士、武道家、賢者の顔がほころぶ。

勇者「ただし、俺に触れることができたらな」

魔法戦士、武道家、賢者「!」



32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:43:39.24 id:lZn7fQPP0

勇者「今、ここでだ、魔法を俺に当てられたら、でもいい、それができないようでは、魔王には触れることすらできないだろうからな」

武道家「しかし勇者様は今、丸腰ではありませんか」

勇者「ちょうどいいハンデさ」

 その言葉に、三人の顔が曇った。

 どうやらプライドに触ったらしい。

魔法戦士「いいでしょう」

 魔法戦士は剣を抜く。

 賢者は杖を取り出し。

 武道家は構えた。

勇者「じゃあ、開始だ」

 魔法戦士、賢者、武道家が動く。

 まず武道家が、勇者めがけて矢のように迫る。

 その間に、魔法戦士が魔法剣の詠唱を、賢者が火炎魔法の詠唱を――

 勇者が、その場から消えた。

 そして三人の後ろに立つ。

武道家・魔法戦士・賢者「!?」

 同時、巻き起こる突風。

 音速に近い速度で移動したことによって発生するソニックブームが、三人の体を吹き飛ばした。

賢者(詠唱の時間も――)

武道家(攻撃する時間も――)

魔法戦士(相手の動きを見る時間すら――ない!)

 三人は、吹き飛び、地面を数メートル転がった後、停止した。

勇者「どうした? 俺はただ動いただけだぞ?」

魔法戦士「……ッ」

 魔法戦士はなんとか立ち上がろうと体を動かす、しかし次の瞬間には、全身を強い痛みに襲われ、体を動かすことは叶わなかった。

勇者「やめておけ、常人なら死んでるレベルの衝撃のはずだ、体が動くわけがない」

武道家「こんな…理不尽な…」

勇者「理不尽? 魔王はもっと理不尽だぞ、俺レベルが四人がかりで、手も足も出ないんだからな、だがこれでわかったろ?」

勇者「魔王と戦闘では、悠長に詠唱してる時間なんてないし」

賢者「!」

勇者「相手の動きから出方を見る余裕もないし」

魔法戦士「!」

勇者「ましてや拳を当てるなんて、今のままでは不可能だとな」

武道家「……!」

勇者「じゃあな、お前らも、そこらの魔物相手なら、難なく戦える、できればその力を、この国を守る為に使ってほしい……そうしてくれると、俺も心強い」

 勇者は、それだけ言い、倒れる三人をその場に残し、教会へ足を向けた。



33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:46:08.91 id:lZn7fQPP0

 教会に、戦士と魔法使いの姿はなかった。

 神官に僧侶のことを託し、勇者は教会を出る。

司祭「もういくつもりか?」

 教会の壁に身を預け、腕を組んだ司祭が、勇者の背中に語りかける。

勇者「…司祭……妹のことは……すまなかった」

司祭「よせ、あいつも望んでいった旅だ。 お前の所為じゃない」

勇者「……でも」

司祭「そんな事よりも、ほんとに今すぐ行くつもりなのか?」

勇者「…ああ、戦士と魔法使い…スラきちを助けないと」

司祭「…俺も手を貸すか?」

勇者「……いや、確かにお前も、加護を持ってるけど……お前の加護のレベルじゃ、正直足手まといにしかならない」

司祭「正直に言ってくれるな」

勇者「…すまん」

司祭「ほら」

 司祭は一振りの剣を勇者に投げ渡す。

勇者「!」

司祭「この国の名工が勇者のために打った剣だ、伝説の剣には及ばないだろうが、下手な剣よりはましだろ」

勇者「…恩に着る」

司祭「あの二人も、俺たちの幼馴染であり、友達だ、頼むぞ」

勇者「ああ、必ず助けてみせる……女神様は無意味な試練を与えない。 今までだって何度もピンチは経験してる。 それを乗り越えるたびに俺達は強くなった。今回だって同じさ」

 勇者は微笑し、剣を背負うと、転移魔法を唱えた。

 勇者の体が浮き上がり、すさまじい加速とともに空を翔けていった。

司祭「……女神様……どうか……ご加護を……」



34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/04(木) 20:48:31.88 id:lZn7fQPP0

勇者「……こんなもんか」

 岩石地帯で勇者は自分の手のひらを見つめる。

 体に発生する違和感に、眉を寄せ、しかし対魔王の策における第一段階をクリアしたことを確認する。

勇者「…待ってろよ、戦士、魔法使い、スラきち」

 勇者が転移魔法で飛び立つ。その後には、全身を解体され、血をまき散らす巨大な竜の残骸が残されていた。

 魔王城前に着地した勇者は、剣を抜くと魔王城へ侵入した。

勇者(牢獄の位置は把握している、本気を出せば一瞬だ)

 一蹴りで音速まで加速した勇者は、行く手を遮る魔物を蹴散らし、地下牢へ侵入した。

 自分がいた牢屋を横切り、その奥、戦士と魔法使いのいるであろう牢屋の前で止まる。

 二つの向かい合うように設置された牢獄に、それぞれ人影。

 一思いに殺そうと、勇者は雷撃呪文を――

 その手が止まった。

 異臭が、勇者の手を止めたのだった。

 蒸し暑い牢獄の中、ハエが飛んでいる。

 ハエは、二つの人影に群がっているようだ。

勇者「戦士…魔法使い…」

「貴様がここを脱出する二日前には死んでいたぞ、この花の前だと、腐食が早いらしい」

勇者「!」

 突然の声に、勇者は音源へ視線を向けた。

魔王「勇者、よく戻ってくる気になったな」

勇者「なぜ……二人は…死んでいるんだ?」

 なぜ女神の加護を持つ二人が、転生されずに……

 突然現れた魔王を前に、勇者はそう言った。 そう聞かずにはいられなかったのだ。

魔王「二人は信仰を捨てた、それだけさ」

勇者「でたらめを…」

魔王「でたらめではないさ、現に死んでいるだろう?」



35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:49:26.25 id:lZn7fQPP0

勇者「……っ! スラきちは…どうした」

 すぐにでも斬りかかりたい衝動を堪え、勇者はもう一匹の仲間のことを訪ねた。

魔王「スラきち? ああ、あのスライムのことか、奴ならもうこの世界にはいない」

勇者「もういない……どういう――」

魔王「そんなことよりもだ」

勇者「!」

魔王「そんなことよりも、勇者、この二つの死体に、どうやって信仰を捨てさせたか、教えてやろうか?」

 魔王は、にやりと笑った。

 その顔だけで、勇者は理解する。

 想像を絶する拷問が、あったのだと。

 信仰を捨てるほどの

 使命を捨てるほどの

 それは一体、どんな――

勇者「――ッ」

 そう思考が至った瞬間、それまでなんとか抑えていた勇者の理性は吹き飛んだ。

勇者「魔王ォォォおおおッ!!」

 勇者は地面をける。 激情と共に剣を振り上げる。

 魔王は手刀で受け太刀。

 剣が折れた。

勇者「――」

 魔王の拳が勇者の腹部にめり込んだ。

 勇者の体がくの字に曲がり浮き上がる。

 一瞬で勇者の背後に移動する魔王。

 蹴りが、勇者の背に着弾。

 勇者は海老ぞりに体をそらせ、ソニックブームをまき散らしながら吹き飛び、壁に激突した。

 口から血を吐き出し、白目をむき、体をピクピクと動かしながら、その場に倒れる勇者。

魔王「拷問から抜け出したばかりで、戦闘の勘も鈍ったお前が、一人で、伝説の武具もなしに、敵を前に激情し、理性を失うとはな……貴様、どうやって余と戦うつもりだったのだ?」

勇者「……」



36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:50:21.58 id:lZn7fQPP0

 三日後

 猿ぐつわ、鉄の手枷と足枷をはめられた勇者は、魔王の間の王座の横に倒れこんでいる。

 手枷と足枷は、鉄製だ、加護の力を使えれば、難なく砕ける、しかし加護の力の供給源たる魔力をカラにされた状態では、常人となんら変わらない力しか使えない……そのもどかしさに、勇者は顔をゆがめる。

 目の前に……魔王がいるのに、何もできない。

魔王「貴様の仲間を見てな、余は気が付いたのだ、貴様が信仰を捨てる方法をな」

勇者(何か……策があるのか? だから捕まったこの数日、拷問がなかったのか…一体…何を)

 戦士と魔法使いが信仰を捨てた原因が、痛み以外にあるというなら……なんだ?

魔王「あの戦士は、魔法使いの小娘の正面の牢獄にいた、これは偶然だったのだが、ある時、戦士はこう言ったのだ。 俺が信仰を捨てれば、魔法使いを助けてくれるか? とな」

勇者「!!」

魔王「余は約束した、そして女神の気配を失った戦士を殺すことに成功したのだ、最後は実にあっけなかったな」

勇者「……」

魔王「魔法使いの女は、目の前で戦士が死ぬ様を見て、自殺したよ、信仰を捨ててな」

勇者「……っ」

魔王「あれは大変興味深い事例であった、魔族には決して考えつかない発想だ、余にも今だによくはわかっていない」

勇者「……」

魔王「しかし、人間という生き物は、時に自分よりも他人を大切に思うことがある、これは大きなヒントだと思わないか? なぁ勇者よ」

勇者(……まさか…)



37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:51:31.88 id:lZn7fQPP0

 魔王の間の扉が開く、魔物に連れられ、一人の少女が魔王と勇者の前に放り出された。

少女「うぇぇ、ママ……パパ……」

魔王「先日滅ぼした村の生き残りだ」

勇者「…っ……ッ」

 勇者はもがく、体の自由が奪われていることも忘れ、ただもがく。

魔王「どうだ勇者、信仰を捨てれば、この小娘は助けてやるが」

勇者「……ッ」

 勇者は、力の限り魔王を睨んだ。

魔王「……」

 魔王は指を鳴らす。

 少女の片足が吹き飛んだ。

 少女が絶叫を上げ、のた打ち回る。

勇者「っ!」

 勇者は目を閉じた、悔しさで、無力さでおかしくなりそうだった。

 ただ、少女の悲鳴が聞こえる。

 絶叫だ、なぜ……なぜこんな……



38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:52:12.03 id:lZn7fQPP0

 勇者拘束6日目

 勇者は、茫然と目の前で行われる行為を見つめる。

 魔王によって四肢を爆裂させられ、痛みに悶える男を見つめている。

男「勇者さまぁぁ、お助けくださいいい、め……女神さばっ」

 男の頭部がはじけ飛んだ。

 勇者は、静かに涙を流す、しかし、信仰は捨てない。

魔王(ふむ……もう30人は苦しめたあと殺したはずだが……何か、間違えているのか?)

 ただ殺すだけでは駄目なのか?



39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:54:36.69 id:lZn7fQPP0

 勇者拘束7日目

魔王「……」

 魔王は王座で一人思考にふけっていた。

 魔王の間に一人のローブで全身を覆った魔物が入ってきた。

側近「魔王様、本日は、いかがいたしますか?」

魔王「……なぁ側近よ、なぜ勇者は信仰を捨てぬと思う?」

側近「……人間の感情など、私にはわかりかねます」

魔王「余は、何か短絡的な間違いを犯している……そんな気がしてな」

側近「……魔王さま、差し出がましいようですが、いっその事勇者も、あのスライムと同様魔界に送ってはどうでしょうか?」

魔王「側近よ、最初に勇者達を拘束した時に言ったであろう」




側近「は、勇者に魔界の位置を認識させると、万一勇者が死に、逃がしてしまった場合転移魔法で乗り込まれてしまう……それは重々承知しております、しかし、その勇者が邪魔なのも事実、ならば普通の人間にはたどり着けない魔界におき、魔王様直々にこの人間界を早々に落とすというのも、一つの手ではないかと」

魔王「何をそんなに焦っておるのだ、この城から放たれる魔結界も徐々にではあるが広がりつつある、あと5年もあれば、余はこの人間界のどこでも全力で戦えるようになるのだ、焦る必要などあるまい」

側近「…何か悪い予感がするのです、失礼ですが、魔王様は、あの勇者を侮っているように見えます」

魔王「侮るもなにも、余の敵ではないではないか」

側近「実力的には確かにそうなのですが……あの男の目は……その、うまく言えないのですが、侮れないものがあるように思うのです」

魔王「ふん、下らん、考えるまでも―」

魔物「魔王様!」

 配下の魔物が、急ぎ足で魔王の間の扉を開ける。

魔物「勇者が……勇者がどこにもおりません」

魔王「……なに?」



40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:56:15.14 id:lZn7fQPP0

神官「……勇者」

 表情のない顔で、勇者はただ茫然と、祭壇の前に立っていた。

神官「勇者…どうかしたのか?」

勇者「司祭は……どこにおられますか?」

 勇者は、表情を変えぬまま、神官に尋ねた。

神官「…っ……今は、自宅にいるはずだが」

 その声に気圧されながら、神官は応える。

勇者「ありがとうございます」

 勇者は踵を返すと、司祭の家へ向け歩き始めた。

 魔王討伐の策は、若干の変更が必要だった。



41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 20:56:50.52 id:lZn7fQPP0

僧侶「あー」

 ばちゃり、不器用にもったスプーンが、スープの入った皿をひっくり返した。

司祭「またこぼして」

 司祭は布巾でテーブルを拭く。

僧侶「うー」

司祭「……」

 ドアが鳴る、司祭はこんな時間に誰だ? と思いながら扉を開け、目を見張った。

司祭「勇者……てことは」

勇者「いや、魔王は殺してない」

司祭「? 魔王と戦わなかったのか?」

勇者「いや、戦った」

司祭「…? じゃあ一週間も何をしていたんだ? それにどこかやつれて見えるぞ」

勇者「…少し外に出ないか? 話がしたい」

司祭「…」

 司祭はちらりと僧侶を見た。

勇者「だめか?」

司祭「いや、10分待ってくれ」



42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/04(木) 21:01:21.41 id:lZn7fQPP0

十分後、司祭の家の前に立つ二人。

勇者「僧侶は大丈夫なのか?」

司祭「ああ、睡眠魔法で眠らせてある」

勇者「そうか……じゃあ、場所を変えるぞ」

司祭「は?」

 勇者の転移魔法により、二人は空へと飛んだ。

司祭「…ここは?」

 森の中、洞窟の前に転移した司祭は尋ねる。

勇者「まず、俺の話を聞いてくれ」

 勇者は話す、戦士と魔法使いがどうなったか、魔王と戦ってどうなったか、魔王と戦ったあと何があったか、どうやって魔王の城から抜け出したか

司祭「……」

 話が終わったあと、司祭の顔は、引きつっていた。

勇者「最初は、持久戦を挑むつもりだった…体の痛みには耐えられると思った……だが…あれは……あの拷問は…きつい」

司祭「…」

勇者「だが…そのおかげで一つの策が思いついた、ある意味、最初の策よりも成功すれば勝率は上がると思う…それを試すのに、一流の神系魔法の使いてであるお前の力が必要だ」

司祭「…一体何をする気だ?」

勇者「ついてきてくれ」

 司祭は、勇者の後を追って洞窟に入った。

勇者「ここには、これまでの冒険で手に入れたアイテムを秘密裏に管理している、その中の、これを使おうと思う」

司祭「! これは――」

 勇者脱走の翌日

 魔王の間

 その扉が、勢いよく開け放たれる。

魔王「……!」

 王座に座る魔王は、目の前の存在を勇者と認めながらも、目を細めた。

 禍々しい漆黒のスカルフェイス、刺々しい闇色の鎧が全身を覆い、両手には、妖気を纏った刀と剣をそれぞれ持っている。

 いずれの装備にしても、禍々しい呪力を感じさせた。

魔王「貴様…勇者か?」

 魔王は、勇者らしくもない勇者へ対して、問う

勇者「ウ゛ォオオぉぉぉおおおおおおオオオオあああ゛おぉぉぉ」

 勇者は、獣のような叫び声を上げると、魔王へ向け切りかかった。



46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/05(金) 23:22:22.94 id:Zt2BxoPL0

 二つの黒い影が、魔王の間で幾重にも錯綜する。

 黒い魔力が衝突しあい、そのたび漆黒の波紋が空間に浮き上がった。

魔王「……ッ」

 全力を出せば、瞬殺できる、今もなお魔王と勇者の力量にはそれほどの差がある。

 しかし、殺しても意味がないのだ。

 次の瞬間には、全快となった勇者が転移魔法で飛んでくる。

 殺さぬように加減する、それがこの幾重の呪いを重ねられ、本能のみで戦う勇者に対しては、並々ならぬ消耗を魔王にもたらしていた。

 勇者は両腕を後方に伸ばし、双剣の刃先を魔王へ向け、刺突の構えで迫る。

魔王「っ」

 対し魔王、刺突を放とうとする左右の腕へ向け、両手それぞれで暗黒魔法を放った。

 二つの暗黒のエネルギーボールが勇者の両腕にそれぞれ着弾する。

勇者「がぁぁぁああああああああああああああああああ!!」

魔王「!」

 そんなダメージなど意に反さないように、勇者は刺突を突き出した。

 暗黒魔法を貫き、魔王の両肩を掠める刃。

魔王「ッ!」

 魔王はとっさに距離をとる。

 勇者は暗黒魔法を突き破った両腕をだらりとたらし、獣のような唸り声を上げる。

 勇者の両腕、鎧を通して血が滴る。

 ダメージはある、しかし

 勇者は次の瞬間には、また魔王へむけ、痛んだ腕など気にしないように切りかかった。

 荒々しい濁流ように繰り出される二刀流の斬撃をいなしながら、魔王は思考する。

 確かに、側近の言うように、認識が甘かったのかもしれない。

 刃の掠めた両肩が痛む、こうも容易く傷つけられたことも、その甘さの所為であろう。

 切れ味は伝説の剣をしのぐであろう武器、その一刀が、魔王の眼前に迫る。

 魔王はそれを掌底で刃の側面から押し上げると、前蹴りを勇者の腹部に直撃させた。

 吹き飛ぶ勇者、体を回転させ着地、するとすぐに二刀を構え迫――

 甘く見ていた事実は認めよう、傷つけられたことも認めよう、勇者の脅威も認めよう。

 ―勇者が、足を踏み出すよりも速く、魔王は勇者の眼前へ移動、そして突き出すように放たれる蹴りが、勇者を吹き飛ばし、壁に激突させた。

魔王(だが)

勇者「ッッ」

 勇者の目前に、魔王――

 魔王の目にもとまらぬ連続蹴りが、勇者に反撃の隙も与えることなく着弾してゆく

 その回数は瞬く間に1000を超え、蹴り終えた魔王は、足を払うように振り、足に纏った漆黒魔法を解除する。

 足の先から漆黒の飛沫が上がり、それが空気の中で薄まり消える

 それと同時に、魔王は足を地面につけた。

 それと同時に、勇者の体は崩れ落ち、地面に倒れた。

魔王「勝つのは余だ」



47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:29:02.93 id:Zt2BxoPL0

 勇者捕縛、7日後。

 魔王は王座に座り、眉に皺を寄せていた。

 この7日間で、自分の認識がなお甘かったことを知ったのだ。

 勇者の策略を前に、魔王はただ顔をしかめるほかなかった。

 魔王の誤算――そのすべては、勇者の装備にあると言える。

 勇者の装備を、外すことができないのだ。

 スカルフェイスの隙間から猿ぐつわをかませることには成功したが、全身を守るように覆う鎧や兜、加えて刀と剣も外せない。

 呪いの効果というやつなのだろう。

 さらにこの呪いが厄介なのが、勇者の狂化がいつまでたっても解けないことだ。

 これではどんな拷問も意味をなさない。

 もちろん、呪いの装備を解呪する術は探した。

 呪いを解呪する方法は、ただ一つ、魔族が使うことのできない神系魔法でしか成しえない。

 しかし、先の戦闘で落とした町の神父に、人質をとって魔法を使わせる方法は不発に終わった。

 どんなに目の前で人を殺そうと、体を痛めつけようと、神父は魔族のために魔法を使おうとは決してしないのだ。

……やはり、方法が短絡的なのだろうか?

 この問題は、勇者の信仰を捨てさせることと、密接につながっているような予感がある。

 ならばと幻術をかけて解呪の神系呪文を使わせようとしたが、これも失敗に終わった。

 正常な神経ではないと、神系の魔法は使えないのだ。

 そして、魔王の一番の誤算、それは、勇者を、またしても逃したことである。

 前回も一週間、今回も一週間……ちょうど七日キッカリに今回も勇者は消えた。

 これが偶然でないとすれば、答えは一つだ。

 勇者は、感染した状態でこちらに乗り込んできている。

 なるほど絶命の痛みも、狂気の中ではゼロに等しいだろう。

 魔王の背筋が寒くなる。

 魔王の間の扉が空く。

 呪いの装備に身を包んだ勇者が、雄叫びを上げ切りかかってくる。

 面白い、いいだろう

 魔王は立ち上がる。

 必ずお前を屈服させてやる。

 今はそのために、余の全能力を使うとしよう

 魔王の手刀と、勇者の双剣が激突した。



48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:30:10.61 id:Zt2BxoPL0

司祭「……」

 司祭は神官を庇うように、おおよそ勇者らしくない勇者の前に立ち、緊張を高めた。

 場所は教会、祭壇の前。

司祭「勇者?」

勇者「ぎりぎり…意識はある」

 コミュニケーションが取れることに司祭は安堵する。転生によって、呪いのかかる前の状態になることは、これで実証された、しかし呪いの装備を纏っているため、またすぐに呪いにより正気を失ってゆくのであろうが。

司祭「すぐ行くのか?」

勇者「ああ、自我があるうちに、まず感染して、魔王城に乗り込む、あとは、狂気に身をゆだねるだけでいい」

司祭「…勝機は?」

勇者「手ごたえは…ある…と思う。 悪い、もう行く、長いこと正気を保っていられる自信がない」

司祭「…そう…か」

 勇者は踵を返すと歩き出し、教会をでると転移魔法を発動した。

神官「あれは…勇者なのですか?」

 神官が、怯えたように、司祭に尋ねる。

司祭「…ええ、勇者です、今、人類のために必至になって戦っている、俺たちの知る勇者ですよ」

 司祭は、願うようにそう応えた。

 勇者は魔物の巣くう岩石地帯へ移動すると、迫る狂気に歯を食いしばりながら、一頭の巨人を瞬殺する。

 吹き出る血を飲みほし、すぐさま転移魔法、すでに正気があいまいになる。

 魔王城を駆け抜け、魔王の間へ、そこに魔王の存在を認めた勇者は、あとは狂気に身をゆだねた。



49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:31:35.46 id:Zt2BxoPL0

 竜巻のような乱舞の激突の末、二人はお互いに後方へ吹き飛ぶ。

魔王「…っ」

 着地と同時、魔王は手のひらを前方へ突出し、野球ボールほどの大きさの光球を30個召喚、勇者へ向け放つ。

魔王「!?」

 しかし、視界の先にすでに勇者はいない。

 魔王は視線を上へ、双刃を振りあげ、上空から切りかかる勇者を視認する。

 魔王は、手のひらを上へひねる、放たれた光球が急旋回し、上空の勇者へ迫った。

 対し勇者、魔力で自分の体をはじき、迫る光の球を避ける。

 落下運動の中、光弾を躱し切りそのまま魔王へ切りかかる。

 魔王はバックステップで回避。 一本の刃が頬を掠めた。

魔王「つっ」

 床に激突する二つの刃、勇者の着地地点に、ワンテンポ遅れて光球が着弾。

 30発の光弾が雨のように降り注ぎ、粉塵が巻き上がる。

勇者「ウ゛ォォオオオオ゛ッ」

 音速の加速により粉塵を蹴散らし、迫る勇者。

 その直線的な動きを読んでいた魔王

 魔王の手のひらから放たれる疾風魔法弾が、勇者の胴体に着弾した。

 勇者の体がくの字に曲がり、後方へ吹き飛ぶ。

 空中、身動きの取れない勇者へ向け、30発の光弾が迫る。

 光球がそれぞれ勇者の両手両足に着弾。

 勇者は絶叫し、手足から煙を吐きながら地面を転がった。

 唸り声をあげ、立とうとする勇者、しかし、手足のダメージが深く、立ち上がることができない。

 立ち上がろうともがく勇者の頭部に魔力を込めたかかと落としが叩きつけられた。

 勇者の頭部を中心に弾ける漆黒の魔力、頭を地面に押し付け、勇者の意識を断ち切られた。

魔王「……」

 足を勇者の頭部に押し付け、頬から血を流しながら、魔王は憎らしげに勇者を睨んだ。



50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:32:08.99 id:Zt2BxoPL0

 私は屈しない

 どんな痛みにも

 どんな困難にも

 私は屈しない

 どうか女神様、ご加護を



51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:35:54.04 id:Zt2BxoPL0

 魔王の間の扉が開く。

 同時に魔王は自分の周囲に30の光球を召喚し周囲に浮遊させる。

 勇者が雄叫びを上げ迫る。

 まず15の光弾を、勇者へ向け放つ。

 対し、勇者の体が発光した。

魔王「!?」

 勇者へ向け放たれた光弾が、勇者に着弾する前にすべて爆ぜた。

 勇者が魔王へ向け地面を蹴る。

 勇者が魔王との距離を詰めると同時。

 魔王の周囲、残った15発の光球が勇者へ向け迫った。

 同時、魔王はバックステップ。

 そして先ほどの発光を意味を知る。

 魔王の目がとらえた。勇者の体から放射状に放たれる雷撃を。

 それが、迫る光球をすべてを蹴散らしたのだ。同時に光による目くらましの効果も、この距離になって初めて魔王は知った。

 目を細める魔王へ向け振るわれる刃を、魔王はすんでのところで避ける。

 この勇者、ただやみくもに襲ってくるだけではなく、学習能力が備わっている

 この事実に魔王が舌打ちする。

 放射上に拡散した雷撃にそこまでに威力はない、しかし、目くらましと、若干のダメージが鬱陶しい、加えて先の戦闘で有用だと判断した光弾の戦果が期待できない。

 また一から戦闘を組み立てなおさなくては

 勇者の振るう刃を屈んで回避、勇者は勢いもそのままに体を回転させながら、第二、第三の斬撃を次々繰り出してくる。

 まるで黒い竜巻のように体を回転させ、二刀の刃が無駄なく魔王を襲う。

 その二刀の刃を魔力を込めた腕で捌き、勇者の懐へ踏み込む魔王。

 同時、勇者が放射雷撃、その攻撃に、魔王の体が刹那ぎょっと停止する。

 その一瞬の隙――しかし、魔王の放射暗黒魔法が、勇者の体を吹き飛ばした。

 床を滑りながらも足を踏ん張り、勇者の体が停止――矢のように迫る魔王の蹴りが、勇者の腹部に突き刺さった。

 口から血を吐き出しながら、勇者は後方へ吹き飛び、壁に体を激突させる。

 魔王は、以前と同様、連続蹴りで終わらせようとするが――

魔王「ち」

 勇者の移動は早かった、激突した壁の反動を利用して移動し、魔王から距離を取る。

 先ほどの蹴りを、後方へ飛ぶことでダメージを軽減し、回避できる余裕を持ったか

 同じ手は通じない? ならば、次の手を出すまでだ。

 喉を鳴らすような唸り声をあげ、魔王の出方をうかがう勇者。

 対し魔王は、屈みこみ、自分の影の中に手を入れた。

 影からすくい上げられる等身大程に巨大な斧。禍々しい装飾の施された、漆黒の魔力をほとばしらせる斧だ。

 勇者は、その危険性に本能的に気が付いたのか、じりと半歩後退した。

 その背後に、魔王

勇者「!?」

 魔王はバックステップを踏み、斧を振るう。

 斧の刃は勇者に触れない、しかし斧から放たれる黒い斬撃の衝撃波が、勇者の体に直撃した。

 黒い魔力がほとばしる、漆黒の爆発の爆心地、黒い煙を上げながら勇者の体が膝から崩れ落ち、地面に倒れた。



52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:36:30.31 id:Zt2BxoPL0

 私は屈しない

 どんな辱めにも、どんな痛みにも

 私は…屈しない



53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:37:46.76 id:Zt2BxoPL0

 黒い影のみが辛うじて視認できる超高速戦闘のさなか

 幾百の交錯と激突の末、魔王の斧に亀裂が走った。

魔王「……」

 しかし魔王は構うことなく勇者に対し斧を振るう。

勇者「ガァァアアアッ」

 咆哮と共に放たれる二刀のX斬りが、魔王の斧を切り裂いた。

 砕け散る斧、破片が周囲を覆う。

 勇者は放射雷撃を放ち、残骸を弾き飛ばす。

 しかし、目前に魔王はいない。

 やはり、背後には魔王。

勇者「――ッ」

 勇者はとっさに剣を背後へ振るう。

 0.1秒遅かった。

 漆黒魔法の直撃を受け、勇者は床に体を横たえた。

魔王(殺さない最低限度の魔力量は把握した……しかし、勇者の反応…そろそろこの方法も潮時か?)

 とにかく、細心の注意を払って次に備えるとしよう



54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:38:21.30 id:Zt2BxoPL0

 声がする

 なぜ、何もして下さらない?

 声がする

 なぜ、ただあなたは見てるだけなのですか?

 声がする

 ……これも……試練なのでしょうか?

 声がする

 …私は……



55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:41:16.16 id:Zt2BxoPL0

 光球が、放射雷撃によって爆散する。

 同時、魔王の影が、本体から分離し、光と衝撃に紛れて勇者の背後へと回り込む。

 魔王の能力の一つ、自身の影を分離させ、その場所にワープする。

 その移動の際、物理的な余波は一切発生せず、移動時間もゼロに等しい。

 現状の勇者の野生の勘は侮れないものがあり、斧や、このような派手な攻撃をフェイクにし、影を紛れ込ませていた。

 この方法で3度勇者を沈めている。

 しかし魔王は慢心しない。

 いつでも反応できるよう、特に移動直後には特に気を張り、今回もワープを発動する。

 ワープ、同時、勇者の刃が魔王の眼前に迫った。

魔王(やはり)

 覚悟をしていた魔王は、その攻撃をサイドステップで避ける。

 何か目の引く攻撃があった直後、瞬間移動があることに直観的に感づいているのだろう。

 避けに回り、体制を崩した魔王へ、勇者の追撃が襲いかかる。

 嵐のような二刀流の乱舞。

魔王「っ!?」

 魔力を込めた手刀で受けきれない。

 勇者の剣技がここにきてさらに荒々しさと鋭さを増していることに、魔王は顔をしかめた。

 影移動で、その場から離脱。

 しかし勇者、すぐに魔王のいる場へ飛びかかる。

魔王「――!?」

 移動の母体が影であることまで気が付いている!?

 想定を超えた勇者の動きに魔王に動揺が走る。

 知能がそこまで高い印象は、今までの戦闘ではなかった。

 本能のみで戦う存在が、そこまで注意力を払えるものなのか――?

 ワープ直後、複数の想定外の自体に、魔王が混乱したコンマ数秒――

魔王「!」

 魔王は見た、勇者の髑髏兜の闇の奥――意思を持った瞳の煌めきを―

魔王(まさかこいつ――意識を保った状態で――)

 魔力を込めた呪刃の双閃が、魔王の左腕を切り飛ばした。

魔王「ッ――」

 腕―余の――

魔王「――キィサマァァァッ!!」

 激痛と共に、魔王の意識が怒りに飲み込まれる。

 右手から放たれた最大出力の暗黒魔法が、勇者を消し炭にした。

魔王「――しまった!」

 怒りによどんだ魔王の瞳が、次の瞬間には正気に戻る。

 左手から吹き出す血を、筋肉を圧迫することで止血する。

 しかし、血を流し過ぎたらしく、魔王はふらりと、一度立ちくらみした。

 魔王の背筋に悪寒が走る。

 魔王の間の扉が勢いよく開き、全回復した勇者が襲いかかってきた。



57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/05(金) 23:49:30.26 id:Zt2BxoPL0

勇者(勝てる)

 狂気に飲み込まれそうな意識に歯を食いしばり、勇者は魔王へ向け刃を振るう。

 片腕を失い、連戦の疲労も見える魔王に対し、勇者は勝利の予感を感じていた。

 勇者の怒涛の攻撃に対し、魔王は片腕では防ぎきれず、防御を抜けた刃が、肩や頬、足を掠めてゆく。

 確実に押している、ダメージも入っている、今までにない手ごたえだ。

勇者(勝てるっ!) 

魔王「……」

 魔王の鮮血が飛び散る。

 傷は浅い、しかし確実にダメージを蓄積させている

 勇者の連続斬撃を、魔王は片腕でいなし、弾き、躱す。

 躱す

 避ける

 弾く

 そらす

 いなす

 防ぐ

 受け流す

 ……

勇者「……ッ!」

 魔王の防御行動を抜け、傷は入る、しかしいつまでたっても致命傷に届かない。

 しかも先ほどから、魔王はまったく攻撃に転じようとしない

 ざわりと、勇者の脳髄を狂気の黒い靄が撫ぜた。

 その一瞬、視界が赤く染まる。

 しかし、歯を食いしばる。

 狂化状態では、おそらく影の瞬間移動に対応できない。

 ここで決めるんだ。 この最高の状態で、こいつを――魔王を――

勇者「ォォォォオオオオオオおおおッ!」

 剣技では、埒が明かないと察した勇者は、大きくバックステップを踏む。

 魔王と距離が開く、しかし案の定魔王の追撃はなかった。

 こちらが意識を失うのを待ってから攻勢にでるつもりなのだろうが

 そうはさせない

 魔王の思惑を読み切った勇者は、充分な距離をとると、呪文を叫んだ。



58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/05(金) 23:50:30.99 id:Zt2BxoPL0

勇者「極大雷撃呪文!!」

 詠唱と共に、勇者の両手が突き出された。

 腕の動きと連動するように放たれる強大なプラズマが、魔王へ向け稲妻の速度で迫る。

魔王「」

 魔王はサイドステップでその雷撃を避けた。

勇者「おおおおおッ」

魔王「!」

 魔王が避けた雷撃の直線状に移動する勇者。

 自身の放った呪文を追い越し対面した勇者は、迫る雷撃を両刃で受け止める。

 雷撃を纏った二振りの呪刃を振り上げ、勇者は魔王に迫る。

勇者(これで――)

魔王「―ッ」

勇者(終わりだァァぁアあああアッ)

 雷刃が魔王へ

 アドレナリンの上昇と共に、勇者の意識が狂気に飲み込まれた。

 しかし関係なかった。

 ここまでくれば、もはや意識の有無は関係ないのだ。

 この刃が届けば――勝つ

 魔王の拳が、勇者の二刀の刃と交錯するように放たれる。

 クロスカウンター

 それは勇者の刃が魔王に届く――よりも速く

 勇者の顔面を打ち抜いた。

勇者(勝――)

 勇者は、頭を起点に体を錐もみさせさせながら吹き飛び、地面を何度もバウンドし、壁に体を打ち付けた。

 強烈なカウンター攻撃である。

 それは勇者の意識を削ぐのに十分以上の成果を上げた。

 体をピクピクと痙攣させるが、勇者は倒れた姿勢のまま、起き上がる気配はなかった。

魔王(……信じられん)

 魔王は冷や汗をぬぐう。

 危なかった。 少なくとも勇者との戦闘で命の危険を感じたのは初めてである。

 そんな状況にまで追い詰められたことに、魔王は戦慄する。

 あの絶望的な戦力差が、ここまで詰まることに、驚きを禁じ得ない。

 認めるだけでは足りなかったのだ。

 この勇者は、確実に我ら魔族の脅威となりうることを

 魔王はこの時、初めて確信した。



60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/05(金) 23:58:07.93 id:Zt2BxoPL0

 勇者敗北一日目

側近「魔王様…」

魔王「…側近か」

 荒れ果てた魔王の間の王座に座り、魔王は気だるげに側近へ視線を移す。

側近「傷の具合は、いかがでしょうか?」

魔王「左腕は、もう戻らん、他にも浅くはない傷がいくつかある、…一週間では直りきれんな」

側近「……」

魔王「余の甘さだ、甘んじて受け入れるさ」

側近「…」

魔王「なんだ? 何か用があったのではないのか?」

側近「は、非常に申しあげづらいのですが……大魔王様がお呼びです」

魔王「! 大魔王様が?」

側近「は、…どうやら魔王様の魔力の衰弱を察したようで…」

魔王「…」

 魔王は、失った左腕に視線を落とす。

魔参謀「…いかがなされますか?」

魔王「……他ならぬ大魔王様直々の呼び出しだ、行くしかあるまい…」

 魔王はそう言うと立ち上がった。 ふらりと体が一瞬揺れる。 まだ勇者からの傷がうずく。

魔王「しばし留守を任せた。 それと…例の件はどうなっている?」

側近「そちらの方は…はっきりとしたことは言えませぬが……手ごたえは感じております」

魔王「ほう」

側近「うまくすれば……次の勇者の死亡に間に合うかと」

魔王「久しぶりに良い知らせだ、そのまま頼む」

側近「御意」

 魔王が王座の裏に回ると、そこに備え付けられた隠し階段が開いた。

 その魔界へと続く道を魔王は歩き、人間界を後にした。



69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/06(土) 22:48:25.14 id:wtpJ9iTZ0

魔界――大魔王城、大魔王の間

 巨大な王座に鎮座する、大魔王に対して魔王はひざまずいた。

 赤い体、5メートルはあろうかという巨体を持つ大魔王は、じっと魔王を見つめた。

大魔王「魔王…なぜ呼ばれたかわかるか?」

魔王「……私の魔力が弱まったからでしょうか?」

大魔王「そうだ、その姿は、どうした?」

魔王「…勇者との戦いで負った傷です」

 プッと吹き出すような声が、大魔王の横で上がった。

魔王「…何か?」

 魔王は、視線を横へ向ける

 大魔王の左右に扇状の列を作っていた計11人の内の魔族の一人、女の魔王と目が合う。

女の魔王「いえ失礼、まさか人間ごときにここまでやられるなんて、とんだ王族の恥さらしだと思いまして」

銀髪の魔王「そういってやるな、こいつは俺達の中でも最弱、落ちこぼれだ、むしろよく生きて戻ってこれたとほめてやるべきじゃないか?」

女の魔王「まぁおなんて寛大な、でも確かに…その通りですわね」

 嘲笑の目を向けながら、女の魔王は口を閉じた。

魔王「……」

 魔王族、12人の魔王と、1人の大魔王の計13名のみ存在する種族である。

 先ほどの女の魔王と、銀髪の魔王が言ったことは事実であり、13名の魔王族で最弱の魔王である自分に、何も言い返すすべはない。 魔王族で最も弱いのも事実、人間に傷を負わされたのも事実。 反論しても、瞬殺される。

 屈辱に右手を握りしめ、魔王はただ耐える。

 それほどの差が、自分とほかの魔王たちには、ある。

……勇者、余を倒したところで、その先にはさらなる絶望しかないのだ

 おそらくここにいる方々ならば、貴様なぞ、指一本で軽くひねることができるだろう。

 それが12人だ。 何度よみがえり、奇策を施そうが……

大魔王「魔王よ」

 大魔王の言葉に、魔王の思考が途切れた。



70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 22:48:51.49 id:wtpJ9iTZ0

大魔王「…人間界に侵入できるのは、貴様のみだ、ゆえにこの作戦を任せている」

魔王「……」

 でなければ誰がこんな、人間に手こずるような奴を送り込むものか、そういう事だろう

大魔王「だがな、こちらも、大魔力を持った魔族を人間界に送る術は検討することにした、貴様の魔結界の完成を待たずとも済む様にだ、この意味は分かっているな?」

魔王「……は」

 危うく勇者に殺されそうになった自分の、その情けない現状が招いた当然の帰結だろう、この屈辱にも耐えるほかあるまい

女の魔王「情けないことこの上ないわね、こっちは天使と戦いで忙しいというのに…無駄な手間よ」

魔王「……」

大魔王「もう良い、下がれ」

魔王「は」

 魔王は、大魔王の間を後にした。

魔王「……」

 大魔王城を出た魔王は、カッと目を見開き、空へ向け魔力を解き放った。

 放たれた漆黒の光線が、魔界の赤い空を貫き、どこまでも昇ってゆく。

魔王「……クソ」

 魔王は、苦虫を噛み潰したように顔をゆがめ、人間界へと足を向けた。



71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 22:49:39.05 id:wtpJ9iTZ0

側近「魔王様、よくぞご無事で」

魔王「うむ」

 魔界から帰還した魔王を、側近が迎える。

側近「さっそくご報告したいことが」

魔王「ほう」

側近「奴が、おちました」

魔王「! 今は何日だ? 勇者は?」

 魔界で過ごした時間は半日にすぎなかったが、魔界の人間界では時間の流れが違うのだ。

側近「まだあと一日あります、魔王様がお戻りにならなければ、独断で進めようと思いましたが、間に合って幸いでした」

魔王「うむ」

 魔王は、顔に笑みを浮かべ、歩き出した。

魔王(勇者……お前はいったいどんな顔をするんだろうな)

 それ考えると、先ほどまでの不愉快な気分が晴れた。



72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 22:50:33.06 id:wtpJ9iTZ0

司祭「オルガってのは、要するに超小型の魔物だ」

魔法使い「魔物? スラきちみたいな?」

 そう言って彼女は、胸に抱いたスラきちを撫でた。

スラきち「ピ?」

司祭「ああ、イメージとしてはそれであってる、そいつらは魔物の体内では無害な存在だが、一度人間の体内に侵入すると、変身し、宿主の細胞を攻撃するようになる」

戦士「zzz」

勇者「オルガって、スラきちの中にもいるのか?」

司祭「ああ、いる」

魔法使い「え゛」

 魔法使いは胸に抱いたスラきちを手放した。スラきちが地面に転がる。

スラきち「ピー!」

司祭「まあ、ただ触れる分には問題ない、オルガ自体は空気中での生存能力は高くないからな、魔物の唾液や血液などを口から摂取するくらいじゃないと、魔物からの感染は起こりえない」

 ぷりぷり怒るスラきちを無視して、司祭は言葉をつづけた。

僧侶「ではなぜ、人々はオルガに苦しんでいるのでしょうか?」

司祭「それは、変身したオルガだからだ」

魔法使い「んー? 頭がこんがらがってきた」

司祭「人間の体内に入りこみ、増殖したオルガ…便宜上オルガ2と呼ぶが、こいつは人間の呼吸と共に外に飛び出し、他人の体に入りこむことができる」

勇者「…空気中での生存能力が高まるってわけか」

司祭「そうだ、いつまでも空気中を漂っているわけではないが、感染者を増やすには十分な時間だ」

魔法使い「はいはい! 質問であります! そのオルガ2が魔物に感染したらどうなるの?」

司祭「オルガ1に戻る」

魔法使い「は?」



73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 22:51:28.21 id:wtpJ9iTZ0

司祭「原理は一切不明だ、おそらく魔物の仲間意識に近いんじゃないか?」

魔法使い「なんか……すごい違和感、そんな都合のいい生物っているの?」

司祭「実際いるじゃないか」

魔法使い「でもさ、その性質はオルガが生きていく上でどんなメリットをもたらすわけ?」

司祭「快適な宿主を守るための防衛行動とか、いくらでも理由は考えられるが……そんな言葉は、人間から見れば大半の魔物に当てはまるだろう」

魔法使い「まぁそうなんだけどさ…」

 魔法使いは何やら考え込んでいる。

僧侶「お兄様、そろそろ、私たちに教えていただけませんか?」

司祭「おお、そうだった、横やりが入るもんだからつい長引いちまったな」

勇者「勝手にしゃべりだしたのはお前だろうが」

司祭「お? なんだ? お前らが何も知らないアホずらしてるから教えてやったんじゃないか」

魔法使い「…ほほう、喧嘩ね、買うわよ、戦士が、さあ目覚めなさいあなたの出番よ」

 魔法使いは傍らに寝むる戦士をペチペチ叩いた。

戦士「ふが……なんだ? 飯か?」

司祭「戦士、お前と戦うのはいつ以来だろうな? 人のありがたい話を前にぐうぐう眠りやがって」

戦士「お? なんだ? 喧嘩か?」

僧侶「なんでこんな時だけ察しがいいんですか! 違いますよ! 旅立つ私たちに、お兄様がオルガの解毒魔法を教えてくれるって話だったじゃないですか!」

 火花を散らす司祭と戦士の間に割って入り、僧侶が叫んだ。

司祭「ああ、そうだったっけ」

戦士「ああ? そうだったっけ?」

僧侶「オルガの感染対策はこれからの旅でも必須だ、だから俺と魔法使いも覚えたいって言ったのは勇者さまですよ、この場をなんとかおさめてください」

勇者「…ああ、悪かった…ちょっとドヤ顔の長話にイラッとしただけで…申し訳なかった」

司祭「はは、勇者、まず歯を食いしばれ、話はそれからだ」



74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/06(土) 22:55:30.22 id:wtpJ9iTZ0

……

 勇者は、目を覚ました。

 場所は…牢獄の中、格子の向こう側に毒々しい色の花が見える。

 勇者は、戦慄した。

 この場所で明瞭な意識があることに、こちらに手をかざす神父の姿に、その傍らで無表情にこちらを見下す魔王に

 勇者は視線を自分に向ける。砕け散った装備の破片が床に散乱している。 解呪呪文で装備をはがされたのは明らかだ。

…と、いう事は…

神父「すまない…勇者」

 猿ぐつわをかまされた口を開き、勇者は、愕然とした表情で神父の男を見つめた。

 信じられなかった、女神に忠誠を誓った神父が、解呪魔法を会得すほどに信仰深い神父が、魔王に寝返るなど…

 神父は勇者の心臓に手をかざす。

 勇者は知っていた、その行為の意味を

 心臓に注がれる微弱な聖魔法

 それが心臓にポンプされる血流にのって全身を行き渡り、体内のオルガを死滅させた。

勇者「……ッ」

 体のだるさが嘘のように消えてゆく。

 勇者はただ茫然と神父の男を見つめていた。

 今になっても信じられない。

 この目が見たものを確信できない。

 なぜ? なぜ? なぜ?

神父「……」

 神父は勇者の視線か逃れるように顔をそらすと、口を開いた。

神父「私は…間違っていない…女神様は…見てくださっている……」

勇者「!?」

神父「勇者…これからあなたに与えられる試練を乗り越えれば、きっとあなたも私のことをわかってくれるだろう…………」

 神父はそれだけつぶやくと、逃げるように牢から出て行った。

 神父とすれ違うように魔王が勇者の前に立つ。

勇者「ッ」

 勇者は魔王を睨む。

 そんな勇者に対し、魔王は不敵な笑みを浮かべた。



75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 22:57:10.52 id:wtpJ9iTZ0

 魔王に寝返りながら、なぜあの神父は神系魔法が使えた?

 わからない

 少なくとも神父は、女神様への信仰を捨てずに、魔王に従ったことになる。

 どうやって?

 わからない

 ……なぜ女神様は……神父に力を与え続けている?

 わからない

 捉えられてから二日が過ぎた、拷問はない……何もしてこない、なぜ?

 わからない

 神父の最後の言葉の意味は…

 …わからない

 わからないことが多すぎた

 勇者はただ恐怖した。

 ガチャリと牢が開く音がした

 勇者はビクりと、視線を上げる。

魔王「勇者、元気そうだな」

 魔王…その傍らには、若い女がいる。

 女は恐怖と戸惑いの入り混じった表情を浮かべながら、あたりを見渡している。

 勇者はこの女に、見覚えがあった。 かつて旅の途中で救った村の娘だ。

魔王「この女に、貴様の面倒を見てもらう」

勇者「……?」

魔王「入れ」

女「ヒッ」

 女は、勇者のいる牢の中に突き飛ばされた。

 牢が閉まる。

魔王「せいぜい世話をしてもらうといい」

 魔王はそういうと、踵を返し去って行った。



76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 22:58:15.14 id:wtpJ9iTZ0

勇者「……」

女「……」

 勇者は、女を見る。

 痩せた、頬のこけた女、その女は目を合わせると、弱弱しく微笑んだ。

女「勇者様…こんな形ですが、またあえて光栄です」

勇者「…」

 勇者は、猿ぐつわを外すよう目で促す。

女「勇者様、残念ですが、それはできません、勇者様からは見えませんが、それ鉄で錠がされとります」

勇者「……」

女「それにおらの親兄妹が人質になっとります、ただおらは、勇者様の世話ば仰せつかっただけです」

勇者「……」

女「ふつつかもんですが…よろしくおねげぇします」

勇者「……」

 勇者は、またわけがわからなくなった。



77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 22:59:50.26 id:wtpJ9iTZ0

女「勇者様……、ささ」

 女はスプーンに救った粥を、勇者の猿ぐつわの方へ差し出す。

 勇者の口を拘束している猿ぐつわは、中央に貫通した穴があり、そこから食物を通すことができた。

 穴を通して流し込まれる粥を、勇者は飲み込む。

 毎日一度、勇者と女がいる牢獄には食事が出された。 

 毎日変わらず、二枚の食器に粥が乗せられている。 味のない粥であり、ただ栄養を取るためだけのものだ。

 両手両足を拘束された勇者は、それを女の介護を借りて食べていた。

 そんな生活を続けて三日、その日、勇者は気が付いた。

女「ささ、勇者様」

 女の差し出す粥を、勇者は首を振り拒んだ。

女「勇者様…まだ半分しか食べておりませんよ」

勇者「……」

 違う、勇者は気が付いていた。 二枚の食器に入れられた粥、女はそれを取るとき、隠れるように自分の分を勇者の食器に移していることに。

 それでも少なすぎる量だ。

 痩せた女を、勇者を目で制した。

女「……お気づきになりましたか」

勇者「…」

 勇者はうなずく。

女「お優しい……こんな状況でも、勇者様は…やっぱり優しいのですな」

勇者「…」

女「勇者様…おらを覚えておいでですか?」

 女の問いに、勇者はうなずいた。

女「ほんまですか…うれしかぁ」

 女は顔をほころばせた。

勇者「……」

女「魔物に困ってたおら達を、救ってくださった恩、微々たるもんですが…返させてくだせぇ」

勇者「…」

 勇者は首を振り、女をにらむ

女「……勇者様」

勇者「……」

女「…ありがとうございます」

 女は、あきらめたように、粥を自分の口へ運んだ。


 二週間が、何事もなく過ぎた。

 そしてその日は訪れた。



78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:01:19.24 id:wtpJ9iTZ0

 声が、聞こえる、うごめくような、いびきのような声

 牢屋に響く声。

 その正体を、俺は知っている。

 勇者は、猿ぐつわを食いしばり、苦悶の表情でその声を聴き続けた。

 牢が、開く。

魔王「入れ」

少女「……」

 ぶるぶると体を震わせながら、まだあどけなさの残る少女が勇者の牢に入った。

勇者「……ッ」

 勇者は、目を見開き、魔王を見た。

魔王「貴様が信仰を捨てれば、今すぐにでも解放してやる」

 魔王はニタリと笑うと、牢を後にした。

少女「いびき…?」

 牢に響く声に、少女は怪訝な顔でそうつぶやいた。

 違う

 勇者は否定する。

 この声の主は、昨日まで自分の世話をしてくれた女だった。

 昨日、魔王が牢を訪れ、そして

 そして……

 魔力で女の体を無理やりゆがませ、球体の肉団子に変えたのだ。

 痛覚はそのままに、だ。

 一度経験したことのある勇者はわかる。

 その苦痛は、想像を絶する。それが継続して続くのだ。

 生きている限り、魔王が解こうとしない限り。

 この声も、最初は悲鳴のように力強かった。

 しかしそれも今、うめくような軋んだ声に変っている。

 肉団子になった女は、牢の奥に移動させられた。

 ただ声だけが、勇者の耳に入るように。

 苦痛の声が。

 あの優しい人を……

 俺が信仰を捨てるまで。

 魔王はこれを繰り返すのだろう。

 次はこの少女というわけだ。

 この少女にも見覚えがある。

 やはり、かつて救った町の子供だ。

少女「……勇者さま…せっかく救っていただいたのに…こんな形で再開してしまい、申し訳ありません」

 少女から感じられる優しさに、勇者はただ震えた。



79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:04:27.03 id:wtpJ9iTZ0

……

 声がする

 無数の声が

 5人の肉団子の合唱

 胸が張り裂け、頭がどうにかなりそうだった。

 なぜ自分は何もできないのだろう

 なぜ……女神様は助けてくれないのだろう

 皆優しい人間なのだ、こんな苦痛を受ける咎などない、普通の…優しい

 なぜ……なぜ……なぜ…



80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:08:30.23 id:wtpJ9iTZ0

 うめくような声が響く牢屋、勇者のいる牢が開いた。

 勇者はビクりと、魔王を見た。 今回は一人のようだった。

 勇者の頬はこけ、髪はストレスから白く染まっていた。

 痩せ細った体は常に震えている。 精神状態に異常をきたしているのは明らかだ。

 しかし、信仰は捨てない。

魔王「貴様がここにきて、もう半年か?」

 魔王は、憎々しげに勇者を睨んだ。

魔王「本当の勇者なら、皆を救うため、自己犠牲をするものではないのか?」

勇者「……」

 勇者はただ震え、うつろな瞳を上下させた。

魔王「……」

 そんな勇者の姿に、魔王はため息を吐いた。

魔王「勇者、少し話をしようか」

勇者「!」

魔王「余は、魔界から来た」

勇者「…」

魔王「魔界には、魔王が余のほかに12名いる」

勇者「……!」

魔王「恥を覚悟で言おう、余はその魔王たちの中で最も弱い」

勇者「!!??」

魔王「嘘ではない、事実だ、他の魔王にかかれば、余など片腕で瞬殺される」

勇者「……っ」

魔王「まぁ、それだけ弱い余だからこそ、《この》人間界に来ることができたのだがな」

 魔界と《この》人間界をつなぐゲートを通るには、内包する魔力量に上限があった。伝えられる情報量に限度があったのだ。

魔王「だから余は今、《この》人間界に対し干渉し、他の魔王が通れるようゲートの拡張を行っている」

勇者「……」

魔王「わかるか? 勇者、さらに言えば、今余を倒し、ゲートの拡張を防いだとしても、魔界の技術向上によっては、いつ他の魔王たちが人間界に侵攻してもおかしくないのだ」

魔王「余ごときにこの様である貴様に、他の12人の魔王を倒せるのか?」

勇者「……ッ」



81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:09:19.84 id:wtpJ9iTZ0

魔王「もう一つ、話しておこう、女神についてだ」

勇者「!」

魔王「そもそも、なぜ余が人間界に攻撃を仕掛けるかわかるか?」

魔王「女神…神族の力は、人間の信仰心から得られるからだ」

勇者「…!」

魔王「魔族はな、鼻から人間界の支配など興味はないのだよ、神族の家畜を駆除し、力を弱めたところを叩く作戦なのさ」

勇者「……」

 家畜、その言葉が、いやに耳に残る。

 家畜だから…助けてくれない?

 家畜だから…こんな目にあっても、細々構っていられないってことか?

 いや、だとしたらおかしいはずだ、いうなれば人間は食糧、それが今なくなろうとしているときに、神が干渉してこないのはおかしいではないか

魔王「一つ言っておくが、神は干渉しているぞ」

 勇者の思考を読み取ったかのように、魔王は言った。

勇者「!」

魔王「人間界が一つだけだとでも思ったのか?」

勇者「……!?」

魔王「より人口の多い世界では、神の使いである天使と魔物が熾烈な戦いを繰り広げている、この世界は、数ある人間界の中でもっとも小さい世界だ」

勇者「……ッ」

魔王「神はこの世界をとっくに見放しているのさ、だからこそ、余はここで人間界の研究が行えているわけでもあるがな」

勇者「……」

魔王「いかに自分が小さい存在か、わかったか?」

勇者「……」

魔王「さて、本題に入ろう」

 魔王はそういうと、片手を上げた。

 うめき声を上げる肉団子が、魔物に運ばれ牢の前に並べられる。

勇者「…っ」

 魔王がパチンと指を鳴らすと肉団子が人間の形へと戻った。

 皆ぐったりしている。

 突然の苦痛からの解放、しかし、体は震え、うまくコントロールできないようだった。

 そんな中で、最も長い期間肉団子として過ごしてきた女が、弱弱しく勇者を見、そして言った。

女「勇者…様……助げて…」

勇者「っ」

魔王「連れて行け」

 魔王の命令を受け、魔物が五人を引きずっていく。

魔王「勇者、一日待つ、明日、信仰を捨てていれば、あの者どもは生かしたまま元の村に返そう、約束する」

勇者「……ッ」

魔王「もし、信仰を捨てていなければ、五人はまた肉団子だ、そしてまた、貴様に恩のある者をさらい、ここに連れてくる、貴様が信仰を捨てるまで、何度でもだ。 わかったな?」

 魔王はそれだけ言うと牢を後にした。



82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:11:15.01 id:wtpJ9iTZ0

勇者「……」

 女神にとって

 神にとって、俺たちは家畜……

 だから、助けない

 善人だとか、そういうのは関係ないと

 ただ、信仰さえあれば……

 だから、勇者なんて存在を作っただけであとは放置か

 こんなに苦しいのに

 あんなに努力したのに

 女神を信じて

 僧侶は心壊した

 俺を解呪した神父は歪んだ

 今、あの神父の言葉の意味がわかった気がした

 女神様は無意味な試練を与えない

 女神を信仰する者が、一番最初に教えられる言葉だ。

 なぜなら女神は、人々を幸福にするために存在するから

 だから……この先に、自分の行いの先にも幸福が待っていると……あの神父は、信じたのだ。

 その気持ちもわからないではない。 神父が動くことで助かる命がある。

 目の前で地獄の苦しみを味わっている人々を、神父の行いで救うことができるのだ。

 俺も、同じ立場だったら、そうしたかもしれない。

 だから神父は、自分の中の信仰を捨てることなく魔王に手を貸すことができた。

 女神の慈悲の心を信じ、目の前で苦しむ人々を救ったのだ。

 勇者は自嘲する

 この局面で魔王に手を貸すことが、この人間界にとってどれほどの損害になるか、わからぬ女神ではあるまい。

 しかし、神父は神系魔法を使うことができた。

 それがすべてだ

 そう思った。



83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:12:00.96 id:wtpJ9iTZ0

 女神は、信仰さえ持っていれば、その人間の行いは問わない。

 なぜか?

 家畜だから

 勇者はくぐもった笑い声を上げる。

 あの魔王より強い魔王があと12人?

 あの魔王を倒しても、他の魔王が攻めてくる?

 女神も助けてくれない

 俺もこのざま、

 もう……もう……

 今の俺にできることって…

 勇者は、明日、魔王の目の前で信仰を捨てようと、そう決めた。

 俺の為に苦しんだ人々を救う

 交渉次第でできるはずだ。

 その後世界が滅ぼされては同じなのだろうが

 少しでも、あの優しい人たちの苦痛を減らしてやりたい。

 まだ自分にできることがあるとすれば、やはりあの神父と同様、それくらいしか思いつかなかった。

  



84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:12:58.96 id:wtpJ9iTZ0

??「勇者様……やっと……会えた」



85:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:13:53.17 id:wtpJ9iTZ0

勇者「……」

神官「……勇者…か?」

勇者「……!?」

 勇者は目を見開く。

 辺りを見渡し、見慣れた祭壇に立っていることを確認する。

勇者(死んだ? 俺が……)

 なぜ? どうやって……?

 疑問が頭の中でループする。

 そんな勇者の横で、まばゆい光がはじけた。

司祭「…ふう」

 粒子を散らしながら、司祭が勇者の横に立つ。

勇者「お前が…助けてくれたのか?」

司祭「……!」

 司祭は、勇者を見て、目を瞠った。

 白く染まった髪、こけた頬、痩せこけた体。

 腕や目元が、小刻みに震えている。

 それだけで分かった。

 この半年間、どんな状況に勇者がいたか。

 助けだせてよかったと思う。

 しかし同時に……また別のことを司祭は考えずにはいられなかった。

 この勇者に……この弱り切った若者に……はたして魔王が倒せるのか?

 倒さなければならないのだ。

 もはや後戻りはできない状況なのだ。

 しかしその勇者がこのありさまでは――

司祭「…ああ、無事…でよかった」

勇者「無事?」

 勇者の顔が強張る。

 勇者の気配が変わったことに、司祭は緊張を高めた。

勇者「お前このありさまを見て…本気でそう思ってるのか―」

兵士「勇者さま」



86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:15:42.08 id:wtpJ9iTZ0

 勇者の言葉は、突然教会へ入った数名の兵士によって途切れた。

 勇者を見た兵士の目が驚きに染まる。

 しかし兵士は事務的といった様子で言葉をつづけた。

兵士「王がお呼びです、ご同行願います」

勇者「……!」

 勇者は泣き出しそうな顔になった。

勇者「まってくれよ……疲れてるんだ……後にしてくれないか?」

司祭「勇者、行け」

勇者「!?」

 勇者は信じられないといった顔で司祭を見た。

勇者「俺のこのざまを見て、お前はそんな事を言ってんのか!?」

 勇者は司祭へ向け怒鳴る。

司祭「ああそうだ、行け」

勇者「お前……っ」

 司祭は、キッと勇者をにらみつける。

司祭「お前は、堂々と、勇者らしく、弱音を吐かず、行け」

勇者「ふざけんな……俺があの場所でどんな…」

司祭「頼むから!!」

 司祭は叫び声を上げた。

司祭「頼むから! 弱い言葉を吐かないでくれ! 頼むから! 堂々としていてくれ! そうじゃねぇとみんなが浮かばれないんだ!!」

 ほとんど悲鳴に近い声で司祭は勇者に迫る。

勇者「みんな……? みんなって」

司祭「3万人だ」

勇者「!?」

司祭「勇者奪還作戦に参加した命の数だ」

勇者「は?」

司祭「お前を助けるために、みんな命を捨てて魔王に挑んだんだ」

勇者「3…万?」

 司祭の瞳から涙がこぼれる。

 志半ばで息絶えた若者を知っているから。

 皆に思いを託し、死に絶えたものを知っているから。

司祭「魔王城での決戦になれば、誰も生きて帰れないと覚悟しながらもな! 実際みんな魔王に殺された! だが、お前はここにいる! この意味が、分かるか!?」

勇者「……っ」

 勇者は、顔をゆがめる。 そんな勇者の両肩をつかみ、司祭は懇願するように口を開く。

司祭「だから勇者……頼むから……みんなの覚悟を、思いを、無駄にしないでくれ……っ」

勇者「……」

 勇者は茫然と、司祭を見つめる。

 3万…? 俺を救うために?

 そんな……

 そんな



87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:19:11.09 id:wtpJ9iTZ0

3万の兵士を、1000人の魔法使いが転移魔法で送り出し、魔王城への電撃攻撃は行われた。

 突然の人類の反撃も、しかし魔王にとっては向かってくる蟻を踏みつぶすに等しい

 ただ数である、三万ともなれば、いかに強力な魔法で蟻を蹴散らそうとも、そのすべてを瞬時に殲滅させることは不可能であろう。

 ゆえに、勇者救出の成功率は高いといえた。

 ただし、その代償もまた、極めて高かった。

 三万の作戦参加者のうち、転移魔法で逃げおおせた20名を除き、魔王城の強力な魔物や魔王にすべて殺された。

 それが、勇者の聞いた、自分を救出する作戦の全容だった。



88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:21:08.89 id:wtpJ9iTZ0

勇者「……」

 勇者は、王座の前で跪いていた。

 変わり果てた勇者の姿に、王も、周囲に立つ大臣や参謀も声をかけられずにいる。

 無造作に生えた無精ひげ、痩せた体躯、こけた頬、髪は白く染まり、目に生気がない。

 半年もの間、拷問を受け続けたであろうことを考えればありえないことではない。

 しかし、勇者なら、と、皆信じていたのだ。

 昔小さいながらに、懸命に魔物と戦い、この国を守った勇者の背中を、皆信じていた。

 だがその背中も、今は痩せ細り、小さく頼りなく見える。

王「……勇者、よくぞ戻った」

 王は、言葉を選ぶように口を開く。

勇者「……」

 勇者は何も答えない。

大臣「勇者、王の御前であるぞ」

 大臣の言葉にも、勇者は反応を示さなかった。

王「……」

 重い沈黙が落ちる。

 王は痛々しげに勇者を見つめていた。

勇者「……馬鹿だ」

 かすかな声が聞こえた。



89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:22:00.14 id:wtpJ9iTZ0

王「?」

勇者「こんな俺なんて…救う価値なんかないのに…」

王「!?」

勇者「三万の戦力を……こんな……」

王宮兵士「貴様ッ!!」

 若い一人の兵士が今にも飛びかかろうと身を乗り出す。

王「やめよ」

 その兵士を、王が止めた。

王宮兵士「しかしっ」

王「……勇者よ、救う価値がないとは、どういうことだ?」

 王は、視線を勇者へ向け、そう尋ねた。

勇者「……意味がないんです」

王「意味がない?」

勇者「魔王から聞いた……魔界には、今の魔王よりも強い魔王が12人いる」

王「!?」

 その一言に、王の間にいたすべての人間に動揺が走った。

王宮兵士「…そんな」

 さきほど激昂した兵士も、茫然とそうつぶやく。

勇者「あの魔王相手にこの様の俺が、どうやって他の魔王を倒す? 無理だ、できっこない、そんなことは子供にだってわかる」

参謀「しかし勇者、そのほかの魔王とやらは、なぜ人間界にやってこない? 複数の魔王がいればこの世界など簡単に征服できるのではないか?」

 参謀の言葉を、勇者は鼻で笑った。

 征服? 笑わせる

勇者「そもそも、魔王が戦っている相手は、人間ではないってことですよ」

 勇者はそう切り出すと、魔王の言った話を説明した。

 しかしその中で、女神のことはあえて伏せた。

 女神は確かに人間を家畜だと思っているのかもしれない、しかし信仰から得られる力は、確かに存在するし、その力を失えば、人類が…この世界の人類が生き残る可能性は限りなく0になるだろう。

 生き残る可能性……

 説明をしながら、勇者は内心苦笑する。

 まだそんな可能性があると、…俺は思っているのか



90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/06(土) 23:22:59.19 id:wtpJ9iTZ0

 勇者の話が終わると、場は水を打ったように静まり返った。

 皆が口を閉ざし、先ほど進み出た兵士は、あまりのショックからか膝を床につけている。

勇者「……しばらく……休ませてほしい」

 話をする中で、皆が現状を認識してゆくにつれ、勇者は幾ばくか冷静さを取り戻していた。

王「……」

勇者「…三万人分の働きはする、転移魔法で町を回り、魔物を殲滅する。ただ…魔王の討伐は約束できない…」

 勇者のこの言葉に誰も反論を挟まなかった。

勇者「これからの予定や、詳しい作戦は、明日にしてほしい……とにかく今は……眠りたい」

王「…うむ、ご苦労であった、…今は、ゆっくりと休め」

大臣「王…!」

 勇者は、よろりと立ち上がると、歩き出した。

 その足を、止める。

勇者「……ありがとう…父さん」

王「……!」

 勇者はそう言うと、また歩き出した。

 途中、うなだれた兵士を横目に見、口を開きかけたが、すぐ閉じた。

 きっとこの兵士の友も、自分を助けるために犠牲になったのだろう、そう思った。

 すまない、弱い勇者で

 その言葉を飲み込んだ勇者は、自室に向け歩き出した。

大臣「王、よろしいのですか?」

 勇者が出て行ったあと、大臣は、青ざめた顔を王へ向ける。

王「……」

 王は、何も答えなかった。



104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/07(日) 19:45:29.13 id:cp5pogPl0

勇者「……」

 城、勇者の自室。

 キングサイズのベットに腰を下ろし、闇の中、壁にでかでかと掲げられた太陽の紋章を、勇者は一人、ぼんやりと見つめていた。

 太陽の紋章、女神信仰のシンボルであり、信仰の象徴である。

 魔王城から抜け出して、1か月が経とうとしていた。

 この一か月の魔王軍との戦闘で、勇者が感じたことは、魔物が強くなっている、ということだった。

 正確に言えば、強い魔物が出る範囲が広がった。 と言うべきだろう。

 つまりそれは、魔王城を中心に展開されている結界のようなものが、広がっている、ということだ。

 だから……それは……あの魔王が、全力で活動できる範囲が広がっているということだ。

 勇者の体が、ブルリと震えた。

 このまま、均衡を保つこともできないのか……

 時間の問題か……くそ

 一度震えだした体は、勇者の制御を外れ、ずっと震え続けている。

 震える口で、勇者は口を開く。

 女神の信仰を捨てる方法は、簡単だった。

 女神を貶める言葉を、吐けばいい。

 思うだけでは駄目なのだ。

 その想いを、心の底から声に出すことで、初めて信仰を捨てることができる。

勇者「お――」

 声を発し始めた口を、勇者はとっさに手で塞いだ。

 かつてともに旅をした仲間達が、自分の所為で苦しんだ人たちが、自分の為に死んだ人たちが

 勇者にそうさせたのだった。

勇者「くそ……くそぉぉぉ」

 口を手で塞いだまま、くぐもった声を上げながら、勇者は涙を流した。



105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:46:40.40 id:cp5pogPl0

 自分の息遣いが、いやに大きく聞こえる。

女戦士「……」

 女戦士は震える体を何とか抑えつけようと、両手で体を抱いた。

 恐れるな、恐れるな

 女戦士は、そう何度も自分に言い聞かせる。

 ある森林地帯と岩礁地帯の境目、木の影の隠れ、女戦士は先の岩礁地帯に目を向けた。

 巨大な竜の頭が、岩礁地帯の岩の上から顔を出している。

女戦士「……ッ」

 女戦士はとっさに首をひっこめた。

 いる、この先に、魔王軍が。

 女戦士は腰に下げた剣を抜くと、両手で握りしめた。

 村のみんなのために。

 殺されたって構わない。 このままのうのうと生きるくらいなら、せめて一矢報いてやる。

 女戦士は、ぐっと歯を食いしばると、木から飛び出すように身を躍らせ、岩礁地帯へ駆け出した。

 突然の雷鳴と閃光が、女戦士の聴覚と視覚を奪った。

女戦士「!?」

 光に目を細め、何とか先の景色を見る。

 その先の景色は、雷の嵐が魔物どもを紙切れのように吹き飛ばす光景であった。

 魔物の絶叫と雷鳴が空間を震わせる。

 黒焦げになった竜が、地に倒れ、大地が揺れた。

女戦士「……ッ??」

 一体何が……

 雷の雨が止んだ。

 しかし女戦士は、いまだに視界に入ってる情報を、うまく処理できずにいた。

 魔物が、魔王軍がひとりでに吹き飛んでゆくのだ。

 ある一体は突然細切れになり。ある10体は同時に胴体と下半身が分断される。

 場を支配する突風が、肉片を吹き飛ばす。

 吹き荒れる衝撃波の余波だけでも、戦地から1㎞は離れている女戦士が、体が吹き飛ばされないよう力まねばならないほどだった。

 また稲妻。

 そして突風。

 魔物の残骸が女戦士の横を転がってゆく。

 血しぶきが衝撃波に乗り、女戦士を頬を汚した。

 総勢1万を超えるであろう魔王軍が、次々とゴミのように吹き飛ばされてゆく。

女戦士「……なにこれ」

 女戦士はそうつぶやきながらも、謎の力に蹂躙されてゆく魔王軍から目を逸らせずにいた。



106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:47:11.25 id:cp5pogPl0

 時間にして10分ほどたっただろうか。

 女戦士は、戦場のど真ん中に立ち、あたりを見渡した。

 岩の森とも言われるこの岩礁地帯には、10メートルを超える岩石がいくつも無造作に転がっていた。

 しかし今、この岩礁地帯の一角に、岩と呼べるものはなく、砂と巨大なクレーターが点在する殺風景な景色が広がっている。

 あたりには血の匂いはすれど血や、魔物の死体もない。

 すべて原型も残らぬほどに破壊され、蒸発したのだ。

 そんな異様な破壊の跡地、その場に立つ一人の男。

 白髪を風になびかせ、どこか虚ろな目で地平線を見つめる男。

女戦士「……」

 女戦士は確信する。 この男が

 勇者なのであると。



107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:47:44.09 id:cp5pogPl0

 勇者不在の半年の間に、魔物の進撃は行われ、現状世界の7割は魔族の手に落ちた状況であった。

 しかし、解放された勇者の働きにより、魔物の勢力図は瞬く間に後退する。

 勇者は転移魔法により世界中を移動し、極限レベルの剣術と魔術で魔物に応戦した。

 魔界から無尽蔵に送られ、数を増やす魔物であるが、その数が千であろうが万であろうが、所詮下級魔族である魔物など、勇者の敵ではなく、それこそ蟻を潰すように瞬く間に駆逐されていった。

 各拠点に建造された魔族の塔も、勇者の雷撃魔法の一閃で吹き飛び、十万の数で進軍していた魔王軍も、たった一人の勇者を前に、一時間と持たず全滅した。

 しかし勇者は、ただの一度も魔王城へ近づこうとはしなかった。



108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:48:17.04 id:cp5pogPl0

女戦士「やーみんな、ただいまー」

 女戦士は朗らかに笑いながら、村の人々に手を振った。

 広間に集まっていた村人たちが、一様に驚きの目で、女戦士を迎えた。

村人(男)「お……女戦士! お前無事だったのか!」

 村人たちの中から、一人の若い男が前へ出る。

女戦士「まーねー、私にかかれば楽勝? みたいな」

村人(男)「ばかやろう! 村のみんながどれだけ心配したと思ってんだ!」

女戦士「もー、そんなどならないでよう、朗報を持ってきたんだから!」

村人(男)「朗報……?」

女戦士「そうよ! 魔王軍は全滅した! これで村を手放さなくてすむよ! みんなの畑も大丈夫!」

 女戦士は満面の笑顔と共にVサインを作った。

「!」

 衝撃が村人たちに走り、それは大きなどよめきに変った。

 魔王軍が?

 まさか

 いやでも

 信じられない

村人(男)「……お前ついに頭おかしくなったのか?」

女戦士「あー、やっぱり信じてくれないか、じゃあ証拠を見せるよ!」

村人(男)「証拠?」

女戦士「そう! こちらにおわす勇者様こそ、魔王軍を倒してくれた張本人なのです!」

 女戦士はそういうと、大げさに手を振り、後方に立つ男を示した。

村人(男)「勇者…」

 村人たちの視線が、一斉に女戦士の後方へと注がれる。

 そこに立つのは、腰に一振りの剣を携え、布の服をきている痩せた男だった。

 何よりも目を引くのはその白髪だ。まだ若い風体だというのに、その髪だけは、一本残らずすべて白一色であった。その下、どこか疲れ切った目がどんよりと中空を見つめている。

 勇者には……見えない。



109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:49:30.98 id:cp5pogPl0

村人(男)「本当に……勇者なのか?」

 村人(男)は、疑わしげな視線を、勇者へ向ける。

女戦士「ほら、勇者様、なんか証拠だして、このままじゃ村のみんなが信じてくれないよう」

 女戦士は、ぼそぼそと勇者にささやく。

勇者「……わかった」

 勇者が答えると同時、勇者の額に光り輝く太陽の紋章が浮かび上がった。

村人(老婆)「おお……」

 勇者様…

 勇者様だ……

 間違いない

 女神信仰の中でも象徴的な太陽の紋章。

 その紋章が刻まれたものこそ勇者であることを知らないものは、この世界には存在しない。

 この紋章を見せれば、大抵のことは叶った。

 紋章を見せれば、王や平民などどんな階級の人物からも情報を得ることができた。

 それほどまでに絶大な信頼性を有する紋章である。

勇者「魔王軍は壊滅させた、だから安心して、ここに住むといい」

 その一言に、村人たちがひれ伏す。

 ありがとう、ありがとうございます

 感謝の言葉、しかし勇者はその言葉に、内心顔をしかめる。

 勇者は、踵を返すと歩き出す。

女戦士「ちょっと、どこへ行くの?」

勇者「用はもう済んだだろ? 俺は帰る」

女戦士「そんなつれないこといわないでよう、お礼もまだだし、合わせたい人がいるの」

 女戦士はそういうと、勇者の腕にしがみつく。

勇者「……放っといてくれ」

 勇者が女戦士へ言葉を放つ。有無を言わせぬ迫力を含んだその声を、女戦士は

女戦士「ヤダー、放っときません、とにかく来て! ね? ね?」

 さわやかな笑顔と共に吹き飛ばした。

勇者「??」

 勇者は面食らった顔になる、このやり取りに、とんでもない違和感を感じたからだ。

 違和感…一体なにが

勇者「うわっ おい!」

 ぐんと引っ張られ、勇者の思考が途切れた。



110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:50:12.49 id:cp5pogPl0

 勇者の腕を抱いたまま、女戦士は勇者を無理やり引きずってゆく。

 村人達も茫然とその姿を見送っていた。

村人(男)「相変わらずだな……あいつは」

 村人(男)は苦笑する。

 あいつの前では、勇者だろうが、なんだろうが、関係ないのか

女戦士「ただいまー」

 勇者の腕を片腕に抱いたまま、女戦士が自宅の扉を開いた。

男の子「お帰り…おねーちゃん」

 ベットで横たわる小さな男子が、弱弱しい笑顔で出迎えた。

勇者「……」

女戦士「もう聞いて、おねーちゃんすごい人と知り合いになったの! 誰だと思う?」

男の子「えー誰かなぁ、コホ、コホ」

 男の子は小さく咳こむ。

勇者「……特有の疫病かなにかか?」

 毒や、病気、感染症なら村の神父が直すことができる。 この世界で病弱で床に伏せている人間など、勇者は今まで見たことがなかった。

女戦士「ううん、もともと、体が弱いの」

勇者「……」

 その一言に、勇者は眉を寄せる。

弟「お姉ちゃん、誰?」

 弟が、姉と話し込む男を見、そう尋ねる。

女戦士「あー気づいちゃった?」

弟「いや、そんなに堂々とされたら誰でも気づくよ…」

女戦士「なんと! この方は! あの! 伝説の! みんなの憧れ! 勇者様なのです!!」

弟「え」

勇者「!」

弟「わー、すごい…本物なの?」

女戦士「本物本物! 直に戦いを見た私が言うんだもん! 剣の達人である私が何が起こってるかわからなかったんだから間違いないって」

弟「剣の達人っていうのは引っ掛かるけど、そこまで言うなら本物なんだね…」

勇者「…」

弟「ねぇ、お姉ちゃん」

女戦士「ん?」

弟「ちょっと…勇者様と、二人で話をさせてくれないかな」

女戦士「え? なになに? 内緒の話?」

弟「うん…ちょっと男同志で話がしたいんだ、お願い」

女戦士「えー、気になるなぁ、まぁいいか、可愛い弟の頼みだし、お姉ちゃんは買い物がてら退散するとするよ」

弟「ありがとう」

女戦士「いーえ、ごゆっくり」

 女戦士は、そういうと扉を開け、外へとでた。

 扉が閉まる。

女戦士「……」



111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:57:43.55 id:cp5pogPl0

 しばらくの沈黙の末、勇者が口を開く。

勇者「……わざとらしいな」

弟「! ……あのっ」

勇者「他言する気はない」

弟「!」

勇者「これで、満足か?」

弟「…やっぱり、気が付いてたんですね」

勇者「……どうやって、神父をごまかしてる?」

弟「……うちは、祖父の時代からずっとこうなんです。 その縁で、目をつぶってもらっています」

勇者「危ういな、小さな村なら誤魔化せるかもしれないが…いつばれてもおかしくない、そうなったら、身の安全は保障できないぞ」

弟「…僕も、姉も覚悟の上です」

勇者「……本当か? 君は見たことがあるのか? 背信者の末路を、俺も何度か見たことがあるが、酷いもんだった」

弟「……っ」

勇者「その時になったら、君たちは後悔するだろう」

勇者「…こんなバカげたことに命をかけるぐらいなら、いっそ入信すればいい、神父とパイプがあるようだし、こっそり洗礼を受ければそれで済む、そうすれば君には神系魔法が効くようになり、その不自由な体も全快…いや、今まで以上に快適な生活ができるはずだ」

弟「……」

勇者「姉に迷惑をかけることもないだろう」

弟「!」

勇者「君が言い出せずにいるなら、俺から言ってやってもいい、そんな不自由な体は苦痛だろう? 」

弟「……」  

勇者「どうした? さきほどから黙っているが、何を悩む必要があるんだ? メリットしかないように思うが?」

弟「……理屈では…ないのです」

勇者「!」

弟「この体が、姉に迷惑をかけていることも知っています、でも……もう知ってしまったから」

勇者「…知った? 何を?」

弟「入信している人たち…女神を信仰している人たちの気持ち悪さ……です」

弟「勇者様は、おかしいと思いませんか? 何かに憑りつかれたように女神を信仰する人たちを……あの姿を見ていると……自分が自分じゃなくなるようで…怖いのです」

勇者「…」

弟「勇者様にこんなことを言って、僕は天罰が下りますかね」

 弟をそういって力なく笑う。

勇者「……そんなことはしないさ、ただ、一つ聞かせてくれ」

勇者「なぜ、俺にこんな話をする気になった? 下手すれば殺されているぞ」

弟「……女神様の使いともいえる勇者様ですけど…なんだか、他の人と違うように見受けられたので…」

勇者「ほかの人と違う? よく意味がわからないな、どういう意味だ?」」

弟「……このどこか変な世界を……勇者様なら変えてくれる……予感……?」

 とぎれとぎれに、何かを確認するように弟は言った。

勇者「…まぁいい、君たちのことは黙っておくさ、それに…面白いこともわかった」

弟「?」

 勇者は立ち上がると、家を出た。



112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:58:09.24 id:cp5pogPl0

女戦士「……!」

 扉を開けたすぐ横で、腰の剣に手をかけた女戦士と目があった。

勇者「…騙しうちでどうにかなると思ったのか?」

女戦士「……まっさかー、ただ、このまま帰して大丈夫かなーって思っただけよん」

 女戦士はそういって悪戯っぽく笑う。

勇者「村人から、襲われそうになったのも、初めてだよ」

 勇者はそういって苦笑する。

女戦士「あら、そうなの?」

勇者「ああ、恥ずかしい話、今まで考えもしなかった、こんな人間がいる……いや、こんな人間になれるんだな」

女戦士「…ん?」

 女戦士は、言葉の意味がつかめず、眉を寄せる。

勇者「ずっと、避けてた、勝てないと思ったから、もう万策尽きたと思った」

女戦士「??」

勇者「だけど、君たちのおかげで、俺はまた、挑むことができそうだ」

女戦士「えーっと、勇者さん?」

勇者「――ヤツらを倒す策を、思いついた」

 勇者は、口にした、今まで口にできなかった言葉を、いまこの時確かに口にしたのだ。

女戦士「え? 今、なんて?」

勇者「ありがとう、君たちのことは他言しないから安心してくれ」

 勇者はそういってほほ笑むと、転移魔法で飛び去って行った。

 女戦士は勇者の消えた空を唖然と見あげる。

 空を駆ける勇者、その目は、失いつつあった光が輝きを取り戻していた。



113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 19:59:27.79 id:cp5pogPl0

 山奥の洞窟、勇者はそこでひたすらに待った。

 ここで来るかどうか、それが、何よりも大事だった。

 女神の信徒には、ある特徴がある。

 あの姉弟に出会い、勇者が気が付いたことである。

 王子としての生活、そのあとすぐに勇者としての生活が始まった。

 そんな勇者だからこそ、この異常事態に気が付かなかったのだ。

 しかしここで、疑問が一つ生じる。


 今までの冒険を思い返せば、共通点は見えてくる、しかし明確な違いを確信できるほどの情報が今の勇者には不足していたのだ。

 可能性は十分にある。

 思い当たる節もある。

 しかし、確信に至るほどの情報ではない。

 これが、何よりも大切なのである。

 これがもし、成功するのであれば…

 大きな希望が見えてくる。

 勇者の頭に閃いた策の成功率が格段に上昇する。

 だから来い

 勇者は洞窟の岩に腰掛け、ただひたすら待つ。

 そして――

 足音、すたすたと、一定のリズムで、その者は来た。

僧侶「…うー」

 僧侶は、意思のない瞳を彷徨わせながら、勇者の前で足を止めた。

勇者「……」

 ここは王国から300キロメートル離れ、四方を海に囲まれた孤島の洞窟である。

 心の壊れた僧侶が、この場所に現れた。

 それにはどれほどの苦労があっただろう。

 それは想像に難くない。

 しかし僧侶は来た。

 勇者は、込み上がってくる感情を御しきれず口元を釣り上げた。

 勇者が洞窟にこもって五日後のことであった。



114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:01:18.59 id:cp5pogPl0

 僧侶をこっそり司祭の家に帰した勇者は、すぐさま行動を起こした。

 勇者の号令によって急遽開かれた会議、突然の招集にもかかわらずその席には国王をはじめ、国の中枢を担う人物たちが集まっていた。

 皆が会議室の下座に立つ勇者に視線を向ける。

 何せ勇者は皆を集める理由として言ったのである。

 魔王達を倒す策を思いついた。 と。

参謀「皆もそろった、勇者よ、さっそくその策とやらを教えてくれ」

勇者「はい、それでは説明します」

 勇者はそういうと、心の中で、構えた。

 イメージは、仲間と一緒に戦闘している時だ、その時の心構えでもって、勇者は口を開く。

勇者「全員、起立してください」

 勇者の言葉に応え、皆が一様に起立をした。

「……」

王「…勇者よ、これは一体なんの真似だ?」

 王は起立したまま、怪訝な顔を勇者へ向ける。

勇者「まずは、実際に体験してもらったほうが、説得力があると思いまして」

参謀「体験?」

勇者「勇者の能力の一つ、命令です」

参謀「?」

勇者「私の言葉から発せられた命令は、女神様の信徒ならば誰ひとり拒絶することなく、違和感を持つことなく、従わせることができる」

参謀「…?? 勇者、あなたは一体何を言っているんだ?」

勇者「……突然の起立の号令に対して、あなた方は何も違和感を感じませんか?」

参謀「違和感といわれても」

 参謀は立ったまま、まだ府に落ちない様子だった。 あたかも勇者の命令に従うことが正しいとまるで疑っていないように。

勇者「冷静に考えてみてください、突然起立と言われて立つ人間がいますか? それも全員、こんなこと、普通ありえない、 違いますか?」

参謀「……たしかに…言われてみれば」

 参謀はここでやっと半分納得したようだった。

勇者「もちろんこの命令は、どんなことでもできるわけではありません。 たとえば信仰を捨てろなどの命令は、矛盾が生じるために拒否されます。 加えて、命令の内容が、された側の能力を超えている場合も同様です」

 加えて、この能力は勇者が心の底から願った場合のみ、発動される。

 それ故に、勇者は気が付けなかったのだ。この神にも似た能力に。

 戦士、魔法使い、僧侶……仲間が自分の思い道理に動いたことや、冒険の最中他国の住人や、重要人物から都合よく話を聞けたのも、思い返せばこの能力のおかげだったのだろう。



115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:04:47.04 id:cp5pogPl0

参謀「う……うむ、それで、この能力を使って、勇者は何をするつもりなのだ?」

勇者「この要領で、この世界の全人類に命令を出します」

参謀「!」

勇者「ある時刻に、私に魔力を送れ、と」

参謀「!! そんなことが」

勇者「パーティーの魔力を集めて放つ魔法があります、それを応用し、全人類の魔力を自分に集める」

参謀「…しかし、一般人に魔力の伝達など」

勇者「基本的な魔法技術があれば十分可能であると考えられます」

参謀「魔法博士…どうですか?」

魔導博士「ふむ……確かに、…理論上は可能じゃろうが…」

勇者「ええ、その技術を世界中の人間に伝授するだけでも、時間がかかるでしょう」

参謀「…それで、そこまでして、本当に魔王達に勝てるのか?」

勇者「……初戦では、いいとこ五分かと」

参謀「…五分……いや、それより初戦とは?」

勇者「魔王の言動から、この世界には、魔界と人間界をつなぐ旅の扉があると考えられます」

参謀「ふむ」

勇者「そして魔界には、他の人間界へと通じる旅の扉があるはずです」

参謀「……! そうか」

勇者「はい、まずこの世界の魔王を倒し、旅の扉までの道を開きます、その後、魔界を通じてほかの人間界に乗り込み、その世界の国と協力して同じ命令をする」

参謀「……なるほど……しかし勇者、その旅の扉のある場所は分かっているのか?」

勇者「十中八九、魔王城、それも魔王の間でしょう、ですが安心してください、ここに来る前に試しましたが、旅の扉は、どんな魔法攻撃でも壊れる代物ではありません。」

 参謀の言葉の意味を読み取り、先回りして勇者は応えた。

 今までにない大魔力同士のぶつかり合いだ。 その余波で壊れるかもしれない、そう考えるのは、自然といえるだろう。

 しかし旅の扉はいわば時空の歪みである。こちらの魔法攻撃もすべてその時空に吸い込まれるため、破壊できるといった代物ではないのだ。



116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:05:29.90 id:cp5pogPl0

参謀「……確かに……希望はあるように思う……しかし五分か…」


 参謀は額に手を当て、目を閉じた。

 魔王城から放たれる結界の範囲は、日々拡大を続けている

 魔物が徐々に力を増しているのも確かだ。

 このままではじり貧……今は、五分でも賭るしか…

参謀「魔法博士、魔法を伝える技を伝授するのにかかる時間は?」

魔法博士「うーむ、全人類ともなると……魔導協会を総動員しても、3年はかかるかの」

参謀「……各国に伝令を回し王宮の魔法使いにも手伝わせましょう、それならどうです?」

魔法博士「……王宮の精鋭か……それならば、2年でいけるかもしれん」

参謀「2年……」

 結界の拡大するスピードから考えると、かなり微妙な時間だ

勇者「……2年…」

 勇者がゆっくりとつぶやいた。

勇者「その間に、武器職人の方々には、膨大な魔力をコントロールする武装を作っていただきたい」

武器屋「む?」

勇者「魔法使い用の魔力を攻撃力に変える杖があるでしょう? あれを利用して理力の防具と剣を作ってほしい」

武器屋「ふーむ…膨大な魔力を放出する武具…か」

勇者「現状、この世界に魔王と互角に戦える武具はありません、足りない部分はこちらの工夫でカバーするしかない」

武器屋「…わかったやれるだけやってみよう」



117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:06:20.87 id:cp5pogPl0

司祭「……勇者、本当のところ、勝算はどれくらいなんだ?」

 司祭の家、久しぶりに勇者を招いた司祭は、食事の席でそう切り出した。

勇者「……この策じゃ7:3で上出来ってところだな」

司祭「…ちなみに7は?」

勇者「もちろん魔王達さ、魔結界も日に日に強くなっている、それに比例して魔王も強くなっているはずだ」

司祭「……2年…か」

勇者「あの魔王の全力は、一度だけ引き出したことがあるが、仮に今の俺の魔力をすべて放出して戦うことができたとしても、五秒で消し炭だったと思う」

司祭「……その状態からさらに強くなるわけだろ?」

 司祭は顔をしかめ、目がしらに指を当てた。

 考えただけでも気がめいる。

勇者「まぁ…希望が出来ただけ今までより何倍もマシだ。 このままだと、どちらにせよこの世界は滅ぶ」

司祭「…なぁ」

勇者「ん?」

司祭「女神様は…なんで助けてくれないんだろうな?」

勇者「どうした? お前らしくもない、女神様は無意味な試練は与えない、そうだろ?」

司祭「…ああ…そうだったな、すまん、変なことを聞いた」

勇者「お前も疲れてんだよ。最近はこの地域でもオルガの発症が増えてるって話じゃんかよ」

司祭「ああ、そうだな、毎日の治療で…すこし参ってるのかもな」

勇者「ああ…そうさ……疲れているんだ……」



118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:07:02.72 id:cp5pogPl0

 スライム二匹と共に、洞窟を利用し人工的に作り出した密室の中に、勇者は一人いた。

 敵意を向け、襲いかかるスライムを防御力で無視し、勇者はひたすらに瞑想を続ける。

勇者「……ッ」





 教会で目を開ける勇者。

司祭「またきたのか」

 司祭は、半場呆れたように口をはさむ。

勇者「……少しでも気を抜くと体が吹き飛ぶんだ」

 勇者は、両手の平を見つめながら言った。

司祭「……まだ期限まである。 そんな何度も死ぬほどハードな修行を積まなくてもいいんじゃないか?」

勇者「……いや、そこまで時間はないよ、これが成功するかどうかも、まだわからないんだ。時間はいくらあってもたりない」

 勇者はそういうとすぐに歩き出した。

司祭「なぁ、魔力の出力を上げる修行に、なんでスライム二匹と引きこもる必要があるんだ?」

 そんな勇者の背なかに、司祭は言葉を発した。

勇者「どんな状態でも、魔力をコントロールする技術が欲しいからさ、そのうち、魔物のレベルも上げる予定だ」

司祭「……あまり、無茶するなよ」

勇者「魔王を倒せるかもしれないんだ、無茶でもなんでもするさ」

司祭「……」



119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:07:41.63 id:cp5pogPl0

 勇者が作戦を立ててから1年半後

勇者「……」

 勇者は二匹のスライムをじっと見つめていた。

 一匹のスライムは、敵意をむき出しにし、相も変わらず勇者に襲いかかっていた。

 方やもう一匹は死んでいた。

 原型を保ったまま、ピクリとも動かず。

勇者「……まってろよ、魔王」

 勇者は襲ってくるスライムを踏みつぶすと、にやりと笑った。



120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:11:28.79 id:cp5pogPl0

勇者は、魔王の前に対峙する。

勇者「このシュチエーションは何度目だろうな?」

 玉座に座った魔王に対して、勇者はうんざりした様子で言った。

魔王「もう忘れたよ、勇者」

 魔王は、どこか疲れたように答える。

魔王「何度繰り返す気だ? お前もわかっているんだろう?」

勇者「…ああ、わかっている、こっちの作戦がバレバレのことも…お前が手加減していたことも…な」

 世界中の人間の魔力を集める、この作戦の性質上、情報の漏えいは避けられない。

魔王「……余が、どれほど手心を加えていたか、わからん貴様ではあるまい」

勇者「それはどうだろうな、その伸びしろを超えると俺は踏んだからこそ、ここに立っているわけだが」

魔王「……余は、今まで人型で戦ってきた」

勇者「…」

魔王「この人型でいるだけで、余の魔力は、100分の1に抑えられている」

勇者「……ほう、そりゃすごい」

魔王「……しかし、魔結界がここまでこの世界を犯している現状、もはや真の姿になろうとも、この世界は耐えられる。 この意味が分からぬ貴様ではあるまい」

勇者「殺さないよう手加減されていた上、100倍か、…まいったね」

魔王「さらに言えば貴様の策とやらも、死ねば死ぬほど不利になる、違うか?」

勇者「……はは、その通り」

 この方法では、何度も魔力を供給できるわけではない。

 それは、人間の信仰心の問題が、大きくかかわってくるからだ。

 誰が何度も無償で自分の魔力を渡すというのだろう。

 命令すれば、不可能ではない、しかし命令を繰り返すたび不審は深まり、やがて女神の信仰を捨てる者も現れるだろう。

 つまり、負ければ負けるほどジリ貧になる。

勇者「ずいぶんと、人間を研究してるじゃないか」

魔王「…殺せば弱体化してゆくのだ、余の手心も期待できぬぞ、それでもやるというのか?」

勇者「……勝率は、10パーセントってとこかな」

 この時点ですでに、魔王の能力が想定の10倍である

魔王「……まだ何か、余の知らない策がありそうだな」

 先ほどからの勇者の軽い返答に眉を寄せながら、魔王が言った。

勇者「さぁ、どうだろうな?」

 勇者は、肩をすくめて見せる。

魔王「……おしゃべりが過ぎた」

 思いのほか長く会話をしてしまったことに、魔王は違和感を感じながら立ち上がる。

魔王(余は…敵と何をこんなにしゃべっているのだ)

勇者「……」



121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/07(日) 20:12:06.51 id:cp5pogPl0

 魔王の体が変態を始めた。

 額には二本の黒い角がちょうど眉の上部から生え出る。 肩甲骨の部分が盛り上がり皮膚を裂くとコウモリのような翼が左右に広がった。

 髪が銀髪に染まり、腰のあたりまで伸びる。

勇者「……それで? 変身は終わりか?」

魔王「ずいぶん余裕ではないか」

勇者「まぁ、パワーバランスは今までと、そんなに変わらないみたいだからな」

 勇者はそういうと、先ほどから供給される魔力を、体外に放出した。

 魔力が勇者の体からほとばしる、髪が逆立ち、全身の内側から光があふれ出す。

 全身にまとった理力の鎧が魔力に呼応し、金色の光を放ち始めた。

魔王「ずいぶんと派手なことだな」

勇者「人の英知のたまものさ」

 勇者は、理力の剣を腰から引き抜いた。

魔王「ほう」

 勇者の剣の形状に、魔王は目を細める。

 見たことのない形だ。

 緩やかに反った柄の部分には、銃のトリガーがあり、刀身は片刃、峰の部分は円柱状であり、切っ先が銃口になっている。

勇者「行くぞ魔王、……これが最後だ」



127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/08(月) 20:59:19.86 id:YtpFI3Ae0

 勇者は銃剣の銃口を魔王へ向けると、引き金を絞った。

 銃剣から放たれる、雷撃弾、稲妻の速度で迫るそれは、何もない空間を通過した。

 外れた弾が、壁に激突すると、超高熱のプラズマフィールドをその場に作り出した。

勇者「!」

 弾速よりも、遥かに速い速度で、勇者に迫る魔王。

 魔王の拳を、勇者が受け太刀する。

 激突の衝撃により光と闇の波動が、空間に明滅する。 激突する力に耐えきれず、二人を中心に床がめくれあがり、クレーターを作り出した。

魔王(今まで戦闘で壊れることがなかった、この魔王の間が、耐えられない……か)

勇者「……ッ」

 魔王が拳を振りぬく、勇者の体が押し出され、後方へ吹き飛んだ。

勇者「くっ」

 空中滑空の過程、銃剣の銃口を魔王へ向け、魔弾を放つ。

 弾丸を放った余波が大気を震わせる、空間を焼き切りながら迫る雷弾を、魔王は拳の一振りで弾き飛ばした。

魔王「…!」

 弾いた魔王の拳の表面が裂けていた。

 魔力を集中した拳の防御力をやや上回る威力を誇る弾丸が、魔王の顔をわずかに曇らせる。

 一体どれほどの魔力を圧縮して撃ちだしているのだ。

 人の身で。

 人の技術で。

魔王(おもしろい)

 魔王は微笑すると、周囲に光の球を召喚する。

勇者「!」

 魔王の間とを隔てる扉に体を打ち付け、体の運動が停止した勇者は、目の前の光景に目を瞠った。

 その数300発。 勇者の視界を埋める光弾が、一挙に勇者へ向け迫ってきていたのだ。

勇者「―」

 百発の光弾が勇者のいる場へ向け、豪雨のように降り注ぐ、

 弾が激突する度、光がはじけ、その場を削り取ってゆく。

 百発の光が魔王の目の前を蹂躙したのち、巻き起こる粉塵。 魔王は床を蹴り、その中を突き進む。

勇者「!」

 膨大な魔力の盾を張り、何とか光弾を凌いだ勇者、その目前に迫る魔王。

 その蹴りが、光弾により削られた盾を砕き、勇者の腹部に突き刺さった。

勇者「がっ」

 勇者の体がくの字に曲がり、そのまま吹き飛ぶ。

 一瞬で音速まで加速した勇者の体は、魔王城の壁を何層も貫き、場外へと体が投げ出された。



128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:01:27.24 id:YtpFI3Ae0

勇者(外―)

 空、青空、その青空を背景に、こちらへ手をかざす魔王。

勇者「……ッ」

 勇者は魔力を放出し、体を滑空方向へ加速させる。

 魔王の手のひらから放たれる漆黒魔法が、大地に炸裂した。

 爆風を上げ、黒いドームが大地を覆う。

 その余波に、体を乱回転させながらも、寸でのところで攻撃を避けた勇者は、森林地帯に突っ込み地面を掴むことで大地を削りながら体勢を立てなおした。

勇者「……ッ」

 木々の隙間から見える、空中に浮遊する魔王を睨む。

魔王「どうした勇者? その程度か?」

勇者「ッ……極大雷――」

 勇者の詠唱の最中、魔力で自分の体を弾いた魔王が、急速落下。

 0.1秒で勇者のいる地点に魔王の体が着弾する。

勇者「ぐっ」

 バックステップで何とか回避した勇者、しかし、魔王の追撃は終わらない。

 勇者の目前に展開する魔法陣。

 そこから放たれる漆黒の稲妻が、勇者に襲いかかる。

 ほぼゼロ距離から放たれたそれを、勇者の一閃が斬り消した。

勇者「!」

 魔王が自身より切り離した影を利用し、一瞬で勇者の後方に移動。

 放たれる魔力を込めた拳が、勇者の背に突き刺さる。

 体を海老ぞらせ、木々を根こそぎ吹き飛ばしながらぶっ飛ぶ勇者。 

 その勇者めがけ、魔王は手をかざす。

魔王「極大暗黒魔法」

 魔王の手から放たれる、漆黒のエネルギーボール。

 それが吹き飛ぶ勇者に向け空間を削りながら迫る。

 ガラスが砕けるような音をまき散らすその魔弾が、勇者に直撃した。

勇者「   」

 勇者を起点に、球が肥大化する。

 瞬く間に直径一キロメートルを覆い尽くしたその漆黒は、その空間にあるすべてのモノを破壊しやがて収束、その場には、巨大なクレーターのみが残った。

魔王「…」



129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:03:14.76 id:YtpFI3Ae0

 クレーターの中央、うずくまるように倒れる勇者を見つめ、魔王は目を細める。

勇者「……くそ」

 勇者は、理力の剣を杖のように地面に突き立てよろりと立ち上がった。

 着弾と同時に回復魔法と防御魔法を連続でかけ続けたが、まったく威力に追いつけなかった。

 しかも詠唱する暇がないため、魔力の使用効率は極端に悪い。

 そんなことはわかりきっていたことではあるが、それでも、この短時間で想定よりも遥かに多くの魔力を消費してしまった。

 もう回復に回す余裕もない。

 少し早いが……やるしかない。

魔王「極大暗黒魔法」

勇者「!」

 勇者は、全力で地面を蹴る。

 着弾する暗黒魔法が再度大地を削り取る。

 巨大化する漆黒のドームが、回避運動に入った勇者に迫った。

勇者「――」

 勇者は、魔法に飲み込まれぬよう全力で駆ける。

 ドームの肥大化が、停止する。

 寸でのところで間に合わなかった。

 下半身を失いながらも、しかし勇者は理力の剣を構えた。

魔王「!」(勇者のあの位置取り…)

 理力の剣が、込められた魔力に呼応して光り輝く。

 その銃口の先は―

魔王(やはり気づいていたか)

 魔王がいつも、魔王の間から動かない理由。

 魔王の間を破壊する魔力が備わっているとわかった瞬間、勇者を場外に追いやった理由。

 気づかぬ勇者ではないことはわかっていた。

 魔王の間には、何か破壊されては困るものがある。

 そう結論付けるのも、自然である。

 そしてそれは正解だ。

 しかしこれが策と言うのならば――想定内である。



130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:05:20.17 id:YtpFI3Ae0

 魔王は、魔王城の前に残した影の前に瞬間移動する。

勇者「!」

魔王(この状況にだけ関していえば、貴様も想定内なのだろう?)  

 魔王が避けられないであろう状況で、勇者の出来うる最大攻撃を放つ。

 それが圧倒的な実力差の中、勇者に残された最後の策

 ただそれは、不意をつければ、の話であろう。

 全力の魔力のぶつかり合いを想定した策ではないはずだ。

勇者「  」

 勇者は引き金を絞る。

 理力の剣より吐き出される雷を纏った極大ビームが魔王へと突き進んだ。

 対し魔王、手をかざし、暗黒の波動で迎え撃つ。

 抵抗を無理やり突き破る蛇のようにうねるその暗黒と、光溢れる光線が激突する。

魔王「!?」

 黒の魔撃は、勇者渾身の魔法攻撃を呆気なく霧散させ、その延長線上の先、勇者を飲み込み、滅却した。

魔王「……」

 魔王の眼前、魔法攻撃により、荒野と化した大地を見つめ、魔王は眉を寄せた。



131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:06:58.64 id:YtpFI3Ae0

側近「お見事です」

 いつの間にか魔王の背後に立つ側近が口開く。

魔王「……いや、違う」

 魔王は、地平線を見つめながら、つぶやくように言った。

側近「どうかなされましたか」

魔王「手応えがなさすぎる」

 狂化していた時の方が、まだ手ごわかったように思う。

 勇者が防戦一方だったのは事実だ。

 そんな中で、余を誘導するのも一苦労であっただろう。

 ゆえに早い段階で、余の誘導も不完全な状態のまま切り札を使った…

 回避不可能の、勇者渾身の最大攻撃。

……それすら…罠?

 そう思わせることが重要だったとしたら?

 あの手ごたえ…

 最大攻撃に見せかけた、…ただ範囲と見た目だけに特化した魔法だった?

魔王「! 側近、今の時刻は?」

側近「は? 今の時刻ですか?」

 側近はそういって空を見上げ、太陽の位置を確認した。

側近「……あ」

 側近は、何かに気が付いたというように、声を上げた。

 それで十分だった。

魔王「勇者め」

 魔王は歯噛みする。

 すなわち、最初から勇者の策のうちだったのだ。

 最初の会話、あれで、こちらの時間間隔を狂わせた。

 現時刻。まだ、全人類の魔力を集める時間ではない。

 つまり、少数の、策を知る者のみの魔力で、全魔力を集めた様に見せかけ、こちらの魔力を削る策略だったのだろう。

 事実、こちらは、盛大に魔力を消費してしまった。

魔王「……やってくれる」

 こちらが策を知ったうえで、それすら利用してきたというわけだ。

 目前、先ほどとは比べ物にならない魔力をほとばしらせ、転移魔法により着地した勇者を見つめ、魔王は顔をゆがめた。



132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:14:37.16 id:YtpFI3Ae0

 勇者のひと蹴りで、大地が爆散する。

 側近の目の前、激突する魔王と勇者。

 その余波を前に、側近の体が宙に浮かび、歪に折れ曲がった。

魔王「っ」

 問答無用か―

 勇者の激突にこらえきれず、魔王の体が浮く。

 そのまま直進、魔王城の外壁を突き破ると、場内を転がった。

 勇者は、弾けるように魔王から離れると、そのまま魔王とは別方向へ床を蹴った。

魔王「!」

 魔王がその方向を妨害するように立ちふさがる。

 勇者の理力の剣の一振りを、魔王は前腕で受け太刀した。

 スパークと、黒い魔力が弾ける。

 強大な魔力の追突により壁や床、天井にヒビが走った。

勇者「……ッ」

魔王「……ッ」

 衝撃に互いに後方へ吹き飛ぶ。

 地面を削りながら停止する二人。

 そして停止と同時に、二人の姿が消える。

 爆散する天井

 壁を、床を、天井を蹴り、互いを錯綜させる二人。

 魔王城を縦横無尽に駆け回り、破壊的な余波をまき散らしながら二人は激突を繰り返す。



133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:15:50.55 id:YtpFI3Ae0

 勇者の狙いは明白であった。 魔王など後回しにし、魔王の間に到達することである。

 魔王の間には、破壊されては困る何かがある、それがなんなのかまではわからない。

 しかし、魔王は明らかにその場所を庇うように戦っている。

 その状況こそ、重要だった。

 勇者の銃剣の銃口が、魔王の間へ向けられる。

 庇うようにその場に転移する魔王。

 放たれる雷弾が、魔王に着弾する。

魔王「……ッ」

 雷弾の直撃により吹き飛び壁を貫通し、床を転がる魔王。

 床を腕で撃ち、胴体を起こす。

勇者「!!」

 勇者の周囲を覆うように、無数の黒い槍が切っ先を勇者へ向け、空中に召喚されていた。

 雷撃の閃光で視界が塞がる一瞬を利用して、防御ではなく、攻撃に転じた――

 槍が、一斉に勇者へ迫る。

 勇者は跳ねるように跳躍すると、体を錐もみさせ、迫る槍を時に躱し、時に剣で撃ち落とし、時に魔法で迎撃した。

 いなしきった勇者の背後、拳を振り上げる魔王。

勇者「!」

 勇者は咄嗟に体を反転させると、剣の腹で拳を受け止めた。

勇者「  」

 下から上へかち上げるように振るわれた拳撃に、勇者の体が浮き上がる

 魔王の拳の着弾点を中心に、まるで透明な風船が膨らむ様に空間がゆがんだ。

魔王「死ね」

 やがて空間がガラスの割れるような音と共に爆ぜると、勇者の体は一瞬にして極超音速まで加速し、魔王城の外へ弾き出された。



134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:17:50.27 id:YtpFI3Ae0

魔王「!」

 勇者とは反対方向に突き進む反撃の雷撃弾が、魔王の胴体に着弾する。

 胴から煙を吐きながら後方に吹き飛んだ魔王は、床を踏み砕いて体を停止させると、忌々しげに上空を睨んだ。

魔王(あの状況で反撃の余裕があるか)

 魔王は、右手を開くと、詠唱を始めた。

 空気の摩擦熱に体を焼かれ、体の原型を失いながら雲を貫き上空へ上る勇者。

 魔力を逆ベクトルに放射する、その結果高度2000メートルにて運動を停止させることができた。

 口から噴き出る血液。

 勇者は回復魔法により体を回復させる。

 ガラスの砕けるような音を、鼓膜がとらえた。

 同時、勇者は回復を早々にきりあげ、銃剣の銃口を下へ構え、引き金を絞った。

 空間を砕きながら迫る黒い球体、魔王の究極暗黒魔法と雷撃弾が激突する。

 球状に混ざり合った魔法同士が次の瞬間に爆裂し、周囲の雲を波紋状に拡散させた。



135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:18:55.07 id:YtpFI3Ae0

勇者「……」

 勇者は左手で右手の前腕を支えるように持ち、右腕でまっすぐ構えた銃剣に全魔力を集中させると、再度引き金を絞った。

 銃剣の剣先から放たれる雷を纏った直径10mの円柱状の光線が、大気を焼き切りながら魔王城へ向け突き進む。

魔王「!」

 対し魔王、右掌を空へ突出し、漆黒の波動を放つ。

 直線状に突き進むビームと、不規則に歪みながら大気を犯すように突き進む波動が、空中で激突した。

勇者・魔王「……ッ」

 激突点を中心に球状に混ざり合う光と闇。 際限なく放たれるビームと波動のエネルギーを前に形状を保てず、勇者と魔王を隔てるように波紋状に拡散してゆく。

 波動を放出し続ける魔王、その足場がひび割れ、やがてクレーター状に窪んだ。

 ビームを放出し続ける勇者、その引き金を絞ったままの腕の皮膚が裂け、血が噴き出した。

 鼻血、吐血、目や耳からも血が噴き出す。大気に放たれた血は瞬く間に蒸発する。

 規格外、特大の魔力を一気に長時間放出することに、体が耐えられないのだ。

 理力の剣に、ヒビが走った。

 勇者は歯を食いしばる。目の前が真っ赤に染り、やがて何も見えなくなった。

 耳は音を失い、触覚もあいまいになる。

 今、確かに感じるのは魔力を放出し続けているという感覚だけだった。

勇者「ぉぉぉォぉおおおおおおおおおオオオおおおおおォおおーーっッ!!!

魔王「……!」

 魔王の膝が折れた。

 魔力が、底を尽きかけていることを悟る。

 前半戦での、浅はかな魔力の消費。

 それに加え、魔王の間を庇いながらの戦闘は、勇者よりもはるかに魔力を消費したのは間違いない。

 いや、それ以前に、左腕を失ったことも大きかった。

 完全に――読み負けた。

 だが――

 だが――っ

 魔王の脳裏を、自分を嘲る魔王達の顔が掠めた。


 こ の ま ま で は 終 わ れ な い


 波動がビームに押し負け、散る。

 大地に着弾した雷光線は、瞬く間に大地を削りながらドーム状に広がり、魔王城を光で覆い尽くした。

抵抗の消滅を感じた勇者は、引き金を絞る指の力を緩めた。

 体が落下する。



136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:20:14.65 id:YtpFI3Ae0

勇者「究極回復魔法」

 落下の過程で勇者の体が光に包まれ、やがて全快した勇者が光から飛び出し、巨大なクレーターの一部に着地する。

勇者「……」

 勇者はあたりを見渡す、そこに魔王の魔力は感じない。

 完全に消滅したか……あるいは……

 勇者の視線の先には、不自然に残った魔王の間があった。

 天井も壁もすべて消滅しているが、床と王座のみが不自然に残ったその場所。

 勇者は歩みを進めると、王座の前に立つ。

勇者「……」

 理力の剣の一振りで破壊される王座。王座の下には階段が地下へと延びていた。

 階段を下りた先は、洞窟となっていた。 巨大なドーム型の空洞である。

 その中央には、紫色に発光する巨大な魔法陣がある。

勇者「……」

 勇者は銃口を魔法陣に向けると、引き金を引いた。

 魔法陣の中央に着弾した雷弾がプラズマフィールドを形成し、地面ごと魔法陣を抉り飛ばした。

 同時、世界を覆っていた圧力のような物が消える。

 おそらくこれが、世界を蝕んでいた魔結界の発生源だったのだろう。 なるほど魔王は身を挺してこれを守っていたわけだ。

 勇者は視線をめぐらせる。右側に、さらに下に降りられる道を発見した。



137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:21:04.61 id:YtpFI3Ae0

 勇者は歩く、その道を下りた先に、渦があった。

 人ひとりを飲み込めるほどの大きさの赤い渦。

 旅の扉と呼ばれるワープ装置だ。

勇者「やはり…か」

 この先、十中八九魔界へと通じていると見てよいだろう。

 魔王は言った、今のこの世界ならこの形態でもに耐えられると。

 おそらく魔界では、より魔王が力を発揮できる環境になっているはずだ。

 そして、12匹の魔王もいる。

 どうする?

 この状況ならば、策はいくつか考えられる。

 分岐点だ。

 自分の残りの魔力はおそらく全力戦闘で3分ほどは持つ。

 この先、あの魔王よりも強いとされる12匹も相手にする可能性もある。

……ギリギリだな

 先の展開によっては、無駄に終わる。

 だが…こんなチャンスは、もうないかもしれない。

勇者「……」

 勇者は、決意を固めると、旅の扉に体を潜らせた。



138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:22:06.00 id:YtpFI3Ae0

 旅の扉を潜った先、淀んだ空気と瘴気を前に、勇者は顔をしかめた。

 周囲に目を配ると、どこかの建物の中であることがわかる。

 石造建築の祠かなにかなのだろう。台形にせり上がった祭壇のような場所に立つ勇者は、背後を見、赤い渦を確認しながらそう思考する。

 目の前の階段には、血の道しるべがあった。

 血痕はまだ新しく、おそらくあの魔王のものなのであろう。

 勇者は一歩を踏み出し、階段を下る。

 階段を下りると、左右を石柱の柱が並ぶ、石畳の道が前方に伸びている、その先には開け放たれたままの扉。

 扉の先には、城が見える。

 こちらの世界の魔王城とよく似た作りの城だ。

 祠を出た勇者は、赤い空を背景にそびえたつその城を見上げた。

 あの魔王城の10倍は広そうな城だ。

勇者「……」



139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:27:36.08 id:YtpFI3Ae0

大魔王「……」

 大魔王は冷ややかな視線で、魔力が切れ、息も絶え絶えながら跪く魔王を見つめた。

女の魔王「よく生きてもどってこれたわね」

 傍らに立つ11人の魔王、そのうちの女の魔王の言葉だ。

 もちろん心配しての言葉ではなく、無様な醜態をさらしながらも、ここに顔を出せた魔王に対しての皮肉である。

魔王「……」

 魔王は、顔を上げることなくただじっと床を睨み、歯を噛みしめる。

 人間ごときに…家畜ごとにきここまでやられ、それでもなお死にきれず、ここまで逃げてきた。

 とんでもない恥さらしである。

 なぜ、自分はこれほどの恥をさらしながらもここに来たのか。

 今の魔王に明確に説明するだけの理由は思いつかなかった。

 つまり……自分は、想像よりも弱く、卑屈で、臆病者であった…ということなのだろう…

大魔王「もうよい」

魔王「!」

大魔王「貴様には何も期待をしない」

魔王「……!」

 ぷっと数名の魔王が笑い声を漏らす。

細目の魔王「! 大魔王様」

大魔王「?」

???「大魔王さま!」

 大魔王の間の扉が開け放たれ、白い毛並に背中から翼の生えた猿型の魔物が血相を変え駆け込んできた。

魔物「人間です! 人間がぁ―」

 魔物の発声は最後まで続かなかった。

 口から血を吐き出し、崩れ落ちるように倒れる魔物。

細目の魔王「…!」

 倒れた魔物の背後から姿を現す一人の男。

 フヒューと過呼吸のような呼吸を繰り返す、猿型の魔物をまたぎ、魔王の集結するその場所に一人歩みを進めるその男。

魔王「…馬鹿な」



140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:30:14.98 id:YtpFI3Ae0

 魔王は、目の前の光景が信じられなかった。

 まさか、あの状態のままここまで来たのか?

 魔界に入られることまでは覚悟していた。

 だがそこまでだ、その後はまた、インターバルを置いたのちの戦闘になると踏んでいた。

 だが現状、勇者はここいいた。

 何を思って、こいつはここにくるのだ?

 魔力もほぼ使い果たしたはずだ。

 より強大な敵がいることもわかっていたはずだ。

 なのに――


 なぜ


魔王「……っ」

 なぜ《ここ》にくる?

 魔王の全身の毛が逆立つ。

 あの狂化した勇者と戦っていた時にも似た、不気味な予感――

 不条理だ、不合理だ、だが――この男は――

勇者「…」

 勇者は、その場に立つ。

 13の魔王の視線の注がれる、その場所に。

 今までに感じたことのないほどの強大な魔力を感じる。

女の魔王「これが例の勇者?」

 女の魔王は、表情一つ変えずにそういった。

勇者「…」

 勇者は魔力を全開で放出する。

 ほとばしる魔力、しかし場の空気は全く変わらなかった。

女の魔王「……」

 女の魔王がその場から消える。

 そして勇者の前に立つ。

 そして女の魔王は、勇者の額にでこピンをした。

勇者「――」

 目では追えている。

 しかし、体がまったく反応できなかった。



141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:31:26.75 id:YtpFI3Ae0

 勇者の体がその場から消えた様に吹き飛び、大魔王の間をはじき出されると、壁に体を打ち付けた。

 勇者を中心に壁に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

 勇者は目を見開き、額に走った激痛に顔を歪めた。

女の魔王「…冗談でしょ?」

 女の魔王は嘲笑するように魔王へ顔を向ける。

 女の魔王の背後、切りかかる勇者。

 刃が女の魔王の首に激突した瞬間、理力の剣がへし折れた。

勇者「―」

女の魔王「……」

 振り返る女の魔王、その手のひらが、勇者の胸に触れる。

 そして指を倒すように勇者を押した。

 勇者の体が、後方へ加速し、先ほど体を打ち付けた壁に再度激突した。

 口から血を吐き出し、その場に項垂れる勇者。

銀髪の魔王「……大魔王様、もうよろしいでしょう? 例の勇者とやらの実力もこれで証明されてしまった。 もはや魔王に弁明の余地はない」

大魔王「……うむ」

 大魔王はそう一言発すると、興味をなくしたように目を閉じ、そのまま動かなくなった。

 11人の魔王たちが、その場から解散する。



142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:33:33.81 id:YtpFI3Ae0

魔王「……」

 魔王はじっと、女の魔王にいたぶられる勇者を見ていた。

 必死に反撃する勇者、血を流しながら、残り少ない魔力で戦っている。

 対し女の魔王は、そんな勇者を嘲るように、攻撃をすべてノーガードで受け止め、殺さないよう注意しながら、まるで虫を痛めつけるように勇者に傷を負わせている。

 勝負は、誰の目にも明らかだった。

 それもそうだろう、この女の魔王は魔界序列第5位の実力者だ。

 最弱の魔王と互角である勇者に、もとより勝ち目などあるはずがない。

細目の魔王「悔しいかい?」

魔王「!」

 突然耳元で声を発した細目の魔王に、魔王は驚いて視線をむけた。

細目の魔王「君、気づいてないかもしれないけど、あの勇者が来たとき、口元が緩んでいたよ」

魔王「え?」

細目の魔王「あー、やっぱり気が付いていなかったか」

魔王「私が……笑っていた?」

 なぜ? 笑う?

細目の魔王「……」

 視線を床に向け、思考をめぐらす魔王へ向け、細目の魔王は口を開いた。

細目の魔王「僕はね、君が苦戦するあの勇者に、興味があったんだ」

魔王「…?」

細目の魔王「以前、君からもらったスライムがいるだろう?」

魔王「…ええ」

 魔の物にして勇者の仲間になったスライム、その貴重なサンプルを、魔王は魔界に提供していたのだ。

細目の魔王「……もしあの勇者がここに来た理由に、あのスライムが関係しているとしたら」

魔王「…?」

 魔王は、細目の魔王の言葉の意味を図りかねていた。

細目の魔王「ひょっとしたら、僕たちはもう、負けているのかもしれない」

魔王「!?……それは一体…!」

 細目の魔王に問いを発しようとした魔王は、そこではたと気が付く、その場から離れようとしていた魔王たちが歩みを止め、勇者を見つめていることに



143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:35:03.86 id:YtpFI3Ae0

女の魔王(……妙だ)

 勇者を痛めつけながら、女の魔王は眉を寄せた。

勇者「おおおおおっ」

 口から血反吐を吐きながら迫る勇者の拳が空を切る、女の魔王の手刀が、勇者の腕を両断した。

勇者「がぁ」

 勇者は顔を歪めながらも、失った腕を回復魔法により再生させる。

 女の魔王の蹴りが、勇者のみぞおちにめり込む。

 空中にかちあげられる勇者。

 女の魔王は極限まで手加減した魔法弾を勇者に向け放った。

勇者「!?」

 勇者は気が付く、勇者を囲うように四角い魔力の結界が張られていることに。

 魔法弾が勇者に着弾する。

 その四角い立体型の結界の中ではち切れんばかりの魔力の爆発が発生する。

 その爆心源、結界内で閉じたエネルギーをまともに受けた勇者の体は、原型を失うほどに裂けた。

 黒焦げ、べちゃりと音を立て、床に倒れる勇者。

女の魔王「……」

 ピクリと、勇者の指が動いた。

 勇者の体が、黒い光に包まれ、傷が一瞬で癒える。

 ゆらりと立ち上がる勇者。

 その目が、赤く変色していることに、女の魔王は気が付く。

 先ほどから、勇者の放出する魔力の質が変わってきている理由を、女の魔王はこの時理解した。

 勇者の指が動いた瞬間、自分の魔力が若干ながら減った感覚があった。

 つまりこの家畜は、家畜の分際でありながら、こちらの魔力を吸収している。

 その魔力を糧に体を回復させ、戦闘を長引かせているのだ。

――だが何のために? 

 どれだけ魔力をため込もうと自分の出力では到底勝ち目などないと、この戦闘でわかったはずだ。

 なのに…なぜ?



144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:36:15.03 id:YtpFI3Ae0

銀髪の魔王「……魔力を吸われた?」

 銀髪の魔王は、眉を寄せ、目の前の勇者から目を離せなくなっていた。

 周囲に目を向ければ、すべての魔王が、魔力を吸われた感覚があるのであろう、皆足を止め、勇者を見つめていた。

 つまり、この場にいるすべての魔王の魔力を、同時に勇者は吸収したことになる。

 吸われた魔力は微量ではあるが、人間の器には十分すぎる量であろう。

 つまり、ただの人間が、必要分を、魔王達から強制的に吸収した?

 そんなことが…たかが家畜ごときに、可能なのか?

 女の魔王は、まだこの事実に気が付いていないようだが…。

 銀髪の魔王の視線が、魔王の傍に立たずむ細目の魔王へと向く。

 細目の魔王は、この魔界で、大魔王様に次ぐ頭の持ち主だ。

 その上、誰よりも魔界のことを考えている。

 その男が動かないという事は……大丈夫なのか?

 何か…いやな予感がする。



145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:37:18.63 id:YtpFI3Ae0

勇者「ぉぉぉおおおおお!」

 目を見開き、勇者が咆哮を上げる。

 右手から光輝く稲妻を、左手から漆黒に輝く稲妻をそれぞれ迸らせ。女の魔王を睨む。

女の魔王「……」

 対し女の魔王は、じっと勇者の攻撃を待った。

 無限に回復するつもりなら、まず心を折る。

 そう思考した結果である。

勇者「極限混沌雷撃呪文!」

 勇者が両手を突き出す。

 反する二つの魔力の反発により、発動と共に勇者の両腕が吹き飛ぶ。

 聖と魔の雷撃が混ざり合いながら突き進み、女の魔王へ迫った。

 女の魔王は、人差し指をピンと張ると、目の前、勇者が今できるであろう最大攻撃に対して、その指を突き出した。

 雷撃が、突き出された指を中心に波紋状に拡散し、霧散する。

勇者「――」

 目を見開く勇者。

勇者「がはッ」

 女の魔王が突き出した指の圧が、勇者の魔法を消し飛ばしてもとどまることなく、そのまま勇者の腹部を貫通した。

 指一本分の穴が、腹に空く。

 腕と腹から血を吹き出しながら、勇者の体が宙へ浮いた。

 背中を地面に打ち付け、倒れる。

勇者「……」



146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:43:08.67 id:YtpFI3Ae0

勇者「……」

 茫然と勇者は天井を見つめる。




 ――決定的だな


 こちらの出来うる限りの最大出力の攻撃よりも、敵の指一本の突きの威力がはるかに勝る――

 これじゃ、どんなに魔力を体にため込んでも、どうしようもない。

 膨大な魔力得ようと、それを放出する出力が、人間では絶望的に足りないのだ。



 全世界人類魔力集中作戦は、ここに破綻した。

 勇者は力なく笑うと、魔王達から魔力を吸収し、その魔力で体を回復させながら、よろりと立ち上がった。

勇者(やはり正攻法じゃ……勝ち目はないか)

 女の魔王は、勇者の瞳を見て眉を寄せた。

女の魔王(まだあきらめていない……?)

 勇者の弱さを見せつけ、あの屑魔王の評価を最大限落とすつもりだったが…ここまで粘られると逆効果か…?

 まさかここまでやって心が折れないとは

女の魔王「もういいわ」

 女魔王はそう言うと、勇者を拘束するための魔法を――

 だそうとしたとき、その手を止めた。

 勇者が、おもむろに腕を上げ、指差したのだ。

 その先には――大魔王がいた。

 家 畜 の 分 際 で 大 魔 王 様 を 指 差 す だ と ?

 その行為に切れたのは、女の魔王だけではなかった。

 女の魔王と勇者の戦いを見ていた内の五人も、この不届きものを殺すべく、動く。

 が

 勇者に向かって放たれた攻撃はすべて、勇者からそれた。

!?

 勇者の前に立ちふさがるようにして立つ細目の魔王。

 それにより、勇者を殺すべく放たれた攻撃は、すべて無効化されたのだった



147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:44:58.92 id:YtpFI3Ae0

女の魔王「どういうつもり?」

細目の魔王「……僕たちの負けだよ」

女の魔王「はぁ? 一体なにを」

銀髪の魔王「大魔王様!!」

 悲鳴にも似た声に、すべての者の視線が、音源へと向く。

 そこには――

 口から血を吐き出し、ぐったりとうなだれる大魔王の姿があった。

「大魔王様!!」

 細目の魔王を除くすべての魔王が、血相を変え大魔王に駆け寄る。

勇者「……」

 勇者は歩き出す、自分の前に立つ細目の魔王の横を抜け、喧噪の最中へ

細目の魔王「……ッ」

 勇者が横を抜けた瞬間、細目の魔王は、全身の毛が逆立つのを感じた。

 勇者は、ぐったりとうなだれる大魔王の巨体の前に立つ。

 もはやその命がないことを、勇者は知っていた。

 すべての魔王の視線が、勇者へと向いた。

女の魔王「貴様……一体何をした……」

 憎悪と恐怖が入り混じったような視線で、魔王達が勇者を睨む。

勇者「極大雷撃呪文」

 勇者の呟きにも近い詠唱から放たれる雷撃が、大魔王の死体を消し飛ばした。

銀髪の魔王「――貴様ぁぁああああッ!!!」

 激昂した銀髪の魔王が、勇者に迫る。

 対し

 勇者は何もしなかった。

銀髪の魔王「ガフッ」

 勇者の数センチ手前で、銀髪の魔王の動きが止まった。

 口から血を吐き出し、苦しそうに身をよじると、その場に膝をつく。



148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:45:52.74 id:YtpFI3Ae0

「……ッ」

 その様子に、すべての魔王の表情が強張った。

 勇者は悠然と歩を進めると、唖然と見つめる魔王達の前で大魔王が座っていた王座に腰を下ろした。

勇者「……安心しろ、お前らはまだ殺さない、……やってもらいたいことがあるからな」

魔王「……ッ」

 魔王は、茫然とその光景を見つめていた。

 そして、こみ上がる感情に、納得していた。

 あの勇者が……ここまで

 理屈も、理由も、すべて吹き飛んでいた。

 ただ、胸には、優越感――

 どうだ、俺の闘っていた勇者は――

 俺の闘っていた勇者は――

 とんでもない化け物だったぞ。

 偉そうにしていた貴様らは、何もできずこのありさまじゃないか

魔王「……はは」

 魔王はこらえきれず笑みをこぼす。

 そうか……余は

 この光景が見たかったのか



150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:47:40.83 id:YtpFI3Ae0

一年後……




王「勇者よ、よくぞ…よくぞ大魔王を討ち倒し戻ってきてくれた!」

 王は、感極まったように、声を絞り出す。その瞳は涙にぬれていた。

 王座の前、魔王達のボスである大魔王を倒した証拠である大魔王の角を前に置き、跪いた勇者はただ顔を伏せる。

王「勇者……いや、わが息子よ、面を上げよ、英雄の顔をみせてくれ」

勇者「……」

 勇者は、ゆっくりと顔を上げた。

 目があった瞬間、王の顔が強張った。

 白くなった毛髪、痩せこけた頬……そして、その瞳は魔族のように赤く染まっていた。

王「……勇者、その目は…」

勇者「魔王達を倒すには……生半可な手段では無理だった……ということです」

 勇者は小さな声で応えた。

勇者「魔王達を倒すため、魔族の魔力を吸収しました。その結果、体が変異してしまったようです」

王「う……うむ…」

 場にいた兵士や、大臣たちがざわつき始めた。

 「勇者さまそこまで…」「しかしあの姿はまるで…」「おい、英雄に対してその態度は」「だがあの姿を公にさらすのは」

勇者「……セレモニーやパーティーで、この姿では皆を不安にさせるでしょう、ですから、私は不参加で構いませんし、今後王族として、この国を治める立場にいようとも考えていません」

 その言葉に、少数の大臣が安堵の息を吐く。

王「しかしそれでは!」

勇者「いいのです、この世界から魔族はいなくなった……ついに人間だけの時代がはじまろうとしているのに、それを作った英雄がこの姿では、民に対して示しがつかない、違いますか?」

王「……だが」

勇者「王……いや、父上」

王「!」

勇者「代わりと言ってはなんですが、二つほど、私の願いを聞き入れてはいただけませんか?」

王「う……うむ、なんだ? なんでも言ってみろ」



151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:49:37.83 id:YtpFI3Ae0

勇者「まず一つ目、私は今後平和になった世界を旅したいと考えております、その許可をいただきたい」

王「旅……か、それはいつまでじゃ?」

勇者「…期限はかんがえておりません」

王「……うむ……」

 王が、複数の大臣に目を向ける。

 何人かの大臣がうなずいた。

……

王「わかった……許可しよう、存分に、平和になった世界を見て回ると良い、しかしお前の帰る場所はここだ、そのことは忘れるでないぞ」

勇者「……はい、ありがとうございます」

王「して、二つ目は?」

勇者「銅像を、作って頂きたい」

王「銅像?」

勇者「はい、私や戦士、僧侶、魔法使いのそろった銅像……そこに私を救うために命を落とした人々の名前を刻んだ物を、世界各地の主要都市においていただけないでしょうか」

王「ふむ」

勇者「私一人の力では、決してここまで来ることはできなかったでしょう、そのことを、忘れないために……忘れさせないために」

王「わかった、すぐにでも手配しよう」

勇者「……ありがとうございます」

 勇者が魔王を倒したというニュースは、瞬く間に勇者がいた世界を駆け巡った。

 世界中から魔物がいなくなり、人々は与えられた平穏に歓喜した。





 やがて、魔物のいなくなった世界で人々は殺し合いをはじめ、新たな暗黒時代が幕を開けた。



152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 21:54:31.03 id:YtpFI3Ae0

エピローグ



 魔界、大魔王城、大魔王の間

司祭「……やっと見つけだぞ……勇者」

勇者「久しぶりだな、司祭、十年ぶりか?」

 大魔王の間、12人の魔王がずらりと並ぶその場所で、司祭はその中央、巨大な椅子に腰を下ろす勇者を睨みつけた。



153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 22:13:53.56 id:YtpFI3Ae0

勇者「お前なら、いつかここにたどり着くと思ってたよ」

司祭「……ッ」

 司祭は顔を歪め、周囲を見渡す。

 魔王達を従えている勇者の姿に、涙が出そうになった。

司祭「お前が旅に出た後……人間界は、大変なことになった」

勇者「ああ、知ってる」

司祭「勇者教と、女神教の泥沼の宗教戦争だ」

勇者「ああ、知ってる」

司祭「ならなぜお前は何もせず! こんなところでふんぞり返ってるんだッ!?」

勇者「……」

司祭「今だって人が死んでる! 宗教なんてわからない子供まで巻き込まれてる! こんな世界を、俺達は望んだのか!? 違うだろ!」

勇者「いや」

司祭「!」

勇者「少なくとも俺は、それを望んでいたが?」

司祭「……ッ!」

 司祭は、崩れるようにその場に腰を落とした。

司祭「……やっぱり……そうだったんだな」

 司祭は、どこか諦めたように、口を開いた。

 うすうす、感じていた。

 魔王と戦う中で勇者が変わっていっていることは……

 でも、まさか……こんな…

司祭「おかしいとおもっていた」

勇者「だろうな」

司祭「……妹が6日間行方不明になったのは、勇者の力を調べるためだな」

 司祭は、答え合わせをするように、言葉を発した。

勇者「そうだ、一般人と、勇者の仲間の違いを、明確にするためだ」

司祭「……勇者は…勇者の仲間に対して、対象との距離に関わらず念じるだけで思い道理に動かすことができる」

勇者「その通り」

 女神の信徒に対しては直接声掛けが必要だが、仲間に対してはその限りではない。

 戦闘中に、悠長に命令などしてられない。そんな中でも、仲間は思う通りに動いてくれた。

 最初は、ただの連帯感や信頼感だと思っていたが。

 そうでないことは、心が砕けた僧侶を動かせたことで証明されている。



154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 22:15:37.59 id:YtpFI3Ae0

司祭「だから……本来なら幼児にも劣る知力しかないスライムが、あんなに都合よく動いたわけだ」

勇者「その通り」

 加えて、勇者奪還作戦に司祭が参加したのも、勇者の念に従った可能性が高い。

司祭「その時に、気が付くべきだった……」

勇者「それはどうだろうな? 気が付いてどうにかなったか?」

司祭「……信じたくなかったんだ……俺は」

 勇者の言葉を無視し、司祭は独り言のように言った。

勇者「お前なら勇者になれるんじゃないか? そこまでわかっているなら、お前も試せばいい」

 その言葉に、司祭は自嘲的に笑う。

司祭「もうやったさ……一度……試そうとした」

 勇者がやったであろう方法と同じ方法で。

 まず適当な魔物を一匹用意する。

 こちらがダメージを受けないレベルの魔物が望ましい。

 後は、密室空間にその魔物と籠り、オルガに感染するだけだ。

 一週間、オルガを感じながら、過ごす。

 やがて自分は死ぬが、それまで一緒にいたオルガは魔物の体内に戻り、またその魔物からオルガに感染する。 それを繰り返すのだ。


 オルガが《仲間》になるまで



 だけど……

司祭「あんな地獄に、耐えられるわけないだろ」

 あの死ぬときの苦痛は、想像をはるかに絶していた。

 あんなもの、並の神経で耐えられるわけがないのだ。

 オルガが《仲間》になるまで、一体なんどあの苦痛を味わえというのか

司祭「……お前は……イカれてる」

勇者「だが、その苦痛に耐えるだけの価値はあるぞ」

 勇者はどこか楽しげに語り始めた。

勇者「《仲間》になったオルガは、魔物だろうと人間だろうと等しく攻撃してくれるし、宿主の魔力を吸って俺に渡す、なんて複雑な命令も可能だ。そして分裂したオルガには、《仲間》と《レベル》の情報が引き継がれる」

司祭「あっと言う間に、お前の《仲間》が増えていくわけだ」

勇者「そうだ、そしてオルガは今や全世界の人類に感染している」

司祭「……!」

 司祭はとっさに自分の心臓に手をかざした。

勇者「無駄だ」

司祭「!!!?」

オルガ(Lv99)「……」

勇者「そんな微弱な魔法攻撃じゃ、限界までレベルを上げたオルガを駆除できねーよ」

司祭「……っ」

勇者「つまり…人類の命運は、俺の手の中ってわけだ」



155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 22:16:11.02 id:YtpFI3Ae0

司祭「……ッお前は……銅像を作り、勇者を崇めさせた」

勇者「……そう」

司祭「すべては……女神様を……神を倒すため」

勇者「その通り」

 勇者は、笑う。

司祭「……みんなから魔力を集めて戦うのは、単なる見せかけだったんだな」

勇者「ああ、その気になれば、オルガだけで倒せた」

司祭「……こんな茶番を、他の世界でもやったのか」

勇者「そうだ、みんなの祈りを一身に受けた勇者が魔王を倒し、世界各地に作らせた勇者像を、信仰する新たな宗教ができるよう仕向けた」

司祭「……女神様が、黙ってないんじゃないのか」

勇者「食糧を奪われたからな、そりゃだまってないさ、だが、どうする?」

司祭「勇者の加護をはく奪する」

勇者「それは愚行だろ、制御を失ったオルガがどうなるか俺にもわからんぞ」

司祭「……勇者への信仰を滅ぼす…」

勇者「そう、その通りだ。 つまりこの戦いは、女神様が起こしていることでもあるんだよ」

司祭「……ッ」

勇者「なぁ司祭、この魔王達がなんでこの世界に存在しているか知っているか?」

司祭「…」

勇者「こいつらには、性別はあるが生殖能力はない、ただ規格外の魔力と、女神を倒すという目的だけの為に生きている」

司祭「……何がいいたい」

勇者「俺は思ったんだ。こいつらは人間の信仰を吸い上げるための当て馬なんじゃないかってな」

司祭「!」

勇者「魔物を使い、人の信仰心を煽るための舞台装置、そう考えると、すべてに辻褄が合う」

司祭「……ッそれは…、お前の妄想にすぎない」

勇者「なぁ司祭、こんな世界を作った神を、守る価値なんてあるのか?」

司祭「だからそれは―」

勇者「じゃあなんで女神は、助けてくれなかった?」

司祭「!」



156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/08(月) 22:20:45.97 id:YtpFI3Ae0

勇者「あの村娘や、少女を、何の罪もない人たちを、なんで女神は、助けてくれなかった?」

司祭「……女神様は……無意味な試練を与えない…」

勇者「無意味だろ」

司祭「!」

勇者「死ぬよりもつらい苦痛の声を、お前は聞いたことがあるか?」

司祭「…やめろ」

勇者「あんな心優しい人たちを、あんな目に合わせる意味ってなんだ?」

司祭「やめろ!」

勇者「だから倒すのさ、こんな糞みたいな世界を牛耳ってやがる神どもを」

司祭「……ッ」

 司祭は顔を歪めると、絞り出すように、質問をぶつける。

司祭「じゃあなんで……さっさと終わらせない」

勇者「ん?」

司祭「女神信仰の信者どもを殺せば、それで済む話じゃないか、女神様は信仰を失い、やがて滅びるだろうよ」

勇者「……なぁ司祭、俺の見た目を見て、どう思った?」

司祭「?」

 司祭は、勇者に目を向ける、十年ぶりにみるその姿は……まったく老いていなかった。

勇者「俺の体の成長は、女神教と勇者教の戦いが始まったときから、止まっている」

司祭「!?」

勇者「おそらく女神たちの小賢しい抵抗だろう。どうやら奴らは俺に死なれるのが怖いらしい」

司祭「どういうことだ?」

勇者「信仰の中心である俺に死なれると困るってことは、要するに、俺の魂は死んだあと神の領域に届きうるってことだと考えている」

司祭「……そんなことが」

勇者「実際、信仰はすごいぞ、信仰を得るほどに、俺の力が今までにないほどに高まっているのがわかる、今ならこいつらを片手であしらえるほどにな」

 勇者はそういって、周囲の魔王を見渡した。 魔王達の顔が一様に強張る。

司祭「……だから、そうそうに決着をつけない」

勇者「そうだ、女神を殺したからといって、この呪いが解けるとは限らない」

司祭「…」

勇者「それに、俺の力を少しでも高めるために勇者教の信者を増やしたい、だから、そういう意味でも早々に女神教の信者を殺すわけにもいかないのさ。女神教も寝返る可能性があるからな。その為に今はこの魔王どもと共に工作を続けてるってところだ、そのやり方に長けた人材もいる」

片腕の魔王「……」

司祭「……勇者の力が女神様を上回るのが先か…、それとも女神様がオルガの攻略法を見つけるのが先か」

勇者「もしくは妥協案を女神が出してくるか」

司祭「……壮大だな」

 司祭は、諦めたように笑った。

 なんだそれ



157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 22:22:23.42 id:YtpFI3Ae0

司祭「お前は……神にでもなるつもりなのか」

勇者「少なくとも、今よりはマシは世界にできる」

司祭「……本気で言ってんのか」

勇者「本気だ」

司祭「……ッ」

 勇者はぐるりと周囲を見渡す。

勇者「この魔王達も、俺の為によく働いてくれる。裏工作をする天使をあぶり出したり、悪役に徹し俺を引き立ててくれたりな、俺一人のキャパじゃあ、今はまだそこまでできない」

司祭「勇者! お前はっ」

勇者「ああ壊れてる!! 自覚してるさ!! だが他にどうしたらよかった!?」

司祭「ッ」

 突然の感情の発露に、司祭は口をつぐんだ。

勇者「……みんな優しい人だった。 優しい人を大切できない世界。 優しい人を無視する世界……こんな世界と知って、それでもそれを甘んじて受け入れろと? それこそ……俺には耐えられなかった」

司祭「……っ」

 司祭は、歯を食いしばり、強く目を閉じると、天をを仰いだ。

勇者「その為だったら……どんなに殺したいほど憎んでいる魔王だろうと、利用価値があれば利用するさ」

 最後、勇者の声は落ち着きを取り戻し、そして冷たくなった。

 司祭は、もう、何も勇者に対して言葉を持たなかった。

 そんな司祭が最後に発した言葉は、ただの反復だったのかもしれない。

司祭「……だから生かしてるのか……仲間を殺した魔王でさえも」

 司祭の力のない、ただ思ったことを口にしただけの言葉に、しかし勇者は意外にも笑った。

 笑い声が、大魔王の間に響く。

 なぜか今、不意に頭に浮かんだ言葉が、やたらと面白かったのだ。

 勇者は確認するように、ゆっくりと口を開いた。






勇者「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」




 完



転載元
勇者(Lv99)「死にたくても死ねない死なない俺と、殺そうにも殺せない殺したい魔王」
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